説明

ピアノ用響板の音響特性可変装置

【課題】比較的簡単な構成で響板の音響特性を変えることができ、それにより、ピアノの音量に加えて、音色や音の伸びなどを容易にかつ大きく変化させることができるピアノ用響板の音響特性可変装置を提供する。
【解決手段】響板1を有するピアノに設けられ、響板1の音響特性を変化させるためのピアノ用響板の音響特性可変装置であって、響板1の表面側および裏面側の少なくとも一方に不動に設けられた不動部材2と、この不動部材2に支持された状態で、響板1に対して進退自在に設けられ、響板1の周縁部以外の所定部分1aに、これを押圧した状態で当接することにより、響板1と不動部材2とを連接可能な連接機構21と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティックピアノなどの響板を有するピアノに設けられ、その響板の音響特性を変化させるためのピアノ用響板の音響特性可変装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アコースティックピアノの響板の音響特性可変装置として、例えば本出願人がすでに出願した特許文献1に開示されたものが知られている。この音響特性可変装置は、ピアノの音量を変えることが可能なものであり、面積が比較的小さく、不動に設けられた小響板と、この小響板よりも大きくかつ通常の響板と同様の面積を有するとともに、小響板に対し、その裏面側に平行にかつ進退自在に設けられた響板(以下「大響板」という)と、この大響板を駆動するための複数のソレノイドを有する操作機構などを備えている。小響板には、その表面に駒が取り付けられており、この駒に駒ピンを介して多数の弦が係合している。そして、この音響特性可変装置では、操作機構が操作されることにより、大響板が小響板に密着したり、離れたりするようになっている。
【0003】
大響板が小響板に密着した状態で鍵盤が押鍵されると、それに伴い、アクションを介してハンマーが弦を打弦し、その弦の振動が、駒から小響板に伝わり、さらに大響板に伝わる。それにより、大響板を中心としてピアノ音が発生し、通常のピアノと同様の音量によるピアノ音が得られる。一方、大響板が小響板から離れた状態で鍵盤が押鍵されると、上記と同様に弦が打弦され、その弦の振動が、駒から小響板に伝わる。それにより、小響板を中心としてピアノ音が発生し、大響板を中心として発生する場合に比べて、小さな音量のピアノ音が得られる。以上のような音響特性可変装置を備えたピアノでは、一般にピアノの音量を小さくするために操作されるソフトペダルやマフラーペダルの操作時と異なり、鍵盤のタッチ感を維持したまま、ピアノの音量を小さくすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−194464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の音響特性可変装置では、小響板および大響板の一方を中心としてピアノ音を発生させることにより、ピアノの音量を小さくしたり、大きくしたりすることが可能である。しかし、この音響特性可変装置では、通常の響板と同様の大響板に加えて小響板が必要であり、しかも大響板自体を、複数のソレノイドを用いて駆動するように構成するため、装置自体の構造が複雑になってしまう。また、この音響特性可変装置では、小響板によるピアノ音の発生時に、音量以外の音響特性、例えば音色や音の伸びなどを大きく変化させることができず、また、音域全体のバランスを保てないおそれもある。したがって、上記の音響特性可変装置には、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、比較的簡単な構成で響板の音響特性を変えることができ、それにより、ピアノの音量に加えて、音色や音の伸びなどを容易にかつ大きく変化させることができるピアノ用響板の音響特性可変装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、響板を有するピアノに設けられ、響板の音響特性を変化させるためのピアノ用響板の音響特性可変装置であって、響板の表面側および裏面側の少なくとも一方に不動に設けられた不動部材と、この不動部材に支持された状態で、響板に対して進退自在に設けられ、響板の周縁部以外の所定部分に、所定部分を押圧した状態で当接することにより、響板と不動部材とを連接可能な連接機構と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、響板の表面側および裏面側の少なくとも一方に設けられた不動部材に、響板に対して進退自在の連接機構が支持されている。この連接機構を、響板に向かって前進させることにより、響板の周縁部以外の所定部分に、その所定部分を押圧した状態で、連接機構が当接する。これにより、響板の所定部分が連接機構で圧接された状態で、この連接機構を介して、響板と不動部材とが連接される。なお、この状態から連接機構を後退させ、響板から離すことにより、響板と不動部材との連接が解除される。
