説明

ビニル系ポリマーおよびその製造方法、磁気記録媒体用結合剤組成物、ならびに磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】磁気記録媒体用結合剤として好適なスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを容易に得るための手段を提供すること。
【解決手段】タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とをメタノール中で反応させて得られた第一液と、分子内にエポキシ基を有するビニル系ポリマーをケトン系溶媒中に含む第二液とを混合することにより、前記ビニル系ポリマーの側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基を導入する付加反応を行うことを特徴とするビニル系ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系ポリマーおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、塗布型磁気記録媒体の結合剤として好適なビニル系ポリマーおよびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記ビニル系ポリマーを含む磁気記録媒体用結合剤組成物、ならびに磁気記録媒体およびその製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。
【0003】
高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることが有効である。微粒子磁性体の分散性を高める手段としては、SO3Na基のようなスルホン酸(塩)基を結合剤に含有させる方法が知られている。なお本明細書および本発明において、スルホン酸(塩)基とは、スルホン酸基とスルホン酸基の塩を包含する意味で用いるものとする。
【0004】
磁気記録媒体用結合剤として広く用いられているビニル系ポリマーへのスルホン酸(塩)基の導入方法として、特許文献1には、原料モノマーとしてスルホン酸(塩)基を含有するモノマーとエポキシ基を含有するモノマーを併用し、エポキシ基含有モノマーに付加反応によりスルホン酸(塩)基を導入する方法が提案されている。また、特許文献2には、エポキシ基を含有する塩化ビニル系ポリマーに対して水系溶媒中での付加反応によりスルホン酸(塩)基を導入する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−26627号公報
【特許文献2】特開昭60−238306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に記載の方法により得られるビニル系ポリマーは、吸着官能基であるスルホン酸(塩)基が側鎖に導入されており、これが磁性体表面に吸着することで磁性体同士が凝集し分散性が低下することを防ぐことができるものである。しかし特許文献1、2に記載の方法は、それぞれ以下の合成上の課題を有するものであった。
【0007】
特許文献1に記載されているようにエポキシ基含有モノマーに対して付加反応を行うと2官能のビニル系モノマーが生成されるため、これを用いて重合反応を行うと多次元架橋構造のビニル系ポリマーとなり重合時にゲル化の要因になるなど反応制御が困難となる。
【0008】
特許文献2にはスルホン酸(塩)基の付加反応を水系で行うことが記載されているが、磁気記録媒体ではイソシアネート系硬化剤による架橋を利用して塗膜強度を高めるような場合に水が多量に存在すると、イソシアネート系硬化剤が水と架橋することで結合剤との反応性が阻害されてしまうため、イソシアネート系硬化剤を使用したにもかかわらず、高強度の塗膜を得ることが困難となる。したがって通常、特許文献2に記載されているように水系で合成された結合剤樹脂はそのままの状態で磁気記録媒体形成用塗布液の調製に使用することはなく、同文献の実施例で行われるように乾燥等によって水から分離する工程が必要となる。
【0009】
以上説明したように、従来提案されていたスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーの製造方法は合成上の課題を有するものであった。
【0010】
かかる状況下、本発明は磁気記録媒体用結合剤として好適なスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを容易に得るための手段を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とをメタノール中で反応させて得られた第一液と、分子内にエポキシ基を有するビニル系ポリマー(以下、「エポキシ基含有ビニル系ポリマー」ともいう)をケトン系溶媒中に含む第二液とを混合することで、上記目的が達成されることを見出すに至った。
上記方法によれば、メタノールとケトン系溶媒という非水系溶媒の存在下でスルホン酸(塩)基の付加反応を行うことができるため、特許文献2に記載されている方法のように合成されたポリマーを水から分離することなく、塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の調製に使用することができる。また、反応溶媒の一部を塗布型磁気記録媒体形成用塗布液に汎用されるケトン系溶媒が占めるため、溶媒除去や溶媒置換を行うことなく反応後のポリマー溶液をそのまま塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の調製工程に付すことも可能となる。更に、ポリマーに対して付加反応を行うため、特許文献1に記載の方法において発生する2官能ビニルモノマーの形成による反応制御の困難性等の懸念なく、スルホン酸(塩)基含有ビニルポリマーを容易に得ることができる。
【0012】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とをメタノール中で反応させて得られた第一液と、エポキシ基含有ビニル系ポリマーをケトン系溶媒中に含む第二液とを混合することにより、前記ビニル系ポリマーの側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基を導入する付加反応を行うことを特徴とする、ビニル系ポリマーの製造方法。
[2]前記ビニル系ポリマーは塩化ビニル系ポリマーである、[1]に記載のビニル系ポリマーの製造方法。
[3]分子内にエポキシ基を有するビニル系ポリマーにおけるエポキシ基含有量は、0.5〜10.0質量%の範囲である、[1]または[2]に記載のビニル系ポリマーの製造方法。
[4]塩交換反応により、前記スルホン酸アルカリ金属塩基に含まれるアルカリ金属イオンをプロトンまたは他のカチオンに転換することを含む[1]〜[3]のいずれかに記載のビニル系ポリマーの製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマー。
[6][5]に記載のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを含むことを特徴とする、磁気記録媒体用結合剤組成物。
[7][1]〜[4]のいずれかに記載の方法において前記付加反応後に溶媒除去工程を経ることなく得られた反応液である、[6]に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
[8]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、[5]に記載のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを結合剤の構成成分として含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[9]前記磁性層は、前記スルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーとポリイソシアネートとの反応生成物を含む[8]に記載の磁気記録媒体。
[10]前記磁性層は、カルボキシル基含有化合物を更に含む、[8]または[9]に記載の磁気記録媒体。
[11]前記カルボキシル基含有化合物はオレイン酸である、[10]に記載の磁気記録媒体。
[12]前記磁性層は、フェノール系化合物を更に含む、[8]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[13]前記フェノール系化合物は2,3−ジヒドロキシナフタレンである、[12]に記載の磁気記録媒体。
[14][8]〜[13]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
[6]または[7]に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物を用いて磁性層形成用塗布液を調製すること、および
調製した磁気記録媒体形成用塗布液を用いて前記磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁気記録媒体用結合剤として好適なスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを容易に合成することが可能となる。また、得られたスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーは、合成後に反応溶媒を除去する工程を経ることなくそのまま磁性層形成用塗布液の調製に使用することも可能であるため、磁気記録媒体の製造工程を簡略化することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ビニル系ポリマーの製造方法]
