説明

ビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置

【課題】本発明は、対象設備の性能を向上させる制御パラメーターや後付オプション機器の推薦が可能な設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置は、稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータに基づいて推薦対象ビル設備における制御パラメーターの変更値や追加のオプション機器を推薦候補として抽出するパラメーター・機器推薦候補抽出部7と、推薦候補と、推薦対象ビル設備の稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータとに基づいて推薦対象ビル設備に対して推薦対象を適用した場合におけるシミュレーションによる評価を行うシミュレーション評価部8と、評価結果判断部9にて推薦候補を推薦すると判断された場合に当該推薦候補を出力する推薦結果出力部10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターや空調機器、セキュリティシステム、太陽光発電などの保守を伴うビル設備における制御装置のパラメーターの設定や、当該パラメーターや設備稼働中に後から追加する後付オプション機器を設備所有者(ユーザー)に対して推薦するビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターなどのビル設備において、当該設備のパラメーター(以下、制御パラメーターとも称する)や後付オプション機器(付加機器)が複数存在する場合、設備のより良い運用を行なうためには、設備の利用状況や設置環境に合わせて、制御パラメーターの設定や後付オプション機器を追加して機能を強化することが必要となる。しかし、制御パラメーターは、工場出荷状態において、一般的な状況を想定して設定されているか、あるいは様々な状況において不具合が生じないように設定されることが多い。また、後付オプション機器についても、一般的な状況を想定して、あるいは機器導入決定権者の意向を踏まえた上で、最低限のものしか付加されていない場合が多い。しかし、より良い運用を行なうための評価基準は、多様である場合が一般的である。
【0003】
例えば、エレベーターを例に挙げれば、待ち時間という運行効率に関する基準がある一方で、使いやすさや利用者に対する優しさというユーザビリティに関する基準や、セキュリティ性、省エネ性能などに関する基準など多様な基準がある。このような基準の個々の値を向上させるための対策として、制御パラメーターの調整や後付オプション機器が用意されているが、調整や導入コストに制約があるだけでなく、制御パラメーターの調整や後付オプション機器の付加によって、ある基準は向上するが他の基準が悪化するようなこともあり、複数の基準の変化具合や導入コストのバランスを図りながら制御パラメーターや後付オプション機器を決定する必要がある。また、複数の基準間における優先度についても、社会環境等の外部因子や、機器が設置されている場所、例えば、ビルなどの種別(例えば、オフィス、マンション、商業施設、あるいは工場)等の静的因子や、設備の稼働状況等の動的因子などに基づいて決定されるが、上記の各因子が明らかでない場合が多い。従って、上記の各因子を考慮した上で、制御パラメーターや付加機器の導入、調整決定を行なう必要がある。
【0004】
従来では、エレベーター制御装置にWWW通信ソフトウェアを備え、エレベーター制御ソフトウェアの仕様を変更するサービスを、インターネットに接続可能な通信端末機器から可能とするシステムがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ビル毎に入力されたビルデータを集め、集められたビルデータに基づくデータ分析結果からビル設備の最適運用データを抽出して各ビルに対して活用するために、各ビル設備の保守データを収集する収集手段と、収集されたデータを分析する分析手段と、分析結果を提供する提供手段とを備えており、リプレース時期の推奨時期として平均値を示す機能を有するシステムがある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、機器が故障した時の当該故障に至るまでの履歴データの変化の傾向を解析し、その解析結果から同種の機器の計測データの履歴変化を監視することによって故障の予知を行うとともに、FTA(フォールトトレラントツリー)を用いて、故障箇所の発見などを行う機能を有する装置がある(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、複数のビル内設備群に設置された昇降機の稼動履歴から、診断対象となるビル内設備群に設置された昇降機およびビル内設備の稼動状態の診断を行う機能を有する装置がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−182946号公報
