説明

ピッチ系炭素短繊維フィラー及びそれを用いた成形体

【課題】高熱伝導性であり、成形性が高いピッチ系炭素短繊維フィラー及び複合成形材料を提供すること。
【解決手段】透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であるピッチ系炭素短繊維フィラーであり、個数平均繊維長が80μm以上500μm以下であることをピッチ系炭素短繊維フィラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素短繊維を原料に用いた熱伝導性フィラーに関わるものである。更に詳しくは、平均繊維径及びその分布、平均繊維長及びその分布、表面及び端面の形状を制御したピッチ系炭素短繊維フィラーに関わるものであり、これを用いた複合成形体は、電子部品の放熱部材や熱交換器、電磁波遮蔽に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途などに広く用いられている。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が問題になっている。これらを解決するためには、熱を効率的に処理するという、いわゆるサーマルマネジメントを達成する必要がある。
【0004】
炭素繊維は、通常の合成高分子に比較して熱伝導率が高く、放熱性に優れていると言われている。炭素繊維など炭素材料は、フォノンの移動により高い熱伝導率を達成すると言われている。このフォノンは、結晶格子が発達している材料において良く伝達する。実際は、市販のPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さく、サーマルマネジメントの観点からは必ずしも好適であるとは言い難い。これに対して、ピッチ系炭素繊維は黒鉛化性が高いために結晶格子が良く発達し、PAN系炭素繊維に比べて高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。
【0005】
炭素繊維以外に熱伝導性が優れた物質として、酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、シリカ、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などが知られている。しかし、金属材料系の充填材の多くは比重が高く複合材としたときに重量が大きくなってしまう。炭素繊維は比重が小さく金属材料系の充填材と同じ体積で添加した場合、複合材の重量を軽くできるというメリットがあるのみならず、その形状が繊維状であることより、カーボンブラックを使用したときの様な粉落ちが起こり難く、更には複合材の補強硬化を示すというメリットもある。
【0006】
次にサーマルマネジメントに用いる複合材の特徴について考察する。複合材が十分な熱伝導を達成するためには、熱伝導を主として担うフィラーが三次元的にネットワークを形成している必要がある。例えばサイズの揃った球体フィラーの場合、成形体中のフィラーのネットワークは分散状態にも依存するが、均一分散を仮定すると、パーコレーション的な挙動となる。したがって、十分な熱伝導性や電気伝導性を得るためには一定以上のフィラーの添加が必要になる。ところが、成形体を形成する手法においては、媒質とフィラーを一定以上の濃度で分散することが非常に困難なことが多い。
【0007】
このような背景により、効果的に熱を伝達させるために、三次元的な架橋をフィラーに与える検討がされている。例えば金属を網目状にすることで、熱流を輸送する試みが特許文献1に開示されている。しかし、マトリクスへの分散に極めて高度な技術を要すると考えられる。また、特許文献2には、合金化することでマトリクスとフィラーが同時に溶融し、その結果、成形性を維持しながら高熱伝導性が達成されることが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−196884号公報
【特許文献2】国際公開第03/029352号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、軽量で熱伝導性の高い樹脂組成物を作成するためには、熱伝導が高く比重の小さい物質が求められており、さらに最終的な使用状態において最大の熱伝導性を発現するようなフィラーの制御が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、最終的な成形体において熱伝導率を向上させること及び比重を小さくすることを目的とし、熱伝導性材料として熱伝導率の高いピッチ系炭素短繊維を、平均繊維径及びその分散、平均繊維長及びその分布、表面形状、微細構造に着目し、適切に制御し、さらにマトリクスに分散させることにより、これが達成できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明の目的は透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であるピッチ系炭素短繊維フィラーであり、平均繊維長が80μm以上500μm以下であることをピッチ系炭素短繊維フィラーによって達成することができる。
【0012】
さらに本発明の目的は、上記ピッチ系炭素短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とからなり、樹脂100体積部に対して3〜200の前記フィラーを含有する組成物を提供することにある。
さらに本発明の目的は、上記成形体を主たる材料とする電子部品用放熱材であり、電波遮蔽材であり、または熱交換器を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、特定の形状を有し、さらにサイズが制御されていることにより、高い耐湿熱性を有し、マトリクスの粘度増大を抑制しつつ、高い熱伝導率を複合成形体に付与することが可能になり、成形性が良好で熱伝導率の高い複合成形材料にすることが可能である。当該複合成形体は電子部品用放熱板や熱交換器の効率を高めることが可能になる。さらに、ピッチ系炭素短繊維が、数GHzの周波数帯域の電波遮蔽性に優れることにより、電波遮蔽板を供給することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、透過型電子顕微鏡でフィラー端面の形状を観察すると、グラフェンシートが閉じた構造になっていることを特徴とする。フィラーの端面がグラフェンシートとして閉じている場合には、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こらないので、水のような不純物の濃度を低減することができ、例えば、縮合系ポリマーの様に加水分解の影響を受ける様な樹脂と複合化する際に、耐加水分解性が向上するという点から好ましい。また、黒鉛化の際炭素繊維の収縮により立て割れが発生しやすくなるが、端面が閉じているとこれを抑制するため、複合成形体としたとき機械強度が低下するのを抑制する。特に、本発明のように、繊維長が1mmよりも短いフィラーにおいては、フィラー表面積に占める端面の割合が高くなることより、グラフェンシートが閉じている構造が特に好ましい。
