説明

ピエゾクロミックセキュリティ要素

要約
本発明は、有価書類の偽造防止のための可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素を開示するものであり、このセキュリティ要素は、弾性ポリマーの膜またはコーティング層の中に光学的にコントラストのある顔料粒子の集積を備えることを特徴とする。特定の実施の形態において、粒子は、膜またはコーティング層の面内の配列とは実質的に異なる姿勢に配向した光学的に変化する顔料薄片である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護対象書類の分野にある。特に、保護対象書類に組み込んだり、貼り付けたり、印刷したりすることができ、人の指で生じさせ得るような適度な加圧下で視認可能な変色を呈する、可逆的に圧力を感知するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾクロミックデバイスは、加圧によって可逆的に変色するものであり、当技術分野で知られている。欧州特許出願公開第0530369(A)号明細書(宮下)は、微細な橙赤色の結晶として得られるインドリノスピロベンゾチオピラン誘導体を開示している。結晶を含むコーティングの表面をこするなどして適度な圧力を加えると、この結晶は鮮やかな濃青色に変わってそのままの状態を保ち、可視光にさらすと元の橙色に戻る。
【0003】
国際公開第03/089227(A)号(Lutz)は、製紙機械で用いられるロールのカバー層の圧力指示部としての、ピエゾクロミック材料の応用例を開示している。
【0004】
国際公開第2005/092995(A)号(Leroux)は、例えば銀行券の偽造を防止するために、印刷インクの形で付けることのできる可逆ピエゾクロミック系に関するものである。この系は、電子供与化合物と電子受容化合物との組み合わせで構成される。電子供与化合物はイオン発色性物質であり、本例ではpH感受性染料である。電子受容化合物は、イオン発色性化合物と接触した時にイオン発色性化合物の色を発現させるほどに酸性度が高くなければならず、一方で変色の可逆性を可能にするほどに酸性度が低くなければならない。両方の種類の化合物がコーティング組成物中で組み合わされて基材へ付けられる。圧力または摩擦が加えられると、強い色が発現し、1〜2分で薄れる。
【0005】
セキュリティ印刷用途における国際公開第2005/092995(A)号の系の一番の欠点は、圧力の印加とそれに伴う変色の後に系が初期状態に戻るのにかなり時間を要するということである。圧力と共に両方向にすばやく可逆的に変色するピエゾクロミック系が非常に望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0530369(A)号明細書
【特許文献2】国際公開第03/089227(A)号
【特許文献3】国際公開第2005/092995(A)号
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、有価書類、銀行券等でのセキュリティ要素としての用途に有用な、完全に可逆的で素早く反応するピエゾクロミックデバイスが、異なる物理的原理、注目すべきことには機械的原理に基づいて実現され得ることをこれまでに見いだした。
【0008】
本発明の可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素は、弾性ポリマーの膜またはコーティング層の中に含まれる光学的にコントラストのある顔料粒子の集積に基づくものである。
【0009】
本発明は、可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素を製造するためのコーティング組成物も開示しており、このコーティング組成物は、弾性体へと硬化可能な液状または糊状の重合可能前駆体モノマーまたは重合可能前駆体オリゴマーの中に光学的にコントラストのある顔料粒子の集積を備える。
【0010】
そのようにして得られた弾性体では、弾性ポリマーの圧縮または伸張に応じて顔料粒子の密度および/または配向が変化する。この結果、顔料粒子に光学的にコントラストのある特性があると、視認可能な変色が生じる。この圧縮または伸張に応じた視認可能な変色は、外圧の解除とともに弾性ポリマー中の顔料粒子の配列が初期状態に戻るという点で、可逆である。この視認可能な色効果は、圧力を加える手段の近くにおいても、あるいは視認可能なほど裏側が透明であればデバイスの裏側からでも、さらには視認可能なほど圧力を加える手段が透明であればその手段を通してでも、知覚することができる。
【0011】
光学的にコントラストのある顔料粒子の集積とは、本件の関連においては、弾性ポリマー内で視認可能なあらゆる種類の顔料粒子または顔料粒子の混合物を意味する。顔料は必ずしも単一の同じ種類である必要はなく、従って顔料粒子の集積はさまざまな種類の顔料を含んでよく、注目すべきことには以下の好ましい選択肢から選ばれた顔料を1成分以上含んでよい。
【0012】
