説明

ビームから中性物質を除去する収差補正のウィーンE×B質量フィルタ

【課題】複数のイオン源から所望のイオン種を色収差なく選別する集束イオンビーム装置用の質量フィルタを提供する。
【解決手段】イオン源114により生成された複数のイオン110は、上部レンズ106により略平行なビーム310となり質量フィルタ304に入射する。質量フィルタ304は、互いの中心軸がオフセットされた上部EXBフィルタ306Uおよび下部EXBフィルタ306Lより構成され、ビーム310を質量毎に分離偏向した後、光軸380に平行な軌道として出射する。この際、上部EXBフィルタ306Uにより生じる色収差は下部EXBフィルタ306Lにより打ち消される。その後、質量分離アパーチャ342により所望のイオン332のみを通過させ下部レンズ108により基板112上に集束する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームシステムに関し、特に、複数のイオン種を生成するイオン源を備える集束イオンビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの集束イオンビーム(FIB)カラムは、複数のイオン種を放出するイオン源を使用するように設計されている。基板上に集束されるビームについて、これらのイオン種のうち一つだけを選択するため、FIBカラムには一般的には質量フィルタが含まれる。質量フィルタの一種である「ウィーンフィルタ」は、交差する電場と磁場(E×B)を用い、不要なイオン種を軸外に偏向させて、不要なイオン種を質量分離アパーチャに衝突させる。「ウィーンフィルタ」は「E×Bフィルタ」とも呼ばれる。E×Bフィルタ102は、当技術分野でよく知られている原理に従って動作する。つまり、交差する電場及び磁場(一般的にはどちらも質量フィルタを通過するビーム方向に対して垂直である)は、ビーム中のイオンに対し、ビームの動きに対して横方向に反対向きの力を与える。これら二つの力の相対的な強さは、電場及び磁場の強さによって定められ、これらは電極及び磁極にエネルギーを与える電圧及び電流の供給量によって制御される。
【0003】
図1は、集束イオンビーム(FIB)カラム104における従来のウィーン(E×B)質量フィルタ102の側断面図であり、FIBカラムは基板表面112上にイオンビームを集束させるよう組み合わされた上部レンズ106及び下部レンズ108を含む。三つの異なるイオン種を含むイオン110は、粒子源114の先端部と引出電極(図示せず)との間に印加される電圧によって誘導されて粒子源114の先端部から放出されるように示されている。この粒子源の構造は、典型的には液体金属イオン源(LMIS)であるが、この従来技術では他の形式のイオン源を用いることもある。次いで、イオン110は、上部レンズ106によって質量分離アパーチャ122の平面120に集束される。ウィーンフィルタ102は、静電場を形成する電極130と、コイル又は永久磁石など(磁極は図1の紙面の手前と向こう側にある)の磁場の発生源(図示せず)とを含む。ウィーンフィルタ102は、低質量イオン136及び高質量イオン138を軸から離すように偏向させ、中質量イオンを大きく偏向させない。そして、これらの中質量イオン140は、アパーチャ122を通過し、下部レンズ108によって基板表面112上に集束される。以下の式で示すように、低質量イオン136は、同じビームエネルギーにおいて、高質量イオン138より速度が大きい。電気力はすべてのイオン(同じ電荷を有する)に対して同一であるが、磁気力は速度に比例するので、高速な低質量イオン136は、低速な高質量イオン138よりも、磁場によってさらに大きく偏向する。したがって、低質量イオンは磁気力が作用する方向(左)へ偏向するが、高質量イオンは電気力が作用する方向(右)へ偏向する。中質量イオン140については、電気力と磁気力とが釣り合い(すなわち、反対方向に等しい大きさを有する)、合力が作用しない。
【0004】
図1では、電場142は紙面において横向きである(左側の正の電極130から右側の負の電極130へ向かう方向を指し、したがって正イオンに電気力が作用すると右へ偏向する)。一方、磁場144は、紙面に垂直に向こうから手前に向かう(正イオンに作用する左への力が生じる)。イオン源114が異なる質量電荷比で複数のイオン種を放出する場合、1種が偏向されずにE×B質量フィルタを通過するように電場142及び磁場144を設定することが可能である。図1では、この種は中質量イオン140に相当する。低質量イオン136と高質量イオン138は、図示のとおり、それぞれ、左側と右側に偏向する。中質量イオン140のみが質量分離アパーチャ122を通過し、次いで、下部レンズ108によって基板表面112上に集束する。E×B質量フィルタ102の上端と下端では、終端フィールドプレートが電場及び磁場を遮断し、それによってフリンジ電場による収差を低減させている。
【0005】
E×Bフィルタによって生じる収差についてより良く理解するため、図2には、図1に示した同一の二つのレンズのあるカラム104と従来技術のE×B質量フィルタ102から、質量分離アパーチャ板120(図1参照)を除いたものを示す。なお、異なる3種(高、中、低質量)のイオンは、ウィーンフィルタの偏向によって基板上の3つの異なる位置に集束する。また、同一の質量を有するがエネルギーが異なるイオンは、E×Bフィルタによって色収差が生じるため、異なるように偏向する。
【0006】
