ビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置
【課題】部品強度や耐久性等の部品性能を低下させることなく溶接割れを防止するに好適なビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置を提供する。
【解決手段】前記第1,2部材の溶接用開先部14,24より内周側の軸方向端面を第1部材と第2部材との嵌合部分11,21まで互いに離間させて貫通空間を形成する。即ち、前記第1,2部材の溶接用開先部14,24の半径方向内周側に形成される貫通溶接のための貫通空間が、第1部材と第2部材との嵌合部分11,21まで内周側に拡大されている。
【解決手段】前記第1,2部材の溶接用開先部14,24より内周側の軸方向端面を第1部材と第2部材との嵌合部分11,21まで互いに離間させて貫通空間を形成する。即ち、前記第1,2部材の溶接用開先部14,24の半径方向内周側に形成される貫通溶接のための貫通空間が、第1部材と第2部材との嵌合部分11,21まで内周側に拡大されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の差動装置等の機械装置における2つの構成部材同士を接合するビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置に関する。特に、部材とこの部材を内径部から支持する部材とがその側面同士を接触させて互いに接合されて構成される接合部材に好適なビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の駆動出力側には、変速装置を介して伝達される動力を、車両の旋回時等の必要時に左右の車輪にそれぞれ対応する左右のドライブシャフトを介して動力を伝達する差動装置が設けられている。この差動装置は、動力が伝達される鋼製のデフリングギヤと、このデフリングギヤを内径部から支持してデフリングギヤと一体に回転する鋳鉄製のデフケースとを備える。
【0003】
従来から、上記両者を、高張力ボルト等により結合することに代えて、高エネルギビームにより溶接結合するビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
これは、鋳造部品であるデフケースと肌焼き鋼から成るデフリングギヤとを溶接により結合する方法である。そして、先ず、加工の完了した両方の部品において、溶接準備のために溶接すべき面を少なくとも部分的に除去して、両者間に狭いU字状溝、Y字状溝又はV字状溝からなる開先が形成されるようにする。次に、両方の部品を互いに継ぎ合わして、オーステナイト系のフィラーワイヤを補給しながら高エネルギビームにより溶接するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−514511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような高エネルギビームにより溶接結合するビーム溶接方法においては、溶融した母材表面及びフィラーワイヤよりなる溶接金属の周辺には、溶接熱により脆化した熱影響部が存在する。そして、溶接後の溶接金属の凝固収縮は、周辺の熱影響部に対して母材より引き離して剥離させる方向の応力を発生する。当該応力は、母材の柔軟性が高い場合には当該母材の変形により吸収されるが、母材の柔軟性が低い場合には、当該応力により溶接金属と母材との境にある熱影響部において剥離され溶接割れする場合がある。
【0007】
しかしながら、上記従来例では、互いにフィラーワイヤの溶け込みにより溶接される開先の延長上(溶接ビーム先端側)において、部材とこの部材を内径部から支持する部材とが、互いの側面を接触させて当接されている。このため、溶融した母材表面及びフィラーワイヤよりなる溶接金属の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力により、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響部において剥離等の溶接割れが生じるという問題があった。
【0008】
また、溶接後の凝固収縮で発生する応力値を下げるよう、一方の部材を薄肉化することも前記溶接割れの防止に対して有効であるが、薄肉化により部品強度や耐久性等の部品性能を低下させるという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、部品強度や耐久性等の部品性能を低下させることなく溶接割れを防止するに好適なビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、軸方向で第1部材は第2部材の外周に内周部を嵌合させて支持され、第1部材の側面と第2部材の外周に設けたフランジ部の側面とに形成された溶接用開先部にフィラーワイヤを供給しつつ前記溶接用開先部の内周側の貫通空間に達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材である。そして、前記貫通空間は、前記第1,2部材の溶接用開先部より内周側の軸方向端面を互いに離間させて形成する。この結果、前記貫通空間が、第1部材と第2部材との前記嵌合の部分まで内周側に拡大している。
【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明では、高エネルギビームの貫通溶接のための貫通空間が、第1部材と第2部材との嵌合部分まで内周側に拡大されている。このため、溶接後の溶接金属の凝固収縮時に、追従して撓むことができる第1,2部材の母材長さが長くなり、溶接金属周辺の熱影響部に発生する応力値を低下させて、溶接割れの発生を抑制する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の概略構成図。
【図2】本実施形態に係る第1実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとの接合部同士を対向させて示す拡大断面図。
【図3】図2に示す圧入嵌合を進めて、デフリングギヤとデフケースとの接合部同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す断面図。
【図4】デフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図5】本実施形態に係る第2実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとを圧入嵌合させて、デフリングギヤとデフケースとの接合部同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す断面図。
【図6】図5に示したデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図7】本実施形態に係る第3実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとを圧入嵌合させて、デフリングギヤとデフケースとの接合部同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す断面図。
【図8】図7に示したデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図9】本発明の第2実施形態を示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図10】連通溝の構成を示す説明図。
【図11】開先部の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先の内周端に連ねて部分的に設けられた比較例のビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図12】開先部の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先の内周端に連ねて部分的に設けた閉空間に形成した比較例のビーム溶接後の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置を各実施形態に基づいて説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1〜図8は、本発明を適用したビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の第1実施形態を示し、図1は適用しようとする差動装置の概略断面図を、図2〜図4は第1実施例を、図5、6及び図7,8は第2,3実施例を、夫々示す。
【0015】
図1において、ビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1は、エンジン等からの動力が伝達される第1部材としての鋼製のデフリングギヤ2と、このデフリングギヤ2を支持してデフリングギヤ2と一体に回転する鋳鉄製のデフケース3とを備えている。デフケース3は、図示しないが、ハウジングに回転可能に支持されている。そして、ベベルギヤからなる一対のピニオンメイトギヤとこのピニオンメイトギヤと噛合いするベベルギヤからなる左右のサイドギヤとからなるディファレンシャルギヤユニットを内蔵している。
【0016】