好ましい顔料粒子は、非球形であり、特には針状粒子または板状もしくは薄片状の粒子である。
【0013】
本発明を具現するのに最も好ましい顔料は、薄膜干渉顔料であり、特には米国特許第4,705,300号明細書、米国特許第4,705,356号明細書、米国特許第4,721,271号明細書、およびこれらの関連文献に開示された光学的に変化する顔料である。これらの顔料はファブリ・ペロー反射体/誘電体/吸収体層構造を備えており、反射体がアルミニウム、クロム、ニッケル、または金属合金のような金属であると好ましい。誘電体は、好ましくはフッ化マグネシウム(MgF2)または二酸化ケイ素(SiO2)であり、吸収体は、好ましくはクロム、ニッケル、または炭素である。
【0014】
本発明を具現する好ましい薄片は、10マイクロメートルないし50マイクロメートルの径を持つ。
【0015】
針状粒子または板状もしくは薄片状の粒子は、配向した状態で弾性ポリマー内に含まれることが好ましく、そのような配向は、独国特許第19639165(C2)号明細書に開示されたような、対応するせん断力を加えることによって生じさせることができる。あるいは、外部場、例えば欧州特許第1641624号明細書および国際公開第2008/046702(A1)号に開示されたような磁場を印加することによって、顔料粒子を配向させることできる。この目的のためには、選ばれた外部場に対して顔料粒子が反応する必要がある。図1は、どのようにすればコーティング中の顔料粒子を配向させられるかを模式的に示している。
【0016】
本発明を具現する好ましい顔料粒子は、磁性顔料粒子または磁化可能顔料粒子から選択される。
【0017】
顔料は、5重量パーセントないし20重量パーセント、好ましくは10重量パーセントないし15重量パーセントの濃度で弾性ポリマーに存在する。
【0018】
最も好ましい実施の形態において、顔料粒子、好ましくは顔料薄片は、コーティングの面に対してほぼ垂直に配向している。「垂直に」とは、本開示の関連では、針状粒子では針軸が面の法線から30°以内、薄片状粒子では薄片軸が膜またはコーティングの面から30°以内にあるということを意味する。
【0019】
弾性ポリマーは、適切な前駆体モノマーまたは前駆体オリゴマーの重合によって得られる。重合可能な前駆体中に顔料粒子と適当な添加剤とを分散させることにより、液状または糊状のコーティング組成物が形成される。このコーティング組成物が、適切なコーティング技術または印刷技術を用いて膜の形で基材に付けられ、必要に応じて顔料粒子の所定の配向も生成される。続いて、付けられたコーティング組成物は硬化(固化)させられて、顔料粒子を含む弾性体が生じる。結果として得られる膜は、ピエゾクロミックセキュリティデバイスとして有用である。
【0020】
好ましい実施の形態において、ピエゾクロミックセキュリティデバイスの表面は、少なくとも部分的に透明な保護膜でさらに覆われて、偶発的な機械的損傷が予防される。好ましい保護膜は透明なポリマー箔である。しかしながら、保護膜は、UVワニス等のような他のどんな種類の保護コーティングであってもよい。
【0021】
ピエゾクロミックセキュリティデバイスのさらなる実施の形態において、顔料粒子を含有する弾性ポリマーの膜は、少なくとも部分的に透明な2枚の保護膜の間に含まれる。
【0022】
特に好ましい実施の形態は、光学的に変化するピエゾクロミック要素に関するものである。この顔料は、好ましくは磁性の、光学的に変化する顔料であり、不透明の反射薄片からなる。そしてこの薄片は、厚さ約1マイクロメートルで、10マイクロメートルないし50マイクロメートル程度の平面的な広がりを有し、スペクトル選択的な反射性(色)が薄片面に対する視角に依存するものである。「光学的に変化する」とは、本開示の関連では、視角または入射角に依存する色を有することを意味する。
【0023】
好ましくは、光学的に変化する顔料薄片は、コーティング組成物を弾性体へと硬化させる前に外部磁場の印加によってコーティング組成物中で配向させられるように、磁性薄片または磁化可能薄片である。
【0024】
光学的に変化する薄片を含む硬化させられた弾性組成物に、人の指でかけられるような、適度な圧力、引張力、またはせん断力を加えると、圧力の影響を受けた薄片の配向が弾性組成物内で変化し、その結果、局所的な、非常に目立つ変色が生じる。圧力、引張力、またはせん断力を解除すると、薄片は直ちに以前の姿勢に戻る。すなわち、圧力に依存した変色は、急速であり、完全に可逆的である。
【0025】
弾性コーティングに含まれる配向した顔料薄片の集積に対する機械的な圧縮の効果を図2に示す。弾性コーティングを圧縮した場所では、顔料薄片はコーティング面に対してより低い角度になるため、より強い鏡面反射を示す。
【0026】
弾性コーティングに含まれる配向した顔料薄片の集積に対する機械的な引き伸ばしの効果を図4に示す。引き伸ばされた弾性コーティングでは、薄片はコーティング面に対してより低い角度になるため、より強い鏡面反射を示す。
【0027】
