説明

ビニル酢酸の製造方法、ビニル酢酸誘導体及びその製造方法

【課題】新規なビニル酢酸誘導体を提供する。異性体の少ない高純度のビニル酢酸及びビニル酢酸誘導体を効率よく製造する。
【解決手段】2−ブテン酸を水と混合し、水中での光反応による異性化で高選択的にビニル酢酸に転換、溶媒抽出、濃縮工程によりビニル酢酸を取得後、アルコール化合物とのエステル化反応により、新規の構造を含む種々のビニル酢酸エステルに誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル酢酸の製造方法、ビニル酢酸から誘導される新規なビニル酢酸誘導体及び2−ブテン酸からビニル酢酸を経由してビニル酢酸誘導体を合成するビニル酢酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビニル酢酸誘導体はポリマー原料や医薬中間体原料として多数知られている。ビニル酢酸とアルコール化合物がエステル結合したビニル酢酸誘導体は、アルコール部分の構造の違いにより、異なる特性が発揮され、多種の用途として利用できることが知られている。従って、新規なビニル酢酸誘導体を提供することにより、新たな機能性材料の提供が可能となる。
【0003】
これまでの2−ブテン酸からビニル酢酸を合成する方法として、(1)強塩基を用いてγ位の水素を引き抜き、生成するカルボアニオンのα位をプロトン化することにより脱共役体を得る手法(例えば、非特許文献1及び2参照。)、(2)熱異性化する方法(例えば、特許文献1及び非特許文献3参照。)、(3)有機溶媒存在下、光反応を用いる手法(例えば、非特許文献4〜7参照。)が知られている。
【0004】
また、上記に記載した2−ブテン酸を原料とする合成法以外に、(4)パラジウム触媒を用いアルコール溶媒中、アリルクロライドの一酸化炭素付加反応によりビニル酢酸エステルを合成し、加水分解によりビニル酢酸に誘導する方法(例えば、特許文献2及び3参照。)、(5)高圧条件の下で、パラジウム触媒を用いてアリルアルコールの一酸化炭素付加反応により、ビニル酢酸メチルとともにビニル酢酸アリルを製造する方法(例えば、特許文献4参照。)、(6)無機のスズ触媒を用いてビニルアセトニトリルを加水分解する方法(例えば、特許文献5参照。)、(7)触媒として二クロム酸塩と、過ヨウ素酸塩を用いて3−ブテン−1−オールを酸化する方法(例えば、特許文献6参照。)、(8)2−ブテン酸ハライドとアルコール性水酸基を持った化合物を第三アミンの存在下で反応させて、ビニル酢酸エステルにする方法(例えば、特許文献7参照。)が知られている。
【0005】
従来法では、以下に記載する課題点があり、工業的に適した方法ではなかった。
上記(1)の手法では、高価な塩基、脱水溶媒が必要なだけでなく、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の引火性の高い溶媒を使用する点で問題がある。
【0006】
方法(2)は、175℃以上の高温での反応を必要とし、ビニル酢酸、シス−2−ブテン酸、トランス−2−ブテン酸からなるビニル酢酸の純度の低い生成物の取得に留まる。蒸留、再結晶の精製法を用い、純度85%程度のビニル酢酸が得られているが、より高純度のビニル酢酸の収得が求められている。
【0007】
方法(3)は、高圧水銀ランプ等を光源として、反応溶媒として炭化水素、エステル、アルコール等の引火性の有機溶媒を使用した反応系、弱塩基を添加した反応系が使用されている。方法(3)の多くの合成例では、長い反応時間にも関わらず、2−ブテン酸からビニル酢酸を合成すると、シス−2−ブテン酸とビニル酢酸との混合物として反応生成物が得られる。そのため、蒸留により精製しなければならず、また、収率が低いという問題もある。
【0008】
一方、2−ブテン酸の低級アルコールエステル、例えば、2−ブテン酸メチルや2−ブテン酸エチルの光反応により対応するビニル酢酸エステルに転換する方法として、アルコ
ール系の溶媒やアセトンを増感剤として共存した反応系中での高い選択率で目的化合物を得る方法が知られている。しかしながら、アルコール部分が異なる2−ブテン酸エステルの一般的な合成法でなく、また、引火性の高い有機化合物を使用する点で問題がある。
【0009】
方法(4)、(5)では、高価な金属触媒を用い、特殊な反応器による高圧条件を必要とする他、ハロゲンを含む廃棄物が発生する等の問題点がある。
方法(6)では、工業的に入手が困難な原料を使用している。
方法(7)では、高価な原料を出発原料としている。
方法(8)では、高価な2−ブテン酸ハライドや、3級アミンを必要とする他、生成物中に、トランス−2−ブテン酸エステルやシス−2−ブテン酸エステルが数%含まれる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,539,624号明細書
【特許文献2】特開2002−249461号公報
【特許文献3】特開昭50−93664号公報
【特許文献4】特開平2−306930号公報
【特許文献5】特開昭54−103802号公報
【特許文献6】特表2003−520260号公報
【特許文献7】特開昭43−29924号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Pfefer.P.,J.Org.Chem.,1971,36,3290.
【非特許文献2】Krebs.E.P.Helv.Chim.Acta.1981.64.1023.
【非特許文献3】Martin B.Hocking Canadian Journalof Chemistry,1971,49,23,3807−14
【非特許文献4】Duhaime,R.M.;Lombardo,D.A.;Skinner,I.A.;Weedon,A. C.,J.Org.Chem.,1985,50,873〜879.
【非特許文献5】M.Itohら Tetrahedron,24,6591−6600(1968)
【非特許文献6】Rando,R.R.;Doering,W.von E.J.Org.Chem.,1968,33,1671〜1673.
【非特許文献7】工業化学雑誌,1969,72,1,219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ビニル酢酸を製造するに際し、従来法よりも簡便で高純度のビニル酢酸やその誘導体を高い収率で合成する方法を提供することを課題の一つとする。また本発明は、新規なビニル酢酸誘導体を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、2−ブテン酸を水と混合し光反応により異性化させて、ビニル酢酸を収率よく合成する方法と新規なビニル酢酸誘導体を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
[1] 2−ブテン酸を水中で光異性化させてビニル酢酸を製造する方法。
【0016】
[2] (a)工程:2−ブテン酸を水中で光異性化させてビニル酢酸を生成する工程、及び、(d)工程:得られたビニル酢酸と下記式(2−1)又は(2−2)で表されるアルコール化合物との脱水反応により下記式(1)又は(1−8)で表されるビニル酢酸誘導体を製造する工程、を含むビニル酢酸誘導体の製造方法。
【0017】
【化1】