【0009】
通常、アコースティックピアノなどのピアノでは、鍵盤が押鍵されると、アクションを介してハンマーが弦を打弦し、その弦の振動が駒を介して響板に伝わる。そして、響板が振動し、それに伴い、響板の周囲の空気が振動することなどにより、響板を中心としてピアノ音が発生する。上述したように、響板と不動部材が連接された状態では、響板の所定部分が連接機構によって圧接されることにより、ピアノ音を発生する際の所定部分における響板の振動が抑制される。特に、不動部材が、響板よりも振動しにくい材料で構成されていたり、振動しにくい構造であったりする場合、不動部材では、振動のしにくさの指標であるインピーダンスが、響板のそれよりも大きく、したがって、連接機構を介して不動部材に連接された響板の所定部分における振動を、効果的に抑制することができる。
【0010】
上記のように、響板の所定部分における振動を抑制した状態において、鍵盤が押鍵されると、響板と不動部材との連接が解除されている場合、すなわち響板の所定部分における振動を抑制していない場合に比べて、響板における振動の特性や形態が大きく変化する。具体的には、響板を振動させるエネルギーが同一であっても、響板における振動の振幅が小さくなるとともに、響板全体がより多く分割するような形態で振動し、その結果、響板を中心として発生するピアノ音の音量が小さくなるとともに、音色がクリアで繊細なものとなり、加えて伸び感のあるピアノ音を得ることができる。以上のように、本発明によれば、響板の所定部分が連接機構で圧接された状態で、響板と不動部材とを連接するという、比較的簡単な構成により、ピアノの音量に加えて、音色や音の伸びなどを容易にかつ大きく変化させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置において、不動部材は、響板の裏面側に配置され、張設された弦の張力を支持するための支柱であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、連接機構を支持する不動部材として、張設された弦の張力を支持するための既存の支柱を利用することができる。支柱は一般に、木製の角材で構成され、剛性が比較的高いので、響板に比べてインピーダンスが大きく、したがって、連接機構が当接する響板の所定部分において、振動の抑制を確保することができる。また、支柱は、響板の裏面側に配置されるとともに、通常、ピアノの外部に露出しているので、連接機構を支柱に取り付ける場合に、響板の表面側に配置される弦などが邪魔になることがなく、既存のピアノに対しても、連接機構を後付けで、比較的簡単に取り付けることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置において、不動部材は、響板の表面側に配置され、弦が張設されたフレームであることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、連接機構を支持する不動部材として、弦が張設された既存のフレームを利用することができる。フレームは一般に、金属からなり、剛性が非常に高いので、響板はもちろん、支柱に比べても、インピーダンスが非常に大きく、したがって、連接機構が当接する響板の所定部分において、振動の抑制をより一層安定して確保することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のピアノ用響板の音響特性可変装置において、連接機構は、不動部材に貫通した状態で螺合し、響板の所定部分に当接可能なねじ部材と、このねじ部材の響板と反対側の端部に設けられ、ねじ部材を回しながら進退させるために手動で操作される操作部と、を有していることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、連接機構のねじ部材が、不動部材に貫通した状態で螺合しており、そのねじ部材の響板と反対側の端部に設けられた操作部を手動で操作することにより、ねじ部材を回しながら進退させ、響板の所定部分に当接させたり、響板から離したりすることができる。