説明

ピペット装置

【課題】微細なピペットチップ内の液体を残留させることなく、また、先端に付着した状態で残すことなく、採取した液体を勢い良くブローアウトさせてその全量を効果的に移動させることのできるピペット装置を提供すること。
【解決手段】
ピペットチップ12を先端11cに着脱自在に取り付けられているノーズコーン11の先端連通空間11c内にピストンロッド13の機能部13aを進退させることにより、そのピペットチップ内に液体を吸引採取し、また、その液体を吐出するマイクロピペット装置において、ピストンロッドの進退方向に移動してノーズコーンの先端連通空間の空間容量を変化させることのできるOリング状部材44を設けることにより、吸引採取して吐出する微量の液体の全量を確実にブローアウトできるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試薬などの液体の所望量を採取するピペット装置に係り、詳しくは、設定量の液体を吸引採取するとともに、その採取した液体の全量を吐出する機能を備えるピペット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のピペット装置は、理化学、医科学分野の実験室で少量の液体を計量して採取するために用いられている。このピペット装置は、シリンダ内でピストンロッドを進退させることにより、その空間容量を変化させて先端部内に外部の流体を吸引したり、その先端部内の流体を吐出する構造になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような構造により、ピペット装置は、シリンダ内でピストンロッドを設定量分だけ予め進入させた状態を維持しつつ、先端側を採取する液体内に差し込んでそのピストンロッドを後退させることにより、設定量の液体を先端部内に吸引することができ、この後に、再度、ピストンロッドをシリンダ内に進入させることにより、先端部に吸引採取した液体を吐出することができる
【特許文献1】特表2003−525740号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年のピペット装置には、サブマイクロリットルオーダから数マイクロリットルオーダの液体を採取するマイクロピペット装置が開発されており、液体を吸引採取する先端部の内径が微細化されるのと同時に、シリンダ内で進退させるピストンロッドの外径も微細化されている。
【0005】
しかしながら、このような従来のピペット装置にあっては、微細径のピストンロッドを再度進入させても空間容量の変化が小さいことから、先端部内の液体を勢い良く吐出させることができない。また、このピペット装置は、先端部の内径も微細であることから、吸引採取した液体がその表面張力や吸着力などにより残留し易く、また、その先端部の先端に付着した状態になり易く、単純に操作するだけでは、吐出先に採取した液体の全量を移動させることができない場合がある。
【0006】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、採取した液体を先端部内に残すことなく、また、その先端部の先端に付着した状態で残すことなく、その液体の全量を確実に吐出先に移動させることのできる、マイクロピペット装置に最適な構造のピペット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明の構成は、シリンダ内のピストンを進退させて、所望の液体を所定量吸引して採取する一方、採取された前記液体を吐出させるための液体採取排出手段を備え、前記ピストンとして、液体吸引吐出用の第1のピストン部材と、液滴ブローアウト用の第2のピストン部材とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明の構成によれば、ピストンをシリンダ内で後退させて液体を吸引採取する一方、ピストンをシリンダ内に進入させて排気して液体を吐出するピペット装置において、シリンダ内の容量を、第1のピストン部材の進入による液体の吐出程度の空間容量の減少に加えて、第2のピストン部材により別に減少させることができ、吸引採取した液体を吐出させるタイミングに、シリンダ内から先端側に向けて大量に排気してブローアウトすることができ、例えば、マイクロピペット装置においても、微細な先端部内に液体を残留させることなく、また、その先端部の先端に付着した状態で残すことなく、採取して吐出する液体を勢い良くブローアウトさせてその全量を効果的に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
シリンダ内でピストンを進退させることにより、液体を吸引採取し、また、その液体を吐出するピペット装置において、液体を吸引採取して吐出するためにシリンダ内で進退する第1のピストンロッドの他に、そのシリンダ内の空間容量を減少させることのできる第2のピストン部材を設けることにより、微量の液体を吸引採取して吐出する場合でもその全量を確実にブローアウトすることのできるマイクロピペット装置に好適な構造である。