【0018】
式(2−1)及び(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有してい
てもよい炭素数1〜8のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し
、nは1〜10の整数を示す。式(2−2)及び式(1−8)中、R3は炭素数1〜20
のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基、炭素数1〜15のハロゲン化アルキル基又は二重結合、酸素原子及び窒素原子の一以上を含む炭素数1〜22の炭化水素基を表す。
【0019】
[3] (b)工程:(a)工程で得られた反応液から生成物を有機溶媒で抽出する工程、及び、(c)工程:(b)工程で得られた抽出液から有機溶媒を留去して生成物を濃縮する工程、を(a)工程と(d)工程との間にさらに含むことを特徴とする[2]に記載のビニル酢酸誘導体の製造方法。
【0020】
[4] 前記有機溶媒として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチルを使用することを特徴とする[3]に記載のビニル酢酸誘導体の製造方法。
【0021】
[5] 下記式(1)で表されるビニル酢酸誘導体。
【0022】
【化2】

【0023】
式(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有していてもよい炭素数
2〜8のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜10
の整数を表す。
【0024】
[6] 前記式(1)で表されるビニル酢酸誘導体が、下記式(1−1)〜(1−7)から選ばれる一種である[5]に記載のビニル酢酸誘導体。
【0025】
【化3】

【0026】
式(1−1)〜(1−7)中、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜1
0の整数を表す。
【発明の効果】
【0027】
トランス−2−ブテン酸、シス−2−ブテン酸の含有量の少ない高純度のビニル酢酸、及びビニル酢酸エステル等のビニル酢酸誘導体を得る方法を提供することができる。ビニル酢酸及びビニル酢酸誘導体は機能性モノマー、医薬品、電子材料等の合成中間体として利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を詳細に説明する。まず、本発明のビニル酢酸の製造方法について説明する。本発明におけるビニル酢酸の製造方法では、2−ブテン酸を水中で光異性化させて
ビニル酢酸を製造する。
【0029】
本発明において用いられる2−ブテン酸は、市販品を使用することができる。着色の有るものは、予め再結晶により着色成分を除去するか、活性炭処理で着色成分を除去することが好ましい。本発明において用いられる2−ブテン酸としては、トランス−2−ブテン酸、シス−2−ブテン酸及びトランス−2−ブテン酸とシス−2−ブテン酸との混合物が挙げられる。
【0030】
光異性化反応では2−ブテン酸が水に溶解していることが好ましい。光異性化反応における水の量は、2−ブテン酸と混和する量であればよい。トランス−2−ブテン酸は、70℃未満で固体であり、また、シス−2−ブテン酸は、12℃未満で固体であるため、これら2−ブテン酸を溶解させる水の量であることが好ましい。2−ブテン酸が析出している場合、マイクロリアクターでは、反応管内での閉塞や光透過率の低減によって、光異性化反応を効率的に進行させることができないことがある。そのため、光異性化反応における2−ブテン酸の水中の濃度は、2−ブテン酸の溶解度以下であることが好ましい。光異性化反応における反応温度は0〜100℃であることが好ましく、操作性及び製造の安全面の観点から、20〜70℃であることがより好ましい。
【0031】
なお、本発明における光異性化反応は水中で行われるが、光異性化反応における反応溶媒である水は、高純度のビニル酢酸を高い収率で得るという本発明の利点が得られる範囲において、アルコールやアセトンのような水溶性有機溶媒、無機塩、酸、アルカリ等の水溶性成分や、コロイド等の非水溶性成分を含有していてもよい。本発明における反応媒体としての水には、水道水や工業用水をイオン交換膜に通して得られるイオン交換水や、蒸留により得られる蒸留水を使用することができる。
【0032】
2−ブテン酸と水との混和は、一般的な方法で実施することができる。例えば、攪拌機の付いたタンク型反応器に、精製水を加え2−ブテン酸を添加攪拌することで行うことができる。2−ブテン酸の水への溶解を速めるため、加熱、マイクロ波、超音波等の、溶解促進のための操作をさらに利用してもかまわない。
【0033】
本発明における光異性化反応は、2−ブテン酸が混和している水相、通常は2−ブテン酸の水溶液に、2−ブテン酸から3−ブテン酸への異性化を生じさせる光を照射することによって行うことができる。光異性化反応に用いる光源の波長は、200〜350nmであることが好ましく、特に、254nm近辺(200〜260nm)の短波長が本反応に有効である。光反応装置としては、例えば高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、DeepUV(登録商標)ランプ、LEDランプ、Rayonet Photochemical Reactor RPR 2547ランプ(Southern New England
Ultraviolet Company 製)等を使用することができる。光の照射方法は特に制限されないが、例えばランプを反応溶液中に設置する内部照射式や、反応溶液の外側に設置する外部照射式等が知られており、これらを利用することができる。
【0034】
光異性化反応における反応方式は特に制限されないが、バッチ式のような反応溶液を撹拌しながら反応を行う方式や、連続式のようなガラス及び石英製の管やセル内をポンプ等で送液して流通させる方式、マイクロリアクターを用いる方法等がある。
【0035】
光異性化反応は、通常大気圧下で行うが、必要に応じて減圧下、又は加圧下でも行うこともできる。そのため、反応温度等は、大気圧下(101325Pa)での温度である。光異性化の反応は、2−ブテン酸の水溶液を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いて、溶液中に溶解している酸素の除去するためのバブリングを行った後、不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。不活性ガスによる置換が不十分である場合、光異性化
反応の進行が遅くなる場合がある。
【0036】
本発明により、従来の光異性化反応に比べ反応時の重合を抑制することが可能になるが、ビニル酢酸が二重結合を有する重合性の化合物であり、製造時及び特に保存時に重合を防止する上で、一般に使用されている重合禁止剤を添加しておくことが望ましい。重合禁止剤としては、ヒドロキノン、BHT等のフェノール系の重合禁止剤、p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン等のアミン系重合禁止剤、フェノチアジン等のイオウ系の重合禁止剤等の種々の重合禁止剤が挙げられ、このような重合禁止剤を単独又は二種以上を併用して使用することができる。
【0037】
光異性化反応の終点は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーによる反応液中のビニル酢酸の濃度の測定より決めることができる。生成したビニル酢酸は、抽出、真空蒸留、共沸蒸留、アンモニウム塩等の塩に変換した後の晶析等、通常の分離精製技術を利用して反応水溶液から分離することができる。例えばビニル酢酸は、反応水溶液から有機溶媒で抽出することで分離することができる。抽出に使用する有機溶媒としては、エステル系の有機溶媒を使用できる。エステル系の有機溶媒としては、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、及び酢酸イソブチルが挙げられる。
【0038】
本発明のビニル酢酸誘導体の製造方法は、(a)2−ブテン酸を水中で光異性化させてビニル酢酸を生成する工程、及び、(d)得られたビニル酢酸と下記式(2−1)又は(2−2)で表されるアルコール化合物との脱水反応により下記式(1)又は(1−8)で表されるビニル酢酸誘導体を製造する工程、を含む。
【0039】
【化4】