そして、変速機の出力がデフリングギヤ2に伝達されると、このデフリングギヤ2が回転するので、デフケース3も回転する。このデフケース3の回転により、デフケース3内に内蔵されているディファレンシャルギヤユニットのピニオンメイトギヤもデフケース3と一体に回転する。すると、ピニオンメイトギヤの噛合いする左右のサイドギヤが回転する。これにより、図示しない左右のドライブシャフトが回転し、これらのドライブシャフトに連結された左右の車輪(不図示)が回転する。この構成の差動装置1は、一般的に使用されている通常のものであり、車両左右の駆動車輪間に配置されるものの他、車両前後のファイナルドライブ装置間に配置されるセンタデファレンシャル装置にも適用されている。
【0017】
前記差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合は、デフリングギヤ2が繰り返し荷重および衝撃荷重を受けることから、高い接合強度(耐疲労強度、耐衝撃強度)が求められる。しかし、デフリングギヤ2を構成する表面焼入された鋼材とデフケース3を構成する鋳鉄若しくは鋳鋼との高強度接合が困難である。このため、一般的には、デフリングギヤ2とデフケース3との高強度接合として、所定数のボルトによるボルト接合が使用されている。しかし、差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合として、ボルト接合を用いたのでは、差動装置1として8〜12本くらいのボルトが使用される。このため、部品点数が多くコスト高となるばかりでなく、重量が重いものとなっている。特に、これらのボルトには荷重が繰り返しかかることから、その部品機能として耐疲労強度および耐衝撃強度等の高強度が求められるため、更に一層コスト高を招いてしまう。また、デフリングギヤ2とデフケース3とを手作業でボルト仮付けを行った後、ボルト締め付け機でボルトを締めつけているため、作業工数が多くかかっている。更に、ボルトが他の部材との干渉を防止するために、ケースの狭い空間内にこれらのボルトの占有スペースが必要となっている。
【0018】
そこで、本実施形態においては、デフリングギヤ2とデフケース3との接合にボルト接合を用いずに、高接合強度を得つつ、作業工数および部品点数をともに削減できるビーム溶接部材を提供するものである。更に本実施形態では、高接合強度を得つつ、占有スペースを低減して他の部材との干渉を防止して確実に動力を伝達することのできる差動装置1を提供するものである。
【0019】
このために、前記デフケース3は、外周に前記デフリングギヤ2の内周部を嵌め合い支持する円筒状の嵌め合い面11を、機械加工により形成する。また、この嵌め合い面11の端部において外周側に突出させてフランジ部12を備える。このフランジ部12の前記嵌め合い面11側の側面は、前記デフリングギヤ2を軸方向に位置決めをすると共にデフリングギヤ2に対して溶接すべき接合部13を構成するよう機械加工している。
【0020】
前記デフリングギヤ2は、リング状の鋼材により形成され、鋼材の一方の側面に形成されたテーパ状の傘歯車部20を備える。また、機械加工により、この傘歯車部20の内周側に形成されてデフケース3の外周の嵌め合い面11に圧入嵌合する内周部21と、傘歯車部20の背面側に形成された接合部23と、を有する。前記接合部23は、デフケース3に設けたフランジ部12に軸方向から当接して軸方向の位置決めすると共にそのフランジ部12の接合部13にビーム溶接される。前記デフリングギヤ2に設ける歯車部20は、車両の平面図より見て、デフケース3の軸心に対して直交する方向の軸(プロペラシャフト)から入力を受ける場合には、上記したように傘歯車となる。また、デフケース3の軸心に対して並行する方向の軸から入力を受ける場合には、デフリングギヤ2に設ける歯車部20は平歯車が使用される。
【0021】
図2〜図4は、本実施形態に係る第1実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置1における、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23を模式的に示す。即ち、図2はデフケース3の嵌め合い面11にデフリングギヤ2の内周部21を圧入嵌合させて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を対向させて示す拡大図である。また、図3は前記圧入嵌合を進めて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す図である。また、図4はデフリングギヤ2とデフケース3とのビーム溶接後の状態を示す図である。
【0022】
図2に示すように、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部は、機械加工により、夫々外周側に形成された開先部14,24を備える。また、開先部14,24よりも内周側において開先部14,24より軸方向に夫々後退させた端面により形成された空間形成部15,25を備える。前記ビーム溶接のための開先部14,24は、内周側において互いに当接される端面部14A,24Aと、この端面部14A,24Aの外周側においてテーパ状に切欠き形成したテーパ部14B,24Bと、を備える。また、前記夫々の空間形成部15,25を構成する側面の内周側は、夫々隅Rおよび面取りを介して、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に連なっている。また、空間形成部15,25を構成する側面の外周側は、夫々隅Rを介して、夫々前記開先部14,24の端面部14A,24Aの内周端に連なるよう構成している。
【0023】
従って、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23は、図3に示すように、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の端面部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、内周に向けて狭まり、外周に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、内周側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間を形成する。この貫通空間は、開先部14,24の内周端からデフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21までの範囲において、互いに接触することなく軸方向に離間している。
【0024】
この状態で、デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、レーザビーム若しくは電子ビーム等の高エネルギビームを照射し、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って溶接する。図4に示すように、フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。
【0025】
溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。
【0026】
図11は、開先部14,24の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先部14,24の内周端に連ねて部分的に設けられた比較例のビーム溶接後の状態を示している。即ち、デフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21までの範囲に渡っては設けられていない。この比較例においては、貫通空間が開先部14,24の内周端に連ねて部分的に設けられているため、貫通空間の内周側では、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面16,26同士が接触させて形成されている。
【0027】
この比較例においても、デフケース3とデフリングギヤ2の開先部14,24にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先部14,24の全周に渡って溶接する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。そして、溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。
【0028】
この比較例においては、デフケース3側の熱影響層31において、溶接割れ32が発生した。これは、貫通空間の内周側において、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面16,26同士が接触させている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さは、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面16,26同士の接触部の外周部分から開先部14,24外周までの長さLBとなる。また、デフケース3のフランジ部12の撓める角度をδとすると、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は積[LB*δ]と見なせる。このため、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和されず、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31において剥離等の溶接割れが生じるものと推定される。
