説明

ビール様発泡性アルコール飲料の製造方法

【課題】ビールの好ましい特徴を備えたビール様発泡性アルコール飲料を、かつ複雑な設備を要することなく、より簡略な工程で製造する方法、及び該製造方法により製造されたビール様発泡性アルコール飲料の提供。
【解決手段】(a)ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合することにより、調合液を調製する工程と、(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程と、を有し、前記甘味成分が、多糖類及び水溶性食物繊維からなる群より選択される1種以上であることを特徴とするビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵法を用いずにビール様発泡性アルコール飲料を製造する方法、及び該製造方法により製造したビール様発泡性アルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは古くから世界中で愛飲されている、代表的な酒類である。ビールは、一般的に、次の工程で製造される。まず、主原料である麦芽の破砕物と、副原料である米やコーンスターチ等の澱粉質に、温水を加えて混合・加温した後、ホップを加えて煮沸することによって、麦汁を調製する(仕込み工程)。次いで、得られた麦汁を冷却させた後、酵母を添加してアルコール発酵を行う(発酵工程)。さらに、得られた発酵液を熟成させた後(醸造工程、貯酒工程とも言う。)、濾過により酵母及びタンパク質等を除去して、目的のビールを得る(濾過工程)。このように、ビールの製造には、複雑な醸造設備と30日以上の長い製造工程が必要であるため、商業規模でビールを生産するためには、多大な設備投資とランニングコストが必要である。
【0003】
一方で、近年、ビールに続く新たなアルコール飲料として、米やコーンスターチ等の麦芽以外の原料を多く使用した発泡酒や、麦芽を一切使用しないビール様発泡性アルコール飲料(ビールのような風味を有する発泡性アルコール飲料)が開発された。しかしながら、発泡酒やビール様発泡性アルコール飲料は、ビールに比べ、香味や泡品質等が劣るという問題がある。特に、泡は、ビール類にとって重要な外観品質であり、泡持ちが劣ることは、消費者にとっての発泡酒等の魅力を半減させてしまうものであり、泡品質の改善が強く望まれている。
【0004】
発泡性アルコール飲料の泡立ちや泡持ちを改善するために、泡形成素材として、気泡剤のサポニンや、増粘効果のあるアルギン酸プロピレンエステル、オクチニルコハク酸、グリセリン糖脂肪酸エステル等を添加することが行われている。例えば、サポニンを0.0001〜0.01重量%含む炭酸ガス含有飲料であって、オクチニルコハク酸澱粉、ペクチン及びタマリンドガムから選択される1種以上の起泡剤又は泡保持剤を配合する方法や(例えば、特許文献1参照。)、サポニンのほかに平均分子量20000以下のコラーゲンペプチドを配合する方法や(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。その他、泡形成素材として、タンパク質やその分解物を用いる方法もある。例えば、タンパク質分解酵素を用いて動植物性タンパク質を部分加水分解した後にpH2〜6で不溶物を除去した精製タンパク分解物を、ガス入り飲料に添加する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、発泡剤として、大豆蛋白中の7S成分(β−コングリシニン)及び11S成分(グリシニン)を別途に加水分解し、且つ両加水分解物を含むポリペプチド(例えば、特許文献4参照。)や、SDSポリアクリルアミド電気泳動法による分析において、分子量が3,000〜25,000の範囲にあり、塩濃度が乾燥重量で5.0%以下、脂溶性成分が乾燥重量で0.3%以下であることを特徴とするエンドウホエー由来の可溶性ポリペプチド(例えば、特許文献5参照。)等がある。さらに、近年、ビールの泡を形成するタンパク質の中で、シリアル脂質転移タンパク質が最も起泡性が高いことに注目し、このタンパク質を泡生成添加剤として、ビール等の発泡性飲料に添加する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−11200号公報
【特許文献2】特開2009−247237号公報
【特許文献3】特開昭60−184372号公報
【特許文献4】特開2001−69920号公報
【特許文献5】特開2007−302606号公報
【特許文献6】特表平9−505997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の発泡酒やビール様発泡性アルコール飲料は、原料はビールと異なるものの、麦汁又は糖化液を酵母で発酵させており、その後の醸造工程と濾過工程も必要とするため、ビールと同様に大掛かりな設備を要する。
【0007】
本発明は、ビールの好ましい特徴を備えたビール様発泡性アルコール飲料を、かつ複雑な設備を要することなく、より簡略な工程で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ビールらしさを現す本質的要素を解析し、これらを統合させることによって、発酵設備や長期の熟成を要することなく、ビール様発泡性アルコール飲料を製造し得ると考えた。