説明

ピストンリング

【課題】実稼動時においてピストンリング全周の面圧が均一となるようなピストンリングを提供すること。
【解決手段】ピストンリング1は略円形状をなし、外周摺動面2及び内周面3に交わる上面及び下面と略円形状を半径方向に分断する合口部4とを備え、シリンダ中心5と内周面3との距離が最大となる最外点の位置が合口部4の両端の中点から44.6°乃至46.1°である。さらに、ピストンリング1はシリンダ中心5からシリンダ中心5と最外点までの距離(Rmax)を、シリンダ中心5から合口部4の両端の中点とシリンダ中心5とを通る基準軸上であって中点から180°回転させた箇所に位置する対蹠点までの距離(R180)で除した値(Rmax/R180)が1.044乃至1.053であってシリンダ中心5から合口部4の一端までの距離(R合口)を、シリンダ中心5から対蹠点までの距離(R180)で除した値が1.032乃至1.040である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用ピストンリングに関し、特にピストンリングの形状に関する。
【0002】
内燃機関用のピストンリングのリングの形状設定については、従来のアーノルドやプレスコット等の理論に基づいて設計されたリングカーブ等が一般的に用いられる。これらの理論に基づいたリングカーブの設計リングを用いた場合を考えると、実稼動時にシリンダ壁面とピストンとの温度差によってピストンリング内部に温度勾配が発生する。これによって、温度差(実稼動時で50℃乃至60℃)による熱膨張量に差異が生じ、ピストンリングの曲率が小さくなる変形を起こす。さらに、合口部においては高温のブローバイガス吹き抜けによって局所的に加熱される。これにより、合口部端部の面圧が上昇し、ピストンリングの面圧バランスが崩れ、耐摩耗性表面処理皮膜のクラックや過大摩耗、スカッフなどが発生する。また、合口端部から一定距離離れた部位にシリンダボアとは非接触の状態となる当たり不良が生じる。このような現象は、熱負荷の高い吸気冷却器付き高過給ディーゼルエンジンの圧力リングなどに、特に顕著に発生する。
【背景技術】
【0003】
上記のような問題を解決するために、特開2004−278378号公報では、ピストンリングの内周面において、合口部の端部を始点とする所定の周長部分に亘り、切欠部が形成されたピストンリングについて記載している。このピストンリングでは、切欠部の形成により所定周長部分における半径方向の厚さが、所定周長部分以外の部分における半径方向の厚さと比較して小さくなっている。これにより、合口部のシリンダ壁面に対する面圧を低下させることができる。
【0004】
さらに、特開2001−263488号公報では、芯金形状によるカーブ補正を行ってピストンリングのオーバリティー(楕円度)を縮小させることにより、合口部付近の面圧を低下させることができる。特に、合口部は自由端であることから曲率の変化による面圧分布変化代が大きく、その効果はより顕著なものとなる。オーバリティーとは、ピストンリングが閉じた状態において、図1に記載されているピストンリングの合口部を通過する軸の距離Bから、その軸に対して垂直でピストンリングの中心を通る軸の距離Aを引いた値である。
【特許文献1】2004−278378
【特許文献2】2001−263488
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の(特許文献1)ピストンリングのように合口部から所定周長部分に切欠を入れると、加工工数が増え加工コストが増大する。さらに、ブローバイガス吹き抜けによって合口部から所定距離の部位の面圧が低下するいわゆる当たり抜けとなり、燃焼ガスが圧力リングでシールされずクランクケースへ逃げるブローバイが生じ、生ガスの排出による公害などの問題が生じる。また、合口部に切欠部が存在することによって半径方向の厚さが小さくなり、強度が下がる等のリスクを負うこととなる。
【0006】
また、ピストンリングにおけるオーバリティーの設定は確立された理論等は存在せず、経験に頼っている部分が大きいことから、理想的な面圧分布となるオーバリティーの設定は困難となる。
【0007】