【0010】
以下、この発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図7は本発明に係るピペット装置の第1実施形態を適用したマイクロピペット装置の一例を示す図である。図1は、そのマイクロピペット装置の外観を示す平面図であり、図2は、そのマイクロピペット装置の分解平面図である。また、図3は、そのマイクロピペット装置の要部構造を示す縦断面図であり、図4は、そのマイクロピペット装置の要部の動作途中の状態を説明するための縦断面図、図5は、そのマイクロピペット装置の要部の図4に続く動作途中の状態を説明するための縦断面図である。また、図6は、そのマイクロピペット装置の要部の一部拡大縦断面図であり、図7は、そのマイクロピペット装置の要部の動作途中の状態を説明するための一部拡大縦断面図である。
【0011】
図1及び図2において、マイクロピペット装置10は、長尺な円錐台形状の先端11aに使い捨て用のピペットチップ12が着脱可能に差し込まれるノーズコーン11と、このノーズコーン11内の空気(流体)を給排気させてその先端部のピペットチップ12内に試薬などの液体を吸引して吐出させる本体部15と、ノーズコーン11の先端11aに取り付けられているピペットチップ12を除去するチップ除去機構17と、を備えている。
【0012】
ノーズコーン11は、外形が細長い円錐台形状に形成されて両端部の開口する中空の概略円筒形状に形成されており、この中空内部は、先端11aに取り付けるピペットチップ12内に連通しているとともに、その内部空間の閉塞状態を維持しつつ長さ方向に進退可能にピストンロッド13が内装されている。
【0013】
これにより、このノーズコーン11は、ピストンロッド13が内部空間内で進退してその空間容量を変化させることにより、先端部のピペットチップ12内を介して内外の空気を給排気することができ、そのピペットチップ12を液体内に差し込むことによりその液体を内部に吸引して採取したり、その採取した液体をピペットチップ12内から吐出させることができる。すなわち、ピペットチップ12がノーズコーン11の先端11aに着脱可能な採取用チップを構成しており、そのノーズコーン11がシリンダを構成して内部空間がピペットチップ12内に連通している。また、ピストンロッド13がそのノーズコーン11の内部空間内で進退することによりピペットチップ12内に液体を吸引採取して吐出するための第1のピストン部材を構成している。
【0014】
本体部15は、ノーズコーン11内のピストンロッド13をその長さ方向に移動させるピストンロッド駆動機構14と、そのピストンロッド13の移動量を規制してピペットチップ12内に吸引採取する液体の容量を設定する容量設定機構18と、を概略筒形状に作製されている本体ハウジング15a内に収装されて構築されており、この本体ハウジング15aの先端部にノーズコーン11の後端部11bがコネクティングナット16により螺合接続されて組み立てられている。
【0015】
ピストンロッド駆動機構14は、本体ハウジング15a内にその長さ方向に進退可能に内装されてノーズコーン11内のピストンロッド13の後端部に軸心を一致させた状態で先端部を当接させる駆動ロッド33と、本体ハウジング15aの後端部側から露出する駆動ロッド33の後端部に固設されているプッシュボタン19と、ノーズコーン11内のピストンロッド13を押し上げるようにその後端部に設置されている第1圧縮バネ部材20と、を備えて構築されている。
【0016】
これにより、ピストンロッド駆動機構14は、プッシュボタン19を押下すると、第1圧縮バネ部材20の弾性力に抗して駆動ロッド33の先端部がノーズコーン11内のピストンロッド13を押し下げることにより、そのノーズコーン11内の空間容量を減少させてピペットチップ12内を排気する一方、そのプッシュボタン19の押下を解除すると、第1圧縮バネ部材20の弾性力によりノーズコーン11内のピストンロッド13が押し上げられることにより、そのノーズコーン11内の空間容量が拡大してピペットチップ12内に吸気する。
【0017】
容量設定機構18は、円筒形状に形成されて本体ハウジング15a内に回転可能に収装されている筒状部材38と、この筒状部材38をその回転量に応じて本体ハウジング15a内で長さ方向に相対移動させるとともにその回転位置を保持する不図示の保持機構と、筒状部材38の回転に連動してその回転量に対応する設定値を直読可能に組み合わせて表示する不図示の三段のダイヤルメータと、を備えており、筒状部材38がピストンロッド駆動機構14の駆動ロッド33を貫通状態に内装するとともに、設定値に対応する回転量に応じてその駆動ロッド33の押し下げ可能な量を変化させる。
【0018】