【0029】
一方、本実施形態においては、デフケース3側の熱影響層31においても、溶接割れの発生が抑制された。これは、貫通空間が、その内周側において、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さは、デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合している部分11,21から開先部14,24外周までの長さLAとなる。また、デフケース3のフランジ部12の撓める角度をδとすると、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は積[LA*δ]と見なせる。
【0030】
そして、デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合している部分11,21から開先部14,24外周までの長さLAは、比較例の長さLBよりも長くなる。従って、本実施形態の溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値である積[LA*δ]は、比較例の溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値である積[LB*δ]よりも大きくなる。このため、比較例に比べて本実施形態の方が、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は大きく、つまり、撓みやすいことになる。また、デフケース3の内周側の側面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。
【0031】
ここで、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施形態とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓める本実施形態の方が、発生する引張応力が低くなる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0032】
図5,6及び図7,8は、本実施形態におけるビーム溶接部材の第2,3実施例を示す。即ち、図5及び図7はデフケース3の嵌め合い面11にデフリングギヤ2の内周部21を圧入嵌合させて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を対向させて示す拡大図である。図6及び図8は前記圧入嵌合を進めて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させて両者をビーム溶接した状態を示す図である。
【0033】
図5,6に示す第2実施例のビーム溶接部材においては、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に第1実施例と同様に形成された開先部14,24を備える。そして、デフリングギヤ2側の開先部24よりも内周側の側面には、貫通溶接のための空間を形成するための環状の窪み27が形成されるも窪み27の内周側の端面は、開先部24(端面部24A)と同様な軸方向位置に位置させて端面が形成されている。また、デフケース3側の開先部14よりも内周側の端面は、開先部14より軸方向に後退させた端面により形成されている。従って、デフリングギヤ2側の窪み27及び開先部24と軸方向位置が同じ位置の端面と、デフケース3側の開先部14より軸方向に後退させた端面と、により空間形成部15,25が形成されている。
【0034】
この第2実施例においても、デフケース3側の熱影響層31においても、溶接割れの発生を抑制することができる。これは、貫通空間が、その内周側において、デフケース3側の内周側端面の軸方向への後退により、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1実施例と同様に確保することができる。また、第1実施例と同様に、デフケース3の内周側の端面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きくたわめる本実施例の方が、発生する引張応力を低くできる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0035】
図7,8に示す第3実施例のビーム溶接部材においては、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に第1実施例と同様に形成された開先部14,24を備える。そして、デフリングギヤ2側の開先部24よりも内周側の端面は、開先部24(端面部24A)より軸方向に後退させた端面により形成されている。また、デフケース3側の開先部14よりも内周側の端面には、貫通溶接のための空間を形成するための環状の窪み17が形成されるも窪み17の内周側の端面は、開先部14(端面部14A)と同様な軸方向位置に位置させて端面が形成されている。従って、デフリングギヤ2側の開先部24より軸方向に後退させた端面と、デフケース3側の窪み17及び開先部14(端面部14A)と軸方向位置が同じ位置の端面と、により空間形成部15,25が形成されている。
【0036】
この第3実施例においても、デフケース3側の熱影響層31においても、溶接割れの発生を抑制することができる。これは、貫通空間が、その内周側において、デフリングギヤ2側の内周側端面の軸方向への後退により、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1実施例と同様に確保することができる。
【0037】
従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓める本実施例の方が、発生する引張応力を低くできる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和される。このため、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。また、デフケース3側の開先部14よりも内周側には、貫通溶接のための空間を形成するための環状の窪み17が形成されるも窪み17の内周側の端面は、開先部14(端面部14A)と同様な軸方向位置に位置させて側面が形成されている。このため、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品であっても、充分な剛性を確保することができる。
【0038】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0039】
(ア)第1部材としての例えばデフリングギヤ2は第2部材としての例えばデフケース3の外周に内周部21を嵌合させて支持され、第1部材の側面と第2部材の外周に設けたフランジ部12の側面とに形成された溶接用開先部14,24にフィラーワイヤを供給しつつ前記溶接用開先部の内周側の貫通空間に達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材である。そして、前記貫通空間は、前記第1,2部材の開先部14,24より内周側の軸方向端面を互いに離間させて形成する。この結果、前記貫通溶接のための貫通空間が、第1部材と第2部材との嵌合部分11,21まで内周側に拡大されている。このため、溶接後の溶接金属30の凝固収縮時に、追従して撓むことができる第1,2部材の母材長さが長くなり、溶接金属30周辺の熱影響層31に発生する応力値を低下させて、溶接割れの発生を抑制する効果がある。
【0040】
(イ)貫通空間は、第1部材若しくは第2部材の開先部14,24の内周側の軸方向端面を開先部14,24より軸方向に後退させて形成されている。即ち、第1部材としての例えばデフリングギヤ2側の内周側端面を後退させる場合には、第2部材としての例えばデフケース3側フランジ部12の板厚を増加できその剛性を向上できる。また、第2部材としての例えばデフケース3側の内周側端面を後退させる場合には、溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力がより一層緩和される。結果として、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0041】
(ウ)貫通空間は、第1、2部材の開先部14,24の内周側の両軸方向端面を開先部14,24より軸方向に後退させて形成されている場合には、効果(ア)に加えて以下の効果がある。即ち、ビーム溶接される開先部14,24内周端において、第1,2部材の内周側端面同士を大きい隅R面により接続させることができ、当該部分を応力集中しない形状にすることができる。
【0042】
(エ) 第1部材がデフリングギヤ2であり、このデフリングギヤ2を支持しかつデフリングギヤ2と一体回転する前記第2部材がデフケース3であるように構成した差動装置1を構成する。そして、両者を前記効果(ア)〜(ウ)よりなるビーム溶接する場合には、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部の占有スペースを小型化できる。したがって、差動装置1のハウジング内の他の構成部材に干渉するおそれがなく、動力伝達を確実に行うことができるようになる。しかも、ボルトのための占有スペースが不要となるので、ハウジング内の比較的狭い空間を効率よく使用することが可能となる。しかも、ビーム溶接によるデフリングギヤ2とデフケース3との接合強度(耐疲労強度および耐衝撃強度)を高めることができるので、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部に繰り返しかかる荷重を確実に対応することができる。これによっても、差動装置1は動力伝達を確実に行うことができるようになる。