そこで本発明は、ピストンリング加工コスト削減と所定の性能維持の観点から切欠部を設けることなく、実稼動時においてピストンリング全周の面圧が均一となるようなピストンリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、略円形状をなし、シリンダに対して摺動する外周摺動面とピストンに対向する内周面と該外周摺動面及び該内周面に交わる上面及び下面と略円形状を半径方向に分断する1つの合口部とを備える内燃機関用ピストンリングであって、該シリンダの中心点であるシリンダ中心から該シリンダ中心と該内周面との距離が最大となる最外点までの距離(Rmax)を、該シリンダ中心から該合口部の両端の中点と該シリンダ中心とを通る基準軸上であって該中点から180°回転させた箇所に位置する対蹠点までの距離(R180)で除した値(Rmax/R180)が1.044乃至1.053であって該シリンダ中心から該合口部の一端までの距離(R合口)を、該シリンダ中心から該対蹠点までの距離(R180)で除した値が1.032乃至1.040であって該最外点の位置が該中点から44.7°乃至46.1°であることを特徴とする内燃機関用ピストンリングを提供している。
【0009】
さらに内燃機関用ピストンリングの外径が90乃至150mmであるであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2に記載のピストンリングによれば、有限要素法による解析によって実稼動時にピストンリング全周において面圧が均一となるように設計されていることから、合口部付近の面圧の上昇を防ぐことができる。これにより、合口部における耐摩耗性表面処理皮膜のクラックや過大摩耗、スカッフなどを防止することができる。また、合口部付近の面圧上昇を防止することで、合口部から所定距離の部位の面圧が低下する当たり抜けが発生せず、生ガスの排出による公害などの問題を防止することができる。
【0011】
さらに、リングの内周面への加工が不要となるため、工数を減らすことにより加工コストを削減することができる。特に、窒化処理やめっきなどの表面加工を行ったピストンリングは硬度が高いことにより加工し難いが、本実施の形態のピストンリングは合口部等に特殊な加工を施すことはなく、加工コストの削減の効果を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1の実施の形態によるピストンリングについて図1乃至図2に基づき説明する。図1に示すピストンリング1は略円形状をなし、図示せぬシリンダ壁面と摺動する外周摺動面2と図示せぬピストンリング溝に対向する内周面3と略円形状を半径方向に分断する合口部4とを有する。外周摺動面2と内周面3との距離(ピストンリングの半径方向の厚さ)をaとする。R合口はシリンダ中心5から合口部の一端までの距離(ピストンリングの呼び径)であり、R180°はシリンダ中心5から合口部の中心より180°回転した部位までの距離である。
【0013】
本発明の実施の形態によるピストンリング及び従来のピストンリングにおけるシリンダ中心からの距離とリング合口部からの周方向角度との関係を図2に示す。ピストンリングは合口部の中心を通る軸を基準軸とした線対称であることから、基準軸の片側のみ図2に示す。このグラフは、常温で静的な状態のピストンリングをR180°の位置で固定し、シリンダ中心5からの距離を接触式3次元測定器の形状測定プログラムにより計測したものである。本実施の形態によるピストンリングを実線で示し、シリンダ中心5からの距離が最も遠くなる点をRmaxとする。オーバリティーがゼロ(A=B)で設計されたピストンリングを点線で示し、シリンダ中心5からの距離が最も遠くなる点をRmax0とし、シリンダ中心5から合口部の一端までの距離をR合口0とする。オーバリティーがマイナス(A>B)で設計されたピストンリングを一点鎖線で示し、シリンダ中心5からの距離が最も遠くなる点をRmax−とし、シリンダ中心5から合口部の一端までの距離をR合口−とする。
【0014】
