説明

ビーズ発泡用樹脂組成物

【課題】高発泡倍率で緩衝性能や断熱性能に優れた、脂肪族ポリエステルを主成分とするビーズ発泡用樹脂組成物を得る。
【解決手段】脂肪族ポリエステルを主成分とするとともに、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスを0.1〜15質量%含有したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビーズ発泡用樹脂組成物に関し、特に脂肪族ポリエステルを主成分とするビーズ発泡用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン樹脂を原料としてビーズ発泡法により製造された発泡粒子や発泡成形体が、緩衝材、包装材、断熱材などとして使用されている。
【0003】
近年、環境負荷低減の観点から、生分解性や植物由来という特長を有する脂肪族ポリエステルが注目されている。これにともない、従来のポリオレフィンに替えて、脂肪族ポリエステルを原料とした、ビーズ発泡法による発泡粒子および発泡成形体に関する技術が、数多く提案されている。しかし、従来のポリオレフィンを原料とする発泡体に比べ、脂肪族ポリエステルを原料とする発泡体は、発泡倍率が低く、このため十分な緩衝性能や断熱性能を発揮しにくいという問題がある。特に、無架橋でしかも結晶性を有する脂肪族ポリエステルは、高い発泡倍率の発泡体を得ることが難しく、これまで40倍を超える発泡倍率を達成した技術は報告されていない。
【0004】
一方、脂肪族ポリエステルにワックスを配合する技術が、従来から多数報告されている。しかし、これらの技術では、ワックスの役割は、気泡調整剤としての役割や(たとえば特許文献1)、防湿性を向上させる添加剤としての役割(たとえば特許文献2)にとどまっている。しかも、特許文献1、2に記載された樹脂組成物を用いて、ビーズ発泡法により発泡体を製造しようとしても、40倍を超える発泡体は得られない。
【特許文献1】特開2006−233192号公報
【特許文献2】特開2006−231859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決し、高発泡倍率で緩衝性能や断熱性能に優れた、脂肪族ポリエステルを主成分とするビーズ発泡用樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脂肪族ポリエステルと、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスとを混合することにより得られる樹脂組成物を発泡させたビーズ発泡粒子およびビーズ発泡成形体が、顕著に高い発泡倍率となることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)脂肪族ポリエステルを主成分とするとともに、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスを0.1〜15質量%含有したものであることを特徴とするビーズ発泡用樹脂組成物。
【0008】
(2)ワックスがマイクロクリスタリンワックスであることを特徴とする(1)のビーズ発泡用樹脂組成物。
【0009】
(3)ワックスがエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を含有するものであることを特徴とする(1)のビーズ発泡用樹脂組成物。
【0010】
(4)脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかのビーズ発泡用樹脂組成物。
【0011】
(5)ビーズ発泡用樹脂組成物であって、結晶性を有する脂肪族ポリエステルを主成分とするとともに、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスを0.1〜15質量%含有したものであり、前記樹脂組成物の結晶化温度が下記式を満足することを特徴とするビーズ発泡用樹脂組成物。
【0012】
Tca−5℃ ≦ Tc ≦ Tca+5℃
ただし、Tc :非極性ワックスを配合した樹脂組成物の結晶化温度
Tca:脂肪族ポリエステルの結晶化温度
【0013】
(6)上記(1)から(5)までのいずれかの樹脂組成物に発泡剤を含浸して得られるものであることを特徴とする含浸粒子。
【0014】
(7)発泡剤が、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする(6)の含浸粒子。
【0015】
(8)上記(6)または(7)の含浸粒子を発泡して得られるものであることを特徴とする発泡粒子。
【0016】
