説明

ピセン化合物の製造方法およびピセン化合物の結晶体

【課題】本発明は、不純物の混入が抑制されており純度の高いピセン化合物を簡便に製造することができる方法と、当該方法で製造されたピセン化合物から得られる高品質の結晶体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るピセン化合物の製造方法は、特定の増感剤の存在下、ジナフチルエタン化合物に光を照射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピセン化合物を製造するための方法、および当該方法により得られたピセン化合物から形成される結晶体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピセンは、五つのベンゼン環が波状に縮合した多環芳香族化合物であり、褐炭のピッチや石油の残留物の蒸留によって得られるものである。このピセンの製造方法としては、以下の方法が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、1,2−ジ(1−ナフチル)エタンをRuzicka−Hosli反応に付した後、塩化アルミニウムにより脱水素する方法が記載されている。
【0004】
非特許文献2には、イソアミルニトリルの存在下、3,4−ジヒドロ−1−ビニルフェナンスレンにアントラニル酸を作用させる方法が開示されている。
【0005】
非特許文献3には、活性亜鉛粉末と四塩化チタンの存在下、ビスアルデヒド化合物をマクマリーカップリング法に付す方法が記載されている。
【0006】
非特許文献4には、シクロヘキサノンのイミン誘導体のブロモマグネシウム塩を1,2−ビス(ヨードエチル)ベンゼンと反応させた後、o−クロラニルを作用させ、さらにDDQで酸化する方法が記載されている。
【非特許文献1】NG.PH.BUU-HOIら,J.Org.Chem(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー),14,pp.1023-1035(1949)
【非特許文献2】Lucio Minutiら,Tetrahedron(テトラヘドロン),54,pp.10891-10898(1998)
【非特許文献3】Surajit Someら,Tetrahedron Letters(テトラヘドロン・レターズ),47,pp.1221-1224(2006)
【非特許文献4】Ronald G.Harveyら,J.Org.Chem(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー),56,pp.1210-1217(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した様に、従来、ピセン化合物の製造方法としては様々なものが知られていた。
【0008】
しかし従来方法で製造されたピセン化合物には、いかに精製しようとも不純物が混入しがちであり、かかるピセン化合物から純粋な結晶体を得るのは困難であった。
【0009】
そこで本発明は、不純物の混入が抑制されており純度の高いピセン化合物を簡便に製造することができる方法と、当該方法で製造されたピセン化合物から得られる高品質の結晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の増感剤の存在下でジナフチルエタン化合物に光を照射すれば、不純物の混入が顕著に抑制されたピセン化合物が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
本発明方法は、下記式(I)で表されるピセン化合物を製造するための方法であって、
【0012】
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素基、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン基、炭素数1〜7のアルカノイル基、カルボキシ基、ニトロ基またはシアノ基を示す]
下記式(II)または下記式(III)で表される増感剤の存在下、
【0013】
【化2】

[式中、XはO、SまたはNR7(R7は水素基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基または水酸基を示す)を示し;R3とR4は、それぞれ水素基を示すか、または一緒になって単結合、−O−、−S−または=NR8(R8は水素基または炭素数1〜6のアルキル基を示す)を示し;R5とR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜7のアルカノイル基、カルボキシ基、ニトロ基またはシアノ基を示す]
下記式(IV)で表されるジナフチルエタン化合物
【0014】
【化3】