さらに研究した結果、ポリペプチドと、苦味成分と、特定の甘味成分と、アルコールと、炭酸ガスとを混合することにより、ビールの味感及び外観の特徴を実現し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) (a)ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合することにより、調合液を調製する工程と、(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程と、を有し、前記甘味成分が、多糖類及び水溶性食物繊維からなる群より選択される1種以上であることを特徴とするビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(2) 前記ポリペプチドが、予めpH3.6〜4.0において等電点沈殿処理した後に、生じた沈殿物を除去したポリペプチドであることを特徴とする、前記(1)記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(3) 前記工程(a)において、前記調合液にさらに酸を添加し、当該調合液のpHを3.6〜4.0に調整することを特徴とする、前記(1)又は(2)記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(4) 前記ポリペプチドの重量平均分子量が300〜20000であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(5) 前記苦味成分がイソα酸であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(6) 前記工程(a)により得られた調合液中のポリペプチドの含有量が1000〜4000ppmであることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(7) 前記甘味成分がオリゴ糖であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(8) 前記工程(a)により得られた調合液が、1000〜4000ppmの重量平均分子量が300〜20000のポリペプチドと、0.5〜3%(重量/重量)のオリゴ糖と、10〜50ppmのイソα酸とを含有することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(9) 前記ポリペプチドが、小麦タンパク質、大麦タンパク質、大豆タンパク質、米タンパク質、とうもろこしタンパク質、卵白タンパク質、及びそれらの分解物からなる群より選択される1以上であることを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(10) 前記イソα酸がテトライソα酸であることを特徴とする、前記(5)〜(9)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(11) 前記調合液に、着色料及び香料からなる群より選択される1以上をさらに加えることを特徴とする、前記(1)〜(10)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法、
(12) 前記(1)〜(11)のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法により製造されたビール様発泡性アルコール飲料、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法においては、ビール発酵工程を経ずに、ビール風味の発泡性アルコール飲料を製造することができる。このため、大掛かりなビール醸造設備が不要となり、大幅なコストダウンとエネルギーの節約が可能となる。また、泡形成素材として、オクチニルコハク酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等の合成の発泡剤ではなく、ポリペプチドを用いることにより、泡持ちが良い上に、ビールと共通する旨みを有する発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】参考例1において、製造された発泡性アルコール飲料によって生じた泡の体積の経時的変化を示した図である。
【図2】参考例2において、製造された発泡性アルコール飲料によって生じた泡の体積の経時的変化を示した図である。
【図3】参考例3において、製造された発泡性アルコール飲料によって生じた泡の体積の経時的変化を示した図である。
【図4】実施例2において、製造されたビール様発泡性アルコール飲料によって生じた泡の体積の経時的変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における発泡性アルコール飲料とは、酒税法上の分類にとらわれず、炭酸ガスによる発泡性を有し、かつアルコールを含有する飲料を意味する。また、ビール様発泡性アルコール飲料とは、ビールのような風味を有する発泡性アルコール飲料を意味する。
【0013】
本発明のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略記することがある。)は、ビールらしさを現す各種成分を混合することにより、ビール様発泡性アルコール飲料を製造する方法である。本発明の製造方法は、原料として麦汁を使用せず、かつビール発酵・醸造工程が無いため、大掛かりな仕込み・醸造設備や長期間の熟成期間が不要であり、商業上量産する上で非常に大きな利点を有する。よって、本発明の製造方法により製造されたビール様発泡性アルコール飲料(以下、「本発明のビール様発泡性アルコール飲料」)は、より市場における競争力に優れた飲料となることが期待される。
【0014】
各種成分を混合する方法(調合法)によって、発酵飲料であるビールと同等の風味や外観的特徴を有する発泡性アルコール飲料を製造することは、非常に困難であった。本発明者は、まず、ビールの味感及び外観の特徴を分析した。ビールは、容器に注いだ際に綺麗な泡が立ち、独特の苦味と旨みがあり、甘くないがコクがある、発泡性アルコール飲料である。本発明者は、これらのビールの本質的特徴が、泡形成素材と、ホップ由来の苦味と、その苦味にあう独特の旨みと、アルコールのほのかな甘味と、炭酸の酸味とのバランスで出来ていると解析した。そして、これらを現す各種成分、具体的には、泡形成素材と旨み成分を兼ねたポリペプチドと、苦味成分と、特定の甘味成分と、アルコールと、酸とを、バランスよく混合することにより、ビールらしさを充分に備えた発泡性アルコール飲料を製造し得ることを見出した。
【0015】
ビールの外観上の最大の特徴は、容器に注いだ際に白い綺麗な泡が立つことである。また、ビールの泡は、ほのかな旨みとコクも有している。そこで、本発明の製造方法においては、外観と味の双方においてビールと同等な泡を形成するために、ポリペプチドを泡形成素材として用いる。
【0016】