【0015】
なお、グラフェンシートが閉じているとは、炭素繊維を構成するグラフェンシートそのものの端部が炭素繊維端部に露出することなく、グラファイト層が略U字上に湾曲し、湾曲部分が炭素繊維端部に露出している状態である。
【0016】
また、本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であることを特徴とする。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸を表面に有しないことを意味し、フィラーの表面に激しい凹凸が存在する場合には、マトリクス樹脂との混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸はできるだけ小さい状態が望ましい。実質的に平滑であることを定義するのに特に制限は無いが、具体的には走査型電子顕微鏡での観察において、視野中(倍率1000)に凹凸が10箇所以下であれば含まれていてもよいことを意味する。
【0017】
観察表面を平滑なピッチ系炭素短繊維フィラーは、後で詳述するが炭素繊維フィラーを粉砕後に黒鉛化することにより得ることができる。黒鉛後に粉砕すると、ピッチ系炭素短繊維フィラーの凹凸が多くなり、走査型電子顕微鏡での観察表面に凹凸が観察される。
【0018】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、平均繊維長が80μm以上500μm以下である。平均繊維長が80μmを下回ると、複合材内部でのピッチ系炭素繊維フィラー同士のネットワークが十分に形成できず、高い熱伝導率を発揮するにはフィラーの充填量を増やす必要がある。一方、平均繊維長が500mmを超えると繊維の交絡が著しく増大し、樹脂と混合した際に粘度が非常に大きくなりハンドリングが困難になる。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。
【0019】
本発明のピッチ系炭素繊維フィラーの光学顕微鏡で観測した平均繊維径は2〜20μmであることが好ましい。2μm未満の場合には、単位重量当りの炭素繊維の本数が多くなり、比表面積が大きくなる。結果、マトリックスと混合した時の粘度が高くなり、ピッチ系炭素繊維フィラーの多量の添加が困難になる。平均繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりするところが発生する。より好ましくは5〜15μmであり、さらに好ましくは6〜12μmである。
【0020】
なお、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率として求められるCV値は、5〜20であることが好ましい。CV値が5を下回ることは工程上あり得ない。また、CV値が20を超えると、不融化でトラブルを起こす直径が20μm以上の繊維が増える可能性が高くなり、生産性の観点から好ましくない。
【0021】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が30〜60%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が10〜29%であることが好ましい。目開き53μmのメッシュのふるい上に残る炭素短繊維フィラーは、マトリックスを好適に形成し、熱伝導に有効に作用する。また、100μmのメッシュのふるい上に残る炭素繊維は、かさ密度が高いためマトリックス内で交絡することで空隙を形成する。この空隙に、53μmのメッシュの下に残る短い炭素繊維が入ることで、マトリックス内での炭素繊維の充填状態が好適になる。本条件を好適に満足するのが、53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が30〜60%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が10〜29%である。上記の平均繊維長、メッシュの上に残存する割合は粉砕条件及び分級条件を制御することにより、制御できる。
【0022】
具体的な制御方法としては、粉砕後にふるいやメッシュを用いて短い繊維長または、長い繊維長のピッチ系炭素短繊維フィラーを除去することである。また粉砕の強度、例えばカッターの刃の回転数、ボールミルの回転数などを制御することで、繊維長の分布を制御でき、これとふるいやメッシュによる制御を組み合わせることで、ふるい上の割合をより精密に制御できる。
【0023】
本発明においてピッチ系炭素短繊維フィラーの真密度は、黒鉛化温度に強く依存するが、1.8〜2.3g/ccの範囲のものが好ましい。より好ましくは、1.9〜2.3g/ccである。また、ピッチ系炭素短繊維フィラーの繊維軸方向の熱伝導率は300W/(m・K)以上であり、より好ましくは、400W/(m・K)以上である。
【0024】
また、ピッチ系炭素短繊維フィラーは、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが10nm以上であり、さらに六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが20nm以上であることが好ましい。
【0025】
結晶子サイズは六角網面の厚み方向、六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ及び六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めるこができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては、学振法を用いた。六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて夫々求めた。結晶子サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。
【0026】
以下本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーの好ましい製造法について述べる。本発明で用いられるピッチ系炭素繊維フィラーの原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチは、黒鉛化処理を行った際に黒鉛化度が向上しやすため、炭素繊維の熱伝導性を向上させる上で特に好ましいためである。
【0027】
原料ピッチとなる光学異方性ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、250℃以上350℃以下が好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、350℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
【0028】