本発明のビニル系ポリマーの製造方法は、タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とをメタノール中で反応させて得られた第一液と、分子内にエポキシ基を有するビニル系ポリマーをケトン系溶媒中に含む第二液とを混合することにより、前記ビニル系ポリマーの側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基を導入する付加反応を行うものである。本発明のビニル系ポリマーの製造方法では、ポリマーに対して極性基であるスルホン酸アルカリ金属塩基の付加反応を行うため、特許文献1に記載の方法のように反応制御の困難性なく、磁性体の分散性に有利に作用し得る極性基含有ポリマーを得ることができる。
また、使用する反応溶媒はメタノールとケトン系溶媒という非水系溶媒であるため、得られるポリマーは、特許文献2に記載の方法のように水を分離する工程を経ることなく、磁性層形成のために使用することができる。なお、本発明のビニル系ポリマーの製造方法において反応溶媒の一つとして使用されるメタノールは、特許文献2に記載の方法で反応系に存在する水と同様、イソシアネート系硬化剤と反応することが知られている。しかしメタノールは水と比較して沸点や蒸発熱の小さい溶媒であり、ポリマー合成時、または磁気記録媒体製造時の乾燥工程等で容易に低減ないし除去され得るため、イソシアネート系硬化剤と結合剤の架橋反応を大きく阻害することがない点でも有利である。
以下、本発明のビニル系ポリマーの製造方法について、更に詳細に説明する。
【0015】
第一液の調製
第一液は、タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とをメタノール中で反応させて得られる反応液である。タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸は、磁気記録媒体の結合剤樹脂に対して極性基を導入するために使用されていた化合物であるが、有機溶剤への溶解性に乏しいため、従来は特許文献2に記載されているように水系での使用に限定されていた。
これに対し本発明では、水系溶媒を使用することなく、極性基であるスルホン酸アルカリ金属塩基をビニル系ポリマーに導入することができる。これは、タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸がアルカリ金属水酸化物を含むメタノール中でアルカリ金属水酸化物と塩形成反応を起こし塩の状態となってメタノールに良好に溶解し、この塩を含むメタノール(第一液)を、エポキシ基含有ビニル系ポリマーをケトン系溶媒中に含む第二液と混合することによりエポキシ基に対して上記の塩が付加反応を起こす結果、ビニル系ポリマーの側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基を導入することができるためと推察される。なおアミノベンゼンスルホン酸としては、オルト、メタ、パラアミノベンゼンスルホン酸が存在するが、本発明者の検討によれば、オルトアミノベンゼンスルホン酸およびパラアミノベンゼンスルホン酸を使用した場合には、第一液と第二液との混合後、難溶性の沈殿を生じてしまい目的のポリマーを得ることができなかった。したがって本発明において第一液の調製に使用するアミノベンゼンスルホン酸はメタアミノベンゼンスルホン酸とする。
【0016】
第一液は、タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物をメタノール中に添加し攪拌することにより調製することができる。これにより前記スルホン酸基含有化合物と金属水酸化物との反応(塩形成反応)を進行させ、メタノールに可溶な塩を形成することができると考えられる。この反応中の反応液の温度は、反応速度の点からは0℃以上とすることが好ましく、メタノールの沸点以下にすることが望ましい。沸点を超える温度で反応させる場合には冷却管の使用や封管させるなど低沸点物が揮発しない操作を適宜行うことが好ましい。反応時間は、反応が十分に進行する範囲内で適宜設定すればよいが、例えば30分〜16時間程度とすることができる。
【0017】
第一液調製に使用するアルカリ金属水酸化物は、前述の通り、メタノール中で前記スルホン酸基含有化合物と塩形成反応を起こすことができると推察される。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等を用いることができる。アルカリ金属水酸化物は、一種単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0018】
第一液に含まれるメタノールはビニル系ポリマーに対して貧溶媒であるため、第一液と第二液を混合した際にビニル系ポリマーが析出し反応性が低下することを防ぐ観点から、第一液は高濃度でスルホン酸基含有化合物を含有することが望ましい。具体的には、第一液調製に使用する前記スルホン酸基含有化合物の濃度は1質量%以上であることが好ましく、前記スルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とにより形成される塩のメタノールに対する溶解度を考慮すると25質量%以下であることが好ましい。したがって、上記観点から、第一液中の前記スルホン酸基含有化合物の濃度は、1〜25質量%とすることが好ましい。
【0019】
アルカリ金属水酸化物と前記スルホン酸基含有化合物が1対1で反応することにより塩が生成されるが、前記スルホン酸基含有化合物、アルカリ金属水酸化物のいずれかを過剰量使用することも可能である。前記スルホン酸基含有化合物に対して1.0当量未満のアルカリ金属水酸化物を使用する場合、即ち、前記スルホン酸基含有化合物を過剰量使用する場合には、反応後の未反応の前記スルホン酸基含有化合物の除去の容易性の観点から、前記スルホン酸基含有化合物に対して0.50当量以上のアルカリ金属水酸化物を使用することが好ましい。他方、アルカリ金属水酸化物を過剰量使用する場合には、反応後の未反応のアルカリ金属水酸化物の除去の容易性を考慮すると、前記スルホン酸基含有化合物に対するアルカリ金属水酸化物の使用量は、2.0当量以下とすることが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、反応性および除去の容易性を考慮すると、前記スルホン酸基含有化合物に対し、より好ましくは0.50〜1.5当量の範囲である。
【0020】
第二液の調製
上記第一液と混合する第二液は、エポキシ基含有ビニル系ポリマーをケトン系溶媒中に含むものである。
塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の溶媒としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンといったケトン系溶媒が汎用されている。これは、ケトン系溶媒は沸点が比較的低いため、ケトン系溶媒を使用すれば乾燥工程で溶媒を容易に除去することができ残留溶媒量の少ない磁気記録媒体が得られるからである。したがって磁気記録媒体用結合剤を調製するための反応は、反応溶媒の一部をケトン系溶媒が占めることが望ましい。反応後のポリマー溶液を、高度な分離精製工程を経ることなく、塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の調製工程に付すことが可能となるからである。本発明のビニル系ポリマーの製造方法では、上記の通り反応溶媒は第一液に含まれるメタノールと第二液に含まれるケトン系溶媒であり、反応溶媒の一部をケトン系溶媒が占めるため得られるビニル系ポリマーは、塗布型磁気記録媒体の調製のために好適である。また、第一液由来のメタノールは安全性が高い点から好ましく、また低沸点であるため通常は第一液と第二液を混合し付加反応を行っている際に除去されるため、残留溶媒量が高まる懸念がない点からも好ましい。また仮に結合剤溶液中に残留していたとしても、通常は磁気記録媒体作製工程中に揮発するため、イソシアネート系化合物と結合剤との架橋反応の反応性や媒体性能に大きな影響を及ぼさない点からも好ましい。
【0021】
第二液に使用されるケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることができ、これらを単独または任意の割合で混合して使用することができる。
【0022】
エポキシ基含有ビニル系ポリマーは、入手容易性の観点から塩化ビニル系ポリマーであることが好ましい。本発明において第二液調製に使用するエポキシ基含有ビニル系ポリマーは、公知の方法で合成可能であり、また市販品としても入手可能である。前記ビニル系ポリマーにおいて、エポキシ基は主鎖に導入されていてもよく、側鎖に導入されていてもよく、主鎖および側鎖の両方に導入されていてもよい。ポリマー中のエポキシ基含有量は、磁性体の分散性向上に効果的に寄与し得る量の極性基を付加反応により導入する観点から、また、塩化ビニル系ポリマーについては脱塩素による環境負荷を低減する観点から、ポリマー1分子の質量に対して、0.5〜10.0質量%の範囲であることが好ましい。また、本発明の製造方法により得られるビニル系ポリマーにおけるスルホン酸アルカリ金属塩基、またはこれが塩交換された極性基の含有量は、10〜1000μeq/gであることが分散性向上の観点から好ましい。
【0023】
第二液の調製に使用されるエポキシ基含有ビニル系ポリマーの合成方法については、例えば、特許文献1および特許文献2の全記載を参照できる。また、市販品としては、日本ゼオン製MR−104、カネカ製MR−104、日本ゼオン製MR−110、カネカ製MR−110等を使用することができる。
【0024】
