説明

ピアノ

【課題】 ピアノ本体から筬を引き出す際のピン板へのハンマーヘッドの衝突を防止し、それによりハンマーなどの損傷・破損を防止することができるピアノを提供する。
【解決手段】 ピアノ本体5から引出し自在の筬6と、筬6設けられた複数の鍵7およびピン板3と、回動自在の複数のハンマー8と、ハンマー規制装置10と、を備え、ハンマー規制装置10は、筬6に設けられ、前端部を中心として回動自在の複数のステイ31と、複数のステイ31に支持され、左右方向に延びるハンマー押え具32と、複数のステイ31を付勢するばね35と、ピアノ本体5に設けられ、筬6をピアノ本体5から引き出す際、ハンマー押えローラ32がハンマー8のハンマーシャンク15に上方から当接するように複数のステイ31を回動させ、ハンマー8のハンマーヘッド16の上方への所定量以上の移動を阻止するガイドレール33と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノ本体の棚板から前方に引出し自在の筬を有するピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のグランドピアノとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このグランドピアノは、筬と、筬に設けられた複数の鍵および複数のハンマーと、弦を張るためのピン板を備えている。以下、このピアノを演奏者から見た手前側を「前」、奥側を「後」とし、さらに左側および右側を「左」および「右」として、説明する。筬は、ピアノ本体の棚板に載置され、ピアノ本体から前方に引出し自在である。各鍵は、前後方向に延びており、その中央において筬に揺動自在に支持されている。ピン板は、ピアノ本体に設けられ、鍵の上方に左右方向に延びている。
【0003】
各ハンマーは、鍵ごとに設けられ、ピン板の下方に前後方向に延びる棒状のハンマーシャンクと、その後端部に固定されたハンマーヘッドを有しており、ハンマーシャンクの前端部において、筬に上下方向に回動自在に設けられている。離鍵状態では、ハンマーヘッドはピン板よりも下方に位置している。また、押鍵に伴い、ハンマーが上方に回動することにより、ハンマーヘッドがピン板の下面よりも高い位置まで移動し、弦を打弦する。また、ピアノ本体から筬を引き出すことにより、筬と一緒に鍵やハンマーが引き出され、その状態で鍵やハンマーの調整が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−319452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このグランドピアノでは、ピアノ本体から筬を前方に引き出す際に誤って鍵が下方に押されると、ハンマーが上方に回動した状態で前方に移動するため、ハンマーヘッドがピン板に衝突することによって、ハンマーなどが損傷・破損するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、ピアノ本体から筬を引き出す際のピン板へのハンマーヘッドの衝突を防止し、それによりハンマーなどの損傷・破損を防止することができるピアノを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係るピアノは、棚板を有するピアノ本体と、棚板に載置され、ピアノ本体から前方に引出し自在に設けられた筬と、筬に揺動自在に設けられた複数の鍵と、左右方向に延びるようにピアノ本体に設けられたピン板と、ピン板の上方に設けられた弦と、筬に複数の鍵ごとに設けられ、ピン板の下方に前後方向に延びるハンマーシャンク、およびハンマーシャンクの後端部に設けられたハンマーヘッドを有し、ハンマーシャンクの前端部を中心として上下方向に回動自在であるとともに、対応する鍵の離鍵状態ではハンマーヘッドがピン板の下方に位置し、対応する鍵の押鍵に伴い、上方に回動することにより、ハンマーヘッドが弦を打弦する複数のハンマーと、筬をピアノ本体から引き出す際の複数のハンマーの上方への回動を規制するためのハンマー規制装置と、を備え、ハンマー規制装置は、筬に左右方向に並設され、前後方向に延び、前端部を中心として上下方向に回動自在の複数のステイと、複数のステイの後端部間に支持され、ハンマーシャンクの上方に左右方向に延びるハンマー押え具と、複数のステイを上方に付勢するばねと、ピアノ本体に設けられ、前斜め下方に延びる傾斜部を有し、筬がピアノ本体から引き出されるのに伴い、複数のステイを傾斜部に沿って移動させながら案内することにより、複数のステイを下方に回動させ、ハンマー押え具が、ハンマーシャンクに上方から当接することにより、ハンマーヘッドの上方への所定量以上の移動を阻止するガイドレールと、を有していることを特徴とする。