光学異方性ピッチは溶融後、ノズルより吐出しこれを冷却することによる溶融紡糸によって繊維化できる。紡糸方法としては、具体的には口金から吐出したピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でも、曲率半径の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いるのが好ましい。
【0029】
光学異方性ピッチは溶融紡糸された後、不融化、焼成、必要に応じて粉砕を経て最後に黒鉛化することによってピッチ系炭素繊維フィラーとする。原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化、焼成、ミリング、黒鉛化によってピッチ系炭素短繊維となる。場合によっては、ミリングの後、篩い分け工程を入れることもある。本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは透過型電子顕微鏡で観察したグラフェンシートが閉じていることを特徴とするが、このようなピッチ系炭素短繊維フィラーは、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。以下、メルトブロー法を例にとって、各工程の好ましい態様について説明する。
【0030】
紡糸時の温度は、光学異方性ピッチの粘度が3〜25Pa・S(30〜250ポイズ)の範囲にある温度であることが望ましい。更に好ましくは5〜20Pa・S(50〜200ポイズ)の範囲にある温度である。紡糸ノズルは、導入角αが10〜90°であり、吐出口長さLと吐出口の径Dの比L/Dが6〜20の範囲にあるノズルが好ましく用いられる。紡糸条件がこの範囲にある時、光学異方性ピッチにかかるせん断力が、芳香環をある程度配列させることできる。紡糸条件がこの条件から外れる時、例えば、粘度がより大きい、もしくは導入角がより小さい、もしくはL/Dがより大きい時などせん断力がより強くかかる条件では、配列が進みすぎて黒鉛化した際に、炭素繊維が割れやすくなる。逆に粘度がより小さい、もしくは導入角がより大きい、もしくはL/Dがより小さいなどせん断力がより小さいなどせん断力が小さくかかる条件では、芳香環があまり配列しないため、黒鉛化処理しても黒鉛化度がそれほど向上せず、高い熱伝導性が得られない。
【0031】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が好ましい。
【0032】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマットとなる。
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体においても反映されるようになる。
【0033】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、公知の方法で不融化する。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが好ましい。また、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で600〜1500℃で焼成され、次いで2000〜3500℃で黒鉛化されるが、焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される場合が多く、黒鉛化は使用する炉の形式に応じて、不活性ガスの種類を変更する事が一般的である。
【0034】
不融化後或いは焼成後、必要に応じ得られた繊維を粉砕する。粉砕は公知の方法によって行うことができる。具体的には、カッター、ボールミル、ジェットミル、クラッシャーなどを用いることができる。ミリングを効率よく行うためには、ブレードを取付けたロータを高速に回転させることにより、繊維軸に対して直角方向に繊維を寸断する方法が適切である。
【0035】
粉砕条件及び分級条件の具体的な制御については上述のとおり、粉砕後にふるいやメッシュを用いて短い繊維長または、長い繊維長のピッチ系炭素短繊維フィラーを除去することで可能である。また粉砕の強度、例えばカッターの刃の回転数、ボールミルの回転数などを制御することで、繊維長の分布を制御でき、これとふるいやメッシュによる制御を組み合わせることで、ふるい上の割合をより精密に制御できる。
【0036】
上記のミリング処理、篩分けを終えた繊維を2300〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系炭素短繊維とする。黒鉛化は、アチソン炉等にて外部からの物理的、化学的作用を遮断できる雰囲気下で実施される。黒鉛化温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2000〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2300〜3500℃である。黒鉛化の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の炭素繊維を、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、黒鉛化処理中または冷却中に炉内の酸化性のガス、または水蒸気との反応による当該炭素繊維の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。
【0037】
本発明においてピッチ系炭素短繊維フィラーは、表面処理したのちサイジング剤をフィラー100重量部に対し0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜2.5重量部添着させてもよい。サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。このような表面処理は、嵩真密度を高くすることを鑑みると有効である。ただ、過剰のサイジング剤の添着は、熱抵抗となるため、必要とされる物性に応じてこれを実施することができる。
【0038】
ピッチ系炭素短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とを混合した組成物も包含する。この際、ピッチ系炭素短繊維フィラーは、樹脂100体積部に対して3〜200体積部を添加させる。3体積部より少ない添加量では、熱伝導性を十分に確保することが難しい。一方、200体積部より多いピッチ系炭素短繊維フィラーの樹脂への添加は困難であることが多い。
【0039】
樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれか一つ以上を含有し、さらに複合成形体に所望の物性を発現させるために熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0040】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸類(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル)、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。