(9)上記(6)または(7)の含浸粒子を発泡して得られるものであることを特徴とする発泡成形体。
【0017】
(10)上記(8)の発泡粒子をさらに発泡成形して得られるものであることを特徴とする発泡成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の、脂肪族ポリエステルを主成分とする樹脂組成物は、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスを0.1〜15質量%含有したものであるため、この樹脂組成物を用いて、無架橋ながら、高発泡倍率で緩衝性能や断熱性能に優れた脂肪族ポリエステル発泡粒子および脂肪族ポリエステル発泡成形体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書で使用する語句について説明する。本発明の樹脂組成物は、ビーズ発泡法による発泡体製造に供するために、粒子状に加工する必要がある。これを「ビーズ状粒子」と呼ぶこととする。次いでビーズ状粒子に発泡剤を含浸させると、「含浸粒子」が得られる。含浸粒子を熱処理して発泡させると「発泡粒子」が得られる。発泡粒子を金型内にてさらに加熱成形すると「発泡成形体」が得られる。また、発泡粒子製造の工程を経ずに含浸粒子から1段階で発泡成形体を得ることも可能である。
【0020】
本発明の樹脂組成物の主成分は脂肪族ポリエステルである。脂肪族ポリエステルとして、具体的には、ポリ乳酸等のヒドロキシ酸重縮合物や、ポリカプロラクトン等のラクトンの開環重合物や、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸との重縮合物などが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸と芳香族多価カルボン酸との重縮合物でも良い。これらの樹脂は、単独で用いても良く2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
脂肪族ポリエステルの中でもポリ乳酸は、トウモロコシやサツマイモなどに由来するデンプンを原料として大量生産可能なため、コストが低いうえに、石油原料の削減にも貢献できることから、環境負荷低減の観点から特に有用性が高く、好ましい。ポリ乳酸は、光学異性体比率に依存して結晶性が変化し、ひいては発泡体の耐熱性に影響を及ぼす。そのため、光学異性体比率が1〜7質量%の範囲のポリ乳酸がさらに好ましく、3〜6質量%の範囲であるものが最も好ましい。
【0022】
本発明で用いる非極性ワックスは、石油ワックス、動植物ワックス、合成ワックス、変性ワックスのいずれでも良いが、ワックスの成分中にノルマルアルカンを50〜90質量%含有することが必要である。この範囲外の含有率では、樹脂組成物の発泡性を向上させる効果が生まれないばかりか、発泡性が著しく低下することもある。
【0023】
上記の条件を満たすワックスとしては、例えばマイクロクリスタリンワックスが挙げられる。パラフィンワックスまたはマイクロクリスタリンワックスに樹脂成分を添加したワックスや、パラフィンワックスまたはマイクロクリスタリンワックスの一部を変性して官能基を導入したワックスなども挙げられる。添加する樹脂成分としては、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂などを挙げることができる。逆に上記の条件を満たさないワックスとしては、例えばパラフィンワックスが挙げられる。マイクロクリスタリンワックスの中でも、分岐鎖や脂環鎖の多いものは上記の条件を満たさないワックスとなる。
【0024】
ワックス中のノルマルアルカン含有率は、ワックスを重クロロホルムなどの有機溶媒に溶解させ、H NMRおよび/または13C NMRの測定を行うことで、調べることができる。
【0025】
また、脂肪族ポリエステルが結晶性を有する場合は、非極性ワックスを添加すると結晶化速度の増加を促進するため、結晶促進効果の低いワックスを選ぶ方が好ましい。すなわち、脂肪族ポリエステルにワックスを配合して得られる樹脂組成物の結晶化温度が下記の範囲に入ることが必要である。
【0026】
Tca−5℃ ≦ Tc ≦ Tca+5℃
ただし、Tc :非極性ワックスを配合した樹脂組成物の結晶化温度
Tca:脂肪族ポリエステルの結晶化温度
である。
【0027】
樹脂組成物の結晶化温度Tcが上記の範囲よりも低くなると、樹脂組成物の結晶化速度が過剰に高くなることとなり、熱処理により含浸粒子を発泡させる工程において結晶化が進行しやすくなるため、発泡性が著しく低下してしまう問題が発生する。Tcが上記の範囲よりも高くなると、結晶化速度が過剰に低くなることとなり、結晶化した発泡体を得ることが困難となるため、耐熱性の劣った発泡体しか得られなくなる問題がある。
