説明

ピストン沈着物制御能力が向上した潤滑油

【課題】 ピストン沈着物制御能力が向上した潤滑油
【解決手段】 本開示の潤滑組成物は、基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成り、ここで、本潤滑組成物が有する金属に対する塩の比率は約3.5から約8.0の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は潤滑組成物(lubricant composition)、これの製造および使用方法に関する。より詳細には、本開示は、過塩基洗浄剤(overbased detergent)と低塩基洗浄剤(low−base detergent)を含有して成る潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のエンジンに用いるに適した潤滑油は産業性能仕様、例えばILSAC GF−4およびAPI SMなどを満たす必要がある。ILSAC GF−4およびAPI SMの要求の中の1つはSequence IIIG試験に合格することにある。そのSequence IIIG試験では、油の濃密化および高温条件中のピストン沈着物を測定する。試験油がGF−4/SMの最低基準を満たすには、それが示すSequence IIIG粘度上昇が最高で150%でありかつ加重ピストン沈着物(WPD)が最低で3.5でなければならない。しかしながら、特定のOEMは、これらの内部仕様で規定するように、それらの特定ファミリーのエンジンがより高い性能レベルを示すことを要求している。例えばGeneral Motors GM4718Mは、Sequence IIIG粘度上昇が最高で90%でWPDが最低で5.5であることを要求している。
【0003】
従って、新世代のエンジンが要求するように、より高い性能レベルを満足させ得る潤滑組成物が求められている。本開示は、向上したピストン沈着物制御能力および粘度制御の中の少なくとも一方を示し得る潤滑組成物を提案するものである。
【0004】
要約
本開示に従い、基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物を開示する。
【0005】
本教示の別の態様に従い、ピストン清浄度を向上させる方法を教示し、この方法は、少なくとも1個のピストンに基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物を供給することを含んで成る。
【0006】
本教示の更に別の態様に従い、燃焼システムをSequence IIIG試験に合格させる方法を教示し、この方法は、前記燃焼システムに基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物を供給することを含んで成る。
【0007】
本教示の別の態様に従い、機械の可動部に潤滑油を差す方法を教示し、この方法は、少なくとも1個の可動部を基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物と接触させることを含んで成る。
【0008】
本開示の追加的利点を以下の説明の中にある程度ではあるが示すか或は本開示の実施によってそれらを習得することができるであろう。そのような利点は添付請求項に特に指摘する要素および組み合わせを用いて実現および達成可能である。
【0009】
この上で行った一般的な説明および以下に行う詳細な説明は両方ともが単に例示および
説明的であり、請求する如き本開示を限定するものでないと理解されるべきである。
【0010】
態様の説明
本開示の幅広い範囲を示す数値の範囲およびパラメーターは近似値であるが、具体的実施例に示す数値はできるだけ正確に報告する。しかしながら、如何なる数値も本質的に特定の誤差を含み、そのような誤差は、個々の試験測定に見られる標準偏差の結果として必ず生じるものである。その上、本明細書に開示する範囲は全部がその中に含まれる小範囲の全部およびいずれも包含すると理解されるべきである。例えば、「10未満」の範囲には、最低の値であるゼロと最大の値である10(これらの値を包含)の間の小範囲の全部およびいずれも含まれ得る、即ちゼロに等しいか或はそれより大きい最低値と10に等しいか或はそれより小さい最高値を有する小範囲、例えば1から5の範囲などの全部およびいずれも含まれ得る。
【0011】
