説明

ピペットカートリッジ

【課題】 低価格で、綿栓由来の異物発生のない、また、栓体の脱落のないディスポーザブルピペット用ピペットカートリッジを提供すること。
【解決手段】 連通部107には通気性のある栓体108を内包している。そして、ピペッター装着部102、ディスポーザブルピペット106、収容部104は、流路を通じてそれぞれ連通している。また、連通部104の流路方向垂直断面の径は、第一の流路105の流路方向垂直断面の径および第二の流路101の流路方向垂直断面の径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスポーザブルピペットに、装着して使用するピペットカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の実験に使用される液体を吸引、排出する際に用いるピペット、特に生化学に使用される滅菌されたディスポーザブルのピペットはピペッターに装着して使用される。
一般的なディスポーザブルピペットには吸引を行う際、吸引した液体がピペッター内に流入する事を防止する為にピペットのピペッターに装着する方向の基端部(マウスピース)部分に綿栓が設けられている。
また、クリーンベンチ等の滅菌条件下でピペットを使用する場合、綿栓はピペッターからの異物や菌がピペット内部の液体に落下する事を防ぐ目的においても重要な役割を有する。
その一方で綿栓は使用時または輸送時においても異物発生の原因となり、特に近年再生医療や免疫治療といった臨床を目的とした生化学分野での使用においては大きな問題となっている。
【0003】
また、流体等を吸引排出するピペット装置の先端部に、フィルターを内包したカートリッジをピペット基端側に装着したものがある(例えば特許文献1)。
すなわち、シリンダー内に往復運動をするプランジャーを有する吸引装置にディスペンサーチップと呼ばれるピペットに相当するパーツを装着して比較的少ない量の液体を秤量する為の装置に関するものである。
この場合、フィルターを通して液体を吸引排気するので、吸引する際は外気の雑菌の進入を防止できる、また、排気する場合は、取り込まれた雑菌をフィルターによって除去することができる。しかしながら、フィルターを内包したカートリッジを吸引側に直接装着しているため、装着の向きによっては内包しているフィルターが脱落してしまう可能性があった。
【0004】
さらに価格的にも高価であり、ディスポーザブルピペットのカートリッジとして使用することはコストアップの要因ともなっている。
【0005】
また、上述した、ディスポーザブルピペットのマウスピースに綿栓を設けることについても、生産工程で綿栓の切断と組み込み工程があり、生産場所のクリーン度低下の原因となるだけでなく、製品のクリーン度向上を目的としたオートメーション生産を行う上でも障害となり品質レベルの低下および生産コストを上げる原因にもなっていた。
【0006】
さらに、綿栓を設けたマウスピースは吸引側の開口部と綿栓を設けた部分の流路方向垂直断面の径が同一な、いわゆる円柱状となっており、通常ディスポーザブルピペット生産時綿栓を詰める工程においては、マウスピースの吸引側の開口部から綿栓を詰め込む方式で生産されている。
しかしながら、前述の部分が円柱状であるために吸引−排出作業を繰り返し行っているうちに綿栓または綿栓の一部がピペッターに容易に吸い込まれて吸引不良を起こし、ピペッターの定期的なメンテナンスを余儀なくされていた。
【特許文献1】特開平9−206607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、綿栓由来の異物発生のない、また、栓体の脱落のないディスポーザブルピペット用カートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるピペットカートリッジは、ディスポーザブルピペット装着部と、ピペッター装着部と、前記ディスポーザブルピペット装着部の内部に設けられた第一の流路と、 前記ピペッター装着部の内部に設けられた第二の流路と、前記ディスポーザブルピペット装着部と前記ピペッター装着部の間に設けられた収容部と、前記収容部の内部に設けられ、前記第一および第二の流路と連通した連通部と、前記連通部に収容される通気性のある栓体と、から構成されるピペットカートリッジであって、
前記連通部の流路方向垂直断面の径は、前記第一の流路の流路方向垂直断面の径および前記第二の流路の流路方向垂直断面の径よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