【0008】
このピアノによれば、鍵の離鍵状態では、対応するハンマーのハンマーヘッドはピン板の下方に位置している。また、鍵の押鍵に伴い、ハンマーが上方に回動することにより、ハンマーヘッドが、ピン板の下面よりも高い位置まで移動し、弦を打弦する。
【0009】
また、ピアノ本体から筬が前方に引き出されるのに伴い、筬に設けられた複数のステイが、ピアノ本体に設けられたガイドレールの傾斜部に沿って移動しながら案内されることにより、ばねの付勢力に抗して下方に回動する。この複数のステイの回動に伴い、それらの後端部間に支持されたハンマー押え具が下方に移動し、ハンマーのハンマーシャンクの回動範囲に進入する。このため、この状態で鍵が誤って下方に押されても、ハンマー押え具がハンマーシャンクに上方から当接することにより、各ハンマーの上方への回動が規制され、ハンマーヘッドの上方への所定量以上の移動が阻止される。このため、ハンマーヘッドがピン板の下面を越えて上方に移動することがなくなることで、ピン板との衝突を防止でき、それによりハンマーなどの損傷・破損を防止することができる。
【0010】
また、引き出された筬がピアノ本体に押し入れられると、ばねで付勢された複数のステイが上方に回動し、これに伴い、ハンマー押え具がハンマーシャンクの回動範囲から退避する。このため、押鍵に伴って回動するハンマーシャンクがハンマー押え具に当接することはなく、したがって、ハンマーによる打弦を支障なく行うことができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のピアノにおいて、複数のステイが移動する際の、ガイドレールとの摩擦を低減する摩擦低減手段をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、筬の引出しに伴って複数のステイが移動する際の複数のステイとガイドレールとの摩擦が、摩擦低減手段によって低減される。このため、筬を小さな操作力で円滑に引き出せるとともに、摩擦に起因する雑音を抑制することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のピアノにおいて、摩擦低減手段は、複数のステイおよびガイドレールの一方に回転自在に設けられ、他方に接するローラであることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、複数のステイがガイドレールに沿って移動する際、両者の一方に設けられたローラが他方に接した状態で回転する。このように、複数のステイが移動する際、回転するローラを介してガイドレールに接するので、ステイとガイドレールとの摩擦が低減される。その結果、筬を小さな操作力で円滑に引き出せるとともに、摩擦に起因する雑音を抑制できるという請求項2による作用を得ることができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載のピアノにおいて、摩擦低減手段は、表面がフッ素樹脂加工され、複数のステイおよびガイドレールの少なくとも一方に取り付けられ、他方に接するフェルトであることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、複数のステイは、それらとガイドレールの少なくとも一方に取り付けられたフェルトの表面が他方に接した状態で、ガイドレールに沿って移動する。フェルトの表面は、フッ素樹脂加工されているため、摩擦係数が小さい。このように、複数のステイが移動する際、摩擦係数の小さなフェルトの表面を介してガイドレールに接するので、ステイとガイドレールとの摩擦が低減され、前述した請求項2による作用を得ることができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項2に記載のピアノにおいて、摩擦低減手段は、滑性を有し、複数のステイおよびガイドレールの少なくとも一方に取り付けられ、他方に接するシートであることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、複数のステイは、それらとガイドレールの少なくとも一方に取り付けられたシートが他方に接した状態で、ガイドレールに沿って移動する。シートは滑性を有するため、摩擦係数が小さい。このように、複数のステイが移動する際、摩擦係数の小さなシートを介してガイドレールに接するので、ステイとガイドレールとの摩擦が低減され、前述した請求項2による作用を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のグランドピアノを離鍵状態において示す側断面図である。