【0041】
なかでも熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂が好ましく挙げられる。
【0042】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、熱硬化型PPE類等が挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0043】
本発明の複合材料及び複合成形体は、ピッチ系炭素短繊維フィラーと樹脂とを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。そして、複合成形体は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法等の成形方法にて、成形することが可能である。成形条件は、手法とマトリクスに強く依存し、熱可塑性樹脂の場合は、当該樹脂の溶融粘度より温度を上げた状態で成形を実施する。マトリクスが熱硬化性樹脂の場合は、適切な型において、当該樹脂の硬化温度を付与するといった方法を挙げることができる。
【0044】
また、本発明の複合材料及び複合成形体において炭素繊維以外の熱伝導性フィラーも必要に応じて使用する事もできる。具体的にはシリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、銀、金、銅、アルミニウムなどの金属もしくは合金、グラファイト、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。
【0045】
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、炭化珪素およびシリカなどの非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。
【0046】
本発明の組成物を平板状に成形し、熱伝導率を測定すると2W/(m・K)以上の熱伝導率を示す。2W/(m・K)の熱伝導率は、マトリクスとして用いている樹脂に比較すると約一桁高い熱伝導率である。
【0047】
本発明の組成物は、その熱伝導率の高さを利用することで、電子部品用放熱板として用いることができる。また、ピッチ系炭素短繊維フィラーの添加量を多くすることで、高い熱伝導度が得られるため、電子部品においても、比較的耐熱性が要求される自動車や大電流を必要とする産業用パワーモジュールのコネクタ等に好適に用いることができる。より具体的には、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、筐体等に用いることができる。また、熱交換器の部品として用いることもできる。ヒートパイプに用いることができる。さらに、ピッチ系炭素短繊維フィラーの電波遮蔽性を利用し、特にGHz帯の電波遮蔽用部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(1)ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径及び繊維径分散は、黒鉛化を経たピッチ系炭素繊維フィラーをJIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維長:
平均繊維長は、個数平均繊維長であり、黒鉛化を経たピッチ系炭素短繊維フィラーを光学顕微鏡下で測長器で2000本測定(10視野、200本ずつ測定)し、その平均値から求めた。倍率は糸長さに応じて適宜調整した。
(3)ピッチ系炭素短繊維フィラーのメッシュ上に残る割合は、100gの炭素繊維を目開き100μm、目開き53μmのメッシュで振盪機(タナカテック製、R−1)で篩い分けし、篩い分け後得られた炭素繊維の質量を測定することで求めた。
(4)ピッチ系炭素短繊維フィラーの真密度は、JIS R7601に記載の密度勾配管法にて測定した。
(5)結晶サイズは、X線回折にて求め、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズは(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは(110)面からの回折線を用いて求めた。また、求め方は学振法に準拠して実施した。
(6)ピッチ系炭素繊維の熱伝導率は、電気比抵抗を粉砕工程以外を同じ条件で作製した、黒鉛化後ピッチ系炭素繊維の両端の距離が1cmになるように銀ペーストを用いて固定し、両端の電気抵抗をテスターで20本測定し、ピッチ系炭素繊維の半径を用いて計算して求め、熱伝導率と電気抵抗の下記関係式(特許第3648865号参考)から計算により求めた。
K=1272.4/ER−49.4
(Kは炭素繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは炭素繊維の電気比抵抗μΩm)
(7)ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(8)ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(9)平板状成形体の熱伝導率は、京都電子製QTM−500で測定した。
【0049】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は325℃であり、溶融粘度は18.5Pa・S(185poise)であった。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ系短繊維からなるウェブとした。
【0050】
このウェブを空気中で175℃から310℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中800℃で焼成した後、ミリングし、カッター(ターボ工業製)で800rpmで粉砕し、目開き1mmのふるいで分級したものを3000℃で黒鉛化した。黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は9.7μm、繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は10%であった。平均繊維長は平均で150μmであり、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が45%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が24%であった。真密度は、2.15g/ccであった。
【0051】
ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、38nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、77nmであった。
ピッチ系炭素繊維の電気抵抗は1.6μΩmであり、熱伝導率は750W/(m・K)であった。
【0052】
