説明

ビーム出射装置ならびにその制御方法

【課題】一台のシンクロトロンからビームロスなく同時に二本以上の輸送ラインに出射ビームを供給し、ビーム利用要求に合わせて、単位時間当たりのシンクロトロンの利用効率を上げる。
【解決手段】本発明に関わるビーム出射装置は、粒子ビームがベータトロン振動しながら周回するシンクロトロン1と、該シンクロトロン1に備えられ粒子ビームをその進行方向と平行な縦方向高周波電場を印加することによって加速または減速する高周波加速空洞3と、シンクロトロン1に接続されシンクロトロン1から出射される粒子ビームが輸送されるビーム輸送ライン2とを備えるビーム出射装置Rであって、シンクロトロン1内を所定の定常状態で周回する前記粒子ビームに対して高周波加速空洞3による縦方向高周波電場の位相を180度ずらすように制御し、シンクロトロン1から出射される粒子ビームの運動量と出射角度を二極化する制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器科学に係り、より詳細には重粒子などのビームを分割して出射するビーム出射装置ならびにその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シンクロトロン内を周回する重粒子などのビームの遅い取り出し法によく用いられる方法として、下記のものがある。
第1の方法として、四極電磁石の励磁量変更によるベータトロン振動数制御を用いて、シンクロトロン内を周回するビームのサイズを広げてデフレクタ電極の電場によってシンクロトロンの外側にビームを蹴り出し、ビームを出射する。
第2の方法として、シンクロトロン内に設置されているRF−KO電極に、ビームの進行方向とは垂直方向の電圧(RF−KO電圧)を印加することにより、ベータトロン振幅を増大させ、デフレクタ電極の電場によってシンクロトロンからビームを出射する(非特許文献1)。
【0003】
ここで、シンクロトロン内のビーム進行方向に平行な縦方向高周波電場によりバンチングされシンクロトロン振動をしながら周回するビーム粒子に対して、ベータトロン振動共鳴による遅い取り出し法を用いると、リング(シンクロトロン)のクロマティシティによって、出射ビームの運動量分布はシンクロトロン振動の振幅、位相に依存する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Tomizawa,et al.,“Slow beam extraction at TARN II",Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 326 (1993)399-406.
【非特許文献2】T.Furukawa,et al.,“Contribution of synchrotron oscillation to spill ripple in RF-knockout slow-extraction", Nuclear Instruments and Methods in・Physics Research A 539 (2005)44-53.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、遅い取り出し法を用いたシンクロトロンからのビーム出射において、従来の方法では、シンクロトロン一台とシンクロトロンからの出射ビーム輸送ライン一本に就いて、出射されるビームも一つである。そのため、ビームロスなしに同時に、一台のシンクロトロンからビームを二つに分けたり、或いは、一本の出射ビーム輸送ラインを通るビームを二つ以上に分けることは大変困難である。
そのため、1台のビームポートからしかビームの供給ができず、ビームレイトの制限がかかると使いきれずにシンクロトロンに残ったビームが捨てられており、ビームが無駄になっている。
【0006】
本発明は上記実状に鑑み、一台のシンクロトロンから、ビームロスなく同時に、二本以上の輸送ラインに出射ビームを供給することを可能にし、ビーム利用要求に合わせて、単位時間当たりのシンクロトロンの利用効率を上げることが可能なビーム出射装置ならびにその制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるビーム出射装置は、粒子ビームがベータトロン振動しながら周回するシンクロトロンと、該シンクロトロンに備えられ前記粒子ビームをその進行方向と平行な縦方向高周波電場を印加することによって加速または減速する高周波加速空洞と、前記シンクロトロンに接続され前記シンクロトロンから出射される粒子ビームが輸送されるビーム輸送ラインとを備えるビーム出射装置であって、前記シンクロトロン内を所定の定常状態で周回する前記粒子ビームに対して前記高周波加速空洞による縦方向高周波電場の位相を180度ずらすように制御し、前記シンクロトロンから出射される粒子ビームの運動量と出射角度を二極化する制御手段を備えている。
【0008】