【図2】図1のグランドピアノのピン板と積揚との連結部分などを示す部分拡大正面図である。
【図3】ハンマーやハンマー規制装置などを示す部分拡大平面図である。
【図4】図1のグランドピアノを押鍵状態において示す側断面図である。
【図5】筬をピアノ本体から前方に引き出す途中の状態を示す側断面図である。
【図6】第2実施形態によるハンマー規制装置を示す部分拡大側面図である。
【図7】第3実施形態によるハンマー規制装置を示す部分拡大側面図である。
【図8】第4実施形態によるハンマー規制装置を示す部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明を適用した第1実施形態によるグランドピアノ(以下「ピアノ」という)1を離鍵状態において示している。
【0021】
このピアノ1は、棚板2、ピン板3、積揚4(図2参照)および側板(図示せず)などを有するピアノ本体5と、棚板2に引出し自在に載置された筬6と、筬6に載置された多数の鍵7と、筬6に鍵7ごとに設けられ、弦Sを打弦するためのハンマー8と、鍵7の押鍵に伴って、対応するハンマー8を回動させるためのアクション9(いずれも1つのみ図示)と、ハンマー規制装置10を備えている。
【0022】
棚板2は、ラワン合板などの木質材で構成され、左右方向(図1の奥行き方向)に長い横長の矩形状に形成されており、側板の左右の前部の下面間に水平に渡され、左右の端部において側板にそれぞれ固定されている。
【0023】
ピン板3は、カエデなどの木質材から成る複数の単板を、それぞれの繊維方向が互いに直交するように交互に積層した合板で構成されており、筬6の上方に左右方向に延び、その両端部において積揚4の左右の前部の上面に固定されている(図2参照、左側のみ図示)。また、このピン板3を上方から覆うようにフレーム11が設けられている。フレーム11には多数のピン孔11aが形成されており、各ピン孔11aを介してチューニングピン12がピン板3に立設されている。
【0024】
筬6は、木質材で構成され、左右方向に延びる筬前6a、筬中6bおよび筬後6cと、前後方向(図1の左右方向)に延びる、左右一対の筬妻6d,6d(左側のもののみ図示)と、それらの内側の3つの中束(図示せず)で構成され、これらの構成部品を互いに連結し、組み立てたものである。多数の鍵7は、左右方向に並設され、各々が前後方向に延びており、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、筬6に立設されたバランスピン13に揺動自在に支持されている。弦Sは、各チューニングピン12と、フレーム11に設けられた後方のヒッチピン(図示せず)との間に前後方向に延びるように張られている。
【0025】
ハンマー8は、ピン板3の下方に前後方向に延びるハンマーシャンク15と、ハンマーシャンク15の後端部に取り付けられたハンマーヘッド16を有している。また、ハンマー8は、ハンマーシャンク15の前端部において、ハンマーシャンクフレンジ17を介してハンマーシャンクレール18に上下方向に回動自在に支持されており、図1に示す離鍵状態では、後述するアクション9のレペティションレバー22に載置されている。ハンマーシャンクレール18は、多数の鍵7の全体にわたって左右方向に延びており、複数のブラケット19(1つのみ図示)に渡されている。これらのブラケット19は、筬6の筬妻6dおよび中束にそれぞれ載置され、固定されており、互いに間隔を隔てて計5つ設けられている。
【0026】
アクション9は、ウィッペン21と、ウィッペン21に取り付けられたレペティションレバー22およびジャック23を有している。ウィッペン21は、前後方向に延び、その後端部において、ウィッペンフレンジ24に回動自在に支持されており、鍵7の後部に設けられたキャプスタン25に載置されている。
【0027】
レペティションレバー22は、前後方向に延び、その中央において、ウィッペン21に回動自在に取り付けられており、レペティションスプリング26によって、図1の反時計方向に付勢されている。レペティションレバー22の前部には、ジャック案内孔(図示せず)が形成されており、図1に示す離鍵状態では、ハンマー8のシャンクローラ28が載置されている。