このピペットカートリッジにおいては、ディスポーザブルピペット装着部と、ピペッター装着部と、収容部で構成されている。そして、栓体は収容部の内部の連通部に内包されており、連通部の径に比べて連通口の径が小さくなっており、これにより、内包された栓体が容易に脱落することがないディスポーザブルピペット用のピペットカートリッジを提供するものである。
【0010】
また、栓体が、焼結成形品や不織布で構成されていることにより、綿栓由来の綿埃のないピペットカートリッジとすることも可能である。
【0011】
また、収容部は、透明な材料で構成されていてもよく、それによって栓体の汚染状況を目視で観察することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、綿栓由来の異物発生のない、また、栓体の脱落のないディスポーザブルピペット用カートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同一符号を付し、以下の説明において詳細な説明を適宜省略する。
【0014】
図1は、本発明によるピペットカートリッジの一実施形態を示す概略図である。ピペットカートリッジ1は、ディスポーザブルピペット2と装着可能なディスポーザブルピペット装着部106と、ピペッター3と装着可能なピペッター装着部102と、ディスポーザブルピペット106に設けられた第一の流路105と、ピペッター装着部102に設けられた第二の流路101と、ディスポーザブルピペット装着部106とピペッター装着部102の間に設けられた収容部104と、収容部104の内部に設けられ、第一および第二の流路105、101と連通した連通部107で構成され、連通部107には通気性のある栓体108を内包している。そして、ピペッター装着部102、ディスポーザブルピペット106、収容部104は、流路を通じてそれぞれ連通している。また、連通部104の流路方向垂直断面の径は、第一の流路105の流路方向垂直断面の径および第二の流路101の流路方向垂直断面の径よりも大きい。そのため、連通部107に収容されている栓体108は、ピペッター装着部102とディスポーザブルピペット106の間に収容されており、容易に栓体108が脱落することのないようになっている。
【0015】
本発明のピペットカートリッジ1は、ピペッター3と、ディスポーザブルピペット2とを連結するカートリッジであり、このカートリッジに通気性のある栓体108を内部に内包している点が特徴である。ピペッター3により吸引・排出される空気は通気性のある栓体108を通ってディスポーザブルピペット2に伝えられ、それによってピペッター3からディスポーザブルピペット2内部への落下菌等の異物混入、およびディスポーザブルピペット2で吸引した液体がピペッター3を汚染する事を防止できる。
【0016】
さらに、本発明は、収容部104をディスポーザブルピペット2と脱着可能とする事により、ピペット本体の綿栓を排除する事が可能となり、ディスポーザブルピペット2を生産または輸送する際に綿栓が異物原因となる問題を防止することが出来る。さらに、ディスポーザブルピペット2本体の生産工程から綿栓をセットする工程を削除する事が出来るため、よりクリーンな生産、およびコスト削減も可能となる。
【0017】
また収容部104をディスポーザブルピペット2およびピペッター3からも脱着可能とし、一つの部材とする事で、収容部104のディスポーザブル化または再滅菌を行う事が出来るようになり、無菌条件下での使用が容易になる。さらに、収容部104を一つの部材とする事で複数回のピペット操作に使用することが出来る点も本発明の大きな特長の一つである。すなわち、一連の作業において生化学分野では通常数十本のディスポーザブルピペットを使用するが、作業開始時にピペッター3とディスポーザブルピペット2との間に本発明の収容部104をセットして、以降のピペット操作においてはディスポーザブルピペット2とピペットカートリッジ1との部分を分離してディスポーザブルピペット2のみを差し替えて使用する事で、収容部104は繰り返し使用することが出来る。一連の作業が終了した時点でピペッター3と収容部104の部分を分離して収容部104を廃棄する事により、ディスポーザブルとしてクリーンな状態でなおかつ低コストで使用することが出来る。
【0018】
収容部104をディスポーザブルピペット2およピペッター3から脱着可能とする場合に、ピペッター3と収容部104との接続強度がディスポーザブルピペット2と収容部104との接続強度よりも強い事が好ましく、それによって吸引作業終了後ピペットのみを脱着し、新たなピペットを接続して使用する作業を繰り返す事が出来る。