好ましい実施の形態において、光学的にコントラストのある顔料粒子を含有するコーティング組成物は、有価書類、銀行券、本人確認書類、アクセスカードもしくは銀行カードのような基材上で、または徴税目的に供するラベル上で、セキュリティ要素として用いられる。
【0028】
好ましくは、ピエゾクロミックセキュリティ要素は、少なくとも部分的に透明なポリマー箔で覆われ、ポリマー泊は、好ましくは硬化作業の前に付けられる。これにより、弾性コーティングが不注意または故意にこすり取られるのを防止できる。また、箔は、クレジットカードもしくはアクセスカードまたは輸送権原証書(transportation title)に積層された箔であってもよく、この場合、これらの書類上の機密情報が改ざんされるのを防止する付加的な機能を有してよい。箔は、スタンピング箔の集成材の一部であってもよい。
【0029】
当業者に明白なように、用途によっては、例えば接着を促進するため、剥離性を付与するため、またはさらに他の技術的および/または審美的目的のために、ピエゾクロミックセキュリティ要素と上記のポリマー箔との間にさらなる層が必要になる場合がある。
【0030】
本セキュリティデバイスの特に好ましい実施の形態において、薄片を含有する弾性コーティング組成物は、2枚のポリマー箔の間に含まれ、そのうちの少なくとも1枚は、少なくとも部分的に透明である。これにより、例えば人の指によって、確認のための圧力をセキュリティデバイスの第1の側から加え、結果として生じる変色をセキュリティデバイス、すなわち箔/弾性コーティング/箔の集成材の第2の側から観察することができる。
【0031】
このような箔/弾性コーティング/箔の集成材は、セキュリティスレッド、ウィンドウ、または貼り付けられたスタンピング箔の形で、銀行券で用いられてよい。セキュリティスレッドとして用いられる場合、箔集成材は細長い細片に切断され、それらが製紙段階で保護対象用紙に組み込まれるが、これは当業者に知られた通りである。圧力の可視的効果を観察するためには、セキュリティスレッドは、完全に用紙内に埋め込まれるのではなく、ウィンドウスレッド(欧州特許出願公開第0400902(A)号明細書を参照)の場合と同様に一部が露出していなければならない。ウィンドウとして用いられる場合、箔集成材は、ウィンドウを出現させないところに不透明なコーティングを担持する保護対象書類の基層として用いられてもよいし(国際公開第98/13211号を参照)、あるいは代わりに、製紙工程で用紙に組み込まれてもよく、これは当業者に知られた通りである(欧州特許出願公開第0860298(A)号明細書を参照)。スタンピング箔として用いられる場合、箔集成材は、剥離可能な担体箔上に生成されて、好ましくは熱で活性化する接着剤層を設けられるが、これは当業者に知られた通りである(国際公開第92/00855号を参照)。
【0032】
有価書類の偽造防止のための可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素を製造する工程も開示され、この工程は、
a)基材を供給するステップと、
b)液状または糊状の重合可能前駆体モノマーまたは重合可能前駆体オリゴマーの中に光学的にコントラストのある顔料粒子の集積を備えるコーティング組成物を、基材の少なくとも一部に付けるステップと、
c)コーティング組成物を弾性ポリマーへと硬化させるステップと
を含む。
【0033】
本工程の好ましい実施の形態において、光学的に変化する薄片顔料は磁性顔料または磁化可能顔料であり、ステップb)は、外部磁場を用いて、付けられたコーティング中で薄片顔料を磁気配向させることを含む。
【0034】
上記の磁気配向は、国際公開第2005/002866号および国際公開第2008/046702号に開示されたような、磁化された永久磁性体の彫板を用いて行われると好ましい。
【0035】
本工程は、付けられたコーティング組成物を少なくとも部分的に透明なポリマー箔で覆うさらなるステップを含んでもよい。
【0036】
さらに、本工程で用いられる基材は、少なくとも部分的に透明なポリマー箔であってもよい。
【0037】
本発明のセキュリティ要素は、有価書類、銀行券、本人確認書類、アクセスカード、銀行カード、または徴税などの目的に供するラベルのような、保護対象書類または保護対象アイテムの偽造防止のために使用することができる。
【0038】
さらに開示されるのは、有価書類、銀行券、本人確認書類、アクセスカード、銀行カード、または徴税などの目的に供するラベルのような、保護対象書類または保護対象アイテムであって、本発明によるセキュリティ要素を担持する保護対象書類または保護対象アイテムである。
【0039】
ポリマー
好ましくは、顔料を含むために用いられるポリマー結合剤は、外圧または外力の影響下で寸法を完全に可逆的に弾性変化させられる高分子量弾性ポリマーであり、室温において、圧力または力を解除した後に迅速またはほとんど瞬間的に元の寸法に戻るようになっている。
【0040】
