説明

ビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物

【課題】本発明の課題は、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して、優れた接着力を有するビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物を提供することである。
【解決手段】ビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマー(A)と、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含有し、前記ビニルエーテルモノマー(A)と前記化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜90/10の範囲であることを特徴とするビニルエーテル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に適するビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物に関するものである。さらに詳しくは、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して優れた接着力を有するビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等)は、比較的安価で、物理的性質に優れ、加工が容易なため、自動車部品、電機部品、建築資材、食品包装用フィルムの材料として幅広い分野で使用されている。また、ポリオレフィンは、結晶性かつ非極性であるため、接着が困難な材料(以下、難接着性材料)である。
【0003】
一方、接着剤用樹脂組成物として、ビニルエーテルを含有した光カチオン硬化型の接着剤用樹脂組成物は、たとえば特許文献1や特許文献2等に記載されているように広く知られている。ビニルエーテル系樹脂組成物は、低粘度であるため薄膜化しやすく、揮発性有機溶剤を使用しないため環境負荷を低減でき、皮膚への刺激性も低いことから、接着剤の用途に使用されている。
【0004】
しかし、従来の接着剤用のビニルエーテル系樹脂組成物は、接着力が十分ではないため、これまで難接着性材料の接着に用いることが難しかった。そのため、ポリオレフィン等の難接着性材料に対しても、優れた接着力を有するビニルエーテル系樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−228842号公報
【特許文献2】特開2002−146331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して、優れた接着力を有するビニルエーテル系樹脂組成物およびその硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の(1)〜(7)に記載の事項をその特徴とする。
【0008】
(1)ビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマー(A)と、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)と、を含有し、
前記ビニルエーテルモノマー(A)と前記化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜90/10の範囲であることを特徴とするビニルエーテル系樹脂組成物。
【0009】
(2)前記ビニルエーテルモノマー(A)と前記化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜60/40の範囲である前記(1)に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【0010】
(3)前記ビニルエーテルモノマー(A)は、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つである前記(1)又は(2)に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【0011】
(4)前記ビニルエーテルモノマー(A)は、
ジエチレングリコールジビニルエーテル、及びトリエチレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つであるエチレン系ビニルエーテルと、
ジプロピレングリコールジビニルエーテル、及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つであるプロピレン系ビニルエーテルと、
を含有し、
前記エチレン系ビニルエーテルと前記プロピレン系ビニルエーテルとの質量比は、エチレン系ビニルエーテル/プロピレン系ビニルエーテル=10/40〜40/10の範囲である前記(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【0012】
(5)前記化合物(B)は、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも一つである前記(1)乃至(4)のいずれか一つに記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

