説明

ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法

【課題】ハロゲン化物イオン含量が低減したビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物が得られる簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、かつ、その末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルとビニルベンジルハライドとを、アルカリ金属水酸化物の存在下、芳香族炭化水素を50重量%以上含有する有機溶媒と水との混合溶媒中で反応させ、得られた反応溶液を水と脂肪族アルコールとからなる混合液で洗浄するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物は、誘電特性や耐吸湿熱性に優れているため、高周波信号を扱う電子機器の材料として用いられている。
【0003】
このビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法としては、例えばポリフェニレンエーテル化合物とハロゲン化メチルスチレン(ビニルベンジルハライド)とをアルカリ金属水酸化物の存在下、トルエン溶液中で反応させ、続いて、この反応溶液を酸で中和後、多量のメタノールで再沈殿し、このろ過物をメタノールと水との混合溶媒で洗浄する方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、一般に電子材料用途では、ハロゲン化物イオンが耐久性試験に悪影響を及ぼすことが広く知られており、ハロゲン化物イオンの残存量を極力少なくすることが望ましいところ、上記方法では、洗浄効果が十分ではなく、生成物中に多量のハロゲン化物イオンが残存する結果となる。
【0005】
そのため、ハロゲン化物イオンの残存量を低減可能なビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法が求められている。
【特許文献1】特開2004−339328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ハロゲン化物イオン残存量を大幅に低減可能なビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法は、上記の課題を解決するために、(A)下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、かつ、その末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルと、(B)下記一般式(2)で示されるビニルベンジルハライドとを、アルカリ金属水酸化物の存在下、芳香族炭化水素を50重量%以上含有する有機溶媒と水との混合溶媒中で反応させ、得られた反応溶液を水と脂肪族アルコールとからなる混合液で洗浄するものとする。
【化1】

【0008】
一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは繰り返し単位数の平均値であり、1〜100の数である。
【化2】

