説明

ピアノブラック成型体

【課題】本発明は、成型体表面の耐傷性を向上させ、コストメリットも有したピアノブラック成型体を提供することを目的とする。すなわち、凡庸の黒色成型体を用いた上で、クリアーコートの表面の平坦性を得、60度鏡面光沢値の高い筐体を得ることができ、ピアノブラック概観を得ることができる。
【解決手段】表面粗さRaが0.15μm以下の黒色成型体表面1に、フッ素添加剤3を含むクリアーコート膜4を形成し、クリアーコート膜4表面の60度鏡面光沢値が85以上であることを備えた構成よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノブラック外観を有する成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピアノブラック外観は、黒の外観に加え、高い光沢性を表面に有するという特徴をもち、高級外観の一種として多くのユーザーに好まれている。このため、テレビの枠、プリンター外装や電話機など、多くの電化製品の筐体として盛んに用いられている。
【0003】
近年、このピアノブラック外観を得る方法として、平坦性良好な鏡面仕上げの特殊金型を用いて射出成型を行う方法が、例えば、(特許文献1)に提案されている。この鏡面仕上げの特殊金型を母型とし、黒色に調整したペレット材を射出成型することにより、表面の平坦性に優れた黒色成型体を製造することができる。ここで得られた黒色成型体は、表面の平坦性に優れ、高い光沢性を有することから、ピアノブラック外観をもつ成型体となる。したがって本提案によれば、射出成型の工程だけで、ピアノブラック成型体を製造できることから、生産性に優れた製法となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−131970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、成型体表面の傷つき性である耐傷性に問題が生じていた。すなわち、(特許文献1)の公知技術において、ピアノブラック成型体は、ABSなどの比較的柔らかなペレット材を原材料に用いた成型体からなり、使用時のストレスに対し表面の硬度が十分とは言い難く、耐傷性に課題が残る恐れがあった。
【0006】
また、従来の技術では、特殊金型を用いるため、金型コストも掛かる製法であった。すなわち、(特許文献1)の公知技術に用いる特殊金型は、金型表面を鏡面研磨する必要があり、通常金型に比べ金型の初期コストは高くなる。さらに、生産時において金型表面に磨耗などの劣化が生じ、金型表面の鏡面性が損なわれ、再研磨処理が必要となる場合もある。この様に通常金型に比べ耐久性に劣る特殊金型は、初期コストだけでなくランニングコストの面からも厳しい製法であった。
【0007】
そこで、本発明は、この様な従来の課題を解決するものであり、成型体表面の耐傷性を向上させ、コストメリットも有したピアノブラック成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のピアノブラック成型体は、表面粗さRaが0.08μm以上0.15μm以下の黒色成型体表面に、フッ素添加剤を含む透明樹脂を硬化させたクリアーコート膜を形成し、前記クリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値が85以上である事を特徴とするものである。
【0009】
これにより、まず、黒色成型体表面をクリアーコート膜で保護しており、成型体表面の耐傷性が向上できる。さらに、表面粗さRaが0.08μm以上0.15μm以下という平坦性が劣り、光沢性に乏しい安価な黒色成型体を用いるため、通常金型にて製造可能となり、金型コストを抑制することができる。さらに、光沢性に乏しい黒色成型体の表面にピアノブラック外観を付与させるべく、我々は鋭意研究を重ね、黒色成型体表面にフッ素添加剤を含む透明膜であるクリアーコート膜を形成することでピアノブラック外観が得られることを見出している。すなわち、クリアーコート膜中に含まれるフッ素添加剤は、硬化時にクリアーコート膜表面に集まり、高いレベリング性能を発揮する。したがって、平坦性に乏しい黒色成型体の表面にフッ素添加剤を含むクリアーコート膜を形成すると、フッ素添加剤の高いレベリング効果によって黒色成型体表面の平坦性に影響を受けることなく、クリアーコート膜の表面は平坦性良好となり、クリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値が85以上である、高い光沢性を有するピアノブラック外観が得られる。
【0010】
