説明

ビードエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性をバランス良く改善できるビードエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、カーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂とを含み、上記カーボンブラックのBET比表面積が25〜50m/gであり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記カーボンブラックの含有量が40〜80質量部、上記無機フィラーの含有量が3〜30質量部であるビードエイペックス用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードエイペックス用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのビードエイペックス用ゴム組成物では、複素弾性率(E)を増大させ、ハンドル応答性などの操縦安定性を向上させることが重視されてきた。しかし、操縦安定性を向上させても、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤでの走行時や寒冷期の走行時において、一定時間静止後に発車させた場合のタイヤ温度が上昇するまでの間に、変形歪、つまりフラットスポットがタイヤのビードエイペックスに蓄えられ、低燃費性の悪化を引き起こす。このようなフラットスポット発生の予防にはtanδの低減が有効である。
【0003】
を増大させる方法として、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を添加する方法があるが、この場合、tanδが増大し、低燃費性が悪化する傾向がある。一方、tanδを低減させる方法として、N550などの粒子径が比較的大きいカーボンブラックを使用する方法、カーボンブラックなどのフィラーの含有量を低減する方法、オイルの含有量を低減する方法があるが、Eが低下し、操縦安定性が悪化する傾向がある。また、押出し加工性が悪化し、ゴムの形状が経時的に変化し易くなったり、押出し加工後のゴムのエッジが整わなくなるなどの問題が発生する場合もある。このように、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性は相反する関係にあり、これらの性能をバランス良く改善することは困難であった。
【0004】
このような問題を解決する技術として、特許文献1には、天然ゴムなどを含むゴム成分に対して、(変性)フェノール樹脂、硫黄を配合することが開示されている。しかし、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性の更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−302865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性をバランス良く改善できるビードエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム成分と、カーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂とを含み、上記カーボンブラックのBET比表面積が25〜50m/gであり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記カーボンブラックの含有量が40〜80質量部、上記無機フィラーの含有量が3〜30質量部であるビードエイペックス用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記ゴム組成物は、下記式(1)で示されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含むことが好ましい。
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を示す。x及びyは、同一若しくは異なって、1〜3の整数を示す。mは0〜250の整数を示す。)
【0009】
上記無機フィラーの平均粒子径が100μm以下であることが好ましい。
【0010】
上記フェノール系樹脂がフェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂であることが好ましい。
【0011】
上記ゴム成分100質量部に対する上記フェノール樹脂及び上記変性フェノール樹脂の合計含有量が5〜18質量部であることが好ましい。
【0012】
上記ゴム成分100質量部に対して、上記カーボンブラック、上記無機フィラー及び上記シリカの合計含有量が50〜120質量部、硫黄の含有量が4〜8質量部、オイルの含有量が5質量部以下であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したビードエイペックスを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ゴム成分と、特定のBET比表面積を有するカーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂とを含むビードエイペックス用ゴム組成物であるので、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性をバランス良く改善できる。よって、これらの性能に優れた空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のビードエイペックス用ゴム組成物は、ゴム成分と、カーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂とを含み、上記カーボンブラックのBET比表面積が25〜50m/gであり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記カーボンブラックの含有量が40〜80質量部、上記無機フィラーの含有量が3〜30質量部である。
【0016】
ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性を良好に改善できるという点から、NR、IR、BR、SBRが好ましく、NR、BR及びSBRの併用、NR、IR及びSBRの併用がより好ましい。
【0017】
BRとしては特に限定されず、例えば、高シス含有量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)などを使用できる。なかでも、内在した配向性の結晶成分により、押出し加工性を大きく改善できるという点から、SPB含有BRが好ましい。
【0018】
SPB含有BRを使用する場合、SPB含有BR中におけるSPBの含有率は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは12質量%以上である。8質量%未満では、押出し加工性の改善効果が充分に得られないおそれがある。上記含有率は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。20質量%を超えると、押出し加工性が悪化する傾向がある。
なお、SPB含有BR中のSPB含有率は、沸騰n−ヘキサン不溶物量により示される。