【0043】
(第2実施形態)
図9、10は、本発明を適用したビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の第2実施形態を示す要部の断面図である。本実施形態においては、ビーム溶接のための貫通空間を外部へ連通させて、閉空間としない構成を第1実施形態に追加したものである。なお、第1実施形態と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0044】
図9において、デフケース3及びデフリングギヤ2は第1実施形態と同様に形成され且つビーム溶接により両接合部13,23が結合される。本実施形態においては、デフケース3の嵌め合い面11に嵌合するデフリングギヤ2の内周部21に、軸方向に連通溝40を形成する。この連通溝40は、デフケース3への組立時にビーム溶接のための貫通空間と外部空間とを連通させる。前記連通溝40は、1本で形成しても複数本で形成してもよく、また、配置する円周方向位置はいずれの円周方向位置でもよい。また、デフリングギヤ2の内周部21に設けるのでなく、デフケース3の嵌め合い面11に設けるものであってもよい。前記連通溝40は、デフケース3の軸心に平行に形成してもよいが、図10に示すように、螺旋状に形成してもよい。螺旋状に形成する場合には、デフリングギヤ2の内周部21の機械加工時に、内面加工ツールの外周側への追い込みにより、内周面21加工と同時に形成することができる。
【0045】
本実施形態においても、第1実施形態の図2、図5及び図7と同様に、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に形成された開先部14,24と、開先部14,24よりも内周側に空間形成部15,25と、を備えている。この空間形成部15,25は、開先部14,24より軸方向に夫々後退させた端面により形成されている。そして、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23は、図3に示すように、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の端面部14A,24A同士が接触される。
【0046】
この状態で、デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って溶接する。図4に示すように、フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。
【0047】
そして、半径方向内周側に位置する貫通空間は連通溝40を介して外部空間に連通しているため、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、半径方向内周側に位置する貫通空間内の空気は膨張する。膨張した気体は連通溝40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通溝40を介して外気を導入する。このため、貫通空間内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間の内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
【0048】
図12は、開先部14,24の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先の内周端に連ねて部分的に設けた閉空間に形成した比較例のビーム溶接後の状態を示している。即ち、貫通空間は、半径方向外周側において開先部14,24の端面部14A,24A同士の接触により閉じられている。また、半径方向内周側においてデフケース3とデフリングギヤ2との端面同士の接触及びデフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21の嵌り合いにより閉じられている。言い換えれば、貫通空間は外部空間から遮断された閉空間となっている。
【0049】
このため、比較例においては、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間内の空気は膨張するが、膨張した気体は高エネルギビームにより溶融した溶接金属30を外周側に押出すよう作用する。この作用は、図12に示すように、溶接金属30の内周側が抉られた状態となり、所謂アンダーフィル33という、溶接欠陥を生じる。また、溶接の終盤では貫通空間内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じるという、溶接欠陥を発生する。
【0050】
これに対して、本実施形態においては、上記したように、貫通空間内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。このため、貫通空間の内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
【0051】
また、溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。しかし、貫通空間が、その内周側においてデフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されているため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1実施形態と同様に確保することができる。また、第1実施形態と同様に、デフケース3の内周側の端面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。
【0052】
従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓めるため、発生する引張応力を低くできる。このため、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0053】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0054】
(オ)第1,2部材の嵌合部11,21には、前記貫通空間と外部空間とを連通させる連通路40が、第1部材若しくは第2部材の少なくとも一方に設けた軸方向の溝により形成されている。このため、貫通空間内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。このため、貫通空間の内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける「アンダーフィル」や溶接の終盤において貫通空間内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に「不整ビード」を生じるという、溶接欠陥を発生することが防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のビーム溶接部材は、例えば自動車の差動装置等の種々の装置に用いられ、金属からなる2つの構成部材を接合して構成される接合部材、特に、繰り返し荷重を受ける部材とこの部材を支持する部材とが互いに接合されて構成される接合部材に好適に利用することが可能である。また、本発明の差動装置は、例えば自動車の差動装置等の種々の機械装置の差動装置に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 差動装置
2 デフリングギヤ
3 デフケース
11 嵌め合い面
12 フランジ部
13、23 接合部
14,24 開先部
15,25 空間形成部
17,27 窪み
21 内周部
30 溶接金属
31 熱影響層
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の差動装置等の機械装置における2つの構成部材同士を接合するビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置に関する。特に、部材とこの部材を内径部から支持する部材とがその側面同士を接触させて互いに接合されて構成される接合部材に好適なビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の駆動出力側には、変速装置を介して伝達される動力を、車両の旋回時等の必要時に左右の車輪にそれぞれ対応する左右のドライブシャフトを介して動力を伝達する差動装置が設けられている。この差動装置は、動力が伝達される鋼製のデフリングギヤと、このデフリングギヤを内径部から支持してデフリングギヤと一体に回転する鋳鉄製のデフケースとを備える。
【0003】
従来から、上記両者を、高張力ボルト等により結合することに代えて、高エネルギビームにより溶接結合するビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