これにより、容量設定機構18は、所望の設定量が表示されるまで筒状部材38を回転させることにより、ピストンロッド駆動機構14の駆動ロッド33がノーズコーン11内のピストンロッド13を押し下げることによるピペットチップ12内の排気量(吸引量)を設定することができ、言い換えると、その排気後に吸引する液体の採取量を設定することができる。なお、この容量設定機構18は、容易に摘んで回転させることができるように大径に形成されているローレット部38aが本体ハウジング15aに開口する窓部15bから臨むように筒状部材38に一体形成されている。
【0019】
チップ除去機構17は、図1や図2には透視した状態で図示するが、ピストンロッド駆動機構14の駆動ロッド33(ピストンロッド13やノーズコーン11)と平行な除去ロッド21と、この除去ロッド21の後端部に設けられて指先で押下する除去ノブ22と、この除去ノブ22の押下により押し下げられた除去ロッド21を元の位置に戻す方向に付勢するバネ部材23と、が本体ハウジング15a内に収装されており、この除去ロッド21の先端部には、ノーズコーン11の外面に近接対面する内面を備えてそのノーズコーン11を内装可能に形成されているとともに、ピペットチップ12を差込可能にそのノーズコーン11の先端11aを露出させる長さに設定されているチップエジェクタ24を備えている。
【0020】
これにより、チップ除去機構17は、除去ノブ22を押下すると、除去ロッド21が押し下げられて、チップエジェクタ24がノーズコーン11から離脱される方向に移動されることにより、そのノーズコーン11の先端11aに取り付けられているピペットチップ12を押し出して取り外すことができ、使用後のピペットチップ12に触れることなく、言い換えると、操作者の指先などを汚染することなく、使用済みのピペットチップ12を取り替えることができる。
【0021】
なお、このチップ除去機構17では、チップエジェクタ24の後端部に側方に突出する側方突起部24aが設けられる一方、除去ロッド21の先端部には、側方に開口する凹形状断面のコ字形状に形成されてそのチップエジェクタ24の側方突起部24aが着脱可能に係着されるチップエジェクタ係着部21aが設けられており、チップエジェクタ係着部21aがチップエジェクタ24本体と一体に軸まわりに回動することにより、除去ロッド21の先端部のチップエジェクタ係着部21a内に嵌まり込んで一体に上下動するように連結する一方、そのチップエジェクタ係着部21a内から離脱させてチップエジェクタ24本体を取り外して交換することができる。
【0022】
具体的には、図3に示すように、ノーズコーン11には、ピストンロッド13を内装する中空空間を、ピペットチップ12内の採取空間12aに連通して閉塞される先端連通空間(シリンダとしての内部空間)11cと、ピストンロッド駆動機構14の駆動ロッド33側に向けて解放されている後端解放空間11dと、に2分割する分割機構41が配設されている。ピストンロッド13は、後端側開放空間11d内に位置する太径の丸棒状のロッド本体(後端側太径部)13bの先端に、同一方向に延在して、そのノーズコーン11の先端連通空間11c内に閉塞状態を維持しつつその内部に差し込まれた状態で進退することのできる細径のロッド状に形成された機能部(先端側細径部)13aを連設されている。
【0023】
これにより、ピストンロッド13は、この断面積の小さな機能部13aがノーズコーン11の先端連通空間11c内で進退することにより、その進退量に対するその先端連通空間11cの空間容量の変化量を小さくして、微量の空気を先端部のピペットチップ12の採取空間12a内に給排気することができ、簡素な構造にした容量設定機構18でも容易かつ正確に液体の採取量を設定して、微量の液体をそのピペットチップ12内に吸引採取することができる。
【0024】
このピストンロッド13は、ロッド本体13bの後端部に、駆動ロッド33の先端部が突き当たるロッド基台13cが連設されており、このロッド基台13cには、ロッド本体13bを内装して同一方向に伸縮する第1圧縮バネ部材20が取り付けられている。この第1圧縮バネ部材20は、上ばね20aと下ばね20bの2つ一組であり、この上ばね20aと下ばね20bは、内径と外径がそれぞれ異なる2枚の大ワッシャ30aと小ワッシャ30bを挟むようにして、ピストンロッド13のロッド本体13bを内部に挿通する状態に取り付けられている。大ワッシャ30aは、ピストンロッド13のロッド基台13cの先端部を通過可能な内径に形成されているとともに、ノーズコーン11の後端側端部に突き当たって衝止される外径に形成されており、小ワッシャ30bは、そのピストンロッド13のロッド基台13cの先端部を衝止する内径に形成されているとともに、ノーズコーン11の後端側端部内に収装されて上下動可能な外径に形成されている。そして、上ばね20aは、ノーズコーン11の後端側端部に衝止される大ワッシャ30aとロッド基台13cのフランジ状に形成されている後端部との間に伸縮可能に介装されており、下ばね20bは、大ワッシャ30aに衝止される小ワッシャ30bとノーズコーン11の後端側端部内の底部との間に伸縮可能に介装されている。