以上の事から、光沢性に乏しい黒色成型体表面にフッ素添加剤を含むクリアーコート膜を形成することで、成型体表面の耐傷性を向上させ、コストメリットも有したピアノブラック成型体が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載のピアノブラック成型体によれば、黒色成型体表面をクリアーコート膜で保護しており、成型体表面の耐傷性が向上できる。さらに、平坦性に劣り光沢性に乏しい安価な黒色成型体を用いるため、通常金型にて製造可能となり、金型コストが抑制できる。最後に、平坦性に乏しい黒色成型体の表面にフッ素添加剤を含むクリアーコート膜を形成することにより、フッ素添加剤の高いレベリング効果を用いてクリアーコート膜表面は平坦性良好となり、高い光沢性を有するピアノブラック外観が得られる。したがって、成型体表面の耐傷性を向上させ、コストメリットも有したピアノブラック成型体が得られるという効果がある。
【0012】
本発明の請求項2に記載のピアノブラック成型体によれば、前記黒色成型体として、少なくとも一部に曲面を含む形状を用いるため、黒色成型体のコーティング時にクリアーコート膜の厚みバラツキが生じた場合でも、フッ素添加剤の高いレベリング効果を用いてクリアーコート膜表面は平坦性良好となり、高い光沢性を有するピアノブラック外観が得られる。したがって、曲面形状でも適用可能な、さらに設計自由度の高いピアノブラック成型体が得られるという効果がある。
【0013】
本発明の請求項3に記載のピアノブラック成型体によれば、クリアーコート膜の厚みを、30μm以下とするため、設計自由度の高いピアノブラック成型体が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)本発明の一実施の形態におけるクリアーコート膜硬化前のピアノブラック成型体の要部断面図、(b)本発明の一実施の形態におけるクリアーコート膜硬化後のピアノブラック成型体の要部断面図
【図2】(a)本発明の一実施の形態における黒色成型体の表面粗さRaとクリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値との結果グラフを示す図、(b)本発明の一実施の形態における黒色成型体表面のクリアーコート膜の膜厚とクリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値との結果グラフを示す図
【図3】(a)本発明の一実施の形態におけるフッ素添加剤を含まない通常クリアーコート膜を形成したピアノブラック湾曲成型体の要部断面図、(b)本発明の一実施の形態におけるフッ素添加剤を含むクリアーコート膜を形成したピアノブラック湾曲成型体の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の一実施の形態について図1から図3を用いて説明する。なお、これらの図面において同一の部材には同一の符号を付しており、重複した説明は省略させている。また、実施の形態において示されている数値は種々選択し得る中の一例であり、これに限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態)
以下に本発明の一実施の形態のピアノブラック成型体について説明する。
【0017】
まず、本発明のピアノブラック成型体について図1で説明する。図1(a)は本発明の一実施の形態におけるクリアーコート膜硬化前のピアノブラック成型体の要部断面図、図1(b)は本発明の一実施の形態におけるクリアーコート膜硬化後のピアノブラック成型体の要部断面図である。
【0018】
図1において、1は黒色成型体、2はフッ素添加剤3を含み、黒色成型体1表面に形成したクリアーコート液、4はクリアーコート液2を硬化させたクリアーコート膜、5は黒色成型体1表面にクリアーコート膜4を形成したピアノブラック成型体である。
【0019】
図1(a)に示すように、平坦性の乏しい黒色成型体1表面にクリアーコート液2をコーティングすると、液体の状態では黒色成型体1表面の凹凸によらず、クリアーコート液2表面は平坦であり、成型体表面の凹凸によって微小なクリアーコート液2の厚み違いが生じる。また、この時、クリアーコート液2中に含まれるフッ素添加剤3は、クリアーコート液2中の厚み方向においてランダムに位置している。
【0020】
さらに、硬化反応のため熱を加えてクリアーコート液2中の溶剤を乾燥させると、図1(b)に示すように、フッ素添加剤3は、周囲のクリアーコート液2に比べ低い表面エネルギーを持つため、表面へ移動し、膜表面に集まる。表面に集まったフッ素添加剤3は溶剤蒸発を均一化させるため、液状の平坦性を保持したまま硬化反応を終了させることが可能となる。このフッ素添加剤3のもつレベリング効果にて、クリアーコート膜4表面を平坦化できる。平坦な膜表面は、入射光を乱反射させること無く、鏡面反射させるため、高い光沢性をもつピアノブラック成型体5が得られる。一般的に、平坦性の乏しい黒色成型体1表面にクリアーコート膜4を形成した場合、黒色成型体1表面の凹凸にて生じるクリアーコート液2の厚み違いが溶剤蒸発を不均一化させる。この蒸発の不均一性にて硬化後のクリアーコート膜4表面に凹凸が生じ、膜表面を平坦にすることは難しかった。しかしながら、我々は、クリアーコート膜4中にフッ素添加剤3を加えることで平坦性が確保できることを見出している。