第二液は、ケトン系溶媒にエポキシ基含有ビニル系ポリマーを添加することにより容易に調製することができる。第二液中のエポキシ基含有ビニル系ポリマーの濃度は、第一液と混合し付加反応を良好に進行させるためには、エポキシ基含有ビニル系ポリマーがケトン系溶媒中に良好に溶解し、好ましくは完溶する濃度とすることが好ましく、具体的には、10〜60質量%程度とすることが好適である。また、20〜40質量%の濃度とすると、後述する付加反応終了後に濃度調整することなく磁気記録媒体の製造に使用できることも可能となることから更に好ましい。
【0025】
スルホン酸アルカリ金属塩基の導入(付加反応)
第一液、第二液の詳細は前述の通りであり、本発明の製造方法では、調製された第一液と第二液を混合することで、第二液に含まれていたエポキシ基含有ビニル系ポリマーの側鎖に、スルホン酸アルカリ金属塩基を導入する。この反応(付加反応)は、タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物のアミノ基が、エポキシ基にアタックしエポキシ基を開環し付加することで進行すると考えられる。
一方、特許文献1ではエポキシ基含有モノマーに対して付加反応が行っているが、この場合には例えば下記のような反応が進行し、単官能のビニルモノマーとともに2官能のビニルモノマーも生成される。
【0026】
【化1】

【0027】
こうして得られたモノマー混合物を用いて重合反応を行うと、得られるビニル系ポリマーは多次元架橋構造となり分子量の制御は困難となる。また、上段の単官能のビニルモノマーの−NH−基が新たな付加反応の起点となることも分子量制御を困難とする。
これに対し本発明の製造方法では、上記の通りポリマーに対して付加反応を行うため、2官能ビニルモノマーの生成によって分子量制御が困難となることはなく、またポリマーの主鎖の立体障害により、付加反応により生じた−NH−基がエポキシ基との新たな付加反応の起点となることを回避することができる。したがって本発明によれば、特許文献1に記載の方法のように分子量制御の困難性の懸念なく極性基の付加反応を行うことができる。
【0028】
第一液と第二液の混合比は、第一液に含まれるスルホン酸基含有化合物の溶解性、第二液に含まれるエポキシ基含有ビニル系ポリマーの溶解性、エポキシ基含有ビニル系ポリマーが有するエポキシ基量および磁性体の分散性向上に効果的に寄与し得る極性基量に基づき決定することが好ましい。具体的には、第一液:第二液=1:1〜1:100(体積比)であることが望ましい。更に、第一液:第2液=1:5〜1:100(体積比)の範囲が、ビニル系ポリマーの溶解性および反応後のメタノールの除去の観点からより好ましい。
【0029】
上記の通り第一液に含まれるメタノールは容易に除去され得るものであるが、塗膜強度を高める目的でイソシアネート系硬化剤を含む磁気記録媒体作製用塗布液を調製する場合にはイソシアネート系化合物と結合剤との反応性を良好に維持する観点からからメタノールの残留量は少ないほど好ましい。したがって本発明のビニル系ポリマーの製造方法では、必要に応じて前記付加反応の反応途中または反応終了後にメタノールを除去するための操作を行ってもよい。メタノールの除去方法としては、減圧して除去する方法、反応液をメタノールの沸点以上に加温して除去する方法、および両者を併用する方法等を挙げることができる。メタノールを減圧下で除去する場合には、5〜100mmHg程度に減圧することが望ましい。これらのメタノール除去方法は、特許文献2に記載の方法で必要とされる水の除去と比べてはるかに容易に行うことができるため、製造工程を煩雑にすることはない。なお、メタノール除去工程でケトン系溶剤も除去された場合、任意のタイミングでケトン系溶媒を添加することもできる。また、反応は大気中で行ってもよく、窒素、アルゴン等の反応に不活性な気体の雰囲気下で行ってもよい。反応時間は、反応が十分進行する範囲に適宜設定すればよく、例えば2時間〜24時間程度とすることができる。また、反応中は反応液を40〜80℃程度に加温することが、反応を良好に進行させるうえで好ましい。また、付加反応の促進のために、公知の触媒を使用してもよい。
【0030】
上記付加反応により側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基が導入されたビニル系ポリマーは、任意に、公知の塩交換反応によってスルホン酸アルカリ金属塩基に含まれるアルカリ金属イオンをプロトンまたは他のカチオンに転換してもよい。
【0031】
以上の工程により得られた、側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基またはその塩交換体を有するビニル系ポリマーは、公知の精製工程を経て塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液の調製に用いることもできる。前述のように本発明の製造方法で使用される反応溶媒は、塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の調製に汎用されるケトン系溶媒と、除去が容易なメタノールであるため、付加反応後の反応液に対して溶媒除去工程を行うことなく塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液の調製に使用しても、作製される磁気記録媒体の品質を損なうことはない。なお、イソシアネート系硬化剤を含む磁性層形成用塗布液に使用する場合には、樹脂溶液中のメタノール量は1質量%未満であることが好ましい。したがってメタノール量をより一層低減するために、付加反応後の反応液を前述のメタノール除去工程に付すことが望ましいこともある。さらに任意に未反応物や不溶物の除去のための濾過工程を実施してもよい。こうして本発明によれば、水の除去という煩雑な工程を経ることなく、塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液の調製に用いることができるポリマー溶液を得ることができ、これにより塗布型磁気記録媒体の製造工程を簡略化することができる。
【0032】
本発明の製造方法により得られるビニル系ポリマーの分子量については、高強度の塗膜を得る観点から質量平均分子量は20,000以上であることが好ましく、作業性を良好に維持するために所定濃度における塗料粘度を適切な範囲とする観点から200,000以下であることが好ましい。本発明の製造方法により得られるビニル系ポリマーの分子量は、第二液に使用するエポキシ基含有ビニル系ポリマーの分子量によって主に決定されるため、本発明では所望の分子量の目的ポリマーが得られるように適切な分子量を有するエポキシ基含有ビニル系ポリマーを選択して第二液を調製することが好ましい。
【0033】
[スルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマー、およびこれを含む磁気記録媒体用結合剤組成物]
更に本発明は、
前記した本発明の製造方法により得られたスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマー;および、
上記スルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを含むことを特徴とする、磁気記録媒体用結合剤組成物;
にも関するものである。
【0034】
本発明のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーは、吸着官能基であるスルホン酸(塩)基を含むため磁性体の分散性向上に寄与するものである。また、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物は、上記付加反応後に反応液をろ過し未反応物や不溶物を除去する工程を経て得ることもできる。更には、反応溶媒の少なくとも一部を除去する工程を経てもよい。ただし本発明のビニル系ポリマーの製造方法において使用される溶媒はメタノールとケトン系溶媒であるため、先に説明したように、前記付加反応後に反応液を溶媒除去工程に付すことなく、磁気記録媒体用結合剤組成物として使用することができる。例えば、前記付加反応後に得られた反応液に強磁性粉末、各種添加剤を混合し、必要に応じて有機溶媒(ケトン系溶媒、トルエン等)を追加することで、磁性層形成用塗布液を調製することができる。かかる塗布液を用いて形成された磁性層では、本発明のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーにより強磁性粉末を高度に分散させることができ、これにより高い表面平滑性を有する、高密度記録用途に好適な磁気記録媒体を得ることができる。また、磁性層成分としてポリイソシアネートを併用すれば、磁性層形成時の熱処理によりスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーとポリイソシアネートとの間で架橋構造を形成させることで、高強度な磁性層を形成することができる。ここで本発明のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーは極性基の導入のための付加反応が非水系で行われたものであるため、付加反応後の反応液をそのまま磁性層塗布液調製に使用したとしても、水の存在により架橋構造の形成が阻害されることがなく好ましい。併用するポリイソシアネートの詳細については後述する。
【0035】
[磁気記録媒体およびその製造方法]