【0028】
樹脂組成物と脂肪族ポリエステルの結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて計測される。すなわち、樹脂組成物または脂肪族ポリエステルを任意の速度で融点以上に昇温し十分溶融させた後、さらに任意の速度で−55℃に降温し該温度に十分保持した後、+5℃/分の速度で融点以上に昇温する。2回目の昇温のときの、結晶化による発熱ピークトップの温度を、その樹脂組成物の結晶化温度Tcまたは脂肪族ポリエステルの結晶化温度Tcaとする。
【0029】
本発明のビーズ発泡用樹脂組成物における非極性ワックスの配合量は、0.1〜15質量%であることが必要で、好ましくは0.5〜10質量%である。脂肪族ポリエステルと非極性ワックスは非相溶性のため、15質量%を超える量の非極性ワックスを均一に配合させることは難しく、また非極性ワックスの配合量が15質量%を超えると物性低下などが生じる。反対に非極性ワックスの配合量が0.1質量%未満であると、所期の発泡性能が得られない。
【0030】
本発明のビーズ発泡用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、主成分である脂肪族ポリエステルと、非極性ワックスとのほかに、他の樹脂成分および/または添加剤を含有することが可能である。
【0031】
他の樹脂成分としては、脂肪族ポリエステル以外のポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂等が挙げられる。たとえばポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の芳香族脂肪族ポリエステルが挙げられる。これらの樹脂成分は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
添加剤として、本発明の効果を損なわない範囲において、たとえば熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、結晶核剤、発泡核剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、架橋剤、鎖延長剤、末端封鎖剤、充填材等を使用することができる。これらの添加剤は、一般に溶融混練時あるいは重合時に加えられる。
【0033】
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばホスファイト系有機化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0034】
結晶核剤および/または発泡核剤としては、たとえば酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。
【0035】
末端封鎖剤としては、カルボジイミド、オキサゾリン、エポキシなどが挙げられる。
【0036】
分散剤としては、流動パラフィン、ミネラルオイル、クレオソート油、潤滑油、シリコーンオイルなどの工業用オイルや、コーン油、大豆油、菜種油、パーム油、亜麻仁油、ホホバ油などの植物油や、イオン性またはノニオン性の界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
充填材のうち、無機充填材としては、タルク、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
【0038】
これらの添加剤は、単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0039】
本発明のビーズ発泡用樹脂組成物は、通常の押出機を用いて溶融混練法により製造することができる。押し出された樹脂組成物をペレタイズすることで、ビーズ状粒子とすることができる。ビーズ状粒子の大きさは必要に応じて適宜選択できるが、0.005〜100mgであることが好適である。樹脂組成物が吸水または吸湿している場合は、水分率300ppm以下にまで乾燥することが好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物から発泡体を製造するには、樹脂組成物に発泡剤を含浸させて発泡性を付与する必要がある。このとき、化学変化の起きにくい物理発泡剤を用いることが好適である。物理発泡剤のうち、揮発性の有機系発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素や、トリクロロフルオロロメタン、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン、1,2,2,2−テトラフルオロロエタン等のハロゲン化炭化水素や、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。炭化水素は、樹脂組成物に含浸されたときに常温・常圧では自然放散しにくく、好ましく使用できる。中でも、ブタン類を用いると高発泡倍率になるため、またプロパンを用いると得られる発泡粒子および発泡体の気泡が細かくなるため、さらに好ましい。これらの発泡剤は、単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0041】