(式(1)及び(2)中、−X−、−X−、−X−、−X−、は、それぞれ独立に、−C−、−C−、−COC2−、−COCOC−、−C−、−COC−、−COCOC−、又は下記構造式(3)で表される置換基を表す。また、式(1)及び(2)中、−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。
また、式(1)及び(2)中、l、m、nは正の整数を表す。)
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
(6)前記光重合開始剤(C)は、トリス(4−メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファート、及びジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファートの少なくとも一つである前記(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【0018】
(7)前記(1)乃至(6)のいずれか一つに記載のビニルエーテル系樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して、優れた接着力を有するビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明のビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物(以下単に「ビニルエーテル系樹脂組成物」と称する場合がある)について詳細に説明する。
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、少なくとも、ビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマー(A)と、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)と、を含み、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との質量比が、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜90/10の範囲にある。
さらに、光重合開始剤の作用によりビニルエーテルモノマー(A)に含まれるビニルエーテル基と、化合物(B)に含まれるビニルエーテル基とが、反応した結合があるため、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、優れた接着力を発現する。
【0021】
本発明に用いるビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマー(A)は、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメチロールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル等が挙げられる。また、ビニルエーテルモノマー(A)は、上記ビニルエーテルを一種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ビニルエーテルモノマー(A)の分子量は、蒸留精製による製造の容易さの点と薄膜化に対応するには低粘度であることが必要であるため、300以下が好ましい。
【0022】
ビニルエーテル系樹脂組成物の低臭気性及び接着力向上の観点より、本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)は、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つを用いることが好ましい。通常、モノマー類は反応性希釈剤と呼ばれ広く使用されている。有機溶媒を用いなくても重合開始剤を溶解させることができるため、環境負荷が小さい。しかしながら、モノマー類は臭気の問題を有していることが多く、作業環境の悪化が問題となる。本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)は、低臭気性である為に、この問題を解決することができる。
【0023】
本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)は、ビニルエーテル基を2つ以上有するため、架橋密度が高くなり、耐溶剤性に優れた性質を示す。
【0024】
本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)は、接着力向上の点において、ジプロピレングリコールジビニルエーテル及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つがより好ましい。
また、本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)は、ビニルエーテル系樹脂組成物を調製した際に、光重合開始剤(C)が溶解しやすく、光重合開始剤が経時で析出せず、ビニルエーテル系樹脂組成物の貯蔵安定性が優れるため、ジエチレングリコールジビニルエーテル及びトリエチレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つがより好ましい。
【0025】
本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)は、
ジエチレングリコールジビニルエーテル、及びトリエチレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つからなるエチレン系ビニルエーテルと、
ジプロピレングリコールジビニルエーテル、及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つからなるプロピレン系ビニルエーテルと、
を含有し、
エチレン系ビニルエーテルとプロピレン系ビニルエーテルとの質量比が、エチレン系ビニルエーテル/プロピレン系ビニルエーテル=10/40〜40/10の範囲にあることがより好ましい。
ビニルエーテルモノマー(A)が、エチレン系ビニルエーテルとプロピレン系ビニルエーテルとを含み、その質量比がエチレン系ビニルエーテル/プロピレン系ビニルエーテル=10/40〜40/10の範囲内にあることで、ビニルエーテル系樹脂組成物の接着力はより一層向上し、かつ貯蔵安定性も良好となる。
【0026】
本発明に用いる化合物(B)は、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物であれば、各種の化合物を用いることができる。例えば、ヒドロキシモノビニルエーテルとイソシアネート類との反応物、ヒドロキシモノビニルエーテル、ポリエステルジオールとイソシアネート類との反応物、ヒドロキシモノビニルエーテル、ポリアルキレンジオールとイソシアネート類との反応物等が挙げられる。また、ポリオール類のヒドロキシ末端をアセチレンによりビニルエーテルとした反応物を用いてもよい。
また、化合物(B)は、上記反応物を一種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、化合物(B)は、ビニルエーテル基を2つ以上有してもよい。
【0027】
本発明に用いる化合物(B)の重量平均分子量は、300〜50,000の範囲であれば揮発性が小さく、低臭気になるため好ましい。さらに、製造の容易さの観点より、より好ましくは300〜20,000の範囲である。通常、本発明に用いる化合物(B)の分子量は、本発明に用いるビニルエーテルモノマー(A)の分子量よりも大きい。
【0028】
本発明に用いる化合物(B)は、ウレタン骨格を有するため、凝集力が高く、かつ高伸度となり、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は接着剤用の樹脂組成物に用いた際に優れた性質を示す。
【0029】
また、本発明に用いる化合物(B)は、ビニルエーテル系樹脂組成物の低臭気性及び接着力向上の観点より、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも一つを用いることが好ましい。通常、接着剤用の樹脂組成物は、臭気のため作業環境の悪化が問題となる。下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも一つを用いる本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、低臭気性であるため、この問題を解決することができる。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