図示のようにアパーチャ板122がない場合、すべてのイオンが基板表面112に到達する。E×Bフィルタは、下部レンズの面において、低質量イオン136を左に偏向させ、高質量イオン138を右に偏向させる。E×B質量フィルタ102の質量分離の作用と組み合わされた上部レンズの集束の作用によって形成された三つのクロスオーバー(低質量のクロスオーバー236、中質量のクロスオーバー240、及び高質量のクロスオーバー238)は、下部レンズ108によって基板112上に結像して「仮想光源」を形成する。これらの3つの仮想光源はE×Bフィルタによって空間的に分離されており、それら三つの各像も図示のとおり基板112で分離している。基板112での分離の距離は、(除去された)質量分離アパーチャ板120の平面での対応するクロスオーバー236、240及び238の分離間隔からみれば、レンズ108によって縮小されている。同様に、E×Bの色収差は、同一の質量を有するがエネルギーが異なるイオンの分離を引き起こす。これは、E×Bフィルタでのイオン速度の(非相対論的な)方程式から見ることができる。
1/2m・v2=neV=イオンエネルギー
v=√(2neV/m)=イオン速度
ここで、
m=イオン質量
v=イオン速度
n=イオンの価数(1:1価のイオン、2:2価のイオン)
e=電気素量
V=電子銃の加速電圧
E×Bフィルタに二つの場がある場合、
E=電場
B=磁場
速度vでフィルタを通過したイオンに作用する合力は、
Fの合計=Felectric+Fmagnetic=n・e・[E−(v/c)・B]
ここで、
electric=n・e・E
magnetic=−n・e・(v/c)・B (Felectricとは方向が反対)
【0007】
したがって、ウィーンフィルタは、実際には速度フィルタであることが分かる。質量の異なるイオン(公称エネルギーは同じ)は異なる速度(低質量のものは速く、高質量のものは遅い)を有するため、ウィーンフィルタは、一般には「質量フィルタ」として利用される(またそう呼ばれる)。しかしながら、1種のイオンの場合であっても、いずれかのイオン源によって放出されたイオンのエネルギー(おおよそ公称エネルギー)には固有の幅があるので、速度に広がりがある。例えば、液体金属イオン源からのエネルギー幅は、典型的には、約5eVの半値全幅のエネルギー幅を有する。これらのエネルギー幅に起因するビームの分散の作用は色収差を引き起こし、それは補正されない限り基板で集束ビームをぼかしてしまう。
【0008】
図1に示されるイオンビームカラムのもう一つの欠点は、ビームのクロスオーバー、すなわち、ビームの経路内でそのイオンが光軸と交差する点を含むことである。クロスオーバーによって三つの有害な影響が生じる。
(1)クロスオーバーそれ自体によって各粒子が相互に接近するにつれて、静電反発力が増大する。
(2)クロスオーバーが生じると、(クロスオーバーなしの場合のビーム径と比較すると)一般的にビーム径はカラム全体にかけて小さいものとなり、また、空間電荷の作用が増大する。
(3)それらのビームがアパーチャ板の平面に集束するため、通過できないイオンビームの衝突点(例えば、クロスオーバー236及び238)で、質量分離アパーチャのスパッタリングが増大し、それによって、ビーム電流密度が増大し、質量分離アパーチャの平面に対して垂直な方向のスパッタ速度が増大する(換言すれば、選択されない集束ビームは、選択されないビームの集束しないビームよりも、高速にアパーチャをスパッタする)。
【0009】
クロスオーバーでの静電反発力はビームを拡散させ、基板表面でのビーム電流密度を低減させる。クロスオーバーでは、二つの別々の静電反発力の影響が生じる。
(1)ベルシュ効果(Boersch effect):軸上のビームの散乱に起因してビームのエネルギー幅が増大する。原則的には、一つのイオンは別のイオンのエネルギーの損失をもってエネルギーを得る。
(2)レフラー効果(Loeffler effect):荷電粒子の横方向への散乱であり、最終の焦点スポットが大きくなる、及び/又は、ぼやける。
【0010】
「コリメートビームの集束イオンビームカラム用の色収差のない2段のステージを有するE×B質量フィルタ(Achromatic two-stage E x B mass filter for a focused ion beam column with collimated beam)」Teichert,J.、Tiunov,M.A.著,「Measurement Science and Technology」第4巻(1993年)第754〜763頁によれば、以下で詳述するが、コリメートビームとともに用いられる色収差が少ない2段の質量フィルタが記載されている。
【0011】
図1に示すカラムのもう一つの問題は、集束しない中性粒子が基板表面112に到達可能であるということである。また、イオン源は偶発的に中性粒子を放出するが、他の中性粒子は、イオン源114の先端部と質量フィルタ102との間にガスイオンの衝突を生じさせることもある。図1のカラムにおいて、これら中性粒子の一部は、アパーチャ122を通過し、基板に到達することがある。中性粒子は集束レンズの場には反応しないので、アパーチャ板によって阻止されない中性粒子は、基板表面112の領域、典型的には、集束イオンビームによって走査される領域よりもはるかに大きい領域にかけて拡散してしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Teichert,J.、Tiunov,M.A.、「コリメートビームの集束イオンビームカラム用の色収差のない2段のステージを有するE×B質量フィルタ(Achromatic two-stage E x B mass filter for a focused ion beam column with collimated beam)」、測定科学技術(Measurement Science and Technology)、1993年7月、第4巻、第7号、p.754―764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、荷電粒子ビームシステムのための質量フィルタを改善することである。