第2の本発明に関わるビーム出射装置の制御方法は、粒子ビームがベータトロン振動しながら周回するシンクロトロンと、該シンクロトロンに備えられ前記粒子ビームをその進行方向と平行な縦方向高周波電場を印加することによって加速または減速する高周波加速空洞と、前記シンクロトロンに接続され前記シンクロトロンから出射される粒子ビームが輸送されるビーム輸送ラインと、制御手段とを備えるビーム出射装置の制御方法であって、前記高周波加速空洞は、前記粒子ビームに前記縦方向高周波電場を印加して、所定の定常状態で前記粒子ビームを周回させ、前記制御手段は、前記高周波加速空洞による縦方向高周波電場の位相を180度ずらすように制御し、前記シンクロトロンから出射される粒子ビームの運動量と出射角度を二極化する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一台のシンクロトロンから、ビームロスなく同時に、二本以上の輸送ラインに出射ビームを供給することを可能にし、ビーム利用要求に合わせて、単位時間当たりのシンクロトロンの利用効率を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】典型的な粒子線照射装置を上方から見た図である。
【図2】横方向位相空間上でのベータトロン振動の三次共鳴と六極磁場の摂動を用いた粒子線のビームの遅い取り出しの様子を表す概念図である。
【図3】実施形態の粒子線照射装置を上方から見た図である。
【図4】実施形態のシンクロトロン内でビームの進行方向に平行な方向の縦方向高周波電場により加減速を行わずにバンチングされている粒子がもつ縦方向位相空間上での軌道を表す図であり、(a)はγ<γの場合の図であり、(b)はγ>γの場合の図である。
【図5】(a)、(b)および(c)は、それぞれγ<γの場合のバンチングされた状態の図、高周波電場の位相を180度ずらした場合の初期状態の図および定常状態の図である。
【図6】(a)、(b)および(c)は、それぞれγ>γの場合のバンチングされた状態の図、高周波電場の位相を180度ずらした場合の初期状態の図および定常状態の図である。
【図7】図5(c)の状態のビームをベータトロン振動の三次共鳴と六極磁場を用いて出射する場合に生じる出射ビーム運動量分布の二極化の様子を表す図であり、(a)はクロマティシティξ<0の場合の図であり、(b)はクロマティシティξ>0の場合の図である。
【図8】出射ビームの運動量分布が二極化した場合に起きるビーム出射角の二極化を水平方向の位相空間上に表す図である。
【図9】二極化した運動量・ビームの出射角X´をもつビームが出射ビーム輸送ラインに設けた偏向電磁石の偏向角差や三枚板電極によって第1・第2ビームを引き離している様子を表す図3のA部拡大図である。
【図10】患者(照射対象)に第1ビームと第2ビームとを照射している状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、粒子線照射装置Tを上方から見た図である。
粒子線照射装置Tは、本発明を適用する典型的な粒子線照射装置であり、炭素イオンの原子核などの荷電粒子の粒子線をスキャニング照射などで照射対象の患部に所定線量照射する装置である。
【0012】
粒子線照射装置Tは、荷電粒子を高エネルギまで加速し粒子線のビームとして周回させるシンクロトロン1と、シンクロトロン1から取り出した粒子線のビームを輸送する出射ビーム輸送ライン2とを具備している。
なお、実際の粒子線照射装置Tには、図1に示す機器に加え、シンクロトロン1の線量を測定するビームプロファイルモニタ、出射ビーム輸送ライン2の線量を測定するビームプロファイルモニタなどがあるが、図1では割愛している。
【0013】
<シンクロトロン1>
シンクロトロン1は、環状に構成され、粒子線のビームに付与する加速高周波電場の周期を粒子回転周期に同期させることにより、炭素の原子核などの荷電粒子を高エネルギまで加速する。そのため、シンクロトロン1は「加速器」に相当する。
【0014】
シンクロトロン1は、主要構成機器として、シンクロトロン1内の荷電粒子の粒子線のビームに与える高周波電場を発生させる高周波加速空洞3と、シンクロトロン1内を進む粒子線のビームを周回軌道に保つための偏向電磁石4と、周回軌道上における粒子線のビームの広がりを収束させる収束用四極電磁石5と、当該ビームの狭まりを発散させる発散用四極電磁石6と、当該ビームのベータトロン振動の三次共鳴を励起し、位相空間上で安定周回領域と共鳴領域を分割・形成するセパラトリクス生成用六極電磁石7と、リング(シンクロトロン1)のクロマティシティを調整するためのクロマティシティ補正用六極電磁石12と、シンクロトロン1内を周回する粒子線のビームを出射ビーム輸送ライン2に取り出す際にRF(Radio Frequency)−KO(Knockout)電圧を当該ビームに印加するRF−KO電極8と、粒子線のビームを出射ビーム輸送ライン2に向けて出射するためのデフレクタ電極9とを備えている。なお、セパラトリクスとは、安定周回領域と共鳴領域の間のことである。
【0015】
粒子線照射装置Tの制御は、図示しない制御手段によって行われる。制御手段は、コンピュータ、各種電源回路などの回路で構成される。
高周波加速空洞3は、シンクロトロン1内の粒子(荷電粒子)を加速または減速するための高周波電場を発生させる装置である。
高周波加速空洞3は、制御手段により、シンクロトロン1内に高周波電力を投入することにより、粒子(荷電粒子)が加速ギャップ(図示せず)に差し掛かった際に、丁度加速または減速されるように高周波加速空洞3内に発生させる高周波電圧の位相と粒子(荷電粒子)の位置とをうまく同期させて、粒子(荷電粒子)にエネルギを供給する。これにより、粒子(荷電粒子)にエネルギが供給され、粒子(荷電粒子)の加速または減速が行われる。