(式(1)及び(2)中、−X−、−X−、−X−、−X−、は、それぞれ独立に、−C−、−C−、−COC2−、−COCOC−、−C−、−COC−、−COCOC−、又は下記構造式(3)で表される置換基を表す。また、式(1)及び(2)中、−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。
また、式(1)中、l、mは1〜200が好ましく、製造の容易さの観点より、より好ましくは1〜50である。また、式(2)中、nは1〜700が好ましく、製造の容易さの観点より、より好ましくは1〜100である。
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
本発明に用いる光重合開始剤(C)は、光の作用により、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)とを、共重合させる能力を有するものであれば、各種の開始剤を用いることができる。本発明では、ビニルエーテル系樹脂組成物の硬化速度の向上の点で、光により分解して、カチオン種を発生する光カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。本発明に好適に用いることができる光カチオン重合開始剤は、例えば、アリールスルホニウム塩誘導体(ダウケミカル社製のサイラキュアUVI−6990、サイラキュアUVI−6974;ADEKA社製のアデカオプトマーSP−150、アデカオプトマーSP−152、アデカオプトマーSP−170、アデカオプトマーSP−172;サンアプロ社製のCPI−100P、CPI−110P,CPI−110A、CPI−210S;三和ケミカル社製のTS−91、TS−01;Lamberti社製のEsacure1187、Esacure1188等)、アリルヨードニウム塩誘導体(ローディア社製のRP−2074、BASF社製のイルガキュア250等)、アレン−イオン錯体誘導体、ジアゾニウム塩誘導体、トリアジン系開始剤及びその他のハロゲン化物等の酸発生剤が挙げられる。
尚、ビニルエーテル系樹脂組成物の低臭気性及び硬化性の観点より、本発明に用いる光重合開始剤(C)は、サンアプロ社製のCPI−100P、CPI−110P(ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート)、又は三和ケミカル社製のTS−91(トリス(4−メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファート)が好ましい。
また、光重合開始剤(C)の含有量は、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜8質量部の範囲である。光重合開始剤(C)の含有量が0.1質量部未満では、未反応物のビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)とが残存し接着力が低下する可能性があり、また、10質量部を超える範囲では、光重合開始剤(C)が経時により析出するため、ビニルエーテル系樹脂組成物の貯蔵安定性が劣る可能性がある。
【0035】
本発明において、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜90/10の範囲である。前記質量比が35/65以下、つまりビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との質量の和を100としたとき、(A)の質量が35未満であると、ビニルエーテル系樹脂組成物の硬化速度が遅くなり、接着剤として不適である。また、前記質量比が90/10を超える範囲である、つまり(A)の質量が90を超えると、ビニルエーテル系樹脂組成物は接着力が不十分のため不適である。
さらに、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜60/40の範囲にあることがより好ましい。質量比がこの範囲内であれば、ビニルエーテル系樹脂組成物の接着力はより一層向上することができる。
【0036】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、ビニルエーテルモノマー(A)と、ウレタン骨格を有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する。本発明の発明者は、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物がウレタン骨格とアルキレン骨格とを有する化合物(B)を含有するため、たとえばビニルエーテルモノマー(A)単独のビニルエーテル系樹脂組成物と比較して、難接着性材料であるポリオレフィンに対する接着力が優れると考えている。
【0037】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、ビニルエーテルモノマー(A)と、ビニルエーテル基を有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含有する。ビニルエーテル基を有する化合物(B)は、光重合開始剤(C)との溶解性が悪いため、化合物(B)単独では重合反応が進行しない。本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、ビニルエーテルモノマー(A)を含有するため、重合反応が進行する。
【0038】
尚、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、各種樹脂、レベリング剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、重合禁止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、増感剤等を配合しても良い。
【0039】
本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、各種基材(木材、紙、金属、樹脂、ガラス、セラミックス等)に対する接着剤用樹脂組成物だけでなく、ポリオレフィン等の難接着性材料に対する接着剤用樹脂組成物として、極めて好適である。また、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、紫外線硬化、電子線硬化等の従来公知の光硬化方法により硬化させることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0041】
本願において、「重量平均分子量(以下Mwと略す)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出するものである。GPC分析システム装置は、HLC−8220 GPC(東ソー社製)、カラムは、TSKgel SuperMultiporeHZ−H(東ソー社製)を直列に2本接続し、検出器には示差屈折率計(RI)(東ソー社製 HLC−8220装置組込)、移動相にテトラヒドロフラン(流速0.35mL/分)を用いて、カラム温度40℃の条件にて測定を行った。
【0042】
(化合物(B1)の合成例)
〔下記構造式(1)で表されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに−C−であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0043】
【化1】

ただし、式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。また、式(1)中、l、mは正の整数を表す。
【0044】
【化4】

【0045】
温度計、攪拌機及び還流冷却管を備えた反応容器内に、ポリカプロラクトンジオール477質量部、イソホロンジイソシアネート403質量部、及びジブチルスズジラウレート0.12質量部を入れ、攪拌下で、前記反応容器の内容物温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート0.72質量部、及び4−ヒドロキシブチルビニルエーテル227質量部を投入し、さらに2時間反応させた。冷却後、化合物(B)である、透明液体997質量部(化合物B1)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B1は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=2050であった。
【0046】
(化合物(B2)の合成例)
〔下記構造式(2)で示されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに−C−であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0047】
【化2】