このように、響板と不動部材とを連接する連接機構を、ねじ部材および操作部による比較的簡単な構成で、容易に実現することができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置において、連接機構は、ねじ部材の響板側の端部に設けられ、ねじ部材の径よりも大きなサイズを有する当接部を、さらに有していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ねじ部材の響板側の端部に設けられた当接部が、ねじ部材の径よりも大きなサイズを有しているので、ねじ部材を強くねじ込むように回しても、ねじ部材が響板にねじ込まれるのを防止することができる。また、当接部を、響板の所定部分を適切に押圧した状態で当接し得るようなサイズに設定することにより、ねじ部材については、比較的小さな径を有するものであっても、響板と不動部材とを連接する機能を十分に発揮することができる。したがって、上記機能を確保し得るねじ部材を、比較的小さく形成でき、ねじ部材の材料コストや製造コストを抑制することができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置において、不動部材は、響板の裏面側に配置され、張設された弦の張力を支持するための支柱であり、連接機構は、支柱に取り付けられたベースと、このベースと響板との間に配置され、響板の所定部分に当接可能な当接部と、ベースと当接部を連結し、当接部を、響板の裏面に押圧した状態で当接する当接位置と、響板から離隔する離隔位置との間で移動させるためのリンク機構と、このリンク機構に係合し、当接部を、当接位置および離隔位置の一方に位置させるように操作するための操作手段と、を有していることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、連接機構のベースが、支柱に取り付けられており、このベースと、響板の所定部分に当接可能な当接部とが、リンク機構によって連結されている。そして、リンク機構に係合する操作手段を操作することにより、リンク機構を介して、当接部が、上記の当接位置と離隔位置との間で移動する。このように、操作手段を操作することにより、当接部を響板の裏面に押圧した状態で当接させたり、その当接を解除したりすることができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置において、連接機構は、当接部を離隔位置側に付勢する付勢手段を、さらに有しており、操作手段は、踏み込み操作可能なペダルと、このペダルとリンク機構とを連結するワイヤを有し、ペダルに対する操作に応じて、ワイヤを介してリンク機構を駆動するリンク機構駆動部と、を有し、ペダルが踏み込み操作されたときに、リンク機構駆動部が付勢手段の付勢力に抗してリンク機構を駆動することにより、当接部を当接位置に位置させ、ペダルの踏み込み操作が解除されたときに、付勢手段の付勢力によってリンク機構を駆動することにより、当接部を離隔位置に位置させることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、操作手段が、ペダルおよびリンク駆動機構部を有しており、ペダルとリンク機構とを連結するワイヤを有するリンク駆動機構部により、ペダルに対する操作に応じて、リンク機構が駆動される。具体的には、ペダルが演奏者によって踏み込み操作されると、付勢手段の付勢力に抗してリンク機構を駆動することにより、当接部を当接位置に位置させる。これにより、当接部が響板の裏面に押圧した状態で当接し、響板と支柱とが連接機構を介して連接される。一方、演奏者がペダルから足を離すことで、ペダルの踏み込み操作が解除されると、付勢手段の付勢力によってリンク機構を駆動することにより、当接部を離隔位置に位置させる。これにより、当接部が響板の裏面から離れ、響板と支柱との連接が解除される。
【0023】