本発明の実施の形態によるピストンリングは、有限要素法(FEM)を用いてピストンリング内部の温度勾配による熱膨張を解析し、実稼動時にピストンリングの外周摺動面全周において面圧が均一となるように設計されている。より具体的には、図2のグラフにおいて、実線で示されたピストンリングの形状となる。ここで、従来のローポイントリングである一点鎖線のグラフ(オーバリティーがマイナス)は、Rmax−部の面圧が高くなるように、Rmax−の値を大きく設計し、Rmax−部の面圧を高くすることによって合口部付近の面圧を低下させている。一方、実線のグラフ(本実施の形態)においては、ピストンリング全周での面圧を均等に保つためにRmax及びR合口の値が低く設計されている。従来設計のオーバリティーがマイナスである場合は、Rmax−−Rmax0>0かつR合口−−R合口0<0となるが、本実施の形態では、Rmax−Rmax0<0かつR合口−R合口0<0となる。このようなリングカーブ形状により、実稼動時におけるピストンリング全周の面圧が均一となる。ピストンリングのサイズで主流となるφ104及びφ112の詳細な数値を表1に示す。なお、リングのhは全て2.5mmとし、a寸法についてはリング外径φ104については3.75mm、φ112については、4.15mmとした。
【表1】

【0015】
従来の設計とは、アーノルドやプレスコット等の理論に基づいて設計されたリングカーブである。表1より、本発明の実施の形態によるピストンリングにおいて、Rmax/ 180°の値が約1%低い値となる。これは、ピストンリング全周において面圧を均等に保つため、Rmaxが低く設計されていることによる。さらにRmaxからの角度も約3〜15°高い値となる。さらに、R合口/ 180°の値が約1%小さくなる。R合口の角度とは、図1及び図2で示すθのことである。
【0016】
本実施の形態の具体的な寸法としてはJIS B8032−1:1998に示す、外径dが90〜150mm、ピストンリング幅aが2.5〜4.5mm、自由合口隙間mが5〜25mm、ピストンリングの軸方向厚みhが2.0〜4.0mmであることが好ましい。
【0017】
次にピストンリングについて単体試験を行った。単体試験では、φ104従来リングについて常温時、温間時における面圧分布を測定した。ここで、常温時とはピストンリング及びシリンダライナが共に20℃であることを意味する。また、温間時とは、ピストンリングが230℃であって、シリンダライナが90℃であることを意味する。なお、測定に関しては各リングの軸方向厚さや外周摺動面形状、半径方向厚さaが同一のものを用いた。
【0018】
図3は、面圧分布測定装置5の左半分を示しており、シリンダ52、53は、シリンダホルダ51に支持され、シリンダ53の外周面2の一部に凹部53aが形成されて最薄部となる。テストピースであるピストンリングを、ピストン55のリング溝55aに装着し、ピストンリングの外周摺動面4をシリンダ53の内周面3に当接させる。すると、シリンダ53の最薄部にはピストンリングからの面圧が作用し、歪みが生じることとなる。よって、凹部53aの底部に歪みゲージ54を貼りつけ、歪みゲージ54をストレインアンプ57に接続し、ペンレコーダ58に歪みの値を記録することによって、歪み値を面圧として測定した。また、ピストンリング溝55a付近と、ピストンリングに対向する位置にあるシリンダ53の内周面付近に、J型熱電対59を備え、高速打点計60に接続することで、温度を計測した。更に、ピストンリングを保持するピストン55の上側に、ヒーター56を取付けて、ピストンリングを加熱する一方で、シリンダ53の外周側には冷却水を接触させてシリンダ53の冷却を行い、ピストン55からシリンダ53まで実機運転時に近い温度勾配を分布させた。
【0019】
図4、5は縦軸が面圧、横軸が合口部の中点を0°としたときの周方向角度を示したグラフである。図4が常温時の試験結果であり、図5が温間時の試験結果である。
【0020】
図中には、φ104従来リングだけでなく、本発明の実施の形態であるφ104スチール、φ112スチール(高温)、φ112スチール(中温)についても併せて示す。なお、φ104スチール、φ112スチール(高温)、及びφ112スチール(中温)については、演算により算出した結果となっている。Aがφ104スチール、Bがφ112スチール(高温)、Cがφ112スチール(中温)、Dがφ104従来リングの実験結果を示している。
【0021】
比較材のφ104従来リングDでは、常温時において既に合口部±10°の範囲の面圧が上昇している。この現象は図5に示す熱負荷の作用が働く温間時により顕著となり、合口部付近の面圧が約1.8Mpaまで上昇した。そして、合口部付近がシリンダライナに強く押付けられたことにより、合口部から±5乃至30°の範囲において面圧が極端に低くなる当たり抜けが生じた。
【0022】
