説明

ピペッタ用隔壁ユニット及びピペット

【課題】
チューブ等を交換することなく、完全に交叉汚染を防止し得るピペッティングの手段を提供すること。
【解決手段】
ピペッタ11とピペット17との間に、隔壁ユニット10を取り付ける。隔壁ユニット10は、円筒状のハウジング12を有し、その上端にはハウジング12をポンプ9のチューブ8に着脱可能に取り付けるための吸引側取付部14を設け、下端にはピペット17を着脱可能に保持するためのピペット保持部15を設ける。ハウジング12内には隔壁13を収納し、この隔壁13は、一端を封止した袋状管の形状を有している。隔壁13により、ハウジング内の空間を、ピペッタの吸引源側空間12aと、ピペット側空間12bとに隔絶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペッタ用の隔壁ユニット及びピペットに関し、より詳細には、ピペッタのピペット取付部とピペットとの間に取り付けて使用される隔壁ユニット、及びこの隔壁ユニットを一体化したピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動培養装置などにおいて、異なる被検者の皮膚、軟骨、骨、血管、臓器等の細胞、組織、薬剤、培地等を含む液体は、ピペッタにより取り扱われる。図6は、ピペットを取り付けた従来のピペッタを表す断面図である。同図に示すように、従来のピペッタ60は、吸引源であるポンプ61と、ポンプ61に接続されたチューブ62と、チューブ62の先端に位置するピペット取付部63とを備えている。ピペット取付部63には、使い捨てのピペット64が装着される。
【0003】
このような従来のピペッタ60では、交叉汚染を防止するために、被検者ごとにピペット64を交換することが必要となる。しかしながら、このピペッタ60では、以下のように完全に交叉汚染を防止することは不可能である。即ち、このピペッタ60では、ポンプ61の吸引により、ピペット64内に液体が吸引される。次に、ポンプ61の吸引を開放して所定の容器などにその液体が入れられる。その際、ピペット64内で液体に接触した空気は、ピペット取付部63を介してチューブ62内に吸い込まれることとなり、更にはこの空気はポンプ61まで達する場合がある。この状態から液体を排出した後、ピペット64を交換したとしても、チューブ62内には先の液体に接触した空気が残存している可能性がある。従って、従来のピペッタ60では、たとえピペット64を交換しても、完全に交叉汚染を防止することは不可能でり、チューブ62や更にはポンプ61まで交換しなければ、完全な交叉汚染の防止は不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、チューブ等を交換することなく、完全に交叉汚染を防止し得る手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のピペッタの隔壁ユニットは、ピペット内を吸引するための吸引源を有するピペッタに取り付けて使用される隔壁ユニットであって、該隔壁ユニットは、ハウジングと、該ハウジングを前記ピペッタに着脱可能に取り付けるための吸引側取付部と、該ハウジングに前記ピペットを着脱可能に保持するためのピペット保持部と、前記ハウジング内の空間を、前記ピペッタの吸引源側と、前記ピペット側とに隔絶する変形可能な隔壁とを備えていることを特徴とする。
【0006】
このように、本発明の隔壁ユニットでは、変形可能な隔壁により、ハウジング内の空間がピペッタの吸引源側とピペット側とに隔絶されるため、培養細胞等を含む液体に接触した空気がチューブや吸引源に移動することが避けられる。従って、異なる被検者の細胞培養液等を取り扱うに際し、ピペットと隔壁ユニットとを新しいものに交換すれば、完全に交叉汚染を防止することができる。しかも、隔壁は変形可能なので、ピペッタによる吸引を妨げることもない。
【0007】
前記隔壁は、一端を封止した袋状管の形状であり、該袋状管の開放端が前記吸引側取付部に接続されているように構成することができる。この構成では、袋状管の管状部分が変形することにより、ピペットによる液体の吸引が可能となっている。
【0008】
ここで、袋状管の形状の隔壁を有する構成では、前記ピペッタの前記吸引源の吸引により、前記ハウジング内における前記吸引源側の空間が減圧状態となった場合に、前記袋状管の前記封止端が前記袋状管の内部に入り込むように構成することができる。
【0009】
更に、前記隔壁は、平膜の形状とすることができ、波板の形状とすることも可能である。
【0010】