[式中、R1およびR2は上記と同義を示す]
に光を照射することを特徴とする。
【0015】
本発明において、「炭素数1〜6のアルキル基」は、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等である。好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜2のアルキル基であり、最も好ましくはメチルである。
【0016】
「ハロゲン基」にはフッ素基、塩素基、臭素基およびヨウ素基が含まれ、より好ましくはフッ素基または塩素基、最も好ましくは塩素基である。
【0017】
「炭素数1〜7のアルカノイル」は、ホルミルまたは上記炭素数1〜6のアルキル基で置換されたカルボニル基を意味する。例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ピバロイル、バレリル、イソバレリル、ヘイサノイル等であり、好適には炭素数2〜5のアルカノイルであり、より好ましくは炭素数2〜4のアルカノイルであり、特に好ましくはアセチルである。
【0018】
「炭素数1〜6のアルコキシ基」は、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の不飽和脂肪族炭化水素オキシ基を意味する。例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ等であり、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1〜2のアルコキシ基であり、最も好ましくはメトキシである。
【0019】
上記製造方法においては、増感剤(II)または増感剤(III)を、ジナフチルエタン化合物(IV)に対して2倍モル以上用いることが好ましい。当該増感剤を比較的多量に用いることにつき、反応を良好に進めることができる。また、当該増感剤は目的化合物であるピセン化合物から容易に分離することができるので、比較的多量に用いてもピセン化合物に混入し難い。
【0020】
上記製造方法においては、長波長紫外線または中波長紫外線を含む光を照射することが好ましい。上記増感剤(II)および増感剤(III)は、特にこれら紫外線を良好に吸収するので、これら紫外線を照射することにより反応をより効率的に進行せしめることが可能である。
【0021】
上記製造方法においては、光の照射強度を100W/m2以上、5000W/m2以下とすることが好ましい。光の照射強度を100W/m2以上とすれば、反応を良好に進行せしめることができる。一方、光の照射強度を過剰に高めても比例的に反応効率が高まるわけではなくコストがかかる上に副反応のおそれもあるので、当該強度は5000W/m2以下とすることが好ましい。
【0022】
本発明に係るピセン化合物の結晶体は、上記製造方法により製造されたピセン化合物を昇華させることにより形成されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明方法によれば、不純物の混入が抑制されている純度の高いピセン化合物を簡便に製造することができる。また、本発明方法で製造されたピセン化合物を昇華させることにより得られる結晶体は、さらに純度の高い高品質のものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係るピセン化合物の製造方法は、増感剤(II)または増感剤(III)の存在下、ジナフチルエタン化合物(IV)に光を照射することを特徴とする。より具体的には、溶媒に増感剤およびジナフチルエタン化合物を溶解し、当該溶液に光を照射する。
【0025】
ジナフチルエタン化合物(IV)は、後述するように、公知化合物である1−ハロゲン化メチルナフタレン化合物または公知化合物から公知方法により合成できる1−ハロゲン化メチルナフタレン化合物から合成することができる。
【0026】
本発明者らによる知見によれば、エチレン基に対して4位にブロモ基を有するジナフチルエタン化合物(IV)を用いた場合でも良好に反応が進行した。よって、当該位にハロゲン基などの電子吸引基等が置換していても、反応は進行すると考えられる。但し、本発明に係るジナフチルエタン化合物(IV)には、これら置換基を有する化合物以外にも、均等化合物が含まれるものとする。
【0027】
1とR2は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、R1とR2が同一であるジナフチルエタン化合物(IV)は、合成がより容易であることから好ましい。
【0028】
無置換、即ちR1およびR2が水素基(−H)であるジナフチルエタン化合物(IV)は、安価で且つ容易に合成することができ、より一層不純物が低減されているピセン化合物(I)の原料となるので、好ましい。
【0029】
本発明に係る増感剤(II)と増感剤(III)は、照射された光を吸収して励起し、ジナフチルエタン化合物(IV)を酸化してピセン化合物(I)とする触媒として作用する。
【0030】