【0014】
イオンビームシステムのための質量フィルタは、少なくとも2段であり、色収差を低減する。一実施形態は、色収差、並びに入射口及び出射口でのはみ出した場による収差を低減又は排除する一対の対称性のあるステージを含む。また、一実施形態では、中性粒子が試料表面に到達するのを防ぎ、ビーム経路中のクロスオーバーを排除することができる。ある実施形態では、フィルタは、複数のイオン種を生成する粒子源から1種のイオンを通過させることができる。他の実施形態では、フィルタは、質量分離アパーチャへのスパッタリングを低減させることができる。
【0015】
上記は、以下の本発明の特徴と技術的利点を概説したものであり、以下に記載された本発明の詳細な説明をより良く理解するためのものである。その他の本発明の特徴及び利点については以下に説明する。当業者によれば、ここに開示された概念及び特定の実施形態は、本発明と同様の目的を達成するために、改良や他の構成に変形する基礎として容易に利用できるものと理解される。また、当業者は、かかる均等な構成についても、添付された特許請求の範囲に記載された発明の趣旨と範囲から逸脱しないものと理解する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、質量フィルタを含むイオンビームカラムは、異なる質量電荷比のイオンを生成するイオン源と、イオン源からのイオンを第1軸に沿うビームに一次成形する第1レンズと、第1軸から離れるような第1のビーム偏向を形成する第1の質量フィルタステージであって、第1のビーム偏向がビーム中の各イオン毎の質量電荷比に基づくものであり、第1軸が第1質量フィルタステージの対称軸であり、第1軸と第1のビーム偏向の両方に垂直に向き、第1のビーム偏向に平行方向にオフセットされる回転対称軸と、回転対称軸の周りに180°回転して配置された第2の質量フィルタステージであって、第2の質量フィルタステージの対称軸が第2軸であり、第2の質量フィルタステージは第1のビーム偏向とは反対の第2のビーム偏向を形成し、異なる質量電荷比のイオンのうち一つが第2の質量フィルタステージを出射するように、第1及び第2の質量フィルタステージにおける偏向の合計が、第1軸と第2軸との間の距離に対応し、第2の質量フィルタステージからのすべてのイオンのうちの一部を通過させ、第2軸を中心として配置される質量分離アパーチャと、第2の質量フィルタからのイオンを受け取り、それらイオンを基板表面上に集束させる第2レンズと、を備え、第2の質量フィルタステージが基板表面での第1の質量フィルタステージからの色収差を打ち消す。
【0017】
本発明の一実施形態では、第1の質量フィルタステージ及び第2の質量フィルタステージがE×Bフィルタである。
【0018】
本発明の一実施形態では、イオン源が液体金属イオン源である。
【0019】
本発明の一実施形態では、イオン源がプラズマイオン源である。
【0020】
本発明の一実施形態では、イオンが第1の質量フィルタステージに略平行ビームとして入射する。
【0021】
本発明の一実施形態では、第2レンズステージが、無限遠方に置かれた仮想光源からの異なるエネルギーを有するイオンを集束させる。
【0022】
本発明の一実施形態では、第2の質量フィルタステージが、第1の質量フィルタステージからフリンジ電場による収差をおおむね打ち消す。
【0023】
本発明の他の態様によれば、異なる質量を有するイオンを生成するイオン源からのイオンビームを提供する方法は、イオン源から異なる質量を有するイオンを生成し、イオンをビームに形成し、イオンを第1の方向に偏向させ、その偏向をイオンの質量毎に異なるものとし、イオンを第2の方向に偏向させ、その偏向をイオンの質量毎に異なるものとし、イオンの質量毎に異なる第1の方向における偏向と、イオンの質量毎に異なる第2の方向における偏向とを打ち消し合って、異なる質量のイオンが2倍に偏向されて同一の方向に伝搬することを含む。
【0024】
本発明の一実施形態では、イオンを第1の方向に偏向させる際は、イオンを第1のE×B質量フィルタに通過させることを含み、イオンを第2の方向に偏向させる際は、イオンを第2のE×B質量フィルタに通過させることを含む。
【0025】
本発明の一実施形態では、イオンの一部がアパーチャを通過するが、他のイオンは阻止され、アパーチャの中心が第1のE×Bフィルタの光軸からオフセットされている。
【0026】
本発明とその利点をより完全に理解するため、添付の図面と併せて以下の説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】集束イオンビーム(FIB)カラムの二つのレンズの間の従来のウィーンE×B質量フィルタの側断面の概略図である。
【図2】図1の従来のFIBカラムから、すべてのイオン種が基板に到達できるように質量分離アパーチャを除いた場合の断面の概略図である。
【図3】収差補正の二重偏向のE×Bウィーン質量フィルタを含み、二つのレンズのFIBカラムを有する本発明の実施形態の側断面の概略図である。
【図4】図3の二つのレンズFIBカラムの側断面の概略図であり、通過するイオンビームの横方向の変位を示す。
【図5】図3の二つのレンズFIBカラムの側断面の概略図であり、すべてのイオン種が基板に到達できるように質量分離アパーチャを除いたものである。
【図6】二重偏向のE×B質量フィルタを含む二つのレンズのFIBカラムの側断面の概略図であり、静電偏向の誤差E1〜E4を有する通過イオンビームの軌道を示す。
