説明

ピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置

【課題】実機で使用される状態に極めて近似した状態でピストンリング、ピストンリング溝の評価を行うことができるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置の提供。
【解決手段】偏心回転部12は運動変換部を介してピストン相当部40に接続されている。ピストン相当部40の外周面にはピストンリング溝40c〜40eが形成され、ピストンリング2A〜2Cが一本ずつ装着されている。ピストン相当部40の外周面に対向する位置にはシリンダ相当部50が設けられ、シリンダ相当部50の内周面は、ピストンリング溝40c〜40eに装着されたピストンリング2A〜2Cの外周摺動面に摺動する。偏心回転部12が偏心回転することにより、ピストン相当部40のピストンスラップ運動とピストン相当部40の軸方向の往復運動が同時に実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるピストンのピストンリング溝に装着されるピストンリングについて、実際にエンジンに組み込まれ使用される状態に近い状態で摩耗の評価をするためのピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用のピストンのピストンリング溝にピストンリングが装着された状態では、エンジンの高速化、高出力化に伴い、ピストンリングが高温に曝されるとともに、ピストンリング溝の上下面がピストンリングにより叩かれる。このことによりピストンリング溝には、リング溝摩耗やピストンリングの下面に付着するアルミ凝着等が発生する。このようなピストンリング及びピストンリング溝の摩耗、アルミ凝着を評価する試験機としては、特開平10−246149号公報(特許公報1)、特開平6−109135号公報(特許公報2)に記載されているものが一般的であった。
【0003】
特開平10−246149号公報記載の装置では、ピストンリングのテストピースを、ピストンからの切り出し材を相手材として所定の荷重を付加しながら摺動させ、試験温度を加熱ヒーターにより所定の温度として所定の条件で単体凝着摩耗試験を行うものであり、摺動面の凝着発生までの時間を測定して評価を行う。
【0004】
特開平6−109135号公報記載の装置では、ピストンリングをピストン材に対して一定時間反復して叩き付け、その後のピストンリングとピストン材の表面状態を評価するものである。ピストンリングが叩きつけられるステータは、回転可能なターンテーブルに担持されており、ピストンリングを保持するホルダはエアシリンダの動作によってピストンリングの軸方向に移動可能である。評価は試験後に叩かれ面を観察することにより行う。
【特許文献1】特開平10−246149号公報
【特許文献2】特開平6−109135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特開平10−246149号公報記載の装置では、摺動摩耗を評価するものであり、ピストンリングは常にピストン材に押し付けられているため、当該試験装置による摺動状況は実機における摺動状況、即ち実際のエンジン内での摺動状況とは異なる。
【0006】
また、特開平6−109135号公報記載の装置では、叩き摩耗を評価するものであり、前述のようにピストンリングが上下に移動することによる叩きを再現している。しかし、ピストンリング下側面のみの評価であるため、実際のエンジン内での摺動状況であるピストンリング及びピストンリング溝の上側・下側面の凝着摩耗、叩き摩耗を再現することはできなかった。
【0007】
このように実際のエンジン内での摺動状況に近似させた状況下での評価を行うことができなかったため、実機に使用される実際の製品としてのピストンリング、ピストンリング溝摩耗、及びアルミ凝着の評価・解析を行うことは困難であった。そこで、本発明は、実際にエンジンに組み込まれ使用される状態に極めて近似した状態でピストンリング、ピストンリング溝の評価を行うことができるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、駆動源と、該駆動源に接続され軸心方向に移動不能であり、該駆動源により該軸心に対して偏心回転する偏心回転部を備えた駆動部と、該偏心回転部と相対回転関係にありかつ該駆動部に対して該軸心方向に往復動作可能な支持部と、該支持部と該駆動部との間に設けられ、該偏心回転部の偏心回転を該軸心方向における該支持部の往復運動に変換する運動変換部と、該支持部に固定され外周面に試験対象であるピストンリング溝が形成されたピストン相当部と、移動不能に配置されるとともに、該ピストンリング溝に装着された試験対象であるピストンリングの外周面が摺動するシリンダ相当部とを備えているピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置を提供している。