【0040】
前記式(2−1)及び(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有し
ていてもよい炭素数1〜8のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜10のアルキル基を
表し、nは1〜10の整数を示す。式(2−2)及び式(1−8)中、R3は炭素数1〜
20のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基、炭素数1〜15のハロゲン化アルキル基、又は、二重結合、酸素原子及び窒素原子の一以上を含む炭素数1〜22の炭化水素基を表す。
【0041】
なお、本明細書において、アルキル基は、直鎖状、分枝状、及び環状のいずれであってもよい。アルキレン基は、直鎖状及び分枝状のいずれであってもよい。また、「二重結合、酸素原子、及び窒素原子の一以上を含む炭素数1〜22の炭化水素基(二重結合、酸素原子、及び窒素原子を2以上含む場合、二重結合、酸素原子、及び窒素原子のうち、同種が2以上含まれてもよいし、異種が2以上含まれてもよい)」としては、例えばシアノ基を含む炭化水素基、アセトキシ基を含む炭化水素基、ラクトンを含む炭化水素基、一以上の二重結合を含む鎖状及び環状の炭化水素基が挙げられ、より具体的には、シアノエチル基、アセトキシエチル基、γ−ブチロラクトニルオキシ基、プロペニル基、ブテニル基、シクロアルキルアルケニル基、ビシクロアルキルアルケニル基、等が挙げられる。
【0042】
前記(a)工程は、前述した本発明のビニル酢酸の製造方法と同様に行うことができる。
【0043】
(a)工程で得られるビニル酢酸の水溶液は、水溶液からのビニル酢酸の分離工程を省略する観点から、そのまま(d)工程におけるエステル化の原料として用いてもよいが、ビニル酢酸誘導体の製造効率の向上の観点から、前記水溶液からビニル酢酸を分離して(d)工程におけるエステル化の原料として用いることがより好ましい。本発明のビニル酢酸誘導体の製造方法では、(a)工程で得られた反応液から生成物を有機溶媒で抽出する(b)工程、及び、(b)工程で得られた抽出液から有機溶媒を留去して生成物を濃縮する(c)工程、を(a)工程と(d)工程との間にさらに含むことが好ましい。
【0044】
(b)工程、すなわち水溶液からのビニル酢酸の抽出は、本発明のビニル酢酸の製造方法における抽出で前述したように、一般的な方法で実施することができる。抽出用の有機溶媒と反応生成液との比率は、有機溶媒へのビニル酢酸の溶解度及び量によって決めることができる。ビニル酢酸に対して有機溶媒が高い溶解度で、水に対する溶媒度が低い場合、有機溶媒の使用量は少なくすることができる。反対に、ビニル酢酸に対して有機溶媒が低い溶解度で水に対して溶媒度が高い場合、多くの有機溶媒が必要となる。ビニル酢酸は、水への溶解度が高いため、抽出はバッチによる抽出を複数回行う方法や、連続抽出塔を用いた方法が有効である。反応液中に溶解しているビニル酢酸に対して、有機溶媒は、一般的に5〜20倍の量(体積)を使用することで、ビニル酢酸を抽出することができる。
【0045】
抽出を行う温度は0〜100℃から選ぶことができ、好ましくは10〜70℃である。(b)工程は、通常、反応器から反応液を抜き出し、この反応液に抽出用の有機溶媒を加え、i)攪拌や混合、ii)静置、及び、iii)有機相又は水相の抜き出し、の操作で行うことができる。
【0046】
有機溶媒は、一般に引火性のある危険物であるため、一般的に行われる安全対策が必要である。例えば、爆発範囲を外すように、窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換された雰囲気での実施が好ましい。
【0047】
抽出をより効果的に行うためには、光反応終了後の反応液に、例えば、食塩、硫酸ナトリム等のビニル酢酸と反応しない無機塩を加えた後、有機溶媒で抽出する方法が有効である。
【0048】
(c)工程では、ビニル酢酸は抽出液を減圧下で濃縮することで行うことができることから、このような操作により、ビニル酢酸を、高い純度を保持したまま取得することができる。濃縮方法として、真空蒸留装置、薄膜蒸留装置、ローターリーエバポレーター等の通常使用される濃縮装置を使用することができる。真空蒸留装置の段数は、使用する抽出溶媒と目的物の沸点差によるが、通常1〜50段の精留が用いられる。蒸留時の熱履歴を
少なくできる薄膜蒸留は有効である。
【0049】
ビニル酢酸は反応性が高く、かつ容易に重合が起こるため、抽出液の濃縮は減圧下での実施が好ましい。抽出液の濃縮は、通常、反応釜温度80℃以下での実施が好ましい。
【0050】
なお、(b)工程の抽出用の有機溶媒に後述の共沸剤を使用する場合は、(b)工程で得られた抽出液を(c)工程において適当な濃度まで部分的に濃縮して用いてもよいし、(c)工程を省略し、(b)工程で得られた抽出液をそのまま(d)工程における原料として用いてもよい。
【0051】
次に(d)工程、すなわちエステル化によるビニル酢酸誘導体の合成について説明する。
(d)工程は、ビニル酢酸と前記式(2−1)又は(2−2)で表されるアルコール化合物との脱水反応により前記式(1)又は(1−8)で表されるビニル酢酸誘導体を製造する。(d)工程は、原料にビニル酢酸を用いる以外は、重合性二重結合を有するカルボン酸系化合物とアルコール化合物とを脱水縮合させ、また反応系内で共沸剤を用いて生じた水を除きながら行う通常のエステル化反応によって行うことができる。このような(d)工程は、通常のエステル化反応と同様に、酸触媒の存在下で行うことができる。
【0052】
本発明でビニル酢酸誘導体の合成には、反応蒸留装置や、Dean−Starkトラップ管を付けた反応器を用いることができる。
【0053】
本発明では、反応系外へ水を除去するため共沸剤としては、エステル化反応において不活性であり、かつ水と共沸する有機溶媒が用いられ、例えばトルエン、エチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン等が用いられる。共沸剤の使用量は、ビニル酢酸に対して、重量比で0.1〜20であることが好ましく、0.5〜10であることがより好ましい。共沸剤の使用量がビニル酢酸に対する重量比で0.1以上であると、共沸剤としての働きが十分であり、ビニル酢酸の加熱による純度低下が生じにくい。また、共沸剤の使用量がビニル酢酸に対する重量比で20以下であると、反応釜効率の低下による生産性の悪化が発生しにくい。
【0054】
本発明で使用できる酸触媒としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、スルホン基を含有するイオン交換樹脂、硫酸、リン酸等の鉱酸(無機酸)が挙げられる。特に、反応性と取扱性の観点から、酸触媒はp−トルエンスルホン酸が好ましい。酸触媒の使用量は、ビニル酢酸に対して、0.05〜20モル%であることが好ましく、1〜10モル%であることがより好ましい。
【0055】
本発明において、ビニル酢酸とアルコール化合物のモル比は、1:1〜1:2であることが好ましく、1:1.2〜1:1.5であることがより好ましい。アルコール化合物としては、前記式(2−1)や(2−2)で表されるアルコール化合物を使用することができる。