弾性結合剤として用いられてピエゾクロミックセキュリティ要素を具現することのできるポリマーは、スチレン・ブタジエンコポリマー、アクリレート系ラテックス、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリサルファイドゴム、cis−1,4−ポリイソプレン、エチレン・プロピレンターポリマー(EPDMゴム)、シリコンゴム、およびポリウレタンゴム、多孔質シリコンを含む、天然ゴムおよび合成ゴムのような高屈曲性ポリマーや、当技術分野で開示されているその他の好適なポリマーを含むがこれらに限定されない。
【0041】
顔料を含有する弾性ポリマーを圧縮または伸張したときに最大限の可視的効果を得るには、針または薄片のような非球形の顔料粒子を用いて、特に弾性結合剤の母材中に顔料粒子の配向を生成するのが有利である。
【0042】
続いて、この弾性結合剤中での顔料粒子の姿勢の配向は、結合剤の硬化によって固定されて弾性状態をとるようにされなければならない。高速な硬化システムが有利であり、従って紫外線硬化型またはEB(electron beam、電子ビーム)硬化型のコーティング組成物が好まれるが、これは、それらの組成物により、コーティング工程に続いて顔料粒子の固定を即時にその場で行えるからである。
【0043】
しかしながら、2成分シリコンのような熱硬化型弾性ポリマー系も使用可能である。この場合、熱硬化工程の初期段階中に、ポリマーが十分に凝固して顔料粒子を所定の位置および配向に保つようになるまで、磁場のような外力によって顔料粒子の配向を保たなければならない。
【0044】
さらに、健康および環境上の理由で、コーティング組成物の溶媒含有量を低く保つのが有利である。従って、無溶媒配合は好ましい選択肢である。
【0045】
顔料の混入
コーティング組成物中の顔料濃度は、指先で生じ得るような適度な圧力を加えたときに最大限の可視的効果が発揮されるように選ばれるべきである。例えば米国特許第4,838,648号明細書に開示された光学的に変化する顔料薄片のような薄片顔料の場合、顔料濃度は、印刷後に薄片粒子が水平に並ぶのであれば、すなわち印刷された基材表面に対して薄片粒子の広い面が平行になるのであれば、印刷された膜において最大限の表面被覆率が得られるように選ぶべきである。最大限の可視的効果を得るには、顔料粒子は、基材面に対して垂直近くに配向することが好ましい。
【0046】
本発明を具現するのに用いられ得る薄片状の薄膜光学干渉顔料は、米国特許第4,705,300号明細書、米国特許第4,705,356号明細書、米国特許第4,721,271号明細書、およびこれらの関連文書に開示されている。
【0047】
外部磁場によって顔料粒子を磁性配向させられる光学的に変化する磁性顔料は、国際公開第02/073250号、米国特許第4,838,648号明細書、欧州特許出願公開第686675(A)号明細書、国際公開第03/00801号、および米国特許第6,838,166号明細書に開示されており、これらの文書は引用することによりここに組み込まれているものとする。
【0048】
一方、薄片顔料が回転して、薄片顔料を含有する弾性ポリマーの圧縮状態と解除状態との間で良好な可視的コントラストをもたらすことができるように、顔料濃度は過度に高くすべきではない。弾性ポリマー中の薄片顔料の最適濃度は、粒子寸法および比重のような特定の顔料特性、そして最終的なコーティング厚さのようなコーティングパラメータに依存するものであり、従って、それぞれの用途において最良の可視的効果が得られるよう、当業者によって適宜決められるべきである。最適な顔料濃度は通常、インクの1重量パーセントないし30重量パーセントの間であり、たいていの場合は5重量%ないし15重量%の間である。
【0049】
特定の顔料ロット中の平均粒子寸法および寸法分布は、達成可能な結果に影響を及ぼす。最適な効果を得るには、比較的大きな粒子寸法(10μmないし50μmの範囲の薄片径)およびできるだけ均一な寸法分布が必要である。ただし、コーティング膜中で顔料を垂直に配向させるには、薄片径が大きくなるほどコーティングを厚くしなければならない。
【0050】
薄片顔料粒子を含むコーティング組成物は、好ましくは、スクリーン印刷またはバーコーティングのような液体インク印刷技術によって硬質な基材表面に付けられる。付けられて固められたコーティング層の最終的な厚さは、用いられる顔料に大きく依存し、顔料薄片が容易に回転して垂直な姿勢をとることができるようにおよそ50μm以上であると好ましい。
【0051】
膜またはコーティング層の面内の配列とは実質的に異なる姿勢であれば、顔料薄片の配向はどのようなものであっても、圧力を加えたときに一定の変色を呈する。しかし、この変色は、顔料粒子が基材面に対して垂直に近い姿勢で弾性ポリマー内に配置された場合に、最も強くなる。さらに、この特定の応用においては、顔料薄片の径よりずっと小さなコーティング厚さを用いることは勧められない。
【0052】