【0009】
ここで、該ピストン相当部には少なくとも3本のピストンリング溝が形成されてそれぞれピストンリングを装着し、該シリンダ相当部には、該シリンダ相当部の内周面と、該ピストン相当部の外周面と、該ピストン相当部の該ピストンリング溝に装着されたピストンリングとで画成される環状の空隙にガス圧を導入するための貫通孔が形成されていることが好ましい。
【0010】
また、該ピストンリングはオイルリングであり、該シリンダ相当部には、燃焼生成物を含むオイルを該オイルリングに供給可能な貫通孔が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1記載のピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置によれば、偏心回転部の偏心回転により支持部がピストン相当部の半径方向に移動可能であるため、支持部に支持されたピストン相当部のシリンダ相当部に対するピストンスラップ(シリンダ中をピストンが上下運動する際にピストンが首振り的運動する)運動が再現できる。またそれと同時に、偏心回転部の偏心回転により、運動変換部を介して支持部が駆動部の軸方向に往復動作するので、支持部に支持されたピストン相当部も同様に往復動作する。そのためピストン相当部のピストンスラップ運動とピストン相当部の軸方向の往復運動が同時に実現でき、実際のエンジン内での摺動環境に近似させることが可能となる。従って、ピストンリングの摩耗や、ピストンリング溝上下面の摩耗を実機に近い状況で把握することができる。しかも駆動源は、例えば電動モータを用いることで、実際のエンジンによる場合と比較してきわめて低コストで摩耗試験を行うことができる。
【0012】
加えて、ピストン相当部のピストンリング溝は、実際のエンジン製造のためのピストンリング溝加工装置をそのまま利用して形成することができ、容易に且つ正確にピストンリング溝が形成できる。更に、ピストンリングがキーストンリング等のように、ピストンリング軸方向端面が互いに平行でないピストンリングを収容するためのピストンリング溝も、実際のリング溝加工装置によって、容易に形成できるので、上下面が多様に傾斜しているピストンリング溝を形成してピストンリング溝の摩耗試験を行うこともでき、最適のピストンリング溝形状を提供することができる。
【0013】
請求項2記載のピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置によれば、シリンダ相当部に形成された貫通孔を通じて筒状の隙間にガス圧を導入することができるので、ピストン相当部の上下運動に際して、ピストンリングの軸方向端面(上下面)を確実にピストンリング溝の下面又は上面に当接することができ、エンジンに組み込まれ使用される状態のピストンリングの挙動によりいっそう近似させることができる。
【0014】
請求項3記載のピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置によれば、シリンダ相当部に形成された貫通孔を通じて燃焼生成物や不溶解分を含むオイルをオイルリングに供給可能であるので、請求項1の効果である実際のエンジンにおけるピストンの挙動に近似させた状態を実現させた状態で、スラッジの固着状況及びスティックの発生状態を調べることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態によるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置について図1乃至図2に基づき説明する。図1に示されるように、摩耗試験装置1は、駆動軸10と、ハウジング60と、図示せぬモータとを有している。なお図1では、説明の便宜上摩耗試験装置1の左半分のみを図示している。
【0016】
駆動軸10は、図2においてAで示されるように、一端寄りの部分と他端寄りの部分とでは軸心位置が0.15mm〜0.2mm程ずれている。このずれは、実際のエンジンにおけるピストンランド上部のピストンスラップによる移動量に略等しい。駆動軸10の図2の下方の部分に相当する一端寄りの部分を軸心一致回転部11とし、他端寄りの部分に相当する上方の部分を偏心回転部12とする。なお図2では、軸心位置のずれが分かりやすいように、軸心位置のずれを強調して図示している。従って、図1に示される駆動軸10には、軸心位置のずれが現れていない。
