説明

ピオグリタゾン塩酸塩の製造方法

【課題】少ない反応工程数で安価にピオグリタゾン塩酸塩を製造する。
【解決手段】p−メトキシベンジルハライドに、チアゾリジンジオンを反応させて、5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを合成し、次いで、前記で得られた5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに臭化水素を反応させての脱メチル化を行って、5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを得、さらに、5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジンを反応させて、5−{4−〔2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ〕ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオンを得、次いで塩化水素を反応させることにより、下記式:
【化13】


で表されるピオグリタゾン塩酸塩を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピオグリタゾン塩酸塩の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式:
【化4】

で表されるピオグリタゾン塩酸塩は、優れた血糖低下作用を示し、且つ毒性が低いため、糖尿病治療薬として実用されている。
【0003】
かかるピオグリタゾン塩酸塩は、現在、下記のプロセスにより合成されている(特許文献1)。
【化5】

【0004】
【特許文献1】特公平5−66956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法は、反応工程数が多く、このため、最終的に得られるピオグリタゾン塩酸塩の収率が低く、また製造コストも高いという問題があり、その改良が求められている。
【0006】
従って本発明の目的は、少ない反応工程数で安価にピオグリタゾン塩酸塩を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、p−メトキシベンジルハライドに、チアゾリジンジオンを反応させて、下記式(1);
【化6】

で表される5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを合成し、
次いで、前記で得られた5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに臭化水素を反応させて脱メチル化を行って、下記式(2);
【化7】

で表わされる5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを得、
前記5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジンを反応させて、下記式(3);
【化8】

で表わされる5−{4−〔2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ〕ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオンを得、
次いで塩化水素を反応させることを特徴とするピオグリタゾン塩酸塩の製造方法が提供される。
【0008】
本発明においては、p−メトキシベンジルクロライドとチアゾリジンジオンとの反応に際して、前記塩基化合物を、p−メトキシベンジルクロライドの1.5モル倍以上の量で使用することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、工程数が4であり、従来法に比して工程数が少なく、また用いる反応種の数も従来法よりも少ない。その結果、従来法に比して高い収率で且つ安価にピオグリタゾン塩酸塩を製造することができ、工業的メリットが極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<第1の工程>
本発明の製造方法においては、出発原料として、p−メトキシベンジルハライドと、チアゾリジンジオンとを使用し、両者を塩基性化合物の存在下で反応させることにより、5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを合成する。このチアゾリジンジオン誘導体は、式(1):
【化9】

で表される化合物である。式(1)から明らかなように、この反応により、チアゾリジンジオンの5位に、脱塩化水素によってp−メトキシベンジル基が導入される。
【0011】
上記の反応において、p−メトキシベンジルハライドは、容易に入手できるという点から、p−メトキシベンジルクロライドまたはp−メトキシベンジルブロマイドを使用することが好ましい。これらp−メトキシベンジルハライドとチアゾリジンジオンとは化学量論量で使用されるが、脱ハロゲン化水素に基づく付加反応を誘導する塩基性化合物は、p−メトキシベンジルハライドに対して1.5モル倍以上、特に1.5乃至10.0モル倍の量で使用することが反応を迅速に進行させ、且つ収率を高める上で好適である。
【0012】
また、上記の塩基性化合物としては、脱ハロゲン化水素を誘導するものであれば、特に制限されないが、一般的には、有機アルカリ金属の塩基性化合物、例えば、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、アルカリアルコラート、具体的には、ナトリウムまたはカリウムのメチラート、エチラート、またはt−ブチラート、水素化アルカリ金属、具体的には、水素化ナトリウム、水素化カリウム等から選ばれる少なくとも1種類を使用することが、反応の選択性や副生物の制御という観点から好ましい。
【0013】
上記の反応は、有機溶媒中で行われる。かかる有機溶媒としては、乾燥処理をして水分を除去した有機溶媒を使用することが好ましく、具体的には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が好適に使用される。これらは単独で使用してもよく、混合して使用することもできる。この有機溶媒の量は、特に制限されるものではないが、反応を容易に進めることができ、かつ反応物の精製等を考慮すれば、チアゾリジンジオン1質量部に対して、有機溶媒0.01〜80質量部を使用することが好ましい。また、反応温度は反応系にもよるが通常−78℃乃至100℃の範囲から適宜選択してやればよい。さらに、反応時間は、通常、0.1乃至100時間程度である。
【0014】
反応終了後は、適宜水洗または酸洗浄して、過剰の塩基性化合物や副生した塩基性化合物の塩酸塩を除去し、さらに減圧濃縮による溶媒除去、カラムクロマトグラフィー、再結晶などによる精製によって残存する未反応の原料化合物、副生成物等を除去し、5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを得ることができる。
【0015】
<第2の工程>
本発明においては、上記工程で得られた5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに臭化水素を反応させ、これにより、メトキシ基の脱メチル化が行われ、5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンが得られる。この化合物は、下記式(2);
【化10】