本開示の潤滑組成物は、基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていてもよく、ここで、本潤滑組成物が有する金属に対する塩の比率は約3.0から約8.0の範囲である。本明細書で用いる如き用語「主要量」は本潤滑組成物の総重量を基準にして50重量%に等しいか或はそれ以上、例えば約80から約98重量%などの量を意味すると理解する。その上、本明細書で用いる如き用語「少量」は本潤滑組成物の総重量を基準にして50重量%未満の量を意味すると理解する。
【0012】
この開示する潤滑組成物および添加剤組成物はいろいろな用途、例えば火花点火および圧縮点火内燃機関(自動車およびトラックのエンジン、2サイクルエンジン、航空ピストンエンジン、海洋エンジンおよび低負荷ディーゼルエンジン、ロータリーエンジン、ハイブリッドエンジンなどを包含)用のクランクケース潤滑組成物などの目的で調合可能である。
【0013】
この開示する組成物の調合で用いるに適した基油は、合成もしくは鉱油またはこれらの混合物のいずれからも選択可能である。鉱油には動物油および植物油(例えばヒマシ油、ラード油)ばかりでなく他の潤滑用鉱油、例えば液状石油および溶媒による処理または酸による処理を受けたパラフィン系、ナフテン系またはパラフィン系−ナフテン系混合型の潤滑用鉱油が含まれる。また、石炭または頁岩から誘導された油も適切である。更に、またガスツーリキッド方法(gas−to−liquid process)で得られる油も適切である。
【0014】
そのような基油が100℃で示す粘度は典型的に例えば約2から約15cSt、さらなる例として、約2から約10cStであり得る。従って、そのような基油が示す粘度は通常は約SAE 50から約SAE 250の範囲であり得、より通常には約SAE 70Wから約SAE 140の範囲であり得る。適切な自動車用油にはまたクロスグレード、例えば75W−140、80W−90、85W−140、85W−90なども含まれる。
【0015】
合成油の非限定例には、炭化水素油、例えばオレフィンの重合体および共重合体(例えばポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンとイソブチレンの共重合体など);ポリアルファオレフィン[例えばポリ(1−ヘキセン)、ポリ−(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)などおよびこれらの混合物];アルキルベンゼン[例えばドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ−ノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど];ポリフェニル(例えばビフェニル、ターフェニル、アルキル置換ポリフェニルなど);アルキル置換ジフェニルエーテルおよびアルキル置換ジフェニルスルフィド、そしてそれらの誘導体、類似物および同族体などが含まれる。
【0016】
アルキレンオキサイド重合体および共重合体、そしてそれらの末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによる修飾を受けている誘導体が使用可能な別の種類の公知合成油を構成している。そのような油の例は、エチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドの重合で作られた油、そのようなポリオキシアルキレン重合体のアルキルおよびアリールエーテル(例えば平均分子量が約1000のメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、分子量が約500−1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量が約1000−1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)またはそれらのモノ−およびポリカルボン酸エステル、例えばテトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3−8脂肪酸エステルまたはC13オキソ酸ジエステルなどであり得る。
【0017】
使用可能な別の種類の合成油には、ジカルボン酸(例えばフタル酸、こはく酸、アルキルこはく酸、アルケニルこはく酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)といろいろなアルコール(例えばブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)のエステルが含まれる。そのようなエステルの具体例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールと2モルのオクチル酸を反応させることで生じさせた複合エステルなどが含まれる。