【0017】
図1に示す駆動軸10の一端部、即ち、軸心一致回転部11の下端部には、ベルトプーリー13が設けられている。ベルトプーリー13は駆動軸10の軸心一致回転部11と同軸的に設けられており、図示せぬベルトの一端が掛けられている。図示せぬベルトの他端は、図示せぬモータの出力軸に掛けられており、図示せぬモータが駆動することにより、ベルトプーリー13が駆動軸10の軸心一致回転部11と一体で、軸心一致回転部11の軸心位置を中心として回転するように構成されている。図示せぬモータは1馬力程度の小型のものであり、省電力により回転駆動する。図示せぬモータは駆動源に相当する。
【0018】
駆動軸10の軸心一致回転部11は、図1に示されるように、ベアリング14、15を介してハウジング60によって、軸心一致回転部11の軸心位置を中心として回転可能に支承されている。ベアリング14の上部には、軸心一致回転部11の半径方向へ突出する突出部11Aが設けられており、突出部11Aの下端がベアリング14の上端に当接し、ベアリング15の下端には、ナット8を設け、ベアリング15とナット8との間にワッシャー9を介在させている。
【0019】
図1に示される駆動軸10の偏心回転部12の下端には、偏心回転部12の半径方向へ突出するフランジ部12Aが設けられている。フランジ部12Aの上端には、偏心回転部12の軸心から離れるにつれて偏心回転部12の軸方向であって図1の下方へ傾斜するテーパー面たるカム面16Aを有するカム16が、フランジ部12Aの上端面全面にわたって設けられている。偏心回転部12の軸方向におけるカム面16Aの高低差は2.5〜5.0mm程度である。
【0020】
カム16が設けられている位置よりも駆動軸10の偏心回転部12の上端寄りの位置には、偏心回転部12を環装するようにしてリニアボールベアリング17が設けられている。リニアボールベアリング17は、カラー17Aと複数のボール17Bとを有しており、図1に示されるように、複数のボール17Bは、駆動軸10の偏心回転部12の軸方向へ並べられた状態でカラー17A内に収容されている。リニアボールベアリング17は、駆動軸10の偏心回転部12に対して偏心回転部12の軸方向へ摺動可能且つ、偏心回転部12に対して相対的に回転可能に構成されている。
【0021】
駆動軸10の偏心回転部12の図1に示される上端には、図1の下方へ窪んだ凹部をなし雌ネジが螺刻されたネジ穴12aが形成されている。ネジ穴12aには、ボルト18が螺合している。ボルト18と、駆動軸10の偏心回転部12の上端との間には、当該上端から偏心回転部12の半径方向へ突出するフランジ状の環状部材19が設けられており、ボルト18と偏心回転部12の上端とによって環状部材19が挟まれることにより、駆動軸10の軸方向へ移動不能となっている。駆動源に相当する図示せぬモータに接続され、軸心方向に移動不能であり、駆動源により駆動軸10の軸心一致回転部11に対して偏心回転する偏心回転部12を備えた駆動軸10の構成は駆動部に相当する。
【0022】
駆動軸10の偏心回転部12のフランジ部12Aよりも図1に示される上方の部分は、支持部30により覆われている。支持部30は、駆動力伝達部31と、ピストン相当部支持部32とを有しており、駆動力伝達部31は、図1に示されるように、リニアボールベアリング17を介して駆動軸10の偏心回転部12の下部を環装している。駆動力伝達部31の上端はフランジ状部31Aをなして偏心回転部32の回転軸の半径方向に突出している。また、偏心回転部12のフランジ部12Aに対向する駆動力伝達部31の部分はフランジ部12Aに倣ってフランジ部31Bをなし、当該フランジ部31Bよりも下の部分は、フランジ部31Bよりも上の部分よりも拡径した拡径筒状部となっている。
【0023】
駆動力伝達部31のフランジ部31Bの下面には、環状をなすラジアル玉軸受33とラジアル玉軸受33の内周に丸棒のシャフト35とが設けられている。ラジアル玉軸受33は駆動軸10の偏心回転部12に垂直方向に配置されている。シャフト35は2つのラジアル玉軸受33に挟まれるようにしてラジアル玉軸受33と同軸的に配置されている。
【0024】
ラジアル玉軸受33は、一般的には、同軸的に配置される環状の外輪33A、内輪33Bと、外輪33A、内輪33Bに配置された環状の図示せぬ保持器及び図示せぬ保持器に回転可能に保持された複数のボール33Cとから構成されている。ラジアル玉軸受33の外輪33Aはカム16及び偏心回転部12と一体で偏心運動するが、このときラジアル玉軸受33の外輪33Aがカム16のカム面16Aに乗り上がり、カム面16A上において転がることができるように構成されている。