【0019】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)などを使用できる。なかでも、カーボンブラックを良好に分散でき、加工性が良いという点から、E−SBRが好ましい。
【0020】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、充分な硬度が得られない傾向がある。また、該スチレン含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。40質量%を超えると、低燃費性が低下する傾向がある。
【0021】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。20質量%未満であると、充分な破断強度が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%を超えると、充分な硬度が得られないおそれがある。また、加硫速度が早くなり、押出し時にスコーチが発生し易くなる傾向がある。
【0022】
ゴム成分100質量%中のIRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、加工性改善効果が少ない傾向がある。該含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。50質量%を超えると、NRと比較して、破断伸びが悪化する傾向がある。
【0023】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、充分な耐久性を確保できないおそれがある。該含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。50質量%を超えると、押出し加工性が悪化したり、破断伸びが悪化する傾向がある。
【0024】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。15質量%未満であると、押出し加工性を充分に改善できないおそれがある。また、充分な硬度が得られないおそれもある。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。60質量%を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0025】
本発明のゴム組成物は、特定のBET比表面積を有するカーボンブラックを含む。
【0026】
上記カーボンブラックのBET比表面積は、25m/g以上、好ましくは35m/g以上、より好ましくは40m/g以上である。25m/g未満では、操縦安定性を充分に改善できないおそれがある。該BET比表面積は、50m/g以下、好ましくは45m/g以下である。50m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのBET比表面積は、ASTM D6556に準拠して測定される。
【0027】
上記カーボンブラックのCOAN(圧縮による油吸収量(compressed oil absorption number))は、好ましくは85ml/100g以上、より好ましくは100ml/100g以上である。85ml/100g未満では、操縦安定性を充分に改善できないおそれがある。該COANは、好ましくは130ml/100g以下、より好ましくは120ml/100g以下である。130ml/100gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのCOANは、ASTM D3493に準拠して測定される。また、使用オイルはジブチルフタレート(DBP)である。
【0028】
上記カーボンブラックのDBP吸油量(OAN)は、好ましくは100ml/100g以上、より好ましくは130ml/100g以上である。100ml/100g未満であると、操縦安定性を充分に改善できないおそれがある。該DBP吸油量は、好ましくは250ml/100g以下、より好ましくは200ml/100g以下である。250ml/100gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのDBP吸油量(OAN)は、ASTM D2414に準拠して測定される。
【0029】
上記カーボンブラックは、ファーネス法やチャンネル法などの従来から公知の方法により製造できる。
【0030】
上記カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上、好ましくは55質量部以上、より好ましくは65質量部以上である。40質量部未満では、操縦安定性を充分に改善できないおそれがある。該含有量は、80質量部以下、より好ましくは77質量部以下である。80質量部を超えると、カーボンブラックの分散性が低下し、充分な低燃費性が得られないおそれがある。また、押出し時の発熱が大きくなり、スコーチが発生し易くなったり、押出し物のエッジ形状に問題が生じ易くなる傾向もある。
【0031】
本発明のゴム組成物は、シリカ以外の無機フィラーを含有する。該無機フィラーを含有することで、操縦安定性及び低燃費性を良好に確保しながら、押出し加工性を改善し、これらの性能をバランス良く改善することができる。
【0032】
上記無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、ハードクレー、オースチンブラック、フライアッシュ、マイカ、などが挙げられる。なかでも、自己凝集性が低いため、走行時に破壊核となりにくく、良好な耐久性が得られる点、更に、押出し加工性(特に、押出しエッジ性)の改善効果も高いという点から、炭酸カルシウムやタルクが好ましい。炭酸カルシウムは、SPB含有BR中のSPBと同様の働きをすることにより、このような優れた効果を発揮すると推測される。また、タルクは、モース硬度1と最も柔らかく、加工性の面で望ましい。
【0033】
上記無機フィラーの平均粒子径(平均一次粒子径)は、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。100μmを超えると、走行時に無機フィラーが破壊核となりやすく、耐久性が悪化する傾向がある。無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。1μm未満であると、押し出し時の加工性向上が十分でないおそれがある。
なお、本明細書において、無機フィラーの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)で測定される値である。
【0034】
上記無機フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは12質量部以上である。3質量部未満では、押出し加工性を充分に改善できないおそれがある。該含有量は、30質量部以下、好ましくは20質量部以下である。30質量部を超えると、tanδが増加したり、破断強度が低下する傾向がある。
【0035】
シリカを配合したゴム組成物は、押し出し時に真っすぐ押し出せても、得られるビードエイペックスのエッジ部が経時的にシュリンクし、エッジ部が倒れ込む(折れ曲がる)傾向がある。また、シリカを配合しても、他の無機フィラーのような押出し加工性の改善効果を充分に得られない傾向がある。更に、シリカとフェノール系樹脂は相溶性が悪く、E(Hs)を充分に高くできないおそれもある。従って、シリカの含有量は、出来るだけ少なくすることが好ましい。本発明のゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0質量部(実質的に含有しない)である。
【0036】