で表わされる。
【0016】
かかる反応は、通常、臭化水素水溶液の単独溶液、または酢酸を混合した臭化水素酢酸溶液中で行われる。これら溶液の使用量は、含まれる臭化水素が5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンよりも過剰となる量を使用することが好ましく、臭化水素が5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンの1モルを超え5モル倍となる量を使用することが好ましい。また反応は、80乃至120℃程度、特に還流条件下に加熱して行うことが好ましい。この反応時間は、0.1乃至100時間程度である。
【0017】
反応終了後、アルカリを用いて中和した後、目的物を抽出し、適宜水洗して、過剰の臭化水素を除去し、さらに減圧濃縮による溶媒除去、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどによる精製によって副生した副生成物、未反応の5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを除去し、5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンが得られる。
【0018】
<第3の工程>
次いで、上記で得られた5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジンを反応させることにより、5−{4−〔2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ〕ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオンを合成する。この化合物は、下記式(3);
【化11】

で表わされる。
【0019】
上記の式(3)から理解されるように、この反応は脱塩化水素反応であり、第2の工程で得られたチアゾリジンジオン誘導体の水酸基部分に、脱塩化水素によって5−エチル−2−エチルピリジニル基が導入されるものである。
【0020】
従って、かかる反応も塩基性化合物の存在下で行うことが好ましく、塩基性化合物としては、前述した第1の工程で用いた有機アルカリ金属の塩基性化合物、例えば、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、アルカリアルコラート、具体的には、ナトリウムまたはカリウムのメチラート、エチラート、またはt−ブチラート、水素化アルカリ金属、具体的には、水素化ナトリウム、水素化カリウム等に加え、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の無機金属類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクテン等のものを使用することができる。中でも、アミン系化合物が好適であり、5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジンの1モル倍以上5モル倍以下の量で使用することが好適である。また、チアゾリジンジオン誘導体と5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジンとは化学量論量で使用されることが多いが、反応系によってはどちらか一方を過剰に使用することもできる。
【0021】
この反応は、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の単独有機溶媒、またはこれらを混合した有機溶媒中で行われる。有機溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、反応を容易に進行させ、かつ反応物の精製等を考慮すると、5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン1質量部に対して、上記有機溶媒0.01〜80質量部を使用することが好ましい。また反応温度は反応系にもよるが、通常−78℃乃至還流温度で行なうことが好ましい。この反応時間は、通常、0.1乃至100時間程度である。
【0022】
<第4の工程>
本発明においては、上記の第3の工程による反応終了後、必要に応じて水洗、アルカリ洗、酸洗、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製を組み合わせて行い、用いた塩基性化合物や副生する塩、副生成物等を除去した後、該溶液中に含まれる5−{4−〔2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ〕ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオンに塩化水素を反応させ、これにより、該チアゾリジンジオン誘導体の塩酸塩であるピオグリタゾン塩酸塩を得ることができる。かかるピオグリタゾン塩酸塩は、先にも述べたように、下記式:
【化12】