【0025】
従って、駆動軸10の軸心一致回転部11が回転することにより、駆動軸10の偏心回転部12が偏心回転し、このことにより、図1の下方に配置されたラジアル玉軸受33の外輪33Aが偏心回転部12の半径方向において偏心回転部12に接近した位置関係になったときに、カム16によって当該外輪33Aが偏心回転部12の軸方向であって図1の上方へ押上げられ、ラジアル玉軸受33、駆動力伝達部31、ピストン相当部支持部32、及びピストン相当部40を一体で偏心回転部12の軸方向であって図1の上方へ押上げるように構成されている。
【0026】
また、ラジアル玉軸受33の外輪33Aが偏心回転部12の半径方向において偏心回転部12から離間した位置関係になったときに、カム16によって当該外輪33Aが偏心回転部12の軸方向であって図1の下方へ下がり、ラジアル玉軸受33と、駆動力伝達部31、ピストン相当部支持部32、及びピストン相当部40とが一体で偏心回転部12の軸方向であって図1の下方へ下がるように構成されている。これを繰り返すことにより、外輪33Aと駆動力伝達部31、ピストン相当部支持部32、及びピストン相当部40とが一体で偏心回転部12の軸方向へ往復運動する。カム16とラジアル玉軸受33とシャフト35とは運動変換部を構成する。
【0027】
また、駆動力伝達部31の上端にはスプリング20が設けられている。スプリング20は、その下端が駆動力伝達部31の上端に当接しており、上端が環状部材19の下端に当接しており、常時駆動力伝達部31を駆動軸10の軸方向であって図1の下方へ付勢している。このことによりカム16から、図1の下方に配置されたラジアル玉軸受33の外輪33Aの外周面全てが同時に離間してしまうことを防止することができる。
【0028】
偏心回転部12に対向する駆動力伝達部31の上端の内周面と偏心回転部12との間にはオイルシール21が設けられている。また、偏心回転部12に対向する駆動力伝達部31の下端の内周面と偏心回転部12のフランジ部12Aとの間にはオイルシール22が設けられている。リニアボールベアリング17を取囲む空間、即ち、これらのオイルシール21、22と駆動力伝達部31と駆動軸10の偏心回転部12とによって囲まれる空間には、図示せぬオイル供給機構によりオイルを供給可能であり、供給されたオイルはオイルシール21、22によってこの空間外に漏れることが防止されている。
【0029】
ピストン相当部40の外周面にはピストンリング溝40c〜40eが形成されている。ピストンリング溝40c〜40eは、ピストン相当部40の軸方向へ所定の間隔を隔てて3つ形成されており、各ピストンリング溝40c〜40eにそれぞれ1つずつ試験対象であるピストンリング2A〜2Cを一本ずつ装着可能である。
【0030】
ピストン相当部40の外周面に対向する位置にはシリンダ相当部50が設けられている。シリンダ相当部50は、鋳鉄材からなり略筒状をなしており、ピストン相当部40と略同軸的に配置されている。シリンダ相当部50の内周面は、ピストン相当部40の外周面に対向し、ピストン相当部40のピストンリング溝40c〜40eに装着されたピストンリング2A〜2Cの外周摺動面に摺動するように構成されている。シリンダ相当部50の下端は図示せぬボルトによってハウジング60に固定されており、ハウジング60に対して移動不能である。
【0031】
このピストン相当部40に駆動軸10の軸心回転部12の偏心回転とカム16によって偏心回転部12の軸方向の往復運動を伝える為に、ピストン相当部40と支持部30との間に、ピストン相当部支持部32が設けられている。ピストン相当部支持部32は、駆動力伝達部31よりも図1の上方に設けられており、駆動軸10の偏心回転部12の上端部を環装している。駆動力伝達部31の上端は、ピストン相当部支持部32の下端に図示せぬボルトで連結されており、駆動力伝達部31とピストン相当部支持部32とは一体で駆動軸10の偏心回転部12の軸方向へ移動可能である。
【0032】
ピストン相当部支持部32の上端近傍部分には、駆動軸10の半径方向へ延出するフランジ状の支持凸部32Aが設けられている。支持凸部32Aには、一端が有底の略円筒形状をなすピストン相当部40の他端が載置され、図示せぬボルトによって支持凸部32Aとピストン相当部40の他端とが固定されている。ピストン相当部40の材質は、特に限定されないがアルミニウム合金やスチール材からなり、ピストン相当部支持部32及び駆動力伝達部31と同軸的に配置されている。ピストン相当部40の一端を閉塞する底壁40Aの中心位置には貫通孔40aが形成され、雄ネジが螺刻されたボルト41が貫通している。