【図7】二重偏向のE×B質量フィルタを含む二つのレンズのFIBカラムの側断面の概略図であり、磁気偏向の誤差M1〜M4を有する通過イオンビームの軌道を示す。
【図8】本発明の方法の好ましい実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態は、典型的な従来技術のイオンビームシステムよりも一つ以上の利点を提供することができる。すべての実施形態で、すべての利点が提供されるわけではない。本発明の一実施形態では、色収差を補正するE×B質量フィルタを提供する。本発明の一実施形態では、中性粒子が基板に到達するのを防ぐ。本発明の一実施形態では、イオンカラムにおけるビームのクロスオーバーの必要性を排除する。本発明の一実施形態では、電場及び磁場の入射口・出射口で生じるビーム収差を補正する。本発明の一実施形態では、質量分離アパーチャのスパッタリングを低減する。
【0029】
本発明の一実施形態は、ビームを一方向について軸から離す第1の偏向から生じる色収差を補正し、次いで、そのビームが元の経路と平行に、典型的には元の経路からオフセットもって、フィルタを出射できるように反対方向に戻し、これによって、以下に説明するように、色収差(以下の質量フィルタの集束光学系にて作用する)を本質的に打ち消すものである。このビーム偏向によれば質量フィルタを通過する直進経路がなくなるので、中性粒子が基板に到達することを阻止する。本発明の一実施形態は、2段のE×Bフィルタを含み、各々が質量フィルタのステージを構成する。本明細書で使用される用語「質量フィルタ」又は「E×Bフィルタ」は、文脈に応じて、複数の段を有するファイルの一段又はその複数の段をいう。また、用語「質量フィルタ」は、速度又はエネルギーに基づくフィルタも含むものである。
【0030】
多くの集束イオンビーム(FIB)の用途において、基板表面で最大の電流密度を達成することが望ましい。前述したように、ビーム電流密度は、ビーム経路中のクロスオーバーでの増加した空間電荷の散乱によって低減することがある。図3〜図7には、クロスオーバーを含まないFIBカラムの構造が示されており、それによって、ビーム電流密度を増加させることができる。
【0031】
一実施形態では、質量フィルタを含むイオンビームカラムは、異なる質量のイオンを生成するイオン源と、イオン源からのイオンを第1軸に沿うビームに一次成形する第1レンズと、第1軸から離れるような第1のビーム偏向を形成する第1の質量フィルタステージと、第1のビーム偏向とは反対の第2のビーム偏向を形成する第2の質量フィルタステージと、第2の質量フィルタステージからのすべてのイオンのうちの一部を通過させる質量分離アパーチャと、第2の質量フィルタからのイオンを受け取り、それらのイオンを基板表面上に集束させる第2レンズと、を備え、第2の質量フィルタステージが第1の質量フィルタステージからの色収差をおおむね打ち消すものである。
【0032】
図3は、収差補正の質量フィルタ304を有するイオンカラム302を示し、質量フィルタ304は、2段であって、上部E×Bフィルタ306Uと下部E×Bフィルタ306Lを有する。図1及び図2のように、イオン110は、イオン源114の先端部から放出される。このイオン源の構造は、液体金属イオン源(LMIS)の典型的な構造であるが、本発明には他のタイプのイオン源を使用してもよい。次いで、イオン100は、上部レンズ106によって略平行なビーム310に集束さる。完全に平行なビーム310では、ビーム310内の各イオンの軌跡は、光軸380に沿ってマイナス無限遠方に置かれた仮想光源(図示せず)に戻るように外挿されてもよい。「略平行」なビームは、マイナス方向の無限遠方に置かれた仮想光源を考えなくてよいビームであるが、外挿されたイオンの軌跡は、やはりイオン源の先端部(上方又は下方)からイオンカラム302の全長に対して少なくとも3倍の位置で光軸380と交差する。上部E×Bフィルタ306Uは、電極314U、終端フィールドプレート316U、及び磁場の発生源(図示せず)を含む。電極314Uは、図の平面において電場を形成し、これは矢印320Uによって示される(左側の正の電極314Uから右側の負の電極314Uを指し示し、正のイオンに右方向に作用する電気力を形成する)。磁場の発生源は、紙面から手前に向かう磁場を形成し、これは丸印322Uで示される(正イオンに対して左側に向う磁気力を形成する)。下部E×Bフィルタ306Lは、電極314L、終端フィールドプレート316L、及び、磁場の発生源(図示せず)を含む。電極314Lは、紙面において矢印320Lによって示される電場を形成し、これは上部E×Bフィルタ306Uの電場320Uと大きさが等しく、方向が反対である。下部E×Bフィルタ306Lの磁場の発生源は、バツ印322Lによって示されるような紙面の向こう側に進む磁場を形成し、上部E×Bフィルタ306Uの磁場322Uと方向が反対で大きさが等しい。下部E×Bフィルタ306Lは、上部E×Bフィルタ306Uと対称であり、通常、同一の構造を有し(180°回転させ、対称軸からオフセット距離326をとる。これは、図4のオフセット402及び404に対応する)、方向が反対で大きさが等しい電場及び磁場を形成する。
【0033】
イオン310は図示のように四つの異なるイオン種を含む。すなわち、低質量イオン330、中低質量イオン332、中高質量イオン334、及び高質量イオン336である。低質量イオン330、中高質量イオン334、及び高質量イオン336は、質量分離アパーチャ板340に衝突し、アパーチャ342を通過して下部レンズ108に到達しない。中低質量イオン332は、図示のように、上部E×Bフィルタ306Uと下部E×Bフィルタ306Lの両方を通過する。次いで、イオン332は、質量分離アパーチャ342を通過し、下部レンズ108によって基板表面312上に集束される。従来技術では、E×Bフィルタは、所望のイオン(本例では中低質量)を一般的には偏向させないで通過させるように調整される。図3の実施形態では、所望のイオンは偏向されてアパーチャ342を通過し、一部の望ましくないイオン(本例では、中高質量334)は、中性粒子346とともに、偏向されないでアパーチャ板340に衝突する。他の望ましくないイオンは、磁場によって大きく偏向されるか(例えば、低質量330)、あるいは小さく偏向されて(例えば、高質量336)、アパーチャ342を通過することができない。