これは、鋳造部品であるデフケースと肌焼き鋼から成るデフリングギヤとを溶接により結合する方法である。そして、先ず、加工の完了した両方の部品において、溶接準備のために溶接すべき面を少なくとも部分的に除去して、両者間に狭いU字状溝、Y字状溝又はV字状溝からなる開先が形成されるようにする。次に、両方の部品を互いに継ぎ合わして、オーステナイト系のフィラーワイヤを補給しながら高エネルギビームにより溶接するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−514511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような高エネルギビームにより溶接結合するビーム溶接方法においては、溶融した母材表面及びフィラーワイヤよりなる溶接金属の周辺には、溶接熱により脆化した熱影響部が存在する。そして、溶接後の溶接金属の凝固収縮は、周辺の熱影響部に対して母材より引き離して剥離させる方向の応力を発生する。当該応力は、母材の柔軟性が高い場合には当該母材の変形により吸収されるが、母材の柔軟性が低い場合には、当該応力により溶接金属と母材との境にある熱影響部において剥離され溶接割れする場合がある。
【0007】
しかしながら、上記従来例では、互いにフィラーワイヤの溶け込みにより溶接される開先の延長上(溶接ビーム先端側)において、部材とこの部材を内径部から支持する部材とが、互いの側面を接触させて当接されている。このため、溶融した母材表面及びフィラーワイヤよりなる溶接金属の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力により、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響部において剥離等の溶接割れが生じるという問題があった。
【0008】
また、溶接後の凝固収縮で発生する応力値を下げるよう、一方の部材を薄肉化することも前記溶接割れの防止に対して有効であるが、薄肉化により部品強度や耐久性等の部品性能を低下させるという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、部品強度や耐久性等の部品性能を低下させることなく溶接割れを防止するに好適なビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、軸方向で第1部材は第2部材の外周に内周部を嵌合させて支持され、第1部材の側面と第2部材の外周に設けたフランジ部の側面とに形成された溶接用開先部にフィラーワイヤを供給しつつ前記溶接用開先部の内周側の貫通空間に達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材である。そして、前記貫通空間は、前記第1,2部材の溶接用開先部より内周側の軸方向端面を互いに離間させて形成する。この結果、前記貫通空間が、第1部材と第2部材との前記嵌合の部分まで内周側に拡大している。
【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明では、高エネルギビームの貫通溶接のための貫通空間が、第1部材と第2部材との嵌合部分まで内周側に拡大されている。このため、溶接後の溶接金属の凝固収縮時に、追従して撓むことができる第1,2部材の母材長さが長くなり、溶接金属周辺の熱影響部に発生する応力値を低下させて、溶接割れの発生を抑制する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の概略構成図。
【図2】本実施形態に係る第1実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとの接合部同士を対向させて示す拡大断面図。
【図3】図2に示す圧入嵌合を進めて、デフリングギヤとデフケースとの接合部同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す断面図。
【図4】デフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図5】本実施形態に係る第2実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとを圧入嵌合させて、デフリングギヤとデフケースとの接合部同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す断面図。
【図6】図5に示したデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図7】本実施形態に係る第3実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとを圧入嵌合させて、デフリングギヤとデフケースとの接合部同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す断面図。
【図8】図7に示したデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図9】本発明の第2実施形態を示すビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置におけるデフリングギヤとデフケースとのビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図10】連通溝の構成を示す説明図。
【図11】開先部の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先の内周端に連ねて部分的に設けられた比較例のビーム溶接後の状態を示す断面図。
【図12】開先部の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先の内周端に連ねて部分的に設けた閉空間に形成した比較例のビーム溶接後の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置を各実施形態に基づいて説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1〜図8は、本発明を適用したビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の第1実施形態を示し、図1は適用しようとする差動装置の概略断面図を、図2〜図4は第1実施例を、図5、6及び図7,8は第2,3実施例を、夫々示す。
【0015】
図1において、ビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置1は、エンジン等からの動力が伝達される第1部材としての鋼製のデフリングギヤ2と、このデフリングギヤ2を支持してデフリングギヤ2と一体に回転する鋳鉄製のデフケース3とを備えている。デフケース3は、図示しないが、ハウジングに回転可能に支持されている。そして、ベベルギヤからなる一対のピニオンメイトギヤとこのピニオンメイトギヤと噛合いするベベルギヤからなる左右のサイドギヤとからなるディファレンシャルギヤユニットを内蔵している。
【0016】
そして、変速機の出力がデフリングギヤ2に伝達されると、このデフリングギヤ2が回転するので、デフケース3も回転する。このデフケース3の回転により、デフケース3内に内蔵されているディファレンシャルギヤユニットのピニオンメイトギヤもデフケース3と一体に回転する。すると、ピニオンメイトギヤの噛合いする左右のサイドギヤが回転する。これにより、図示しない左右のドライブシャフトが回転し、これらのドライブシャフトに連結された左右の車輪(不図示)が回転する。この構成の差動装置1は、一般的に使用されている通常のものであり、車両左右の駆動車輪間に配置されるものの他、車両前後のファイナルドライブ装置間に配置されるセンタデファレンシャル装置にも適用されている。
【0017】
前記差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合は、デフリングギヤ2が繰り返し荷重および衝撃荷重を受けることから、高い接合強度(耐疲労強度、耐衝撃強度)が求められる。しかし、デフリングギヤ2を構成する表面焼入された鋼材とデフケース3を構成する鋳鉄若しくは鋳鋼との高強度接合が困難である。このため、一般的には、デフリングギヤ2とデフケース3との高強度接合として、所定数のボルトによるボルト接合が使用されている。しかし、差動装置1におけるデフリングギヤ2とデフケース3との接合として、ボルト接合を用いたのでは、差動装置1として8〜12本くらいのボルトが使用される。このため、部品点数が多くコスト高となるばかりでなく、重量が重いものとなっている。特に、これらのボルトには荷重が繰り返しかかることから、その部品機能として耐疲労強度および耐衝撃強度等の高強度が求められるため、更に一層コスト高を招いてしまう。また、デフリングギヤ2とデフケース3とを手作業でボルト仮付けを行った後、ボルト締め付け機でボルトを締めつけているため、作業工数が多くかかっている。更に、ボルトが他の部材との干渉を防止するために、ケースの狭い空間内にこれらのボルトの占有スペースが必要となっている。
【0018】
そこで、本実施形態においては、デフリングギヤ2とデフケース3との接合にボルト接合を用いずに、高接合強度を得つつ、作業工数および部品点数をともに削減できるビーム溶接部材を提供するものである。更に本実施形態では、高接合強度を得つつ、占有スペースを低減して他の部材との干渉を防止して確実に動力を伝達することのできる差動装置1を提供するものである。
【0019】
このために、前記デフケース3は、外周に前記デフリングギヤ2の内周部を嵌め合い支持する円筒状の嵌め合い面11を、機械加工により形成する。また、この嵌め合い面11の端部において外周側に突出させてフランジ部12を備える。このフランジ部12の前記嵌め合い面11側の側面は、前記デフリングギヤ2を軸方向に位置決めをすると共にデフリングギヤ2に対して溶接すべき接合部13を構成するよう機械加工している。