【0033】
より詳細には、貫通孔40aには貫通孔40a内に嵌合する嵌合部材42が設けられており、嵌合部材42の上端はピストン相当部40の底壁40Aの上面よりも上方へ突出し、貫通孔40aよりも径の大きなフランジ部を有している。嵌合部材42の下端は底壁40Aの下面よりも下方へ突出している。貫通孔40aの軸心位置に相当する嵌合部材42の中央位置には、貫通孔40aの軸心方向へ延出し内周面に雌ネジが螺刻された貫通孔42aが形成されており、ボルト41が雌ネジに螺合している。ボルト41の頭は嵌合部材42の上面に当接している。ボルト41の下端部は、嵌合部材42の下端よりも更に下方へ突出している。ボルト41の下端部には円盤状押さえ板43が設けられている。円盤状押さえ板43は、中心位置に内周面に雌ネジが螺刻された貫通孔43aが形成されており、貫通孔43aには、当該ボルト41の下端部が螺合し、円盤状押さえ板43はボルト41に対してフランジ状をなしている。
【0034】
円盤状押さえ板43とピストン相当部40の底壁40Aの下面との間には、ヒーター44が設けられている。ヒーター44は、円盤状押さえ板の上面とピストン相当部40の底壁40Aの下面とによって挟持されており、ピストン相当部40を実際のエンジンにおけるピストンと同様の高温とすることができるように構成されている。
【0035】
シリンダ相当部50には、貫通孔50aが形成されており、貫通孔50aには、図示せぬガス供給装置とオイル供給装置とが設けられている。シリンダ相当部50の内周面における貫通孔50aの開口部は、3つのピストンリング2A〜2Cのうちの上から2番目のリング2Bが後述のように駆動軸10の軸方向へ往復摺動して軸方向下方へ移動したときに当該2番目のリング2Bよりも上方へ相対的に位置することが可能な位置であり、且つ上から2番目のリング2Bが駆動軸10の軸方向へ往復摺動して軸方向上方へ移動したときに当該2番目のリング2Bよりも下方へ相対的に位置することが可能な位置である。
【0036】
このような位置とすることで、2番目のリング2Bよりも貫通孔50aが上方へ相対的に位置したときに、当該2番目のリング2Bの下面をピストンリング溝40dの下面に確実に当接させ、且つ1番上のリング2Aの上面をピストンリング溝40cの上面に確実に当接させることができる。また、2番目のリング2Bよりも貫通孔50aが下方へ相対的に位置したときに、当該2番目のリング2Bの上面をピストンリング溝40dの上面に確実に当接させ、且つ1番下のリング2Cの下面をピストンリング溝40eの下面に確実に当接させることができる。このように周期的にガス圧が作用する方向を替えることにより、実際のエンジンにおいてガス圧や慣性力が作用している環境に極めて近似した環境にピストンリング2A〜2Cを曝すことができる。
【0037】
ピストンリング2A〜2Cの評価を行う際には、先ず、ピストン相当部40を製造する。ピストン相当部40は、実際にエンジンに組み込まれるピストンと同一の材料で製造し、ピストンリング溝を形成するための図示せぬピストンリング溝加工装置によって、実際のエンジンで使用されるピストンに形成されるピストンリング溝と同一の形状、同一の本数のピストンリング溝40c〜40eを形成する。本実施の形態では、上述のように3本のピストンリング溝40c〜40eが形成される。また、シリンダ相当部50を製造する。シリンダ相当部50は実際にエンジンに組み込まれるシリンダと同一の材料で製造される。
【0038】
次に、ピストン相当部40のピストンリング溝40c〜40eに評価対象となるピストンリング2A〜2Cを装着し、ピストン相当部40をピストン相当部支持部32に固定するとともに、シリンダ相当部50をハウジング60に固定する。
【0039】
次に、図示せぬモータを駆動させ、駆動軸10の軸心一致回転部11を回転させることにより偏心回転部12を偏心回転させる。偏心回転部12が偏心回転し始め、ラジアル玉軸受33の外輪33Aが偏心回転部12の半径方向において偏心回転部12に接近した位置関係となると、このことにより、カム16によって当該外輪33Aが偏心回転部12の軸方向であって図1の上方へ押上げられ、ラジアル玉軸受33が駆動力伝達部31、ピストン相当部支持部32、及びピストン相当部40を一体で偏心回転部12の軸方向であって図1の上方へ押上げる。
【0040】