更に本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体は、前記磁性層が、前記した本発明のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを結合剤の構成成分として含むものである。ここで「構成成分として含む」とは、磁性層の結合剤として本発明のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーそのものが存在する態様とともに、該ポリマーが他の成分との反応生成物として存在する態様も含むものとする。例えば本発明のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーは、ポリイソシアネートと反応し架橋構造を形成した状態で磁性層に存在することができ、そのような態様も本発明に含まれる。ポリイソシアネートとしては、塗膜強度向上の観点からは、3官能以上のポリイソシアネートを使用することが好ましい。3官能以上のポリイソシアネートの具体例としては、トリメチロールプロパン(TMP)にTDI(トリレンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、TMPにHDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、TMPにIPDI(イソホロンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、TMPにXDI(キシリレンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、などアダクト型ポリイソシアネート化合物、TDIの縮合イソシアヌレート型3量体、TDIの縮合イソシアヌレート5量体、TDIの縮合イソシアヌレート7量体、およびこれらの混合物、HDIのイソシアヌレート型縮合物、IPDIのイソシアヌレート型縮合物、さらにクルードMDIなどを挙げることができる。ポリイソシアネートの使用量は、本発明のビニル系ポリマー100質量部に対して、例えば0〜80質量部とすることができ、塗膜強度向上の点から、10〜40質量部とすることが好ましい。
【0036】
更に本発明は、上記の本発明の磁気記録媒体の製造方法にも関する。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物を用いて磁性層形成用塗布液を調製すること、および、調製した磁気記録媒体形成用塗布液を用いて前記磁性層を形成すること、を含むものである。前述のように、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物として、ビニル系ポリマーへの極性基導入反応後に溶媒除去工程を経ることなく得られた反応液を使用すれば、磁気記録媒体の製造工程を簡略化することができる。
【0037】
本発明の磁気記録媒体は、磁性層の結合剤構成成分として、前記した本発明のビニル系ポリマー以外に公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応性樹脂、これらの混合物等の他の樹脂成分を含むこともできる。本発明のビニル系ポリマーと他の樹脂成分とを併用する場合、本発明のビニル系ポリマーによる分散性向上を効果的に達成する観点から、他の樹脂成分の使用量は、前記本発明のビニル系ポリマー100質量部に対し、1〜100質量部とすることが好ましく、10〜100質量部とすることがより好ましい。
【0038】
次に、本発明の磁気記録媒体およびその製造方法の具体的態様について、更に詳細に説明する。
【0039】
磁性層
(i)強磁性粉末
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、針状強磁性体、平板状磁性体、または球状もしくは楕円状磁性体を挙げることができる。高密度記録化の観点から針状強磁性体の平均長軸長は、20nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上45nm以下であることがより好ましい。平板状磁性体の平均板径は、六角板径で10nm以上50nm以下であることが好ましい。磁気抵抗ヘッドで再生する場合は、低ノイズにする必要があり、板径は40nm以下であることが好ましい。板径が上記範囲であれば、熱揺らぎがなく安定な磁化が望める。また、ノイズも低くなるため高密度磁気記録に適する。球状もしくは楕円状磁性体は、高密度記録化の観点から、平均直径が10nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0040】
上記強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0041】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0042】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0043】
以上説明した各磁性体については、特開2009−96798号公報段落[0097]〜[0110]に詳細に記載されている。
【0044】
(ii)分散剤
本発明の磁気記録媒体は、磁性層の結合剤構成成分としてスルホン酸(塩)基を含有する本発明のビニル系ポリマーを含むため、磁性層において強磁性粉末の高度な分散状態を達成することができるが、強磁性粉末の分散性をより一層向上するために、分散剤を使用することもできる。なお本発明における分散剤とは、これが存在しない場合と比べて磁性層における強磁性粉末の分散性を向上する作用を有する化合物をいうものとする。使用可能な分散剤としては、カルボキシル基含有化合物および芳香族化合物が好ましく、より好ましくはカルボキシル基含有化合物としては脂肪酸、芳香族化合物としては芳香族カルボン酸化合物、フェノール系化合物を挙げることができる。
【0045】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、分散性向上の観点からは不飽和脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸の炭素数は、好ましくは14〜24であり、より好ましくは16〜22である。脂肪酸の具体例としては、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸等を挙げることができ、中でもより一層の分散性向上の観点からはオレイン酸が好ましい。
【0046】
芳香族カルボン酸化合物とは、芳香環に結合した水素のうち少なくとも1つがカルボン酸基に置換した化合物を意味し、ナフタレンやその他縮合多環芳香族にカルボン酸が置換しているものも含まれる。芳香族カルボン酸化合物としては、より一層の分散性向上の観点からベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環を芳香環として含むものが好ましく、好ましい具体例としては、1−ナフトエ酸、トランス桂皮酸、4−ビフェニルカルボン酸を挙げることができる。
【0047】
フェノール系化合物とは、芳香環に結合した水素のうち少なくとも1つが水酸基に置換したものを意味し、ナフタレンやその他縮合多環芳香族に水酸基が置換しているものも含まれる。フェノール系化合物としては、より一層の分散性向上の観点から、ベンゼン環またはナフタレン環を芳香環として含むものが好ましく、好ましい具体例としては、フェノール、カテコール、ヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン、4−tブチルフェノールを挙げることができ、より好ましい具体例としては、キレート型の2価のフェノール系化合物を挙げることができる。キレート型の2価のフェノールとは芳香環の隣接する炭素上にそれぞれフェノール性水酸基を有する化合物であって、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物をいう。キレート型の2価のフェノール系化合物の好ましい具体例としては、カテコールおよびジヒドロキシナフタレン、より好ましい具体例としては2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0048】
本発明の磁気記録媒体は、分散性向上の観点から、強磁性粉末100質量部あたり1.5質量部以上の分散剤を磁性層に含むことが好ましい。高密度記録化の観点からは強磁性粉末の充填率を高めることが望ましいため、添加剤の添加量はその効果を発揮し得る範囲で低減することが好ましい。上記観点から、磁性層における分散剤の含有量は、強磁性粉末100質量部あたり10質量部以下とすることが好ましい。強磁性粉末の分散性と充填率を両立する観点から、磁性層における桂皮酸の含有量は強磁性粉末100質量部あたり3〜10質量部とすることがより好ましい。
【0049】
(iii)添加剤
磁性層には、必要に応じて上記分散剤以外の添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0111]〜[0115]を参照できる。
【0050】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。カーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0051】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0052】
非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に直接磁性層を有することもでき、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することもできる。非磁性層の結合剤を構成する樹脂成分として、先に説明した本発明のビニル系ポリマーを使用してもよく、公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応性樹脂、これらの混合物等の他の樹脂成分を使用してもよい。
【0053】
上記非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0054】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0055】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。
