説明

ピタバスタチンを含有する安定化された薬物組成物

【課題】ピタバスタチン製剤は添加剤と相互作用を起こす事で不純物が増加することが知られており、上記類縁物質の出現や溶出遅延は、製剤中のピタバスタチンの含有量の低下を示すことから、安定した治療効果が得られなくなることが懸念される。従って、本発明は、長期保存によるピタバスタチンカルシウムの含量低下が顕著に抑制された、ピタバスタチンカルシウム薬物組成物を提供することを目的とする。長期間にわたり有効成分の安定化が求められていた。
【解決手段】ピタバスタチンカルシウムと糖アルコールとを含む薬物組成物であって、乳糖を含まない、ピタバスタチンカルシウム薬物組成物を提供することで上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性に優れたピタバスタチン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HMG−CoA還元酵素阻害剤であるピタバスタチンは、持続的なコレステロールの低下作用を有する薬剤である。ピタバスタチンを含有する製剤は高脂血症治療剤、高コレステロール血症治療剤、アテローム性動脈硬化症治療剤として市販されている。
【0003】
ピタバスタチン製剤は、長期保存によって(4R,6S)−6−{(E)−2−[2−クロロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル]エチニル}−4−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロ−2H−ピラン−2−オンなどの分解物(以下、『類縁物質』と称する場合がある。)が生成され、該類縁物質は継時的に増加することが知られている。特許第3276962号では、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの制酸剤や、L−アルギニンなどのpH調整剤の添加により、製剤を高pH化する事でピタバスタチンの類縁物質量の増加を低減させることが可能であることが示されている。
【0004】
ところで、錠剤を製造する際には、有効成分のみでは、錠剤のサイズが非常に小さくなるため、成形、増量等の目的として賦形剤を用いる。当業者の間では、賦形剤の第一選択としては、乳糖が用いられている。その理由は、乳糖自体に薬効が存在しない事や、様々な製剤に応用可能であるために、大量生産され、安定な供給が可能である事などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3276962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピタバスタチン製剤における、長期間にわたる有効成分の安定化が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは製剤処方を鋭意検討した結果、ピタバスタチンを含有する製剤において、賦形剤の第一選択として用いられている乳糖を含まず、糖アルコールを含有する製剤では長期間に渡り類縁物質の生成が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、ピタバスタチンカルシウムと、糖アルコールとを含む薬物組成物であって、乳糖を含まない、ピタバスタチンカルシウム薬物組成物を提供する。
【0009】
糖アルコールとしては、D−マンニトール及び/またはエリスリトールが好ましい。さらに好ましくはD−マンニトールが良い。
【0010】
本発明はまた、ピタバスタチンカルシウムと賦形剤とを含む薬物組成物における、糖アルコールのピタバスタチン分解抑制剤としての使用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のピタバスタチンを含有する薬物組成物は、長期間に渡って類縁物質生成が抑制される。すなわち、長期間に渡って安定した有効成分含量を保つ、ピタバスタチンカルシウム薬物組成物の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】保存試験前、及び保存試験後の市販品の溶出挙動を示したグラフ。
【図2】打錠直後、及び保存試験後の実施例3の溶出挙動を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の薬物組成物は、ピタバスタチンカルシウムと糖アルコールを含有し、乳糖を含まない薬物組成物である。
【0014】
本発明の薬物組成物に用いる糖アルコールは、炭素数4〜6の直鎖状糖アルコールである。具体的には、エリスリトール、キシリトール、マンニトールなどが挙げられる。これらから1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0015】
本発明で用いる糖アルコールは、エリスリトール若しくはマンニトールが好ましく、さらに好ましくはマンニトールが良い。マンニトールは立体異性体としてD体、L体及びラセミ体が存在するが、本発明の実施においては、D体が好ましい。
