説明

ピッチ系黒鉛化短繊維集合体及び熱伝導性組成物

【課題】厚み方向の熱伝導性に優れる熱伝導性組成物を作製するのに適したピッチ系黒鉛化短繊維集合体を提供すること。
【解決手段】ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したことを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維集合体。ピッチ系黒鉛化短繊維100体積部に対し、収束剤0.1〜5体積部含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したピッチ系黒鉛化短繊維集合体である。また、これを用いた熱伝導性組成物に関わるものを含む。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。また、電子注入を発光原理とするエレクトロルミネッセンス素子においても同様に重篤な問題として顕在化している。そして、このような製品が内包する熱に由来する問題を解決するためには、熱の効率的な処理(サーマルマネジメント)を達成する必要がある。
【0004】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0005】
ただ、炭素繊維単体での熱伝導性部材への加工は困難であり、非常に特殊な手法を用いる必要がある。そこで、金属性フィラー等と同様に、何らかのマトリクスと炭素繊維を複合材化し、その組成物の熱伝導度を向上させることが求められる。
【0006】
次にサーマルマネジメントに用いる成形体の特徴について考察する。一般的に、炭素繊維は成形体の面内方向に並びやすい傾向がある。炭素繊維は繊維軸方向に熱伝導が発生するため、成形体の熱伝導も面内方向に優れる傾向にあり、厚み方向への熱伝導はあまり期待できないことが多い。しかし、発熱体と放熱体との間に熱伝導性成形体を挟んで使用する場合は、面内の熱伝導をある程度維持しつつ、成形体の厚み方向の熱伝導に優れていることが好ましい。特許文献1、2、3には、炭素繊維に磁場を印加して成形体の厚み方向に並べる方法が紹介されている。しかし、非常に高い磁場を印加するため、装置が高価になり、また安全上の課題もある。更に、ほとんど全ての炭素繊維が厚み方向に並ぶため、面内の熱伝導を維持するのが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−12911号公報
【特許文献2】特開2007−128986号公報
【特許文献3】特開2007−326976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、厚み方向に高い熱伝導性を示す成形体を作製するのに好適なピッチ系黒鉛化短繊維集合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、厚み方向に高い熱伝導性を有する成形体を得ようと鋭意検討を重ねた結果、熱伝導性に優れるピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したピッチ系黒鉛化短繊維集合体が、マトリクス中で厚み方向にネットワークを形成するのに優れることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明は、ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したことを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維集合体により達成できる。すなわち本発明は、ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したピッチ系黒鉛化短繊維集合体であって、ピッチ系黒鉛化短繊維100体積部に対し、収束剤0.1〜5体積部含むことを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維集合体である。
【0011】
また、本発明は上記ピッチ系黒鉛化短繊維集合体と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなり、マトリクス100体積部に対して10〜300体積部のピッチ系黒鉛化短繊維集合体を含有する組成物を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維集合体は、熱伝導性に優れるピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化することで、これを用いた熱伝導性組成物が厚み方向に高い熱伝導性を有することを可能にせしめている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維集合体の光学顕微鏡観察写真
【図2】図1の光学顕微鏡観察写真の図解
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明はピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したピッチ系黒鉛化短繊維集合体であって、ピッチ系黒鉛化短繊維100体積部に対し、収束剤0.1〜5体積部含むことを特徴とする。
【0015】
ここでピッチ系黒鉛化短繊維集合体とは、ピッチ系黒鉛化短繊維と収束剤とからなり、ミクロにはピッチ系黒鉛化短繊維を好ましくは3〜100本、収束剤で固定化しているものである。三次元的に異なる方向にピッチ系黒鉛化短繊維を向けるにはピッチ系黒鉛化短繊維は3本以上必要である。また、ピッチ系黒鉛化短繊維集合体に含まれるピッチ系黒鉛化短繊維が100本を越えると、ピッチ系黒鉛化短繊維が絡み合うことで形成される空隙に入ったマトリクスは流動性を失い、その結果、ピッチ系黒鉛化短繊維集合体とマトリクスを混練する際に、粘度が向上し成形性が低下する。マクロにはピッチ系黒鉛化短繊維100体積部を収束剤0.1〜5体積部で固定化し、適宜粉砕処理等を施すことによりマトリックスに充填することが可能な形状を有する集合体としたものである。
【0016】
また、本発明のピッチ系黒鉛化短繊維集合体はピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤で三次元ランダム状に固定していることを特徴とする。本発明において三次元ランダム状に固定とは集合体内部においてピッチ系黒鉛化短繊維が同一方向もしくは同一平面に向いているのでは無く、三次元的に異なる方向を向いている状態をいう。また、三次元的に異なる方向を向いている割合に特に制限は無いが、ピッチ系黒鉛化短繊維が最も多く向いている方向をX軸とし、X軸から90度向いた方向の内、ピッチ系黒鉛化短繊維が最も少なく向いている方向をZ軸とした時、X軸に向いているピッチ系黒鉛化短繊維10本に対し、Z軸に向いているピッチ系黒鉛化短繊維の割合が3〜9本であることが好ましい。この割合にある時、樹脂組成物を得る際に、厚み方向の熱伝導率を効果的に向上させることができる。ランダムに固定されていることは光学顕微鏡などにより確認することができる。