【0020】
前記デフリングギヤ2は、リング状の鋼材により形成され、鋼材の一方の側面に形成されたテーパ状の傘歯車部20を備える。また、機械加工により、この傘歯車部20の内周側に形成されてデフケース3の外周の嵌め合い面11に圧入嵌合する内周部21と、傘歯車部20の背面側に形成された接合部23と、を有する。前記接合部23は、デフケース3に設けたフランジ部12に軸方向から当接して軸方向の位置決めすると共にそのフランジ部12の接合部13にビーム溶接される。前記デフリングギヤ2に設ける歯車部20は、車両の平面図より見て、デフケース3の軸心に対して直交する方向の軸(プロペラシャフト)から入力を受ける場合には、上記したように傘歯車となる。また、デフケース3の軸心に対して並行する方向の軸から入力を受ける場合には、デフリングギヤ2に設ける歯車部20は平歯車が使用される。
【0021】
図2〜図4は、本実施形態に係る第1実施例のビーム溶接部材の一例が適用された差動装置1における、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23を模式的に示す。即ち、図2はデフケース3の嵌め合い面11にデフリングギヤ2の内周部21を圧入嵌合させて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を対向させて示す拡大図である。また、図3は前記圧入嵌合を進めて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させたビーム溶接前の状態を示す図である。また、図4はデフリングギヤ2とデフケース3とのビーム溶接後の状態を示す図である。
【0022】
図2に示すように、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部は、機械加工により、夫々外周側に形成された開先部14,24を備える。また、開先部14,24よりも内周側において開先部14,24より軸方向に夫々後退させた端面により形成された空間形成部15,25を備える。前記ビーム溶接のための開先部14,24は、内周側において互いに当接される端面部14A,24Aと、この端面部14A,24Aの外周側においてテーパ状に切欠き形成したテーパ部14B,24Bと、を備える。また、前記夫々の空間形成部15,25を構成する側面の内周側は、夫々隅Rおよび面取りを介して、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に連なっている。また、空間形成部15,25を構成する側面の外周側は、夫々隅Rを介して、夫々前記開先部14,24の端面部14A,24Aの内周端に連なるよう構成している。
【0023】
従って、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23は、図3に示すように、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の端面部14A,24A同士が接触される。そして、開先部14,24のテーパ部14B,24B同士は、内周に向けて狭まり、外周に向けて拡がるビーム溶接のための開先を形成する。また、内周側の空間形成部15,25は、溶接ビームを互いの開先部14,24を貫通させて受入れて、貫通溶接とするための貫通空間を形成する。この貫通空間は、開先部14,24の内周端からデフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21までの範囲において、互いに接触することなく軸方向に離間している。
【0024】
この状態で、デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、レーザビーム若しくは電子ビーム等の高エネルギビームを照射し、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って溶接する。図4に示すように、フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。
【0025】
溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。
【0026】
図11は、開先部14,24の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先部14,24の内周端に連ねて部分的に設けられた比較例のビーム溶接後の状態を示している。即ち、デフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21までの範囲に渡っては設けられていない。この比較例においては、貫通空間が開先部14,24の内周端に連ねて部分的に設けられているため、貫通空間の内周側では、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面16,26同士が接触させて形成されている。
【0027】
この比較例においても、デフケース3とデフリングギヤ2の開先部14,24にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先部14,24の全周に渡って溶接する。フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。そして、溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。
【0028】
この比較例においては、デフケース3側の熱影響層31において、溶接割れ32が発生した。これは、貫通空間の内周側において、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面16,26同士が接触させている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さは、デフケース3とデフリングギヤ2の軸方向端面16,26同士の接触部の外周部分から開先部14,24外周までの長さLBとなる。また、デフケース3のフランジ部12の撓める角度をδとすると、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は積[LB*δ]と見なせる。このため、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和されず、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31において剥離等の溶接割れが生じるものと推定される。
【0029】
一方、本実施形態においては、デフケース3側の熱影響層31においても、溶接割れの発生が抑制された。これは、貫通空間が、その内周側において、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さは、デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合している部分11,21から開先部14,24外周までの長さLAとなる。また、デフケース3のフランジ部12の撓める角度をδとすると、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は積[LA*δ]と見なせる。
【0030】
そして、デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合している部分11,21から開先部14,24外周までの長さLAは、比較例の長さLBよりも長くなる。従って、本実施形態の溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値である積[LA*δ]は、比較例の溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値である積[LB*δ]よりも大きくなる。このため、比較例に比べて本実施形態の方が、溶接金属30の周辺の母材の変位量の期待値は大きく、つまり、撓みやすいことになる。また、デフケース3の内周側の側面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。
【0031】
ここで、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施形態とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓める本実施形態の方が、発生する引張応力が低くなる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0032】
図5,6及び図7,8は、本実施形態におけるビーム溶接部材の第2,3実施例を示す。即ち、図5及び図7はデフケース3の嵌め合い面11にデフリングギヤ2の内周部21を圧入嵌合させて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を対向させて示す拡大図である。図6及び図8は前記圧入嵌合を進めて、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させて両者をビーム溶接した状態を示す図である。
【0033】