【0016】
糖アルコールの含有割合は、ピタバスタチン1質量倍に対して例えば、1〜100質量倍、好ましくは70〜80質量倍である。糖アルコールの含有割合が上記範囲に満たないと、十分な類縁物質生成抑制効果が発現しない場合があり、好ましくない。糖アルコールの含有割合が上記範囲を超えると、必要量の薬物(ピタバスタチンカルシウム)に対する薬物組成物の総量が不必要に多量となり、好ましくない。
【0017】
乳糖を含むピタバスタチンを含有する薬物組成物は、一般的な医薬品保存条件下で長期間保存した場合、類縁物質が生じる。具体的には実施例で記述するが、乳糖を含むピタバスタチン薬物組成物は、乳糖を含まず、かつ糖アルコールを含む薬物組成物と比べて有意に類縁物質が増加していた。
【0018】
本発明の薬物組成物は、上述のピタバスタチンカルシウム及び糖アルコールに加え、さらに他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、薬物組成物に通常用いられるものを使用でき、特に制限されないが、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などが挙げられる。
【0019】
本発明の薬物組成物の剤形は特に制限されないが、通常、常温で固体の状態である固形製剤である。具体的には、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤等が例示できる。
【0020】
本発明の薬物組成物では、上述の糖アルコールが賦形剤として機能する。従って、ピタバスタチンカルシウムと糖アルコールとからなる薬物組成物をそのまま散剤として用いてもよく、これを造粒して造粒物としてもよい。該造粒物の大きさを適宜調節して、細粒又は顆粒剤とすることもできる。また、上述の散剤、細粒剤、又は顆粒剤をカプセルに封入して、カプセル剤としてもよい。あるいは、ピタバスタチンカルシウムと糖アルコールとからなる薬物組成物又はその造粒物を打錠して、錠剤とすることもできる。
【0021】
本発明の薬物組成物には、該糖アルコールに加えて、さらに他の賦形剤が含まれていてもよい。他の賦形剤としては、結晶セルロール、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、無水リン酸水素カルシウムが例示でき、用いるのは1種でも良く、2種以上でも良い。
【0022】
本発明の薬物組成物を錠剤とする場合や、造粒に付し細粒剤又は顆粒剤とする場合には、さらに、結合剤を含有することが好ましい。また、必要に応じて崩壊剤を含有していてもよい。
【0023】
上述の結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポビドン、カルメロースナトリウムなどを用いることができる。好ましくはヒドロキシプロピルセルロースが良い。
【0024】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースやクロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムなどを用いることができるが、好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが良い。
【0025】
本発明の薬物組成物を錠剤とする場合には、滑沢剤を用いることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウムやタルク、フマル酸ステアリルナトリウムなどを用いることができるが、好ましくはステアリン酸マグネシウムが良い。
【0026】
上記錠剤は必要に応じて表面にコーティングを施しても良い。コーティングは、例えば、適当なコーティング剤を溶媒に溶解又は分散させた、コーティング溶液を錠剤に噴霧して、乾燥し、溶媒を除去することにより施すことができる。上記コーティング剤としては、ヒプロメロース、酸化チタンやメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セラセフェートなどを用いることができる。好ましくはヒプロメロース及び/または酸化チタンが良い。上記溶媒としては、精製水などが挙げられる。
【0027】
上記錠剤は、さらに必要に応じて、光沢剤等を用いて、艶出し等の付加価値を与えたコーティング錠としても良い。
【0028】
光沢化剤としては、カルナウバロウや精製白糖、パラフィン、ヒマシ油などを用いることができるが、好ましくはカルナウバロウが良い。
【0029】
本発明の薬物組成物は、好ましい剤形は、錠剤である。錠剤は、例えば、以下の方法により製造できる。
【0030】
本発明の薬物組成物は、公知の製造条件で製造することができる。例えば、錠剤は、以下の方法により製造できる。
【0031】