上記カーボンブラック、上記無機フィラー及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上である。また、該合計含有量は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは110質量部以下である。上記範囲内であれば、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性を高次元でバランス良く改善できる。
【0037】
本発明のゴム組成物は、フェノール系樹脂を含み、該フェノール系樹脂としては、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、クレゾール樹脂、変性クレゾール樹脂などが挙げられる。上記フェノール樹脂は、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるものであり、上記変性フェノール樹脂は、カシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどの化合物を用いて変性したフェノール樹脂である。
【0038】
フェノール系樹脂としては、硬化反応により充分な硬度が得られることで硬い複合球体が形成される点、又は大きな複合球体が形成される点から、変性フェノール樹脂が好ましく、カシューオイル変性フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂がより好ましい。
【0039】
上記カシューオイル変性フェノール樹脂としては、下記式(2)で示されるものを好適に使用できる。
【化2】

【0040】
式(2)中、pは、反応性が良く、分散性が向上する点で、1〜9の整数であり、5〜6が好ましい。
【0041】
上記フェノール系樹脂として、フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂に加えて、更に非反応性アルキルフェノール樹脂を使用することが好ましい。非反応性アルキルフェノール樹脂は、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂と相溶性が高く、フェノール系樹脂とフィラーで形成される複合球体の軟化を抑制できるため、操縦安定性の低下を抑制できる。また、良好な押出し加工性(特に粘着性)も得られる。非反応性アルキルフェノール樹脂とは、鎖中のベンゼン環の水酸基のオルソ位及びパラ位(特にパラ位)において反応点を有さないアルキルフェノール樹脂をいう。ここで、非反応性アルキルフェノール樹脂としては、下記式(3)又は(4)で示されるものを好適に使用できる。
【0042】
【化3】

【0043】
式(3)中、qは整数である。適度なブルーム性という点で、qは1〜10が好ましく、2〜9がより好ましい。Rは、同一又は異なって、アルキル基を表し、ゴムとの親和性という点で、その炭素数は4〜15が好ましく、6〜10がより好ましい。
【0044】
【化4】

【0045】
式(4)中、rは整数である。適度なブルーム性という点で、rは1〜10が好ましく、2〜9がより好ましい。
【0046】
フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。5質量部未満であると、充分な硬度が得られないおそれがある。該合計含有量は、好ましくは18質量部以下、より好ましくは16質量部以下である。18質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0047】
非反応性アルキルフェノール樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満であると、充分な粘着性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。7質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。また、充分な硬度が得られないおそれもある。
【0048】
フェノール系樹脂の含有量(前述の樹脂の合計量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。5質量部未満であると、充分な硬度が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。30質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0049】
本発明のゴム組成物は、通常、フェノール系樹脂の硬化作用を有する硬化剤を含む。これにより、フェノール系樹脂が架橋された複合球体が形成され、本発明の効果が良好に得られる。上記硬化剤としては、上記硬化作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)、メラミン、メチロールメラミンなどが挙げられる。なかでも、フェノール樹脂の硬度を上昇させる作用に優れるという点から、HMT、HMMM、HMMPMEが好ましい。
【0050】
硬化剤の含有量は、フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の合計量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。1質量部未満であると、充分に硬化できない場合がある。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、硬化が不均一になるおそれや、押出し時にスコーチが発生するおそれがある。
【0051】
本発明のゴム組成物は、下記式(1)で示されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含むことが好ましい。特定のBET比表面積を有するカーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂ともに、該アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合することで、通常の硫黄架橋に比べて熱的に安定な架橋構造を形成し、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性だけでなく、耐久性も改善することができる。また、上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物は、フレキシス社製のPERKALINK900(1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)、DURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)などの他の架橋剤と比較して各性能の改善効果が高く、特に、Eを高くして、操縦安定性を大きく改善することができる。
【化5】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を示す。x及びyは、同一若しくは異なって、1〜3の整数を示す。mは0〜250の整数を示す。)
【0052】
mは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、0〜250の整数であり、0〜100の整数が好ましく、10〜100の整数がより好ましく、20〜50の整数が更に好ましい。x及びyは、高硬度が効率良く発現できる(リバージョン抑制)点から、1〜3の整数であり、ともに2が好ましい。R〜Rは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、炭素数5〜12のアルキル基であり、炭素数6〜9のアルキル基が好ましい。