無機系発泡剤としては、水、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気等が挙げられる。
【0042】
発泡剤のほかに発泡助剤を用いても良い。発泡助剤としては、たとえば低級アルコール、ケトン類、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0043】
ビーズ状粒子に発泡剤を含浸させて含浸粒子とする含浸工程においては、密閉容器内に分散媒とビーズ状粒子を予め入れておき、そのうえで容器内に発泡剤を充填する。必要に応じて、発泡助剤や分散安定剤も予め入れておく。
【0044】
このときの含浸温度は、樹脂組成物の融点をTmとして、Tm−20℃〜Tm+20℃の範囲であることが好ましく、Tm−10℃〜Tm+10℃の範囲であることがより好ましい。含浸温度における発泡剤の圧力は、目的とする発泡粒子の発泡倍率、気泡の細かさによっても変わるが、0.5〜30MPaの範囲となるように調整する。好ましくは5〜20MPaの範囲である。含浸時間は、通常1分〜24時間であることが好ましい。含浸粒子に対する発泡剤の含浸率は、通常1〜30質量%であることが好ましい。ブタン類やプロパンを発泡剤に用いる場合は、3〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
含浸粒子を熱処理することで、発泡粒子を得ることができる。熱処理の方法および装置は、公知のものが利用できる。例えば、熱風、蒸気、輻射熱等により含浸粒子を加熱することで、発泡させることができる。熱処理温度は、Tm−60℃〜Tm+20℃の範囲であることが好ましい。この範囲以外の温度では、発泡が全く起こらなかったり、発泡倍率が低かったり、得られる発泡粒子および発泡成形体が溶融したりする問題がある。
【0046】
発泡粒子を金型内に充填してさらに加熱することにより、任意の形の発泡成形体を得ることができる。成形に用いる装置は、公知のものを利用できる。例えば、発泡ポリスチレン用または発泡ポリオレフィン用の成形機を利用できる。
【0047】
また、含浸粒子を金型内に充填して加熱することで、発泡粒子を製造する工程を経ずに、含浸粒子から1段階で発泡成形体を得ることも可能である。2段階の熱処理で発泡成形体を製造するときと比べ、1段階の方が、成形時の粒子どうしの接着性を確保できる点や、発泡粒子の輸送コストの点で好ましい。
【0048】
本発明の発泡粒子および発泡成形体は、クッション性、耐衝撃性、断熱性に優れており、包装材、梱包材、断熱材、家具、自動車クッション材、内装材、農業用資材、魚・野菜等の保温・保冷箱、カップラーメン等の食品容器などに好適に使用できる。本発明の発泡粒子および発泡成形体は、従来のポリスチレンやポリプロピレンからなる発泡粒子および発泡成形体と同等の発泡倍率を達成可能で、十分な緩衝性能や断熱性能を発揮するという特長を有する。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
[評価方法]
(1)ノルマルアルカン含有率:
ワックスを重クロロホルムに溶解し、H NMRおよび13C NMR測定を行った。分子量および、メチル基、メチレン基、メチン基の比率から分岐度を求め、ワックス中に含まれるノルマルアルカンの割合を求めた。
【0051】
(2)樹脂組成物の結晶化温度:
示差走査熱量計(DSC)を用いて計測した。すなわち、樹脂組成物を任意の速度で融点以上に昇温し十分溶融させた後、さらに任意の速度で−55℃に降温し該温度に十分保持し、その後、+5℃/分の速度で融点以上に昇温した。2回目の昇温のときの、結晶化による発熱ピークトップの温度を、その樹脂組成物の結晶化温度Tcとした。
【0052】
ポリ乳酸樹脂単体の場合は、上記の計測方法では発熱ピークが現れない。そのため、溶融混練後の樹脂組成物を用いて計測した値で代用した(後述の比較例5)。
【0053】
(3)発泡剤含浸率:
含浸粒子を密閉容器中で重クロロホルムに溶解し、容器を開けずに1度目のH NMR測定を行った。1度目の測定後に、重クロロホルムと発泡剤を蒸発させ、再度重クロロホルムに溶解して2度目のH NMR測定を行った。発泡剤のピークは、分散媒や分散安定剤のピークと重複するため、1度目の測定結果から2度目の測定結果を差し引くことで、含浸粒子中の発泡剤含浸率を求めた。
【0054】
(4)発泡倍率:
湿式電子比重計を用いて、発泡剤含浸前のビーズ状粒子、発泡粒子および発泡成形体の見かけ体積を測った。それぞれの質量と見かけ体積の比から見かけ密度を計算し、発泡倍率は以下の式より求めた。
【0055】
発泡倍率
=(発泡剤含浸前のビーズ状粒子の見かけ密度)
/(発泡粒子または発泡成形体の見かけ密度)
【0056】
[原料]
下記の実施例および比較例において用いた各種原料を示す。
【0057】
(1)ポリ乳酸樹脂
・A:結晶性ポリ乳酸 (NatureWorks社製 4042D)
重量平均分子量:16万、融点(Tma):151℃、Tca:125℃、D体:4.0質量%
【0058】
(2)ワックス
・B:マイクロクリスタリンワックス (日本精蝋社製 Hi−Mic−1090)
・C:マイクロクリスタリンワックス (日本精蝋社製 Hi−Mic−1080)
・D:マイクロクリスタリンワックス (日本精蝋社製 Hi−Mic−1070)
・E:エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂配合ワックス (日本精蝋社製 PALVAX−1430)
・F:パラフィンワックス (日本精蝋社製 155)
・G:キャンデリラワックス (東亜合成社製 精製キャンデリラワックス)
【0059】
(3)発泡剤
・ノルマルブタン(岩谷瓦斯社製 R−600)
・プロパン(岩谷瓦斯社製 R−280)
【0060】
(4)分散媒
・シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF−96L−5cs)
【0061】
(5)分散安定剤
L−ラクチド50gと、片末端カルビノール変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 X−22−170DX)50gと、酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 IRGAFOS168)0.02gとを190℃で加熱撹拌し、そこへオクチル酸スズ約50mgを添加した。1時間後に失活剤(ADEKA社製 アデカスタブADK−PEP8)を添加し、5mmHg以下に減圧して1時間撹拌を続け、ジブロック共重合ポリマーを得た。取り出したポリマーを真空乾燥機にて100℃で12時間乾燥し、分散安定剤としての、シリコーン/ポリ乳酸ジブロック共重合ポリマーを得た。得られたジブロック共重合ポリマーを重クロロホルムに溶解し、H NMRにより分子量を求めたところ、シリコーンセグメントの分子量は4700、ポリ乳酸セグメントの分子量は4800であった。
【0062】
実施例1
ポリ乳酸AにワックスCを0.2質量%添加し、さらに滑剤としてステアリン酸マグネシウムを0.02質量%添加して、池貝製PCM−30型2軸押出機を用い、温度190℃で溶融混練した。押出機は、スクリュー径が30mmφ、平均溝深さが2.5mmであった。スクリュー回転数120rpmで樹脂組成物を押出し、水浴で冷却したストランドをペレタイザーで切断した。得られた樹脂組成物の水分を除去し、ビーズ状粒子とした。ワックスCのノルマルアルカン含有率は60質量%であり、得られた樹脂組成物の結晶化温度Tcは125℃であった。得られたビーズ状粒子について、微量水分測定装置(三菱化学社製CA07)で水分率を測定し、300ppm以下であることを確認した。
【0063】
得られた樹脂組成物についての詳細を表1に示す。
【表1】

【0064】
実施例2〜7、比較例1〜4
実施例1に比べて、ワックスの種類およびその添加濃度をそれぞれ表1に示すように変えて、ビーズ状粒子を得た。得られたそれぞれのビーズ状粒子について、微量水分測定装置(三菱化学社製CA07)で粒子の水分率を測定し、いずれも300ppm以下であることを確認した。
【0065】
得られた樹脂組成物の詳細を表1に示す。
【0066】
比較例5
ポリ乳酸樹脂Aにワックスを添加することなく溶融混練することで、比較例5の樹脂組成物を得てビーズ状粒子を形成した。得られた樹脂組成物の詳細を表1に示す。
【0067】
なお、実施例1〜7、比較例1〜5のビーズ状粒子の大きさは、それぞれ6〜11mg/個であった。
【0068】
[含浸粒子の製造]
実施例1〜7、比較例1〜5に関し、内容積400mLのオートクレーブに、ビーズ状粒子10gと、上述の分散媒150mLと、上述の分散安定剤1.5gとを投入した。表1に示す発泡剤をオートクレーブ内に注入し、表1に示す発泡剤含浸温度および発泡剤含浸圧力に調整し、400rpmで撹拌しながら2時間保持した。オートクレーブ内の温度を室温まで下げた後、発泡剤を抜いて常圧に戻し、含浸粒子を得た。この含浸粒子の発泡剤含浸率を表1に示す。
