説明

ピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法

【課題】 紙パルプ製造工程において、紙パルプの製造及び製品品質に影響を及ぼすことなく、当該工程水中におけるピッチ粒子やコロイド状ピッチの分散性を向上させ、これらの凝集を防止し、紙の汚点・欠点・断紙、作業性の低下などのピッチ障害を防止するピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法を提供する。
【解決手段】 二塩基性カルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンのポリアミドポリアミン縮合物にエピハロヒドリンを当該ポリアミドポリアミン縮合物中のアミノ基に対してモル比で1:0.001〜1:0.3の範囲で反応させて得られる水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を有効成分として含むことを特徴とする紙パルプ製造工程用ピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙パルプ製造工程におけるピッチ障害を抑制・防止するためのピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙パルプ製造工程におけるピッチは、木材、パルプあるいは紙から遊離した天然樹脂やガム状物質、さらにはパルプ工程や製紙工程で使用される各種添加薬品の有機物などを主体とした非水溶性の粘着性物質である。これらピッチは、パルプスラリー中ではコロイド状となって分散しているが、大きなせん断力、急激なpH変化、硫酸バンドの添加等により、そのコロイド状態が破壊されて凝集・巨大化すると考えられている。凝集・巨大化すると、その粘着性により、ファンポンプ、流送配管、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造装置類へ付着するだけでなく、この付着物がある程度成長した後に剥離して紙に付着することにより、紙の汚点・欠点といった紙の品質の低下、断紙の原因となるなど、生産性・作業性の低下の障害を引き起こす原因となっている。近年、紙の多様化によって使用される薬品類も多様化し、さらに工程では水の循環再使用が進められてピッチ障害は増加し、複雑化してきている。
【0003】
ピッチ障害を抑制・防止する方法としては、種々の提案があり、実施されてきた。例えば、タルクやクレイ等の多孔性無機物を添加する方法(例えば特許文献1、2参照)では、多孔性無機物によりピッチの粘着性を失わせてピッチを紙に抄き込ませるが、無機物が水中に残り、工程水の汚濁、スラッジの堆積、ワイヤーの摩耗・損傷の要因となることがあり問題があった。また、界面活性剤やアニオン性ポリマーを添加し、ピッチ粒子を分散させ凝集・集塊化するのを防止しようとする方法(例えば特許文献3〜5参照)では、短期間の効果は認められるが、水の循環再使用が進んで水中のピッチ量が増加すると効果に限界があり、急激なピッチ障害を起こすことがある。その他、けん化度70〜80モル%のポリビニルアルコールをピッチ分散剤として用いる方法、(例えば特許文献6参照)、けん化度50〜100モル%のポリビニルアルコールと高分子量ゼラチンを併用してピッチの堆積を抑制する方法(例えば特許文献7参照)、カチオン性ポリマーを使用してアニオン電荷を有するピッチを紙へ抄き込む方法(例えば特許文献8〜10参照)、微生物や酵素を添加してピッチを分解する方法(例えば特許文献11、12参照)等が提案されたが、いずれもピッチ障害防止効果が十分ではなく、さらなる改善が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−94687号公報
【特許文献2】特公昭61−48975号公報
【特許文献3】特公昭63−23320号公報
【特許文献4】特開昭60−246888号公報
【特許文献5】特公昭59−28676号公報
【特許文献6】特公平2−14479号公報
【特許文献7】特表平11−503497号公報
【特許文献8】特開昭57−149591号公報
【特許文献9】特公平4−8556号公報
【特許文献10】特公平7−113200号公報
【特許文献11】特公平4−29794号公報
【特許文献12】特開平9−119085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、紙パルプ製造工程において、紙パルプの製造及び製品品質に影響を及ぼすことなく、当該工程水中におけるピッチ粒子やコロイド状ピッチの分散性を向上させ、これらの凝集を防止し、紙の汚点・欠点・断紙、作業性の低下などのピッチ障害を防止するピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、紙パルプ製造工程におけるピッチコントロールに関して鋭意検討を行った結果、特定の水溶性のポリアミドポリアミン縮合物のエピハロヒドリン変性物が優れたピッチ分散作用を示すとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、請求項1に係る発明は、ジカルボン酸化合物(炭素数2〜10)とポリアルキレンポリアミン(炭素数2〜10)から得られるポリアミドポリアミン縮合物にエピハロヒドリンを当該ポリアミドポリアミン縮合物中のアミノ基に対してモル比で1:0.005〜1:0.3となる範囲で反応させて得られる水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を有効成分として含むことを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤である。