そもそもビールの泡は、炭酸ガスが気泡となって気散しようとするときに生じるものであり、主として、麦汁中のタンパク質や、酵母マンナン、ホップ由来のサポニン等により生成されると考えられている。したがって、例えば、常法により調製した麦汁に、アルコールと炭酸ガスを直接加えることによって、発酵・醸造工程を経ることなく、ビールと同様に肌理が細かく旨みのある泡が立つ発泡性アルコール飲料を製造することが可能である。しかしながら、麦汁は甘いため、麦汁を発酵させずに用いると、ビールに比べて甘味が非常に強い発泡性アルコール飲料となってしまう。
【0017】
甘味を抑えるため、麦汁の替わりに、従来から発泡剤として使用されているオクチニルコハク酸やアルギン酸プロピレンエステル、グリセリン糖脂肪酸エステル等を用いることも考えられる。しかしながら、これらの合成発泡剤を泡形成素材として形成された泡は、ビールの泡に比べて泡持ちが良くなく、旨みもない。その他、ユッカホームのようなサポニン類を泡形成素材として用いることも考えられるが、サポニン類は、泡持ちが良くない上に、泡形成能も比較的低いため、十分な泡を得るためには大量に加える必要があり、苦味、エグミが強くなってしまう。
【0018】
これに対してタンパク質は、一般に強い気泡力を持っている。例えば、牛乳のタンパク質や卵白タンパク質、大豆タンパク質等に炭酸水を注ぐと、白い綺麗な泡が出来る。加えて、タンパク質は当然ながら旨みを有しており、よってポリペプチドから形成された泡は、コクと旨みがあり、外観上のみならず、味も良好である。すなわち、泡形成素材としてポリペプチドを用いることにより、外観と味の双方においてビールと遜色のない泡を形成することができる。さらに、飲食品の原料としては、合成物よりも天然物が好まれる傾向にあり、この点からも、オクチニルコハク酸等の合成物を用いるよりも、天然由来のポリペプチドを泡形成素材とするほうが好ましい。
【0019】
ポリペプチドは、泡形成素材としてのみならず、発泡性アルコール飲料の呈味成分としても機能する。すなわち、原料としてポリペプチドを用いることにより、発泡性アルコール飲料に対して、旨みやコクも付与させることができる。特に、ポリペプチドの旨みは、ホップの苦味と相性が良い。その他にも、ポリペプチドは、疲労回復や美容に対して有効であることが知られており、原料としてポリペプチドを用いることによって、泡を楽しむとともに、より嗜好性に優れたビール様発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【0020】
すなわち、本発明の製造方法は、以下の工程(a)〜(b)を有することを特徴とする。
(a)ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合することにより、調合液を調製する工程と、
(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程。
以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。
【0021】
まず、工程(a)において、ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合し、調合液を調製する。これらの成分を混合する順番は特に限定されるものではない。例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)のポリペプチド、苦味成分、及び甘味成分と、アルコールとを混合することもできる。また、ポリペプチドや、苦味成分、甘味成分を、予め水溶液としておき、これらの水溶液とアルコール、必要に応じて原料水とを混合してもよい。
【0022】
工程(a)において用いられるポリペプチドは、泡形成素材と旨み成分を兼ねている。ポリペプチドの大きさは、十分な起泡性を発揮し得る大きさであれば、特に限定されるものではない。一般的に、タンパク質の分子量が大きくなるほど、泡形成能、特に泡保持能は高くなるが、水への溶解性が低下する傾向にある。このため、ビールの泡タンパク質は比較的大きなもの(分子量が1.5〜10万程度)と考えられているが、本発明の製造方法においては、用いるポリペプチドの重量平均分子量は300〜20000であることが好ましく、500〜15000であることがより好ましく、1000〜10000であることがさらに好ましい。用いるポリペプチドの重量平均分子量を300以上とすることにより、より高い泡形成効果を得ることができる。また、用いるポリペプチドの重量平均分子量を20000以下とすることにより、ポリペプチドから生じる不溶物の量を十分に低減させることができ、旨みとコクに優れたビール様発泡性アルコール飲料を効率よく製造することができる。
【0023】
本発明において用いられるポリペプチドは、市販されているポリペプチドであってもよく、植物、動物、又は微生物から抽出・精製されたタンパク質であってもよく、これらのタンパク質を分解して得られるタンパク分解物であってもよい。水への溶解性がより向上することから、タンパク質よりもタンパク分解物であるほうが好ましい。タンパク分解物を得るための分解方法は特に限定されるものではなく、熱や圧力による分解、酸やアルカリによる分解、酵素による分解等の、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。中でも、簡便であり、かつ、工程制御しやすいため、酵素による分解が好ましい。
【0024】
例えば、重量平均分子量が300〜20000であるポリペプチドは、酵素等により分解して得られたタンパク分解物を、大きさにより分離することにより、調製することができる。該分離方法は、タンパク分解物を大きさにより分離できる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、ゲル透過クロマトグラフィー法、濾過法、電気泳動法、又は遠心分離法により、大きさの混在するタンパク分解物から、目的の大きさのタンパク分解物のみを単離精製することができる。
【0025】