【0017】
ここでZ軸を向いているピッチ系黒鉛化短繊維の本数の数え方は、45度や60度など斜めに向いている場合は、X軸に対して形成した角度をかけて計算する。ピッチ系黒鉛化短繊維が、X軸に対して0〜30度にある時は0本、X軸に対して30〜60度にある時は0.5本、X軸に対して60〜90度にある時は1本として数える。
【0018】
我々が既に提案している技術、あるいは公知技術において、ピッチ系黒鉛化短繊維を用いて成形体を得るには、マトリクスとピッチ系黒鉛化短繊維を何らかの手法で混練させた後成形する。成形法には押出成形法、射出成形法、ロール成形法などがあるが、これらはいずれもマトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維混練物にずりをかけながら成形することになる。このずりによりピッチ系黒鉛化短繊維はずり方向に配向する傾向がある。ずりは組成物の面内方向と平行にかかることが多いため、ピッチ系黒鉛化短繊維は面内方向に配向する傾向がある。ピッチ系黒鉛化短繊維の熱伝導は繊維の配向した方向に発揮されるため、ピッチ系黒鉛化短繊維を用いた成形体の熱伝導は面内方向に優れることが多い。そのため、厚み方向の熱伝導率を高めるには、ピッチ系黒鉛化短繊維を厚み方向に向ける必要がある。
【0019】
ピッチ系黒鉛化短繊維を厚み方向に向けるには、ピッチ系黒鉛化短繊維を加工し厚み方向に向きやすくする方法と、成形の際に厚み方向に向ける方法の2通りがある。ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤で三次元ランダム状に固定するのは、前者の方法に相当する。ピッチ系黒鉛化短繊維を三次元ランダム状に固定することで、ある確率でピッチ系黒鉛化短繊維は厚み方向に向くことになる。この厚み方向に向いたピッチ系黒鉛化短繊維が厚み方向の熱伝導率向上に貢献する。
【0020】
[収束剤]
本発明において用いる収束剤に特に限定は無いが、溶剤に溶解性を示す高分子又は熱硬化性樹脂などを用いることができる。溶剤に溶解性を示す高分子としては例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレングリコール系高分子、ポリエチレンオキシド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリ酢酸ビニル系高分子、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルピロリドン系高分子、水性ポリエステル系高分子、水性アルキド系高分子、水溶性シリコーン系高分子、水溶性セルロース系高分子、水溶性多糖類、水溶性タンパク質、フッ素系樹脂などがある。
【0021】
また、熱硬化性樹脂に特に限定は無いが、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂などが挙げられる。これら収束剤の選択には、組成物を作成するのに用いるマトリクスとの親和性や、マトリクスと混練する際の温度を考慮して選択するのが好ましい。また、これら収束剤は必要に応じ、適宜混合して用いることもできる。
【0022】
[ピッチ系黒鉛化短繊維集合体を得る方法]
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維集合体を得る方法として特に限定は無いが、具体的には溶剤に溶解性を示す高分子を溶解させた溶液中もしくは熱硬化性樹脂中に、ピッチ系黒鉛化短繊維を分散させ、必要に応じてろ過を実施し、固定化させた後、更に粉砕処理をする方法が挙げられる。
【0023】
ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により固定化する方法としては、高分子溶液の固化、ゲル化による固定、もしくは溶剤の揮発に伴う高分子の固定、もしくは熱硬化性樹脂(前駆体)を熱処理して硬化させることによる固定が挙げられる。ここで、分散時もしくは溶剤の揮発時に、攪拌を行いながら実施すると、攪拌によりピッチ系黒鉛化短繊維がランダムな方向に向く。その状態のままで溶剤の揮発や熱硬化性樹脂の熱処理などの固定化処理を実施すると、三次元ランダム状に固定しやすく、好ましいピッチ系黒鉛化短繊維集合体が得られる。
【0024】
収束剤の添加量は、ピッチ系黒鉛化短繊維100体積部に対し、0.1〜5体積部である。添加量が0.1体積部より小さいと収束剤が少なすぎて、マトリクス成分との混練の際に収束が解除される。添加量が5体積部より大きいと、収束剤がピッチ系黒鉛化短繊維を覆ってしまい、ピッチ系黒鉛化短繊維のネットワークが形成しにくくなり、高い熱伝導率が発揮しにくくなる。
【0025】
[組成物]
また本発明は、上記のピッチ系黒鉛化短繊維集合体と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分を含有する組成物も包含する。本発明の組成物は、該マトリクス成分100体積部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維集合体の含有量が10〜300体積部であることが好ましい。ピッチ系黒鉛化短繊維集合体の含有量が10体積部未満だと、熱伝導剤が少なく、熱伝導性が期待できない。逆にピッチ系黒鉛化短繊維集合体の含有量が300体積部を超えると、ピッチ系黒鉛化短繊維集合体をマトリクス成分に分散させ、均一に優れた熱伝導性を有する組成物を得るのが困難になりやすい。好ましくは10〜150体積部である。
【0026】
マトリクスは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種であるが、複合成形体に所望の物性を発現させるために熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0027】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリオレフィン類及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸類及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸類及びその共重合体、ポリアセタール類及びその共重合体、フッ素樹脂類及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン類及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、芳香族ポリアミド類及びその共重合体、ポリイミド類及びその共重合体、ポリアミドイミド類及びその共重合体、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、エラストマー、液晶性ポリマー、シリコーンオイル等が挙げられる。これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0028】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類などが挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0029】