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤であり、ポリアミドポリアミン縮合物がジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンをモル比で1:0.8〜1.4の範囲で反応させて得られることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤であり、ジカルボン酸化合物がアジピン酸及び/又はセバシン酸であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤であり、ポリアルキレンポリアミンがジエチレントリアミン及び/又はトリエチレンテトラミンであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤であり、エピハロヒドリンがエピクロロヒドリンであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、パルプ又は紙を製造する工程において、請求項1乃至5のいずれかに記載のピッチコントロール剤をパルプに対して水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物として0.001重量%〜1重量%添加することを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、パルプ又は紙を製造する工程において、ピッチが付着する製造装置に請求項1乃至5のいずれかに記載のピッチコントロール剤を噴霧することを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、紙パルプ製造工程において、紙パルプの製造及び製品品質に影響を及ぼすことなく、当該工程水中におけるピッチ粒子やコロイド状ピッチの分散性を向上させ、これらの凝集を防止し、パルプや紙、ファンポンプ、配管、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造装置類への付着および付着物が剥離してパルプや紙への再付着等による紙の汚点・欠点、断紙の発生などのピッチ障害が改善され、製品品質、生産性・作業性の向上及び製造コスト低減にも大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンを特定に比率で反応させて得られたポリアミドポリアミン縮合物に対して、エピハロヒドリンを当該ポリアミドポリアミン縮合物中のアミノ基に特定の範囲の比率で添加して反応させて得られる水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を有効成分として含むことを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤及びこれを用いたピッチコントロール方法である。
【0016】
本発明における紙パルプ製造工程は、蒸解後の紙及びパルプを製造する諸工程で精選工程、漂白工程、調成工程、抄紙工程、プレス工程、回収工程、離解工程、脱墨工程であり、更にはパルプを含む工程水と接する各工程に付帯する配管、ポンプ、貯留タンク等の設備を包含している。また、ピッチとは、パルプ及び当該工程に添加される種々の薬品(例えばサイズ剤、紙力剤等)に由来し、工程水中に微細な粒子状やコロイド状で分散している疎水性の粘着物及び当該粘着物が当該工程内の装置や配管に付着し、何らかの原因で剥離し工程水中に浮遊、懸濁あるいは分散している疎水性の粘着物である。
【0017】
本発明のジカルボン酸化合物(以下「ジカルボン酸化合物」とする)は、分子内に2個のカルボキシル基を有し、脂肪族系、芳香族系、脂環式系のいずれであってもよい、炭素数2〜10のジカルボン酸、当該ジカルボン酸無水物及び当該ジカルボン酸と炭素数1〜5のアルコールとのジカルボン酸モノエステル若しくはジカルボン酸ジエステルである。具体的にジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、3−メチルテトラハイドロフタル酸、4−メチルテトラハイドロフタル酸、3−メチルヘキサハイドロフタル酸、4−メチルヘキサハイドロフタル酸が挙げられる。中でも工業的に入手が容易であることからアジピン酸、セバシン酸が好ましい。これらのジカルボン酸化合物は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明のポリアルキレンポリアミン(以下「ポリアルキレンポリアミン」とする)は、2個の1級アミノ基をアルキレン基で結合した炭素数2〜10のアルキレンジアミン及び2個の1級アミノ基の間に1個以上の2級アミノ基が存在しアルキレン基で結合した炭素数2〜10のポリアルキレンポリアミンである。具体的には、アルキレンジアミンとしてはエチレンジアミン、1、2−プロパンジアミン、1、3−プロパンジアミン、1,2−ブチレンジアミン、1,3−ブチレンジアミン、1,4−ブチレンジアミン、2、3−ブチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカンジアミンなどがあり、ポリアルキレンポリアミンとしてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、イミノビスプロピルアミンが挙げられる。