コーティング組成物中で磁性粒子を配向させるための材料および技術、そして対応する印刷法は、米国特許第2,418,479号明細書、米国特許第2,570,856号明細書、米国特許第3,791,864号明細書、独国特許出願公開第2006848(A)号明細書、米国特許第3,676,273号明細書、米国特許第5,364,689号明細書、米国特許第6,103,361号明細書、米国特許出願公開第2004/0051297号明細書、米国特許出願公開第2004/0009309号明細書、欧州特許出願公開第710508(A)号明細書、国際公開第02/090002号、国際公開第03/000801号、国際公開第2005/002866号、米国特許出願公開第2002/0160194号明細書、国際公開第2006/061301号、国際公開第2006/117271号、国際公開第2007/131833号、国際公開第2008/009569号、国際公開第2008/046702号に開示されており、これらの文書は引用することによりここに組み込まれているものとする。
【0053】
コーティング組成物は、他の種類の顔料および/または染料をさらに含むこともできる。例えば、注目すべきことには、光学的に変化する非磁性顔料、加法混色顔料、玉虫色の顔料、液晶ポリマー顔料、金属顔料、磁性顔料、紫外線または可視光線または赤外線を吸収する顔料、紫外線または可視光線または赤外線を発光する顔料、紫外線または可視光線または赤外線を吸収または発光する染料、そしてこれらの混合物を含んでよい。コーティング組成物は、例えば欧州特許第0927750(B)号明細書に開示されたように、犯罪捜査用タガントをさらに含んでよい。
【0054】
ここから、本発明の可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素について、図面および以下の非限定例によってさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、弾性コーティング中の光学的に変化する磁性顔料薄片の、外部磁場を用いた配列を模式的に描く図である。
【図2】図2は、配向した薄片顔料を含むコーティングの圧縮による弾性変形の結果として生じる光学的効果の原理を模式的に描く図である。
【図3】図3は、配向した光学的に変化する磁性顔料を含むコーティングの光学特性に指の圧力が及ぼす効果を、コーティングを担持するガラス板を通して見た状態で説明する図である。
【図4】図4は、配向した薄片顔料を含むコーティングの引き伸ばしによる弾性変形の結果として生じる光学的効果の原理を模式的に描く図である。
【図5】図5は、配向した光学的に変化する磁性顔料を含むコーティングの光学特性に引き伸ばしが及ぼす効果を、a)伸ばさない状態について、b)伸ばした状態について、説明する図である。
【図6】図6は、本発明の感圧コーティングの、IDカード上のセキュリティ要素としての応用例を模式的に描く図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
例1…2成分シリコンエラストマー中の光学的に変化する磁性顔料
光学的に変化する磁性顔料粒子を、熱硬化型無溶媒2成分シリコンエラストマーSylgard 527 Primerless Silicone Dielectric Gel(ダウコーニング社)に分散させることにより、本発明による感圧型の光学的に変化するセキュリティ要素を生成するためのコーティング組成物が調合された。
【0057】
Sylgard 527の2つの成分は、室温にて0.9:1.1の重量比で完全に混合された。Sylgard 527ゲルは、別々の容器に入った成分Aおよび成分Bで構成されるキットとして提供される。2つの成分は、典型的には1:1の重量比で混合される。初めの混合において成分Aに対する成分Bの割合を増やすことにより、やや硬いゲルが得られる。
【0058】
続いて、光学的に変化する磁性顔料(カリフォルニア州サンタローザ市のFlex Products社、「緑色から青色」、Cr/MgF2/Ni/MgF2/Crの5層設計、米国特許第4,838,648号明細書に開示された通り)が10重量%の濃度でSylgard 527混合液に分散され、この顔料を含有するコーティング組成物が、コーティングバー(ハンドコーター)を用いて透明なポリマー箔(Puetz-Folien社の100μmのPVC)またはガラス板(顕微鏡のスライドガラス)におよそ100μmの厚さで堆積させられた。
【0059】
こうして得られた膜が、Sylgard 527結合剤の粘度を増すために、80℃で5分間、熱板で予備乾燥させられた。次に、国際公開第2008/046702(A1)号に記載されたような「プラストフェライト」(plastoferrite)磁石を用いて、コーティング中の顔料粒子が、基材面に対して垂直に近い姿勢に配向させられた。結果として得られた膜は、均一な灰色で、半透明だった。膜は、膜に含まれる顔料粒子の姿勢および配向が保持されるほどにSylgard結合剤の粘度が十分高くなるまで磁石上に保持された後、150℃で30分間、オーブンで硬化させられた。硬化した膜は、非常に柔軟で、機械的に弾力のある性質を示した。そのようにして得られた膜を機械的な損傷(ひっかき)から保護するため、透明な粘着箔で膜が覆われた。
【0060】
弾性膜を指先と基材との間で圧縮すると、濃い灰色から明るい緑色への明確で完全に可逆的な変色が、基材の裏側から観察された(図3)。
