説明

ピストンロッドの製造方法

【課題】摩擦圧接にて接合されたロッド本体とロッドヘッドとの接合強度を向上させることができるピストンロッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】ロッド本体2とロッドヘッド3との互いの端面2c,3cを接合してピストンロッド1を製造するピストンロッドの製造方法であって、ロッド本体2及びロッドヘッド3の軸心部を端面2c,3cからくり抜き、中心偏析による不純物10を除去する工程と、ロッド本体2とロッドヘッド3との互いの端面2c,3cを摩擦圧接にて接合する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダのピストンロッドの製造方法として、特許文献1には、中実のロッド本体とロッドヘッドとを摩擦圧接にて接合して一体化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−240609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ロッド本体及びロッドヘッドは、連続鋳造にて製造される鉄鋼材料を加工することによって製造される。連続鋳造にて製造される鉄鋼材料の中心部には、中心偏析による不純物が存在する。そのため、図4に示すように、中実のロッド本体51とロッドヘッド52とを摩擦圧接にて接合すると、中心部に存在する中心偏析53は、摩擦圧接時の塑性流動によってバリ54として外周に排出されるが、完全には排出されずに、接合面には不純物が薄い膜として残る。
【0005】
接合面に残った不純物には、母材に含まれている拡散性水素が集まり易いため、接合面における水素脆化の原因となり、遅れ破壊が発生したり、接合面を境にしてロッド本体とロッドヘッドとが分離破壊したりするおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、摩擦圧接にて接合されたロッド本体とロッドヘッドとの接合強度を向上させることができるピストンロッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ロッド本体とロッドヘッドとの互いの端面を接合してピストンロッドを製造するピストンロッドの製造方法であって、前記ロッド本体及び前記ロッドヘッドの軸心部を前記端面からくり抜き、中心偏析による不純物を除去する工程と、前記ロッド本体と前記ロッドヘッドとの互いの前記端面を摩擦圧接にて接合する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロッド本体とロッドヘッドとは、軸心部に存在する不純物を除去した後、互いの端面を摩擦圧接にて接合することによって一体化されるため、接合面に不純物のないピストンロッドを製造することができる。したがって、ロッド本体とロッドヘッドとの接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ピストンロッドの製造工程前のロッド本体及びロッドヘッドを示す平面図であり、一部断面にて示す。
【図2】本発明の実施の形態に係るピストンロッドの製造方法の第1工程を示す平面図であり、一部断面にて示す。
【図3】本発明の実施の形態に係るピストンロッドの製造方法の第2工程を示す図であり、一部断面にて示す。
【図4】従来の製造方法によって製造されたピストンロッドを示す平面図であり、一部断面にて示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
本実施の形態に係るピストンロッドの製造方法は、ロッド本体2とロッドヘッド3とを摩擦圧接にて接合してピストンロッド1を製造するものである。本実施の形態では、ピストンロッド1は、アクチュエータとして用いられる流体圧シリンダのシリンダ本体に進退自在に挿入されるものである。
【0012】
ロッド本体2及びロッドヘッド3は、連続鋳造にて製造される中実のS45C等の炭素鋼を加工することによって製造される。図1を参照して、ロッド本体2及びロッドヘッド3について説明する。図1は、ピストンロッド1の製造工程前(摩擦圧接前)のロッド本体2及びロッドヘッド3を示す平面図である。
【0013】
ロッド本体2は、シリンダ本体内を摺動するピストン(図示せず)が連結される小径部2aと、小径部2aよりも大径の大径部2bとからなる。環状のピストンは、小径部2aの外周に嵌挿され小径部2aと大径部2bとの境界の段部2dに係止されると共に、小径部2aの雄ねじ部2eに締結されるナットによって固定される。ロッド本体2の大径部2bには、平面状の端面2cが形成される。
【0014】
ロッドヘッド3は、負荷に連結される環状のクレビス3aと、ロッド本体2の大径部2bと同径の胴部3bとからなる。胴部3bには平面状の端面3cが形成される。
【0015】
ピストンロッド1は、ロッド本体2の大径部2bの端面2cと、ロッドヘッド3の胴部3bの端面3cとを摩擦圧接にて接合して一体化することによって製造される。
【0016】
ロッド本体2及びロッドヘッド3は、連続鋳造にて製造される中実の鉄鋼材料を加工することによって製造されるものであるが、溶鋼中の不純物は、固体よりも液体に残る傾向があるため、連続鋳造では、最後に凝固する軸心部に不純物が集積し易い。このため、連続鋳造にて製造される鉄鋼材料の軸心部には、中心偏析による不純物が存在する。したがって、ロッド本体2の軸心部及びロッドヘッド3の胴部3bの軸心部には、中心偏析による不純物10が存在する。なお、図1〜図3において、不純物10は点線にて模式的に示す。
【0017】
次に、図2及び図3を参照して、ピストンロッド1の製造工程について説明する。
【0018】
まず、図2に示すように、第1工程では、中実のロッド本体2の軸心部を端面2cから円柱状にくり抜き、中心偏析による不純物10を除去する。これにより、ロッド本体2には、環状部5にて囲まれ、端面2cに開口部を有する穴部6が形成される。穴部6の成形によって端面2c近傍の不純物10が除去されるため、端面2cには不純物10が存在しなくなる。
【0019】
穴部6の内径は、ロッド本体2の環状部5の断面積が段部2dに形成される最小断面積部2fよりも大きくなるように形成される。これは、環状部5の強度がピストンロッド1において最弱にならないようにするためである。また、穴部6の深さは、接合時に発生するバリ12(図3参照)が内部に収まる長さに形成される。また、穴部6の底部周縁6aは、曲面状となるように面取り加工される。これは、ピストンロッド1に引張圧縮荷重が作用した場合に、穴部6の底部周縁6aに応力集中が生じないようにするためである。