【0016】
<シンクロトロン1からの粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン1内の周回軌道を周回している多数の粒子は、水平方向(図1の紙面に平行方向:X軸方向)又は鉛直方向(図1の紙面に垂直方向:Z軸方向)に振動しながら周回している。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動は、収束用四極電磁石5、発散用四極電磁石6などにより制御することができる。なお、S軸方向とは、シンクロトロン1内を粒子線のビームが進行する方向(シンクロトロン1内を周回するビームの接線方向)であり、X軸方向はS軸方向に垂直であるとともに水平面(シンクロトロン1が延在する方向)における方向である。
【0017】
シンクロトロン1内の粒子は、高周波加速空洞3によって加速され最大エネルギに達する。その後、粒子線のビームにRF−KO電極8でRF−KO電圧による電場を印加することによりベータトロン振幅を増大させる。そして、シンクロトロン1内で周回している多数の粒子の一部を、デフレクタ電極9を用いて、出射ビーム輸送ライン2へ向けて出射させる。出射ビーム輸送ライン2の下流には、照射室において照射対象に、取り出した粒子線を照射する照射装置(ポート(13A、13B)(図10参照))が接続されている。
【0018】
具体的には、シンクロトロン1内の粒子線のビームをシンクロトロン1外の出射ビーム輸送ライン2に向けて取り出すため、シンクロトロン1の管の中心付近に分布する粒子線のビームに、その周回軌道に対し垂直かつ水平方向にRF−KO電極8で挟んでRF−KO電圧による電場を印加する。これにより、粒子線のビームサイズを水平方向に広げる。この粒子の出射は、シンクロトロン1内の周回軌道を進む粒子のベータトロン振動の共鳴を利用して行われる。
【0019】
すなわち、RF−KO電極8は、シンクロトロン1の周回軌道を進むビームに対して、周回軌道に垂直かつ水平方向(図1のX軸方向)に、ベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調されたRF−KO電圧による電場を印加し、周回軌道を進む粒子線のビームの幅を広げる。これにより、粒子線のビームの一部をデフレクタ電極9の2枚の電極の中に入れる。
【0020】
デフレクタ電極9の2枚の電極の中にビームが入ると、デフレクタ電極9内の電場によって、粒子線のビームは外側に蹴りだされ、出射ビーム輸送ライン2に向けて取り出されていく。なお、RF−KO電圧8がオフのときには、この粒子のビームサイズの増加が止まるために、粒子線のビームがデフレクタ電極9から取り出されなくなるので、照射を止めることが可能となる。
【0021】
次に、典型的な粒子線照射装置Tのシンクロトロン1内を周回する粒子線のビームの出射ビーム輸送ライン2への遅い取り出しの方法について、具体的に詳述する。
図2は、横方向位相空間上でのベータトロン振動の三次共鳴とセパラトリクス生成用六極電磁石7による六極磁場の摂動を用いた粒子線のビームの遅い取り出しの様子を表す概念図である。図2の横方向位相空間とは、横軸が水平方向におけるビームの進行方向(S軸方向)に垂直な方向(X軸方向)であり、縦軸がX軸方向の変位Xをビームの進行方向Sの変位Sで微分した微分値(dX/dS)を示すX´軸である。
【0022】
シンクロトロン1内を周回する多数の粒子のベータトロン振動の三次共鳴と、当該多数の粒子に対するセパラトリクス生成用六極電磁石7による六極磁場の摂動により、図2に示す横方向位相空間(横軸がX軸、縦軸がX´軸)上に見られるように、粒子線のビームは安定領域と共鳴領域とに分けられる。粒子線のビームにおける三角形で描かれた安定領域の外側は共鳴領域になるので、共鳴領域に入った粒子のベータトロン振幅は増大し、デフレクタ電極9によりシンクロトロン1から取り出される。
【0023】
<<実施形態の粒子線照射装置R>>
図3に示す実施形態の粒子線照射装置Rは、典型的な粒子線照射装置Tに本発明を適用したものである。図3は、実施形態の粒子線照射装置Rを上方から見た図である。
実施形態の粒子線照射装置Rの基本構成は、図1に示す典型的な粒子線照射装置Tと同様であり、同様な構成要素には同一の符号を付して示し、詳細な説明は省略する。
粒子線照射装置Rは、その各構成機器を制御するための制御手段(図示せず)を備えている。制御手段は、コンピュータ、各種電源回路などの回路で構成される。
【0024】
以下、図3に示す粒子線照射装置RのRF−KO電極8を用いて安定領域内の粒子のベータトロン振幅を増大させ、シンクロトロン1からビームを連続的に出射する方法(非特許文献1参照)を例にとり説明する。
図4(a)、(b)は、シンクロトロン1内で粒子線のビームの進行方向に平行な方向の縦方向高周波電場により加減速を行わずにバンチングされている粒子(荷電粒子)の縦方向位相空間上での軌道(矢印を付した線)を、それぞれγ<γの場合、γ>γの場合を表している。上述したように、図4(a)、(b)の矢印を付した線はシンクロトロン1内の粒子がたどる軌跡(軌道)である。