ゴムとしては特に限定は無いが天然ゴム(NR)、アクリル系ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBRゴム)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム(CR)、シリコーン系ゴム及びその共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン系ゴム(BR)、ブチルゴムなどがある。
【0030】
本発明の組成物は、平板状に成形した状態における厚み方向の熱伝導率が2W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率が2W/m・K以上の場合、発熱体とヒートシンクの間に挟んで使用する際に、発熱体からヒートシンクに効率的に熱を輸送することができ、効果的なヒートマネジメントが可能になる。組成物の熱伝導率を2W/m・K以上にする手段として特に限定はないが、具体的にはピッチ系黒鉛化短繊維集合体もしくはその他熱伝導剤の充填量を増やすことや、ピッチ系黒鉛化短繊維集合体の収束状態をコントロールすること、すなわちピッチ系黒鉛化短繊維を被覆してしまいネットワーク形成を阻害する様なことを避けることにより達成できる。後者に関しては、収束剤の量を抑制することにより達成できる。中でもピッチ系黒鉛化短繊維と親和性が高く、ピッチ系黒鉛化短繊維を被覆するような収束剤、例えばエポキシ樹脂の場合、収束剤の量を減らすことが好ましい。エポキシ樹脂を収束剤として用いる場合、熱伝導率が2W/m・K以上の熱伝導性組成物を得るためにはピッチ系黒鉛化短繊維100体積部に対し、エポキシ樹脂0.1〜2.5体積部とすることが好ましい。
【0031】
[ピッチ系黒鉛化短繊維]
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維集合体は、充填させたときの成形性や熱伝導性の発現等の観点から、特定の形状のピッチ系黒鉛化短繊維を用いることが好ましい。
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2〜20μmであることが好ましい。D1が2μmを下回る場合、マトリクスと複合する際に当該短繊維の本数が多くなるため、マトリクスとピッチ系黒鉛化短繊維を混練する際の粘度が高くなり、ハンドリングが困難になることがある。逆にD1が20μmを超えると、マトリクスと複合する際に短繊維の本数が少なくなるため、当該短繊維同士が接触しにくくなり、熱伝導性組成物とした時に効果的な熱伝導を発揮しにくくなることがある。D1の好ましい範囲は5〜15μmであり、より好ましくは7〜13μmである。
【0032】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測したピッチ系黒鉛化短繊維における繊維径分散(S1)の平均繊維径(D1)に対する百分率(CV値)は3〜15%であることが好ましい。CV値は繊維径のバラツキの指標であり、小さい程、工程安定性が高く、製品のバラツキが小さいことを意味している。CV値が3%より小さい時、繊維径が極めて揃っているため、ピッチ系黒鉛化短繊維の間隙に入るサイズの小さな短繊維の量が少なくなり、ピッチ系黒鉛化短繊維をより密に充填するのが困難になり、結果として高い熱伝導率を有する熱伝導性組成物を得にくくなることがある。逆にCV値が15%より大きい場合、ピッチ系黒鉛化短繊維をマトリクスと複合する際に、分散性が悪くなり、均一な性能を有する熱伝導性組成物を得ることが困難になることがある。CV値は好ましくは、5〜13%である。CV値は、紡糸時の溶融ピッチの粘度を調節すること、具体的には、メルトブロー法にて紡糸する際は、紡糸時のノズル孔での溶融粘度を5.0〜25.0Pa・sに調整することで実現できる。
【0033】
ピッチ系黒鉛化短繊維は、一般的には平均繊維長1mm未満からなるミルドファイバーと平均繊維長1mm以上10mm未満からなるカットファイバーの2種類がある。ミルドファイバーの外観は粉状のため分散性に優れ、カットファイバーの外観は繊維状に近いため、繊維同士の接触が得られやすい特徴がある。
【0034】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維はミルドファイバーに該当し、その平均繊維長(L1)は、20〜500μmであることが好ましい。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、顕微鏡下で所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。L1が20μmより小さい場合、当該短繊維同士が接触しにくくなり、高い熱伝導率を有する熱伝導性組成物を得にくくなることがある。逆に500μmより大きくなる場合、マトリクスとピッチ系黒鉛化短繊維を混練する際の粘度が高くなり、ハンドリングが困難になることがある。より好ましくは、20〜300μmの範囲である。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法として特に制限はないがミリングの条件、すなわちカッター等で粉砕する際の、カッターの回転速度、ボールミルの回転数、ジェットミルの気流速度、クラッシャーの衝突回数、ミリング装置中の滞留時間を調節することにより平均繊維長を制御することができる。また、ミリング後のピッチ系炭素短繊維から、篩等の分級操作を行って、短い繊維長または、長い繊維長のピッチ系炭素短繊維を除去することにより調整することができる。
【0035】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、黒鉛結晶からなり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが好ましい。結晶子サイズは六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めることができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては学振法が好適に用いられる。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて求めることができる。