本発明において用いられるポリペプチドは、小麦タンパク質(小麦から抽出・精製されたタンパク質、以下同様。)、大麦タンパク質、大豆タンパク質、米タンパク質、とうもろこしタンパク質、又は卵白タンパク質であることが好ましく、これらのタンパク質の分解物であることがより好ましい。これらのタンパク質及びタンパク分解物は、1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明において用いられるポリペプチドは、予め、水に対して不溶性のものを除去したものであることも好ましい。例えば、ポリペプチドを水に添加して溶解させた後、得られた水溶液から不溶物を除去したものを、工程(a)において他の成分と混合する。なお、ポリペプチドを溶解させる水のpHを、最終製品であるビール様発泡性アルコール飲料のpHに揃えておくことが好ましい。例えば、pH調整をせずにポリペプチドを水に添加して溶解させた場合には、得られた水溶液を珪藻土濾過することにより清澄な濾過液を得られるが、当該濾過液をビール様発泡性アルコール飲料に使用したとき場合に濁りが生じてしまう場合が多い。これは、炭酸ガスを添加することによってpHが低下するため、等電点沈殿が生じることによる。予め、ビール様発泡性アルコール飲料のpHで等電点沈殿処理を行い、不溶物を除去したポリペプチドを用いることにより、清澄で濁りのないビール様発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【0027】
本発明においては、特に、予めpH3.6〜4.0において等電点沈殿処理した後に、生じた沈殿物を除去したポリペプチドを用いることが好ましい。なお、等電点沈殿処理においてpHを3.6〜4.0に調整するために用いる酸は特に限定されるものではなく、リン酸や塩酸等の無機酸であってもよく、有機酸であってもよい。飲料の安全性の点から、本発明においては、無機酸よりも有機酸を用いるほうが好ましい。有機酸としては、一般的に飲食品の製造に使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸等が挙げられる。
【0028】
例えば、小麦グルテンや、大麦グルテン、分離大豆タンパクカード、卵白タンパク質を酵素等により分解し、得られたタンパク分解物水溶液にクエン酸等の酸を加えてpH4.3程度に調整して等電点沈殿を生じさせ、これを珪藻土濾過して不溶物を除去することにより、工程(a)において用いられるポリペプチドとして好適な小麦グルテン分解ペプチド、大麦グルテン分解ペプチド、大豆タンパク分解ペプチド、卵白タンパク分解ペプチドが得られる。同様に、例えば、米タンパク質やとうもろこしタンパク質を酵素等により分解し、得られたタンパク分解物水溶液に酸を加えてpH2.8〜3.6程度に調整して等電点沈殿を生じさせ、これを珪藻土濾過して不溶物を除去することにより、良質な泡形成素材であるポリペプチドを得ることができる。これらのタンパク分解ペプチドは、酸性溶液に対する溶解性が良好である上に、総じて綺麗な白い泡立ち効果があり、さらに形成された泡は旨みがある。つまり、これらのタンパク分解ペプチドを用いることにより、濁りがなく透明であり、かつ、ビールと遜色のない泡が得られるビール様発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【0029】
なお、小麦グルテン、大麦グルテン、分離大豆タンパクカード、米タンパク質、とうもろこしタンパク質、及び卵白タンパク質は、常法により調製したものを用いることができる。例えば分離大豆タンパクカードは、大豆を脱脂した脱脂大豆を水抽出して酸沈殿させることにより調製することができる。
【0030】
不溶物の除去方法は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。作業性により優れるため、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0031】
工程(a)において用いられる苦味成分は、製品であるビール様発泡性アルコール飲料において、ビールと同質若しくは近似する苦味を呈する成分であれば特に限定されるものではない。ホップ中に含まれている苦味成分であってもよく、ホップには含まれていない苦味成分であってもよい。このような苦味成分として、具体的には、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、キニーネ、ナリンジン、ニガキ等が挙げられる。本発明において用いられる苦味成分としては、ホップの主たる苦味成分であるイソα酸又はその加工物であることが好ましく、テトライソα酸であることがより好ましい。特に、イソα酸は、ホップの主たる苦味成分であり、ビールの苦味と同質であることに加えて、ポリペプチドによる泡形成効果、特に泡持ち効果を増強し得るため好ましい。
【0032】
イソα酸やβ酸の酸化物等のホップ中に含まれている苦味成分は、例えば、ホップを水等の適当な溶媒中で煮沸することにより、抽出することができる。得られたホップ抽出物(ホップエキス)は、そのまま苦味成分として使用することもできるが、苦味の本体であるイソα酸やβ酸の酸化物等に精製したものを苦味成分として用いることが好ましい。ホップエキスをそのまま用いると、ホップ独特のヤニ臭等の好ましくない成分も添加されてしまうためである。イソα酸を更に使いやすく加工したテトライソα酸も、日光臭等の劣化臭が発生しないため好ましい。
【0033】
工程(a)において添加する甘味成分は、多糖類及び水溶性食物繊維からなる群より選択される1種以上である。通常のジュースやチューハイ飲料は、甘味と酸味のバランスで味が出来ているが、ビールはチューハイ飲料等と異なり、甘味と酸味が突出していることは無い。そこで、本発明の製造方法においては、甘味成分として、単糖の強い甘味ではなく、比較的甘味度の低い多糖類や水溶性食物繊維を用いることにより、アルコールのほのかな甘味と合わさったマイルド感を出し、よりビールらしい味感を実現している。
【0034】
本発明及び本願明細書において、多糖類とは、3以上の単糖が重合した糖質を意味する。多糖類は、主にその大きさによって、でんぷん、デキストリン、及びオリゴ糖に大別される。オリゴ糖は、3〜10個程度の単糖が重合した糖質であり、デキストリンは、でんぷんを加水分解して得られる糖質であって、オリゴ糖よりも大きなものを指す。
【0035】