これらの中では、入手が容易であることからジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンが好ましい。これらのポリアルキレンポリアミンは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明のポリアミドポリアミン縮合物(以下「ポリアミドポリアミン縮合物」とする)は、ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンの縮合反応物である。ポリアミドポリアミン縮合物におけるジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンの組成は、通常モル比で1:0.5〜1:2、好ましくは1:0.8〜1:1.4、より好ましくは1:0.9〜1:1.2である。ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンのモル比が、1:0.5〜1:2の範囲以外では、本発明のピッチコントロール効果が十分に得られない。
【0020】
ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンの縮合反応は、通常、窒素気流下でジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンを混合し、120℃〜180℃、好ましくは140℃〜170℃に加熱し、脱水縮合反応を行い、ポリアミドポリアミン縮合物を得る。120℃以下では反応時間が長くなり好ましくない。また、180℃以上では反応副生物が多くなり、好ましくない。この縮合反応は無触媒でも反応が進行するが、反応触媒として塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等のハロゲン化水素酸;硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸化合物;リン酸;ギ酸、酢酸等の有機酸などを使用しても良い。酸触媒量は、特に限定されるものではなく、ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンの種類、量、両者のモル比、要求される縮合反応の程度により適宜選択決定されるもので一律に決められるものではないが、通常、ポリアルキレンポリアミン100モルにつき0.05〜4モルである。酸触媒の使用により、反応温度は110℃〜125℃、好ましくは約145℃〜165℃、より好ましくは約150℃〜155℃となる。反応時間は、ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンの種類、量、両者のモル比、要求される縮合反応の反応温度や程度により適宜選択決定されるもので一律に決められるものではないが、通常は4〜10時間である。ジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンの反応の程度を知る方法としては、例えば極限粘度(I.V、1M−NH4・Cl,2%,25℃)を測定して判断する方法がある。
【0021】
本発明の水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物(以下、「水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物」とする)は、前述のポリアミドポリアミン縮合物にエピハロヒドリンを付加し、エピハロヒドリンによる架橋反応を行うことで得られる。エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどがあり、入手の容易さからエピクロロヒドリンが好ましい。
【0022】
水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物の合成に用いるエピハロヒドリンの量は、ポリアミドポリアミン縮合物中のアミノ基1モルに対いて、エピクロロヒドリンをモル比で0.005モル〜0.3モルの範囲、好ましくは0.01モル〜0.1モルで反応させる。エピハロヒドリンが0.005モル未満では本発明のピッチコントロール効果が得られない。一方、エピハロヒドリンが0.3モルを超えると、得られたポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物は増粘し易く、またゲル化したり、水溶性が失われる場合もあり、安定な水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物が得られない。また、パルプ製造工程水に添加すると、湿潤紙力増強効果が生じ、パルプの凝集化や湿潤紙力の増加による紙質の変化等の操業条件へ影響を及ぼすようになり、好ましくない。
【0023】