そのための方法としては、特に限定するものではなく、収容部104とディスポーザブルピペット2またはピペッター3との装着部の径や、使用する材料の柔軟性で装着強度に差をつける方法、および、収容部104とディスポーザブルピペット2またはピペッター3との接触面積や、収容部104の接続部分に使用する材料の表面すべり性で摩擦係数に差をつける方法が考えられる。
【0019】
装着強度を調節する場合、収容部104の、例えばピペッター3との装着部分の外周円周方向に凸状のリブ206を複数設けることでピペッター3と収容部104との装着強度を強くする方法が考えられる(図5)。また、タケノコ状の段差のついたタケノコ継手形状にする方法も考えられる。
また使用する材料の柔軟性で装着強度を調節する方法としては、例えばディスポーザブルピペット2との装着部分に吸引手段との装着部分よりも柔軟性のある樹脂を使用する方法が考えられる。
柔軟性のある樹脂としては、スチレン系、塩ビ系、オレフィン系、ウレタン系、フッ素系等の一般的な熱可塑性エラストマーを用いる事ができる。摩擦係数に差をつける場合、例えばピペッター3との装着部分の接触面積をディスポーザブルピペット2との装着部分の接触面積よりも広くする事で達成することができる。
【0020】
また使用する材料の表面すべり性で摩擦係数に差をつける方法としては、例えばディスポーザブルピペット2との装着部分にピペッター3との装着部分よりも表面すべり性の良い材料を使用する方法が考えられる。表面すべり性の良い(表面自由エネルギーの小さい)材料としては、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、又はSEBS共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることができる。また、ピペッター3との装着部に突起部を設け、ディスポーザブルピペット2との装着部分にポリエチレン系の樹脂を使用する等、上述の手段を組み合わせて使用してもよい(図5)。
【0021】
収容部104は軽量、成形性、ディスポーザブル化、低コストの点を考慮してプラスチック樹脂により構成されていることが好ましい。また、図4に示すように、収容部205の一部を透明にする事でディスポーザブルピペット2の液体を誤って吸い上げた場合に通気性のある栓体108の部分でその抵抗により一時的に遮断された状態で吸引操作を停止する事が出来る。少なくとも通気性のある栓体108の存在する部分が透明であれば上述の目的は達成され、さらに、栓体108の異常の有無を認知しやすくなると言う面からも好ましい。
【0022】
栓体108の透明な部分を構成する材料としては、特に限定するものではないが、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリルのうち少なくとも一つを含む熱可塑性樹脂であればよい。その場合、透明性、成形性に加えて放射線滅菌耐性の点においても好ましい。
【0023】
通気性のある栓体108は、特に限定するものではないが、連続空孔を有する焼結成形品または連続空孔を有する不織布である事が異物発生を防止する点において好ましい。
例えば無機の焼結成形品としてセラミックスが、有機の高分子多孔質焼結成形品として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネートなどから選択される。また、中空糸、不織布、多孔質メンブレン等を用いる事が出来る。
【0024】
また、通気性のある栓体108は連続空孔のサイズが0.05μm以上で、かつ、気体が通過する部分の栓体の厚みが1mm以上、20mm以下であることが好ましい。それによってピペッター3からディスポーザブルピペット2への落下菌の混入を防止し、ディスポーザブルピペット2からピペッター3への液体の侵入を一時的に遮断し、かつ、ディスポーザブルピペット2の吸引−排出動作が大きく妨げられることなく好適に使用することができる。
【0025】
通気性のある栓体108の形状は、特に限定するものではないが、通気性のある栓体108を通って吸気−排気が行われるためには、第一の流路105と第二の流路101が連通部107の通気性のある栓体108によって連通部内壁面との間に間隙を生じることなく閉塞している必要があり、その点において通気性のある栓体108の形状が球状、または、円筒状であることが好ましい(図2、図3)。また、クッション性を有する通気性のある栓体108であれば、栓体を圧縮して、連結部107に収容できるため、収容後常時連結部内壁面に対して、膨張するような作用となるため連通部内壁面との間に間隙生じることなく閉塞することが出来るのでより好ましい。クッション性を有する通気性のある栓体として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネートからなる焼結成形体などを用いることができる。