このとき、シリンダ相当部50の貫通孔50aからガスが供給され、シリンダ相当部50の内周面と、ピストン相当部40の外周面と、ピストン相当部40のピストンリング溝40d、40eに装着されたピストンリング2B、2Cとで画成される環状の空隙にガスが供給される。このことにより、図1の上から2番目のピストンリング2Bはガスによって上方へ押上げられ、上から2番目のピストンリング2Bの上面は上から2番目のピストンリング溝40dの上面に叩き付けられる。また、図1の一番下のピストンリング2Cはガスによって下方へ押上げられ、一番下のピストンリング2Cの下面は一番下のピストンリング溝40eの下面に叩き付けられる。
【0041】
更に偏心回転部12が回転し続け、ラジアル玉軸受33の外輪33Aが偏心回転部12の半径方向において偏心回転部12から離間した位置関係となると、カム16によって当該外輪33Aが偏心回転部12の軸方向であって図1の下方へ下がり、ラジアル玉軸受33と駆動力伝達部31、ピストン相当部支持部32、及びピストン相当部40とが一体で偏心回転部12の軸方向であって図1の下方へ下がる。
【0042】
このとき、シリンダ相当部50の貫通孔50aから供給されるガスによって、図1の上から2番目のピストンリング2Bはガスによって下方へ押上げられ、上から2番目のピストンリング2Bの下面は上から2番目のピストンリング溝40dの下面に叩き付けられる。また、図1の一番上のピストンリング2Aはガスによって上方へ押上げられ、一番上のピストンリング2Aの上面は一番上のピストンリング溝40cの上面に叩き付けられる。以上のようにして、実際のエンジンに組み込まれ、ピストンに装着されたピストンリング2A〜2Cの状態、ピストンリング溝40c〜40eの状態と極めて近似した状態で評価を行うことにより、ピストンリング2A〜2Cの上面、下面における凝着摩耗、叩き摩耗を評価でき、また、ピストンリング溝40c〜40eのピストンリング2A〜2Cに対する凝着摩耗、叩き摩耗を評価することができる。
【0043】
上述のように、偏心回転部12の偏心回転により支持部30がピストン相当部40の半径方向に移動可能であるため、支持部30に支持されたピストン相当部40のシリンダ相当部50に対するピストンスラップ運動が再現できる。またそれと同時に、偏心回転部12の偏心回転により、運動変換部を介して支持部30が駆動部の軸方向に往復動作するので、支持部30に支持されたピストン相当部40も同様に往復動作する。そのためピストン相当部40のピストンスラップ運動とピストン相当部40の軸方向の往復運動が同時に実現でき、実際のエンジン内での摺動環境に近似させることが可能となる。従って、ピストンリング2A〜2Cの摩耗や、ピストンリング溝40c〜40e上下面の摩耗を実機に近い状況で把握することができる。しかも駆動源は、上述のように小型の電動モータを用いることで、実際のエンジンによる場合と比較してきわめて低コストで摩耗試験を行うことができる。
【0044】
加えて、ピストン相当部40のピストンリング溝40c〜40eは、上述のように実際のエンジン製造のためのピストンリング溝加工装置をそのまま利用して形成することができ、容易に且つ正確にピストンリング溝40c〜40eを形成できる。更に、リング軸方向端面が互いに平行でないリングを収容するためのリング溝も、実際のリング溝加工装置によって、容易に形成できるので、上下面が多様に傾斜しているリング溝を形成して溝の摩耗試験を行い、最適のリング溝形状を提供することができる。
【0045】
本発明によるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、ピストン相当部40のピストンリング溝40c〜40eの本数やピストンリング溝40c〜40eの形状等は、本実施の形態のものに限定されない。例えば図3に示されるように、ピストン相当部140のピストンリング溝140c、140dを2本として、図3の下方のピストンリング溝140dにオイルリング102Bを嵌合するようにしてもよい。
【0046】
そして、本実施の形態では、シリンダ相当部50の貫通孔50aには、図示せぬガス供給装置とオイル供給装置とが接続されていたが、これに限定されない。例えばこれらに代えて、図3に示されるように、NOガス供給装置145と、実機のオイルパンから摂取したオイル、即ちガソリンが混ざっている燃料入りオイルを供給するための燃料入りオイル供給装置146とを接続し、間欠的にNOガスを燃料入りオイルと共に供給してもよい。
【0047】