【0025】
ここで、ノーズコーン11は、後端側の外壁を先端側よりも大径に形成されている第1大径部11eが設けられているとともに、その内側には先端側をそのまま後端側に延長されている内壁11fが形成されており、第1圧縮バネ部材20の下ばね20bは、その第1大径部11eと内壁11fの間の底部に位置する第1段差部11gと小ワッシャ30bとの間に外れないように介装されている。また、第1圧縮バネ部材20は、上ばね20aと下ばね20bの弾性力として、下ばね20bがピストンロッド13のロッド基台13cを押し上げる弾性力を小ワッシャ30bに付与するようにセットされる一方、上ばね20aは、その下ばね20bの弾性力に抗して大ワッシャ30aをノーズコーン11の後端側端部に押し付ける弾性力を発生するように設定されている。
【0026】
これにより、ピストンロッド13は、容量設定機構18による採取量に応じた押し下げ量に規制されている駆動ロッド33がロッド基台13cに突き当たっているだけの無負荷の状態の待機位置から、プッシュボタン19を押下されると、図4に示すように、上ばね20aの弾性力に抗してそのロッド基台13cが押し下げられて小ワッシャ30bに突き当たる(第1ストッパ位置)。このとき、ピストンロッド13の機能部13aは、ロッド基台13cやロッド本体13bと共に降下してノーズコーン11の先端連通空間11c内に進入することにより、ピペットチップ12の採取空間12a内から設定量の空気を排気することができる。続けて、そのピペットチップ12の先端が採取する液体内に差し込まれた状態にされて、プッシュボタン19の押下をゆっくりと解除されると、図5に示すように、ピストンロッド13の機能部13aは、駆動ロッド33やロッド基台13cが上ばね20aの弾性力により上記の無負荷の状態まで押し上げられてロッド本体13bを介してノーズコーン11の先端連通空間11c内で後退することにより、ピペットチップ12の採取空間12a内に設定量の液体Sを吸引して採取することができる。
【0027】
この後に、ピストンロッド13は、プッシュボタン19を再度押下されると、上ばね20aの弾性力に抗してロッド基台13cが押し下げられて小ワッシャ30bに突き当たったときには、同様に、ロッド本体13bを介して機能部13aがノーズコーン11の先端連通空間11c内に進入する。これに加えて、プッシュボタン19をより大きく押下されると、小ワッシャ30bに突き当たるロッド基台13cが下ばね20bの弾性力に抗してさらに押し下げられることにより、その小ワッシャ30bがノーズコーン11の内壁11fの端部に突き当たって衝止される(第2ストッパ位置)。このとき、ピストンロッド13の機能部13aは、ロッド本体13bを介してノーズコーン11の先端連通空間11c内に吸引採取時よりも大きく進入して排気することができ、ピペットチップ12の採取空間12a内から吸引採取した設定量の液体Sを大きく吐出することができる。
【0028】
そして、本実施形態のノーズコーン11は、図6に示すように、先端連通空間11cの後端部側(全体の中間部)の外壁が先端側よりも大径に、また、後端解放空間11dの先端部側よりも大径に形成されて拡大空間を内部に有する第2大径部11gが設けられており、その第2大径部11g内に先端連通空間11cと後端解放空間11dに2分割する分割機構41が配設されている。
【0029】
この分割機構41は、第2大径部11g内に内装されてその底部に位置する第2段差部11hに一端側が突き当たって伸長方向の弾性力を付与する螺旋形状の第2圧縮バネ部材(スプリング部材)42と、第2大径部11gの内径よりも小さめの外径を有することにより内部で上下動可能に収装されるとともに、ピストンロッド13のロッド本体13bの先端部よりも小径で機能部13aよりも大径に開口する内径を有するワッシャ43と、第2大径部11gの内部空間と略同一の横断面形状の円盤形状に形成されてその内径と略同様な外径を有することにより内部で上下動可能に収装されつつ先端連通空間11cの閉塞状態を維持するとともに、ワッシャ43と第2圧縮バネ部材42の間に介装されるOリング状部材44と、を備えている。なお、ワッシャ43は、後述するように、ピストンロッド13のロッド本体13bの先端が繰り返し突き当たることから、ステンレスなどの硬質で耐久性のある金属材料により作製するのが好ましい。
【0030】
Oリング状部材44は、外周部44aよりも肉厚に形成された突起部44bをその中心部に有する円盤形状に、シール機能を有するゴム材料などを成形することにより作製されており、その外周部44aの外周面44cが第2大径部11gの内周面に対して気密性を維持しつつ軸方向に摺動可能に密接することによりノーズコーン11の先端連通空間11cを閉塞している。また、このOリング状部材44の突起部44bは、外周部44aと同一平面の一面側に底面側を開口させて先端側を肉厚方向に突出する円錐形状の中空部44dが内部に形成されており、その中空部44dの先端にピストンロッド13の機能部13aを差込貫通(挿通)させてその外面に対して気密性を維持しつつ軸方向に摺動可能に密接する挿通孔44eが形成されている。なお、このOリング状部材44は、所謂、Oリングのように英文字の「O」字形状に形成されているのではなく、円形の外形を有するとともに内部に貫通する孔部を有することからOリング状と称しているだけである。