図5,6に示す第2実施例のビーム溶接部材においては、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に第1実施例と同様に形成された開先部14,24を備える。そして、デフリングギヤ2側の開先部24よりも内周側の側面には、貫通溶接のための空間を形成するための環状の窪み27が形成されるも窪み27の内周側の端面は、開先部24(端面部24A)と同様な軸方向位置に位置させて端面が形成されている。また、デフケース3側の開先部14よりも内周側の端面は、開先部14より軸方向に後退させた端面により形成されている。従って、デフリングギヤ2側の窪み27及び開先部24と軸方向位置が同じ位置の端面と、デフケース3側の開先部14より軸方向に後退させた端面と、により空間形成部15,25が形成されている。
【0034】
この第2実施例においても、デフケース3側の熱影響層31においても、溶接割れの発生を抑制することができる。これは、貫通空間が、その内周側において、デフケース3側の内周側端面の軸方向への後退により、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1実施例と同様に確保することができる。また、第1実施例と同様に、デフケース3の内周側の端面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きくたわめる本実施例の方が、発生する引張応力を低くできる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0035】
図7,8に示す第3実施例のビーム溶接部材においては、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に第1実施例と同様に形成された開先部14,24を備える。そして、デフリングギヤ2側の開先部24よりも内周側の端面は、開先部24(端面部24A)より軸方向に後退させた端面により形成されている。また、デフケース3側の開先部14よりも内周側の端面には、貫通溶接のための空間を形成するための環状の窪み17が形成されるも窪み17の内周側の端面は、開先部14(端面部14A)と同様な軸方向位置に位置させて端面が形成されている。従って、デフリングギヤ2側の開先部24より軸方向に後退させた端面と、デフケース3側の窪み17及び開先部14(端面部14A)と軸方向位置が同じ位置の端面と、により空間形成部15,25が形成されている。
【0036】
この第3実施例においても、デフケース3側の熱影響層31においても、溶接割れの発生を抑制することができる。これは、貫通空間が、その内周側において、デフリングギヤ2側の内周側端面の軸方向への後退により、デフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されている。このため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1実施例と同様に確保することができる。
【0037】
従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓める本実施例の方が、発生する引張応力を低くできる。従って、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和される。このため、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。また、デフケース3側の開先部14よりも内周側には、貫通溶接のための空間を形成するための環状の窪み17が形成されるも窪み17の内周側の端面は、開先部14(端面部14A)と同様な軸方向位置に位置させて側面が形成されている。このため、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品であっても、充分な剛性を確保することができる。
【0038】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0039】
(ア)第1部材としての例えばデフリングギヤ2は第2部材としての例えばデフケース3の外周に内周部21を嵌合させて支持され、第1部材の側面と第2部材の外周に設けたフランジ部12の側面とに形成された溶接用開先部14,24にフィラーワイヤを供給しつつ前記溶接用開先部の内周側の貫通空間に達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材である。そして、前記貫通空間は、前記第1,2部材の開先部14,24より内周側の軸方向端面を互いに離間させて形成する。この結果、前記貫通溶接のための貫通空間が、第1部材と第2部材との嵌合部分11,21まで内周側に拡大されている。このため、溶接後の溶接金属30の凝固収縮時に、追従して撓むことができる第1,2部材の母材長さが長くなり、溶接金属30周辺の熱影響層31に発生する応力値を低下させて、溶接割れの発生を抑制する効果がある。
【0040】
(イ)貫通空間は、第1部材若しくは第2部材の開先部14,24の内周側の軸方向端面を開先部14,24より軸方向に後退させて形成されている。即ち、第1部材としての例えばデフリングギヤ2側の内周側端面を後退させる場合には、第2部材としての例えばデフケース3側フランジ部12の板厚を増加できその剛性を向上できる。また、第2部材としての例えばデフケース3側の内周側端面を後退させる場合には、溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力がより一層緩和される。結果として、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0041】
(ウ)貫通空間は、第1、2部材の開先部14,24の内周側の両軸方向端面を開先部14,24より軸方向に後退させて形成されている場合には、効果(ア)に加えて以下の効果がある。即ち、ビーム溶接される開先部14,24内周端において、第1,2部材の内周側端面同士を大きい隅R面により接続させることができ、当該部分を応力集中しない形状にすることができる。
【0042】
(エ) 第1部材がデフリングギヤ2であり、このデフリングギヤ2を支持しかつデフリングギヤ2と一体回転する前記第2部材がデフケース3であるように構成した差動装置1を構成する。そして、両者を前記効果(ア)〜(ウ)よりなるビーム溶接する場合には、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部の占有スペースを小型化できる。したがって、差動装置1のハウジング内の他の構成部材に干渉するおそれがなく、動力伝達を確実に行うことができるようになる。しかも、ボルトのための占有スペースが不要となるので、ハウジング内の比較的狭い空間を効率よく使用することが可能となる。しかも、ビーム溶接によるデフリングギヤ2とデフケース3との接合強度(耐疲労強度および耐衝撃強度)を高めることができるので、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部に繰り返しかかる荷重を確実に対応することができる。これによっても、差動装置1は動力伝達を確実に行うことができるようになる。
【0043】
(第2実施形態)
図9、10は、本発明を適用したビーム溶接部材およびこれを備えた差動装置の第2実施形態を示す要部の断面図である。本実施形態においては、ビーム溶接のための貫通空間を外部へ連通させて、閉空間としない構成を第1実施形態に追加したものである。なお、第1実施形態と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0044】
図9において、デフケース3及びデフリングギヤ2は第1実施形態と同様に形成され且つビーム溶接により両接合部13,23が結合される。本実施形態においては、デフケース3の嵌め合い面11に嵌合するデフリングギヤ2の内周部21に、軸方向に連通溝40を形成する。この連通溝40は、デフケース3への組立時にビーム溶接のための貫通空間と外部空間とを連通させる。前記連通溝40は、1本で形成しても複数本で形成してもよく、また、配置する円周方向位置はいずれの円周方向位置でもよい。また、デフリングギヤ2の内周部21に設けるのでなく、デフケース3の嵌め合い面11に設けるものであってもよい。前記連通溝40は、デフケース3の軸心に平行に形成してもよいが、図10に示すように、螺旋状に形成してもよい。螺旋状に形成する場合には、デフリングギヤ2の内周部21の機械加工時に、内面加工ツールの外周側への追い込みにより、内周面21加工と同時に形成することができる。
【0045】
本実施形態においても、第1実施形態の図2、図5及び図7と同様に、デフリングギヤ2およびデフケース3の接合部13,23は、機械加工により、夫々外周側に形成された開先部14,24と、開先部14,24よりも内周側に空間形成部15,25と、を備えている。この空間形成部15,25は、開先部14,24より軸方向に夫々後退させた端面により形成されている。そして、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23は、図3に示すように、デフリングギヤ2とデフケース3との接合部13,23同士を接触させたビーム溶接前の状態では、開先部14,24の端面部14A,24A同士が接触される。
【0046】
この状態で、デフケース3とデフリングギヤ2の開先にフィラーワイヤを供給しながら、高エネルギビームを照射し、順次デフケース3及びデフリングギヤ2を軸心回りに回転させて、開先の全周に渡って溶接する。図4に示すように、フィラーワイヤとデフケース3とデフリングギヤ2の開先とが高エネルギビームにより溶融されて開先部14,24に溶接金属30が形成され、デフケース3とデフリングギヤ2とが開先部14,24で溶接される。同時に、溶接金属30の軸方向両側のデフケース3とデフリングギヤ2の母材部位に、夫々熱影響層31が生じる。