ピタバスタチンと糖アルコール、必要に応じて他の賦形剤及び他の添加剤を混合し、均質な粉末混合物とする。混合方法は特に制限されないが、例えば、ポリエチレン等から成る袋に各成分を投入し、密栓した上で激しく振とうする方法や、混合器を用いる方法などが挙げられる。混合器としては、タンブラー型混合器を例示できる。得られた粉末混合物はそのまま打錠して錠剤としてもよいが、好ましくは、造粒物とした後、該造粒物を打錠する。
【0032】
造粒には湿式造粒や乾式造粒を用いることができるが、好ましくは湿式造粒が良い。
【0033】
得られた造粒物に他の添加剤(崩壊剤、滑沢剤等)を加え、混合する。混合の方法は特に制限されず、上述の粉末混合物に用いた方法と同様の方法が採用され得る。得られた造粒物を含む混合物を打錠することで錠剤を得ることができる。打錠方法は半乾式顆粒圧縮法、乾式顆粒圧縮法、湿式顆粒圧縮法のいずれの方法も採用することができる。
【0034】
本発明の薬物組成物において、糖アルコールは、上述のように賦形剤として機能するだけでなく、類縁物質の生成抑制剤としても機能している。換言すれば、糖アルコールは、本発明の薬物組成物においてピタバスタチンカルシウムの安定化剤として使用されている。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0036】
(実施例1)
ピタバスタチンカルシウム(DNPファインケミカル社製)1.0g及びD−マンニトール(マンニットP 三菱商事フードテック社製)66.6gを混合し、均質な粉末混合物を調整した。この粉末混合物を流動層造粒機(FL−LABO フロイント工業製)に投入し、吸気温度70度、吸気風量0.2m/分にて予熱・混合を10分間行った。その後、予め精製水30mLにヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L 日本曹達社製)1.6gを溶解した液を噴霧し顆粒化した後、吸気温度80度、吸気風量0.2m/分にて排気温度が45度となるまで乾燥を行った。
この顆粒と低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC LH21)8.0gをポリエチレン袋に秤取して混合した後、更にステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸Mg 太平化学社製)0.8gを加えて混合して打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末をロータリー式打錠機(VIRGO 24 菊水製作所製)にて、予圧目盛2.0、本圧目盛1.25、打圧700kgの条件で打錠を行い、ピタバスタチンカルシウム含有錠剤(1錠78mg、直径6.0mm、曲率半径 8.0mm)を得た。
【0037】
(実施例2)
D−マンニトールにかえてエリスリトール66.6gを使用した以外は実施例1と同様にエリスリトール含有錠剤を製造した。
【0038】
(比較例1)
D−マンニトールにかえて乳糖水和物66.6gを使用した以外は実施例1と同様に乳糖含有錠剤を製造した。
【0039】
上記実施例1、及び実施例2、並びに比較例1の処方を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(試験例1)
実施例1と2、及び比較例1で得られた錠剤を、温度55度、湿度75%の条件で保存(以下、『保存試験』と称する場合がある。)した。保存試験の開始時、2週間保存後、4週間保存後のピタバスタチンカルシウムの類縁物質量をHPLC法により測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
上記の通り、乳糖含有錠剤(比較例1)では保存試験開始から2週間後で約1%の類縁物質が現れ、4週間後では1.25%まで増加した。一方、エリスリトール含有錠剤(実施例2)で生じたピタバスタチン類縁物質量は比較例の半分以下であった。また、実施例1における量は、比較例における類縁物質量の3分の1以下である。実施例1及び実施例2で得られた錠剤は、乳糖含有錠剤より優れた安定性を有していることが判明した。
【0044】
(実施例3)
D−マンニトールの量を64.6gに変更し、ケイ酸カルシウムを2.0g加えた以外は実施例1と同様に錠剤を製造した。
【0045】
(比較例2)
乳糖の量を64.6gに変更し、ケイ酸カルシウムを2.0g加えた以外は比較例1と同様に錠剤を製造した。
【0046】
上記実施例3、及び比較例2の処方を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
(試験例2)
実施例3と比較例2で得られた錠剤、及び市販品のピタバスタチン製剤(以下、『市販品』と称することがある。)を、温度55度、湿度75%の条件で保存した。保存試験の開始時、2週間保存後、4週間保存後のピタバスタチンカルシウムの類縁物質量をHPLC法により測定した。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