【0025】
なお、図4(a)、(b)における横軸φは高周波加速空洞3により発生させる縦方向高周波電場の位相であり、縦軸Pは粒子がもつ進行方向の運動量である。Pは縦方向高周波電場の周波数と位相に同期してシンクロトロン1を周回する粒子の進行方向の基準の運動量である。
γは、粒子の全エネルギに比例するローレンツファクターであり、次の式(1)で示される。
【0026】
【数1】

ここで、vは粒子の速度であり、cは光速度である。
【0027】
また、γは、トランジションエネルギである。トランジションエネルギγは、既知のα(momentum compaction factor)を用いて次の式(2)で示される。
【数2】

【0028】
γ<γの場合、図4(a)に示すように、シンクロトロン1内の縦方向高周波電場が印加され所定の定常状態で周回する粒子は、P=0であるφ=0、2π、4π、……、−2π、−4π、……を中心とする楕円軌道内(図4(a)でBeamと図示)に捉えられる(これはバンチングと称される)。図4(a)では、シンクロトロン1内の粒子が軌道に沿って周回する場合、速度が速い粒子ほど、速度が速い分長くなる軌道(速度が速いことにより外側の軌道を進む)より、その速度による移動距離が長いため、基準の粒子より早く軌道を廻って戻ってくる。
【0029】
すなわち、γ<γの場合とは、ΔvT>2πΔrの関係にある場合である。Δvは、粒子がシンクロトロン1を周回する速度が基準粒子の速度より早い速度成分であり、Δrとは、速度が早い分シンクロトロン1内の外側に向けての距離変動の平均であり、Tはシンクロトロン1において基準粒子が軌道を周回して戻る周期である。速度が速い粒子は、その速度により外側を廻るが周回軌道の変動分(2πΔr)より速い速度分Δvの移動距離(ΔvT)が長いので、基準の粒子より早く軌道を廻って戻ってくることになる。
【0030】
一方、図4(a)のγ<γの状態から、γを上げていくとγを超えて、図4(b)に示す状態になる。
図4(b)において、シンクロトロン1内の縦方向高周波電場が印加され所定の定常状態で周回する粒子は、P=0であるφ=π、3π、5π、……、−π、−3π、−5π、……を中心とする楕円軌道内に捉えられる(図4(a)と同様に、これはバンチングと称される)。
【0031】
図4(b)では、シンクロトロン1内の粒子が軌道に沿って周回する場合、速度が速い粒子ほど、速度が速い分長くなる軌道(速度が速いことにより外側の軌道を進む)より、図4(a)と異なり、その速度による移動距離が短いため、基準の粒子より遅く軌道を廻って戻ってくる。
すなわち、γ<γの場合とは、ΔvT<2πΔrの関係にある場合である。つまり、速度が速い粒子は、その速い速度のため外側の軌道を廻るが、周回軌道の変動分(2πΔr)より速い速度分Δvの軌道距離(ΔvT)が短いので、基準の粒子より遅く軌道を廻って戻ってくることになる。
【0032】
図5は、図4(a)のγ<γの場合に、縦方向高周波電場により加減速を行わずにバンチングされているビームに対して、極短時間に高周波電場の位相を180度ずらした場合における縦方向位相空間上でのビームの定常状態の遷移を表す図である。
γ<γの場合、図5(a)に示す縦方向高周波電場により所定の定常状態で周回してバンチングされている粒子のビームに対して、制御手段により高周波加速空洞3に極短時間に高周波電場の位相を180度ずらす切り替え指令を出した場合、初期状態として図5(b)に示すように粒子のビームの位相が極短時間に180度ずれる。その後、図5(b)の粒子の軌道線(矢印を付した線)に沿って、粒子のビームが進み、粒子のビームが定常状態の図5(c)に示す状態になる。
【0033】
図6は、図4(b)のγ>γの場合に、縦方向高周波電場により加減速を行わずにバンチングされているビームに対して、極短時間に高周波電場の位相を180度ずらした場合における縦方向位相空間上でのビームの定常状態の遷移を表している。
γ>γの場合、図6(a)に示す縦方向高周波電場により所定の定常状態で周回してバンチングされている粒子のビームに対して、制御手段により高周波加速空洞3に極短時間に高周波電場の位相を180度ずらす切り替え指令を出した場合、初期状態として図6(b)に示すように粒子のビームの位相が極短時間に180度ずれる。そして、粒子のビームの位相が180度ずれた後に図6(b)の粒子の軌道線(矢印を付した線)に沿って、粒子のビームが進み、粒子のビームが図6(c)に示す定常状態になる。
【0034】
高周波加速空洞3の縦方向高周波電場によって粒子のビームの位相を180度ずらす時間は、粒子のビームを図5(c)、図6(c)に示す状態にできれば、特に限定されないが、
速い時間の方が、きれいに図5(c)、図6(c)に示す状態にできるので、図5(a)、図6(a)に示すバンチビームの間隔の時間(=t1)以下の短時間で位相を180度ずらすことが望ましい。
図7は、γ<γの場合における図5(c)の状態のビームをベータトロン振動の三次共鳴と六極磁場を用いて出射する場合に生じる出射ビーム運動量分布の二極化の様子を表している。図7(a)は、クロマティシティξ<0の場合であり、図7(b)は、クロマティシティξ>0の場合である。
【0035】
クロマティシティξは、次式(3)で表される。
ΔQ=ξ×ΔP/P (3)