【0031】
これにより、分割機構41は、第2圧縮バネ部材42がOリング状部材44の突起部44bを螺旋形状内に位置させる姿勢のまま、無負荷のときには、そのOリング状部材44の外周部44aを押し上げてワッシャ43をノーズコーン11の後端解放空間11dの先端部側端面11iに突き当てる待機位置に維持・復帰させることができる一方、その第2圧縮バネ部材42の弾性力に抗して、ワッシャ43にピストンロッド13のロッド本体13bと機能部13aの間の段差部13d(ロッド本体13bの先端)を突き当てて押し下げることにより第2大径部11gの空間容量を減少させることもできる。このいずれの場合でも、Oリング状部材44は、外周部44aの外周面44cがノーズコーン11の第2大径部11gの内周面に気密に密接するとともに突起部44bの挿通孔44eの内面も、ピストンロッド13の機能部13aの外面に気密に密接してノーズコーン11の先端連通空間11cの閉塞状態を維持することができる。すなわち、第2圧縮バネ部材42が復帰手段としてスプリング部材を構成しているとともに、ワッシャ43がOリング状部材44の形状が変形することを制限しつつ支持する支持部材を構成しており、Oリング状部材44が第2のピストン部材を構成するとともにその挿通孔44eが孔部を構成している。
【0032】
このため、分割機構41は、上述のピペットチップ12内に液体を吸引採取する際に、プッシュボタン19の押下により、ピストンロッド13の機能部13aをノーズコーン11の先端連通空間11c内に進入させて排気するときや、そのプッシュボタン19の押下の解除により、その機能部13aをノーズコーン11の先端連通空間11c内から後退させて吸気するときにも、その先端連通空間11cの閉塞状態を維持することができ、その機能部13aの進退による先端連通空間11c内の空間容量変化を妨げることなく、連通するピペットチップ12の採取空間12a内に設定量の液体を正確に吸引採取することを実現する。
【0033】
続けて、上述のピペットチップ12内に吸引採取した液体を吐出する際には、プッシュボタン19の再度の大きな押下により、ピストンロッド13の機能部13aがノーズコーン11の先端連通空間11c内に大きく進入するのに加えて、図6に破線で示す位置よりもロッド本体13bの先端の段差部13dがワッシャ43に突き当たるように大きく押し下げられることにより、図7に示すように、第2圧縮バネ部材42の弾性力に抗してOリング状部材44を連動させて押し下げることができる。
【0034】
このとき、分割機構41は、第2大径部11gの空間容量、言い換えると、ノーズコーン11の先端連通空間11cの空間容量を大きく減少させて、連通するピペットチップ12の採取空間12a内から吸引採取した設定量の液体の全量を大量の空気と共に勢い良くブローアウトすることができ、ピペットチップ12の採取空間12a内に表面張力により残留することなく、また、ピペットチップ12の先端に付着して残留することなく、その吸引採取して吐出する液体を試験管などの移動先に確実に移し変えることができる。
【0035】
この後には、チップ除去機構17の除去ノブ22を押下するだけで、チップエジェクタ24が移動(降下)して、操作者の指先などを汚染することなく、ノーズコーン11の先端11aから使用済みのピペットチップ12を弾き出して交換することができ、採取した液体の残留を気にすることなく、微量の液体を採取する作業を繰り返すことができる。
【0036】
ここで、Oリング状部材44は、突起部44bの周囲に外周部44aを有する円盤形状に形成することにより、第2圧縮バネ部材42を介装してピストンとして機能させることができ、また、突起部44b内に円錐形状の中空部44dを形成することにより、簡易に成形して微細な挿通孔44eを容易に形成することができる。なお、Oリング状部材44は、ワッシャ43と共に、突起部44bが後端側に向う姿勢でも取付可能な形状にしてもよいが、第2圧縮バネ部材42の螺旋形状内にその突起部44bを差し込む状態で取り付けることができるので、この実施形態のようにする方が容易である。また、中空部44dも角錐形状に形成してもよいが、ピストンロッド13の機能部13aも断面円形であるので、均一に圧接するために、この実施形態のようにする方が好ましい。
【0037】