【0009】
一般式(2)中、Xは、塩素及び臭素から選ばれたいずれかの原子を示す。
【0010】
上記した本発明の製造方法において、芳香族炭化水素はトルエンおよびキシレンからなる群から選択された1種又は2種であることが好ましい。
【0011】
また、脂肪族アルコールは、炭素数3〜6の脂肪族アルコールからなる群から選択された1種または2種以上の混合物であることが好ましい。
【0012】
また、有機溶媒は、炭素数3〜6の脂肪族アルコールからなる群から選択された1種または2種以上をさらに含有するものとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は工業的に容易に実施できるものであり、本製法によれば、高純度、低ハロゲン化物イオン濃度のビニルベンジル化ポリフェニレンエーテルが、高収率、高効率的で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般式(1)で示されるポリフェニレンエーテルの繰り返し単位数の平均値nは1〜100であり、好ましくは5〜60であり、より好ましくは10〜40である。本発明で使用可能な一般式(1)で示されるポリフェニレンエーテルの具体例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(3,5−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられる。これらポリフェニレンエーテルは公知の方法で製造することができ、その製造方法は特に限定されず、また市販されているものを利用することもできる。
【0015】
また、一般式(2)で示されるビニルベンジルハライドとしては、例えば、p−ビニルベンジルクロライド、m−ビニルベンジルクロライド、p−ビニルベンジルクロライドとm−ビニルベンジルクロライドとの混合体、p−ビニルベンジルブロマイド、m−ビニルベンジルブロマイド、p−ビニルベンジルブロマイドとm−ビニルベンジルブロマイドとの混合体などが挙げられる。これらのうち、p−ビニルベンジルクロライド、m−ビニルベンジルクロライド、p−ビニルベンジルクロライドとm−ビニルベンジルクロライドとの混合体が好ましい。これらビニルベンジルハライドも公知の方法で製造することができ、その製造方法は特に限定されず、市販されているものを利用することができる。
【0016】
上記ビニルベンジルハライドの配合割合は、ポリフェニレンエーテルの水酸基1モルに対して、0.8〜1.5モルであることが好ましい。0.8モル未満であると、残存する水酸基が多くなり、生成物であるビニルベンジル化ポリフェニレンエーテルの収率が低くなる傾向にあり、1.5モルを越えると、未反応のビニルベンジルハライドが残存する傾向にある。
【0017】
次に、本発明において用いられるアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
アルカリ金属水酸化物の配合割合はポリフェニレンエーテルの水酸基1モルに対して、1.2〜4.0モルが好ましい。1.2モル未満であると、反応時間が長くなる傾向にあり、4.0モルを越えると未反応のアルカリ化合物が多量に残存し、精製回数を多くする必要が生じる傾向にある。
【0019】
本発明では、反応速度を向上させるために、相間移動触媒を使用することもできる。相間移動触媒としては、例えば、四級アンモニウム化合物などが挙げられ、具体的には、テトラ−n−メチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−エチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。相間移動触媒は、反応促進の面から、ポリフェニレンエーテルに対して0.1〜1重量%添加することが好ましい。
【0020】
本発明に用いられる有機溶媒は、芳香族炭化水素を50重量%以上含有するものである。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、エチルトルエン等があげられる。これらのうち、容易に入手でき、減圧によって容易に除去できる観点から、トルエンまたはキシレンが好ましい。
【0021】
芳香族炭化水素以外の有機溶媒としては、脂肪族アルコールを好適に用いることができる。脂肪族アルコールを添加することにより、反応を促進することができる。
【0022】
上記脂肪族アルコールとしては、炭素数3〜6の脂肪族アルコールが好ましく、例えば、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、2−エチルブタノール、n−ヘキサノール等が挙げられる。これらのうち、減圧によって容易に除去できる観点から、炭素数3および4の脂肪族アルコールが特に好ましい。
【0023】
また、脂肪族アルコールの含有量は、芳香族炭化水素/脂肪族アルコールの重量比が99/1〜60/40であることが好ましく、90/10〜60/40であることがより好ましい。本重量比を99/1〜60/40の範囲内とすることにより、原料であるポリフェニレンエーテルの溶解性を保持し、かつ、反応速度をより向上させることができる。
【0024】
反応時に使用する有機溶媒の総量は、ポリフェニレンエーテルに対して100〜300重量%であることが好ましい。上記範囲より小さくなると、反応系の粘度が高くなり、未反応の原料が残りやすくなり、上記範囲より大きいと、ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の反応釜の容量あたりの収量が低下する傾向にある。
【0025】
その他の反応条件は特に限定されず、従来から用いられている方法に準じて反応を行えばよい。すなわち、例えば、ポリフェニレンエーテルとビニルベンジルハライドと有機溶媒とを混合、攪拌し、そこへアルカリ金属水酸化物を滴下しながら反応を行うことができる。反応温度は通常60〜100℃程度であり、反応時間は2〜16時間程度である。
【0026】
上記により得られた反応溶液を、水と脂肪族アルコールとからなる混合液で洗浄する際に使用する脂肪族アルコールとしては、上述した混合反応溶媒に使用できるものを使用することができる。脂肪族アルコールを使用することにより、洗浄時の有機層と水層の分離を容易に行なうことができる。脂肪族アルコールの配合量は、水/脂肪族アルコールの重量比が99/1〜60/40であることが好ましく、90/10〜70/30であることがより好ましい。脂肪族アルコールの配合量が上記範囲より小さくなると、有機層と水層の分離に長時間を要したり、有機層と水層との間に、中間層が生じたりするおそれがある。また、上記範囲より大きいと、洗浄溶媒に生成物が溶解しやすくなり、収率が低下する傾向にある。
【0027】
混合洗浄溶媒の洗浄1回あたりの使用量は、ポリフェニレンエーテルに対して20〜100重量%であることが好ましい。上記範囲より小さくなると、洗浄が不十分になりやすく、上記範囲より大きいと、生成物であるビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の溶解量が多くなり、収率が低下するおそれがある。
【0028】
洗浄方法としては常法に従い液−液分離を行えばよく、洗浄後は例えば有機層をメタノールに投入することにより再沈殿を行い、乾燥させることにより目的物を得ることができる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。ただし、これらは単なる例示であり、本発明の適用例は、これらのみに限定されるものではない。実施例における評価項目は、以下の方法に従い実施した。なお、実施例中、部および%は重量基準である。
【0030】
[ハロゲン化物イオン濃度の測定方法]