非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。
これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmが好ましい。5nm〜2μmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。ただし必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。本発明の磁気記録媒体に使用可能な非磁性粉末の詳細については、特開2009−96798号公報段落[0123]〜[0132]を参照できる。
【0056】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のμビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のμビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2であり、薄膜硬度計(日本電気(株)製 HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0057】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、好ましくは100〜500m2/g、更に好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、更に好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0058】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0059】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層に関する公知技術が適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0060】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
【0061】
バックコート層
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して繰り返し走行性が強く要求される。このような高い保存安定性を維持させるために、非磁性支持体の磁性層が設けられた面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層用塗布液は、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させることにより形成することができる。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができる。また、結合剤としては、例えば、ニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。上記バックコート層を形成するために、前述の本発明のビニル系ポリマーを使用することも可能である。
【0062】
層構成
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に上記平滑化層を設ける場合、平滑化層の厚さは例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。また、上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0063】
磁性層の厚さは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、高容量化の観点から、好ましくは10nm〜100nmであり、より好ましくは20nm〜80nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0064】
非磁性層の厚さは、0.2〜3.0μmであることが好ましく、0.3〜2.5μmであることがより好ましく、0.4〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体が非磁性層を有する場合、該非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。ここで、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下または抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0065】
製造方法
磁性層、非磁性層等の各層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることが好ましい。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。
また、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物に、上記原料を同時または逐次添加することにより、塗布液を製造することもできる。例えば強磁性粉末をニーダにより解砕した後、本発明の磁気記録媒体用結合剤樹脂組成物(更に任意に併用される他の結合剤成分)を添加して混練工程を行い、この混練物に各種添加剤を添加し分散工程を行うことにより磁性層形成用塗布液を調製することができる。
【0066】
各層形成用塗布液を調製するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は、強磁性粉末または非磁性粉末100質量部に対して15〜500質量部の結合剤(但し、全結合剤の30質量%以上が好ましい)を使用して混練処理することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液および非磁性層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。ガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0067】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。各層形成用塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。塗布工程の詳細については、特開2004−295926号公報段落[0067]、[0068]も参照できる。
【0068】
また、塗布工程後の媒体には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)等の各種の後処理を施すことができる。それらの処理の詳細については、例えば特開2004−295926号公報段落[0070]〜[0073]を参照できる。
【0069】
前述のように塗膜強度向上のためポリイソシアネートを使用する場合、上記乾燥処理やカレンダー処理における加熱においても、架橋構造は形成され得るが、高強度の塗膜を形成するためには、上記処理以外にも加熱処理を行うことが好ましい。この場合の加熱処理は、例えば加熱温度は35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。また加熱処理時間は、例えば12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
得られた磁気記録媒体は、裁断機、打抜機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下の操作は、特記しない限り室温(25℃)で実施した。
【0071】
1.スルホン酸塩基含有ビニルポリマー調製の実施例、比較例
【0072】
[実施例1]
タウリン(2−アミノエタンスルホン酸)1.0質量部、水酸化カリウム0.5質量部をメタノール5.7質量部に添加し、1時間攪拌した(第一液の調製)。
上記第一液に、エポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)100.0質量部およびシクロヘキサノン233.3質量部からなる溶液(第二液)を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌した。次いで、反応溶液を100mmHgの減圧条件で30分間攪拌し、樹脂溶液Aを得た。
【0073】
樹脂溶液の評価
(1)メタノール残留有無の確認
実施例1で得られた樹脂溶液Aの一部を、下記条件でガスクロマトグラム分析したところ、メタノールは検出されなかった(検出限界以下であった)ことから第一液由来のメタノールが反応中に揮発し除去されたことが確認された。
検出器:島津社製GC−17A
カラム:アジレント・テクノロジー社製DB−5MS(30m×0.25mm×0.25μm)
カラム温度:40℃
試料気化室温度:100℃
検出器部分温度:250℃
試料注入量:1μl
温度レート:40℃/6min→昇温30℃/min→210℃/8min
【0074】
(2)ビニルポリマーへのスルホン酸塩基導入量の確認
実施例1で得られた樹脂溶液A 1質量部に内温50℃でアセトン1質量部を添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン1.5質量部を添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物中に含まれる硫黄含量を蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から定量したところ150meq/gであった。未反応のエポキシ基含有塩化ビニル共重合体および反応終了後の樹脂溶液Aとの硫黄含量変化分から本反応で導入されたスルホン酸塩基量は80meq/gと算出された。更に、上記操作で得られた生成物(乾燥粉)を重クロロホルムに溶解し未溶解物がないことを確認するとともに、得られた重クロロホルム溶液をH−NMR測定に付し、2〜3ppm付近にタウリン由来のピークがないことを確認した。