増感剤(II)においては、本発明に係る反応における活性の点から、XとしてはOが好ましく、R3およびR4としては一緒になって単結合を形成するものが好ましい。また、増感剤(III)としては、同じく本発明に係る反応における活性の点から、R5およびR6が共にシアノ基であるものが好ましい。
【0031】
本発明で用いる増感剤としては、例えば、9−フルオレノン、キサントン、ベンゾフェノン、9,10−ジシアノアントラセンを挙げることができる。
【0032】
なお、増感剤(II)と増感剤(III)は、何れか一方を用いてもよいし、両者を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明反応で用いられる溶媒の種類は、上記ジナフチルエタン化合物と増感剤に良好な溶解性を示し且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されない。例えば、紫外線を吸収せず反応を阻害しない溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素;アセトニトリルなどのニトリル類;メタノールやエタノールなどのアルコール類;酢酸エチルなどのエステル類;ヘキサンなどの脂肪族炭化水素などを用いることができる。特に、上記ジナフチルエタン化合物および増感剤に対して優れた溶解性を示すことから、クロロホルムが好適である。
【0034】
反応溶液における上記ジナフチルエタン化合物と増感剤の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、ジナフチルエタン化合物(IV)の濃度は、溶媒100mLに対して0.05g以上、5g以下程度、増感剤(II)または増感剤(III)の濃度は、溶媒100mLに対して0.1g以上、10g以下程度とすることができる。
【0035】
本発明方法においては、増感剤(II)または増感剤(III)を、ジナフチルエタン化合物(IV)に対して2倍モル以上用いることが好ましい。当該増感剤を比較的多量に用いることにより、反応をより一層良好に進めることができる。また、当該増感剤は目的化合物であるピセン化合物から容易に分離することができ、ピセン化合物に混入し難い。一方、上限は特に制限されないが、上記増感剤を過剰に用いるとかえって反応が良好に進行しないおそれがあるので、好ましくはジナフチルエタン化合物(IV)に対して10倍モル以下、より好ましくは5倍モル以下とする。
【0036】
照射する光は、上記増感剤(II)および増感剤(III)が吸収できる光である紫外線から可視光、より具体的には波長が10nm以上、1000nm以下の光を含むものが好適である。さらに、波長が400〜320nm程度の長波長紫外線および波長が320〜280nm程度の中波長紫外線が、上記増感剤(II)および増感剤(III)に特に良好に吸収されるので好適である。照射すべき光は、単一光である必要はなく、様々な波長の光を含む水銀灯、ブラックライトランプ、ナトリウムランプ、白色灯などにより照射することができる。なお、勿論、照射する光は長波長紫外線と中波長紫外線の両方が含まれるものであってもよい。
【0037】
上記反応溶液に照射する光の照射強度は、100W/m2以上、5000W/m2以下とすることが好ましい。光の照射強度を100W/m2以上とすれば、反応を良好に進行せしめることができる。一方、光の照射強度を過剰に高めても比例的に反応効率が高めるわけではなくコストがかかる上に、副反応のおそれもあるので、当該強度は5000W/m2以下とすることが好ましい。
【0038】
反応を進行せしめるに当たっては、反応容器内の雰囲気を窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスで置換することが好ましい。光反応においては、雰囲気中に酸素が存在すると反応混合液に溶存した酸素が副反応を起こすおそれがあるからである。
【0039】
反応温度は特に制限されず、適宜調整すればよいが、通常は常温から加熱還流条件とすることができる。なお、照射光のエネルギーにより反応溶液の温度は上昇するので、特に加熱手段は必要としない場合がある。
【0040】
反応時間も特に制限されず、具体的には予備実験により決定したり、或いは薄層クロマトグラフィなどによりジナフチルエタン化合物(IV)の消失が確認されるまでとすることができる。通常は10時間以上、100時間以下程度、より好ましくは20時間以上、50時間以下程度とすることができる。
【0041】
反応後においては、常法により目的化合物であるピセン化合物(I)を得ることができる。但し、本発明方法によれば、晶析という簡便な方法でも十分に純度の高いピセン化合物を得ることができる。
【0042】
具体的には、反応溶液を10分の1程度に減圧濃縮した後に静置し、析出したピセン化合物を濾別して溶媒で洗浄すればよい。かかる簡便な方法で得られたピセン化合物であっても、その純度は十分に高い。必要に応じて、再結晶やカラムクロマトグラフィなどによりさらに精製してもよい。
【0043】
本発明方法の原料化合物であるジナフチルエタン化合物(IV)は、下記のスキームにより容易に合成することができる。
【0044】
【化4】