本発明及び本願明細書において、水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。
【0036】
工程(a)において用いられる甘味成分としては、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、多糖類であるオリゴ糖と水溶性食物繊維である難消化性デキストリンの両方を、ポリペプチド等の他の成分と混合してもよい。本発明においては、甘味成分としてオリゴ糖、デキストリン、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、又はそれらの組み合わせを用いることが好ましく、4個以上の単糖が重合したオリゴ糖又はデキストリンを用いることがより好ましく、4〜10個の単糖が重合したオリゴ糖を用いることがさらに好ましい。
【0037】
工程(a)において添加するアルコールは、酒類の製造において一般的に用いられている原料アルコールを用いる。
【0038】
本発明の製造方法においては、工程(a)において、さらに酸を添加してもよい。調合液に酸を適宜添加することにより、酸味と甘味のバランスがより優れたビール様発泡性アルコール飲料を製造することができる。
【0039】
酸を添加する場合には、調合液のpHが3.6〜4.0になるように、酸の添加量を調整することが好ましい。調合液に添加する酸の量が多すぎると、苦味が強調されてしまい、飲み辛くなる。酸の量を、調合液のpHが3.6〜4.0程度になるように調節して添加することにより、製造されるビール様発泡性アルコール飲料において、苦味と旨みのバランスをより改善させることができる。
【0040】
調合液に添加する酸は、前述のポリペプチドの等電点沈殿処理と同様に、特に限定されるものではなく、リン酸や塩酸等の無機酸であってもよく、有機酸であってもよい。飲料の安全性の点から、本発明においては、無機酸よりも有機酸を用いるほうが好ましい。
【0041】
工程(a)において調製された調合液に、不溶物が生じる場合がある。例えば、酸性下で等電点沈殿処理を行わなかったポリペプチドを用いた場合には、調合液中に不溶物が生じ易い。この場合には、工程(b)の前に、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0042】
次いで、工程(b)として、工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える。これにより、ビール様発泡性アルコール飲料を得る。炭酸を加えることによって、ビールと同様の爽快感が付与される。なお、炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。例えば、工程(a)により得られた調合液と炭酸水とを混合してよく、工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを直接加えて溶け込ませてもよい。
【0043】
炭酸ガスを添加した後、得られたビール様発泡性アルコール飲料に対して、さらに濾過等の不溶物を除去する処理を行ってもよい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。
【0044】
本発明のビール様発泡性アルコール飲料においては、ビールの本質的特徴である綺麗な白い泡と旨みをポリペプチドにより実現し、さらに、苦味成分と甘味成分と少量の酸とアルコールとをバランスよく組み合わせることにより、よりビールらしい味わいを実現している。このため、工程(a)において調合液に添加するポリペプチド、苦味成分、甘味成分、及びアルコールの量は、工程(b)における炭酸ガスを加えた後の当該調合液中の当該成分の含有量(すなわち、製造されたビール様発泡性アルコール飲料中の含有量)が、所望の量となるように添加される。
【0045】
例えば、工程(b)を、後記実施例1のように、工程(a)により調製された調合液に等量の炭酸水を混合することにより行う場合には、工程(a)においては、調合液中の含有量が、炭酸水混合後のビール様発泡性アルコール飲料中の含有量の2倍となるように、各種成分を添加する。一方、後記実施例2のように、工程(a)により調製された調合液に直接炭酸ガスを加えて溶け込ませることにより行う場合には、工程(a)においては、調合液中の含有量が、炭酸水混合後のビール様発泡性アルコール飲料中の含有量と同等となるように、各種成分を添加する。
【0046】
ビール様発泡性アルコール飲料中のポリペプチド濃度は、ポリペプチドの大きさや種類、他の成分とのバランス等を考慮して適宜決定することができる。例えば、重量平均分子量が300〜20000であるポリペプチドを用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のポリペプチド濃度は、1000〜4000ppmであることが好ましく、1500〜3500ppmであることがより好ましく、2000〜3000ppmであることがさらに好ましい。
【0047】
ビール様発泡性アルコール飲料中の苦味成分の量は、苦味成分の種類、他の成分とのバランス等を考慮して適宜決定することができる。例えば、イソα酸やテトライソα酸を用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のイソα酸等の濃度は、10〜50ppmであることが好ましく、15〜45ppmであることがより好ましく、20〜40ppmであることがさらに好ましい。
【0048】
ビール様発泡性アルコール飲料中の甘味成分の量は、用いる甘味成分の種類や組み合わせ、他の成分とのバランス等を考慮して適宜決定することができる。例えば、オリゴ糖を用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のオリゴ糖の濃度は、0.5〜3%(重量/重量)であることが好ましく、0.7〜2.5%(重量/重量)であることがより好ましく、1.0〜2.0%(重量/重量)であることがさらに好ましい。
【0049】