【特許文献2】特開2004−94299号公報
【特許文献3】特開2004−133553号公報
【特許文献4】特開2006−143359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、仕様の変更をインターネット上の端末によって可能としているだけであり、どのように仕様を変更すべきかを提示する機能は備えていない。
【0010】
また、特許文献2では、データの分析結果を提示するだけであり、制御パラメーターの変更や後付オプション機器の推奨機能は備えていない。また、推奨内容を適用した場合の効果を推定する機能も備えていない。
【0011】
また、特許文献3では、故障の予知や故障箇所の発見機能は備えているが、制御パラメーターの変更や後付オプション機器の推奨機能は備えていない。
【0012】
また、特許文献4では、稼動状態の診断は行うが、制御パラメーターの変更や後付オプション機器の推奨機能は備えていない。
【0013】
このように、従来では、他のビルでの利用(運用)状況を反映したデータ分析を行っているが、制御パラメーターの変更や後付オプション機器の推奨機能は備えていなかった。また、仮に上記データ分析によって得られた制御パラメーターや後付オプション機器を対象ビル設備に適用したとしても、当該対象ビル設備の性能が向上することは保障されない。
【0014】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、対象ビル設備の性能を向上させる制御パラメーターや後付オプション機器の推薦が可能なビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明によるビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置は、複数のビル設備の稼動履歴データを蓄積する稼動履歴データ蓄積部と、ビル設備の設置状況の情報であるビル設備状況データを蓄積するビル設備状況データ蓄積部と、ビル設備の制御パラメーターとオプション機器の情報とを含むビル設備パラメーターオプションデータを蓄積するビル設備パラメーターオプションデータ蓄積部と、稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータに基づいて、推薦対象ビル設備における制御パラメーターの変更値や追加のオプション機器を推薦候補として抽出するパラメーター・機器推薦候補抽出部と、推薦候補と、推薦対象ビル設備の稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータとに基づいて、推薦対象ビル設備に対して推薦対象を適用した場合におけるシミュレーションによる評価を行うシミュレーション評価部と、シミュレーション評価部での評価の結果に基づいて、推薦候補を推薦するか否かの判断を行う評価結果判断部と、評価結果判断部にて推薦候補を推薦すると判断された場合に、当該推薦候補を出力する推薦結果出力部とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、複数のビル設備の稼動履歴データを蓄積する稼動履歴データ蓄積部と、ビル設備の設置状況の情報であるビル設備状況データを蓄積するビル設備状況データ蓄積部と、ビル設備の制御パラメーターとオプション機器の情報とを含むビル設備パラメーターオプションデータを蓄積するビル設備パラメーターオプションデータ蓄積部と、稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータに基づいて、推薦対象ビル設備における制御パラメーターの変更値や追加のオプション機器を推薦候補として抽出するパラメーター・機器推薦候補抽出部と、推薦候補と、推薦対象ビル設備の稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータとに基づいて、推薦対象ビル設備に対して推薦対象を適用した場合におけるシミュレーションによる評価を行うシミュレーション評価部と、シミュレーション評価部での評価の結果に基づいて、推薦候補を推薦するか否かの判断を行う評価結果判断部と、評価結果判断部にて推薦候補を推薦すると判断された場合に、当該推薦候補を出力する推薦結果出力部とを備えるため、対象ビル設備の性能を向上させる制御パラメーターや後付オプション機器の推薦が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態によるビル設備における制御パラメーターおよび後付オプション機器の推薦装置の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