【0034】
中性粒子346は、E×B質量フィルタ304の電場及び磁場によって偏向されず、このため、真っすぐ通過し、アパーチャ板340の孔342(E×Bフィルタ304の出射口の軸を規定する)がE×Bフィルタ304の入射軸380から変位量326だけずらして設けられているので、質量分離アパーチャ板340に衝突する。図3の概略図では、レンズ106によって偏向されない中性粒子について、基板312への経路が存在しないことが明確にはなっていないが、実際のシステムの幾何構造では、上部E×Bフィルタ306Uへの入射口側のアパーチャ、及び/又は、カラムにおける質量フィルタ304の下方のいずれかのアパーチャのような当業者によく知られている様々な手段によって、その経路が排除されている。通常、終端フィールドプレート316U及び316Lは、イオンが入射、出射するための開口をもって構成され、その開口はアパーチャとして機能するのに十分に小さいものである。アパーチャ板340に衝突するイオンは一点に集束するものではないので、イオンスパッタリングによって引き起こされるアパーチャ板のプレートの損傷は、広範囲に拡散したものとなる。したがって、アパーチャ板340について、阻止されたイオンによって板に望ましくないスパッタの孔が生じる可能性は低いので、アパーチャ板340は長持ちするのである。
【0035】
図4は、中低質量イオン332の経路だけを示したものであり、上部E×B306Uを通過する間は左側へ変位量A(402)だけ移動し、下部E×B306Lを通過する間も同じ変位量A(404)だけ変位する。変位量402と404とを合わせると2Aであり、ビーム332がアパーチャ342(これも距離2Aだけオフセットされている)を通過することを可能にし、それによって、ビーム332は基板112の表面上に集束されるように下部レンズ108に入射する。上部E×B質量フィルタ306Uと下部E×B質量フィルタ306Lは、図示のとおり、同一であって、2回回転対称軸406の周りに相対的にそれぞれ180°回転して配置されている。対称軸406は、上部E×B306Uの軸と、質量分離の方向(電場320Uに平行)との両方に垂直であり、質量分離の方向に沿って距離A(404)だけ上部E×B306Uの軸からオフセットされている。したがって、中低質量イオン332は、上部E×B306Uの中心線上に入射し、下部E×B306Lの中心線上から出射する。
【0036】
本発明の2段の質量フィルタの構成は、図4に示すように、いくつかの重要な設計要素を一緒に組み合わせた点で従来技術とは異なるものであり、それらの要素のうちのいくつかは従来技術では見られない。
【0037】
(1)アパーチャ板340の質量分離アパーチャ342は、質量フィルタ304の入射軸から距離2Aだけ側方にオフセットされている。
【0038】
(2)質量フィルタ304は、質量フィルタ304の入射軸と出射軸の両方から距離Aだけオフセットされた回転対称軸406を有する。
【0039】
(3)下部E×Bフィルタ306Lは、対称軸406の周りに、上部E×B質量フィルタに対して相対的に180°回転したものである。このため、対称性によれば、イオンビームが上部E×B306Uを通過する間に生じるいずれの収差も、イオンビームが下部E×B306Lを通過するときに原則的には反対の方向へ打ち消される傾向がある(二つのE×Bフィルタ306Uと306Lが180°相対する向きであるため)。対称軸の上部E×B306Uの側では、イオンビームは軸上に入射し、軸から距離A(404)で出射する。対称軸の下部E×B306Lの側では、ビームは軸から同一の距離A(402)で入射するが、軸上で出射する。
【0040】
(4)下部E×Bフィルタ306Lの軸は、上部E×Bフィルタ306Uに対して、イオンビームが上部E×B306U側の対称軸で入射し、下部E×Bフィルタ306L側の対称軸で出射するようにオフセットされている。
【0041】
(5)質量フィルタの内部又は下方にはクロスオーバーがなく、それによって、空間電荷の影響及びアパーチャのスパッタリングが低減する。
【0042】
従来技術の複数のE×B構成部を含む質量フィルタでは、個々のE×B構成部の対称軸は、図4に示すようにはオフセットされておらず、個々のE×B構成部は、収差を打ち消すように回転対称性を用いて180°相対する向きに配置されてはいない。複数のE×B構成部を含む従来技術の質量フィルタは、複数のE×B構成部(及び質量分離アパーチャ)がすべて同一の軸上に配置され、それらの間には相対的な回転の配位がないものとして記述されている。複数のE×B構成部を含む従来技術の質量フィルタの一例が「コリメートビームの集束イオンビームカラム用の色収差のない2段のステージを有するE×B質量フィルタ(Achromatic two-stage E x B mass filter for a focused ion beam column with collimated beam)」Teichert,J.、Tiunov,M.A.著,「Measurement Science and Technology」第4巻(1993年)第754〜763頁に示されており、そこでは、二つのE×B構成部が以下のように述べられている。