【0026】
ピペットカートリッジの作り方としては、収容部、ディスポーザブルピペット装着部、ピペッター装着部の各々を構成する部材を成形し、収容部の部材に通気性のある栓体を収容した後にディスポーザブルピペット装着部、ピペッター装着部を接着剤により接着するか、有機溶剤または超音波や高周波等を用いて溶着するとよい。
超音波溶着を用いると接着または溶着に使用した化学物質の残留の心配が無く、好ましい。
また、収容部をディスポーザブルピペット装着部またはピペッター装着部と併せて一つの構成部材としてもよく、その場合は収容部に通気性のある栓体を収容した後に接着または溶着する工程がディスポーザブルピペット装着部またはピペッター装着部の何れか一方で良いので好ましい。
各々を構成する部材はそれぞれの形状に応じて押し出し成形、射出成形等を選択して成形すればよい。
【0027】
無菌条件下で使用する場合にはピペットカートリッジの気体が通過する部分は滅菌された状態であることが望ましい。
滅菌の方法は特に限定するものではないが、例えばガス滅菌を使用すると残留ガスが吸引−排出した液体に混入する恐れも考えられるため、滅菌残留物の無い加熱滅菌もしくは放射線滅菌が好ましく、その中でも滅菌時物性に与える影響が少なく一度に大量の滅菌が可能な放射線滅菌がより好ましい。
少なくとも滅菌残留物が多く溜まる可能性の高い栓体部分は放射線により滅菌されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のピペットカートリッジで、ピペッターとディスポーザブルピペットとの装着を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施例である通気性のある栓体を収容した収容部を示すピペットカートリッジの断面図である。
【図3】本発明の一実施例である通気性のある栓体を収容した収容部を示すピペットカートリッジの断面図である。
【図4】本発明の一実施例である収容部が透明であることを示すピペットカートリッジの概略図である。
【図5】本発明の一実施例であるピペッター装着部外周に凸状のリブを設けたピペットカートリッジの断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ピペットカートリッジ
101 第二の流路
102 ピペッター装着部
104 収容部
105 第一の流路
106 ディスポーザブルピペット装着部
107 連通部
108 通気性のある栓体
2 ディスポーザブルピペット
205 透明な収容部
206 凸状リブ
3 ピペッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスポーザブルピペット装着部と、
ピペッター装着部と、
前記ディスポーザブルピペット装着部の内部に設けられた第一の流路と、
前記ピペッター装着部の内部に設けられた第二の流路と、
前記ディスポーザブルピペット装着部と前記ピペッター装着部の間に設けられた収容部と、
前記収容部の内部に設けられ、前記第一および第二の流路と連通した連通部と、
前記連通部に収容される通気性のある栓体と、
から構成されるピペットカートリッジであって、
前記連通部の流路方向垂直断面の径は、前記第一の流路の流路方向垂直断面の径および前記第二の流路の流路方向垂直断面の径よりも大きいことを特徴とするピペットカートリッジ。
【請求項2】
前記栓体が、焼結成形品である請求項1に記載のピペットカートリッジ。
【請求項3】
前記栓体が、不織布である請求項1に記載のピペットカートリッジ。
【請求項4】
前記栓体は、放射線により滅菌されている請求項1ないし3のいずれかに記載のピペットカートリッジ。
【請求項5】
前記収容部は、透明な材料で構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載のピペットカートリッジ。
【請求項6】
前記ピペッター装着部の外周には、円周方向に凸状のリブが複数設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載のピペットカートリッジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61751(P2007−61751A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251965(P2005−251965)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】