【0018】
また、合成油として用いるに有用なエステルには、C5−12モノカルボン酸とポリオールとポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどから作られたエステルも含まれる。
【0019】
従って、本明細書に記述する如き組成物を製造する時に使用可能な基油は、American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelinesが指定する如きグループI−Vに入る基油のいずれからも選択可能である。そのような基油グループは下記の通りである:
【0020】
グループIは飽和物含有量が90%未満でありそして/または硫黄含有量が0.03%より高くそして粘度指数が80に等しいか或はそれ以上から120未満であり、グループIIは飽和物含有量が90%に等しいか或はそれ以上でありかつ硫黄含有量が0.03%に等しいか或はそれ以下でありそして粘度指数が80に等しいか或はそれ以上から120未満であり、グループIIIは飽和物含有量が90%に等しいか或はそれ以上でありかつ硫黄含有量が0.03%に等しいか或はそれ以下でありそして粘度指数が120に等しいか或はそれ以上であり、グループIVはポリアルファオレフィン(PAO)であり、そしてグループVにグループIにもIIにもIIIにもIVにも入らない他のベースストック(base stocks)の全部が含まれる。
【0021】
前記グループの限定で用いられる試験方法は、飽和物の場合のASTM D2007、粘度指数の場合のASTM D2270、そして硫黄の場合にはASTM D2622、4294、4927および3120の中の1つである。
【0022】
グループIVのベースストック、即ちポリアルファオレフィン(PAO)には、アルフ
ァ−オレフィンのオリゴマーの水添品が含まれ、オリゴマー化の最も重要な方法はフリーラジカル方法、チーグラー触媒反応、およびカチオン性、フリーデルクラフツ触媒反応である。
【0023】
そのようなポリアルファオレフィンが100℃で示す粘度は典型的に約2から約100cSt、例えば100℃で約4から約8cStの範囲である。それらは、例えば炭素原子数が約2から約30の分枝もしくは直鎖アルファ−オレフィンのオリゴマーであってもよく、非限定例には、ポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ−1−ブテン、ポリ−1−ヘキセン、ポリ−1−オクテンおよびポリ−1−デセンが含まれる。ホモ重合体、共重合体および混合物が含まれる。
【0024】
この上に示したベースストックのバランスに関して、「グループIのベースストック」には、また、他の1つ以上のグループのベースストック1種または2種以上が混ざっていてもよいグループIのベースストックも含まれるが、但しその結果としてもたらされる混合物がこの上にグループIのベースストックに関して指定した特性の範囲内の特性を有することを条件とする。
【0025】
典型的なベースストックにはグループIのベースストックおよびグループIIのベースとグループIのベースストックの混合物が含まれる。
【0026】
本明細書で用いるに適したベースストックは多種多様な方法を用いて製造可能であり、そのような方法には、これらに限定するものでないが、蒸留、溶媒による精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製が含まれる。
【0027】
そのような基油はフィッシャー・トロプシュ合成炭化水素から誘導された油であってもよい。フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ触媒を用いてHとCOを含有する合成ガスから製造可能である。そのような炭化水素は、典型的に、これが基油として有用であるようにする目的で、さらなる処理を必要とする。例えば、そのような炭化水素に米国特許第6,103,099号または6,180,575号に開示されている方法を用いた水素化異性化を受けさせ(hydroisomerized)てもよいか、米国特許第4,943,672号または6,096,940号に開示されている方法を用いた水素化分解および水素化異性化を受けさせてもよいか、米国特許第5,882,505号に開示されている方法を用いた脱蝋を受けさせてもよいか、或は米国特許第6,013,171号、6,080,301号または6,165,949号に開示されている方法を用いた水素化異性化および脱蝋を受けさせてもよい。
【0028】