部における協調フィルタリングの入力テーブルの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部におけるパラメーターおよびオプションの推薦候補の抽出動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部におけるパラメーターおよびオプションの推定動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部におけるパラメーターおよびオプションの推薦候補抽出の修正動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部におけるパラメーターおよびオプションの再推定動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態によるビル設備における制御パラメーターおよび後付オプション機器の推薦装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面に基づいて以下に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態によるビル設備における制御パラメーターおよび後付オプション機器の推薦装置1の構成の一例を示す図である。図1において、エレベーター設備2−1〜2−N(以下、単にエレベーター設備2とも称する)は、推薦装置1と同一または異なるビルに設置されている。ここで、Nは推薦装置1が対象とするエレベーター2の数を示している。なお、本実施形態では、対象のビル設備としてエレベーターを例に説明するが、エレベーター以外のビル設備であってもよい。
【0020】
まず、推薦装置1の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態による推薦装置1は、移動履歴受信部3と、稼動履歴データ蓄積部4と、ビル設備状況データ蓄積部5と、ビル設備パラメーターオプション蓄積部6と、パラメーター・機器推薦候補抽出部7、シミュレーション評価部8と、評価結果判断部9と、推薦候補抽出条件修正部10と、推薦結果出力部11と、推薦結果要求部12とを備えている。
【0022】
稼動履歴受信部3は、エレベーター設備2(ビル設備)とインターネットや電話回線などを介して通信可能に接続されており、各ビルからエレベーター設備2の稼動履歴データを取得する。取得するデータとしては、エレベーターの起動回数、乗車人数、降車人数、待ち時間などエレベーター設備2の性能や利用状況を示すように処理されたデータでもよく、あるいは、かご位置信号、乗り場呼び信号、かご呼び信号、戸開閉信号などエレベーター設備2の制御装置(図示せず)の信号データでもよい。
【0023】
稼動履歴データ蓄積部4は、稼動履歴受信部3で受信された稼動履歴データを蓄積する。稼動履歴データの蓄積方法としては、稼動履歴受信部3から入力されるデータをそのまま蓄積してもよく、あるいは、例えば信号データなどは起動回数、乗車人数、降車人数、待ち時間などエレベーター設備2の性能や利用状況を示すデータに処理して蓄積してもよい。また、エレベーター設備2の性能や利用状況を示すデータの累計値や平均値などを蓄積してもよい。
【0024】
ビル設備状況データ蓄積部5は、稼動履歴データ蓄積部4に蓄積される稼動履歴データとは異なり、エレベーター設備2の設置状況の情報である静的なビル設備状況データを蓄積する。ビル設備状況データとしては、例えば、ビルの高さや階床数、床面積など建物の規模に関するデータでもよい。また、ビル用途に関するデータや、設置場所の特徴に関するデータ(例えば、海岸沿いであるかなど地形に関するデータ、都市部、住宅地、田園部、都道府県名などのデータ)でもよい。また、エレベーターの昇降路距離、サービス階床数、かご台数、速度、かご定員、機械室の有無、機種名などエレベーター設備2の仕様データでもよい。ただし、数値以外で表されるデータについては、数値によるID付けをし、数値データに変換して蓄積しておく。
【0025】
例えば、ビル用途に関するデータは、事務所ビル=1、マンション=2、商用ビル=3、病院=4などの値を設定する。また、事務所・マンション複合ビル=1.5、マンション・商用複合ビル=2.5など、複数の要素を持つ場合には各ビル用途の間の値をとってもよく、あるいは、事務所・マンション複合ビル=5、マンション・商用複合ビル=6など内包する要素と関係ない数値を設定してもよい。
【0026】
同様に、設置場所の特徴に関するデータは、都市部=1、住宅地=2、田園部=3と設定してもよく、都道府県名に関するデータであれば、北海道=1、青森=11、岩手=12、・・・、東京都=21、千葉=22など、2桁目(十の位)を地方名に基づいて番号付けし、1桁目(一の位)を都道府県毎に番号付けして数値化してもよい。また、各ビルに備えられる機械室の有無については、機械室あり=1、機械室なし=0というように数値化してもよい。