以上のように、ペダルの踏み込み操作およびその解除により、響板と支柱との連接およびその解除を容易に行うことができるので、演奏者がペダルの踏み込み操作を行うことによって、演奏中に響板の音響特性を容易に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態によるピアノ用響板の音響特性可変装置が適用されるグランドピアノにおいて、響板を中心とする内部構造を示しており、支柱組立品、響板およびフレームを上下方向に組み付けた状態を示す斜視図である。
【図2】図1の支柱組立品、響板およびフレームを互いに分離した状態を示す分解斜視図である。
【図3】響板とフレームを連接するための連接機構を示す図であり、(a)は響板から連接機構の連接軸が離れた状態、(b)は響板に連接機構の連接軸が圧接した状態を示す。
【図4】響板と支柱を連接するための連接機構を示す図であり、(a)は響板から連接機構の連接軸が離れた状態、(b)は響板に連接機構の連接軸が圧接した状態を示す。
【図5】演奏中に響板と支柱を連接可能な連接機構を示す図であり、(a)は響板から連接機構の当接部が離れた状態、(b)は響板に連接機構の当接部が圧接した状態を示す。
【図6】図5(a)に示す連接機構を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるピアノ用響板の音響特性可変装置が適用されるグランドピアノ(以下単に「ピアノ」という)において、その響板を中心とする内部構造を示しており、図2は、その分解図である。両図に示すように、響板1は、スプルスなどから成る木製の薄い板材で構成され、ピアノ本体の平面形状とほぼ同じ形状、すなわち低音側(両図の手前側)の奥行き寸法が大きく、高音側(両図の奥側)の奥行き寸法が小さい所定の平面形状を有している。また、響板1には、その表面(両図の上面)の所定位置に、長駒および短駒(いずれも図示せず)が取り付けられる一方、裏面(両図の下面)に、複数の響棒(図示せず)が取り付けられている。そして、この響板1は、その周縁部がフレーム2と支柱組立品3によって上下から挟まれた状態で、両者2、3の間に取り付けられている。
【0026】
フレーム2は、多数の弦4(図1および2では一部のみ図示)が張設される金属製の部品であり、鋳造によって所定形状に成形されている。具体的には、フレーム2は、いずれも平板状に形成され、前側および奥側にそれぞれ配置された前側平板部5および奥側平板部6と、これらを連結し、前後方向に延びるように設けられた複数のリブ7とを有しており、これらの前側平板部5、奥側平板部6および複数のリブ7が、一体に成形されている。
【0027】
前側平板部5は、支柱組立品3の後述するピン板14に載置した状態でねじ止めされている。また、前側平板部5には、弦4の前側の端部を係止するとともに、弦4の張力を調整するための多数のチューニングピン(図示せず)が立設されている。具体的には、各チューニングピンは、前側平板部5を貫通した状態で、下半部がピン板14にねじ込まれ、上半部において弦4の端部を係止している。一方、奥側平板部6は、外側の周縁部が他の部分よりも一段低くなるように構成されており、その周縁部が、響板1に載置した状態で、響板1および支柱組立品3の後述する積揚11にねじ止めされている。また、奥側平板部6には、弦4の奥側の端部を係止する多数のヒッチピン(図示せず)が立設されている。
【0028】
各リブ7は、その下面が響板1の表面よりも高くなっており、各弦4が、リブ7の下方において、長駒または短駒に係合するとともに、前側平板部5と奥側平板部6の間に張設されている。また、リブ7の所定位置には、フレームボルト(図示せず)を通すための複数(図1、2では2つのみ図示)の孔7aが形成されており、この孔7a、およびこれに対応する、響板1の所定位置に形成された孔(図示せず)を介して、フレームボルトを、支柱組立品3の後述する支柱12にねじ込むことにより、フレーム2と支柱12が強固に連結されている。
【0029】
支柱組立品3は、響板1およびフレーム2を下方から支持するとともに、弦4の張力をフレーム2とともに支持する木製の部品である。図2に示すように、支柱組立品3は、積揚11、4本の支柱12および奥框13などによって、一体に組み立てられている。積揚11は、ピアノの側板(図示せず)の内周面に沿って延びる平面形状を有しており、具体的には、互いに左右方向に間隔を隔てて、前後方向にそれぞれ所定長さ延びる左右の直線部11a、11bと、これらの後端部を連結する曲線部11cとで構成されている。奥框13は、左右の直線部11a、11bの前後方向の所定位置に、両直線部11a、11b間に掛け渡された状態で、積揚11に固定されている。
