説明

ピッチ系炭素短繊維

【課題】放熱性が高いマトリックスとの親和性が高い放熱材料を得ることができるピッチ系炭素短繊維を提供すること。
【解決手段】下記(i)〜(iv)の要件を満足するピッチ系炭素短繊維。
(i)メソフェーズピッチを原料として得られ、
(ii)平均繊維径が5〜20μmであり、
(iii)平均繊維長が5〜6000μmであり且つ
(iv)表面pHが3.0〜4.8である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面pHを制御したピッチ系炭素短繊維に関するものである。更には、メルトブロー法によって作製したピッチ系炭素短繊維の物理性状や結晶サイズを制御することにより、放熱用途として適するピッチ系炭素短繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子系繊維に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途などに広く用いられている。
【0003】
炭素繊維は、通常の合成高分子系繊維に比較して熱伝導率が高く、放熱性に優れていると言われている。炭素繊維など炭素材料は、フォノンの移動により高い熱伝導率を達成すると言われている。フォノンは、結晶格子が発達している材料において良く伝達する。市販のPAN系炭素繊維は結晶格子が十分に発達しているとは言えず、その熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さく、サーマルマネジメントの観点からは必ずしも好適であるとは言い難い。これに対して、ピッチ系炭素繊維は黒鉛化性が高いために結晶格子が良く発達し、PAN系炭素繊維に比べて高熱伝導率を達成しやすいと云われている。
【0004】
近年、発熱性電子部品の高密度化や、携帯用パソコンをはじめとする電子機器の小型、薄型、軽量化に伴い、それらに用いられる放熱部材の低熱抵抗化の要求が益々高まっており、放熱特性の更なる向上が要求されている。放熱部材の熱伝導率を向上させるには、マトリックスに熱伝導材を高充填させることが多い。その他には、マトリックスと熱伝導材の界面の密着性を高めることでも、熱伝導率を向上させることができる。
【0005】
炭素繊維そのものは硬く成形性に乏しいため、放熱部材として用いる場合は通常マトリックスと複合する。従って、熱伝導率を向上させるには、炭素繊維をマトリックス中に高充填させるか、界面の密着性を高める必要がある。一般的には、高充填させるための手法も、界面の密着性を高める手法も、炭素繊維とマトリックスとの親和性を高めることで達成できる。そしてこれは、炭素繊維のサイジング処理によって行われる場合が多い(例えば、特許文献1等参照)。しかし、サイジング処理することはプロセスを一つ加えることであり、炭素繊維の高コスト化に繋がる。
【特許文献1】特許第3120643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、熱伝導性に優れる放熱材料が求められているという観点から、熱伝導材とマトリックスの親和性が高まるのが望ましい。またこれを達成するのに、プロセスを加えるなどコストが高くなるのは望ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱伝導性に優れた放熱材料を作成するための優れた熱伝導材を提供することを鑑み、表面pHを制御したピッチ系炭素短繊維が、放熱部材の中でマトリックスとの親和性が高く、良好な熱伝導率を有する放熱部材を提供できることを見出し本発明に到達した。
【0008】
本発明によれば、
下記(i)〜(iv)の要件を満足するピッチ系炭素短繊維が提供される。
(i)メソフェーズピッチを原料として得られ、
(ii)平均繊維径が5〜20μmであり、
(iii)平均繊維長が5〜6000μmであり且つ
(iv)表面pHが3.0〜4.8である。
【0009】
また、本発明のピッチ系炭素短繊維は平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20であること、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であること、真密度が1.5〜2.3g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が300W/(m・K)以上であることも好ましい態様として包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のピッチ系炭素短繊維は、表面pH及び繊維の形状を一定サイズに制御することで、マトリックスと炭素短繊維との親和性を高め、放熱材料の高性能化を可能にせしめている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について順次説明していく。
本発明で用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることが炭素短繊維の熱伝導性を向上させる上で特に好ましい。
【0012】
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、250℃以上350℃以下が好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、350℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
【0013】
原料ピッチは溶融後、ノズルより吐出しこれを冷却することによる溶融紡糸によって繊維化できる。紡糸方法として特に限定はないが、具体的には口金から吐出したピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられるが、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いるのが好ましい。
【0014】
原料ピッチは溶融紡糸された後、不融化、焼成、粉砕を経て最後に黒鉛化することによってピッチ系炭素短繊維とする。以下、メルトブロー法を例にとって、各工程について説明する。
【0015】
本発明においては、ピッチ系炭素短繊維の原料となるピッチ繊維の紡糸ノズルの形状については特に制約はないが、ノズル孔の長さと孔径の比4よりも大きいものが好ましく用いられ、更に好ましくは5よりも大きいものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2.0〜20.0Pa・S、好ましくは3.0〜15.0Pa・Sになる温度であればよい。
【0016】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が好ましい。
【0017】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマットとなる。
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体においても反映されるようになる。