【0027】
ビル設備パラメーターオプション蓄積部6(ビル設備パラメーターオプションデータ蓄積部)は、エレベーター設備2のオプション機器の有無(オプション機器の情報)や、制御装置の可変パラメーター(エレベーター設備2の制御パラメーター)の状態を示すビル設備パラメーターオプションデータを蓄積している。ビル設備パラメーターオプションデータは、制御パラメーターについては設定されている数値を、オプション機器の有無については、有=1とし、無しは空欄としている。
【0028】
なお、稼動履歴データ蓄積部4、ビル設備状況データ蓄積部5、ビル設備パラメーターオプション蓄積部6に蓄積される各データは、エレベーター毎、あるいは、ビル毎に共通のIDが付与されて蓄積されており、同一のエレベーター設備2に関する上記のデータの関連付けが容易となるように構成されている。
【0029】
推薦結果要求部12は、任意のエレベーター2−Kについての制御パラメーターや後付オプション機器の推薦を要求する。ここで、Kは、0<K≦Nとなる整数である。推薦要求のトリガとしては、推薦結果要求部12がユーザインタフェース備えるか、あるいは端末とネットワークを介して通信可能に接続されており、端末から推薦要求コマンドを送信してもよい。また、予め設定されたスケジュールに従って、エレベーター2−1〜2−Nについて順番に制御パラメーターや後付オプション機器の推薦を要求してもよい。
【0030】
パラメーター・機器推薦候補抽出部7は、エレベーター設備2に関する稼動履歴データ、ビル設備状況データ、ビル設備パラメーターオプションデータを用い、任意の1つのエレベーター設備2(推薦対象ビル設備)に対して、制御パラメーターの変更案やオプションの追加案を推薦候補として抽出する。すなわち、パラメーター・機器推薦候補抽出部7は、稼動履歴データ、ビル設備状況データ、ビル設備パラメーターオプションデータに基づいて、推薦対象となるエレベーター設備2における制御パラメーターの変更値や後付オプション機器(追加のオプション機器)を推薦候補として抽出する。
【0031】
抽出方法としては、例えば、協調フィルタリングを用いる方法がある。協調フィルタリングは、例えば、複数のユーザーが各アイテム対して付けた評価値から、ユーザーやアイテムの類似度を考慮して、あるユーザーにとってのあるアイテムの未知の評価値を推定するものである(例えば、「情報処理48巻9号 2007年9月 P.957−P.965」参照)。
【0032】
上記の協調フィルタリングにおいて、「ユーザー」は、本実施形態の各エレベーター設備2に対応し、「アイテム」は、本実施形態の稼動履歴データ蓄積部4、ビル設備状況データ蓄積部5、ビル設備パラメーターオプション蓄積部6に蓄積されている各データの項目に対応し、「評価値」は、本実施形態のエレベーター毎の各データの値に対応する。また、稼動履歴データ蓄積部4に信号データが蓄積されている場合には、起動回数、乗車人数、降車人数、待ち時間などエレベーター設備2の性能や利用状況を示すデータに変換して協調フィルタリングの対象とする。
【0033】
図2は、本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部7における協調フィルタリングの入力テーブルの一例を示す図である。図2において、横方向はユーザーである個々のエレベーター設備2を、縦方向はアイテム(稼動履歴データ蓄積部4、ビル設備状況データ蓄積部5、ビル設備パラメーターオプション蓄積部6に蓄積されている各データの項目)を示している。また、図2では、各要素の値をそのまま示しているが、各アイテムについて、例えば、1〜0の間の値になるように規格化(正規化)してもよい。例えば、次式(1)〜(3)で規格化することができる。
【0034】
P_max(m)= max(P(1,l), P(2,l), ……,P(K_max,M))・・・(1)
P_min(m)= min(P(m,1), P(m,2), …….P(K_max,M))・・・(2)
P(k,m) = (P(k,m)-P_min(m))/(P_max(m) P_min(m))・・・(3)
上記の式(1)〜(3)において、P(k,l) はk番目のユーザーのl番目のアイテムの評価値、P_max(m)はm番目のアイテムの全ユーザーに関する最大値、P_min (m)はm番目のアイテムの全ユーザーに関する最小値、K_maxはユーザー数、Mはアイテム数、maxは最大値を抽出する関数、minは最小値を抽出する関数である。
【0035】