[実施例2]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分6000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が11μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は320℃であり、溶融粘度は21.0Pa・S(210poise)であった。紡出された短繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付280g/mのピッチ系短繊維からなるウェブとした。
【0053】
このウェブを空気中で175℃から280℃まで平均昇温速度3℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中800℃で焼成した後、ミリングし、カッター(ターボ工業製)で700rpmで粉砕し、目開き1mmのふるいで分級したものを3000℃で黒鉛化した。黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は8.1μm、繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は13%であった。平均繊維長は平均で135μmであり、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が37%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が16%であった。真密度は、2.15g/ccであった。
【0054】
ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、39nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、84nmであった。
ピッチ系炭素繊維の電気抵抗は1.6μΩmであり、熱伝導率は750W/(m・K)であった。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、カッターの回転数を900rpmに変更したこと以外は同様の方法でピッチ系炭素短繊維フィラーを作成した。
黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は9.7μm、繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は11%であった。平均繊維長は平均で130μmであり、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が35%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が18%であった。真密度は、2.15g/ccであった。
【0056】
ピッチ系炭素短繊維フィラーの端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、37nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、77nmであった。
ピッチ系炭素繊維の電気抵抗は1.6μΩmであり、熱伝導率は750W/(m・K)であった。
【0057】
[比較例1]
実施例1において粉砕工程を焼成後から黒鉛化後に変更したことこと以外は同様の方法で、ピッチ系炭素繊維フィラーを作製した。
黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は9.7μm、繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は11%であった。平均繊維長は平均で140μmであり、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が41%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が19%であった。真密度は、2.15g/ccであった。
【0058】
得られたピッチ系炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系炭素短繊維フィラー端面のグラフェンシートが開いている箇所があることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は16個であり実質的に平滑でなかった。
【0059】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、37nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、77nmであった。
ピッチ系炭素繊維の電気抵抗は1.6μΩmであり、熱伝導率は750W/(m・K)であった。
【0060】
[実施例4]
ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)100体積部に対し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー60体積部で二軸混練機(栗本鉄工所製)にて混練し、マスターチップとした。このチップを射出成形機(名機製作所製M−50B)で、厚み2mmの平板の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.5W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で500時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0061】
[実施例5]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチクス製202)100体積部に対し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー80体積部で二軸混練機(栗本鉄工所製)にて混練し、マスターチップとした。このチップを射出成形機(名機製作所製M−50B)で、厚み2mmの平板の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.2W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で500時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0062】
[実施例6]
ポリフェニレンスルフィド樹脂(ポリプラスチックス製0220A9)100体積部に対し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー60体積部で二軸混練機(栗本鉄工所製)にて混練し、マスターチップとした。このチップを射出成形機(名機製作所製M−50B)で、厚み2mmの平板の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.9W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で500時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0063】