【0028】
ジャック23は、側面形状がL字状に形成されており、その角部において、ウィッペン21に回動自在に取り付けられている。ジャック23の上端部は、レペティションレバー22のジャック案内孔に挿入され、シャンクローラ28に下方から対向している。
【0029】
ハンマー規制装置10は、複数のステイ31、複数のハンマー押えローラ32、および左右一対のガイドレール33を備えている。
【0030】
各ステイ31は、合成樹脂で構成されており、前後方向に延び、前端部において5つのブラケット19に上下方向に回動自在に支持されている。これらの5つのステイ31のうち、最外側の2つのステイ(以下「外側ステイ」という)31,31は、ブラケット19の外側面に配置されている。各ステイ31の後端部には、左右方向に貫通する軸孔31aが形成されている。また、各ステイ31は、ブラケット19に設けられた板ばね35によって、上方に弱いばね力で付勢されている。板ばね35は、所定の形状およびサイズのばね鋼を加工することにより形成されたものである。
【0031】
ハンマー押えローラ32は、図1および図3に示すように、左右方向に延び、断面が円形のものであり、その左右の各端面の中心には回転軸32aが設けられている。また、ハンマー押えローラ32は、隣接する各2つのステイ31,31の後端部間に配置されており、回転軸32aがステイ31の軸孔31aに挿入されることにより、軸孔31aを中心として回転自在に支持されている。以上の構成により、すべてのハンマー押えローラ32がステイ31の後端部間に沿って同軸線上に延び、ハンマー8の上方に位置するとともに、すべてのステイ31がハンマー押えローラ32を介して互いに連結されている。
【0032】
ガイドレール33は、合成樹脂で構成されており、積揚4の内側面のピン板3よりも下方の位置に固定されている(図2参照)。また、ガイドレール33は、前方に向かって斜め下方に直線的に延びる傾斜部33aと、傾斜部33aの前端部から前方にほぼ水平に直線的に延びる水平部33bを有しており、傾斜部33aの下面の全体には、板ばね35によって付勢された外側ステイ31,31が下方から当接している。
【0033】
次に、図1、図4および図5を参照しながら、ピアノ1の動作について説明する。図1に示すように、鍵7の離鍵状態では、ハンマー8はレペティションレバー22に載置されており、ハンマーヘッド16はピン板3の下方に位置している。
【0034】
この状態で鍵7が押鍵されると、鍵7がバランスピン13を中心として同図の時計方向に回動するのに伴い、ウィッペン21が鍵7によって突き上げられる。これにより、ウィッペン21は、レペティションレバー22およびジャック23と一緒に同図の反時計方向に回動する。この回動に伴い、ジャック23がハンマーシャンク15を突き上げることによって、ハンマー8が同図の時計方向に上方に回動する。その結果、図4に示すように、ハンマーヘッド16が、ピン板3の下面を越えて上方に移動し、弦Sを打弦することによって、ピアノ音が発生する。
【0035】
一方、図5に示すように、鍵7やハンマー8の調整などのためにピアノ本体5から筬6が前方に引き出されると、それに伴い、外側ステイ31,31が傾斜部33aおよび水平部33bに沿って案内されることにより、すべてのステイ31が、前端部を中心として、板ばね35のばね力に抗して下方に回動する。このステイ31の回動に伴い、ハンマー押えローラ32は、下方に移動し、ハンマーシャンク15に上方から当接する。
【0036】
以上のように、筬6をピアノ本体5から引き出す際、ハンマー押えローラ32がハンマーシャンク15に上方から当接するため、この状態で鍵7が誤って下方に押されても、各ハンマー8の上方への回動が阻止される。このため、ハンマーヘッド16がピン板3の下面を越えて上方に移動することがなくなることで、ピン板3との衝突を防止でき、それによりハンマー8などの損傷・破損を防止することができる。
【0037】
また、引き出された筬6をピアノ本体5に戻す際には、ステイ31を板ばね35のばね力に抗して押し下げることにより、ハンマー押えローラ32をガイドレール33の水平部33bよりも低くした状態で、筬6をピアノ本体5に押し入れる。これに伴い、外側ステイ31,31が、筬6の引出し時とは逆にガイドレール33の水平部33bおよび傾斜部33aの順に、これらに沿って案内されながら、筬6が後方に移動する。
【0038】