協調フィルタリングのアルゴリズムには、複数の方式がある。ユーザー間の類似度に基づいて推定を行なうユーザーベース方式、アイテム間の類似度に基づいて推定を行なうアイテムベース方式、各アイテム間の評価値の差は全ユーザーで同じであると仮定して各アイテム間の評価値の平均偏差を求めて、予測対象ユーザーの既知の評価値とその平均偏差とから目的の評価値を推定するslope−one方式、各ユーザーの評価値をアイテム数の空間にマッピングし、特異値分解によりその特徴平面を導出し、あるユーザーの各アイテムの評価値がその特徴平面にもっとも近づくように未知の評価値を求める特異値分解方式などがある。また、クラスタリングを用いる方式や、ベイジアンネットやEMアルゴリズムなどの確率的手法などがある。
【0036】
次に、任意のエレベーター2−Kに対して制御パラメーターあるいは後付オプション機器が要求された場合における推薦候補の抽出動作について、図3を用いて説明する。
【0037】
図3は、本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部7における制御パラメーターおよび後付オプション機器の推薦候補の抽出動作を示すフローチャートである。図3に示すように、ステップS301では、協調フィルタリングを用いて、各パラメーター(制御パラメーター)の推定値およびオプション(オプション機器)の評価値の推定値を求める。ここで、協調フィルタリングの入力データ(図2参照)における各パラメーターの値を仮に空欄にして推定した評価値を、そのパラメーターの推定値とする。詳細は、図4を用いて後述する。
【0038】
ステップS302では、判定スコアにオプションの評価値p(i)を代入する。i番目のオプションの評価値p(i)は、判定スコアのX(i)に格納される。ただし、評価時点において設置済みのオプション機器の評価値は0とする。従って、以下の式(4)または式(5)に基づいて判定スコアのX(i)に値を代入する。
【0039】
X(i) = P’(K, L+i) (i番目のオプションが未設置の場合)・・・(4)
X(i) =0 (i番目のオプションが設置済みの場合)・・・(5)
ここで、L は、図2におけるビル設備状況データの最後のアイテム(項目)の番号である。また、P’(K,L+i)は、ステップS301において推定したK番目のユーザーのi番目のオプションの推定値である。このように、判定スコアは、図2に示す入力テーブルに追加して作成される。
【0040】
ステップS303では、全てのオプション機器に対して、式(4)または式(5)を適用して判定スコアへ評価値を代入したか否かを判定し、全てのオプションに対して代入が完了していればステップS304へ進み、代入が完了していなければステップS302に戻る。
【0041】
ステップS304では、各パラメーターの推定値に基づき、例えば以下の式(6)に従って判定スコアに代入する値を演算する。
【0042】
X(I+j)=(P(K,L+I+j)−(パラメーターjの元の値))
/(パラメーターjがとりうる最大値) ・・・(6)
また、判定スコアの値は以下の式(7)に従って演算してもよい。
【0043】
X(I+j)=(P(K,L+I+j)−(パラメーターjの元の値))
/(パラメーターjの元の値) ・・・(7)
なお、j番目のパラメーターの判定スコアはX(j+L)に格納する。ここで、Iはオプションの数であり、P(K,L+I+j)はエレベーター2−K、j番目のパラメーターに関する評価値の推定値である。
【0044】
ステップS305では、全てのパラメーターに対して、式(6)または式(7)を適用して判定スコアへ評価値を代入したか否かを判定し、全てのパラメーターに対して代入が完了していればステップS306へ進み、代入が完了していなければステップS304に戻る。
【0045】
ステップS306では、判定スコアの値が最大のパラメーターまたはオプションを選択し、推薦候補とする。
【0046】
次に、各パラメーターの推定値およびオプションの評価値の推定手順について説明する。
【0047】
図4は、本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部7におけるパラメーターおよびオプションの推定動作を示すフローチャートである。
【0048】
図4に示すように、パラメーター・機器推薦候補抽出部7は、稼動履歴データ蓄積部4から稼動履歴データを読み込み(ステップS401)、ビル設備状況データ蓄積部5からビル設備状況データを読み込み(ステップS402)、ビル設備パラメーターオプション蓄積部6からビル設備パラメーターオプションデータを読み込み(ステップS403、ステップS404)、図2に示す入力テーブルITを作成する。入力テーブルITの各要素は、k番目のユーザーのl番目のアイテムの評価値P(k,l)で示される。なお、式(1)〜式(3)に従って規格化した入力テーブルITを作成してもよい。
【0049】
ステップS405およびステップS406では、協調フィルタリングのアルゴリズムを用いて、任意のエレベーター2−Kに対して、入力テーブルITの空欄となっている全てのオプションの評価値の推定を行なう(図3のステップS301に対応)。