[式中、R1およびR2は上述したものと同義を示し、Halは塩素基、臭素基またはヨウ素基を示し、RはR1またはR2を示す]
【0045】
上記スキーム中、原料化合物であるナフタレン化合物(V)は、比較的単純な構造を有することから、市販のものを用いるか、市販の化合物から当業者公知の方法により合成したものを用いることができる。
【0046】
ナフタレン化合物(VI)は、ナフタレン化合物(V)から当業者公知の方法により容易に合成することができる。例えば、過酸化ベンゾイルなどの存在下、ナフタレン化合物(V)にNBSやNCSを作用させればよい。
【0047】
ジナフチルエタン化合物(IV)は、ナフタレン化合物(VI)に金属マグネシウムを加熱下で作用させることにより容易に合成することができる。かかる方法によれば、反応溶液から不溶性のマグネシウム塩を除去した後に溶液を濃縮して得られた残渣を洗浄するという簡便な後処理のみでも、純度の高いジナフチルエタン化合物(IV)を収率良く簡便に合成することができる。
【0048】
なお、本発明方法および上記スキームにおいて、各化合物がカルボキシ基などの活性基を有する場合には、当該活性基は適宜保護したり脱保護してもよい。
【0049】
上述したように、本発明方法で製造されたピセン化合物(I)は高い純度を有する。よって、当該ピセン化合物を溶媒に溶解した上で、キャスト法などにより高品質フィルムなどの成形体を得ることができる。しかし、当該ピセン化合物を昇華させることにより形成される結晶体は、より一層純度が高く有用なものである。
【0050】
昇華の条件としては、公知のものを採用することができる。例えば、温度勾配を設けた加熱炉内の高温部に、本発明方法で製造されたピセン化合物(I)を挿入して昇華させる。この際、高温側から窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを流すことにより、低温側に極めて高純度のピセン化合物の結晶を集合させることができる。高温部の温度は、ピセンの融点が364℃であることから、250℃以上、350℃以下程度とすることが好ましい。一方、低温部の温度は、100℃以上、200℃以下程度とすることが好ましい。
【0051】
上記により得られたピセン化合物の結晶体は、極めて純度が高いことから非常に有用である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
製造例1 ピセンの合成
【0054】
【化5】