以上の結果から、本反応によりビニルポリマーへ導入されたスルホン酸塩基量は80meq/gであることが確認された。
【0075】
[実施例2]
タウリン1.0質量部、水酸化カリウム0.5質量部をメタノール5.5質量部に添加し、1時間攪拌した(第一液の調製)。
調製した第一液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)53.6質量部およびシクロヘキサノン125.0質量部からなる溶液(第二液)を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌した。次いで、反応溶液を100mmHgの減圧条件で30分間攪拌し、樹脂溶液Bを得た。
得られた樹脂溶液B中に含まれるメタノールを前述の方法で分析したところ検出限界以下であった。
樹脂溶液B 1質量部に内温50℃でアセトン1質量部を添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン1.5質量部を添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物中に含まれる硫黄含量を蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から定量したところ200meq/gであった。未反応のエポキシ基含有塩化ビニル共重合体および反応終了後の樹脂溶液Bとの硫黄含量変化分から本反応で導入されたスルホン酸塩基量は130meq/gと算出された。更に、上記操作で得られた生成物(乾燥粉)を重クロロホルムに溶解し未溶解物がないことを確認するとともに、得られた重クロロホルム溶液をH−NMR測定に付し、2〜3ppm付近にタウリン由来のピークがないことを確認した。
以上の結果から、本反応によりビニルポリマーへ導入されたスルホン酸塩基量は130meq/gであることが確認された。
【0076】
[実施例3]
タウリン1.0質量部、水酸化カリウム0.5質量部をメタノール6.3質量部に添加し、1時間攪拌した(第一液の調製)。
調製した第一液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)37.5質量部およびシクロヘキサノン87.5質量部からなる溶液(第二液)を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌した。次いで、反応溶液を100mmHgの減圧条件で30分間攪拌し、樹脂溶液Cを得た。
得られた樹脂溶液C中に含まれるメタノールを前述の方法で分析したところ検出限界以下であった。
樹脂溶液C 1質量部に内温50℃でアセトン1質量部を添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン1.5質量部を添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物中に含まれる硫黄含量を蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から定量したところ280meq/gであった。未反応のエポキシ基含有塩化ビニル共重合体および反応終了後の樹脂溶液Cとの硫黄含量変化分から本反応で導入されたスルホン酸塩基量は210meq/gと算出された。更に、上記操作で得られた生成物(乾燥粉)を重クロロホルムに溶解し未溶解物がないことを確認するとともに、得られた重クロロホルム溶液をH−NMR測定に付し、2〜3ppm付近にタウリン由来のピークがないことを確認した。
以上の結果から、本反応によりビニルポリマーへ導入されたスルホン酸塩基量は210meq/gであることが確認された。
【0077】
[実施例4]
タウリン1.0質量部、水酸化カリウム0.5質量部をメタノール5.6質量部に添加し、1時間攪拌した(第一液の調製)。
調製した第一液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)16.7質量部およびシクロヘキサノン38.9質量部からなる溶液(第二液)を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌した。次いで、反応溶液を100mmHgの減圧条件で30分間攪拌し、樹脂溶液Dを得た。
得られた樹脂溶液D中に含まれるメタノールを前述の方法で分析したところ検出限界以下であった。
樹脂溶液D 1質量部に内温50℃でアセトン1質量部を添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン1.5質量部を添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物中に含まれる硫黄含量を蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から定量したところ550meq/gであった。未反応のエポキシ基含有塩化ビニル共重合体および反応終了後の樹脂溶液Dとの硫黄含量変化分から本反応で導入されたスルホン酸塩基量は210meq/gと算出された。更に、上記操作で得られた生成物(乾燥粉)を重クロロホルムに溶解し未溶解物がないことを確認するとともに、得られた重クロロホルム溶液をH−NMR測定に付し、2〜3ppm付近にタウリン由来のピークがないことを確認した。
以上の結果から、本反応によりビニルポリマーへ導入されたスルホン酸塩基量は480meq/gであることが確認された。
【0078】
[比較例1]
オルトアミノベンゼンスルホン酸1.0質量部、水酸化カリウム0.33質量部をメタノール5.0質量部に添加し、1時間攪拌した。調製した溶液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)37.5質量部およびシクロヘキサノン125.0質量部からなる溶液を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌したところ、反応と共に難溶性の沈殿を生じ、溶剤溶解性のあるポリマーは得られなかった。
【0079】
[実施例5]
メタアミノベンゼンスルホン酸1.0質量部、水酸化カリウム0.33質量部をメタノール5.0質量部に添加し、1時間攪拌した(第一液の調製)。
調製した第一液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)37.5質量部およびシクロヘキサノン125.0質量部からなる溶液(第二液)を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌した。次いで、反応溶液を100mmHgの減圧条件で30分間攪拌し、樹脂溶液Eを得た。
得られた樹脂溶液E中に含まれるメタノールを前述の方法で分析したところ検出限界以下であった。
樹脂溶液E 1質量部に内温50℃でアセトン1質量部を添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン1.5質量部を添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物について実施例1〜4と同様の方法で本反応で導入されたスルホン酸塩基量が220meq/gであり、本反応によりビニルポリマーへ導入されたスルホン酸塩基量が150meq/gであることを確認した。
【0080】
[比較例2]
パラアミノベンゼンスルホン酸1.0質量部、水酸化カリウム0.33質量部をメタノール5.0質量部に添加し、1時間攪拌した。調製した溶液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)37.5質量部およびシクロヘキサノン125.0質量部からなる溶液を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌したところ、反応と共に難溶性の沈殿を生じ、溶剤溶解性のあるポリマーは得られなかった。
【0081】
[実施例6]
N−メチルタウリン1.0質量部、水酸化カリウム0.42質量部をメタノール5.0質量部に添加し、1時間攪拌した(第一液の調製)。
調製した第一液にエポキシ基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104)37.5質量部およびシクロヘキサノン125.0質量部からなる溶液(第二液)を添加したのち内温を40〜60℃に保ちながら5時間攪拌した。反応溶液を100mmHgの減圧条件で30分間攪拌し、樹脂溶液Fを得た。
得られた溶液中に含まれるメタノールを前述の方法で分析したところ検出限界以下であった。
樹脂溶液F 1質量部に内温50℃でアセトン1質量部を添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン1.5質量部を添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール:水=1:1混合溶液2.5質量部を滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物について実施例1〜4と同様の方法で本反応で導入されたスルホン酸塩基量が250meq/gであり、本反応によりビニルポリマーへ導入されたスルホン酸塩基量が180meq/gであることを確認した。
【0082】
2.分散性向上効果の評価
【0083】
実施例および比較例で得た樹脂溶液から溶媒を減圧留去した。以下、「樹脂溶液A」から得られた樹脂を「樹脂A」と記載する。その他の樹脂についても同様である。
【0084】
[評価1]