本明細書の上に開示した種類の鉱油もしくは合成油の未精製、精製および再精製油(ばかりでなくこれらのいずれか2種以上の混合物)を基油として用いることができる。未精製油は、鉱油もしくは合成源からさらなる精製処理なしに直接得られる油である。例えば、レトルト採収操作で直接得られるシェール油、一次蒸留で直接得られる石油、またはエステル化工程で直接得られるエステル油(さらなる処理なしに使用)が未精製油であろう。精製油は、1つ以上の特性を向上させる目的でさらなる処理を1段階以上の精製段階で受けさせた以外は未精製油と同様である。そのような精製技術は本分野の技術者に数多く知られており、例えば溶媒による抽出、二次蒸留、酸または塩基による抽出、濾過、パーコレーションなどが知られる。再精製油は、精製油を得る目的で用いられる処理と同様な処理を既に実用で使用されていた精製油に適用することで得られる油である。そのような再精製油はまた再生もしくは再処理油としても知られ、しばしば、それらは使用済み添加剤、汚染物および油分解生成物を除去することに向けた技術を用いた追加的処理を受けている。
【0029】
不溶な材料を懸濁状態に保持する目的で洗浄剤を本開示する組成物に存在させてもよく、それによって、有害であり得るそれの沈着を防止することができる。また、洗浄剤は既に生じた沈着物を再分散させる能力も有する。洗浄剤は典型的に酸を中和する特性を持ち得る。本明細書に開示する潤滑および添加剤組成物は少なくとも1種の洗浄剤を含有して成り得る。1つの面では、本潤滑および添加剤組成物に少なくとも2種類の洗浄剤を含有させてもよく、それらの中の一方は過塩基洗浄剤であってもよく、もう一方は低塩基洗浄剤であってもよい。
【0030】
本明細書で用いる洗浄剤は如何なる洗浄剤であってもよい。洗浄剤の非限定例には、金属、特にアルカリもしくはアルカリ土類金属、例えばバリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムおよびマグネシウムなどのスルホン酸塩、フェナート、硫化フェナート、カルボン酸塩、サリチル酸塩、チオホスホン酸塩、ナフテン酸塩およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0031】
そのような洗浄剤は、一般に、極性頭部に加えて長い疎水性尾を含有している可能性があり、前記極性頭は有機酸の金属塩を含有して成る。そのような塩は当該金属を実質的に化学量論的量で含有して成り得る。ある洗浄剤が示す全塩基価(total base number)(TBN)は、当該材料が示すアルカリ度の全部を中和するに必要な酸の量であり、ASTM D 2896に従って測定可能である。一例として、TBNが150以上の過塩基洗浄材料の調製は、酸性有機化合物と化学量論的過剰量の金属塩基を含有して成る混合物と酸性材料(典型的には無機酸または低級カルボン酸、例えば二酸化炭素など)を反応させることで実施可能である。
【0032】
この開示する潤滑組成物に使用可能な低塩基洗浄剤が示すTBNは約150以下、例えば約80未満、さらなる例として50未満、そして別の例として約30未満であり得る。
【0033】
そのような低塩基洗浄剤を本開示する潤滑組成物に存在させる量は如何なる必要または有効な量であってもよい。1つの面では、そのような低塩基洗浄剤を本潤滑組成物に本潤滑組成物の総重量パーセントを基準にして約0.1重量%から約3.5重量%、例えば約0.5重量%から約3重量%、さらなる例として約1.0重量%から約3重量%の範囲の量で存在させてもよい。そのような低塩基洗浄剤の金属含有量はこの低塩基洗浄剤の総重量パーセントを基準にして約0.005重量%から約0.175重量%、例えば約0.025重量%から約0.15重量%、さらなる例として約0.075重量%から約0.15重量%の範囲であり得る。
【0034】
この開示する潤滑組成物に用いるに適した過塩基洗浄剤が示すTBNは約150以上、例えば約250以上、さらなる例として約400以上であり得る。1つの面におけるTBNは約150から約500の範囲であり得る。
【0035】
そのような過塩基洗浄剤を本開示する潤滑組成物に存在させる量は如何なる必要または有効な量であってもよい。1つの面では、そのような過塩基洗浄剤を本潤滑組成物の総重量を基準にして約0.5重量%から約3.5重量%、例えば約1重量%から約2.5重量%の範囲の量で存在させてもよい。そのような過塩基洗浄剤の金属含有量はこの過塩基洗浄剤の総重量パーセントを基準にして約0.05重量%から約0.7重量%、例えば約0.1重量%から約0.5重量%の範囲であってもよい。
【0036】
いろいろな面において、この開示する潤滑組成物に入れる過塩基洗浄剤に対する低塩基洗浄剤の重量比を約0.1から約7、例えば約0.2から約5、さらなる例として約0.5から約2.5の範囲内にしてもよい。