ビール様発泡性アルコール飲料中のアルコールの量は、所望のビール様発泡性アルコール飲料の特性等を考慮して適宜決定される。例えば、ビール様発泡性アルコール飲料中のアルコールの濃度は、ビールのアルコール度数に近い2〜9%(容量/容量)とすることが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法においては、特に、炭酸ガスを加えて得られるビール様発泡性アルコール飲料が、1000〜4000ppmの重量平均分子量が300〜20000のポリペプチドと、0.5〜3%(重量/重量)のオリゴ糖と、10〜50ppmのイソα酸と、2〜9%(容量/容量)のアルコールとを含有するように製造することが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法においては、ポリペプチド、苦味成分、甘味成分、酸、及びアルコールにより達成される、外観上及び味感上のビールらしさを損なわない範囲において、その他の成分を副原料として用いてもよい。当該副原料としては、例えば、着色料や香味料等が挙げられる。これらの副原料は、工程(a)において、苦味成分等と共に添加してもよく、工程(a)の後の適当な時期に添加してもよい。例えば、pHを3.6〜4.0に調整した後の調合液に添加してもよく、炭酸ガスを添加した後の調合液に添加してもよい。
【0052】
副原料として用いられる着色料としては、例えば、カラメル、廃糖蜜、カラメル麦芽エキス等が挙げられる。中でも、カラメルを用いることが好ましい。また、副原料として用いられる香味料としては、ビールフレーバー、ビール香料、ホップ香料等が挙げられる。ホップ香料とは、例えば、ホップに含まれている香味成分であるリナロール(Linalool)、フムレンエポキシド、エステル類等を主要成分として含有する香料である。該エステル類としては、具体的には、エチルイソブチレイト、エチル−2−メチルブチレイト、及び、エチルイソバレレイト等が挙げられる。
【0053】
このようにして得られた本発明のビール様発泡性アルコール飲料は、ビールが有する特徴的な外観や味感を備えた発泡性アルコール飲料であり、嗜好性に優れた飲料である。さらに、大掛かりなビール醸造設備や長期の熟成期間を要することなく、簡便に製造し得るため、製造コストが従来になく低く抑えられており、経済性に優れた飲料である。
【実施例】
【0054】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
ポリペプチドとして小麦グルテン分解ペプチドGP−1(日清ファルマ社製)を、苦味成分としてテトラヒドロキシイソα酸を、甘味成分としてオリゴ糖を、それぞれ用いて、ビール様発泡性アルコール飲料を製造した。
【0056】
<小麦グルテン分解ペプチドの等電点沈殿処理>
小麦グルテン分解ペプチドGP−1(以下、小麦ペプチドGP−1)は、小麦グルテンを、アミノ酸の数が50〜100個程度にまで酵素分解して得られたものであり、重量平均分子量は5000〜10000である。
まず、20gの小麦ペプチドGP−1を、180gの水に添加して混合して溶解させた。得られた水溶液は濁っていた。この水溶液にクエン酸を添加して、pH4.3程度に調整した後、珪藻土濾過することにより、清澄な10%(重量/重量)の小麦ペプチド濾過液を得た。
【0057】
<ビール様発泡性アルコール飲料の製造>
20gの上記の小麦ペプチド濾過液と、10gのオリゴスター(オリゴ糖、松谷化学社製)と、0.1mlの1%(重量/重量)のテトラヒドロキシイソα酸(ホップスタイナー社製)と、47mlの95% 原料用アルコールと、0.5gのカラメル(池田糖化社製)と、1mlのビールフレーバー(三栄源社製)とを混合し、原料水を加えて最終容量を500mlに調整した後、よく攪拌し、調合液を得た。
この調合液を、350ml缶に、175ml分注し、さらに4.6volの炭酸水を175ml加え、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した。
【0058】
殺菌後の350ml缶に入っているビール様発泡性アルコール飲料は、4g/L(2000ppm)の小麦ペプチドと、1%(重量/重量)のオリゴ糖と、28ppmのテトラヒドロキシイソα酸と、4.5%(容量/容量)のアルコールとを含有しており、炭酸ガス含有量が2.3volであった。このビール様発泡性アルコール飲料は、ビールのようなコクと旨みを有しており、容器に注いだところ、白い綺麗な泡が楽しめた。
【0059】
[参考例1]
各種ポリペプチドの泡形成能を調べた。具体的には、グルタミンペプチド(日清ファルマ社製)、ハイニュートD1(不二製油社製)、卵白ペプチド(キユーピー社製)を用いた。
なお、ハイニュートD1は大豆オリゴペプチドであり、重量平均分子量は500〜20000と広いが、3000〜10000が中心である。
また、グルタミンペプチドの重量平均分子量は5000〜10000であり、卵白ペプチドの重量平均分子量は1000〜2000である。
【0060】
まず、実施例1において小麦グルテン分解ペプチドに対して行った等電点沈殿処理と同様にして、グルタミンペプチド、ハイニュートD1(以下、大豆ペプチドD1)、及び卵白ペプチドを処理し、清澄な10%(重量/重量)のペプチド濾過液を得た。
次いで、20gの上記の各ペプチド濾過液と、57mlの95% 原料用アルコールとを混合し、原料水を加えて最終容量を400mlに調整した後、よく攪拌し、調合液を得た。
この調合液を、350ml缶に140ml分注し、さらに4.6volの炭酸水を210ml加え、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した。殺菌後の缶に入っている発泡性アルコール飲料は、4g/L(2000ppm)の各ペプチドと、5%(容量/容量)のアルコールとを含有しており、炭酸ガス含有量が2.7volであった。
【0061】
この350ml缶を5℃に冷却し、内溶液(発泡性アルコール飲料)を縦長のガラスビーカーに注ぎ、生じた泡の体積を経時的に目視により測定した。比較対象として、ビールを同様にしてガラスビーカーに注ぎ、生じた泡の体積を測定した。測定結果を図1に示す。この結果、いずれのペプチド濾過液を用いた場合にも、ビールと同様の白い綺麗な泡が形成された。特に、グルタミンペプチドと卵白ペプチドのペプチド濾過液を添加した発泡性アルコール飲料では、ビールと同程度の大量の泡が形成された。
【0062】
[参考例2]