下記強磁性六方晶フェライト粉末2.2質量部、樹脂A 1質量部をシクロヘキサノン3.3質量部、メチルエチルケトン(2−ブタノン)4.9質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.1mmΦジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部を添加し、15時間分散させて磁性塗料1を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を後述の方法で測定したところ59nmであった。
強磁性六方晶バリウムフェライト粉末
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:25nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
pH:7
【0085】
分散粒子径の測定方法
磁性塗料を、シクロヘキサノンとメチルエチルケトンを体積比でシクロヘキサノン6.0:メチルエチルケトン9.0の割合で含む混合液で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した(固形分とは六方晶フェライト粉末・アクリルポリマー・フェノール系化合物の合計質量を表す)。
HORRIBA社製動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500を用いて測定した上記希釈液中の六方晶フェライト粉末平均粒子径を分散粒子径とした。分散粒子径が小さいほど、六方晶フェライト粉末が凝集せず分散性が良好であることを意味する。
【0086】
[評価2]
上記強磁性六方晶フェライト粉末2.2質量部、樹脂A 1質量部、オレイン酸0.033質量部をシクロヘキサノン3.3質量部、メチルエチルケトン4.9質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.1mmΦジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部を添加し、15時間分散させて磁性塗料2を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ49nmであった。
【0087】
[評価3]
上記強磁性六方晶フェライト粉末2.2質量部、樹脂A 1質量部、2,3−ジヒドロキシナフタレン0.13質量部をシクロヘキサノン3.3質量部、メチルエチルケトン4.9質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.1mmΦジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部を添加し、15時間分散させて磁性塗料3を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ35nmであった。
【0088】
[評価4]
樹脂A 1質量部を樹脂B 1質量部に変えた点以外は評価3と同様の方法で磁性塗料4を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ33nmであった。
【0089】
[評価5]
樹脂A 1質量部を樹脂C 1質量部に変えた点以外は評価3と同様の方法で磁性塗料5を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ33nmであった。
【0090】
[評価6]
樹脂A 1質量部を樹脂E 1質量部に変えた点以外は評価3と同様の方法で磁性塗料6を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ36nmであった。
【0091】
[評価7]
樹脂A 1質量部を樹脂F 1質量部に変えた点以外は評価3と同様の方法で磁性塗料7を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ36nmであった。
【0092】
[評価8]
樹脂A 1質量部を樹脂G(日本ゼオン社製塩化ビニル共重合体:MR104)1質量部に変えた点以外は評価1と同様の方法で磁性塗料8を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ91nmであった。
【0093】
[評価9]
樹脂A 1質量部を樹脂G 1質量部に変えた点以外は評価2と同様の方法で磁性塗料9を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ59nmであった。
【0094】
[評価10]
樹脂A 1質量部を樹脂G 1質量部に変えた点以外は評価3と同様の方法で磁性塗料10を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ44nmであった。
【0095】
以上の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示す結果から、本発明の極性基(スルホン酸塩基)含有ビニル系ポリマーは、当該極性基を有することで、これを持たないビニル系ポリマー(樹脂G)と比べて微粒子磁性体の分散性を高めることができ、カルボキシル基含有化合物またはフェノール系化合物を併用することで、より一層の分散性向上が達成されることが確認できる。なお上記実施例では第一液の調製に水酸化カリウムを使用したため、スルホン酸カリウムが導入されたビニル系ポリマーが得られるが、付加反応後に公知の方法で塩交換反応を行うことで、スルホン酸基やカリウム以外のカチオンを含むスルホン酸塩基を含有するビニル系ポリマーを得ることもできる。
また、前述の実施例に示したように、本発明の極性基含有ビニル系ポリマーは、塗布型磁気記録媒体の作製時に溶媒として汎用されるケトン系溶媒を含む反応系で得ることができ、また反応後には反応溶媒として併用したメタノールの残留が確認されなかった。したがって反応後の反応液は、溶媒除去等の後工程を経ることなく、磁気記録媒体結合剤組成物としてそのまま塗布型磁気記録媒体の作製に使用することができる。
【0098】
3.磁気記録媒体作製の実施例、比較例
【0099】
下記磁気記録媒体作製の実施例、比較例において、「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。
【0100】
[実施例7]
1.磁性層塗布液処方
強磁性板状六方晶フェライト粉末:100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:183kA/m(≒2300Oe)、板径:25nm、板状比:3
BET比表面積:80m2/g、σs:50A・m2/kg(50emu/g)
ポリエーテルポリウレタン樹脂:5部
官能基:SO3Na、官能基濃度180eq/t
樹脂溶液C:樹脂Cの固形分換算で10部
オレイン酸:2部
2,3−ジヒドロキシナフタレン:6部
α−Al23(粒子サイズ0.15μm):5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径:80nm):2部
カーボンブラック(粒子サイズ 20nm):2部
シクロヘキサノン:110部
メチルエチルケトン:100部
トルエン:100部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0101】
2.非磁性層塗布液処方
非磁性無機質粉体:85部
α−酸化鉄
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.15μm、タップ密度:0.8
針状比:7、BET比表面積:52m2/g、pH8、
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック:20部
DBP吸油量:120ml/100g、pH:8
BET比表面積:250m2/g、揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂:15部
(官能基SO3Na、官能基濃度180eq/t)
フェニルホスホン酸:3部
α−Al23(平均粒径0.2μm):10部
シクロヘキサノン:140部
メチルエチルケトン:170部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0102】
4.磁気テープの作製
上記磁性層塗布液処方および非磁性層塗布液処方のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、ジルコニアビ−ズ(Φ0.5mm)を用いたサンドミルで720分間分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を調製した。
厚み5μmのポリエチレンナフタレート製支持体に、上記非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、100℃で乾燥させた。形成した非磁性層上に上記磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.08μmになるようにウェットオンドライ塗布し、100℃で乾燥させた。この時、磁性層が未乾燥の状態で300mT(3000ガウス)の磁石で磁場配向を行った。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、70℃で24時間加熱硬化処理を行い1/2インチ幅にスリットし磁気テープを作製した。
【0103】
[比較例3]
磁性層形成に使用した樹脂溶液C(樹脂Cの固形分換算で10部)を樹脂G10部に変更した点以外は実施例7と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0104】
[比較例4]