【0069】
[発泡粒子の製造]
各実施例、比較例において、上述のようにして得られた含浸粒子を熱風乾燥機を用いて表1に示すように発泡温度120℃にて発泡させ、発泡粒子を得た。この発泡粒子の発泡倍率を表1に示す。
【0070】
[発泡成形体の製造]
各実施例、比較例において、含浸粒子を寸法10cm×10cm×3cmの金型に充填し、熱風乾燥機にて表1に示すように成形温度130℃にて加熱し、発泡成形体を得た。この発泡成形体の発泡倍率を表1に示す。
【0071】
実施例2〜6で得られた含浸粒子を発泡させることにより、発泡倍率45倍以上の発泡粒子が得られ、それにより発泡倍率30倍以上の発泡成形体が得られた。また、実施例1および7で得られた含浸粒子を発泡することにより、発泡倍率35倍以上の発泡粒子が得られ、それにより発泡倍率20倍以上の発泡成形体が得られた。
【0072】
これに対し、比較例1および比較例3で得られた含浸粒子は、ワックス成分のノルマルアルカン含有率が本発明の範囲よりも低かったため、発泡性がほとんどなく、発泡倍率が2倍(比較例1)、1倍(比較例3)と低かった。そのため十分な圧着力が得られず、発泡成形体を作ることができなかった。
【0073】
比較例2で得られた含浸粒子は、ワックス成分のノルマルアルカン含有率が本発明の範囲よりも高かったため、発泡性がほとんどなく、発泡倍率が2倍と低かった。このため、発泡成形体を作ることができなかった。
【0074】
比較例4は、ワックス成分のノルマルアルカン含有率が本発明の範囲内に入っているものの、ワックスを含む樹脂組成物の結晶化温度(Tc)が118℃であり、これはポリ乳酸の結晶化温度(Tca)である125℃よりも7℃も低かったため、含浸粒子を加熱して発泡させる段階において結晶化が優位に進行してしまい、発泡が妨げられ発泡倍率が3倍と低かった。このため、発泡成形体を作ることができなかった。
【0075】
比較例5は、樹脂組成物がワックスを含有していなかったため、含浸粒子は発泡性が低く、発泡倍率も5倍と低かった。このため発泡成形体を作ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルを主成分とするとともに、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスを0.1〜15質量%含有したものであることを特徴とするビーズ発泡用樹脂組成物。
【請求項2】
ワックスがマイクロクリスタリンワックスであることを特徴とする請求項1記載のビーズ発泡用樹脂組成物。
【請求項3】
ワックスがエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を含有するものであることを特徴とする請求項1記載のビーズ発泡用樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のビーズ発泡用樹脂組成物。
【請求項5】
ビーズ発泡用樹脂組成物であって、結晶性を有する脂肪族ポリエステルを主成分とするとともに、ノルマルアルカンを50〜90質量%含有する非極性ワックスを0.1〜15質量%含有したものであり、前記樹脂組成物の結晶化温度が下記式を満足することを特徴とするビーズ発泡用樹脂組成物。
Tca−5℃ ≦ Tc ≦ Tca+5℃
ただし、Tc :非極性ワックスを配合した樹脂組成物の結晶化温度
Tca:脂肪族ポリエステルの結晶化温度
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の樹脂組成物に発泡剤を含浸して得られるものであることを特徴とする含浸粒子。
【請求項7】
発泡剤が、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項6記載の含浸粒子。
【請求項8】
請求項6または7に記載の含浸粒子を発泡して得られるものであることを特徴とする発泡粒子。
【請求項9】
請求項6または7に記載の含浸粒子を発泡して得られるものであることを特徴とする発泡成形体。
【請求項10】
請求項8に記載の発泡粒子をさらに発泡成形して得られるものであることを特徴とする発泡成形体。

【公開番号】特開2009−57523(P2009−57523A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228410(P2007−228410)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】