式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。また、式(2)中、nは正の整数を表す。
【0048】
【化4】

【0049】
温度計、攪拌機及び還流冷却管を備えた反応容器内に、ポリテトラメチレングリコール675質量部、イソホロンジイソシアネート300質量部、及びジブチルスズジラウレート0.12質量部を入れ、攪拌下で、前記反応容器の内容物温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート0.54質量部、及び4−ヒドロキシブチルビニルエーテル162質量部を投入し、さらに2時間反応させた。冷却後、化合物(B)である、透明液体1024質量部(化合物B2)を得た。
尚、反応終了は赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B2は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=4040であった。
【0050】
(化合物(B3)の合成例)
〔下記構造式(1)で表されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに−COC2−であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0051】
【化1】

式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。また、式(1)中、l、mは正の整数を表す。
【0052】
【化4】

【0053】
4−ヒドロキシブチルビニルエーテルをジエチレングリコールモノビニルエーテル258質量部に変更した以外は、化合物(B1)の合成例と同様の方法にて透明液体1024質量部(化合物B3)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B3は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=1930であった。
【0054】
(化合物(B4)合成例)
〔下記構造式(2)で示されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに−COC2−であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0055】
【化2】

式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。また、式(2)中、nは正の整数を表す。
【0056】
【化4】

【0057】
4−ヒドロキシブチルビニルエーテルをジエチレングリコールモノビニルエーテル184質量部に変更した以外は、化合物(B2)の合成例と同様の方法にて透明液体1043質量部(化合物B4)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B4は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=3840であった。
【0058】
(化合物(B5)合成例)
〔下記構造式(1)で表されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに−COC−であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0059】
【化1】

式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。式(1)中、l、mは正の整数を表す。
【0060】
【化4】

【0061】
4−ヒドロキシブチルビニルエーテルをジプロピレングリコールモノビニルエーテル313質量部に変更した以外は、化合物(B1)の合成例と同様の方法にて透明液体1074質量部(化合物B5)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B5のGPC測定を行ったところ、Mw=2160であった。
【0062】
(化合物(B6)合成例)
〔下記構造式(2)で示されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに−COC−であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0063】
【化2】

式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。式(2)中、nは正の整数を表す。
【0064】
【化4】

【0065】
4−ヒドロキシブチルビニルエーテルをジプロピレングリコールモノビニルエーテル223質量部に変更した以外は、化合物(B2)の合成例と同様の方法にて透明液体1079質量部(化合物B6)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B6は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=3860であった。
【0066】
(化合物(B7)合成例)
〔下記構造式(1)で表されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに下記構造式(3)で表される置換基であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0067】
【化1】

式(1)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。式(1)中、l、mは正の整数を表す。
【0068】
【化3】

【0069】
【化4】

【0070】
4−ヒドロキシブチルビニルエーテルをシクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル333質量部に変更した以外は、化合物(B1)の合成例と同様の方法にて透明液体1091質量部(化合物B7)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B7は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=2070であった。
【0071】
(化合物(B8)合成例)
〔下記構造式(2)で示されるウレタン骨格を有するとともに−X−、−X−がともに下記構造式(3)で表される置換基であり、末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)の合成〕
【0072】
【化2】

式(2)−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。式(2)中、nは正の整数を表す。
【0073】
【化3】