ポリアミドポリアミン縮合物とエピハロヒドリンとの反応は、通常、ポリアミドポリアミン水溶液を調製し、室温下(20℃以下)、撹拌しながらエピハロヒドリン水溶液を徐々に添加し、更に1時間〜3時間撹拌してポリアミドポリアミンとエピハロヒドリンの付加反応を行なう。次に30℃〜80℃に加温して1時間〜3時間撹拌し、ポリアミドポリアミンに付加したエピハロヒドリンによる架橋反応を進行させる。あるいは、室温(20℃以下)下、撹拌しながらポリアミドポリアミン水溶液にエピハロヒドリン水溶液を徐々に添加し、添加後、混合液を30〜50℃(好ましくは約40℃)に1時間〜2時間維持し、次に混合液を徐々に昇温して55℃〜75℃にし、1時間〜3時間撹拌して付加したエピハロヒドリンの架橋反応を進行させる方法を用いても良い。架橋の程度は、予め目的とする架橋度の水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物の極限粘度範囲を測定しておき、その所定粘度の範囲に達したならば、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物水溶液に酸を加えて当該pHを2.0〜4.5に調整し、目的とするポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物水溶液を得る。pH調整に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、あるいは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸などの有機酸等がある。
【0024】
本発明の紙パルプ製造工程用ピッチコントロール剤(以下「ピッチコントロール剤」とする)は、水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を有効成分として含むピッチコントロール剤であり、その配合割合は特に限定されるものではないが、通常、取扱性を考慮して、水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を10〜60重量%含む水溶液である。さらに本発明のピッチコントロール剤の効果を妨げない程度に他の工程添加剤、例えば分散性・浸透性を付与するための界面活性剤、消泡剤、スケールコントロール剤、スライムコントロール剤、さらに従来より使われてきたピッチコントロール剤成分の非イオン性界面活性剤、水溶性カチオン系ポリマー、カチオン界面活性剤等を配合・併用してもよい。
【0025】
本発明のピッチコントロール方法は、紙パルプ製造工程において本発明のピッチコントロール剤をピッチ障害の発生している箇所の前段階あるいは、前工程のパルプスラリーや白水に添加することでピッチの付着を抑制し、さらには工程水中の微細粒子状ピッチやコロイド状ピッチの凝集を防止する方法である。その添加量はパルプの種類及び紙の種類、工程の条件、ピッチの発生状況及び要求されるピッチ抑制程度に応じて適宜決定されればよいが、通常、水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物をパルプに対して重量比で0.001重量%〜1重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%である。ピッチコントロール剤の添加方法としては、薬注ポンプを用いてピッチ障害の発生している箇所の前段階あるいは前工程のパルプスラリーや白水に連続添加する方法、タイマーを用いて間歇添加する方法があり、いずれを用いてもよい。
【0026】
また、本発明のピッチコントロール方法として、紙パルプ製造工程においてピッチが付着する製造装置類に本発明のピッチコントロール剤を噴霧する方法を用いてもよい。具体的には、本発明のピッチコントロール剤を適度に希釈(例えば1〜10重量%程度に希釈)して、ピッチの付着し易いワイヤー、ロール、プレス工程のフェルトやロール等の当該洗浄用シャワー水ラインに圧入してシャワー水とともに吹き付ける、あるいはスプレー装置を設置し、直接噴霧する方法がある。この場合のピッチコントロール剤の添加量は、通常、水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物をシャワー水に対して重量比で0.001重量%〜0.5重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%である。この方法によりピッチの付着防止と付着したピッチの粘着性低下が得られ、ピッチの蓄積が抑制される。また、この方法により従来、定修時あるいは汚れのひどいときには装置を止めて、付着したピッチを洗浄剤によって洗浄・除去していた手間が改善される。
【0027】
一般に、ピッチは弱いアニオン性電荷を持って工程水中で微細粒子あるいはコロイド状となって分散し、これが集塊化することによりその付着性あるいは粘着性によりピッチ障害を引き起こすと考えられている。本発明のピッチコントロール剤は、カチオン性電荷を有する水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を有効成分として含むことにより、弱いアニオン性電荷を持つ微細分散ピッチ粒子あるいはコロイド状ピッチを電荷的に取り囲み分散安定化させ、凝集化を防ぐ。更に部分的に架橋した構造を持つことにより弱いアニオン性電荷を持つ微細分散ピッチ粒子あるいはコロイド状ピッチの取り囲みと隣接したピッチ分散粒子の結合による凝集化を防止する。この効果を発揮するためには、水溶性を維持しながらカチオン性と適度な架橋構造を有することが重要であり、さらに連続添加あるいは間歇添加のいずれも場合でも紙力に影響を及ぼすことが無く、ピッチコントロール効果を発揮することが重要である。そのためには、従来の湿潤紙力剤のように紙力に影響を及ぼすレベルのエピハロヒドリンの架橋は好ましくない。一方、架橋のないポリアミドポリアミン縮合物のピッチコントール効果は、既に知られているが、十分満足できるレベルではない。本発明は、湿潤紙力剤として適用できない低レベルの架橋度を持つ水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物が予想し得ない優れたピッチコントロール効果を有することを利用したピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法であり、このようなピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法を今までに示唆するものは何らなかった。