ここで、Pは粒子の基準運動量、ΔPは粒子の基準運動量からの運動量のずれ、ΔQはベータトロン振動数のずれ である。
なお、リング(シンクロトロン1)のクロマティシティξは、クロマティシティ補正用六極電磁石12(図3参照)によって調整される。
また、粒子の粒子線ビームの安定周回領域面積Aは、次の式(4)で表される。
【0036】
【数3】

ここで、Sはセパラトリクス生成用六極電磁石7の六極磁場強度、kは係数、Qは、ベータトロン振動数、Qresは共鳴条件のベータトロン振動数であり、三次共鳴の場合はn/3(nは3の倍数を除く自然数)である。
【0037】
高周波加速空洞3による縦方向高周波電場によりシンクロトロン1を周回する粒子の運動量が変化している場合、シンクロトロン1のクロマティシティξが負の場合、図7(a)に示すように、粒子の運動量が高い場合ほど粒子は安定周回領域から共鳴領域に出やすくなる。
【0038】
クロマティシティξが負の場合、式(4)よりΔPが最大のとき、粒子線ビームの安定周回領域面積Aが最小となるので、共鳴領域の面積が最大(図2参照)となる。そのため、ΔPが最大のときにシンクロトロン1を周回する粒子は安定領域外に取り出され易く、出射ビームの運動量密度が最大となる。
従って、ξが負かつΔP≧P の場合、式(4)よりΔPの最大値に出射ビームの運動量密度のピークがでる。しかし、ΔPが、図7(a)の矢印付き線(粒子の軌道)の減少域に入ると粒子は安定領域外に取り出されづらくなるので、図7(a)のΔP≧Pの場合、矢印付き線のΔPの最大値の手前側で出射ビームの運動量密度のピークがでる。
【0039】
これに対して、ξが負かつΔP<P の場合、式(4)よりΔPの最大値に出射ビームの運動量密度のピーク(式(4)の粒子線ビームの安定周回領域面積Aが最小)がでる。しかし、ΔPが、図7(a)の矢印付き線(粒子の軌道)の減少域に入ると粒子は安定領域外に取り出されづらくなるので、図7(a)のΔP<Pの場合、矢印付き線のΔPの最大値の手前で出射ビームの運動量密度のピークがでる。
【0040】
一方、クロマティシティξが正の場合、図7(b)に示すように、粒子の運動量が低い場合ほど粒子は安定周回領域から共鳴領域に出易くなる。
クロマティシティξが正の場合、式(4)より、ΔPが最小のとき、粒子線ビームの安定周回領域面積Aが最小となり、共鳴領域の面積が最大(図2参照)となる。そのため、ΔPが最小のときにシンクロトロン1を周回する粒子は安定領域外に取り出され易くなり、出射ビームの運動量密度が最大となる。
【0041】
これは、クロマティシティξの効果によって、運動量の変化により横方向位相空間上の安定周回領域面積が変化するためである(非特許文献2参照)。
そのため、ξが正かつΔP≧P の場合、式(4)ΔPの最小値で出射ビームの運動量密度のピークがでる(式(4)より粒子線ビームの安定周回領域面積Aが最小)が、ΔPが、図7(b)の矢印付き線(粒子の軌道)の増加域に入ると粒子は安定領域外に取り出されづらくなるので、図7(b)のΔP≧Pの場合、矢印付き線のΔPの最小値の手前側でピークがでる。
【0042】
これに対して、ξが正かつΔP<P の場合、ΔPの最小値で出射ビームの運動量密度のピークがでるが、ΔPが、図7(b)の矢印付き線(粒子の軌道)の増加域に入ると粒子は安定領域外に取り出されづらくなるので、図7(b)のΔP<Pの場合、矢印付き線のΔPの最小値の手前で出射ビームの運動量密度のピークがでる。
なお、γ>γの場合においても、図7に示すγ<γの場合と同様に、出射ビーム運動量分布の二極化が発生する。
【0043】
図8は、図7(a)、(b)に示すように、出射ビームの運動量分布が二極化(図7(a)、(b)のそれぞれの出射ビーム運動量密度の2つのピーク参照)した場合に起きる、ビーム出射角の二極化を水平方向の位相空間上に表した図である。なお、図8において、水平方向の位相空間とは、横軸が水平方向の位置座標X、縦軸が水平方向の位置座標Xをビームの進行方向の位置Sで微分した微分値X´(dX/dS)である。また、図8のデフレクタ電極9には、ビームが図8の紙面の手前側から奥側に進むものとして図示している。
【0044】
ビーム出射角の二極化(図8の2つの三角形参照)は、異なる運動量の粒子(図7(a)、(b)のそれぞれの出射ビーム運動量密度の2つのピーク参照)に対するシンクロトロン1内の偏向電磁石4の偏向角差により生じるシンクロトロン1内を進む平衡軌道の違い(dispersion)と、クロマティシティξの効果により生じる横方向位相空間上の安定周回領域面積の違いが合わさって起こる。横方向位相空間上の安定周回領域面積の違いは、図8に示す2つの三角形の安定周回領域面積の重心の位置が変わることにつながる。
【0045】
次に、図7、図8を用いて説明したシンクロトロン1内において運動量とビームの出射角X´とが二極化したビームb(b1、b2)が出射されるのを利用して、出射ビーム輸送ライン2に設けた偏向電磁石10の偏向角差や三枚板電極11によって二極化したビームを互いに引き離す構成について説明する。
【0046】
図9は二極化した運動量・ビームの出射角X´をもつビームが出射ビーム輸送ライン2に設けた偏向電磁石10の偏向角差や三枚板電極11によって第1・第2ビームを互いに引き離している様子を表す図3のA部拡大図である。なお、図9では、プラスの電気をもった荷電粒子(例えば、C6+)のビームが取り出される場合を例示している。