【0030】
4本の支柱12はいずれも、スプルスなどから成る木製の角材で構成されており、4本の支柱12のうちの3本は、奥框13の背面中央付近から平面的に放射状に延び、他の1本は、奥框13の背面中央よりも右方から延び、いずれの支柱12も、積揚11の曲線部11cの内面に当接した状態で、奥框13および積揚11に固定されている。また、各支柱12は、その上面が積揚11の上面および響板1の裏面よりも低くなっている。
【0031】
また、積揚11の奥框13よりも前方の所定位置には、前記ピン板14が設けられている。具体的には、ピン板14は、積揚11の左右の直線部11a、11bに載置された状態で掛け渡され、これらに接着固定されている。
【0032】
以上のように構成された響板1、フレーム2および支柱組立品3を備えたピアノにおいて、響板1の音響特性を変化させるために、フレーム2および支柱12の少なくとも一方に、これらと響板1とを連接するための連接機構が取り付けられる。
【0033】
図3は、フレーム2に取り付けられた連接機構21を示している。同図(a)に示すように、この連接機構21は、上下方向に延び、フレーム2を貫通した状態でこれに螺合する連接軸22(ねじ部材)と、この連接軸22の下端部、すなわち響板1側の端部に設けられた当接プレート23(当接部)と、連接軸22の上端部、すなわち響板1と反対側の端部に設けられたハンドル24(操作部)とを有している。
【0034】
連接軸22は、所定の径および長さを有する金属製の丸棒で構成され、外周面に雄ねじが形成されている。当接プレート23は、連接軸22の径よりも大きな所定の径および厚さを有する金属製の円盤などで構成され、連接軸22の下端部に螺合することなどによって、着脱自在に取り付けられている。ハンドル24は、水平に所定長さ延びる金属棒や、所定の径を有する金属製の円盤で構成され、連接軸22の上端部に螺合することなどによって取り付けられている。また、連接軸22には、フレーム2とハンドル24の間にロックナット25が螺合している。
【0035】
以上のように構成された連接機構21では、連接軸22がフレーム2に形成されたねじ孔2aに貫通した状態で螺合している。このねじ孔2aは、フレーム2のリブ7の所定位置、具体的には、響板1の音響特性を変化させるために、後述するように、連接機構21で圧接すべき、響板1の表面における周縁部以外の所定部分1aの真上に形成されている。
【0036】
ピアノの通常の演奏を行う場合、すなわち響板1の音響特性を変えずに演奏する場合、連接機構21を図3(a)に示すように保持する。すなわち、連接機構21の当接プレート23を響板1から離れた状態に保持する。この状態で、ピアノの鍵盤が押鍵されると、アクションを介してハンマー(いずれも図示せず)が弦4を打弦し、その弦4の振動が長駒や短駒を介して響板1に伝わる。そして、響板1が振動し、それに伴い、響板1の周囲の空気が振動することなどにより、響板1を中心として、通常のピアノ音が発生する。
【0037】
これに対し、響板1の音響特性を変化させて演奏する場合、演奏に先立ち、連接機構21を図3(b)に示すように設定する。すなわち、同図(a)に示す状態の連接機構21に対し、ハンドル24を手動で所定方向に回すことにより、連接軸22を下方の響板1に向かって前進させる。そして、当接プレート23が、響板1の所定部分1aを押圧した状態でこれに当接するよう、連接軸22をねじ込む。その後、ロックナット25を締め付け、連接軸22をフレーム2にしっかりと固定する。以上により、同図(b)に示すように、響板1の所定部分1aに当接プレート23が圧接した状態で、当接プレート23および連接軸22を介して、響板1とフレーム2が連接される。
【0038】
上記のように、響板1とフレーム2が連接された状態において、ピアノの鍵盤を押鍵すると、前述した通常の演奏時と同様、弦4が打弦され、その弦4の振動が響板1に伝わる。この場合、響板1の所定部分1aが当接プレート23によって圧接されていることにより、ピアノ音を発生する際の所定部分1aにおける響板1の振動が抑制される。特に、連接機構21を支持するフレーム2は、金属で構成され、剛性が非常に高いので、響板1に比べてインピーダンスが非常に大きく、したがって、連接機構21を介してフレーム2に連接された響板1の所定部分1aにおける振動が、効果的に抑制される。