【0018】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、それ自体公知の方法で不融化する。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが好ましい。また、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で600〜1500℃で焼成され、次いで2000〜3500℃で黒鉛化されるが、焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される場合が多く、黒鉛化は使用する炉の形式に応じて、不活性ガスの種類を変更する事が一般的である。不融化後或いは焼成後、必要に応じ得られた繊維を粉砕する。粉砕は公知の方法によって行うことができる。具体的には、ボールミル、ジェットミル、クラッシャーなどを用いることができる。
【0019】
粉砕されたピッチ系炭素短繊維を必要に応じて焼成し、次いで黒鉛化する。黒鉛化温度は、炭素短繊維としての熱伝導率を高くするためには、2000〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2300〜3100℃である。黒鉛化の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の炭素短繊維を、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、黒鉛化処理中または冷却中に炉内の酸化性のガス、または水蒸気との反応による当該炭素短繊維の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。
【0020】
本発明で用いるピッチ系炭素短繊維は、表面pHが3.0〜4.8好ましくは3.2〜4.5であることが望ましい。表面pHはピッチ系炭素短繊維1.0gを純水20g中で1時間攪拌し、得られた液をpHメーターで測定することで求められる。pHがこの範囲にある場合、マトリックスの親和性が良好であり、ピッチ系炭素短繊維をマトリックス中の充填率を高めること、また界面の密着性を高めることが可能となり、熱伝導率の高い放熱部材を得ることが可能になる。これに対し、pHが4.8より高い場合は炭素短繊維とマトリックスの親和性が高まらず、ピッチ系炭素短繊維のマトリックス中の充填率やピッチ系炭素短繊維とマトリックスの界面の接着性を高めることが困難になる。また、pHが3.0を下回る場合は、酸性が強くなりポリカーボネートやポリエステルなどのマトリックスに対する分解性が高くなり、複合材として用いるのが困難になる。
【0021】
ピッチ系炭素短繊維の表面pHを制御するには特に制限は無いが、具体的には黒鉛化温度を低くすること、黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維を酸処理すること或いは、オゾン処理することで可能になる。
【0022】
ピッチ系炭素短繊維の平均繊維径は5〜20μmであることが必要である。5μm以下の場合には、原料となるマットの形状が保持できなくなることがあり生産性が悪い。繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりするところが発生する。より好ましくは5〜15μmであり、さらに好ましくは8〜12μmである。
【0023】
これに対してピッチ系炭素短繊維の平均長さは5〜6000μmであることが好ましい。5μmを下回ると繊維としての特徴が失われ、十分な熱伝導度を発揮できない。一方6000mmを超えると繊維の交絡が著しく増大し、樹脂と混合した際に粘度が非常に大きくなりハンドリングが困難になる。より好ましくは10〜3000μm、さらに好ましくは20〜1000μmである。
【0024】
なお、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率として求められるCV値は、5〜20であることが好ましい。CV値が5を下回ることは工程上あり得ない。また、CV値が20を超えると不融化でトラブルを起こす、直径が20μm以上の繊維が増える可能性が高くなり、生産性の観点から好ましくない。
【0025】
本発明のピッチ系炭素短繊維、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であることが望ましい。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶子サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。より好ましくは、20nm以上であり、さらに好ましくは30nm以上である。
【0026】
ピッチ系炭素短繊維の真密度は1.5〜2.3g/ccであることが好ましい。1.5g/ccを下回ると黒鉛化度が不十分であるために、十分な熱伝導度を発揮できない。2.3g/ccを上回るには、非常に大きなエネルギーを必要とするため、コストの観点から好ましくない。
【0027】
本発明のピッチ系炭素短繊維は、マトリックスと複合してコンパウンド、シート、グリース、接着剤等の熱伝導性成形体を得ることができる。マトリックスとして特に限定はないが、具体的にはポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリスルホン系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルケトン系、ポリエーテルエーテルケトン系、エポキシ系、アクリル系、フェノール系、シリコーン系樹脂などを用いることができる。熱伝導性成形体なおいてピッチ系炭素短繊維は、重量で5〜60%好ましくは8〜50%配合される。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示すが、本願発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素短繊維の表面pHは、ピッチ系炭素短繊維1gと純水20gを混合、1時間攪拌し、得られた液をpHメーターで測定した。
(2)ピッチ系炭素短繊維の直径は、焼成を経た炭素短繊維を光学顕微鏡下で50倍にスケールを用いて測定した。
(3)ピッチ系炭素短繊維の糸長は、焼成を経た炭素短繊維を抜き取り測長器で測定した。
(4)ピッチ系炭素短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(5)ピッチ系炭素短繊維の密度は、JIS R7212に記載のブタノール法にて測定した。
(6)ピッチ系炭素短繊維の熱伝導率は、フィラーの電気抵抗を測定し、計算して求めた。
(7)ピッチ系炭素短繊維/ポリカーボネ―ト複合物の熱伝導率は、京都電子製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