【0050】
ステップS405では、入力テーブルITにおけるエレベーター2−K、オプションiに関する評価値P(K,i)の値が空欄の場合は、当該空欄の値を演算し、P’(K,L+i)へ代入する(ステップS302に対応)。P(K,i)=1の場合にはP’(K,L+i)=0とする(式(4)および式(5)を参照)。
【0051】
ステップS406では、全てのオプションに対してステップS405の推定を行なったか否かを判断し、完了している場合はステップS407へ進み、完了していない場合はステップS405に戻る。
【0052】
ステップS407〜ステップS413では、元の入力テーブルITにおいて、各パラメーターについて値を空欄にし、協調フィルタリングのアルゴリズムを用いて推定評価値を演算し、その値を演算したパラメーターの推定値とする。
【0053】
ステップS407では、変数jに0を代入する。
【0054】
ステップS408では、変数jを1インクリメントする。
【0055】
ステップS409では、入力テーブルITを当該入力テーブルITと同じサイズのテーブルIT1にコピーする。
【0056】
ステップS410では、j番目のパラメーターを選択し、評価対象パラメーターpとする。
【0057】
ステップS411では、エレベーター2−Kの評価対象パラメーターpの評価値P(K,L+I+j)を空欄とする。
【0058】
ステップS412では、協調フィルタリングのアルゴリズムを用いて、P(K,L+I+j)の値を推定し、P’(K,L+I+j)へ代入する。
【0059】
ステップS413では、全てのパラメーターに対して評価値推定を行なったか否か判断するために、j<Jであるか否かを判断し、jがJより小さい場合はステップS408に戻り、jがJ以上の場合は処理を終了する。なお、Jはパラメーターの数である。
【0060】
以上の手順(図3,4)に従って推薦候補を抽出し、抽出された推薦項目とその推定値とを推薦候補としてシミュレーション評価部8に出力する。すなわち、パラメーター・機器推薦候補抽出部7は、稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータに基づいて、推薦対象となるエレベーター設備(推薦対象ビル設備)における制御パラメーターの変更値や後付オプション機器(追加のオプション機器)を推薦候補として抽出する。
【0061】
シミュレーション評価部8では、稼動履歴データ蓄積部4、ビル設備状況データ蓄積部5、およびビル設備パラメーターオプション蓄積部6のそれぞれに蓄積された、エレベーター2−Kの稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータと、パラメーター・機器推薦候補抽出部7にて抽出された推薦候補とを用いて、推薦候補適用前および適用後のシミュレーションを行ない、シミュレーション結果を評価結果判断部9に出力する。すなわち、シミュレーション評価部8は、推薦対象のエレベーター設備2(推薦対象ビル設備)の稼動履歴データ、ビル設備状況データ、およびビル設備パラメーターオプションデータと、パラメーター・機器推薦候補抽出部7にて抽出された推薦候補とに基づいて、推薦対象のエレベーター設備2に対して推薦候補を適用した場合におけるシミュレーションによる評価を行う。なお、シミュレーション評価部8は、少なくとも、パラメーター・機器推薦候補抽出部7にて抽出された推薦候補と、推薦対象のエレベーター設備2(推薦対象ビル設備)の稼動履歴データとに基づいてシミュレーションによる評価を行ってもよい。
【0062】
エレベーターのシミュレーションを行うためには、人の動きに関するデータと、エレベーター機器のモデルとが必要である。人の動きに関するデータは、エレベーターの稼動履歴データから得る。例えば、ある階での乗降人数やかご内人数は、かご停止時のかご荷重データの変化量から演算できる(例えば、特開2008−247597号公報を参照)。また、人数から人の動きに関するデータの作成方法としては、例えば、乗降車人数から人の動きを表すODデータの推定方法がある(例えば、WO99/018025号公報を参照)。
【0063】
また、シミュレーション方法としては、上記の人の動きのデータに基づいて、ある時刻にある階からある階に移動する乗客を発生させ、その乗客発生階に呼びを発生させ、群管理アルゴリズムを適用して、呼びをかごに割り当て、かごは割り当てられた呼びに応じて走行し、呼び発生階到着後はドアを開き、乗客を乗せ、乗客の行先階を登録し、戸閉し、行先階へ向かって走行し、行先階到着後はドアを開き、乗客を降ろし、戸閉する、という一連のイベントを順次実行していくことによって実現できる。この際、各イベントの処理時間を物理的なモデル、例えば、かごの速度、加速度と移動距離などから演算し、シミュレーション上の時刻を進めていくと、乗客の待ち時間や移動時間などを計算することが可能である。また、かご内の人数を算出することができ、混雑状況や、2人で乗って気まずい状況の発生を予測することも可能である。また、乗客の発生から戸閉までの時間をシミュレーションから演算することが可能であり、ドアに挟まれたり、駆け込み状態を推定することも可能である。