本発明のピペットは、上記の何れかに記載の隔壁ユニットを一体的に取り付けたものである。このように隔壁ユニットをピペットに一体的に取り付けることにより、一回の操作で隔壁ユニットとピペットを同時に交換することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の隔壁ユニットを使用すれば、培養細胞等を含む液体に接触した空気はピペッタのチューブや吸引源とは隔絶されているので、交叉汚染を完全防止することができる。しかも、隔壁は変形可能なので、吸引源による吸引を妨げることもない。
【0012】
また、本発明のピペットは、上記の隔壁ユニットが一体的に取り付けられているので、一回の操作で隔壁ユニットとピペットを同時に交換することができ、隔壁ユニットの交換を忘れるなどの人為的なミスを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る隔壁ユニット10を装着したピペッタ11の断面図である。同図に示すピペッタ11は、吸引源であるポンプ9を備えており、ポンプ9はシリンダ部18とピストン19とを有している。シリンダ部18の上部にはチューブ8が取り付けられている。チューブ8の先端には、本実施形態の隔壁ユニット10が取り付けられている。本実施形態の隔壁ユニット10は円筒状のハウジング12を備えており、ハウジング12の上端には、ハウジング12をチューブ8に着脱可能に取り付けるための吸引側取付部14が形成され、ハウジング12の下端には、ピペット17を着脱可能に保持するためのピペット保持部15が形成されている。本実施形態では、ハウジング12内には隔壁13が収納されており、この隔壁13は、一端を封止した袋状管の形状を有している。隔壁13により、ハウジング内の空間は、ピペッタの吸引源側空間12aと、ピペット側空間12bとに隔絶されることになる。本実施形態におけるハウジング12には、ピペッタ11のポンプ9が吸引動作を行っても変形しない材料が使用されており、例えば、これらに限定されるものではないが、ポリエチレン、プロピレンをはじめとする各種の樹脂を使用することができる。また、隔壁13には変形可能な材料が使用され、例えば、ポリエチレン、プロピレンをはじめとする各種の樹脂の薄膜、ゴム等を使用することができる。隔壁13の材料も、上記のものに限定されるものではない。
【0015】
本実施形態では、ポンプ9のピストン19が下降してシリンダ部18内が減圧状態となり、これとともにチューブ8を介して吸引源側空間12aが減圧状態となると、隔壁13は二点差線13aに示すように変形する。これに伴ってハウジング12と隔壁13との間のピペット側空間12bも減圧状態となり、これに連通するピペット17内が更に減圧状態となって、培養細胞等を含む液体がピペット17内に吸引されることになる。
【0016】
本実施形態では、隔壁ユニット10内の隔壁13によって、ピペッタ11のポンプ9側とピペット17側との間が隔絶されているので、吸引すべき液体に接した空気がチューブ8を介してポンプ9に達することはなく、交叉汚染を完全防止することができる。しかも、隔壁13は変形可能なので、ポンプ9による吸引が妨げられることもない。
【0017】
図2は、本発明の他の実施形態に係る隔壁ユニットの断面図である。本実施形態の隔壁ユニット20は、図1の隔壁ユニット10と同様に、円筒状のハウジング22を備えており、ハウジング22の上端には吸引側取付部14が、ハウジング22の下端にはピペット保持部15が、それぞれ形成されている。本実施形態では、ハウジング22内には一端を封止した蛇腹管の形状の隔壁23が収納されており、蛇腹管の開放端が吸引側取付部14に接続されている 隔壁23により、ハウジング内の空間は、ピペッタの吸引源側空間22aと、ピペット側空間22bとに隔絶されることになる。
【0018】
本実施形態では、ポンプ9の作動により吸引源側空間22aが減圧状態となると、隔壁23は二点差線23aに示すように変形する。これに伴ってハウジング22と隔壁23との間のピペット側空間22bも減圧状態となり、これに連通するピペット17内が更に減圧状態となって、液体がピペット17内に吸引されることになる。本実施形態においても、隔壁ユニット20内の隔壁23によって、吸引源側空間22aとピペット側空間22bとの間が隔絶されているので、交叉汚染を完全防止することができる。しかも、隔壁23は変形可能なので、ポンプ9による吸引が妨げられることもない。
【0019】