【0056】
前記式(2−1)で表されるアルコール化合物としては、例えば、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−n−プロポキシ−2−プロパノール、1−n−ブトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、3−エトキシプロパノール、3−プロポキシプロパノール、3−ブトキシプロパノール、3−メトキシブタノール、3−エトキシブタノール、3−プロポキシブタノール、3−ブトキシブタノール、4−メトキシブタノール、4−エトキシブタノール、4−n−プロポキシブタノール、4−n−ブトキシブタノール、5−メトキシペンタノール、5−エトキシペンタノール、5−n−プロポキシペンタノール、5−n−ブトキシペンタノール、6−メトキシヘキヘキサノール、6−エトキシヘキサノール、6−n−プロポキシヘキサノール、6−n−ブトキシヘキサノール及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0057】
前記式(2−2)で表されるアルコール化合物としては、例えば、脂肪族アルコールや芳香族炭化水素を含むアルコール、ハロゲン化アルキルを含むアルコール、分子内に酸素又は窒素を含むアルコール及び分子内に二重結合を含むアルコールが挙げられる。
【0058】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、i−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、シクロへキシル、シクロヘキシルメタノール、n−オクチルアルコール、ペンタデシル、ヘキサデシル、ビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オール、2−メチルトリシクロ[3.3.1.13,7]デカン−2−オール、3−(t−ブチル)シクロヘキサノール、トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン−1−オール、1,2−プロピレングリコール、1,2−エチレングリコール及びトリメチロールブタンが挙げられる。
【0059】
芳香族炭化水素を含むアルコールとしては、例えばベンジルアルコール、フェノール、ジフェニルメタノール及び4−クロロフェノール等が挙げられる。
【0060】
ハロゲン化アルキルを含むアルコールとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエタノール、2−クロロエタノール,12,12−ジフルオロ−11,11−ドデカノール、トリフルオロメタノール、ジクロロメチルアルコール、トリクロロメタノール、4−クロロブチルタノール及び4−ブロモブタノールが挙げられる。
【0061】
分子内に酸素又は窒素を含むアルコールとしては、例えば、2−シアノエタノール、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、1−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、及びアセトキシエタノールが挙げられる。
【0062】
分子内に二重結合を含むアルコールとしては、例えば、1−メチル−3−ブテン−1−オール、2−シクロヘキセン−1−オール、(2E)−2−ブテン−1−オール、1,1−ジメチル−2−プロペン−1−オール、2−メチレンヘプタノール、(2E,6Z)−2,6−ノナジエノール、(2E)−2−ヘキセノール、1−エチニル−3−ブテン−1−オール、1−(2−フェニルエチル)−3−ブテン−1−オール、1−エチニル−2−プロペニル−1−オール、1−メチル−2−プロペニル−1−オール、(3Z)−ヘキセノール、10−ウンデセノール、2,4−ペンタジエノール、5−ヘキセノール、3,7−ジメチル−2,6−オクタジエノール、(3Z)−ウンデセノール、1−メチレンブタノール、2,4−ヘキサジエノール、2−メチル−2−プロペノール、3−ブテノール、2−プロペニルオキシメタノール、2−ブテノール、3−ペンテノール、8(9)−ヒドロキシトリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デク−3−エン及びフェノールが挙げられる。
【0063】
前記式(1−8)で表されるエステル化合物としては、例えば、3−ブテン酸のエステルにおける、アルコキシ基の部分にアルキル基を含むエステル、アルコキシ基の部分に芳香族炭化水素を含むエステル、アルコキシ基の部分にハロゲン化アルキルを含むエステル、及び、アルコキシ基の部分に酸素や窒素を含むエステルが挙げられる。
【0064】
前記アルコキシ基の部分にアルキル基を含むエステルとしては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、i−プロピルエステル、n−ブチルエステル、s−ブチルエステル、i−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、i−ペンチルエ
ステル、n−ヘキシルエステル、シクロへキシルエステル、シクロヘキシルメチルエステル、n−オクチルエステル、ペンタデシルエステル、ヘキサデシルエステル、ビシクロ[3.3.1]ノナン−9−イル エステル、2−メチルトリシクロ[3.3.1.13,7]デク−2−イル エステル、3a,4,5,6,7,7a−ヘキサヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン−6−イル エステル、3−(t−ブチル)シクロヘキシルエステル、1,2−プロピレングリコールジエステル、1,2−エチレングリコールジエステル及びトリメチロールブタントリエステルが挙げられる。
【0065】
前記アルコキシ基の部分に芳香族炭化水素を含むエステルとしては、例えば、ベンジルエステル、フェニルエステル、ジフェニルメチルエステル及び4−クロロフェニルエステルが挙げられる。
【0066】
前記アルコキシ基の部分にハロゲン化アルキルを含むエステルとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルエステル、2−クロロエチルエステル,12,12−ジフルオロ−11,11−ドデシルエステル、トリフルオロメチルエステル、ジクロロメチルエステル、トリクロロメチルエステル、4−クロロブチルエステル及び4−ブロモブチルエステルが挙げられる。
【0067】
前記アルコキシ基の部分に酸素や窒素を含むビニル酢酸エステルとしては、例えば、2−シアノエチルエステル、γ−ブチロラクトン−2−オキシエステル、2−メトキシエチルエステル、2−エトキシエチルエステル及びアセトキシエチルエステルが挙げられる。
【0068】
なお、例示した化合物は一例であり、これに本発明が限定されるものではない。
【0069】
前記式(1)のビニル酢酸エステルのうち、R1のアルキレン基の炭素数が3〜8であ
るビニル酢酸エステルは、本発明のビニル酢酸誘導体である。このようなビニル酢酸エステルとしては、例えば下記式(1−1)〜(1−7)で表される誘導体が挙げられる。
【0070】
【化5】