ポリペプチドの大きさによる泡形成能の差を調べるために、大豆ペプチドD1と、ハイニュートAM(不二製油社製)とを比較した。
なお、ハイニュートAMはジペプチドやトリペプチド主体の大豆オリゴペプチドであり、重量平均分子量は200〜300である。
【0063】
まず、20gのハイニュートAM(以下、大豆ペプチドAM)を、180gの水に添加して混合して溶解させ、10%(重量/重量)の大豆ペプチドAM溶液を得た。なお、得られた水溶液は透明であったため、珪藻土濾過は行わなかった。清澄なタンパク質溶液が得られたのは、大豆ペプチドAMが、分子量が小さく、酸凝固が生じ難く、夾雑物が少ないためと推察される。
次いで、20gの上記の大豆ペプチドAM溶液又は参考例1で調製した大豆ペプチドD1濾過液と、57mlの95% 原料用アルコールとを混合し、原料水を加えて最終容量を400mlに調整した後、よく攪拌し、調合液を得た。
この調合液を、350ml缶に140ml分注し、さらに4.6volの炭酸水を210ml加え、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した。殺菌後の缶に入っている発泡性アルコール飲料は、4g/L(2000ppm)の各ペプチドと、5%(容量/容量)のアルコールとを含有しており、炭酸ガス含有量が2.7volであった。
この350ml缶を5℃に冷却し、内溶液(発泡性アルコール飲料)を縦長のガラスビーカーに注ぎ、生じた泡の体積を経時的に目視により測定した。測定結果を図2に示す。この結果、分子量の小さい大豆ペプチドAMは、大豆ペプチドD1よりも初期の泡立ちが大きかった。ただし、泡保持時間は短く、泡の消失が早く、2分後における泡の量は、大豆ペプチドAMと大豆ペプチドD1はほぼ等しかった。また、大豆ペプチドAMを添加した発泡性アルコール飲料は、大豆ペプチドD1を添加したものよりも旨みが強かった。
【0064】
[参考例3]
イソα酸を添加することによるポリペプチドの泡形成能に対する影響を調べた。
まず、20gの参考例1において調製した卵白ペプチド濾過液と、57mlの95% 原料用アルコールと、イソα酸(ホップシュタイナー社製)とを混合し、原料水を加えて最終容量を400mlに調整した後、よく攪拌し、調合液(イソα酸添加)を得た。
一方、20gの参考例1において調製した卵白ペプチド濾過液と、57mlの95% 原料用アルコールとを混合し、原料水を加えて最終容量を400mlに調整した後、よく攪拌し、調合液(イソα酸無添加)を得た。
これらの調合液を、それぞれ、350ml缶に140ml分注し、さらに4.6volの炭酸水を210ml加え、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した。調合液(イソα酸添加)を用いて製造された発泡性アルコール飲料は、30mg/Lのイソα酸を含有していた。
【0065】
参考例1と同様にして、これらの350ml缶に入っている発泡性アルコール飲料をガラスビーカーに注ぎ、生じた泡の体積を経時的に目視により測定した。測定結果を図3に示す。図中、「卵白ペプチド」が調合液(イソα酸無添加)を用いた発泡性アルコール飲料の結果であり、「卵白ペプチド+イソα酸」が調合液(イソα酸添加)を用いた発泡性アルコール飲料の結果である。この結果、卵白ペプチドに加えてイソα酸を添加した発泡性アルコール飲料では、イソα酸を添加しなかったものと比べて、泡立ちと泡持ちが向上していた。
【0066】
[実施例2]
各種ポリペプチドを用いて、ビール様発泡性アルコール飲料を製造した。
具体的には、実施例1で用いた小麦ペプチドGP−1(重量平均分子量は5000〜10000)、参考例1で用いた卵白ペプチド(重量平均分子量は1000〜2000)、大豆ペプチドD1(重量平均分子量は500〜20000)、米ペプチド(オリザ油化社製、重量平均分子量は1000〜10000)を用いた。
【0067】
まず、4gの各ペプチドと、10gのオリゴスター(オリゴ糖、松谷化学社製)と、30mgのイソα酸(ホップシュタイナー社製)と、0.2gのクエン酸と、57mlの95% 原料用アルコールと、0.1mlのホップ香料(三栄源社製)と、0.1mlのビール香料(三栄源社製)とを混合し、原料水を加えて最終容量を1000mlに調整した後、よく攪拌し、調合液を得た。また、ペプチドの添加量を半量(2g)又は倍量(8g)とした調合液も、同様にして製造した。その後、これら調合液を珪藻土濾過することにより、清澄な調合液を得た。
これらの調合液のpHを測定したところ、3.8であった。
得られた清澄な調合液に、2.7volの炭酸ガスを溶け込ませることにより、ビール様発泡性アルコール飲料を得た。これらのビール様発泡性アルコール飲料を、それぞれ350ml缶に分注し、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した。
【0068】
殺菌後の350ml缶に入っている各ビール様発泡性アルコール飲料は、4g/L(2000ppm)、2g/L(1000ppm)、又は8g/L(4000ppm)のポリペプチドと、1%(重量/重量)のオリゴ糖と、30ppmのイソα酸と、5%(容量/容量)のアルコールとを含有しており、炭酸ガス含有量が2.7volであった。
【0069】
一方、泡形成素材として、ポリペプチドに替えてオクチニルコハク酸エステルを用いて発泡性アルコール飲料を製造し、比較対象とした。具体的には、2.5gのオクチニルコハク酸エステルと、10gのオリゴスター(オリゴ糖、松谷化学社製)と、30mgのイソα酸(ホップシュタイナー社製)と、0.2gのクエン酸と、57mlの95% 原料用アルコールと、0.1mlのホップ香料(三栄源社製)と、0.1mlのビール香料(三栄源社製)とを混合し、原料水を加えて最終容量を1000mlに調整した後、よく攪拌し、調合液を得た。得られた調合液に、2.7volの炭酸ガスを溶け込ませた後、350ml缶に分注し、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した。
【0070】