【0039】
このように、響板1の所定部分1aにおける振動を抑制した状態において、鍵盤が押鍵されると、響板1とフレーム2との連接が解除されている場合(図3(a)の状態)に比べて、響板1における振動の特性や形態が大きく変化する。具体的には、響板1を振動させるエネルギーが同一であっても、響板1における振動の振幅が小さくなるとともに、響板1全体がより多く分割するような形態で振動し、その結果、響板1を中心として発生するピアノ音の音量が小さくなるとともに、音色がクリアで繊細なものとなり、加えて伸び感のあるピアノ音を得ることができる。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、比較的簡単な構成の連接機構21により、響板1の所定部分1aが圧接された状態で、響板1とフレーム2とを連接することにより、ピアノの音量を小さくできることに加えて、音色や音の伸びなどを容易にかつ大きく変化させることができる。
【0041】
図4は、支柱組立品3のいずれかの支柱12に取り付けられた連接機構31を示している。この連接機構31は、フレーム2に取り付けられた前記連接機構21とほぼ同様に構成されている。すなわち、連接機構31は、連接機構21の連接軸22、当接プレート23およびハンドル24とそれぞれ同様に構成された連接軸32(ねじ部材)、当接プレート33(当接部)およびハンドル34(操作部)を有している。
【0042】
この連接機構31は、図4(a)に示すように、連接軸32が、支柱12に上下方向に貫通するように形成された孔12aに挿通されるとともに、支柱12の孔12aの下端部に埋設固定されたナット35に螺合している。なお、このナット35は、外周面に抜止め用の複数の突起(図示せず)を有するいわゆる鬼目ナットで構成されており、支柱12の下端部に下方から埋設された状態で取り付けられている。そして、連接軸32の上端部および下端部にはそれぞれ、当接プレート33およびハンドル34が取り付けられている。
【0043】
この連接機構31を利用し、響板1の音響特性を変化させて演奏する場合、演奏に先立ち、連接機構31を図4(b)に示すように設定する。すなわち、同図(a)に示す状態の連接機構31に対し、ハンドル34を手動で所定方向に回すことにより、連接軸32を上方の響板1に向かって前進させる。そして、当接プレート33が、響板1の裏面側の所定部分1bを押圧した状態でこれに当接するよう、連接軸32をナット35にねじ込み、これにしっかりと固定する。以上により、同図(b)に示すように、響板1の所定部分1bに当接プレート33が圧接した状態で、当接プレート33および連接軸32を介して、響板1と支柱12が連接される。
【0044】
この連接機構31を利用した場合も、前述した連接機構21と同様の作用、効果を得ることができる。また、連接機構31が取り付けられる支柱12は、木材で構成され、ピアノの外部に露出しているので、既存のピアノに対しても、連接機構31を後付けで、比較的簡単に取り付けることができる。
【0045】
図5(a)は、演奏中に、響板1と支柱12を連接したり、その連接を解除したりすることが可能な連接機構41を示しており、図6はその連接機構41を拡大して示している。両図に示すように、この連接機構41は、支柱12の上面に取り付けられたベース42と、このベース42の上方に配置された当接部43と、ベース42と当接部43を連結するパンタグラフ型のリンク機構44と、ベース42と当接部43を連結する引張りばね45(付勢手段)と、リンク機構44を駆動することにより、当接部43を後述する離隔位置および当接位置の一方に位置させるように操作するための操作部46(操作手段)とを備えている。
【0046】
ベース42および当接部43は、所定形状の金属板の前部および後部が直角に折曲げ加工されることなどによって、側面形状がそれぞれ上方および下方に開放するコ字状に形成されている。ベース42は、響板1の裏面側の前記所定部分1bが連接機構41で圧接されるよう、所定部分1bの真下の支柱12上に、接着やねじ止めなどで取り付けられている。
【0047】