【0074】
【化4】

【0075】
4−ヒドロキシブチルビニルエーテルをシクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル237質量部に変更した以外は、化合物(B2)の合成例と同様の方法にて透明液体1091質量部(化合物B8)を得た。
尚、反応終了は、赤外線吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm−1のピークが消失したことにより確認した。化合物B8は、GPCを用いて測定を行ったところ、Mw=3870であった。
【0076】
(実施例1〜46及び比較例1〜9)
上記合成例によって得られた化合物B1〜B8と、各種のビニルエーテルモノマーと、各種の光重合開始剤(C)とを、それぞれ組み合わせて混合し、ビニルエーテル系樹脂組成物の各試験の評価を行った。実施例及び比較例の各処方と、溶解性試験、硬化性試験及び接着強度試験の各評価結果とを、表1、表2及び表3にそれぞれまとめた。
【0077】
それぞれの実施例および比較例で使用したビニルエーテルモノマー(A)と光重合開始剤(C)の名称および構造を下に記す。A1〜A4はビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマーである。
「ビニルエーテルモノマー(A)」
・エチレン系ビニルエーテル
A1:ジエチレングリコールジビニルエーテル[日本カーバイド工業社製]
A2:トリエチレングリコールジビニルエーテル[日本カーバイド工業社製]
・プロピレン系ビニルエーテル
A3:ジプロピレングリコールジビニルエーテル[日本カーバイド工業社製]
A4:トリプロピレングリコールジビニルエーテル[日本カーバイド工業社製]
・モノビニルエーテル
A5:シクロヘキシルビニルエーテル[日本カーバイド工業社製]
「光重合開始剤(C)」
C1:トリス(4−メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファート(下記構造式(5))[三和ケミカル社製、製品名 TS−91]
【0078】
【化5】

C2:ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート(下記構造式(6))[サンアプロ社製、製品名 CPI−110P]
【0079】
【化6】

【0080】
(溶解性試験)
溶解性試験は、各ビニルエーテル系樹脂組成物における光重合開始剤の溶解性を評価することでおこなった。ビニルエーテル系樹脂組成物の調製時、光重合開始剤が経時で析出しなければ、貯蔵安定性に優れる。室温下で調製した時に溶解しないものを「×」、配合調製直後は溶解しているが、2時間室温下にて静置後に不溶化物が析出するものを「△」、2時間室温下にて静置後でも溶解しているものを「○」とそれぞれ評価した。
【0081】
(硬化性試験)
塗布膜厚7μmのアプリケーターを用いて、PETフィルム上に、各ビニルエーテル系樹脂組成物の塗膜(膜厚30μm)を形成させ、照射強度160Wの高圧水銀ランプを用いて、ランプ高さ22cm、コンベア速度8m/分の条件で1回照射を行った。その1回の照射量は170mJ/cmであった。照射量170mJ/cmで硬化したものを「○」と、硬化不十分なものを「×」とそれぞれ評価した。
尚、上記溶解性試験で溶解せず「×」と評価したビニルエーテル系樹脂組成物は、硬化性試験を実施しなかった。
【0082】
(接着強度試験)
接着強度試験は、下記の硬化方法で得られた試験片を硬化24時間後、JIS K 6854−2に準じ、引張速度を300mm/分の条件で180度剥離させその強度を測定することで行った。
剛性被着体には、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(サン・トックス社製、商品名:OPPフィルム PA21 厚み50μm コロナ処理面)を用い、たわみ性被着体には、無延伸ポリプロピレンフィルム(サン・トックス社製、商品名:CPPフィルム LU02 厚み40μm コロナ処理面)を用いた。
硬化方法は以下のとおりである。被着体同士に挟み込まれる各ビニルエーテル系樹脂組成物の厚みは、上記硬化性試験と同様に、膜厚30μmとした。上記硬化性試験と同様に、照射強度160Wの高圧水銀ランプにて170mJ/cmを照射して、各ビニルエーテル系樹脂組成物を硬化させた。
尚、上記の溶解性試験で溶解せず「×」と評価、または硬化性試験で硬化が不十分なため「×」と評価したビニルエーテル系樹脂組成物は、接着強度試験を実施しなかった。
また、上記溶解性試験において「△」と評価し、かつ上記硬化性試験において「○」と評価した実施例17及び26のビニルエーテル系樹脂組成物は、配合を調整して不溶化物が析出する前に、接着強度試験を実施した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1の各評価結果により、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との質量比がビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜90/10の範囲にある本発明の実施例1〜12のビニルエーテル系樹脂組成物は、比較例と比べて、硬化性及び難接着性材料(ポリプロピレンフィルム)に対する接着力がいずれも優れていることが確認された。
すなわち、本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して優れた接着力を有することが確認された。
さらに、ビニルエーテルモノマー(A)と化合物(B)との質量比がビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜60/40の範囲にある、実施例3〜6及び9〜12の各ビニルエーテル系樹脂組成物は、実施例1、2、7、8及び各比較例と比べて、いずれも約2倍以上の接着力を有しているため、より優れていることが確認された。
【0085】
【表2】