磁性層形成に使用した樹脂溶液C(樹脂Cの固形分換算で10部)を樹脂G10部に変更するとともに、磁性層成分として下記参考例1で得たタウリンのカリウム塩(2−アミノエタンスルホン酸カリウム塩)を0.4部添加した点以外は実施例7と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0105】
[参考例1]
タウリン1.0質量部、水酸化カリウム0.5質量部をメタノール6.3質量部に添加し、1時間攪拌した。得られた溶液を濃縮乾固し、2−アミノエタンスルホン酸カリウム塩を得た。
【0106】
磁性層塗布液の分散性評価
(1)分散粒子径の測定
実施例7、比較例3および比較例4で調製した磁性層塗布液を一部採取し、前述の分散粒子径の測定方法により分散性を評価した。
【0107】
(2)角型比の測定
実施例7、比較例3および4で作製した磁性層塗布液中における強磁性粉末の分散性を評価するために、以下の方法で評価用磁性シートを作製した。
磁性層塗布面の中心線表面粗さが0.003μmで、厚さ5μmのポリエチレンナフタレート樹脂支持体上に、接着層としてスルホン酸含有ポリエステル樹脂を乾燥後の厚さが0.05μmになるようにコイルバーを用いて塗布した。
次いで、磁性層塗布液を、乾燥後の厚さが1.0μmになるように塗布し、0.4T(4000G)の磁力をもつソレノイドにより配向させ乾燥させた。次いで、金属ロールから構成される7段のカレンダーで温度100℃にて分速80m/minで処理を行い磁性シートを得た。
得られた磁性シートについて、試料振動磁力計(東英工業製VSM−P7)を用いて、強磁性粉末の配向方向に平行に外部磁場を印加したときの磁気特性を測定した。具体的には、外部磁場として797.7kA/m(10kOe)印加したときの磁化(飽和磁化)の値と、外部磁場がゼロの時の磁化(残留磁化)の比、すなわち角型比(SQ)を測定した。
SQは、強磁性粉末の分散性の指標として用いることができる。分散性が低いほどSQが低くなり、高いほどSQが高くなる。磁気記録媒体においてSQの値はノイズに影響し、1.0に近いほど好ましい。
【0108】
磁気テープの評価
実施例7、比較例3および4で得た磁気記録テープの磁性層表面について、原子間力顕微鏡AFM(Digital Instrument社製Nanoscope II)を用い、トンネル電流10nA、バイアス電流400mVで30μm×30μmの範囲を走査して表面粗さ(AFM−Ra)を求めた。
【0109】
以上の評価結果を、表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
表2における実施例7と比較例3との対比から、本発明の極性基(スルホン酸塩基)含有ビニル系ポリマーは、当該極性基を有することで、これを持たないビニル系ポリマー(樹脂G)と比べて微粒子磁性体の分散性を高めることができ、これにより表面平滑性に優れることで良好な電磁変換特性を発揮し得る磁気テープが得られることが示された。
なお比較例4は、ポリマーに対して極性基を導入する付加反応を行わず、磁性層成分としてスルホン酸塩基含有化合物を使用した例である。特開平5−65162号公報には、このようにスルホン酸塩基含有化合物を磁性層成分として使用することで、分散性を高めることができると記載されているが、表2に示すように分散性向上は達成されなかった。
【0112】
以上の結果から、本発明によれば微粒子磁性体の分散性を高めることで、優れた表面平滑性を有する磁気記録媒体が提供されることが示された。
【0113】
[参考例2]
タウリン(和光純薬製)1.0質量部、水酸化カリウム0.58質量部、水5.0質量部を混合し完全に溶解させた。アリルグリシジルエーテル(東京化成製)1.9質量部を添加した後、50℃に昇温し5時間攪拌した。
次いで、トルエン5質量部を添加し攪拌した後、静置し、水層を取り出した。得られた水層を濃縮乾固して得られた乾固物の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。なお、本参考例における1H NMRの測定には、400MHzのNMR(BRUKER社製AVANCEII−400)を使用した。
【0114】
1H NMR (D2O = 4.75 ppm) δ(ppm) = 2.65 (2H, m), 3.05 (2H, m), 3.52 (4H, m), 3.62 (4H, m), 3.95 (2H, m), 4.10 (4H, dd), 5.31(2H,d), 5.38(2H, d), 5.99(2H, m).
【0115】
【化2】

【0116】
参考例2で使用したアリルグリシジルエーテルについても、同様に1H NMR測定を行った。1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
【0117】
1H NMR (CDCl3=7.27ppm) δ(ppm)=2.62(1H, q), 2.81(1H, t), 3.17(1H, m), 3.41(1H, q), 3.73(1H, dd), 4.05(2H, m), 5.20(1H, dd), 5.29(1H, dd), 5.92(1H, m).
【0118】
【化3】

【0119】
上記参考例2により、特許文献1に記載の方法のようにエポキシ基含有モノマー(アリルグリシジルエーテル)に対して付加反応を行うと、2官能のビニル系モノマーが生成されることが確認された。このように2官能のビニル系モノマーを使用して重合反応を行うと多元架橋構造のビニル系ポリマーとなり反応制御が困難となることが懸念される。
これに対し本発明では、先に説明したようにポリマーに対して付加反応を行うため、反応制御の困難性なく、所望の極性基含有ビニル系ポリマーを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、高密度記録用磁気記録媒体の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウリン、N−メチルタウリン、およびメタアミノベンゼンスルホン酸からなる群から選択されるスルホン酸基含有化合物とアルカリ金属水酸化物とをメタノール中で反応させて得られた第一液と、分子内にエポキシ基を有するビニル系ポリマーをケトン系溶媒中に含む第二液とを混合することにより、前記ビニル系ポリマーの側鎖にスルホン酸アルカリ金属塩基を導入する付加反応を行うことを特徴とする、ビニル系ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記ビニル系ポリマーは塩化ビニル系ポリマーである、請求項1に記載のビニル系ポリマーの製造方法。
【請求項3】
分子内にエポキシ基を有するビニル系ポリマーにおけるエポキシ基含有量は、0.5〜10.0質量%の範囲である、請求項1または2に記載のビニル系ポリマーの製造方法。
【請求項4】
塩交換反応により、前記スルホン酸アルカリ金属塩基に含まれるアルカリ金属イオンをプロトンまたは他のカチオンに転換することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のビニル系ポリマーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られたスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマー。
【請求項6】
請求項5に記載のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを含むことを特徴とする、磁気記録媒体用結合剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法において前記付加反応後に溶媒除去工程を経ることなく得られた反応液である、請求項6に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
【請求項8】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、請求項5に記載のスルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーを結合剤の構成成分として含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層は、前記スルホン酸(塩)基含有ビニル系ポリマーとポリイソシアネートとの反応生成物を含む請求項8に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記磁性層は、カルボキシル基含有化合物を更に含む、請求項8または9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記カルボキシル基含有化合物はオレイン酸である、請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記磁性層は、フェノール系化合物を更に含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
前記フェノール系化合物は2,3−ジヒドロキシナフタレンである、請求項12に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
請求項6または7に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物を用いて磁性層形成用塗布液を調製すること、および
調製した磁気記録媒体形成用塗布液を用いて前記磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。

【公開番号】特開2012−241094(P2012−241094A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111767(P2011−111767)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】