図3は、本発明の更に他の実施形態に係る隔壁ユニットの断面図である。本実施形態の隔壁ユニット30は、円盤状のハウジング32を備えており、このハウジング32は、上側部分32Aと、下側部分32Bとによって構成されている。上側部分32Aと下側部分32Bは、その間に平膜からなる隔壁33を挟んで一体成形されてハウジング32を形成している。この隔壁33により、ハウジング内の空間は、ピペッタの吸引源側空間32aと、ピペット側空間32bとに隔絶されることになる。また、上側部分32Aの上端には吸引側取付部14が、下側部分32Bの下端にはピペット保持部15が、それぞれ形成されている。本実施形態における隔壁33の材料としては、これらに限定されるものではないが、前述と同様に、変形可能なポリエチレン、プロピレンをはじめとする各種の樹脂の薄膜、ゴム等が使用され得る。
【0020】
本実施形態では、ポンプ9の作動により吸引源側空間32aが減圧状態となると、隔壁33は二点差線33aに示すように上側に変形する。これに伴ってハウジング32と隔壁33との間のピペット側空間32bも減圧状態となり、これに連通するピペット17内が更に減圧状態となって、液体がピペット17内に吸引されることになる。本実施形態においても、隔壁ユニット30内の隔壁33によって、吸引源側空間32aとピペット側空間32bとの間が隔絶されているので、交叉汚染を完全防止することができる。しかも、隔壁33は変形可能なので、ポンプ9による吸引が妨げられることもない。
【0021】
図4は、本発明の更なる実施形態に係る隔壁ユニットの断面図である。本実施形態の隔壁ユニット40は、図3の隔壁ユニット30と同様に、円盤状のハウジング42を備えており、このハウジング42は、上側部分42Aと、下側部分42Bとによって構成されている。上側部分42Aと下側部分42Bは、その間に同心円の形状を有する波板からなる隔壁43を挟んで一体成形されてハウジング42を形成している。本実施形態においても、隔壁43によりハウジング内の空間は、ピペッタの吸引源側空間42aとピペット側空間42bとに隔絶されることになる。また、上側部分42Aの上端には吸引側取付部14が、下側部分42Bの下端にはピペット保持部15が、それぞれ形成されている。隔壁43の材料としては、これらに限定されるものではないが、前述と同様に、変形可能なポリエチレン、プロピレンをはじめとする各種の樹脂の薄膜、ゴム等が使用され得る。
【0022】
本実施形態では、ポンプ9の作動により吸引源側空間42aが減圧状態となると、隔壁43は二点差線43aに示すように上側に変形する。これに伴ってハウジング42と隔壁43との間のピペット側空間42bも減圧状態となり、これに連通するピペット17内が更に減圧状態となって、液体がピペット17内に吸引されることになる。本実施形態においても、隔壁ユニット40内の隔壁43によって交叉汚染を完全防止することができる。また、本実施形態における波板の形状の隔壁43は、前述の図3の平膜状の隔壁33と比較してより大きく変形することが可能なので、多量の液体を吸引することが可能となっている。
【0023】
図5(a)は、本発明の一実施形態に係るピペットの断面図である。本実施形態のピペット7は、図1における隔壁ユニット10を、そのピペット保持部15でピペット17に一体的に取り付けたのと同様の構成を有している。即ち、本実施形態のピペット7は、図1のピペット17と同様のテーパー形状を有するチップ部7aと、円柱形状の隔壁部7bとを備え、チップ部7aと隔壁部7bは一体成形により形成されている。隔壁部7bの上端には吸引側取付部14が形成され、この吸引側取付部14には、図1のチューブ8の接続部8aが取り付けられる。また、ピペット7の隔壁部7b内には、隔壁部7b内の空間を、ピペッタ11の吸引源側空間2aとピペット側空間2bとに隔絶する変形可能な隔壁3が設けられている。本実施形態における隔壁3は、図5に示すように一端を封止した袋状管の形状であり、この袋状管の開放端が吸引側取付部14に接続されている。ピペッタ11のポンプ9(図1)が吸引動作を行った場合、二点差線3aに示すようにつぶれた形状となることにより、チップ部7a内が減圧状態となる。隔壁3には、図1の隔壁ユニット10の隔壁13と同様の変形可能な材料が使用され、例えば、ポリエチレン、プロピレンをはじめとする各種の樹脂の薄膜、ゴム等が使用され得る。
【0024】
本実施形態では、吸引源側空間2aが減圧状態となると、ピペット側空間2b及びピペット17内が減圧状態となって、培養細胞等を含む液体がピペット17内に吸引されることになる。本実施形態では、隔壁3によって、ピペッタ11のポンプ9側とピペット17側との間が隔絶されているので、吸引すべき液体に接した空気がチューブ8やポンプ9に達することはなく、交叉汚染を完全防止することができる。しかも、隔壁3は変形可能なので、ポンプ9による吸引が妨げられることもない。
【0025】