【0061】
例2…紫外線硬化誘電体ゲル中の光学的に変化する磁性顔料
光学的に変化する磁性顔料粒子を、紫外線硬化型1成分無溶媒シリコン誘電体ゲルX3-6211 Encapsulant(ダウコーニング社)に分散させることにより、本発明による感圧型の光学的に変化するセキュリティ要素を生成するためのコーティング組成物が調合された。
【0062】
例1と同じ光学的に変化する磁性顔料が7.5重量%の濃度でシリコンゲルX3-6211に分散され、この顔料を含有するコーティング組成物が、コーティングバー(ハンドコーター)を用いて透明なポリマー箔(Puetz-Folien社の100μmのPVC)またはガラス板(顕微鏡のスライドガラス)におよそ100μmの厚さで堆積させられた。
【0063】
次に、国際公開第2008/046702(A1)号に記載されたような磁石を用いて、X3-6211結合剤中の顔料粒子が、基材面に対して60°に近い角度を形成するように配向させられ、当技術分野で知られた従来の紫外線硬化ユニットを用いてそのまま乾燥させられた。
【0064】
硬化した膜は、非常に柔軟で、弾力のある性質を有していた。膜を機械的な損傷から保護するため、透明な粘着箔で膜が覆われた。
【0065】
弾性膜を指先とガラス板との間で圧縮すると、濃い灰色から青みがかった緑色への可逆的で明確な変化が観察された。
【0066】
例3…2成分シリコンエラストマー中の光回折顔料
アルミニウム薄片顔料を、例1に記載されたように熱硬化型無溶媒2成分シリコンエラストマーSylgard 527 Primerless Silicone Dielectric Gel(ダウコーニング社)に分散させることにより、本発明による感圧型のセキュリティ要素を生成するためのコーティング組成物が調合された。
【0067】
SpectraFlair顔料Silver 1500-20(カリフォルニア州のJDSU Flex Products社)が8重量%の濃度でSylgard 527混合液に分散され、この顔料を含有するコーティング組成物が、コーティングバー(ハンドコーター)を用いてガラス板(顕微鏡のスライドガラス)におよそ100μmの厚さで堆積させられた。
【0068】
得られた膜は、150℃で30分間、オーブンで硬化させられた後に、透明な粘着箔で覆われた。弾性膜を指先と基材との間で圧縮すると、銀色から多色の明るい虹色への変化が、基材の裏側から観察された。
【0069】
例4…配向した光学的に変化する顔料薄片を含む弾性コーティングを引き伸ばした時の効果
光学的に変化する磁性顔料粒子を、例2に記載されたように紫外線硬化型1成分無溶媒シリコン誘電体ゲルX3-6211 Encapsulant(ダウコーニング社)に混入させることにより、本発明によるせん断力感知型のセキュリティ要素を生成するためのコーティング組成物が調合された。
【0070】
この分散の帯が、コーティングバー(ハンドコーター)を用いて透明なポリマー箔(Puetz-Folien社の100μmのPVC)におよそ100μmの厚さで堆積させられた。顔料粒子を基材面に対して垂直近くに配向させた後、紫外線硬化によって膜がある程度乾燥させられ、膜の表面に第2のポリマー箔が付けられてサンドイッチ状の配列が形成された。そして、この弾性膜が紫外線でさらに硬化させられた。図5aは、2枚の柔軟な基材間の配向コーティングが引き伸ばされていない状態を示しており、コーティングは濃い灰色に見える。図5bは、図5aのコーティングを機械的に引き伸ばした時の効果を示しており、濃い灰色から明るい緑色への明確で完全に可逆的な変色が観察される。
【0071】
例5…紫外線硬化誘電体ゲル中の光学的に変化する磁性顔料の応用例
例2に記載された感圧コーティング組成物は、例えば、図6に示されるようにIDカード上のセキュリティ要素として用いることができる。こうしたプラスチックカードの製造は、典型的には以下の4つのステップを含む。すなわち、i)芯材シートのプラスチック化合/成形、ii)印刷、iii)積層、およびiv)切断/エンボス加工、の4つのステップである。両面感圧機能を得るために、成形ステップi)に続いて、図示のように芯材プラスチックシートに3つの円が切り込まれ、それらが、例2で述べられたように調製された感圧コーティング組成物で埋められた。感圧コーティングを紫外線硬化させた後、プラスチック芯材シートの両面がそれぞれ透明な箔で被覆された。上記以外については、カードは通常通り加工されてよい(印刷、切断等)。
【0072】
このプラスチックカードの感圧要素は、裏から触りながら表側から観察すると、暗い色から緑色への明確な変化を示した。あるいは、表側の中央の円を触ることにより、積層された被覆層による圧力の機械的な伝達を通じて、表側から観察した時に外側の2つの円に暗い色から緑色への変色を引き起こすこともできる。
【0073】