【0047】
シンクロトロン1にデフレクタ電極9を介して接続される出射ビーム輸送ライン2には、二極化したビーム出射角と運動量をもつビームb(第1ビームb1、第2ビームb2)を偏向させて2つのビーム出射角差とビーム間距離を大きく離す偏向電磁石10が設けられている。また、偏向電磁石10の下流の出射ビーム輸送ライン2には、偏向電磁石10でビーム出射角差とビーム間距離が大きく離されたビームb(第1ビームb1、第2ビームb2)をさらに大きく引き離す三枚板電極11が設けられている。
【0048】
図9では、プラスの電荷をもった粒子のビームが取り出される場合なので、三枚板電極11の第1電極11a、第2電極11bには、マイナスの電圧が制御手段によりそれぞれ印加されている。三枚板電極11の第3電極11cはグラウンドである。
なお、図9の場合と異なり、マイナスの電荷をもった粒子のビームが取り出される場合には、三枚板電極11の第1電極11a、第2電極11bには、プラスの電圧が制御手段によりそれぞれ印加されることになる。三枚板電極11の第3電極11cはグラウンドである。
【0049】
そして、出射ビーム輸送ライン2の三枚板電極11の下流には、ビーム間距離が大きくされた第1ビームb1、第2ビームb2がそれぞれ進行するための第1輸送ライン2A、第2輸送ライン2Bが接続されている。
上記構成により、出射ビーム輸送ライン2を通してのビームb(b1、b2)の取り出しは下記のように行われる。
【0050】
前記した二極化したビーム出射角と運動量をもつビームb(b1、b2)が、デフレクタ電極9によって印加される電圧により、シンクロトロン1から取り出される。そして、制御手段によって制御される偏向電磁石10の偏向角差(ビームbが偏向電磁石10に入るときの角度に対するビームbが偏向電磁石10から出るときの角度)により、第1ビームb1、第2ビームb2の出射角差とビーム間距離が広げられる。
【0051】
その後、プラスの電荷をもつ第1ビームb1が、偏向電磁石10の下流の三枚板電極11のマイナスの電圧が印加された第1電極11aとグランドの第3電極11cとの間を通り、第1ビームb1が第1電極11a側に引かれて進み、第1輸送ライン2A内を矢印のように進行する。同時に、プラスの電荷をもつ第2ビームb2が、偏向電磁石10の下流の三枚板電極11のマイナスの電圧が印加された第2電極11bとグラウンドの第3電極11cとの間を通り、第2ビームb2が第2電極11b側に引かれて進み、第2輸送ライン2B内を矢印のように進行する。
【0052】
第1ビームb1と第2ビームb2とのそれぞれのビーム間距離を大きくとれるほど、ビームロスなく二つの輸送ライン(2A、2B)に第1ビームb1と第2ビームb2とを分けることができる。そのため、シンクロトロン1内を周回する1本のビームが、偏向電磁石10と三枚板電極11とにより、第1ビームb1と、第2ビームb2との2つのビームとしてビームロスなく同時に取り出される。
【0053】
次に、第1輸送ライン2Aから取り出される第1ビームb1と、第2輸送ライン2Bから取り出される第2ビームb2との利用方法について述べる。
図10は、患者(照射対象)Pに第1ビームb1と第2ビームb2とを照射している状態を示す図である。
照射室15には、第1ビームb1を鉛直方向に寝台14上の照射対象に向けて照射できるように、第1輸送ライン2Aに接続される第1ポート13Aが鉛直方向に配設されている。また、照射室15には、第2ビームb2を水平方向に寝台14上の照射対象に向けて照射できるように、第2輸送ライン2Bに接続される第2ポート13Bが水平方向に配設されている。
【0054】
患者(照射対象)Pが寝台14に横たわると、寝台14上の患者(照射対象)Pの患部P1に向けて、第1ポート13Aから第1ビームb1を、鉛直方向下向きに照射するとともに、第2ポート13Bから、第2ビームb2を患者(照射対象)Pの患部P1に向けて水平方向に照射する。
【0055】
従来、2つのビームを同時に照射する場合、2台のシンクロトロンが必要であったが、この構成によれば、1台のシンクロトロン1(図3参照)で同時に一つの照射対象に対して照射できる。1台のシンクロトロン1で同時に2つのビーム(b1、b2)で照射するので、同時に2つのビームの照射を開始するとともに、照射中の2つのビーム(b1、b2)の照射を同時に止めることができる。そのため、患者(照射対象)Pの呼吸に同期して、2つのビーム(b1、b2)を照射したり、照射中の2つのビーム(b1、b2)の照射を止めることが可能である。
【0056】
なお、図10の例では、鉛直方向と水平方向とから2つのビーム(b1、b2)を照射する場合を例示したが、必ずしも鉛直方向と水平方向でなくともよいのは勿論である。
また、図10の例とは異なり、別々の患者(照射対象)Pにそれぞれ第1ビームb1と第2ビームb2とを照射するように構成できることは勿論である。
その他、2つの第1ビームb1と第2ビームb2との照射法は、例示したものに限られず、様々に応用可能である。
【0057】
上記実施形態によれば、従来の遅い取り出し法では不可能だった、ビームロスなく同時に一台のシンクロトロン1から二本の輸送ライン(2A、2B)ヘの分割したビーム出射が可能になる。