【0071】
式(1−1)〜(1−7)中、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜1
0の整数を表す。なお、式(1−1)及び(1−3)において、括弧は、式中のメチル基が結合する炭素原子を括るものであり、メチル基は括弧内の炭素原子のいずれかに結合していることを示す。
【0072】
1が炭素数3のアルキル基である化合物(1)としては、nが1である前記式(1−
1)又は(1−2)が挙げられる。R1が炭素数4のアルキル基である化合物(1)とし
ては、例えば、前記式(1−3)又は(1−4)で表される化合物が挙げられる。R1
炭素数5のアルキル基である化合物(1)としては、前記式(1−5)で表される化合物が挙げられる。R1が炭素数6のアルキル基である化合物(1)としては、前記式(1−
6)で表される化合物が挙げられる。また、R1が炭素数7のアルキル基である化合物(
1)としては、前記式(1−7)で表される化合物が挙げられる。
【0073】
nが1である式(1−1)で表される化合物としては、例えば、1−メトキシ−2−プロピル−3−ブテノエート、1−エトキシ−2−プロピル−3−ブテノエート、1−n−プロポキシ−2−プロピル−3−ブテノエート及び1−n−ブトキシ−2−プロピル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0074】
式(1−2)で表される化合物としては、例えば、3−メトキシプロピル−3−ブテノエート、3−エトキシプロピル−3−ブテノエート、3−プロポキシプロピル−3−ブテノエート及び3−ブトキシプロピル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0075】
式(1−3)で表される化合物としては、例えば、3−メトキシブチル−3−ブテノエート、3−エトキシブチル−3−ブテノエート、3−プロポキシブチル−3−ブテノエート及び3−ブトキシブチル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0076】
式(1−4)で表される化合物としては、例えば、4−メトキシブチル−3−ブテノエート、4−エトキシブチル−3−ブテノエート、4−n−プロポキシブチル−3−ブテノエート及び4−n−ブトキシブチル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0077】
式(1−5)で表される化合物としては、例えば、5−メトキシペンチル−3−ブテノエート、5−エトキシペンチル−3−ブテノエート、5−n−プロポキシペンチル−3−ブテノエート及び5−n−ブトキシペンチル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0078】
式(1−6)で表される化合物としては、例えば、6−メトキシヘキシル−3−ブテノエート、6−エトキシヘキシル−3−ブテノエート、6−n−プロポキシヘキシル−3−ブテノエート及び6−n−ブトキシヘキシル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0079】
式(1−7)で表される化合物としては、例えば、7−メトキシヘプチル−3−ブテノエート、7−エトキシヘプチル−3−ブテノエート、7−n−プロポキシヘプチル−3−ブテノエート及び7−n−ブトキシヘプチル−3−ブテノエートが挙げられる。
【0080】
なお、R1の取り得る構造として、式(1−1)〜(1−7)を前述したが、こちらに
記載された事項に本発明が限定されるものではない。
【0081】
前述の説明から明らかなように、本発明によれば、以下の式に示すように、2−ブテン酸の水中での光異性化により高効率及び高純度でビニル酢酸(式(1−0))を得ることができ、さらにエステル化反応を行うことによって式(1)又は(1−8)で表されるビニル酢酸誘導体(ビニル酢酸エステル)を得ることができる。
【0082】
【化6】