その後、筬6が図1に示す所定位置に達したときに、すべてのステイ31が、板ばね35のばね力によって上方に回動し、ガイドレール33の傾斜部33aに当接する。これにより、ハンマー押えローラ32がハンマーシャンク15の回動範囲から退避する。このため、押鍵に伴って回動するハンマーシャンク15がハンマー押えローラ32に当接することはなく、したがって、ハンマー8による打弦を支障なく行うことができる。
【0039】
次に、図6を参照しながら、本発明の第2実施形態によるピアノについて説明する。同図に示すように、本実施形態によるピアノ41は、第1実施形態のピアノ1と比較して、外側ステイ31,31にローラ42を付加した点のみが異なる。なお、以下の説明では、第1実施形態のピアノ1と同一の構成部品については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。このことは、後述する第3および第4実施形態についても同様である。
【0040】
ローラ42は、各外側ステイ31の前部および後部に2つ設けられている。各ローラ42は、外側ステイ31の外側面に水平軸線を中心として回転自在に取り付けられており、ガイドレール33の下面に接している。
【0041】
以上の構成によれば、外側ステイ31,31がガイドレール33に沿って移動する際、ローラ42がガイドレール33に接した状態で回転する。このように、外側ステイ31,31が移動する際、回転するローラ42を介してガイドレール33に接するので、外側ステイ31,31とガイドレール33との摩擦が低減される。その結果、筬6を小さな操作力で円滑に引き出せるとともに、摩擦に起因する雑音を抑制することができる。
【0042】
次に、図7を参照しながら、本発明の第3実施形態によるピアノについて説明する。同図に示すように、本実施形態によるピアノ51は、第1実施形態のピアノ1と比較して、外側ステイ31,31にフェルト52を付加した点のみが異なる。
【0043】
フェルト52は、各外側ステイ31の上面に貼り付けられるとともに、ガイドレール33の下面に接している。ガイドレール33に接するフェルト52の表面は、フッ素樹脂加工されており、それにより摩擦係数が小さくなっている。
【0044】
以上の構成によれば、外側ステイ31,31は、フェルト52の表面がガイドレール33に接した状態で、ガイドレール33に沿って移動する。このように、外側ステイ31,31が移動する際、摩擦係数の小さなフェルト52の表面を介してガイドレール33に接するので、外側ステイ31,31とガイドレール33との摩擦が低減される。その結果、第2実施形態と同様、筬6を小さな操作力で円滑に引き出せるとともに、摩擦に起因する雑音を抑制することができる。
【0045】
次に、図8を参照しながら、本発明の第4実施形態によるピアノについて説明する。同図に示すように、本実施形態によるピアノ61は、第1実施形態のピアノ1と比較して、外側ステイ31,31にシート62を付加した点のみが異なる。
【0046】
シート62は、各外側ステイ31の上面に貼り付けられ、ガイドレール33の下面に接している。また、シート62は、超高分子量ポリエチレンなどの滑性を有する材料で構成されており、それにより摩擦係数が小さくなっている。なお、このようなシート62として、市販のものを用いることも可能である。
【0047】
以上の構成によれば、外側ステイ31,31は、シート62がガイドレール33に接した状態で、ガイドレール33に沿って移動する。このように、外側ステイ31,31が移動する際、摩擦係数の小さなシート62を介してガイドレール33に接するので、ステイ31とガイドレール33との摩擦が低減される。その結果、第2および第3実施形態と同様、筬6を小さな操作力で円滑に引き出せるとともに、摩擦に起因する雑音を抑制することができる。
【0048】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第2〜4実施形態では、ローラ42、フェルト52およびシート62が外側ステイ31に取り付けられているが、これらをガイドレール33側に取り付けてもよい。あるいは、フェルト52およびシート62については、外側ステイ31およびガイドレール33の双方に取り付けてもよい。また、実施形態では、筬6の引出し時にハンマーシャンク15を押えるためのハンマー押え具として、ステイ31に回転自在に取り付けられたハンマー押えローラ32を用いているが、これをステイ31に固定したものを用いてもよい。
【0049】