以上のような図3に示される構成とすることにより、実際のエンジンにおけるピストンの挙動に近似させた状態を実現させた状態で、オイルリング102Bのスラッジの固着評価にも使用することができ、いわゆるスティック評価やスラッジ固着雰囲気評価を行うことができる。特に、ピストンリング溝140dの形状や寸法等によってスラッジの付着の状況が変わるため、スラッジの付着に関するピストンリング溝140dの評価も行うことができる。
【0048】
この場合には、スラッジ生成を促進させるために、本実施の形態における図1に示すヒーター44を用いる代わりに図示せぬ加熱用ドライヤー等を用いて、図3に示すピストン相当部140の上端面を100℃〜200℃に、より具体的には150℃前後に加熱する。
【0049】
また、本実施の形態では、シリンダ相当部50の内周面における貫通孔50aの開口部は、3つのピストンリング2A〜2Cのうちの上から2番目のリング2Bが、駆動軸10の軸方向へ往復摺動して下方へ移動したときに当該2番目のリング2Bよりも上方へ相対的に位置することが可能な位置であり、且つ上から2番目のリング2Bが、駆動軸10の軸方向へ往復摺動して上方へ移動したときに当該2番目のリング2Bよりも下方へ相対的に位置することが可能な位置であったが、この位置に限定されない。例えば、評価試験によっては、3つのピストンリング2A〜2Cのうちの上から2番目のリング2Bが、駆動軸10の軸方向へ往復摺動しているときに、当該2番目のリング2Bよりも常時上方へ位置していてもよく、また、当該2番目のリング2Bよりも常時下方へ位置していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態によるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置を示す要部断面図。
【図2】本発明の実施の形態によるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置の駆動軸を示す概念図。
【図3】本発明の実施の形態によるピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置の変形例を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0051】
1 摩耗試験装置
2A〜2C ピストンリング
10 駆動軸
12 偏心回転部
16 カム
33 ラジアル玉軸受
40 ピストン相当部
50 シリンダ相当部
50a 貫通孔
40c〜40e ピストンリング溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
該駆動源に接続され軸心方向に移動不能であり、該駆動源により該軸心に対して偏心回転する偏心回転部を備えた駆動部と、
該偏心回転部と相対回転関係にありかつ該駆動部に対して該軸心方向に往復動作可能な支持部と、
該支持部と該駆動部との間に設けられ、該偏心回転部の偏心回転を該軸心方向における該支持部の往復運動に変換する運動変換部と、
該支持部に固定され外周面に試験対象であるピストンリング溝が形成されたピストン相当部と、
移動不能に配置されるとともに、該ピストンリング溝に装着された試験対象であるピストンリングの外周面が摺動するシリンダ相当部とを備えていることを特徴とするピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置。
【請求項2】
該ピストン相当部には少なくとも3本のピストンリング溝が形成されてそれぞれピストンリングを装着し、該シリンダ相当部には、該シリンダ相当部の内周面と、該ピストン相当部の外周面と、該ピストン相当部の該ピストンリング溝に装着されたピストンリングとで画成される環状の空隙にガス圧を導入するための貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載のピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置。
【請求項3】
該ピストンリングはオイルリングであり、該シリンダ相当部には、燃焼生成物を含むオイルを該オイルリングに供給可能な貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載のピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−76132(P2008−76132A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253834(P2006−253834)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)