【実施例】
【0083】
以下の実施例及び比較例において、用いた装置、測定条件及び測定方法は次のとおりである。
・日本電子(株)製の核磁気共鳴装置「Delta ECA 500 (500MHz)」を用い、テトラメチルシランを内部標準として、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴ス
ペクトル)を測定した。
・ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製GC−2014ガスクロマトグラフ)を用い、反応の追跡を行った。(株)島津ジーエルシー製キャピラリーカラム「CBP−10(25m)」を使用し、カラム温度は95℃とした。なお、ガスクロマトグラフィーで測定した純度(%)や含有率(%)は、特に断らない限り、クロマトチャートの面積の百分率である。
・光反応装置として、Southern New England Ultraviolet Company製Rayonet Photochemical Reactor
型番RPR−2547A(254nmランプ)又は石井400W 高圧水銀灯(石英水冷管)を用いた。
・沸点(bp)は、減圧蒸留において温度計によって測定した、蒸留器の流出部分の温度である。なお減圧蒸留における減圧度はマノメーターで測定した。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例では、和光純薬工業株式会社製の蒸留水を使用した。
【0084】
(実施例1)
ビニル酢酸の合成
スターラーバー(攪拌子)を入れた500mLの三角フラスコに蒸留水300mL、トランス−2−ブテン酸(4.33g、50mmol)を投入し、マグネチックスターラーで攪拌しながらアルゴンガスで20分間バブリングを行い、脱気を行った。アルゴンガスを充填したテトラーバックで密封した400W高圧水銀灯(石井)に脱気したトランス−2−ブテン酸の水溶液を仕込み、冷却水で反応器内の温度を25℃以下に保ちながら、光を照射した。ガスクロマトグラフィーの分析で8時間の照射によりトランス−2−ブテン酸は完全に消失し、ビニル酢酸が生成していた。光反応装置のランプ水冷管の外壁には、重合物の付着は見られず、反応液の着色はなかった。
【0085】
反応器より反応水溶液を取りだし、酢酸エチル30mLで四回抽出を行った。酢酸エチル抽出液をエバポレーターで真空濃縮し、無色透明のビニル酢酸を4.3g得た。ガスクロマトグラフィーで分析を行ったところ、純度は99.9%であった。
【0086】
(実施例2)
1−メトキシ−2−プロピル−3−ブテノエートの合成
ジムロート型還流冷却管、Dean−Starkトラップ管、窒素導入管を取り付けた100mLの二口フラスコに実施例1で合成したビニル酢酸(式(1−0)、7.75g、90mmol)、1−メトキシ−2−プロパノール(9.74g、108mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物(0.86g、4.5mmol)及びトルエン(35mL)を加えた。前記二口フラスコを油浴に浸し、油浴の温度を130℃まで昇温させた。同温度を維持しながら窒素気流下で4時間撹拌して副生した水を留去した。二口フラスコを室温(25℃)まで冷却し、飽和重曹水(10mL)で3回洗浄し、さらに蒸留水(10mL)で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、減圧濃縮した。得られた濃縮残渣を日本理化学機械(株)製のセミミクロ分留装置を用いて減圧蒸留して化合物(1−1a)(1−メトキシ−2−プロピル−3−ブテノエート)を単離した(10.40g、収率73%)。得られた化合物(1−1a)の物性を以下に示す。
bp:38〜39℃/3mmHg
1H NMR(CDCl3)δ(ppm):1.24(3H,d)、3.10(2H,td)、3.37(3H,s)、3.43(2H,dq)、5.10(1H,m)、5.15−5.19(2H,m)、5.93(1H,m)
【0087】
【化7】