本発明の原理は、遅い取り出し法によく利用されるベータトロン振動の三次共鳴と六極磁場の摂動を用いたビーム出射において、ビームの進行方向に平行な縦方向高周波電場によりバンチングされたビームに対して、縦方向高周波電場の位相を極短時間に180度ずらすことにより、シンクロトロン1のクロマティシティξを介して、デフレクタ電極9内に入る出射ビームの運動量分布を二極化することである。
【0058】
シンクロトロン1のクロマティシティξの効果で、運動量分布の二極化に加え、それら二極化されたそれぞれのビームの出射角にも差を持たせることができる。
二極化された運動量と出射角をもつビームbは、出射ビーム輸送ライン2上で、偏向電磁石10による偏向角差などにより二つのビーム(b1、b2)に分割することができる。また、三枚板電極11などを用いれば、ビームロスなく、容易に更に大きくそれらのビーム(b1、b2)を引き離すことが可能である。二つに引き離されたビーム(b1、b2)の距離が大きいほど、ビームロスなく、容易にそれぞれ別々のビーム輸送ライン(2A、2B)に同時に供給することができる。
【0059】
このように、ビームロスなく同時に一台のシンクロトロン1から二本の輸送ライン(2A、2B)ヘの分割ビーム出射を行えることにより、ビームの利用要求に合わせて、単位時間当たりのシンクロトロン1の利用効率を上げることができる。そして、一台のシンクロトロン1から、2つのポート(13A、13B)を出せるので、ビームの利用効率が2倍になる。
また、同じ時間内により多くのビーム利用要求に答えることができる。
【0060】
なお、前記実施形態においては、二極化したビーム出射角をもつビームb(第1ビームb1、第2ビームb2)を偏向電磁石10と三枚板電極11とを用いて引き離す場合を例示したが、三枚板電極11のみ用いてもよい。三枚板電極11は構造が簡単で、制御も容易である。
【0061】
また、三枚板電極11を用いることなく、偏向電磁石10のみ用いて、偏向電磁石10の励磁量を変えて、第1ビームb1、第2ビームb2の角度差をつけてもよい。
なお、前記したように、偏向電磁石10と三枚板電極11とを用いた方が、二極化したビーム出射角をもつビームを短い距離で引き離せるので、より望ましい。
【0062】
なお、前記実施形態では、ベータトロン振動の三次共鳴と六極磁場の摂動による遅い取り出し法を用いたが、二次共鳴と八極磁場、または、四次共鳴と八極磁場との組み合わせでもよい。また、本発明は、RF−KO電極を用いた遅い取り出しに限るものでない。例えば、四重極電磁石励磁電流変更によるベータトロン振動数制御を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)であってもよい。
【0063】
また、四重極電磁石励磁電流変更によるベータトロン振動数制御手法を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)において、四重極電磁石の電源を制御することで、励磁電流を変化させてもよい。四重極電磁石は、一般にシンクロトロン中に複数設けられているが、少なくともその一つを制御することでも効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 シンクロトロン
2 出射ビーム輸送ライン(ビーム輸送ライン)
2A 第1輸送ライン(ビーム輸送ライン)
2B 第2輸送ライン(ビーム輸送ライン)
3 高周波加速空洞
10 偏向電磁石(ビーム分割手段)
11 三枚板電極(ビーム分割手段)
11a 第1電極(第1の電極)
11b 第2電極(第2の電極)
11c 第3電極(第3の電極)
13A 第1ポート
13B 第2ポート
P 患者(照射対象)
R 粒子線照射装置(ビーム出射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームがベータトロン振動しながら周回するシンクロトロンと、該シンクロトロンに備えられ前記粒子ビームをその進行方向と平行な縦方向高周波電場を印加することによって加速または減速する高周波加速空洞と、前記シンクロトロンに接続され前記シンクロトロンから出射される粒子ビームが輸送されるビーム輸送ラインとを備えるビーム出射装置であって、
前記シンクロトロン内を所定の定常状態で周回する前記粒子ビームに対して前記高周波加速空洞による縦方向高周波電場の位相を180度ずらすように制御し、前記シンクロトロンから出射される粒子ビームの運動量と出射角度を二極化する制御手段を備える
ことを特徴とするビーム出射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記高周波加速空洞による縦方向高周波電場の位相を、前記ベータトロン振動におけるバンチビーム間の時間内に、180度ずらすように制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のビーム出射装置。
【請求項3】
前記ビーム輸送ラインは、前記出射された2つの粒子ビームの出射角度差とビーム間距離を広げ、当該2つの粒子ビームを二分化するビーム分割手段を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のビーム出射装置。