【0055】
(1) 1,2−ジ(1−ナフチル)エタンの合成
テトラヒドロフラン(10mL)に金属マグネシウム(2.14g,88mmol)を加えた。当該混合物へ、1−(クロロメチル)ナフタレン(28.28g,160mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶解した溶液を40分かけて滴下した。その後、当該反応液を室温で2時間攪拌し、さらに30分間加熱還流した。当該反応液へメタノール(1mL)を加えた後、生成した不溶性の塩を濾別し、クロロホルム(200mL)で洗浄した。得られた濾液と洗浄液を合わせて水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥してから溶媒を減圧留去した。得られた結晶をメタノールで洗浄することにより、1,2−ジ(1−ナフチル)エタン(21.7g,収率:96%)を得た。目的物の融点を測定したところ、161〜162℃であった。
【0056】
(2) ピセンの合成
【0057】
【化6】

【0058】
上記で得られた1,2−ジ(1−ナフチル)エタン(2.82g,10mmol)と9−フルオレノン(5.41g,30mmol)をクロロホルム(450mL)に溶解した。反応容器内を窒素置換した後、450Wの高圧水銀灯を用い、反応液へ40時間光照射した。当該反応液を約50mLまで減圧濃縮し、析出した結晶を濾別してクロロホルムで洗浄することにより、ピセン(462mg,収率:16.6%)を得た。目的物の融点を測定したところ、300℃以上であった。
【0059】
試験例1 NMRによる分析
上記製造例1で得たピセンを1H−NMRにより分析した。得られた1H−NMRスペクトルを図1に示す。当該スペクトルは、公知文献(Harvey,R.G.ら,J.Org.Chem.,56,pp.1210-1217(1991))に記載されたデータと一致した。
【0060】
また、上記製造例1で得たピセンの1H−NMRスペクトルと市販の標準サンプルの1H−NMRスペクトルを図2に並べて示す。図2のとおり、本発明方法で得られたピセンは、生じた結晶を濾別して洗浄するのみという極めて簡易に精製したのみのものであっても、市販品と同等の純度を有することが分かる。
【0061】
さらに、上記製造例1で得たピセンをNOESY−NMRにより分析したところ、H1−H14とH12−H13のペアが立体的に接近していることを確認することができ、得られた化合物がピセンであることを再確認することができた。
【0062】
試験例2 ESRによる分析
上記製造例1で得たピセンをESRにより分析した。得られたESRスペクトルを図3に示す。
【0063】
図3のとおり、本発明方法で製造されたピセンのESRデータには、不純物の不対電子に由来するピークが見られないことから、本発明方法で製造されたピセンは、生じた結晶を濾別して洗浄するのみという極めて簡易に精製したのみのものであっても、不純物含量が極めて少ないものであることが分かる。
【0064】
製造例2 昇華による高純度ピセンの製造
丸形電気炉内で、30cm離れた位置で300℃から150℃の温度勾配を設けた。別途、ガラス管の中に上記製造例1で得たピセン(50mg)を入れ、ピセンが300℃の位置に配置されるように丸形電気炉内へ当該ガラス管を挿入した。当該ガラス管内へ99.9%のアルゴンガスを温度の高い方から50mL/分の流量で流した。720分間後、原料ピセンから約15cm離れた位置に、昇華したピセンからなる結晶体が形成された。得られたピセンは20gであり、また、原料ピセンが極めて薄い黄色を呈していたのに対し、得られたピセンは白色であった。
【0065】
製造例3 5,8−ジブロモピセンの合成
【0066】
【化7】

【0067】
1,2−ジ[1−(4−ブロモナフチル)]エタン(5mg,11μmol)および9−フルオレノン(6mg,34μmol)をクロロホルム(0.8mL)に溶解した。反応容器内を窒素置換した後、蛍光ランプを用いて主に350nmの波長の光を49時間光照射した。溶媒を減圧留去した後、カラムクロマトグラフィで精製することにより、5,8−ジブロモピセン(収量:0.9mg)を白色固体として得た。得られた5,8−ジブロモピセンの融点を測定したところ、300℃以上であった。また、得られた5,8−ジブロモピセンを1H−NMRにより分析したところ、図4に示すとおり、不純物をほとんど含まないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明方法で製造したピセンの1H−NMRスペクトルである。
【図2】本発明方法で製造したピセンの1H−NMRスペクトルと、市販のピセンの1H−NMRスペクトルを並べて示したものである。
【図3】本発明方法で製造したピセンのESRスペクトルである。
【図4】本発明方法で製造した5,8−ジブロモピセンの1H−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるピセン化合物を製造するための方法であって、
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素基、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン基、炭素数1〜7のアルカノイル基、カルボキシ基、ニトロ基またはシアノ基を示す]
下記式(II)または下記式(III)で表される増感剤の存在下、
【化2】

[式中、XはO、SまたはNR7(R7は水素基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基または水酸基を示す)を示し;R3とR4は、それぞれ水素基を示すか、または一緒になって単結合、−O−、−S−または=NR8(R8は水素基または炭素数1〜6のアルキル基を示す)を示し;R5とR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜7のアルカノイル基、カルボキシ基、ニトロ基またはシアノ基を示す]
下記式(IV)で表されるジナフチルエタン化合物
【化3】

[式中、R1およびR2は上記と同義を示す]
に光を照射することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
増感剤(II)または増感剤(III)を、ジナフチルエタン化合物(IV)に対して2倍モル以上用いる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
長波長紫外線または中波長紫外線を含む光を照射する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
光の照射強度を100W/m2以上、5000W/m2以下とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法により製造されたピセン化合物を昇華させることにより形成されたことを特徴とするピセン化合物の結晶体。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−143895(P2010−143895A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326231(P2008−326231)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年7月16日にアメリカ化学会発行の電子ジャーナルにおいて発表、ホームページのアドレス[http://pubs.acs.org/toc/jacsat/130/32]
【出願人】(000134637)株式会社ナード研究所 (31)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】