【0036】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、透過型電子顕微鏡による繊維末端観察において、グラフェンシートの端面が閉じていることが好ましい。グラフェンシートの端面が閉じている場合、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こり難い。このため、ピッチ系黒鉛化短繊維に活性点が生じず、熱伝導性組成物にした時、マトリクスの劣化、例えば加水分解を抑制し、湿熱耐久性能を向上することが可能となる。50万〜400万倍に拡大した透過型電子顕微鏡による視野範囲で、グラフェンシートの端面は80%超閉じていることが好ましい。80%以下であると余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化を引き起こし、マトリクスとの反応を促進する可能性があるため好ましくない。グラフェンシート端面の閉鎖率は90%以上が好ましく、更には95%以上が更に好ましい。
【0037】
グラフェンシート端面構造は、黒鉛化の前に粉砕を実施するか、黒鉛化の後に粉砕を実施するかにより、大きく異なる。すなわち、黒鉛化後に粉砕処理を行った場合、黒鉛化で成長したグラフェンシートが切断破断され、グラフェンシート端面が開いた状態になり易い。一方、黒鉛化前に粉砕処理を行った場合、黒鉛の成長過程でグラフェンシート端面がU字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系黒鉛化短繊維端部に露出した構造になり易い。このため、グラフェンシート端面閉鎖率が80%を超えるようなピッチ系黒鉛化短繊維を得るためには、粉砕を行った後に黒鉛化処理することが好ましい。
【0038】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は走査型電子顕微鏡での側面の観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系黒鉛化短繊維に有しないことを意味する。ピッチ系黒鉛化短繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクスとの混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法としては、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。
【0039】
以下本発明に用いられるピッチ系炭素短繊維の好ましい製造法について述べる。
本発明に用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物のピッチ等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認出来る。
【0040】
更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0041】
ピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、粉砕、黒鉛化によってピッチ系黒鉛化短繊維となる。場合によっては、粉砕の後、分級工程を入れることもある。
【0042】
以下ピッチ系黒鉛化短繊維製造の各工程の好ましい態様について説明する。
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適応することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0043】
ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては、2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超えると、ノズルを通過するメソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じさせることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、結果として黒鉛の配向が低いピッチ系炭素繊維前駆体となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度を十分に上げることが出来ず、熱伝導性を向上させ難く好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するには、メソフェーズピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、更には3〜12の範囲が特に好ましい。
【0044】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。
【0045】
ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、メソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成するため好ましくない。メソフェーズピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、メソフェーズピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、更には3〜30Pa・sの範囲にすることが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることが更に好ましい。
【0046】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径(D1)が2〜20μm以下であることを特徴とするが、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0047】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0048】
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0049】
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0050】
炭化処理されたピッチ系炭素繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕・粉砕等の処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、切断にはギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用され、破砕、粉砕には衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。処理雰囲気は湿式、乾式のどちらでもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。
【0051】