【0037】
いくつかの面において、この開示する潤滑組成物中の金属に対して塩の比率が約3.0から約8.0、例えば約3.5から約7.5、さらなる例として約4.0から約6.5の範囲になるようにしてもよい。
【0038】
適切な金属含有洗浄剤の非限定例には、これらに限定するものでないが、リチウムフェナート、ナトリウムフェナート、カリウムフェナート、カルシウムフェナート、マグネシウムフェナート、バリウムフェナート、硫化リチウムフェナート、硫化バリウムフェナート、硫化ナトリウムフェナート、硫化カリウムフェナート、硫化カルシウムフェナートおよび硫化マグネシウムフェナート(各芳香基は炭化水素溶解性を示すように脂肪基を1個以上有する)、スルホン酸リチウム、スルホン酸バリウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウムおよびスルホン酸マグネシウム(各スルホン酸部分は芳香核と結合しており、その芳香核は通常は炭化水素溶解性を示すように脂肪置換基を1個以上含有する)、サリチル酸リチウム、サリチル酸バリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウム(芳香部分は一般に炭化水素溶解性を示すように1個以上の脂肪置換基で置換されている)、炭素原子数が10から2,000のオレフィンの燐硫化(phosphosulfurized)品の加水分解物または炭素原子数が10から2,000のアルコールおよび/または脂肪置換フェノール化合物の燐硫化品の加水分解物のリチウム、ナトリウム、バリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム塩、脂肪族カルボン酸および脂肪置換脂環式カルボン酸のリチウム、ナトリウム、バリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム塩、および他のいろいろな油溶性有機酸の同様なアルカリおよびアルカリ土類金属塩の如き物質の塩および過塩基塩が含まれる。異なる2種以上のアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の過塩基塩の混合物を用いることも可能である。また、異なる2種以上の酸またはタイプが異なる2種以上の酸の混合物の過塩基塩(例えば1種以上の過塩基カルシウムフェナートと1種以上の過塩基スルホン酸カルシウム)を用いることも同様に可能である。
【0039】
アルカリおよびアルカリ土類金属を含有する過塩基洗浄剤を製造する方法は本分野の技術者に良く知られており、特許文献に広範に報告されている。例えば米国特許第2,451,345;2,451,346;2,485,861;2,501,731;2,501,732;2,585,520;2,671,758;2,616,904;2,616,905;2,616,906;2,616,911;2,616,924;2,616,925;2,617,049;2,695,910;3,178,368;3,367,867;3,488,284;3,496,105;3,629,109;3,779,920;3,865,737;3,907,691;4,100,085;4,129,589;4,137,184;4,148,740;4,212,752;4,394,277;4,563,293;4,617,135;4,647,387;4,880,550;5,075,383;5,139,688;5,238,588;5,652,201;6,107,257;6,444,625;6,869,919;および6,423,670号;英国公開特許出願2,082,619Aおよびヨーロッパ特許出願公開番号121,024 B1および259,974 A2(これらの開示は引用することによって本明細書に組み入れられる)の開示を参照のこと。
【0040】
本開示の潤滑組成物にまた例えば米国特許第6,153,565;6,281,179;6,429,178;6,429,179;および6,869,919号に記述されている如き混合界面活性剤系、例えばフェナート/サリチル酸塩、スルホン酸塩/フェナート、スルホン酸塩/サリチル酸塩、スルホン酸塩/フェナート/サリチル酸塩などを用いて生じさせた「ハイブリッド」洗浄剤を含有させることも可能である。
【0041】
本開示の潤滑組成物に使用可能な別の種類の洗浄剤には、米国特許第6,482,77