これに対して本発明の実施の形態によるピストンリングφ104スチールA、φ112スチール(高温)B、φ112スチール(中温)Cでは、常温時に±30°の範囲において面圧がゼロとなり、当たり抜けが生じている。また、周方向角度が合口部から遠ざかるにつれて急激に面圧が上昇し、周方向角度が±90°以上となった場合には面圧は略一定となっている。このような傾向はφ104スチール、φ112スチール(高温)、φ112スチール(中温)のいずれにおいても当てはまる。
【0023】
しかし、温間時においては、本実施の形態のピストンリングであるφ104スチールA、φ112スチール(高温)B、φ112スチール(中温)Cは合口部±15°の範囲の面圧が低くなっており、周方向角度が合口部から遠ざかるにつれて面圧が略一定となっている。これは、φ104スチールA、φ112スチール(高温)Bに特に顕著に現れている。また、本実施の形態のいずれのピストンリングにおいても合口部付近の面圧が低くなっていることから、φ104従来リングDに見られた合口部の面圧上昇によってその周辺周長部分の部位の面圧が低下する当たり抜けは、発生していない。以上より、表1のようなピストンリングの形状により、実稼動時を想定した温間時に全周において均一な面圧を得る事ができる。
【0024】
本発明によるピストンリングは上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば耐摩耗性や耐久性を高めるために、ピストンリングの表面に鍍金や窒化などの表面処理を行ってもよい。さらに、窒化処理を施した後に外周摺動面にPVD被膜処理を行ってもよい。本実施の形態ではスチールを用いたが、これに限定されることなく、鋳鉄などを用いても同様の効果を得る事ができる。また、上述の実施の形態では切欠部は外周の摺動面に略平行な直線状をなしているが、切欠部の形状はこれに限定されず凹凸の形状や、内周面側において合口端部に向かって除所に半径方向の厚さが減少するような直線形状でもよい。さらに、摺動面形状は対称バレル形状であってもよく、偏芯バレル形状であってもよく、また、テーパー形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ピストンリングの形状を示す模式図
【図2】本発明の実施の形態によるピストンリングの形状を示すグラフ
【図3】本発明の実施の形態によるピストンリングの試験を行った面圧分布測定装置の左半分を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態によるピストンリング及び従来リングについて行った演算結果及び常温時の単体試験の結果を表すグラフ
【図5】本発明の実施の形態によるピストンリング及び従来リングについて行った演算結果及び実稼動時の単体試験の結果を表すグラフ
【符号の説明】
【0026】
1:ピストンリング
2:外周摺動面
3:内周面
4:合口部
5:シリンダ中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形状をなし、シリンダに対して摺動する外周摺動面とピストンに対向する内周面と該外周摺動面及び該内周面に交わる上面及び下面と略円形状を半径方向に分断する1つの合口部とを備える内燃機関用ピストンリングであって、
該シリンダの中心点であるシリンダ中心から該シリンダ中心と該内周面との距離が最大となる最外点までの距離(Rmax)を、該シリンダ中心から該合口部の両端の中点と該シリンダ中心とを通る基準軸上であって該中点から180°回転させた箇所に位置する対蹠点までの距離(R180)で除した値(Rmax/R180)が1.044乃至1.053であって
該シリンダ中心から該合口部の一端までの距離(R合口)を、該シリンダ中心から該対蹠点までの距離(R180)で除した値が1.032乃至1.040であって
該最外点の位置が該中点から44.7°乃至46.1°であることを特徴とする内燃機関用ピストンリング。
【請求項2】
ピストンリングの外径が90乃至150mmである請求項1に記載の内燃機関用ピストンリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−84853(P2010−84853A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255034(P2008−255034)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】