[実施例7]
ポリプロピレン樹脂(サンアロマー製PM900A)100体積部に対し、実施例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー80体積部で二軸混練機(栗本鉄工所製)にて混練し、マスターチップとした。このチップを射出成形機(名機製作所製M−50B)で、厚み2mmの平板の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.3W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で500時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0064】
[実施例8]
シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製SE−1740)100体積部に対し、実施例3で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー100体積部で自公転攪拌器(シンキー製あわとり錬太郎AR−250)にて混練し、複合スラリーとした。このスラリーを1辺300mmの正方形の金枠に設置し、真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、11.2W/(m・K)であった。
【0065】
[実施例9]
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製エピコート871、エピキュア307)150体積部に対し、実施例3で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー100体積部で自公転攪拌器(シンキー製あわとり錬太郎AR−250)にて混練し、複合スラリーとした。このスラリーを1辺300mmの正方形の金枠に設置し、真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、14.1W/(m・K)であった。
【0066】
[比較例2]
ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)100体積部に対し、比較例1で作製したピッチ系炭素短繊維フィラー60体積部で二軸混練機(栗本鉄工所製)にて混練し、マスターチップとした。このチップを射出成形機(名機製作所製M−50B)で、厚み2mmの平板の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、1.3W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で500時間保持したところ、複合材料は手で二つに折ることができ、耐加水分解性に劣ることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは、フィラーの表面状態、平均繊維長及びその分散、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際にふるい上に残る割合、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるいやメッシュによる分級によりふるい上に残る割合を制御することでこれを用いた複合材が高い熱伝導性を発現し、高い成形性を有することを可能にせしめている。これにより、高い放熱特性が要求される場所に用いることが可能になり、サーマルマネージメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であるピッチ系炭素短繊維フィラーであり、平均繊維長が80μm以上500μm以下であることをピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項2】
光学顕微鏡で観測した平均繊維径が2〜20μmの範囲であり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV)が3〜20の範囲であり、目開き53μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が30〜60%、目開き100μmのメッシュのふるいで分級した際に、ふるい上に残る割合が10〜29%であることを特徴とする請求項1に記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項3】
真密度が1.8〜2.3g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が300W/(m・K)以上である、請求項1または2に記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項4】
六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが10nm以上であり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系炭素短繊維フィラー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに1項に記載のピッチ系炭素短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とからなり、樹脂100体積部に対して3〜200体積部の前記フィラーを含有する組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
平板状に成形した状態における熱伝導率が2W/(m・K)以上である、請求項5〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の組成物を、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、およびブロー成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して得られる成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の成形体を主たる材料とする電子部品用放熱材。
【請求項11】
請求項9に記載の成形体を主たる材料とする電波遮蔽材。
【請求項12】
請求項9に記載の成形体を主たる材料とする熱交換器。

【公開番号】特開2009−108118(P2009−108118A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278798(P2007−278798)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】