【0020】
第1工程では、ロッドヘッド3についても同様に、中実の胴部3bの軸心部を端面3cから円柱状にくり抜き、中心偏析による不純物10を除去する。これにより、ロッドヘッド3の胴部3bには、環状部7にて囲まれ、端面3cに開口部を有する穴部8が形成される。穴部8の成形によって端面3c近傍の不純物10が除去されるため、端面3cには不純物10が存在しなくなる。
【0021】
穴部8の内径及び深さは、ロッド本体2の穴部6と略同一寸法に形成される。また、穴部8の底部周縁8aも、ロッド本体2の穴部6と同様に、曲面状に面取り加工される。
【0022】
ロッド本体2及びロッドヘッド3の軸心部のくり抜きは、切削加工によって行われる。なお、ロッド本体2及びロッドヘッド3の軸心部のくり抜きは、切削加工以外の方法、例えば、鍛造などの塑性加工によって行ってもよい。
【0023】
次に、第2工程では、ロッド本体2とロッドヘッド3との互いの端面2c,3cを摩擦圧接にて接合する。以下に、摩擦圧接の手順を具体的に説明する。
【0024】
(1)図2に示すように、ロッド本体2とロッドヘッド3とを互いの端面が対向するように同軸的に配置する。
【0025】
(2)図3に示すように、ロッドヘッド3を軸中心に回転させた状態で、ロッド本体2をロッドヘッド3に向けて移動させてロッド本体2の端面2cをロッドヘッド3の端面3cに押し付け、接合面11にて摩擦熱を発生させる。摩擦熱によって接合面11近傍が軟化する。
【0026】
(3)押し付けによるロッド本体2の移動が予め定められた所定変位に達した時点でロッドヘッド3の回転を停止させる。
【0027】
(4)ロッド本体2を大きな荷重でさらにロッドヘッド3側に押し付け、接合面11近傍の高温部を、図3に示すように、外周側及び内周側に塑性流動させてバリ12として排出する。ロッド本体2の穴部6とロッドヘッド3の穴部8とによってピストンロッド1の内部には中空部13が存在する。この中空部13の存在によって、接合面11近傍の高温部は、内周側にも塑性流動してバリ12として排出されることになる。このように、接合面11近傍の高温部は、外周側及び内周側にバリ12として排出されるため、仮に、接合面11に不純物が存在していたとしても、不純物を排出する効果が高く、接合面11は清浄となる。なお、バリ12の排出は、ロッド本体2のバリ12aとロッドヘッド3のバリ12bとの境界点12cが、図3に示すように、ロッド本体2及びロッドヘッド3の外周面の外側となるまで行われる。
【0028】
(5)最後に、上記(4)の押し付け状態を所定時間保持することによって、接合面11におけるロッド本体2とロッドヘッド3との相互拡散を促進させ、両者の接合が完了する。以上のようにして、摩擦圧接によるロッド本体2とロッドヘッド3との接合が行われる。
【0029】
なお、ピストンロッド1の外周側のバリ12は接合完了後に切除され、ロッド本体2とロッドヘッド3との外周は滑らかに連続した状態に加工される。
【0030】
第1工程にて、ロッド本体2及びロッドヘッド3の軸心部がくり抜かれ、互いの端面2c,3cには不純物10が存在しないため、接合面11に不純物が存在しないピストンロッド1を得ることができる。
【0031】
以上の実施の形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0032】
ロッド本体2とロッドヘッド3とは、軸心部に存在する不純物10を除去した後、互いの端面2c,3cを摩擦圧接にて接合することによって一体化されるため、接合面11に不純物のないピストンロッド1を製造することができる。したがって、接合面11での水素脆性による粒界割れが発生せず、遅れ破壊の発生を防止することができるため、ロッド本体2とロッドヘッド3との接合強度を向上させることができる。
【0033】
また、ピストンロッド1の内部には中空部13が存在するため、摩擦圧接の過程で、接合面11近傍の高温部は、外周側だけでなく内周側にもバリ12として排出される。したがって、中実のロッドを接合する場合と比較して、より清浄な接合面11を得ることができる。
【0034】
また、ロッド本体2とロッドヘッド3とは、環状の端面2c,3cを摩擦圧接にて接合するものであるため、中実のものを接合する場合と比較して、小さいエネルギーにて接合することができる。したがって、従来と同じ摩擦圧接機を用いたとしても、従来の中実のピストンロッド径よりも大きな径のピストンロッド1を接合することが可能となり、設備費を低減することができる。
【0035】
また、ピストンロッド1の内部には中空部13が存在するため、ピストンロッド1を軽量化することができる。
【0036】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、アクチュエータとして用いられる流体圧シリンダのシリンダ本体に進退自在に挿入されるピストンロッドを製造する製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ピストンロッド
2 ロッド本体
2c 端面
3 ロッドヘッド
3b 胴部
3c 端面
5 環状部
6 穴部
7 環状部
8 穴部
10 不純物
11 接合面
12 バリ
13 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド本体とロッドヘッドとの互いの端面を接合してピストンロッドを製造するピストンロッドの製造方法であって、
前記ロッド本体及び前記ロッドヘッドの軸心部を前記端面からくり抜き、中心偏析による不純物を除去する工程と、
前記ロッド本体と前記ロッドヘッドとの互いの前記端面を摩擦圧接にて接合する工程と、
を備えることを特徴とするピストンロッドの製造方法。
【請求項2】
前記ロッド本体及び前記ロッドヘッドは、連続鋳造にて製造される中実の鉄鋼材料を加工することによって得られることを特徴とする請求項1に記載のピストンロッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56531(P2011−56531A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207892(P2009−207892)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】