(1)それらの入射対称軸と出射対称軸とで相対的なオフセットなし。
(2)各E×B構成部の180°の相対なし。
(3)対称軸に沿った二つのE×B構成部の間の可変のビームアパーチャ。このアパーチャはいくつかの軌道をブロックする傾向がある。
(4)E×B構成部の両方の集束の作用を補正するための二つのE×B構成部の間の非点収差補正装置。
(5)質量分離アパーチャのオフセットなし。二つのE×B構成部及び質量分離アパーチャはすべて同軸。
【0043】
Teichertの報告には、組み合わされたE×B質量フィルタの詳細な収差の数式と収差の計算が含まれているが、これらの収差を低減するための基礎的な対称性の利用(回転とE×B軸のオフセット)について言及がない。代わりに、「極片間隔、極片幅、電極幅及び電極間の間隔についての最適値」(第3章第2節)などの設計上の特性が考慮されている。二つのE×B構成部の間に位置する非点収差補正装置は、両方のE×B構成部の集束の作用を補償する。
【0044】
一実施形態では、シリコン・金合金液体金属イオン源(LMIS)114は、Si+、Si++、Si2++、Au+、Au++、Au2+、Au3++、AuSi+、AuSi++、Au2Si++、及びAu3Si++を生成することができ、各イオンは、各々、1/28、2/28、1/(2*28)、1/197、2/197、1/(2*197)、2/(3*197)、1/(197+28)、2/(197+28)、2/(2*197+28)、及び2/(3*197+28)の質量電荷比(単位は、電気素量/amu(atomic mass unit))を有する。上部E×Bフィルタ306Uは、約10mm離された電極314Uを含み、約600V/mmの電場強度を生成するようにそれらの間に約6000Vの電位差を有する。磁場強度322Uは、約4500ガウスである。電極314U及び314Lの長さは、ビーム軸に平行に32mmでよい。下部E×Bフィルタ306Lの設定は、上部E×Bフィルタ306Uの設定と同じであるが、電場及び磁場については大きさが同じであって極性が反対である。
【0045】
図5は、図3に示したものに類似のFIBカラムを示すが、すべてのイオン(低質量、中低質量、中高質量、及び高質量)が下部レンズへ通過し、基板の上に集束可能なように、質量分離アパーチャ板が除去されている。そして、この図によれば、色収差の補正がより良く理解できる(図1に対する図2と比較することができる)。下部E×B314Lから出射するすべてのイオンは、同一の仮想光源(マイナス無限遠)から分かれ出るように見えるため、すべてのイオンは、図3の中低質量イオンのように基板上の同じ位置に集束する(下部レンズの収差の影響は無視する)。また、すべての中低質量のイオンが、そのエネルギーには依存せずに、基板上の同じ位置に集束し、このため、E×Bウィーン質量フィルタにより生じる色収差が除去されることを意味する。つまり、異なる質量のイオンが基板112上の同じ位置に集束するだけでなく(質量分離アパーチャが存在しない場合)、質量が同じでエネルギーが異なるイオンが基板112上の同一のスポットに集束する(レンズ108の収差の影響は無視する)。したがって、図5の基板でのビームの位置を、図2のビームの位置と比較すると、二重偏向のE×Bフィルタの色収差の補正の動作が分かる。「略平行」なビーム330、332、334及び336の場合、仮想光源は先端部114からカラム302の長さの数倍に等しい距離(上方又は下方)になるが、同様のことが成り立つ。すなわち、すべてのビームは、同一の仮想光源の位置を有し、したがって、基板112上の同一のスポットに集束することとなる。
【0046】
したがって、本発明の二重偏向のE×Bウィーンフィルタは、すべてのビーム(各種の質量及び/エネルギーをもつ)についての仮想光源が、公称質量及び公称エネルギーを有するビーム(この例では、中低質量イオン342)についての仮想光源と同一の位置にあるように、仮想光源を保持することによって、イオンビームにおける色収差を補正する。
【0047】
従来技術ではE×Bフィルタの外側での電場及び磁場を低減するために終端プレートが使用されているが、E×Bフィルタの入射口と出射口でビームに悪影響を与える付帯的な場の変動が残ったままとなる。図3〜図5に示すような複数のE×Bフィルタを用いるシステムは、ビームに対するこれらの望ましくない場の影響を減らすことができる。E×Bフィルタ及び中低質量の軌道の対称性のレベルの重要性が図6〜図7に示されている。
【0048】
図6及び図7は、図3及び4のシステムにおけるイオン源と静電偏向及び磁気偏向で生じ得る誤差の補正を示している。図6は、上部のイオン源114から質量フィルタ304を通過して、次いで下部レンズ108によって基板表面112上に集束される中低質量332の軌道(湾曲した中心線)を示す。すべてのE×B質量フィルタには、電場及び磁場の両方がゼロからE×B領域内部の場の強度に変化する入射口と出射口の領域がある。これらの領域では、E×Bフィルタの中央領域(電場と磁場を伴う)から外側領域(電場と磁場がほぼゼロである)にかけて、場が可能な限り急激に終端するようにすることが一般的には有利である。このことは、図1及び図2のプレート150のような終端フィールドプレート、図3〜図7のプレート316U及び316Lなどを用いて実現される。
【0049】
しかしながら、終端プレートを用いたとしても、依然としていくつかの要因からこの領域に生じる収差が存在する。
(1)電場と磁場は正確に同じ比率では終端せず、したがって、イオンに対して正しくない合力が作用する。
(2)場が湾曲しており(すなわち、図1〜図7の紙面に対して、電場は平行でないし、磁場は垂直ではない)、その結果、ビーム偏向が紙面の外にはみ出る。
【0050】