8号(引用することによって本明細書に組み入れられる)に開示されている如き亜鉛含有洗浄剤、例えばスルホン酸亜鉛、カルボン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、亜鉛フェナートおよび硫化亜鉛フェナートおよびこれらの混合物などが含まれる。中性の亜鉛含有洗浄剤と金属の水酸化物を反応させることで過塩基亜鉛含有洗浄剤を生じさせることができる。この反応を典型的には二酸化炭素を用いて促進剤(これは一般にアルコール型の材料である)の存在下で起こさせることができる。その促進剤は少量の金属水酸化物を溶かし、それが後で二酸化炭素と反応することで金属の炭酸塩が生じる。その過塩基洗浄剤に取り込ませる金属炭酸塩の量は、当該過塩基洗浄剤が用いられる用途に応じて多様であり得る。また、スルホン酸亜鉛も本開示の潤滑組成物に使用可能であり、それには、これらに限定するものでないが、例えばジヒドロカルビル芳香族スルホン酸亜鉛、例えばジアルキルナフタレンスルホン酸亜鉛などが含まれる。そのジアルキルナフタレンスルホン酸亜鉛のスルホネート基はナフタレン核の中の1個の環と結合しておりそしてアルキル基は各環と結合している。各アルキル基が含有する炭素原子の数は独立して約6から約20であってもよく、それらが含有する炭素原子の数は約8から12であってもよい。そのジアルキルナフタレンスルホネート基はスルホネート基を通して亜鉛と結合している。
【0042】
本潤滑組成物に更に他の任意の添加剤、例えば分散剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、消泡剤、希釈剤、摩擦改良剤、粘度指数改良剤、流動点降下剤などを含有させることも可能である。そのような任意の添加剤をこれらが本開示する洗浄剤を妨害しない限り必要な如何なる有効量で存在させてもよい。
【0043】
いろいろな態様に従い、ピストン清浄度を向上させる方法を開示する。本明細書で用いる如き用語「ピストン清浄度を向上させる」はピストンの清浄度を高めること、例えばピストンへの沈着物の量を本開示する潤滑組成物が用いられていないピストンに比べて低下させることを意味すると理解する。ピストン清浄度を向上させる方法は、少なくとも1個のピストンに基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物を供給することを含んで成り得る。
【0044】
他の態様では、燃焼システムをSequence IIIG試験に合格させる方法を開示する。この方法は、前記燃焼システムに基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有していて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物を供給することを含んで成り得る。
【0045】
本明細書に示す「燃焼システム」は、例えば、これらに限定するものでないが、ディーゼル−電気ハイブリッド車、ガソリン−電気ハイブリッド車、二サイクルエンジンのいずれか、バーナーまたは燃焼装置のいずれかおよび全部{例えば、これらに限定するものでないが、固定式バーナー(家庭用加熱、産業用、ボイラー、炉)、廃棄物焼却炉、ディーゼル燃料バーナー、ディーゼル燃料エンジン[ユニットインジェクテッド(unit injected)およびコモンレール]、ジェットエンジン、HCCIエンジン、自動車用ディーゼルエンジン、ガソリン燃料バーナー、ガソリン燃料エンジン(PFIおよびDIG)、発電所の発電機などが含まれる}などを意味する。本開示による利点を受け得る炭化水素系燃料燃焼システムには、燃料を燃焼させるあらゆる燃焼装置、システム、デバイスおよび/またはエンジンが含まれる。本明細書に示す「燃焼システム」は、また、炭化水素系燃料が燃焼し得るか或はそれを燃焼させ得る内燃および外部燃焼デバイス、機械、エンジン、タービンエンジン、ジェットエンジン、ボイラー、焼却装置、蒸発バーナー、プラズマバーナーシステム、プラズマアーク、固定式バーナーなどのいずれかおよび全部も意味する。
【0046】
いろいろな態様に従い、機械の可動部に潤滑油を差す方法を開示し、この方法は、少な
くとも1個の可動部を基油を主要量および過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤を含有して成る添加剤組成物を少量含有して成っていて金属に対する塩の比率が約3.0から約8.0の範囲である潤滑組成物と接触させることを含んで成る。いくつか態様では、前記可動部に潤滑油を差す方法における機械を火花点火および圧縮点火内燃機関から成る群から選択してもよく、それらには、自動車およびトラックのエンジン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、タービンエンジン、航空ピストンエンジン、海洋エンジン、ロータリーエンジンおよびハイブリッドエンジンが含まれる。