上述した例は、好ましくは無溶媒の紫外線硬化型前駆体材料の活用により生成される非常に柔軟で弾力のある弾性ポリマー層内に、薄片状の顔料粒子を配向させて固定することによって、ピエゾクロミックセキュリティ要素を生成する方法、について説明するものである。弾性ポリマー層の厚さにもよるが、5重量%ないし15重量%の間の顔料濃度で最適な光学的効果が得られる。比較的厚い膜では改善した効果が得られるが、実現できる厚さは、印刷工程の工程要因、および乾燥の限界により制限される。
【0074】
当業者は、上記の説明および例で与えられた情報に基づいて、開示された本発明のさらなる実施の形態を導出できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価書類の偽造防止のための可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素であって、弾性ポリマーの膜またはコーティング層の中に光学的にコントラストのある顔料粒子の集積を備えることを特徴とするセキュリティ要素。
【請求項2】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、針状粒子および板状または薄片状の粒子からなる群から選択される請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項3】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、薄膜干渉顔料粒子からなる群から選択される請求項1ないし2のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項4】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、光学的に変化する顔料粒子の群から選択される請求項1ないし3のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項5】
前記顔料粒子の少なくとも一部がファブリ・ペロー反射体/誘電体/吸収体層構造を備える請求項1ないし4のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項6】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、10マイクロメートルないし50マイクロメートルの範囲の径を持つ薄片である請求項1ないし5のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項7】
前記顔料粒子の少なくとも一部が磁性顔料粒子または磁化可能顔料粒子の群から選択される請求項1ないし6のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項8】
前記顔料粒子が、5重量パーセントないし25重量パーセント、好ましくは10重量パーセントないし15重量パーセントの濃度で前記膜またはコーティング層に存在する請求項1ないし7のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項9】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、前記膜またはコーティング層の面内の配列とは実質的に異なる姿勢に配向した請求項1ないし8のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項10】
前記顔料粒子の少なくとも一部が基材の面に対して垂直近くに配向して、針状粒子では針軸が前記面の法線から30°以内、薄片状粒子では薄片軸が前記膜またはコーティングの面から30°以内になっている請求項9に記載のセキュリティ要素。
【請求項11】
前記弾性ポリマーが、天然ゴムと、スチレン・ブタジエンコポリマー、アクリレート系ラテックス、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリサルファイドゴム、cis−1,4−ポリイソプレン、エチレン・プロピレンターポリマー(EPDMゴム)、シリコンゴム、ポリウレタンゴム、および多孔質シリコンを含む合成ゴムとからなる高屈曲性ポリマーの群から選ばれる請求項1ないし10のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項12】
前記弾性ポリマーが、紫外線硬化ポリマーおよび電子ビーム硬化ポリマーからなる群から選ばれる請求項1ないし10のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項13】
前記弾性ポリマーが2成分シリコンエラストマーである請求項1ないし10のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項14】
前記弾性ポリマーが1成分シリコン誘電体ゲルである請求項1ないし10のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項15】
前記顔料粒子を含有する前記弾性ポリマーの膜が、少なくとも部分的に透明な保護膜で覆われることを特徴とする請求項1ないし14のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項16】