【0021】
なお、クリアーコート液2の樹脂成分として、アルキド樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、ビニル樹脂系を用いてもよく、特に硬度、光沢性および耐久性に優れるUV硬化型アクリル樹脂系が望ましい。
【0022】
さらに、クリアーコート液2中に含まれるフッ素添加剤3の成分として、含フッ素アクリレート化合物、含フッ素メタクリレート化合物および含フッ素α−フルオロアクリレート化合物を用いてもよい。これら各種材料に関しては、適宜好適に応じてどちらを用いても良く、これに限定されるものではない。また、クリアーコート液2には、全光線透過率が85%以上となるような透明性が必要である。
【0023】
すなわち、本発明により、黒色成型体1表面をクリアーコート膜4で保護しており、成型体表面の耐傷性が向上できる。さらに、平坦性に劣り光沢性に乏しい安価な黒色成型体1を用いるため、通常金型にて製造可能となり、金型コストが抑制できる。最後に、平坦性に乏しい黒色成型体1の表面にフッ素添加剤3を含むクリアーコート膜4を形成することにより、フッ素添加剤3の高いレベリング効果を用いてクリアーコート膜4表面は平坦性良好となり、高い光沢性を有するピアノブラック外観が得られる。したがって、成型体表面の耐傷性を向上させ、コストメリットも有したピアノブラック成型体5が得られる。
【0024】
次に、本発明に最適なパラメータを規定するための実験を行い、結果を図2で説明する。図2(a)は本発明の一実施の形態における黒色成型体の表面粗さRaとクリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値との結果グラフを示す図、図2(b)は本発明の一実施の形態における黒色成型体表面のクリアーコート膜の膜厚とクリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値との結果グラフを示す図である。
【0025】
まず、クリアーコート膜4に含まれるフッ素添加剤3のレベリング効果を明確にするため、黒色成型体1の表面粗さRaとクリアーコート膜4表面の60度鏡面光沢値との関係について、フッ素添加剤3無し、有りの2水準にて実験を行った。また比較として、クリアーコート膜4無しの黒色成型体1単体での評価も併せて実施している。なお、ここで用いるフッ素添加剤3としては、ダイキン工業製オプツールをUV硬化型アクリル樹脂系からなるクリアーコート液2中の固形分に対し1%添加し、実験を行った。
【0026】
結果は図2(a)に示すように、クリアーコート膜4に含まれるフッ素添加剤無しの場合でも、黒色成型体1単体の光沢性よりもクリアーコート膜4表面の光沢性は向上する。しかしながら、黒色成型体の表面粗さRaが0.08以上においては、成型体表面の凹凸が影響し、クリアーコート膜4表面の光沢性が85以下に低下し、ピアノブラック外観を得ることができない。一方、フッ素添加剤3有りの場合、表面粗さRaが0.08以上0.15μm以下の成型体表面においても、フッ素添加剤3のレベリング効果にてクリアーコート膜4表面の光沢性が85以上を確保し、ピアノブラック外観を得ることが可能となっている。したがって、フッ素添加剤3を含むクリアーコート膜4を、表面粗さRaが0.15μm以下の範囲をもつ黒色成型体1表面に形成することにより、クリアーコート膜4表面の60度鏡面光沢値が85以上であるピアノブラック成型体5を得ることができる。また、クリアーコート膜4表面の60度鏡面光沢値が高ければ高いほどピアノブラックとして美しい概観を得ることができるため、表面粗さRaが0.08μm以下であっても、より美しいピアノブラック概観を得ることができる。
【0027】