【実施例】
【0047】
表1に示す如き異なる3種類の潤滑組成物:A、BおよびCを調合した。AおよびBの調合では同様な分散剤/洗浄剤である抑制剤(DI)システムを用いたが、基礎流体の異なる混合物を用いた。BおよびCの調合で用いた基礎流体は同様であったが、低塩基洗浄剤に対する過塩基洗浄剤の比率を異ならせた。
【0048】
【表1】

【0049】
表2に、前記3種類の調合物の元素分析を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表1に記述した如き3種類の調合物であるA、BおよびCにSequence IIIG試験を受けさせることで、油の濃密さおよび高温条件下のピストン沈着物を測定しかつ弁機構摩耗に関する情報を得た。表3にSequence IIIG試験の結果を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3から分かるであろうように、AおよびBはGF−4/SMに関するSequence IIIG要求に合格したが、GM4718Mに関するより厳格なWPD性能(WPDが最低で5.5)には合格しなかった。その上、WPDに関してCが示した性能の方がBが示したそれよりも良好であることを注目すべきである。BおよびCは基本的に同じ基礎流体混合物を用いて調合したが、低塩基洗浄剤に対する過塩基洗浄剤の比率が異なることから、Cの方が良好な性能を示したことは、過塩基洗浄剤と低塩基洗浄剤の混合物が異なることに起因し得る。表2に、更に、前記3種類の調合物であるA、BおよびCの元素分析も示す。AおよびBが有する金属に対する塩の比率は同じであるが、Cが有する値の方がより高いことを注目すべきである。
【0054】
本明細書全体に渡るいろいろな場所で数多くの米国特許、公開された外国特許出願および出版された技術論文を言及してきた。そのような示した資料は全部があたかも本明細書に詳細に示す如く全体が明らかに本開示に組み込まれる。
【0055】
本明細書および添付請求項の目的で、特に明記しない限り、量、パーセントまたは比率を表す数値および本明細書および請求項で用いた他の数値は全てのケースで用語「約」の修飾を受けていると理解されるべきである。従って、反対であると示さない限り、本明細書および添付請求項に示す数値パラメーターは、本開示で得ることを探求する所望特性に
応じて変わり得る近似値である。最低限でも、本請求項の範囲に適用する相当物の原理の適用を限定する試みとしてではなく、各数値パラメーターは少なくとも報告する有効数字の数に照らして通常の四捨五入技術を適用することで解釈されるべきである。
【0056】
本明細書および添付請求項で用いる如き単数形「a」、「an」および「the」は明瞭かつ明らかに1つの指示対象に限定しない限り複数の指示対象を包含することを特記する。このように、例えば「ある抗酸化剤」の言及は1種以上の異なる抗酸化剤を包含する。本明細書で用いる如き用語「包含」およびこれの文法的変形は限定を意図するものでなく、リストの中の項目を列挙することはその挙げた項目の代わりにか或はそれに加えて用いることができる他の同様な項目を排除するものでない。
【0057】
本発明はこれの実施の点でかなりの変形を受け易い。従って、この上で行った説明は本発明を本明細書の上に示した個々の例に限定することを意図するものでなく、かつ限定するとして解釈されるべきではない。むしろ、保護を意図する事項は本請求項に示す如き事項および法の問題として許されるそれらの相当物である。
【0058】
本出願者は開示する全ての態様を公に捧げることを意図するものでなく、開示した修飾形または変形のいずれかが文字通りには本請求項の範囲内に入らない可能性はあるが、その度合で、それらも相当物の原則下で本発明の一部であると見なす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑組成物であって、
基油を主要量、および
全塩基価(TBN)が250以上の1種類の過塩基洗浄剤(a)と全塩基価(TBN)が50未満の1種類の低塩基洗浄剤(b)とから成る洗浄剤としての添加剤組成物を少量、含有して成っていて、前記(a)および(b)が金属のスルホン酸塩、フェナート、硫化フェナート、カルボン酸塩、チオホスホン酸塩、ナフテン酸塩およびこれらの組み合わせから成る群から選択され、前記過塩基洗浄剤に対する低塩基洗浄剤の重量比が0.1以上
であり、金属に対する塩の比率が3.5から8.0の範囲である、ことを特徴とする潤滑組成物。
【請求項2】