【0047】
そして、半径方向内周側に位置する貫通空間は連通溝40を介して外部空間に連通しているため、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、半径方向内周側に位置する貫通空間内の空気は膨張する。膨張した気体は連通溝40を介して流れ出る。また、溶接後の冷却過程においては、貫通空間内の気体の冷却に伴う収縮に応じて、外部空間から連通溝40を介して外気を導入する。このため、貫通空間内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。従って、貫通空間の内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退けることを防止できる。
【0048】
図12は、開先部14,24の内周に設ける貫通溶接のための貫通空間を、開先の内周端に連ねて部分的に設けた閉空間に形成した比較例のビーム溶接後の状態を示している。即ち、貫通空間は、半径方向外周側において開先部14,24の端面部14A,24A同士の接触により閉じられている。また、半径方向内周側においてデフケース3とデフリングギヤ2との端面同士の接触及びデフケース3とデフリングギヤ2との嵌合部分11,21の嵌り合いにより閉じられている。言い換えれば、貫通空間は外部空間から遮断された閉空間となっている。
【0049】
このため、比較例においては、高エネルギビームの照射及び溶接熱により、貫通空間内の空気は膨張するが、膨張した気体は高エネルギビームにより溶融した溶接金属30を外周側に押出すよう作用する。この作用は、図12に示すように、溶接金属30の内周側が抉られた状態となり、所謂アンダーフィル33という、溶接欠陥を生じる。また、溶接の終盤では貫通空間内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じるという、溶接欠陥を発生する。
【0050】
これに対して、本実施形態においては、上記したように、貫通空間内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。このため、貫通空間の内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける、アンダーフィルや溶接の終盤において貫通空間内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に不整ビードを生じることがない。即ち、溶接欠陥を発生することが防止できる。
【0051】
また、溶接後の溶接金属30が冷えて固まる際には、溶接金属30の体積が収縮し、周囲の母材(デフケース3及びデフリングギヤ2)との間にある熱影響層31付近に引張応力が発生する。しかし、貫通空間が、その内周側においてデフケース3の嵌め合い面11及びデフリングギヤ2の内周部21に拡大されているため、溶接金属30の凝固収縮時に撓める部分の長さを、第1実施形態と同様に確保することができる。また、第1実施形態と同様に、デフケース3の内周側の端面が軸方向に後退されていることによっても、撓みやすいことになる。
【0052】
従って、凝固収縮の体積変化が、比較例と本実施例とで同じと仮定すると、溶接金属30の周辺の母材が大きく撓めるため、発生する引張応力を低くできる。このため、溶融した母材及びフィラーワイヤよりなる溶接金属30の凝固収縮に対応して発生する剥離方向の応力が緩和され、比較的柔軟性の低い鋳鉄部品側の熱影響層31においても、剥離等の溶接割れを生じないものとできる。
【0053】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0054】
(オ)第1,2部材の嵌合部11,21には、前記貫通空間と外部空間とを連通させる連通路40が、第1部材若しくは第2部材の少なくとも一方に設けた軸方向の溝により形成されている。このため、貫通空間内の気体圧力は、溶接中は上昇されることがなく、また、溶接後においても、外気圧と同じに保持される。このため、貫通空間の内部の空気の圧力が上昇して溶融した溶接金属30を押し退ける「アンダーフィル」や溶接の終盤において貫通空間内部の気体が溶接ビードを外周側に押し退けて噴出して溶接ビードの表面側に「不整ビード」を生じるという、溶接欠陥を発生することが防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のビーム溶接部材は、例えば自動車の差動装置等の種々の装置に用いられ、金属からなる2つの構成部材を接合して構成される接合部材、特に、繰り返し荷重を受ける部材とこの部材を支持する部材とが互いに接合されて構成される接合部材に好適に利用することが可能である。また、本発明の差動装置は、例えば自動車の差動装置等の種々の機械装置の差動装置に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 差動装置
2 デフリングギヤ
3 デフケース
11 嵌め合い面
12 フランジ部
13、23 接合部
14,24 開先部
15,25 空間形成部
17,27 窪み
21 内周部
30 溶接金属
31 熱影響層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向で第1部材は第2部材の外周に内周部を嵌合させて支持され、第1部材の側面と第2部材の外周に設けたフランジ部の側面とに形成された溶接用開先部にフィラーワイヤを供給しつつ前記溶接用開先部の内周側の貫通空間に達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材であり、
前記貫通空間は、前記第1,2部材の溶接用開先部より内周側の軸方向端面を互いに離間させて形成され、前記第1部材と第2部材との前記嵌合の部分まで内周側に拡大されていることを特徴とするビーム溶接部材。
【請求項2】
前記貫通空間は、第1部材若しくは第2部材の前記溶接用開先部の内周側の軸方向端面を開先部より軸方向に後退させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のビーム溶接部材。
【請求項3】
前記貫通空間は、第1、2部材の開先部の内周側の両軸方向端面を前記溶接用開先部より軸方向に後退させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のビーム溶接部材。
【請求項4】
前記第1,2部材の嵌合部には、前記貫通空間と外部空間とを連通させる連通路が、第1部材若しくは第2部材の少なくとも一方に設けた軸方向の溝により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のビーム溶接部材。
【請求項5】
少なくともデフリングギヤと、このデフリングギヤを支持しかつデフリングギヤと一体回転するデフケースとを備えている差動装置において、
請求項1ないし4のいずれか1のビーム溶接部材を用い、
前記第1部材がデフリングギヤであり、前記第2部材がデフケースであることを特徴とする差動装置。
【請求項1】
軸方向で第1部材は第2部材の外周に内周部を嵌合させて支持され、第1部材の側面と第2部材の外周に設けたフランジ部の側面とに形成された溶接用開先部にフィラーワイヤを供給しつつ前記溶接用開先部の内周側の貫通空間に達する貫通溶接により接合されたビーム溶接部材であり、
前記貫通空間は、前記第1,2部材の溶接用開先部より内周側の軸方向端面を互いに離間させて形成され、前記第1部材と第2部材との前記嵌合の部分まで内周側に拡大されていることを特徴とするビーム溶接部材。
【請求項2】
前記貫通空間は、第1部材若しくは第2部材の前記溶接用開先部の内周側の軸方向端面を開先部より軸方向に後退させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のビーム溶接部材。
【請求項3】
前記貫通空間は、第1、2部材の開先部の内周側の両軸方向端面を前記溶接用開先部より軸方向に後退させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のビーム溶接部材。
【請求項4】
前記第1,2部材の嵌合部には、前記貫通空間と外部空間とを連通させる連通路が、第1部材若しくは第2部材の少なくとも一方に設けた軸方向の溝により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のビーム溶接部材。
【請求項5】
少なくともデフリングギヤと、このデフリングギヤを支持しかつデフリングギヤと一体回転するデフケースとを備えている差動装置において、
請求項1ないし4のいずれか1のビーム溶接部材を用い、
前記第1部材がデフリングギヤであり、前記第2部材がデフケースであることを特徴とする差動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−169444(P2011−169444A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35874(P2010−35874)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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