【0086】
表2の各評価結果により、エチレン系ビニルエーテル(A1およびA2)とプロピレン系ビニルエーテル(A3およびA4)との質量比が、エチレン系ビニルエーテル/プロピレン系ビニルエーテル=10/40〜40/10の範囲にある実施例のビニルエーテル系樹脂組成物は、硬化性及び難接着性材料(ポリプロピレンフィルム)に対する接着強度がいずれも優れているとともに、溶解性が優れていることが確認された。
すなわち、ビニルエーテルモノマー(A)が、エチレン系ビニルエーテル(A1およびA2)とプロピレン系ビニルエーテル(A3およびA4)とを含み、その質量比がエチレン系ビニルエーテル/プロピレン系ビニルエーテル=10/40〜40/10の範囲にある本発明のビニルエーテル系樹脂組成物は、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して優れた接着力を有し、かつ貯蔵安定性に優れる。
なお、表1に記載の実施例4と表2に記載の実施例33は同一のものである。
【0087】
【表3】

【0088】
表3の各評価結果により、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)を含む実施例49〜56は、化合物(B)を含まない比較例8と比べて接着力が優れていることが確認された。また、ビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマー(A)であるトリエチレングリコールジビニルエーテルを含む実施例49〜56に記載のビニルエーテル系樹脂組成物は、比較例9に記載のビニルエーテル基を一つしか有さないモノビニルエーテルを含むビニルエーテル系樹脂組成物と比較して、溶解性試験の評価が優れていた。
なお、表1に記載の実施例4と表3に記載の実施例49、および表1に記載の実施例10と表3に記載の実施例50は、それぞれ同一のものである。
【0089】
表1から表3のそれぞれに記載の実施例1〜56および比較例1〜8のビニルエーテル系樹脂組成物は、低臭気ビニルエーテルモノマーであるジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルを使用している為、いずれも臭気をほとんど感じないものであった。また、皮膚への刺激性も低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、ポリオレフィン等の難接着性材料に対して優れた接着力を有するビニルエーテル系樹脂組成物及びその硬化物であり、接着剤、シール材として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエーテル基を2つ以上有するビニルエーテルモノマー(A)と、ウレタン骨格を有するとともに末端にビニルエーテル基を有する化合物(B)と、光重合開始剤(C)と、を含有し、
前記ビニルエーテルモノマー(A)と前記化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜90/10の範囲であることを特徴とするビニルエーテル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビニルエーテルモノマー(A)と前記化合物(B)との質量比は、ビニルエーテルモノマー(A)/化合物(B)=35/65〜60/40の範囲である請求項1に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビニルエーテルモノマー(A)は、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つである請求項1又は2に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビニルエーテルモノマー(A)は、
ジエチレングリコールジビニルエーテル、及びトリエチレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つであるエチレン系ビニルエーテルと、
ジプロピレングリコールジビニルエーテル、及びトリプロピレングリコールジビニルエーテルの少なくとも一つであるプロピレン系ビニルエーテルと、
を含有し、
前記エチレン系ビニルエーテルと前記プロピレン系ビニルエーテルとの質量比は、エチレン系ビニルエーテル/プロピレン系ビニルエーテル=10/40〜40/10の範囲である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記化合物(B)は、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも一つである請求項1乃至4のいずれか一項に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(式(1)及び(2)中、−X−、−X−、−X−、−X−、は、それぞれ独立に、−C−、−C−、−COC2−、−COCOC−、−C−、−COC−、−COCOC−、又は下記構造式(3)で表される置換基を表す。また、式(1)及び(2)中、−Z−は、下記構造式(4)で表されるイソホロンジイソシアネートに由来する置換基を表す。
また、式(1)及び(2)中、l、m、nは正の整数を表す。)
【化3】

【化4】

【請求項6】
前記光重合開始剤(C)は、トリス(4−メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファート、及びジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファートの少なくとも一つである請求項1乃至5のいずれか一項に記載のビニルエーテル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のビニルエーテル系樹脂組成物の硬化物。


【公開番号】特開2013−53297(P2013−53297A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96301(P2012−96301)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】