【0053】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物は、公知の方法で調製することができ、特に制限されないが、例えば、アルキルフェノールと塩化硫黄とを、モル比1:0.9〜1.25などで反応させる方法などが挙げられる。
【0054】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例として、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(下記式(1a))などが挙げられる。
【0055】
【化6】

(式中、mは0〜100の整数を表す。)
【0056】
なお、上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の硫黄含有率は、燃焼炉で800〜1000℃に加熱し、SOガス又はSOガスに変換後、ガス発生量から光学的に定量し、求めた割合をいう。
【0057】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上である。0.5質量部未満であると、上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合した効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは2.5質量部以下、より好ましくは1.8質量部以下である。2.5質量部を超えると、破断伸びが低下するおそれがある。
【0058】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル、ステアリン酸、各種老化防止剤、亜鉛華、硫黄、加硫促進剤、遅延剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0059】
本発明では、特段オイルを配合しなくても、特定のカーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂の併用、更に必要に応じて特定のアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合することにより、優れた押出し加工性が得られる。そのため、オイル量を減量でき、低燃費性、操縦安定性が高い次元で得られる。ここで、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0質量部(実質的に含有しない)である。
【0060】
本発明のゴム組成物は、通常、硫黄を含む。硫黄の含有量は、操縦安定性に優れるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。該含有量は、硫黄のブルームや粘着性、耐久性の点から、好ましくは8質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。
なお、硫黄の含有量は、純硫黄分量であり、不溶性硫黄を用いる場合はオイル分を除いた含有量である。
【0061】
本発明のゴム組成物は、通常、加硫促進剤を含む。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上であり、好ましくは3.5質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは2.8質量部以下である。上記範囲内であれば、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性を高次元でバランス良く改善できる。
【0062】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0063】
本発明のゴム組成物は、ビードコアから半径方向外側にのびるように、タイヤクリンチの内側に配されるビードエイペックスに使用される。具体的には、特開2008−38140号公報の図1〜3、特開2004−339287号公報の図1などに示される部材に使用される。
【0064】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造できる。すなわち、ゴム組成物を未加硫の段階でビードエイペックスの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0065】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、重荷重車、モトクロスなどに使用することができ、特にモトクロスに好適に使用できる。
【実施例】
【0066】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0067】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
IR:日本ゼオン(株)製のNipol IR2200
BR1:宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR、ML1+4(100℃):62、沸騰n−ヘキサン不溶物量:17質量%)
BR2:宇部興産(株)製のBR150−B
SBR:JSR(株)製の乳化重合SBR(E−SBR)1502(スチレン含量:23.5質量%)
カーボンブラック:表1
炭酸カルシウム:竹原化学工業(株)製のタンカル200(平均粒子径:7.0μm)
タルク:日本ミストロン(株)製のミストロンベーパー(平均粒子径:5.5μm)
オースチンブラック:コールフィラー製のオースチンブラック(炭素含量:77質量%、オイル量:17質量%、平均粒子径:5μm)
ハードクレー:サウスイースタン・クレー社製のクラウンクレー(平均粒子径:0.6μm)
シリカ:ローディア社製のZ115Gr
アルキルフェノール樹脂:(株)日本触媒製のSP1068(上記式(3)で表される非反応性アルキルフェノール樹脂:q=1〜10の整数、R=オクチル基)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(6PPD)
ステアリン酸:日油(株)製
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製
硫黄:フレキシス社製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%及びオイル分20質量%含む不溶性硫黄)
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
CTP:大内新興化学工業(株)製のN−シクロヘキシルチオ−フタルアミド(CTP)
変性フェノール樹脂:住友ベークライト(株)製のPR12686(上記式(2)で表されるカシューオイル変性フェノール樹脂)
V200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(式(1)で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、m:0〜100、x及びy:2、R〜R:C17(オクチル基)、硫黄含有率:24質量%)
PK900:フレキシス社製のPERKALINK900(1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)