で表される。
【0023】
上記反応は、第3の工程で得られたチアゾリジンジオン誘導体を含む溶液に、チアゾリジンジオン誘導体の1モル以上5モル倍以下の塩化水素を含む水溶液、または該量の塩化水素を含む有機溶媒溶液を添加混合することにより行われる。また反応は、−100〜100℃で実施することが好ましい。反応時間は、0.1乃至100時間程度でよく、反応終了後、濃縮等を行い析出した結晶をろ過して水洗または有機溶媒等を用いて洗浄して余剰のHClを除去し、次いで減圧濃縮等により溶媒を除去し、必要に応じて再結晶やカラムクロマトグラフィー等により精製することにより、目的とするピオグリタゾン塩酸塩が得られる。
【0024】
かかる方法によれば、少ない工程数で、しかも反応種の種類も少なくしてピオグリタゾン塩酸塩を得ることができるため、生産性が高く、生産コストも安価であり、しかも収率も高い。従って、糖尿病治療薬として有効なピオグリタゾン塩酸塩を安価に市場に供給することができる。
【実施例】
【0025】
本発明を次の実験例で説明する。
【0026】
<実施例1>
(1)5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンの合成;
チアゾリジンジオン 35.1gにドライTHF(テトラヒドロフラン) 300mlを加え窒素雰囲気下−60℃に冷却した。次いで1.6mol/Lのn−ブチルリシウムへキサン溶液 188mlを加え30分攪拌した。さらに1.6mol/Lのn−ブチルリシウムへキサン溶液 188mlを加え10℃で30分攪拌後、p−メトキシベンジルクロライド 47gを加え、一昼夜室温にて攪拌した。反応終了後、15%食塩水300mlを加えさらに酢酸エチル300mlで2回水層を洗浄した。次に10mol/L塩酸 60mlで中和し、酢酸エチル300mlで目的物を抽出した。さらに酢酸エチルを留去し、目的物である5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン 64.1gを褐色油状物として得た。(収率90.0%)
【0027】
(2)5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンの合成;
上記の工程(1)で得られえた5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン 30gに48%臭化水素水溶液 106gを加え100℃で5時間還流した。反応終了後、反応液を5℃まで冷却し、10%水酸化ナトリウム水溶液 253gを加え中和し、酢酸エチル300mlで抽出した。さらに酢酸エチルを留去し、目的物である5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン27.8gを油状物として得た。(収率99.0%)
【0028】
(3)5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオン(ピオグリタゾン)の合成;
上記の工程(2)で得られた5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン 20gを酢酸エチル 100mlに懸濁させ5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジン 18.2gを加える。次にソディウムメチラート(ナトリウムメチラート) 24.2gを加え5時間還流する。反応終了後5℃まで冷却し、10mol/L塩酸 44.8mlを加え析出した結晶を固液分離し、さらに酢酸エチル30mL、水30mLで洗浄後、減圧乾燥し、目的物である5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオン(ピオグリタゾン)17.0gを得た。(収率85.0%)
【0029】
(4)ピオグリタゾン塩酸塩の合成
上記の工程(3)で得られたピオグリタゾン 10gを25℃でメタノール 60mlに分散後、2mol/L塩化水素メタノール溶液 21mlを加え、25℃でさらに2時間攪拌し溶解させる。その後、メタノール29mlを加え、さらに減圧濃縮により結晶が析出するまで濃縮し、5℃で2時間攪拌後、ろ別する。さらに、冷メタノール 15mlで洗浄後、真空乾燥し、ピオグリタゾン塩酸塩8.8gを得た(収率 80.0%)。
【0030】
上記の実施例1に示したとおり、出発物質p−メトキシベンジルクロライドよりピオグリタゾン塩酸塩を取得するまでに上記4段階の主要反応を経由した。各工程での収率をまとめると以下の通りである。
工程(1):90.0%
工程(2):99.0%
工程(3):85.0%
工程(4):80.0%
従って、出発物質p−メトキシベンジルクロライドよりピオグリタゾン塩酸塩を取得した際のトータル収率は、60.6%であった。
【0031】
<比較例1>
(a)4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ニトロベンゼンの合成;
2−(5−エチル−2−ピリジル)エタノール 53.0g及び4−フルオロニトロベンゼン 47.0gをN,N−ジメチルホルムアミド 500mlに溶解させ攪拌下10℃以下に冷却し、60%油性水素化ナトリウム 16.0gを少量ずつ添加した。添加後、10℃以下で1時間、さらに25℃で1時間攪拌した。その後、水 300mlを加えさらにジエチルエーテル 300mlで2回抽出し、ジエチルエーテル層を合わせて濃縮し結晶を得た。さらに、ジエチルエーテル 50ml、ヘキサン 50ml混合液から再結晶を行い、4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ニトロベンゼン 31gを得た(収率 31.5%)。
【0032】
(b)4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]アミノベンゼンの合成;
上記(a)で得られた4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ニトロベンゼン 30gに、メタノール 250mlを加え、さらに10%Pd−C(50%wet) 3.0gを添加し、水素雰囲気下、25℃で10時間攪拌した。反応終了後、10%Pd−Cをろ別し、ろ液を濃縮し、4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]アミノベンゼン 26.7gを得た(収率 100%)。
【0033】
(c)2−ブロモ−3−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}プロピオン酸メチルの合成;