【0088】
(実施例3)
3−メトキシ−1−ブチル−3−ブテノエートの合成
ジムロート型還流冷却管、Dean−Starkトラップ管、窒素導入管を取り付けた100mLの二口フラスコに実施例1で合成したビニル酢酸(式(1−0)、7.75g、90mmol)、3−メトキシ−1−ブタノール(9.37g、90mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物(0.86g、4.5mmol)及びトルエン(35mL)を加えた。前記二口フラスコを油浴に浸し、油浴の温度を130℃まで昇温した。同温度を維持しながら窒素気流下で4時間撹拌して副生した水を留去した。二口フラスコを室温(25℃)まで冷却し、飽和重曹水(10mL)で3回洗浄し、さらに蒸留水(10mL)で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、減圧濃縮した。得られた濃縮残渣を実施例2と同様に減圧蒸留して化合物(1−2a)(3−メトキシ−1−ブチル−3−ブテノエート)を単離した(12.33g、収率80%)。得られた化合物(1−2a)の物性を以下に示す。
bp:53〜54℃/3mmHg
1H NMR(CDCl3)δ(ppm):1.17(3H,d)、1.79(2H,m)、3.09(2H,td)、3.32(3H,s)、3.41(1H,m)、4.19(2H,t)、5.15−5.19(2H,m)、5.93(1H,m)
【0089】
【化8】