このように、この実施形態においては、ノーズコーン11の先端連通空間11cの空間容量を、ピペットチップ12内に吸引採取した液体を吐出する操作と連動させて大きく減少させることができ、そのピストンロッド13の機能部13aを先端連通空間11c内で進退させるだけの構造の場合よりも大量の排気を実現して、ピペットチップ12内に吸引採取して吐出する液体の全量を残留させることなく効果的にブローアウトすることができる。したがって、このマイクロピペット装置10では、例えば、0.2μl〜2μlなどという微量の液体でも正確に吸引採取することができるとともに、その全量を試験管などに確実にブローアウトすることができ、微量の試薬などでも正確に計量して実験などに提供することができる。
【0038】
次に、図8及び図9は本発明に係るピペット装置の第2実施形態を適用したマイクロピペット装置の一例を示す図である。ここで、この実施形態は、上述実施形態と略同様に構成されていることから同様の構成には同一の符号を付して特徴部分を説明する。図8は、そのマイクロピペット装置の要部の一部拡大縦断面図であり、図9は、そのマイクロピペット装置の要部の動作途中の状態を説明するための一部拡大縦断面図である。
【0039】
図8において、マイクロピペット装置10のノーズコーン11は、上述の実施形態における分割機構41に代えて、分割機構51が配設されている。この分割機構51は、その分割機構41におけるOリング状部材44に代えて、その分割機構41における小径の突起部44bと略同様の構成を有する第1Oリング部材54と、その分割機構41における大径の外周部44aと略同様の構成を有する第2Oリング部材55とを第2圧縮バネ部材42及びワッシャ43と共に備えることにより構成されている。なお、これら第1、第2Oリング部材54、55も、その分割機構41におけるOリング状部材44と同様に、シール機能を有するゴム材料などを成形することにより作製されている。
【0040】
第1Oリング部材54は、一面側に底面側を開口させて先端側を肉厚方向に突出する円錐形状の中空部54dが内部に形成されており、その中空部54dの先端にピストンロッド13の機能部13aを差込貫通(挿通)させてその外面に対して気密性を維持しつつ軸方向に摺動可能に密接する挿通孔54eが形成されている。すなわち、この第1Oリング部材54が第1の摺動部材を構成している。
【0041】
一方、第2Oリング部材55は、第2大径部11gの内部空間と略同一の横断面形状の円盤形状に形成されてその内径と略同様な外径(外周面55c)を有することにより内部で上下動可能に収装されるとともに、ワッシャ43と第2圧縮バネ部材42の間に介装されている。すなわち、この第2Oリング部材55が第2の摺動部材を構成している。
【0042】
この第2Oリング部材55は、軸心を共通にする姿勢の第1Oリング部材54を埋め込んで内装状態に嵌入する凹形状穴55aが一面側に形成されており、この凹形状穴55aは、第1Oリング部材54と同一形状の空間を形成するように作製されている。これにより、この第2Oリング部材55は、凹形状穴55aの側面側内周面と底面に第1Oリング部材54の側面側外周面と他面側が密接して気密性を確保するとともに、第1Oリング部材54と共にワッシャ43の圧接する一面側が連続する平面形状に形成されて、そのワッシャ43により平面方向の形状が維持される。
【0043】
また、この第2Oリング部材55は、凹形状穴55aの底面部に、第1Oリング部材54の他面側に開口する挿通孔54eを露出させてピストンロッド13の機能部13aを挿通可能に開口する挿通穴55bが形成されている。これにより、第1Oリング部材54は、円錐形状の中空部54d内に差し込んで挿通孔54eを貫通させるピストンロッド13の機能部13aをノーズコーン11の先端連通空間11c内に気密性(閉塞状態)を維持しつつ進退させることを可能にする。
【0044】
これにより、分割機構51は、上述の実施形態における分割機構41と同様に機能することができ、第2圧縮バネ部材42が無負荷のときには第2Oリング部材55を押し上げることによりワッシャ43をノーズコーン11の後端解放空間11dの先端部側端面11iに突き当てる待機位置に維持・復帰させることができる一方、その第2圧縮バネ部材42の弾性力に抗して、ワッシャ43にピストンロッド13の段差部13dを突き当てて押し下げることにより第2大径部11gの空間容量を減少させることもできる。このいずれの場合でも、第2Oリング部材55は、外周面55cがノーズコーン11の第2大径部11gの内周面に気密に密接するとともに、第1Oリング部材54の挿通孔54eの内面もピストンロッド13の機能部13aの外面に気密に密接してノーズコーン11の先端連通空間11cの閉塞状態を維持することができる。
【0045】