上記の通り、市販品は、保存試験開始から2週間で1%以上のピタバスタチン類縁物質が現れ、4週間後では1.67%まで該類縁物質量が増加した。また、乳糖含有錠剤(比較例2)においても、保存試験開始後4週間後までに約0.3%のピタバスタチン類縁物質が現れていた。一方、乳糖にかえてD−マンニトールを含有した錠剤(実施例3)では試験開始から4週間後においても、ほとんど類縁物質は現れなかった。以上のことから、ケイ酸を含有するピタバスタチン製剤においても、D−マンニトール含有錠剤は、乳糖含有錠剤より優れた安定性を有していることが判明した。
【0051】
(試験例3)
実施例3で得られた錠剤の製造直後、市販品の購入直後、及び該錠剤及び市販品を2週間の保存試験に付したときの、ピタバスタチンの溶出挙動を以下の方法により測定した。
【0052】
各錠剤を、溶出試験器(NTR−6100A 富山産業社製)を用い、日本薬局方一般試験法溶出試験パドル法により毎分50回転の撹拌条件下で溶出試験を行った。溶媒として37度の水900mlを用い、溶出試験開始から規定時間(0分、5分、10分、15分、30分)後、HPLC法にてピタバスタチンの溶出率を求めた。その結果を表5、表6、図1、図2に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
実施例3で得られた錠剤は、2週間の保存試験後においても、溶出挙動に変化は認められなかった。
【0056】
(製造例1)
ピタバスタチンカルシウム4.0g及びD−マンニトール258.4gを混合し、均質な粉末混合物を調整した。この粉末混合物を流動層造粒機(FL−LABO フロイント工業社製)に投入し、吸気温度70度、吸気風量0.2m/分にて予熱・混合を10分間行った。その後、予め精製水122mLにヒドロキシプロピルセルロース6.4gを溶解した液を噴霧し顆粒化した後、吸気温度80度、吸気風量0.2m/分にて排気温度が45度となるまで乾燥を行った。
この顆粒とケイ酸カルシウム8g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース32gをタンブラー型混合機(TM−15 昭和化学機械工作所製)にて30rpm、10分間混合した後、更にステアリン酸マグネシウム3.2gを加えて30rpm、1分間混合して打錠用粉末を得た。
この打錠用粉末をロータリー式打錠機(VIRGO 24 菊水製作所製)にて、予圧目盛2.0、本圧目盛1.25、打圧700kg、盤回転数30rpmの条件で打錠を行い、ピタバスタチンカルシウムを含有する錠剤(1錠78mg、直径6.0mm、R 8.0mm)を得た。
この錠剤をフィルムコーティング機(HC−LABO フロイント産業社製)に投入し、給気温度70度、パン回転数5rpmにて予熱を行った。パン回転数を35rpmに上げ、フィルムコーティング液を噴霧してフィルムコーティングを施した。フィルムコーティング液とは精製水200mLにヒドロキシプロピルメチルセルロース21.2g、クエン酸トリエチル4.0gを溶解させた液に、酸化チタン2.8gを精製水40mLに分散した溶液を加えた液である。規定量(7mg)の皮膜を施した後、排気温度50度となるまで乾燥し、カルナウバロウを散布して艶出しを行い、ピタバスタチンカルシウムを含有するフィルムコーティング錠(1錠85mg、直径6.1mm)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の薬物組成物は、保存安定性に優れ、製剤中のピタバスタチンカルシウムの含量低下が顕著に抑制されたている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピタバスタチンカルシウムと糖アルコールとを含む薬物組成物であって、乳糖を含まない、ピタバスタチンカルシウム薬物組成物。
【請求項2】
前記糖アルコールが、D−マンニトール及び/又はエリスリトールである、請求項1記載のピタバスタチンカルシウム薬物組成物。
【請求項3】
前記糖アルコールが、D−マンニトールである、請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム薬物組成物。
【請求項4】
ピタバスタチンカルシウムと賦形剤とを含む薬物組成物における、糖アルコールのピタバスタチン分解抑制剤としての使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35798(P2013−35798A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174517(P2011−174517)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(593077308)共和薬品工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】