前記過塩基洗浄剤が組成物の総重量を基準にして0.5重量%から3.5重量%の範囲の量で存在する請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記過塩基洗浄剤の金属含有量が0.05重量%から0.7重量%の範囲である請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記過塩基洗浄剤の金属含有量が0.1重量%から0.5重量%の範囲である請求項3記載の潤滑組成物。
【請求項5】
前記低塩基洗浄剤が組成物の総重量を基準にして0.1重量%から3.5重量%の範囲の量で存在する請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項6】
前記低塩基洗浄剤の金属含有量が0.005重量%から0.175重量%の範囲である請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項7】
前記低塩基洗浄剤の金属含有量が0.025重量%から0.15重量%の範囲である請求項6記載の潤滑組成物。
【請求項8】
金属に対する塩の比率が3.5から7.5の範囲である請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項9】
金属に対する塩の比率が4.0から6.5の範囲である請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項10】
更に分散剤、抗摩耗剤、抗酸化剤、摩擦改良剤、消泡剤、希釈剤、流動点降下剤および粘度指数改良剤から成る群から選択される少なくとも1種の添加剤も含有して成る請求項1記載の潤滑組成物。
【請求項11】
ピストン清浄度を向上させる方法であって、少なくとも1個のピストンに全塩基価(TBN)が250以上の1種類の過塩基洗浄剤(a)と全塩基価(TBN)が50未満の1種類の低塩基洗浄剤(b)とを含有して成る洗浄剤としての添加剤組成物および基油から成る潤滑組成物を供給することを含んで成り、ただし、前記(a)および(b)が金属のスルホン酸塩、フェナート、硫化フェナート、カルボン酸塩、チオホスホン酸塩、ナフテン酸塩およびこれらの組み合わせから成る群から選択され、前記過塩基洗浄剤に対する低塩基洗浄剤の重量比が0.1以上であり、金属に対する塩の比率が3.5から8.0の範囲
である、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
燃焼システムをSequence IIIG試験に合格させる方法であって、前記燃焼システムに全塩基価(TBN)が250以上の1種類の過塩基洗浄剤(a)と全塩基価(TBN)が50未満の1種類の低塩基洗浄剤(b)とを含有して成る洗浄剤としての添加
剤組成物および基油から成る潤滑組成物を供給することを含んで成り、ただし、前記(a)および(b)が金属のスルホン酸塩、フェナート、硫化フェナート、カルボン酸塩、チオホスホン酸塩、ナフテン酸塩およびこれらの組み合わせから成る群から選択され、前記過塩基洗浄剤に対する低塩基洗浄剤の重量比が0.1以上であり、金属に対する塩の比率が3.5から8.0の範囲である、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
機械の可動部に潤滑油を差す方法であって、少なくとも1個の可動部を全塩基価(TBN)が250以上の1種類の過塩基洗浄剤(a)と全塩基価(TBN)が50未満の1種類の低塩基洗浄剤(b)とを含有して成る洗浄剤としての添加剤組成物および基油から成る潤滑組成物と接触させることを含んで成り、ただし、前記(a)および(b)が金属のスルホン酸塩、フェナート、硫化フェナート、カルボン酸塩、チオホスホン酸塩、ナフテン酸塩およびこれらの組み合わせから成る群から選択され、前記過塩基洗浄剤に対する低塩基洗浄剤の重量比が0.1以上であり、金属に対する塩の比率が3.5から8.0の範囲
である、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記機械を火花点火および圧縮点火内燃機関から成る群から選択する請求項13記載の方法。

【公開番号】特開2013−64154(P2013−64154A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−282411(P2012−282411)
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2007−261893(P2007−261893)の分割
【原出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】