上記の切断、破砕・粉砕処理、場合によっては分級処理を併用して作成したピッチ系炭素短繊維は、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系黒鉛化短繊維とする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0052】
本発明においてピッチ系黒鉛化短繊維は、収束剤もしくは熱伝導性組成物に用いるマトリクスとの親和性をより高め、ハンドリング性の向上を目的として、表面処理をしても良い。表面処理の方法として特に限定は無いが、具体的には、電着処理、めっき処理、オゾン処理、プラズマ処理、酸処理などが挙げられる。
【0053】
[組成物]
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維集合体を含有する組成物は熱伝導性に優れるが、その熱伝導率をより高めるために、ピッチ系黒鉛化短繊維以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属もしくは金属合金、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。これらを機能に応じて適宜添加してもよい。また、2種類以上併用することも可能である。
ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
また、必要に応じて他の添加剤を複数、組成物に添加しても構わない。他の添加剤としては離型剤、難燃剤、乳化剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0054】
さらに、成形性、機械物性などのその他特性をより高めるために、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼化アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などの繊維状フィラーを必要な機能に応じて適宜添加してもよい。これらを2種類以上併用することも可能である。ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク及びセラミックビーズなどの非繊維状フィラーも必要に応じて適宜添加することが可能である。これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
【0055】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維集合体を含有する組成物の用途は、電子部品の放熱部材、熱伝導性充填剤等がある。例えば、本発明の組成物は、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に伝熱させるために使用され、発熱性電子部品と放熱部品の間に挟みこまれて使用される。これによって、発熱性電子部品と放熱部品との間の伝熱が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。或いは、ヒートパイプとヒートシンクの接続や、種々の発熱体の入ったモジュールとヒートシンクとの接続に好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維長は、セイシン企業製PITA1を用いて1500本測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)ピッチ系黒鉛化短繊維集合体の外観は光学顕微鏡下で50個観察し、形状及び一つのピッチ系黒鉛化短繊維集合体に含まれるピッチ系黒鉛化短繊維の本数、ピッチ系黒鉛化短繊維が最も少なく向いた方向の本数が最も多く向いた方向の本数に対する割合を確認した。
(7)熱伝導性組成物の厚み方向の熱伝導率は、NETZSCH製LFA−447を用いキセノンフラッシュ法で求めた。
【0057】
[参考例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。メソフェーズ率は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は328℃であり、溶融粘度は13.5Pa・s(135poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付400g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から320℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて900rpmで粉砕し、3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は9%であった。個数平均繊維長は70μm、六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平坦であった。
【0058】
[実施例1]
水98体積部と粉末寒天(和光純薬工業社製)2体積部と参考例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維100体積部とを80℃に加熱しながら攪拌翼を用いて20分間混合し分散させた後、冷却し固化させた。固化した寒天・ピッチ系黒鉛化短繊維混合物を100℃で乾燥させた後、メノウ乳鉢で粉砕することでピッチ系黒鉛化短繊維集合体を得た。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維は三次元的にランダムであった。ピッチ系黒鉛化短繊維集合体の光学顕微鏡観察の一例を図1、および図1における太線の円中の集合体についての図解を図2に示す。この光学顕微鏡観察例では1視野中、丸で囲んだ6個の集合体について形状を観察したが、このようにして計50個の平均をとった。
その結果、一つのピッチ系黒鉛化短繊維集合体に平均15本のピッチ系黒鉛化短繊維が含まれていた。ピッチ系黒鉛化短繊維が最も少なく向いた方向の本数が最も多く向いた方向の本数に対する割合は60%であった。
【0059】
[実施例2]
ジクロロメタン298体積部とポリカーボネート(帝人化成製L−1225W)2体積部と参考例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維100体積部とを攪拌翼を用いて20分間混合し分散させた後、ロータリーエバポレーターを用い攪拌しながら80℃で乾燥させた。乾燥したポリカーボネート/ピッチ系黒鉛化短繊維混合物をメノウ乳鉢で粉砕することでピッチ系黒鉛化短繊維集合体を得た。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維は三次元的にランダムであった。また、一つのピッチ系黒鉛化短繊維集合体に平均12本のピッチ系黒鉛化短繊維が含まれていた。ピッチ系黒鉛化短繊維が最も少なく向いた方向の本数が最も多く向いた方向の本数に対する割合は45%であった。
【0060】
[実施例3]