リンク機構44は、前後方向に間隔を隔てて前後対称に構成された前後一対のリンク機構44、44(図5および6では前側のもののみ図示)で構成されている。図6に示すように、各リンク機構44は、互いに同一の所定長さを有する金属製の4つのリンクバー44a〜44dを有しており、正面形状がほぼひし形になるように連結されている。具体的には、左上リンクバー44aおよび左下リンクバー44bの一端部が、互いに左連結部47を介して回動自在に連結され、前者44aおよび後者44bの他端部がそれぞれ、当接部43およびベース42に回動自在に連結されている。また、右上リンクバー44cおよび右下リンクバー44dの一端部が、互いに右連結部48を介して回動自在に連結され、前者44cおよび後者44dの他端部がそれぞれ、当接部43およびベース42に回動自在に連結されている。また、このリンク機構44は、左連結部47および右連結部48により、当接部43の下限位置が、図6に示す位置に設定されるように構成されている。
【0048】
引張りばね45は、前後方向に間隔を隔てて配置された前後2つのコイルばねで構成されており、一方の引張りばね45がベース42および当接部43の前端部間を連結し、他方の引張りばね45がベース42および当接部43の後端部間を連結している。
【0049】
操作部46は、踏み込み操作可能なペダル51と、このペダル51の操作に連動して、リンク機構44を駆動するリンク機構駆動部52を備えている。ペダル51は、ピアノの図示しない他のペダル(ソフトペダルやダンパーペダルなど)に隣接するように設けられ、後端部を支点として、ペダル支持部53に回動自在に支持されている。リンク機構駆動部52は、ペダル51とリンク機構44とを連結するワイヤ54を有している。このワイヤ54は、リンク機構44の右連結部48とペダル支持部53との間に接続されたワイヤチューブ55内に通された状態で、一端部がペダル51に連結され、他端部が、リンク機構44の右連結部48よりも左方に延びるとともに、前後の引張りばね45、45間を通って、左連結部47に連結されている。
【0050】
以上のように構成された連接機構41は、ペダル51の踏み込み操作前の状態において、当接部43が響板1から所定距離、離隔した離隔位置(図5(a)および図6に示す位置)に位置している。一方、ペダル51が演奏者によって踏み込み操作されると、ワイヤ54がペダル51側に引かれ、それにより、リンク機構44の左連結部47と右連結部48が互いに接近する。これに伴い、図5(b)に示すように、連接機構41の当接部43は、引張りばね45の付勢力に抗して、リンク機構44によって押し上げられ、響板1の所定部分1bに押圧した状態で当接する当接位置に達する。これにより、ベース42、当接部43およびリンク機構44を介して、響板1と支柱12が連接される。
【0051】
また、上記の状態から、演奏者がペダル51から足を離すことで、ペダル51の踏み込み操作が解除されると、引張りばね45の付勢力によって、リンク機構44が駆動され、当接部43が元の離隔位置に戻る。これにより、響板1と支柱12との連接が解除される。
【0052】
以上のように、この連接機構41を利用する場合、ペダル51の踏み込み操作およびその解除により、響板1と支柱12との連接およびその解除を容易に行うことができるので、演奏者がペダルの踏み込み操作を行うことによって、演奏中に響板1の音響特性を容易に変化させることができる。
【0053】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。実施形態では、本発明のピアノ用響板の音響特性可変装置を、グランドピアノに適用する場合について説明したが、アップライトピアノにも適用することが可能であり、加えて、響板を有する他のピアノ、例えば消音ピアノなどにも適用することが可能である。また、実施形態では、連接機構21、31、41を介して、響板1とフレーム2または支柱12とを連接したが、響板1を、フレーム2および支柱12の両方に連接したり、響板1をフレーム2や支柱3と、複数箇所で連接したりするようにしてもよい。
【0054】
また、ペダル51で操作される連接機構41において、ペダル51を、踏み込み操作されたときにロックするように構成してもよい。この場合には、ペダル51を1回、踏み込み操作するだけで、響板1の音響特性を変化させた状態のまま、演奏を行うことができる。
【0055】
さらに、実施形態では、本発明の不動部材として、フレーム2および支柱3を採用したが、ピアノの他の部品、例えばピアノの側板を不動部材として利用することも可能である。また、実施形態で示した響板1、フレーム2、支柱12および連接機構21、31、41の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 響板