【実施例】
【0028】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
(二塩基酸カルボン酸化合物)
・アジピン酸(A−1):試薬、関東化学(株)
・セバシン酸(A−2):試薬、関東化学(株)
【0030】
(ポリアルキルポリアミン)
・ジエチレントリアミン(B−1):試薬、関東化学(株)
・トリエチレンテトラミン(B−2):試薬、関東化学(株)
【0031】
(エピハロヒドリン)
・エピクロロヒドリン(C−1):試薬、関東化学(株)
・エピブロモヒドリン(C−2):試薬、関東化学(株)
【0032】
(その他)
・20%硫酸(D−1):試薬、関東化学(株)
・10%塩酸(D−2):試薬、関東化学(株)
・10%リン酸(D−3):試薬、関東化学(株)
・10%スルファミン酸(D−4):試薬、関東化学(株)
・10%乳酸(D−5):試薬、関東化学(株)
・ミストロンベーパー(E−1):「ミストロンベーパー」〔商品名、(株)日本ミストロン製〕
・アニオン性ポリマー(E−2):無水マレイン酸−ジイソブチレン共重合体(分子量約1万)「ポリスターOM」(商品名、日本油脂(株)製)
・カチオン性ポリマー(E−3):ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド(分子量約2,000)「KZ−63K」(商品名、センカ(株)製)
・カチオン性界面活性剤(E−4):トリメチルドデシルアンモニウムクロリド「ニッサン カチオンBB」(商品名、日本油脂(株)製)
・ノニオン性界面活性剤(E−5):モノステアリルアミン・エチレンオキシド(20モル)付加物〔C1837N((CH2CH2O)10H)2〕「ニッサン ナイミーンS−220」(商品名、日本油脂(株)製)
【0033】
(ポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物の調製及びピッチコントロール剤の調製)
温度計、リービッヒ冷却器および撹拌機を備えた500mL四つ口フラスコにアジピン酸146g(1.0モル)、ジエチレントリアミン103g(1.0モル)、水10gおよび98%硫酸2g(0.02モル)を入れ、徐々に昇温して水を除去しながら155℃〜160℃で8時間反応させた。反応後、自然放冷して水210gを徐々に加えて、50.1重量%ポリアミドポリアミン縮合物水溶液(680mPa・s)を得た。次に温度計、リービッヒ冷却器および撹拌機を備えた1000mL四つ口フラスコに50.1重量%ポリアミドポリアミン縮合物水溶液130g(2級アミノ基として0.3モル)、水60gを入れて15℃〜20℃に維持しながら、エピクロロヒドリン0.46g(0.005モル)を滴下し、撹拌しながら35℃〜40℃に昇温し4時間維持した。その後、水70gを加え、25重量%ポリアミドポリアミン縮合物水溶液に希釈し、徐々に昇温して55℃〜60℃として2時間維持し、架橋反応を終結させた。撹拌下、水170gを少量ずつ加えて室温まで冷却し、20%硫酸にてpHを3.4に調整し、15重量%のポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物No.1(粘度30mPa・s)を含む均一な水溶液を得て、ピッチコントロール剤No.1とした。同様にして、アジピン酸とジエチレントリアミンの比率、エピクロロヒドリンの比率を変化させ、表1記載の種々のポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物No.2〜18を調製し、各々ピッチコントロール剤No.2〜18とした。
【0034】
(ピッチ付着抑制試験1)
新聞紙抄紙機のワイヤー、フォイル、フェルト、ロールにピッチが付着して断紙が頻発している製紙工場の抄紙機のフォイルから付着ピッチを採取して、クロロホルム:エタノール=2:1混合溶媒に溶かし、20%濃度のピッチ試料とした。また、抄紙機のワイヤー下白水ピットから抄紙白水を採取し、試験液とした。200mLのビーカーに試験液100mLを取り、ピッチコントロール剤の有効成分として100mg相当量を添加した後、TKオートホモミキサーM型〔商品名、特殊機化工業(株)製〕の撹拌部(ミキサー撹拌翼部)を試験液に完全に浸漬させた状態として9,000rpmに撹拌しながらピッチ試料500mgを注入し、さらに1分間撹拌した。ビーカーおよびミキサーの付着物をクロロホルムで溶解、抽出して付着量を求め、次式よりピッチ付着防止率(%)を求めた。
ピッチ付着抑制率(%)=〔(a−b)/a〕×100
a:ピッチコントロール剤無添加時の付着量(mg)
b:ピッチコントロール剤添加時の付着量(mg)
ピッチ付着抑制率(%)が高いほど、ピッチコントロール剤の効果が高いことを示している。結果を表2に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
本発明のポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物を有効成分とするピッチコントロール剤は、従来の無機系ピッチコントロール剤のミストロンベーパー、ポリマー系ピッチコントロール剤や界面活性剤系ピッチコントロール剤に比べて、優れたピッチの付着防止効果を有することが分かる。
【0038】
(ピッチ付着抑制試験2)