【0064】
シミュレーション評価部8は、シミュレーション結果として、待ち時間、長待ち発生率などの待ち時間に関する値、消費電力量に関する値、戸開釦の動作回数、ドアが戸閉し始めてから乗客が乗車する駆け込み回数など、利用者の安全や利便性に関する値などを出力する。
【0065】
評価結果判断部9では、推薦候補適用前後のシミュレーション結果を比較し、推薦候補を実際に推薦するか否かを判断する。すなわち、シミュレーション評価部8での評価の結果に基づいて、推薦候補を推薦するか否かの判断を行う。例えば、シミュレーション結果に含まれる全ての値が悪化していない場合に推薦すると判断してもよい。また、シミュレーション結果に含まれる各値に対して予め許容範囲を定めておき、各値が許容範囲内の場合には推薦を行なうようにしてもよい。また、推薦項目とその推薦するオプションまたはパラメーターの値に対して、その推薦内容によって改善するシミュレーション結果に含まれる値を予め定義しておき、その値が改善するか否か、または、改善量が予め設定した閾値以上であるか否かを判断することによって、推薦を行なうか否かを決定してもよい。
【0066】
評価結果判断部9において推薦を行うと判断された場合には、推薦候補とシミュレーション結果とを推薦結果として推薦結果出力部11に出力し、推薦しないと判断された場合には、推薦候補を推薦候補抽出条件修正部10に出力する。
【0067】
推薦候補抽出条件修正部10では、パラメーター・機器推薦候補抽出部7で行われる図4に示すような各パラメーターの推定値、またはオプションの評価値の推定の修正指示として、評価結果判断部9から入力された推薦候補を推薦除外パラメーターまたは推薦除外オプションとしてパラメーター・機器推薦候補抽出部7に出力するとともに、パラメーター・機器推薦候補抽出部7で推薦候補の抽出修正(再抽出)を行なうように指示する。すなわち、推薦候補抽出条件修正部10は、評価結果判断部9にて推薦候補を推薦しないと判断された場合に、パラメーター・機器推薦候補抽出部7に対して推薦候補の修正指示を出力する。
【0068】
パラメーター・機器推薦候補抽出部7では、推薦候補抽出条件修正部10から推薦候補の抽出修正指示が入力された場合には、入力された推薦除外オプションまたは推薦除外パラメーターを記憶し、図5に示す手順で、パラメーターおよびオプション候補の抽出修正を行なう。図5は、本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部7におけるパラメーターおよびオプションの推薦候補抽出の修正動作を示すフローチャートである。なお、図5において、ステップS501以外は図3と同様である。ステップS501では、図6に示す手順で各パラメーターの推定値、およびオプションの評価値の推定を行なう。
【0069】
図6は、本発明の実施形態によるパラメーター・機器推薦候補抽出部7におけるパラメーターおよびオプションの再推定動作を示すフローチャートである。なお、図6において、ステップS605およびステップS612以外は図4と同様である。図6に示すように、推薦除外オプションが記憶された場合には、ステップS605において、エレベーター2−Kに関するオプションの評価値の値を0とする。また、推薦除外パラメーターが記憶された場合には、ステップS612において、評価対象のパラメーターが記憶されている推薦除外パラメーターであった場合には、ステップS609に戻る。このように、パラメーター・機器推薦候補抽出部7は、推薦候補抽出条件修正部10から入力された修正指示に基づいて、推薦候補以外の推薦候補を再度抽出する。
【0070】
パラメーター・機器推薦候補抽出部7においてパラメーターおよびオプションの候補抽出の修正が完了すると、再抽出された推薦候補を、再びシミュレーション評価部8に出力する。
【0071】
推薦結果出力部11では、例えば、入力された推薦結果がパラメーターに関するものであった場合には、エレベーター2−Kに対してパラメーターの値を推薦結果の推定値に修正するように指示を出すとともに、ビル設備パラメーターオプション蓄積部6に対してもパラメーターの値の修正指示を出力するように構成してもよい。また、エレベーター2−Kのオーナーに対してパラメーター修正提案書を作成するようにしてもよい。
【0072】
また、推薦候補がオプションに関するものであった場合には、エレベーター2−Kのオーナーに対してオプション提案書を作成するようにしてもよい。
【0073】