次に、最適なクリアーコート膜4の膜厚範囲を明確にするため、クリアーコート膜4の膜厚とクリアーコート膜4表面の60度鏡面光沢値との関係について、フッ素添加剤3無し、有りの2水準にて同様の実験を行った。結果は図2(b)に示すように、クリアーコート膜4に含まれるフッ素添加剤3無しの場合、膜厚が10μm以上15μm以下の範囲でしか、ピアノブラック外観が得られない。一方、フッ素添加剤3有りの場合、膜厚が1μm以上30μm以下の広い膜厚範囲にて、フッ素添加剤3のレベリング効果にてピアノブラック外観を得ることが可能となっている。したがって、フッ素添加剤3を含むクリアーコート膜4を、1μm以上30μm以下の膜厚範囲にて黒色成型体1表面に形成することにより、クリアーコート膜4表面の60度鏡面光沢値が85以上であるピアノブラック成型体5を得ることが可能である。なお、クリアーコート膜4の膜厚が厚くなると、膜厚の厚い部分はクリアーコート液2の硬化収縮が大きく、クリアーコート膜4表面に凹凸が生じ易い。その結果、60度鏡面光沢値が低下し、ピアノブラック概観を得ることが難しくなる。
【0028】
さらに、本発明のピアノブラック成型体5の他の形態について図3で説明する。図3(a)は本発明の一実施の形態におけるフッ素添加剤を含まない通常クリアーコート膜を形成したピアノブラック湾曲成型体の要部断面図、図3(b)は本発明の一実施の形態におけるフッ素添加剤を含むクリアーコート膜を形成したピアノブラック湾曲成型体の要部断面図である。ここで図3において、6はフッ素添加剤3を含まない通常クリアーコート液、7は少なくとも一部に曲面を含んだ黒色湾曲成型体である。
【0029】
図3(a)に示すように、一部に曲面形状を含んだ黒色湾曲成型体7表面に通常クリアーコート液6をコーティングすると、成型体表面の曲面が影響し、平面よりも通常クリアーコート液6を均一な膜厚でコーティングすることが難しい。したがって、膜厚の厚い部分はクリアーコート液2の硬化収縮が大きく、クリアーコート膜4表面に凹凸が生じ易いため、曲面形状を含む黒色湾曲成型体7にてピアノブラック外観を得ることは非常に難しい。
【0030】
一方、図3(b)に示すように、本発明のフッ素添加剤3を含むクリアーコート液2を用いた場合は、フッ素添加剤3のレベリング効果にて、曲面形状を含む黒色湾曲成型体7であってもピアノブラック外観を得ることが可能となる。すなわち、黒色成型体1が平面状であるのと同様に、レベリング性の高いフッ素添加剤3を含むクリアーコート膜4を用いることで平坦性を確保し、60度鏡面光沢値を向上させることができる。クリアーコート膜4の厚みバラツキが生じ易い曲面形状へのコーティングでも、平面であっても局面であっても、クリアーコート膜4表面は平坦性良好となり、高い光沢性を有するピアノブラック外観が得られる。これにより、曲面形状でも適用可能な、さらに設計自由度の高いピアノブラック成型体5が得られる。
【0031】
最後に、黒色成型体1の色度として、CIE(国際照明委員会)1976(JIS Z8729)L*a*b*表色系におけるL*が28未満、a*が−0.2以上+0.5以下、b*が−2.5以上+0.5以下を用いるとよい。従来の製法のピアノブラック筐体では、b*=−1.0+0.5以下であることが必要であるため、従来技術よりも青に色度を広げた黒色成型体1を用いても十分なピアノブラック外観が得られる。従って、黒色成型体1の色度調整の範囲が広く材料の選択肢が広がり、さらに設計自由度の高いピアノブラック成型体5が得られる。
【0032】
これらピアノブラック成型体5の各種パラメータに関しては、適宜好適に応じてどちらを用いても良く、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のピアノブラック成型体は、成型体表面の耐傷性向上とコストメリットを有しており、電化製品の筐体用途などの高耐久性、低コストを要求されるピアノブラック成型体に好適である。
【符号の説明】
【0034】
1 黒色成型体
2 クリアーコート液
3 フッ素添加剤
4 クリアーコート膜
5 ピアノブラック成型体
6 通常クリアーコート液
7 黒色湾曲成型体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さRaが0.15μm以下の黒色成型体表面に、フッ素添加剤を含むクリアーコート膜を形成することで、前記クリアーコート膜表面の60度鏡面光沢値が85以上となることを特徴とするピアノブラック成型体。
【請求項2】
前記黒色成型体の形状が、少なくとも一部に曲面を含むことを特徴とする請求項1に記載のピアノブラック成型体。
【請求項3】
前記クリアーコート膜の厚みを、30μm以下としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のピアノブラック成型体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236175(P2012−236175A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108017(P2011−108017)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】