1a 響板の表面側の所定部分
1b 響板の裏面側の所定部分
2 フレーム
3 支柱組立品
4 弦
12 支柱
21 連接機構
22 連接軸(ねじ部材)
23 当接プレート(当接部)
24 ハンドル(操作部)
31 連接機構
32 連接軸(ねじ部材)
33 当接プレート(当接部)
34 ハンドル(操作部)
41 連接機構
42 ベース
43 当接部
44 リンク機構
45 引張りばね(付勢手段)
46 操作部(操作手段)
51 ペダル
52 リンク機構駆動部
54 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
響板を有するピアノに設けられ、前記響板の音響特性を変化させるためのピアノ用響板の音響特性可変装置であって、
前記響板の表面側および裏面側の少なくとも一方に不動に設けられた不動部材と、
この不動部材に支持された状態で、前記響板に対して進退自在に設けられ、当該響板の周縁部以外の所定部分に、当該所定部分を押圧した状態で当接することにより、前記響板と前記不動部材とを連接可能な連接機構と、
を備えていることを特徴とするピアノ用響板の音響特性可変装置。
【請求項2】
前記不動部材は、前記響板の裏面側に配置され、張設された弦の張力を支持するための支柱であることを特徴とする請求項1に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置。
【請求項3】
前記不動部材は、前記響板の表面側に配置され、弦が張設されたフレームであることを特徴とする請求項1または2に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置。
【請求項4】
前記連接機構は、
前記不動部材に貫通した状態で螺合し、前記響板の所定部分に当接可能なねじ部材と、
このねじ部材の前記響板と反対側の端部に設けられ、当該ねじ部材を回しながら進退させるために手動で操作される操作部と、
を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のピアノ用響板の音響特性可変装置。
【請求項5】
前記連接機構は、
前記ねじ部材の前記響板側の端部に設けられ、当該ねじ部材の径よりも大きなサイズを有する当接部を、さらに有していることを特徴とする請求項4に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置。
【請求項6】
前記不動部材は、前記響板の裏面側に配置され、張設された弦の張力を支持するための支柱であり、
前記連接機構は、
前記支柱に取り付けられたベースと、
このベースと前記響板との間に配置され、当該響板の所定部分に当接可能な当接部と、
前記ベースと前記当接部を連結し、当該当接部を、前記響板の裏面に押圧した状態で当接する当接位置と、当該響板から離隔する離隔位置との間で移動させるためのリンク機構と、
このリンク機構に係合し、前記当接部を、前記当接位置および前記離隔位置の一方に位置させるように操作するための操作手段と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置。
【請求項7】
前記連接機構は、前記当接部を前記離隔位置側に付勢する付勢手段を、さらに有しており、
前記操作手段は、
踏み込み操作可能なペダルと、
このペダルと前記リンク機構とを連結するワイヤを有し、前記ペダルに対する操作に応じて、前記ワイヤを介して前記リンク機構を駆動するリンク機構駆動部と、を有し、
前記ペダルが踏み込み操作されたときに、前記リンク機構駆動部が前記付勢手段の付勢力に抗して前記リンク機構を駆動することにより、前記当接部を前記当接位置に位置させ、前記ペダルの踏み込み操作が解除されたときに、前記付勢手段の付勢力によって前記リンク機構を駆動することにより、前記当接部を前記離隔位置に位置させることを特徴とする請求項6に記載のピアノ用響板の音響特性可変装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−73340(P2012−73340A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217056(P2010−217056)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)