また、図7に示すように、推薦結果出力部11を営業担当者やエレベーター2−Kのオーナーの外部端末14およびエレベーター設備2とインターネット等の情報ネットワークを介して通信可能に接続し、外部端末14に対してシミュレーション結果とともに推薦候補を出力し、外部端末14から推薦結果出力部11に推薦の適用指示が入力されたときには、推薦候補の適用指示を推薦対象となるエレベーター設備2(推薦対象ビル設備)に出力してもよい。
【0074】
また、推薦結果出力部11を外部端末14および発注システム15と通信可能に接続し、外部端末14から推薦結果出力部11に推薦候補の適用指示が入力されると、推薦候補を推薦対象となるエレベーター設備2(推薦対象ビル設備)に適用するための発注処理を行うように発注システム15に出力してもよい。
【0075】
以上のことから、本実施形態によれば、エレベーターなどの建物の設備(ビル設備)の制御パラメーターの値や、後付オプション機器(追加のオプション機器)を、他のビルに設置されている同様の設備の稼動履歴、設置状況、仕様、制御パラメーター、あるいはオプションの傾向に基づいて推薦候補を選択し、シミュレーションによってその効果を検証して推薦候補の修正を行なった上で推薦するように構成したため、他のビルでも使われていて、かつ、導入効果の高い制御パラメーターや後付オプション機器を選択して、オーナーなどへの推薦やビルに対する適用が可能となる。すなわち、対象設備の性能を向上させる制御パラメーターや後付オプション機器の推薦が可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 推薦装置、2 エレベーター設備、3 稼動履歴受信部、4 稼動履歴データ蓄積部、5 ビル設備状況データ蓄積部、6 ビル設備パラメーターオプション蓄積部、7 パラメーター・機器推薦候補抽出部、8 シミュレーション評価部、9 評価結果判断部、10 推薦候補抽出条件修正部、11 推薦結果出力部、12 推薦結果要求部、13 推薦結果要求部、14 外部端末、15 発注システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のビル設備の稼動履歴データを蓄積する稼動履歴データ蓄積部と、
前記ビル設備の設置状況の情報であるビル設備状況データを蓄積するビル設備状況データ蓄積部と、
前記ビル設備の制御パラメーターとオプション機器の情報とを含むビル設備パラメーターオプションデータを蓄積するビル設備パラメーターオプションデータ蓄積部と、
前記稼動履歴データ、前記ビル設備状況データ、および前記ビル設備パラメーターオプションデータに基づいて、推薦対象ビル設備における制御パラメーターの変更値や追加のオプション機器を推薦候補として抽出するパラメーター・機器推薦候補抽出部と、
前記推薦候補と、前記推薦対象ビル設備の前記稼動履歴データとに基づいて、前記推薦対象ビル設備に対して前記推薦候補を適用した場合におけるシミュレーションによる評価を行うシミュレーション評価部と、
前記シミュレーション評価部での前記評価の結果に基づいて、前記推薦候補を推薦するか否かの判断を行う評価結果判断部と、
前記評価結果判断部にて前記推薦候補を推薦すると判断された場合に、当該推薦候補を出力する推薦結果出力部と、
を備えることを特徴とする、ビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置。
【請求項2】
前記評価結果判断部にて前記推薦候補を推薦しないと判断された場合に、前記パラメーター・機器推薦候補抽出部に対して前記推薦候補の修正指示を出力する推薦候補抽出条件修正部をさらに備え、
前記パラメーター・機器推薦候補抽出部は、前記推薦候補抽出条件修正部から入力された前記修正指示に基づいて、前記推薦候補以外の推薦候補を再度抽出することを特徴とする、請求項1に記載のビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置。
【請求項3】
前記推薦結果出力部は、前記ビル設備および外部端末と通信可能に接続され、前記外部端末から前記推薦候補の適用指示が入力されると、前記推薦候補の適用指示を前記推薦対象ビル設備に出力することを特徴とする、請求項1または2に記載のビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置。
【請求項4】
前記推薦結果出力部は、外部端末および発注システムと通信可能に接続され、前記外部端末から前記推薦候補の適用指示が入力されると、前記推薦候補を前記推薦対象ビル設備に適用するための発注処理を行うように前記発注システムに出力することを特徴とする、請求項1または2に記載のビル設備におけるパラメーターおよび機器の推薦装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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