これらの350ml缶を5℃に冷却し、内溶液を縦長のガラスビーカーに注ぎ、生じた泡の体積を経時的に目視により測定した。さらに、これらの内溶液を試飲し、旨みと全体のおいしさを評価した。表1に、4g/L(2000ppm)の各種ポリペプチド若しくはオクチニルコハク酸エステルを添加した各発泡性アルコール飲料の官能評価の結果を示した。また、図4に、卵白ペプチドを用いて製造されたビール様発泡性アルコール飲料(図中、「卵白ペプチド」)とオクチニルコハク酸エステルを用いて製造された発泡性アルコール飲料(図中、「オクチニルコハク酸エステル」)とにおける、生じた泡の体積の経時的変化を示した。この結果、オクチニルコハク酸エステルを用いた発泡性アルコール飲料は泡立ちが粗く、また、ビールのような旨みに欠けていた。これに対して、各種ポリペプチドを用いた発泡性アルコール飲料では、ビールのようにきめ細かで美しい泡が生じ、かつ、旨みとコクのある良好なものであった。
【0071】
また、ポリペプチドの添加量が2g/L(1000ppm)である発泡性アルコール飲料は、4g/L(2000ppm)である発泡性アルコール飲料に比べて、泡、旨みともやや物足りない点があったものの、止渇性、清涼感はあり、オクチニルコハク酸エステルを用いて製造された発泡性アルコール飲料よりも遥かにおいしかった。一方で、ポリペプチドの添加量が8g/L(4000ppm)である発泡性アルコール飲料は、4g/L(2000ppm)のものよりも泡立ちが更に良く、味わいも濃厚なものであった。
【0072】
【表1】

【0073】
[比較例1]
甘味成分として果糖ブドウ糖液を用いて、発泡性アルコール飲料を製造した。
具体的には、実施例2で製造した発泡性アルコール飲料において、オリゴスターの代わりに55%果糖ブドウ糖液を用いた。
まず、4gの参考例1で用いた卵白ペプチド(重量平均分子量は1000〜2000)と、10gの55%果糖ブドウ糖液と、30mgのイソα酸(ホップシュタイナー社製)と、0.2gのクエン酸と、57mlの95% 原料用アルコールと、0.1mlのホップ香料(三栄源社製)と、0.1mlのビール香料(三栄源社製)とを混合し、原料水を加えて最終容量を1000mlに調整した後、よく攪拌し、珪藻土濾過することにより、清澄な調合液を得た。
得られた清澄な調合液に、2.7volの炭酸ガスを溶け込ませることにより、ビール様発泡性アルコール飲料を得た。これらのビール様発泡性アルコール飲料を、それぞれ350ml缶に分注し、蓋をして巻き閉めた。その後、この350ml缶を、65℃で15分間、湯槽中で殺菌した後、5℃に冷却した。
こうして得られた350ml缶中のビール様発泡性アルコール飲料は、実施例2においてオリゴスターを用いて調製されたビール様発泡性アルコール飲料とは異なり、甘味が残り、切れ味が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の発泡性飲料の製造方法は、大掛かりなビール醸造設備を要することなく、ビール様発泡性アルコール飲料を提供することができるため、発泡性アルコール飲料の製造分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合することにより、調合液を調製する工程と、
(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程と、
を有し、
前記甘味成分が、多糖類及び水溶性食物繊維からなる群より選択される1種以上であることを特徴とするビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、予めpH3.6〜4.0において等電点沈殿処理した後に、生じた沈殿物を除去したポリペプチドであることを特徴とする、請求項1記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)において、前記調合液にさらに酸を添加し、当該調合液のpHを3.6〜4.0に調整することを特徴とする、請求項1又は2記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ポリペプチドの重量平均分子量が300〜20000であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
前記苦味成分がイソα酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)の後に得られた調合液中のポリペプチドの含有量が1000〜4000ppmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
前記甘味成分がオリゴ糖であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)の後に得られた調合液が、1000〜4000ppmの重量平均分子量が300〜20000のポリペプチドと、0.5〜3%(重量/重量)のオリゴ糖と、10〜50ppmのイソα酸とを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、小麦タンパク質、大麦タンパク質、大豆タンパク質、米タンパク質、とうもろこしタンパク質、卵白タンパク質、及びそれらの分解物からなる群より選択される1以上であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項10】
前記イソα酸がテトライソα酸であることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項11】
前記調合液に、着色料及び香料からなる群より選択される1以上をさらに加えることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法により製造されたビール様発泡性アルコール飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−188833(P2011−188833A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59707(P2010−59707)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000000055)アサヒグループホールディングス株式会社 (535)
【Fターム(参考)】