前記顔料粒子を含有する前記弾性ポリマーの膜が、少なくとも部分的に透明な2枚の保護膜の間に含まれることを特徴とする請求項1ないし14のうちの1項に記載のセキュリティ要素。
【請求項17】
有価書類の偽造防止のための可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素を製造するためのコーティング組成物であって、弾性ポリマーへと硬化可能な液状または糊状の重合可能前駆体モノマーまたは重合可能前駆体オリゴマーの中に光学的にコントラストのある顔料粒子の集積を備えることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項18】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、針状粒子および板状または薄片状の粒子からなる群から選択されることを特徴とする請求項17に記載のコーティング組成物。
【請求項19】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、薄膜干渉顔料粒子からなる群から選択されることを特徴とする請求項17ないし18のうちの1項に記載のコーティング組成物。
【請求項20】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、光学的に変化する顔料粒子の群から選択されることを特徴とする請求項17ないし19のうちの1項に記載のコーティング組成物。
【請求項21】
前記顔料粒子の少なくとも一部がファブリ・ペロー反射体/誘電体/吸収体層構造を備えることを特徴とする請求項17ないし20のうちの1項に記載のコーティング組成物。
【請求項22】
前記顔料粒子の少なくとも一部が、10マイクロメートルないし50マイクロメートルの範囲の径を持つ薄片であることを特徴とする請求項17ないし21のうちの1項に記載のコーティング組成物。
【請求項23】
前記顔料粒子の少なくとも一部が磁性顔料粒子または磁化可能顔料粒子の群から選択されることを特徴とする請求項17ないし22のうちの1項に記載のコーティング組成物。
【請求項24】
前記顔料粒子が、5重量パーセントないし20重量パーセント、好ましくは10重量パーセントないし15重量パーセントの濃度で存在することを特徴とする請求項17ないし23のうちの1項に記載のコーティング組成物。
【請求項25】
有価書類の偽造防止のための可逆ピエゾクロミックセキュリティ要素を製造する工程であって、
a)基材を供給するステップと、
b)液状または糊状の重合可能前駆体モノマーまたは重合可能前駆体オリゴマーの中に光学的にコントラストのある顔料粒子の集積を備えるコーティング組成物を、前記基材の少なくとも一部に付けるステップと、
c)前記コーティング組成物を弾性ポリマーへと硬化させるステップと
を含む工程。
【請求項26】
前記光学的に変化する薄片顔料が磁性顔料または磁化可能顔料であり、ステップb)が、外部磁場を用いて、付けられたコーティング中で前記薄片顔料を磁気配向させることを含むことを特徴とする請求項25に記載の工程。
【請求項27】
前記磁気配向が、磁化された永久磁性体の彫板を用いて行われることを特徴とする請求項26に記載の工程。
【請求項28】
前記コーティング組成物が、少なくとも部分的に透明なポリマー箔で覆われることを特徴とする請求項25ないし27のうちの1項に記載の工程。
【請求項29】
前記基材が、少なくとも部分的に透明なポリマー箔であることを特徴とする請求項25ないし28のうちの1項に記載の工程。
【請求項30】
保護対象書類または保護対象アイテムの偽造防止のための、請求項1ないし16のうちの1項に記載のセキュリティ要素の使用。
【請求項31】
前記保護対象書類または保護対象アイテムが、有価書類、銀行券、本人確認書類、アクセスカード、銀行カード、および徴税目的に供するラベルからなる群から選ばれる請求項30に記載の使用。
【請求項32】
請求項1ないし16のうちの1項に記載のセキュリティ要素を担持する保護対象書類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−522668(P2012−522668A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504008(P2012−504008)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054597
【国際公開番号】WO2010/115928
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(311003204)シクパ ホールディング エスアー (21)
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH−1008 Prilly Switzerland
【出願人】(511242605)
【Fターム(参考)】