図6には、上部E×B306Uと下部E×B306Lの電場による四つのビーム偏向誤差E1〜E4の例が示されている。収差E1〜E4は、上述した様々な要因から発生する可能性がある。上部E×B306Uでは、入射口での誤差E1は左方向であるが、出射口での誤差E2は右方向である。下部E×Bでは、入射口での誤差E3は左方向であるが、出射口での誤差E4は右方向である。ここで、図4に示された2回回転対称軸406周りについての上部E×B質量フィルタ306Uと下部E×B質量フィルタ306Lとの間の基本的な回転対称性を考察する。上部及び下部E×B質量フィルタが非常に正確に作られ、同一の形状を有していると仮定すると、機構的な誤差又は電位差の誤差により生じるいずれの収差を無視することができ、上部及び下部E×B質量フィルタの入射口と出射口での電場及び磁場の分布に対して、すべて誤差が根源的であると仮定できる対称性によって、以下のように保たれる関係が推測される。
E4=−E1
E3=−E2
【0051】
そして、本発明の二重偏向のE×B質量フィルタを通過する際の電場の誤差に起因するビームの収差の合計は以下のとおりとなる。
E1+E2+E3+E4=E1+E2+(−E2)+(−E1)=0
【0052】
したがって、上部及び下部E×Bフィルタの入射口及び出射口での電場の誤差によって生じる収差は、1次のオーダーに関しては(誤差の組合せは無視)、上部E×B306Uに入射するイオンと下部E×B306Lから出射するイオンとの間のビーム偏向に正確に対応するそれらの間のオフセット2Aを有する質量フィルタ304の全体的な対称性によって打ち消される。
【0053】
図7は、上部E×B306U及び下部E×Bの306Lの磁場に起因するビーム偏向の誤差M1〜M4の例を示す同様の図である。上部E×Bでは、入射口での誤差M1は右方向であるが、出射口での誤差M2は右下方向である。下部E×Bでは、入射口での誤差M3は左上方であるが、出射口での誤差M4は左方向である。繰り返すが、上部及び下部E×Bフィルタアセンブリの基本的な2回回転対称性によって、以下のように保たれる関係が生じる。
M4=−M1
M3=−M2
【0054】
本発明の二重偏向のE×B質量フィルタを貫く磁場の誤差に起因するビーム収差の合計は次のとおりとなるので、
M1+M2+M3+M4=M1+M2+(−M2)+(−M1)=0
【0055】
したがって、上部及び下部E×Bフィルタの入射口と出射口での磁場の誤差M1〜M4から生じる収差も、1次のオーダーに関しては(誤差の組み合わせは無視)、図6の誤差E1〜E4から生じる電場の場合と同様に打ち消される。
【0056】
したがって、本発明の実施形態の二重偏向のE×B質量フィルタでは、従来技術に比べて以下の重要な利点を提供できる可能性がある。
(1)ビームのクロスオーバーを伴わない平行又は略平行ビームでの動作。
(2)質量フィルタから出射するビームからの中性粒子の除去。
(3)質量フィルタを通過するすべてのイオンの仮想光源の位置が保たれることによる色収差の打ち消し。
(4)電場及び磁場の終端の誤差から生じる入射口及び出射口での収差の低減。
(5)イオンビーム電流密度の拡散による質量分離アパーチャへのスパッタの低減。
(6)クロスオーバーを伴わないことによる空間電荷のビームエネルギーと拡散の低減。
【0057】
図8は、本発明の方法の好ましい実施形態を示す。ステップ802では、異なる質量を有するイオンを生成するイオン源を準備する。ステップ804では、イオン源からの各イオンをビームに成形する。ステップ806では、各イオンを第1の方向に偏向させる。その偏向はイオンの質量毎に異なる。ステップ808では、各イオンは第2の方向に偏向させる。その偏向はイオンの質量毎に異なり、イオンの質量毎に異なる第1の方向における偏向と、イオンの質量毎に異なる第2の方向における偏向とが打ち消し合って、そのため異なる質量を有する各イオンは2倍に偏向して同一の方向に伝搬する。
【0058】
二つの実施形態を説明したが、この質量フィルタは、終端フィールド板の別の設計及びコンセプトを含むこと、磁場を生成する別の方法(永久磁石及び/又は電磁石)を含むこと、及び別の極片(本願と同時に出願され、本発明の譲受人に譲渡された「大開口ウィーンE×Bフィルタ」(Wide Aperture Wien ExB Mass Filter)を参照)を含んでもよいことを当業者は容易に理解するであろう。
【0059】
本実施形態では、エミッタ先端部を有するイオンを使用した場合を説明するが、エミッタ先端部を持たないイオン源(プラズマイオン源など)もまた本発明の実施形態に適用できる。
【0060】
図3及び図4の実施形態では、ビームのクロスオーバーを持たないイオンカラムを示すが、一つ以上のクロスオーバーを持つカラムもまた本発明の実施形態で使用することができる。また、クロスオーバーを持たないビームも、本発明の一実施形態による1段のE×Bフィルタで使用することができる。本実施形態では、2段のE×Bフィルタを使用する場合を説明しているが、追加のフィルタを使用することもできる。例えば、第4のフィルタから出射するビームが、第1のフィルタへの入射ビームと同軸となるビームを提供するため、四つのフィルタを使用してもよい。また、三つのフィルタを使用してもよく、三つのフィルタの累積効果をもって、第1のフィルタに入射したビームに平行なビームを形成し、最終ビームは元のビームからオフセットされるか、あるいはオフセットされなくなる。
【0061】
E×Bフィルタが説明されているが、他のタイプのフィルタ(球形又は円筒形などのキャパシタなど)も使用することができる。
【0062】