このため、分割機構51は、上述の実施形態における分割機構41と同様に、上述のピペットチップ12内に液体を吸引採取する際には、ノーズコーン11の先端連通空間11cの閉塞状態を維持しつつピストンロッド13の機能部13aをその先端連通空間11c内に進退させることにより、連通するピペットチップ12の採取空間12a内に設定量の液体を正確に吸引採取することができる。続けて、上述のピペットチップ12内に吸引採取した液体を吐出する際には、ピストンロッド13の機能部13aがノーズコーン11の先端連通空間11c内に大きく進入するのに加えて、そのロッド本体13b先端の段差部13dが突き当たるワッシャ43と共に第2圧縮バネ部材42の弾性力に抗して第1、第2Oリング部材54、55を連動させて押し下げることにより、図9に示すように、ノーズコーン11の先端連通空間11cの空間容量を大きく減少させて、連通するピペットチップ12の採取空間12a内から吸引採取した設定量の液体の全量を大量の空気と共に勢い良くブローアウトすることができ、その吸引採取して吐出する液体を試験管などの移動先に確実に移し変えることができる。
【0046】
このように、この実施形態においては、上述の実施形態による作用効果に加えて、第1、第2Oリング部材54、55の双方共に平板の円盤状のOリング形状に形成して組み付けるだけであるので、容易に作製することができ、微量の液体を正確に吸引採取して吐出・ブローアウトするという性能を損なうこともない。したがって、微量の試薬などを正確に計量して実験などに提供するマイクロピペット装置10を安価に作製することができる。
【0047】
この実施形態の他の態様としては、図示することは省略するが、ピペットチップ12の採取空間12aに連通する空間をノーズコーン11の先端連通空間11cとは別の位置に形成するとともに、ピストンロッド13に連動させて、あるいは、単独で操作して、その連通空間の空間容量を減少させることのできる構造にしてもよい。しかしながら、既存のノーズコーン11の先端連通空間11cの端部に第2大径部11gを形成してピストンロッド13に連動する第2のピストン部材として機能する分割機構41を設置すればよいので、この実施形態のようにするのが容易かつ安価で好適である。
【0048】
また、この実施形態では、ばね材料を採用してピストンロッド13などを押し戻して待機位置に復帰させる付勢力を発生させているが、これに限るものではなく、例えば、磁力による反発力を利用するようにしてもよい。また、ピストンロッド13などを押し戻す力に代えて、例えば、小ワッシャ30bがピストンロッド13のロッド基台13cや大ワッシャ30aに磁力により吸着する一方、ワッシャ43はOリング状部材44が貼り付けられると共にノーズコーン11の後端解放空間11d側やピストンロッド13のロッド本体13bに磁力により吸着させるようにして、ピストンロッド13の動きに連動・復帰させるようにしてもよい。
【0049】
さらに、この実施形態では、ピペットチップ12を着脱して使用するマイクロピペット装置10の場合を一例にして説明するが、例えば、ノーズコーン11自体の先端を採取部として一体に形成して、交換することなく、その先端部で液体を吸引採取する構造の場合でも適用することができることは言うまでもない。
【0050】
以上、この発明の一実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。例えば、この発明は、シングルチャンネル型に限らず、マイクロチャンネル型にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明に係るピペット装置の第1実施形態を適用したマイクロピペット装置の一例を示す図であり、その外観を示す平面図である。
【図2】そのマイクロピペット装置の分解平面図である。
【図3】そのマイクロピペット装置の要部構造を示す縦断面図である。
【図4】そのマイクロピペット装置の要部の動作途中の状態を説明するための縦断面図である。
【図5】そのマイクロピペット装置の要部の図4に続く動作途中の状態を説明するための縦断面図である。
【図6】そのマイクロピペット装置の要部の一部拡大縦断面図である。
【図7】そのマイクロピペット装置の要部の動作途中の状態を説明するための一部拡大縦断面図である。
【図8】この発明に係るピペット装置の第2実施形態を適用したマイクロピペット装置の一例を示す図であり、そのマイクロピペット装置の要部の一部拡大縦断面図である。
【図9】そのマイクロピペット装置の要部の動作途中の状態を説明するための一部拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 マイクロピペット装置(ピペット装置)
11 ノーズコーン(シリンダ)
12 ピペットチップ(採取用チップ)
13 ピストンロッド(第1のピストン部材)
13a 機能部(先端側細径部)
13b ロッド本体(後端側太径部)
42 圧縮バネ部材(スプリング部材、復帰手段)
43 ワッシャ(支持部材)
44 Oリング状部材(第2のピストン部材)
44b 突起部
44c 外周面(外面)
44d、54d 中空部(中空空間)
44e、54e 挿通孔(孔部)
54 第1Oリング部材
55 第2Oリング部材
55a 凹形状穴
55c 外周面