【0029】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ系短繊維からなる3次元ランダムマットとした。
【0030】
この3次元ランダムマットを空気中で170℃から285℃まで平均昇温速度6℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。この3次元ランダムマットをボールミルで粉砕し、3000℃で黒鉛化した。黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維を20%硫酸で70℃で1時間処理した。得られたピッチ系炭素短繊維の表面pHは3.5、糸径は平均で9.8μm、糸径平均に対する糸直径分散の比は12%であった。糸長は平均で300μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは70nmであった。密度は2.18g/cc、熱伝導率350W/m・Kであった。
【0031】
上述のピッチ系炭素短繊維をポリカーボネート(帝人化成製、L−1225WP)とをニーダー(栗本鐵工所製)で混合したところ、ポリカーボネート100重量部に対し120重量部まで混合することができた。作製した炭素短繊維/ポリカーボネート複合物の熱伝導率を測定したところ、2.3W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で100時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0032】
[実施例2]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ系短繊維からなる3次元ランダムマットとした。
【0033】
この3次元ランダムマットを空気中で170℃から285℃まで平均昇温速度6℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。この3次元ランダムマットをボールミルで粉砕し、2400℃で黒鉛化した。得られたピッチ系炭素短繊維の表面pHは4.5、糸径は平均で9.3μm、糸径平均に対する糸直径分散の比は12%であった。糸長は平均で300μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは190nmであった。密度は2.24g/cc、熱伝導率410W/m・Kであった。
【0034】
上述のピッチ系炭素短繊維をポリカーボネート(帝人化成製、L−1225WP)とをニーダー(栗本鐵工所製)で混合したところ、ポリカーボネート100重量部に対し80重量部まで混合することができた。作製した炭素短繊維/ポリカーボネート複合物の熱伝導率を測定したところ、1.7W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で100時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0035】
[比較例1]
酸処理を行わなかった以外は実施例1と同様の方法でピッチ系炭素短繊維を作成した。得られたピッチ系炭素短繊維の表面pHは5.4、糸径は平均で9.3μm、糸径平均に対する糸直径分散の比は12%であった。糸長は平均で300μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは190nmであった。密度は2.24g/cc、熱伝導率410W/m・Kであった。
【0036】
上述のピッチ系炭素短繊維をポリカーボネート(帝人化成製、L−1225WP)とをニーダー(栗本鐵工所製)で混合したところ、ポリカーボネート100重量部に対し80重量部まで混合することができた。作製した炭素短繊維/ポリカーボネート複合物の熱伝導率を測定したところ、1.2W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で100時間保持したところ、複合材料を手で折ることはできなかった。
【0037】
[比較例2]
酸処理を40%硫酸で行った以外は実施例1と同様の方法でピッチ系炭素短繊維を作成した。得られたピッチ系炭素短繊維表面pHは2.5、糸径は平均で9.3μm、糸径平均に対する糸直径分散の比は12%であった。糸長は平均で300μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは17nmであった。密度は2.16g/cc、熱伝導率310W/m・Kであった。
【0038】
上述のピッチ系炭素短繊維フィラーをポリカーボネート(帝人化成製、L−1225WP)とをニーダー(栗本鐵工所製)で混合したところ、ポリカーボネート100重量部に対し120重量部まで混合することができた。作製した炭素短繊維/ポリカーボネート複合物の熱伝導率を測定したところ、2.2W/(m・K)であった。温度80℃、湿度90%で100時間保持したところ、複合材料は手で二つに折ることができ、耐加水分解性に劣ることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のピッチ系炭素短繊維は、ピッチ系炭素短繊維の表面pHを制御することで、マトリックスとの親和性を高めこれを用いた複合材が高い熱伝導性を発現させることを可能にせしめている。これにより、高い放熱特性が要求される場所に用いることが可能になり、サーマルマネジメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iv)の要件を満足するピッチ系炭素短繊維。
(i)メソフェーズピッチを原料として得られ、
(ii)平均繊維径が5〜20μmであり、
(iii)平均繊維長が5〜6000μmであり且つ、
(iv)表面pHが3.0〜4.8である。
【請求項2】
表面pHが3.2〜4.5である請求項1記載のピッチ系炭素短繊維。
【請求項3】
平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20である請求項1記載のピッチ系炭素短繊維。
【請求項4】
六角網面の成長方向に由来する結晶サイズが5nm以上である請求項1記載のピッチ系炭素短繊維。
【請求項5】
真密度が1.5〜2.3g/ccの範囲であり且つ繊維軸方向の熱伝導率が300w/(m・K)以上である請求項1記載のピッチ系炭素短繊維。
【請求項6】
溶融したメソフェーズピッチをメルトブロー法により繊維化することによって得られた請求項1記載のピッチ系炭素短繊維。
【請求項7】
請求項1記載のピッチ系炭素短繊維を含有する樹脂から形成された熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2009−30191(P2009−30191A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193370(P2007−193370)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】