メチルエチルケトン298.7体積部、エポキシ樹脂主剤(ジャパンエポキシレジン製商品名「エピコート(登録商標)871」)1体積部、エポキシ樹脂硬化剤(ジャパンエポキシレジン製商品名「エピキュア(登録商標)FL240」)0.3体積部、および参考例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維100体積部とを攪拌翼を用いて20分間混合し分散させた後、ロータリーエバポレーターを用い攪拌しながら80℃で乾燥させた。これを150℃、2時間処理した。熱処理したエポキシ・ピッチ系黒鉛化短繊維混合物をメノウ乳鉢で粉砕することでピッチ系黒鉛化短繊維集合体を得た。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維は三次元的にランダムであった。また、一つのピッチ系黒鉛化短繊維集合体に平均25本のピッチ系黒鉛化短繊維が含まれていた。ピッチ系黒鉛化短繊維が最も少なく向いた方向の本数が最も多く向いた方向の本数に対する割合は35%であった。
【0061】
[実施例4]
実施例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維集合体30体積部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)70体積部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、130℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の厚み方向の熱伝導率を測定したところ、5.5W/(m・K)であった。
【0062】
[実施例5]
実施例2で得られたピッチ系黒鉛化短繊維集合体30体積部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)70体積部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、130℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の厚み方向の熱伝導率を測定したところ、4.6W/(m・K)であった。
【0063】
[実施例6]
実施例2で得られたピッチ系黒鉛化短繊維集合体30体積部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)70体積部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、130℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の厚み方向の熱伝導率を測定したところ、4.5W/(m・K)であった。
【0064】
[比較例1]
参考例で得られたピッチ系黒鉛化短繊維30体積部とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング製、SE1740)70体積部を真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて3分間混合し、複合スラリーとした。このスラリーを真空プレス機(北川精機製)で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得、30℃で2時間硬化することで、熱伝導性組成物を作成した。熱伝導性組成物の厚み方向の熱伝導率を測定したところ、1.8W/(m・K)であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維集合体を用いた組成物は、厚み方向に高い熱伝導性を発現させることを可能にせしめている。これにより、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放熱フィンや放熱ファン等の高い放熱特性が要求される場所に用いることが可能であり、サーマルマネジメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ系黒鉛化短繊維を収束剤により三次元ランダム状に固定化したピッチ系黒鉛化短繊維集合体であって、ピッチ系黒鉛化短繊維100体積部に対し、収束剤0.1〜5体積部含むことを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維集合体。
【請求項2】
収束剤が、溶剤に溶解性を示す高分子又は熱硬化性樹脂である請求項1に記載のピッチ系黒鉛化短繊維集合体。
【請求項3】
該ピッチ系黒鉛化短繊維が、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が2〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15%であり、個数平均繊維長が20〜500μmであり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、かつ走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である請求項1〜2のいずれかに記載のピッチ系黒鉛化短繊維集合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに1項に記載のピッチ系黒鉛化短繊維集合体と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分とからなり、マトリックス成分100体積部に対して10〜300体積部のピッチ系黒鉛化短繊維集合体を含有する組成物。
【請求項5】
該熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリオレフィン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
該熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
該ゴム成分が、天然ゴム(NR)、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBRゴム)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、およびブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
平板状に成形した状態における厚み方向の熱伝導率が2W/(m・K)以上である、請求項4〜7のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−255150(P2010−255150A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109248(P2009−109248)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】