図5(b)は、本発明の他の実施形態に係るピペットの断面図である。本実施形態のピペット7は、隔壁3の部分を除いて、前述の図5(a)の実施形態と同じであり、対応する要素には同じ符号が付してある。本実施形態では、隔壁部7b内に設けられている隔壁5は一端を封止した袋状管の形状を有しているが、吸引源側空間2aが減圧状態となったときに、袋状管の封止端5bが二点差線5aに示すように隔壁5の内側に入り込むように、予め封止端5bの部分が僅かに凹状に形成されている。このように減圧時に封止端5bが隔壁5の内側に入り込むことにより、液体をピペット側空間2bにまで吸引することが可能となり、より多くの対象液を扱うことが可能となる。
【0026】
なお、図2〜図5においては、隔壁ユニットとピペットとが別体となっているが、これらの隔壁ユニットをピペットと一体成形することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のピペッタの隔壁ユニット及びピペットを使用すれば、交叉汚染を完全防止することができるので、細胞、菌などの微生物等を取り扱う生物化学産業の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る隔壁ユニット10を装着したピペッタ11の断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る隔壁ユニットの断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係る隔壁ユニットの断面図である。
【図4】本発明の更なる実施形態に係る隔壁ユニットの断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るピペットの断面図である。
【図6】ピペットを装着した従来のピペッタの断面図である。
【符号の説明】
【0029】
2a 吸引源側空間
2b ピペット側空間
3 隔壁
5 隔壁
5b 封止端
7 ピペット
7a チップ部
7b 隔壁部
8 チューブ
8a 接続部
9 ポンプ
10 隔壁ユニット
11 ピペッタ
12 ハウジング
12a 吸引源側空間
12b ピペット側空間
13 隔壁
14 吸引側取付部
15 ピペット保持部
17 ピペット
18 シリンダ部
19 ピストン
20 隔壁ユニット
22 ハウジング
22a 吸引源側空間
22b ピペット側空間
23 隔壁
30 隔壁ユニット
32 ハウジング
32A 上側部分
32B 下側部分
32a 吸引源側空間
32b ピペット側空間
33 隔壁
40 隔壁ユニット
42 ハウジング
42A 上側部分
42B 下側部分
42a 吸引源側空間
42b ピペット側空間
43 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペット内を吸引するための吸引源を有するピペッタに取り付けて使用される隔壁ユニットであって、該隔壁ユニットは、
ハウジングと、
該ハウジングを前記ピペッタに着脱可能に取り付けるための吸引側取付部と、
該ハウジングに前記ピペットを着脱可能に保持するためのピペット保持部と、
前記ハウジング内の空間を、前記ピペッタの吸引源側と、前記ピペット側とに隔絶する変形可能な隔壁と
を備えていることを特徴とする隔壁ユニット。
【請求項2】
前記隔壁は、一端を封止した袋状管の形状であり、該袋状管の開放端が前記吸引側取付部に接続されていることを特徴とする請求項1記載の隔壁ユニット。
【請求項3】
前記ピペッタの前記吸引源の吸引により、前記ハウジング内における前記吸引源側の空間が減圧状態となった場合に、前記袋状管の前記封止端が前記袋状管の内部に入り込むことを特徴とする請求項2記載の隔壁ユニット。
【請求項4】
前記隔壁は、一端を封止した蛇腹管の形状であり、該蛇腹管の開放端が前記吸引側取付部に接続されていることを特徴とする請求項1記載の隔壁ユニット。
【請求項5】
前記隔壁は、平膜であることを特徴とする請求項1記載の隔壁ユニット。
【請求項6】
前記隔壁は、波板の形状であることを特徴とする請求項1記載の隔壁ユニット。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の隔壁ユニットを一体的に取り付けたことを特徴とするピペット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−156545(P2010−156545A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333354(P2008−333354)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/橋渡し促進技術開発再生・細胞医療の世界標準品質を確立する治療法及び培養システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】