【請求項4】
前記ビーム分割手段として、前記出射される2つの粒子ビームがそれぞれ第1の電極と第3の電極との間と、第2の電極と前記第3の電極との間を通る三枚板電極を有し、
前記粒子ビームの粒子が、プラスの電荷をもつときは、前記第1の電極と前記第2の電極とは前記制御手段により前記第3の電極より低い電圧が印加される一方、マイナスの電荷をもつときは、前記制御手段により前記第1の電極と前記第2の電極とは前記第3の電極より高い電圧が印加される
ことを特徴とする請求項3に記載のビーム出射装置。
【請求項5】
前記ビーム分割手段として、前記出射された2つの粒子ビームが通った際に、当該2つの粒子ビームにその励磁量により偏向角度差を付与する偏向電磁石を有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載のビーム出射装置。
【請求項6】
前記ビーム輸送ラインに接続されるとともに前記ビーム分割手段によって出射角度差とビーム間距離が広げられた前記2つの粒子ビームのうちの一方を照射対象に照射するための第1ポートと、
前記ビーム輸送ラインに接続されるとともに当該2つの粒子ビームのうちの他方を、前記照射対象または前記照射対象とは異なる照射対象に照射するための第2ポートとを
備えることを特徴とする請求項3から請求項5の何れか一項に記載のビーム出射装置。
【請求項7】
前記第1のポートは、前記2つの粒子ビームのうちの一方を鉛直方向から前記照射対象に照射し、
前記第2のポートは、前記2つの粒子ビームのうちの他方を水平方向から当該照射対象に照射する
ことを特徴とする請求項6に記載のビーム出射装置。
【請求項8】
粒子ビームがベータトロン振動しながら周回するシンクロトロンと、該シンクロトロンに備えられ前記粒子ビームをその進行方向と平行な縦方向高周波電場を印加することによって加速または減速する高周波加速空洞と、前記シンクロトロンに接続され前記シンクロトロンから出射される粒子ビームが輸送されるビーム輸送ラインと、制御手段とを備えるビーム出射装置の制御方法であって、
前記高周波加速空洞は、前記粒子ビームに前記縦方向高周波電場を印加して、所定の定常状態で前記粒子ビームを周回させ、
前記制御手段は、
前記高周波加速空洞による縦方向高周波電場の位相を180度ずらすように制御し、前記シンクロトロン内の前記粒子ビームの運動量と出射角度を二極化する
ことを特徴とするビーム出射装置の制御方法。
【請求項9】
前記制御手段は、前記高周波加速空洞による縦方向高周波電場の位相を、前記ベータトロン振動におけるバンチビーム間の時間内に、180度ずらすように制御する
ことを特徴とする請求項8に記載のビーム出射装置の制御方法。
【請求項10】
前記ビーム輸送ラインは、ビーム分割手段を有し、
前記ビーム分割手段は、前記出射された2つの粒子ビームの出射角度差とビーム間距離を広げ、当該2つの粒子ビームを二分化する
ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載のビーム出射装置の制御方法。
【請求項11】
前記ビーム出射装置は、前記ビーム分割手段として、前記出射される2つの粒子ビームがそれぞれ第1の電極と第3の電極との間と、第2の電極と前記第3の電極との間を通る三枚板電極を有し、
前記粒子ビームの粒子が、プラスの電荷をもつときは、前記制御手段は、前記第1の電極と前記第2の電極とに前記第3の電極より低い電圧を印加する一方、マイナスの電荷をもつときは、前記制御手段は、前記第1の電極と前記第2の電極とに前記第3の電極より高い電圧を印加する
ことを特徴とする請求項10に記載のビーム出射装置の制御方法。
【請求項12】
前記ビーム出射装置は、前記ビーム分割手段として、偏向電磁石を有し、
前記偏向電磁石は、前記出射された2つの粒子ビームが通った際に当該2つの粒子ビームにその励磁量により偏向角度差を付与する
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載のビーム出射装置の制御方法。
【請求項13】
前記ビーム出射装置は、前記ビーム輸送ラインに接続される第1ポートおよび第2ポートとを備え、
前記第1ポートは、前記ビーム分割手段によって出射角度差とビーム間距離が広げられた前記2つの粒子ビームのうちの一方を照射対象に照射し、
前記第2ポートは、当該2つの粒子ビームのうちの他方を、前記照射対象または前記照射対象とは異なる照射対象に照射する
ことを特徴とする請求項10から請求項12の何れか一項に記載のビーム出射装置の制御方法。
【請求項14】
前記第1ポートは、前記2つの粒子ビームのうちの一方を鉛直方向から前記照射対象に照射し、
前記第2ポートは、前記2つの粒子ビームのうちの他方を水平方向から当該照射対象に照射する
ことを特徴とする請求項13に記載のビーム出射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−9181(P2012−9181A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142081(P2010−142081)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】