さらに、実施形態では、筬6を引き出す際、ガイドレール33の案内によるステイ31の回動に伴い、ハンマー押えローラ32がハンマーシャンク15に当接するように構成されているが、これに代えて、ハンマー押えローラ32を、ハンマーシャンク15に当接させることなく、その付近の所定高さまで移動させるようにしてもよい。この場合には、鍵7が誤って下方に押されるのに伴い、ハンマー8が上方に回動し、ハンマーシャンク15がハンマー押えローラ32に当接することにより、ハンマー8の所定量以上の回動が規制される。したがって、この場合にも、ハンマーヘッド16がピン板3の下面を越えて上方に移動するのを防止でき、ハンマー8などの損傷・破損を防止するという作用を得ることができる。
【0050】
また、実施形態は、本発明をグランドピアノに適用した例であるが、これに限らず、ピアノ本体から引出し自在の筬を有する他の鍵盤楽器、例えば、グランドピアノ型の消音ピアノや自動演奏ピアノなどにも適用することができる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 グランドピアノ(ピアノ)
2 棚板
3 ピン板
5 ピアノ本体
6 筬
7 鍵
8 ハンマー
10 ハンマー規制装置
15 ハンマーシャンク
16 ハンマーヘッド
31 ステイ
32 ハンマー押えローラ(ハンマー押え具)
33 ガイドレール
33a 傾斜部
35 板ばね(ばね)
41 ピアノ
42 ローラ
51 ピアノ
52 フェルト
61 ピアノ
62 シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棚板を有するピアノ本体と、
前記棚板に載置され、前記ピアノ本体から前方に引出し自在に設けられた筬と、
当該筬に揺動自在に設けられた複数の鍵と、
左右方向に延びるように前記ピアノ本体に設けられたピン板と、
当該ピン板の上方に設けられた弦と、
前記筬に前記複数の鍵ごとに設けられ、前記ピン板の下方に前後方向に延びるハンマーシャンク、および当該ハンマーシャンクの後端部に設けられたハンマーヘッドを有し、前記ハンマーシャンクの前端部を中心として上下方向に回動自在であるとともに、対応する前記鍵の離鍵状態では前記ハンマーヘッドが前記ピン板の下方に位置し、対応する前記鍵の押鍵に伴い、上方に回動することにより、前記ハンマーヘッドが前記弦を打弦する複数のハンマーと、
前記筬を前記ピアノ本体から引き出す際の前記複数のハンマーの上方への回動を規制するためのハンマー規制装置と、を備え、
当該ハンマー規制装置は、
前記筬に左右方向に並設され、前後方向に延び、前端部を中心として上下方向に回動自在の複数のステイと、
当該複数のステイの後端部間に支持され、前記ハンマーシャンクの上方に左右方向に延びるハンマー押え具と、
前記複数のステイを上方に付勢するばねと、
前記ピアノ本体に設けられ、前斜め下方に延びる傾斜部を有し、前記筬が前記ピアノ本体から引き出されるのに伴い、前記複数のステイを前記傾斜部に沿って移動させながら案内することにより、前記複数のステイを下方に回動させ、前記ハンマー押え具が、前記ハンマーシャンクに上方から当接することにより、前記ハンマーヘッドの上方への所定量以上の移動を阻止するガイドレールと、
を有していることを特徴とするピアノ。
【請求項2】
前記複数のステイが移動する際の、前記ガイドレールとの摩擦を低減する摩擦低減手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のピアノ。
【請求項3】
前記摩擦低減手段は、前記複数のステイおよび前記ガイドレールの一方に回転自在に設けられ、他方に接するローラであることを特徴とする、請求項2に記載のピアノ。
【請求項4】
前記摩擦低減手段は、表面がフッ素樹脂加工され、前記複数のステイおよび前記ガイドレールの少なくとも一方に取り付けられ、他方に接するフェルトであることを特徴とする、請求項2に記載のピアノ。
【請求項5】
前記摩擦低減手段は、滑性を有し、前記複数のステイおよび前記ガイドレールの少なくとも一方に取り付けられ、他方に接するシートであることを特徴とする、請求項2に記載のピアノ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−112950(P2011−112950A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270512(P2009−270512)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)