上記(b)で得られた4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]アミノベンゼン 26.7gに、アセトン 250ml及びメタノール 100mlを加え47%HBr水溶液 76gを加え攪拌した。次いで、10℃以下に冷却下、亜硝酸ナトリウム 8.7gを水 15mlに溶解させた水溶液を滴下し、30分間10℃以下で熟成した。その後、アクリル酸メチル 56gを加え40℃に加熱後、酸化第一銅 1.0gを少量ずつ加え、窒素の発生が終了するまで攪拌を続けた。反応終了後、反応液を濃縮し、30%アンモニア水 100mlを加えアルカリ性とし、酢酸エチル 100mlで2回抽出し、酢酸エチル層をあわせて、硫酸マグネシウム 50gで乾燥後、酢酸エチルを留去し、油状の2−ブロモ−3−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}プロピオン酸メチル 25gを得た(収率 57.9%)。この操作を繰り返し、2−ブロモ−3−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}プロピオン酸メチル 50gを得た。
【0034】
(d)5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}−2−イミノ−4−チアゾリジノンの合成;
上記(c)で得られた2−ブロモ−3−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}プロピオン酸メチル 36.5gに、エタノール 250mlを加え、さらにチオ尿素 7.1g、酢酸ナトリウム 7.7gを加え還流下、3時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、残留物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 200mlを加え中和し、さらに水 100ml、ジエチルエーテル 100mlを加え晶析した。得られた結晶をメタノール100mlより再結晶し、5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}−2−イミノ−4−チアゾリジノン 15.0gを得た(収率 45.4%)。この操作を繰り返し、5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}−2−イミノ−4−チアゾリジノン 30.0gを得た。
【0035】
(e)5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオン(ピオグリタゾン)の合成;
上記(d)で得られた5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]フェニル}−2−イミノ−4−チアゾリジノン 23.5gを2N−塩酸 200mlに溶かし6時間還流した。反応終了後、溶媒を留去し、残留物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 1000mlを加え中和し、析出した結晶をろ別し、さらにN,N−ジメチルホルムアミド 20ml、水 80mlを加え再結晶を行い、5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオン 10gを得た(収率 42.4%)。5−{4−[2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ]ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオンは一般名としてピオグリタゾンと呼称される。
【0036】
(f)ピオグリタゾン塩酸塩の合成;
上記(f)で得られたピオグリタゾン 5gを25℃でメタノール 30mlに分散後、メタノール 13mlと35wt%塩酸 1.47gの混合物を加え、25℃でさらに2時間攪拌し溶解させた。その後、減圧濃縮により全量が20mlとなるまで濃縮し、酢酸エチル 30mlを加えさらに濃縮し結晶を析出させた。その後、5℃に冷却し、ろ別後、酢酸エチル10mlで洗浄し真空乾燥後、ピオグリタゾン塩酸塩4gを得た(収率 72.2%)。
【0037】
上記のとおり、出発物質2−(5−エチル−2−ピリジル)エタノールよりピオグリタゾン塩酸塩を取得するまで(a)〜(f)の6段階の主要反応を経由した。各工程での収率をまとめると、以下の通りである。
工程(a):31.5%
工程(b):100%
工程(c):57.9%
工程(d):45.4%
工程(e):42.4%
工程(f):72.2%
従って、出発物質2−(5−エチル−2−ピリジル)エタノールよりピオグリタゾン塩酸塩を取得した際のトータル収率は、25.3%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−メトキシベンジルハライドに、塩基化合物の存在下でチアゾリジンジオンを反応させて、下記式(1);
【化1】

で表される5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを合成し、
次いで、前記で得られた5−(4−メトキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに臭化水素を反応させて脱メチル化を行って、下記式(2);
【化2】

で表わされる5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンを得、
前記5−(4−ヒドロキシベンジル)−2,4−チアゾリジンジオンに5−エチル−2−(2−クロロエチル)ピリジンを反応させて、下記式(3);
【化3】

で表わされる5−{4−〔2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ〕ベンジル}−2,4−チアゾリジンジオンを得、
次いで塩化水素を反応させることを特徴とするピオグリタゾン塩酸塩の製造方法。
【請求項2】
p−メトキシベンジルハライドとチアゾリジンジオンとの反応に際して、前記塩基化合物を、p−メトキシベンジルクロライドの1.5モル倍以上の量で使用する請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−13091(P2009−13091A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174935(P2007−174935)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】