HTS:フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)
HMT(硬化剤):大内新興化学工業(株)製のノクセラーH(ヘキサメチレンテトラミン)
【0068】
【表1】

【0069】
<実施例及び比較例>
表2、3に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄、加硫促進剤、V200、PK900、HTS及び硬化剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤、V200、PK900、HTS及び硬化剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0070】
また、得られた未加硫ゴム組成物をビードエイペックスの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫し、多目的スポーツ車用タイヤ(SUV用タイヤ、サイズP265/65R17 110S)を製造した。
【0071】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、SUV用タイヤ(新品、慣らし走行品)について下記の評価を行った。結果を表2、3に示す。
【0072】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、SUV用タイヤから得た試験片の複素弾性率(E)及び損失正接(tanδ)を測定した。Eが大きいほど剛性が高く、操縦安定性が優れることを示し、tanδが小さいほど低燃費性に優れることを示す。
【0073】
(操縦安定性(ハンドル応答性))
路面温度が25℃のドライアスファルト路面のテストコースにてそれぞれ実車走行を行い、その際の操縦安定性(微小操舵角変化に対する車両の応答性)をテストドライバーが6段階で官能評価した。なお、数値が大きいほど操縦安定性が良好であり、4+及び6+はそれぞれ4及び6より少し優れていることを示す。
【0074】
(転がり抵抗試験)
25℃の条件下で、上記SUV用タイヤ(P265/65R17 110S、17×7.5)をドラム上、荷重4.9N、タイヤの内圧2.00kPa、速度80km/時間の条件で走行させて転がり抵抗を測定した。下記計算式により比較例1の転がり抵抗を基準とし、各配合の転がり抵抗と比較し、指数化した。
なお、指数がマイナスである(低い)ほど、転がり抵抗特性が改善されたことを示す。
転がり抵抗低下率=(各配合の転がり抵抗−比較例1の転がり抵抗)/比較例1の転がり抵抗×100
【0075】
(耐久性指数)
JIS規格の最大荷重(最大内圧条件)の230%荷重の条件で、SUV用タイヤを速度20km/hでドラム走行させ、ビードエイペックス部の膨れ発生までの走行距離を測定した。比較例1の走行距離の測定値を100として、各配合の測定値をそれぞれ指数表示した。数値が大きいほど、耐久性が優れ、良好であることを示す。
(耐久性指数)=(各配合の走行距離)/(比較例1の走行距離)×100
【0076】
(押出し真っ直ぐ性指数)
未加硫ゴム組成物について、成形押出機を用いて押出し成形を行い、押出し後の各未加硫ゴム組成物を所定のビードエイペックスの形状に成形した成形品の先端の反りを目視により評価した。反りの評価は、1〜5の5段階で評価し、最も反りがない状態(ビードワイヤーに対して垂直な状態)を5とし、最も反りがある状態を1とし、比較例1を100として指数表示した。したがって、数値が大きいほど、押出し加工性に優れることを示している。
【0077】
(押出しエッジ性指数)
未加硫ゴム組成物について、成形押出機を用いて押出し成形を行い、押出し後の各未加硫ゴム組成物を所定のビードエイペックスの形状に成形した成形品のエッジ状態を目視により評価した。押出し形状の評価は、1〜5の5段階で評価し、最もエッジが真っ直ぐで滑らかな状態を5とし、最も凹凸が大きい状態を1とし、比較例1を100として指数表示した。したがって、数値が大きいほど、押出し加工性に優れることを示している。
【0078】
(粘着性指数)
未加硫ゴム組成物をビードエイペックスに押出し成型後、成型物のゴム表面とタイヤ用ケースコード被覆用ゴムとの粘着性を成型者の官能評価(粘着性と平坦性の両方)し、指数化した。粘着性指数が大きいほど、ケースとビードエイペックスの密着度が良く、成形加工性がよい。また、粘着性指数が小さいと、ケースとビードエイペックスが剥離したり、エアー溜りが発生する。
なお、粘着性は、通常、成型物の押出し温度(自己発熱温度)、粘着レジン種やその含有量、ゴム成分やその含有量などにより定まる。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
特定のBET比表面積を有するカーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂とを配合した実施例では、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性をバランス良く改善できた。無機フィラーとして炭酸カルシウムを使用した実施例や、ゴム成分としてIR、VCRを使用した実施例は、操縦安定性、低燃費性及び押出し加工性の改善効果が大きく、更に、耐久性も優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、カーボンブラックと、シリカ以外の無機フィラーと、フェノール系樹脂とを含み、
前記カーボンブラックのBET比表面積が25〜50m/gであり、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が40〜80質量部、前記無機フィラーの含有量が3〜30質量部であるビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項2】
下記式(1)で示されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含む請求項1記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を示す。x及びyは、同一若しくは異なって、1〜3の整数を示す。mは0〜250の整数を示す。)
【請求項3】
前記無機フィラーの平均粒子径が100μm以下である請求項1又は2記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項4】
前記フェノール系樹脂がフェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対する前記フェノール樹脂及び前記変性フェノール樹脂の合計含有量が5〜18質量部である請求項4記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラック、前記無機フィラー及び前記シリカの合計含有量が50〜120質量部、硫黄の含有量が4〜8質量部、オイルの含有量が5質量部以下である請求項1〜5のいずれかに記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したビードエイペックスを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−207200(P2012−207200A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247878(P2011−247878)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】