本発明より得られたビニルベンジル化ポリフェニレンエーテルのハロゲン化物イオン濃度は、製品を0.5g秤量し、10gのクロロホルムに溶解させた後、超純水(電気比抵抗18MΩ・cm以上の水)を20g加え、15秒間振り混ぜた後3時間静置し、上層の抽出水をイオンクロマトグラフィー(ダイオニクス社製ICS−1500、カラム:IonPac AS12A、溶離液:2.7mmol/L NaCO/0.3mmol/L NaHCO、流量1.5mL/min)にて測定した。ハロゲン化物イオン濃度の検量線は、陰イオン混合標準液IV(関東化学株式会社製)を用いて作成した。
【0031】
[反応時間の測定]
本発明においては、反応時間は水酸化ナトリウムの滴下終了から反応率が95%以上になるまでに要した時間とする。反応率は、次の方法で測定したデータから求めた。
【0032】
反応溶液1gを採取し、メタノール40gによって再沈殿を行い、得られた樹脂を真空オーブン(120℃、20mmHg)で30分間乾燥した。これをFT−IR(バイオラッド社製:FTS−135)を用いてKBr法にて測定した。水酸基の吸収波長である3610cm−1のピーク面積を算出し、次の計算式により反応率を算出した。
【0033】
反応率(%)=[1−(X/B)]×100
X:測定サンプルの3610cm−1のピーク面積
B:反応開始時の3610cm−1のピーク面積
【0034】
[実施例1]
温度調節器、撹拌装置、冷却コンデンサー、滴下ロートを備えた2L四つ口フラスコに、一般式(1)で示されるポリフェニレンエーテル(NONYL PPO SA−120−100(一般式(1)のRが水素、Rがメチル基、Rが水素、Rがメチル基、n=20、数平均分子量2400):GE Plastics社製)を240g(0.1モル)、トルエン480gを仕込み、均一溶液にし、続いて、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド1.3g、ビニルベンジルクロライド(メタ体/パラ体=50/50、商品名:CMS−P、セイミケミカル社製)16.17g(0.105モル)を加え、75℃まで昇温した。ここに、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH6.0g(0.15mol)/水6.5g)を30分かけて滴下し、75℃で反応を行なったところ、反応時間は4時間であった。
【0035】
50℃まで冷却後、トルエン144g、水/イソプロパノール(重量比70/30)混合溶媒168gを加え、35重量%の塩酸水溶液24gで中和した。反応溶液が2層に分離するまで静置し、下層の水溶液層を除去した。さらに、水/イソプロパノール(重量比80/20)混合溶媒128gによる洗浄を4回行なった。この有機層を、70℃、50mmHgで水分を0.05%以下になるまで除去し、さらにこの溶液を濾過した。濾液をメタノール(3600g)中に投入して再沈殿を行い、樹脂粉末を得た。これを真空オーブン(120℃、20mmHg)にて3時間乾燥し、黄色粉末236g(ポリフェニレンエーテル基準で収率94%)を得た。このポリフェニレンエーテルのハロゲン化物イオン濃度は5ppmであった。
【0036】
[実施例2]
トルエンに代えてキシレンを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、反応時間は4時間であった。
【0037】
生成物は、黄色粉末236g(ポリフェニレンエーテル基準で収率94%)、ハロゲン化物イオン濃度5ppmであった。
【0038】
[実施例3]
トルエンに代えてトルエン/イソプロパノール(重量比70/30)混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、反応時間は3.5時間であった。
【0039】
生成物は、黄色粉末236g(ポリフェニレンエーテル基準で収率94%)、ハロゲン化物イオン濃度3ppmであった。
【0040】
[実施例4]
トルエンに代えてキシレン/イソブチルアルコール(重量比70/30)混合溶媒を用い、かつ、水/イソプロパノール(重量比80/20)混合溶媒に代えて水/イソブチルアルコール(重量比80/20)混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、反応時間は3.5時間であった。
【0041】
生成物は、黄色粉末224g(ポリフェニレンエーテル基準で収率91%)、ハロゲン化物イオン濃度6ppmであった。
【0042】
[比較例1]
温度調節器、撹拌装置、冷却コンデンサー、滴下ロートを備えた2L四つ口フラスコに、一般式(1)で示されるポリフェニレンエーテル(NONYL PPO SA−120−100(一般式(1)のRが水素、Rがメチル基、Rが水素、Rがメチル基、n=20、数平均分子量2400):Ge Plastics社製)を240g(0.1モル)、トルエン480gを仕込み、均一溶液にし、続いて、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド1.3g、ビニルベンジルクロライド(メタ体/パラ体=50/50、商品名:CMS−P、セイミケミカル社製)16.17g(0.105モル)を加え、75℃まで昇温した。ここに、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH6.0g(0.15モル)/水6.5g)を30分かけて滴下し、75℃で反応を行なったところ、反応時間は4時間であった。50℃まで冷却後、トルエン144gと水144gを加え、さらに35重量%の塩酸水溶液24gで中和した。その後、反応溶液を2時間静置したが、2層に分離しなかった。そこで、さらにトルエン256gを加えることにより2層に分離したため、下層の水溶液層を除去した。有機層をメタノール(3600g)中に投入し再沈殿を行い、樹脂粉末を得た。これを水/メタノール(重量比80/20)混合溶媒960gで4回洗浄した。これを真空オーブン(120℃、20mmHg)にて3時間乾燥し、黄色粉末230g(ポリフェニレンエーテル基準で収率92%)を得た。このポリフェニレンエーテルのハロゲン化物イオン濃度は700ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有し、かつ、その末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルと、
(B)下記一般式(2)で示されるビニルベンジルハライドとを、
アルカリ金属水酸化物の存在下、芳香族炭化水素を50重量%以上含有する有機溶媒と水との混合溶媒中で反応させ、
得られた反応溶液を水と脂肪族アルコールとからなる混合液で洗浄する
ことを特徴とするビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは繰り返し単位数の平均値であり、1〜100の数である)
【化2】

(式(2)中、Xは、塩素及び臭素から選ばれたいずれかの原子を示す)
【請求項2】
前記芳香族炭化水素がトルエンおよびキシレンからなる群から選択された1種又は2種であることを特徴とする、請求項1に記載のビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールが、炭素数3〜6の脂肪族アルコールからなる群から選択された1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒として、炭素数3〜6の脂肪族アルコールからなる群から選択された1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−96953(P2009−96953A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272292(P2007−272292)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】