【0090】
(実施例4)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルの3−ブテン酸エスエルの合成
ジムロート型還流冷却管、Dean−Starkトラップ管、窒素導入管を取り付けた100mLの二口フラスコに、下記式(20)で表されるジプロピレングリコールモノメチルエーテル(異性体あり)(7.41g、50mmol)、実施例1で合成したビニル酢酸(式(1−0)、4.74g、55mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物(0.48g、2.5mmol)及びトルエン(35mL)を加えた。前記二口フラスコを油浴に浸し、油浴の温度を130℃まで昇温した。同温度を維持しながら窒素気流下で4時間撹拌して副生した水を留去した。二口フラスコを室温(25℃)まで冷却し、5重量%炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)で2回洗浄し、さらに蒸留水(10mL)で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、実施例2と同様に減圧濃縮した。得られた濃縮残渣を減圧蒸留精製し、化合物(1−1b)を単離した(10.57g、収率98%)。得られた化合物(1−1b)の物性を以下に示す。
bp:84〜86℃/4mmHg
1H NMR(CDCl3)δ(ppm):1.13(3H,m)、1.23(3H,m)、3.09(2H,m)、3.29−3.46(9H)、5.06(1H)、5.15−5.18(2H)、5.93(1H,m)
【0091】
【化9】

【0092】
(実施例5)
ベンジル−3−ブテノエートの合成
ジムロート型還流冷却管、Dean−Starkトラップ管、窒素導入管を取り付けた100mLの二口フラスコに実施例1で合成したビニル酢酸(式(1−0)、7.75g、90mmol)、ベンジルアルコール(8.11g、75mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物(0.71g、3.7mmol)及びトルエン(32mL)を加えた。前記二口フラスコを油浴に浸し、油浴の温度を130℃まで昇温した。同温度を維持しながら窒素気流下で4時間撹拌して副生した水を留去した。二口フラスコを室温(25℃)まで冷却し、飽和重曹水(10mL)で4回洗浄し、さらに蒸留水(10mL)で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去後、減圧濃縮した。得られた濃縮残渣を実施例2と同様に減圧蒸留して化合物(1−7a)(ベンジル−3−ブテノエート)を単離した(10.12g、収率77%)。得られた化合物(1−7a)の物性を以下に示す。
bp:88〜89℃/4mmHg
1H NMR(CDCl3)δ(ppm):3.15(2H,td)、5.14(2H,s)、5.15−5.20(2H,m)、5.94(1H,m)、7.30−7.38(5H,m)
【0093】
【化10】

【0094】
(比較例1)
石英試験管(2.2×25cm)中にトランス−2−ブテン酸(4.3g、50mmol)の酢酸エチル(60mL)溶液にアルゴンガスを15分間導通し、その後シリコンゴム栓で密栓し、光反応装置(Southern New England Ultraviolet Company製Rayonet Photochemical Reactor 型番RPR−2547A(254nmランプ))で66時間照射した。常圧下、溶媒である酢酸エチルを留去し、黄色く着色した粗ビニル酢酸を得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、96%がビニル酢酸であり、トランス−2−ブテン酸が1%、シス−2−ブテン酸が2%含有されていた。粗ビニル酢酸を減圧下で蒸留し、ビニル酢酸(3.3g、収率76%)を無色油状物(bp:100℃(bath temp.)/20mmHg)として得た。同時に、淡褐色粘稠な油状残査1.2gを得た。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、高純度のビニル酢酸を製造することができ、かつ新規なビニル酢酸誘導体や、ビニル酢酸エステルを提供することができる。ビニル酢酸及びビニル酢酸誘導体は、機能性モノマー、医薬品、電子材料等の合成中間体として利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ブテン酸を水中で光異性化させてビニル酢酸を製造する方法。
【請求項2】
(a)工程:2−ブテン酸を水中で光異性化させてビニル酢酸を生成する工程、及び、(d)工程:得られたビニル酢酸と下記式(2−1)又は(2−2)で表されるアルコール化合物との脱水反応により下記式(1)又は(1−8)で表されるビニル酢酸誘導体を製造する工程、を含むビニル酢酸誘導体の製造方法。
【化1】

(式(2−1)及び(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有してい
てもよい炭素数1〜8のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し
、nは1〜10の整数を示す。式(2−2)及び式(1−8)中、R3は炭素数1〜20
のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基、炭素数1〜15のハロゲン化アルキル基、又は、二重結合、酸素原子、及び窒素原子の一以上を含む炭素数1〜22の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
(b)工程:(a)工程で得られた反応液から生成物を有機溶媒で抽出する工程、及び、(c)工程:(b)工程で得られた抽出液から有機溶媒を留去して生成物を濃縮する工程、を(a)工程と(d)工程との間にさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のビニル酢酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチルを使用することを特徴とする請求項3に記載のビニル酢酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
下記式(1)で表されるビニル酢酸誘導体。
【化2】

(式(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有していてもよい炭素数
2〜8のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜10
の整数を表す。)
【請求項6】
前記式(1)で表されるビニル酢酸誘導体が、下記式(1−1)〜(1−7)から選ばれる一種である請求項5に記載のビニル酢酸誘導体。
【化3】

(式(1−1)〜(1−7)中、R2は炭素数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜1
0の整数を表す。)

【公開番号】特開2013−43840(P2013−43840A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180970(P2011−180970)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】