古紙を原料として、ライナーおよび中芯原紙を抄造しているマシンでは、粘着性のピッチがワイヤー、ロール、特にプレス工程の1Pフェルトに付着して断紙や穴あきが頻発していた。そのため、ミストロンベーパー(E−1)をミキシングチェストに0.1重量%(対パルプ)添加し、さらにワイヤーの洗浄シャワー洗浄ラインやプレス工程の1Pフェルトのシャワー洗浄ラインにピッチコントロール剤〔ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(E−3)とドデシルトリメチル4級アンモニウム塩型カチオン性活性剤(E−4)の重量比で90:10混合物〕を100ppm(対シャワー水)添加してシャワー洗浄していた。しかし、ワイヤー、フェルトを3日に1回洗浄する必要があるほか、断紙も多く発生して生産に支障を来していた。そこで、本発明のピッチコントロール剤No.3(ポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物No.3の15重量%水溶液)、ピッチコントロール剤No.8(ポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物No.8の15重量%水溶液)、ピッチコントロール剤No.6(ポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン縮合物No.6の15重量%水溶液)と従来品との実機での効果を比較した。評価は、目視評価による「フェルトのピッチ付着量」、「洗浄回数(回/週)」、「断紙回数(回/週)」とその総合評価とした。この内、「フェルトのピッチ付着量」は、現在の処方であるミストロンベーパー(E−1)とピッチコントロール剤〔ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(E−3)とドデシルトリメチル4級アンモニウム塩型カチオン性活性剤(E−4)の重量比で90:10混合物〕を基準に目視評価で
×:現行品使用時よりも付着量が多い。
△:現行品使用時と付着量は同等。
○:現行品使用時よりも付着量が少ない。
とし、さらに「フェルトのピッチ付着量」、「洗浄回数(回/週)」、「断紙回数(回/週)」の結果から以下のように「総合評価」を行った。
×:ピッチ障害があり、不良。
○:ピッチ障害が無く、良好。
結果を表3に示した。
【0039】
【表3】

【0040】
本発明のピッチコントロール剤をシャワー洗浄ラインに添加することで、ミストロンベーパー(E−1)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(E−3)とドデシルトリメチル4級アンモニウム塩型カチオン性活性剤(E−4)の重量比で90:10混合物の併用よりも優れたピッチコントロール効果を示し、安定操業に大きく寄与することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸化合物(炭素数2〜10)とポリアルキレンポリアミン(炭素数2〜10)から得られるポリアミドポリアミン縮合物にエピハロヒドリンを当該ポリアミドポリアミン縮合物中のアミノ基に対してモル比で1:0.005〜1:0.3となる範囲で反応させて得られる水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物を有効成分として含むことを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤。
【請求項2】
ポリアミドポリアミン縮合物がジカルボン酸化合物とポリアルキレンポリアミンをモル比で1:0.8〜1.4の範囲で反応させて得られる請求項1記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤。
【請求項3】
ジカルボン酸化合物がアジピン酸及び/又はセバシン酸である請求項1又は請求項2記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤。
【請求項4】
ポリアルキレンポリアミンがジエチレントリアミン及び/又はトリエチレンテトラミンである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤。
【請求項5】
エピハロヒドリンがエピクロロヒドリンである請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の紙パルプ製造工程用のピッチコントロール剤。
【請求項6】
パルプ又は紙を製造する工程において、請求項1乃至5のいずれかに記載のピッチコントロール剤をパルプに対して水溶性ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン縮合物として0.001重量%〜1重量%添加することを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール方法。
【請求項7】
パルプ又は紙を製造する工程において、ピッチが付着する製造装置に請求項1乃至5のいずれかに記載のピッチコントロール剤を噴霧することを特徴とする紙パルプ製造工程用のピッチコントロール方法。

【公開番号】特開2007−277734(P2007−277734A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101910(P2006−101910)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】