本発明及びその利点について詳細に説明したが、ここに記載された実施形態に対しては、添付された特許請求の範囲により定められる本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換及び修正が可能であると理解されるべきである。さらに、本出願の範囲については、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明、プロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法又はステップの開示によって、既存の技術、又は本明細書に記載された実施形態に対応し、実質的に同じ機能を果たしたり、実質的に同じ効果を奏したりする将来技術についても、本発明に従って利用可能であると容易に理解することができる。したがって、添付された特許請求の範囲は、上記のようなプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップをその範囲に含むものである。
【符号の説明】
【0063】
106 第1(上部)レンズ
108 第2(下部)レンズ
112 基板
114 イオン源
302 イオンカラム
304 質量フィルタ
306U 第1(上部)E×Bフィルタ
306L 第2(下部)E×Bフィルタ
342 質量分離アパーチャ
406 回転対称軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量フィルタを含むイオンビームカラムであって、
異なる質量電荷比のイオンを生成するイオン源と、
前記イオン源からのイオンを第1軸に沿うビームに一次成形する第1レンズと、
前記第1軸から離れるような第1のビーム偏向を形成する第1の質量フィルタステージであって、前記第1のビーム偏向が前記ビーム中の各イオン毎の質量電荷比に基づくものであり、前記第1軸が前記第1質量フィルタステージの対称軸であり、
前記第1軸と前記第1のビーム偏向の両方に垂直に向き、前記第1のビーム偏向に平行方向にオフセットされる回転対称軸と、
前記回転対称軸の周りに180°回転して配置された第2の質量フィルタステージであって、前記第2の質量フィルタステージの対称軸が第2軸であり、前記第2の質量フィルタステージは前記第1のビーム偏向とは反対の第2のビーム偏向を形成し、異なる質量電荷比のイオンのうち一つが前記第2の質量フィルタステージを出射するように、前記第1及び第2の質量フィルタステージにおける偏向の合計が、前記第1軸と前記第2軸との間の距離に対応し、
前記第2の質量フィルタステージからのすべてのイオンのうちの一部を通過させ、前記第2軸を中心として配置される質量分離アパーチャと、
前記第2の質量フィルタからのイオンを受け取り、それらイオンを基板表面上に集束させる第2レンズと、を備え、
前記第2の質量フィルタステージが前記基板表面での前記第1の質量フィルタステージからの色収差を打ち消すことを特徴とするイオンビームカラム。
【請求項2】
前記第1の質量フィルタステージ及び前記第2の質量フィルタステージがE×Bフィルタであることを特徴とする請求項1に記載のイオンビームカラム。
【請求項3】
前記イオン源が液体金属イオン源であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンビームカラム。
【請求項4】
前記イオン源がプラズマイオン源であることと請求項1又は2に記載のイオンビームカラム。
【請求項5】
前記イオンが前記第1の質量フィルタステージに略平行ビームとして入射することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のイオンビームカラム。
【請求項6】
前記第2レンズステージが、無限遠方に置かれた仮想光源からの異なるエネルギーを有するイオンを集束させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のイオンビームカラム。
【請求項7】
前記第2の質量フィルタステージが、前記第1の質量フィルタステージからフリンジ電場による収差をおおむね打ち消すことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のイオンビームカラム。
【請求項8】
異なる質量を有するイオンを生成するイオン源からのイオンビームを提供する方法であって、
イオン源から異なる質量を有するイオンを生成し、
前記イオンをビームに形成し、
前記イオンを第1の方向に偏向させ、その偏向をイオンの質量毎に異なるものとし、
前記イオンを第2の方向に偏向させ、その偏向をイオンの質量毎に異なるものとし、
前記イオンの質量毎に異なる第1の方向における偏向と、前記イオンの質量毎に異なる第2の方向における偏向とを打ち消し合って、前記異なる質量のイオンが2倍に偏向されて同一の方向に伝搬することを含む方法。
【請求項9】
前記イオンを第1の方向に偏向させる際は、前記イオンを第1のE×B質量フィルタに通過させることを含み、
前記イオンを第2の方向に偏向させる際は、前記イオンを第2のE×B質量フィルタに通過させることを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記イオンの一部がアパーチャを通過するが、他のイオンは阻止され、前記アパーチャの中心が前記第1のE×Bフィルタの光軸からオフセットされている請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−227141(P2012−227141A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−88772(P2012−88772)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】