55b 挿通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内のピストンを進退させて、所望の液体を所定量吸引して採取する一方、採取された前記液体を吐出させるための液体採取排出手段を備え、
前記ピストンとして、液体吸引吐出用の第1のピストン部材と、液滴ブローアウト用の第2のピストン部材とを有することを特徴とするピペット装置。
【請求項2】
前記シリンダの先端には、前記液体を採取する採取用チップが着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載のピペット装置。
【請求項3】
前記シリンダは、前記第1のピストン部材と前記第2のピストン部材が移動空間の一部を共通にして同一方向に移動するように収装されていることを特徴とする請求項1又は2記載のピペット装置。
【請求項4】
前記第2のピストン部材は、前記第1のピストン部材の作動途中から連動して作動することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のピペット装置。
【請求項5】
前記第1のピストン部材は、ロッド状に形成されているとともに、前記第2のピストン部材は、中心に孔部の開口するOリング状に形成されており、
前記第2のピストン部材は、外面が前記シリンダの内面に気密に圧接しつつ摺動自在に収装されているとともに、前記孔部にロッド状の前記第1のピストン部材が気密に圧接しつつ進退自在に挿通されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のピペット装置。
【請求項6】
前記第1のピストン部材は、先端側が細径のロッド状に形成されているとともに、後端側が太径のロッド状に形成されており、
前記第2のピストン部材は、前記第1のピストン部材の前記後端部太径部よりも大径のOリング状に形成されているとともに、前記先端側細径部と前記後端側太径部の間の段差部が前記孔部の周縁に当接して同一方向に移動することを特徴とする請求項5記載のピペット装置。
【請求項7】
前記第2のピストン部材は、前記第1のピストン部材の前記段差部が当接する一面側に、平面方向の形状を維持する支持部材が当該段差部との間に介装されていることを特徴とする請求項6記載のピペット装置。
【請求項8】
前記シリンダ内には、前記第2のピストン部材を作動前の待機位置に戻す復帰手段を備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載のピペット装置。
【請求項9】
前記シリンダ内には、前記第2のピストン部材を作動前の待機位置の方向に付勢するスプリング部材が配設されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載のピペット装置。
【請求項10】
前記第2のピストン部材は、前記孔部として、一面側に底面の開口する円錐形状又は角錐形状の中空空間が形成されているとともに、他面側の当該孔部の先端側が前記第1のピストン部材の外面に気密に圧接しつつ摺動することを特徴とする請求項5、6又は7記載のピペット装置。
【請求項11】
前記シリンダ内には、前記第2のピストン部材を作動前の待機位置の方向に付勢する螺旋形状のスプリング部材が配設されており、
前記第2のピストン部材は、中央部に肉厚に形成された突起部が設けられて、当該突起部内に前記中空空間の先端側が位置するように前記孔部が形成されているとともに、当該突起部が前記スプリング部材の螺旋形状内に差し込まれていることを特徴とする請求項10記載のピペット装置。
【請求項12】
前記第2のピストン部材は、前記第1のピストン部材の前記先端側細径部の外面に気密に圧接しつつ摺動する前記孔部の開口する第1の摺動部材、及び、前記シリンダの内面に気密に圧接しつつ摺動する外面を有する第2の摺動部材により構成されて、作動前の待機位置の方向に付勢するスプリング部材と前記支持部材の間に介装されており、
前記第1の摺動部材は、前記第1のピストン部材の前記段差部の当接する一面側から前記第2の摺動部材内に内装されて該第2の摺動部材と共に前記支持部材により平面方向の形状を維持される一方、
前記第2の摺動部材は、前記第1のピストン部材の前記段差部の反対側他面側に該第1のピストン部材の前記先端側細径部を挿通可能に開口する挿通穴が形成されて該挿通穴の周囲に前記スプリング部材が圧接して前記待機位置方向に付勢することを特徴とする請求項7記載のピペット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−51944(P2010−51944A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261161(P2008−261161)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(506232660)光陽化成有限会社 (3)
【Fターム(参考)】