説明

ピペット部材および細胞単離器具

【課題】生体組織から単離された細胞を効率的に回収可能な細胞単離器具を低コストで提供する。
【解決手段】細胞単離器具は、組織と液体を収容可能な容器と、容器に装着されて撹拌により組織から細胞を単離するためのピペット部材とを備える。ピペット部材は、筒体と濾過部材とを備える。筒体は、容器に収容される第1の開口と、細胞単離装置に接続される第2の開口とを備え、第1の開口と第2の開口を連通する通路が形成されている。濾過部材は筒体の内部に設けられ、通路を第1の開口を含む第1の部分と、第2の開口を含む第2の部分とに隔てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理解析を行なう場合において用いられる細胞単離器具に関する。
【背景技術】
【0002】
病理標本作成の後に、細胞検査士や病理医によって組織切片による病理診断が行なわれている。組織から細胞単離を行なうためには、刃物を用いたミンスが必要である。更に、単離した細胞を含む細胞浮遊液を得るためにはミンスした後の懸濁液をフィルタによって濾過する必要がある。このように病理診断に用いる細胞浮遊液を得るためには二段階の操作が必要である。
【0003】
細胞検査士もしくは病理医による診断や標本作成のためには、熟練した技術が必要であり、そのような技術の差により診断結果に違いが生じるおそれがある。また組織摘出から診断を行なうまでには、組織固定、切片作成、染色といった手技が必要であり、細胞検査士等を一定時間拘束する。このため診断までの手技を自動化することが求められている。
【0004】
特許文献1には、細胞培養を行なうために必要な組織をミンスする器具が記載されている。この器具は、上部開口と下部開口の各々に金網を設けた筒体を備えている。この金網上に組織片を載置し、筒体を遠心分離に供することで組織がミンスされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4156847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構成によれば、ミンスを自動的に行なうことが可能であるが、切片作成や染色といった手技を自動化することはできない。また単離細胞を含む細胞浮遊液の回収を自動化することも想定されていない。
【0007】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、組織(生体組織)から単離された細胞を効率的に回収可能な細胞単離器具を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明によれば、以下に掲げる種々の態様を採り得る。
【0009】
(1)本発明の第1の態様は、組織と液体を収容可能な容器に装着可能であって、撹拌により前記組織から細胞を単離するためのピペット部材であって、(A)前記容器に収容される第1の開口と、細胞単離装置に接続される第2の開口とを備え、前記第1の開口と前記第2の開口を連通する通路が形成された筒体と、(B)前記筒体の内部に設けられ、前記通路を前記第1の開口を含む第1の部分と、前記第2の開口を含む第2の部分とに隔てる濾過部材とを備える。
【0010】
(2)本発明の第1の態様においては、前記濾過部材の位置は、前記撹拌のために前記細胞単離装置が印加する第1の吸引力によっては空気のみが前記濾過部材を通過し、前記第1の吸引力よりも大きな第2の吸引力が前記細胞単離装置により印加された場合に、単離された前記細胞を含む前記液体が前記濾過部材を通過するように定められている。
【0011】
(3)本発明の第1の態様においては、前記第2の開口の一部を構成する蓋体を更に備え、前記濾過部材は、少なくとも一部が前記蓋体と接している。
【0012】
(4)本発明の第1の態様においては、前記第1の開口は、前記第2の開口よりも径小に形成されている。
【0013】
(5)本発明の第1の態様においては、前記筒体における前記第1の開口の近傍に、前記通路と連通するスリットが形成されている。
【0014】
(6)本発明の第1の態様においては、前記筒体における前記第1の開口の近傍に、前記組織を載置可能な載置部材が形成されている。
【0015】
(7)本発明の第1の態様においては、前記ピペット部材が前記容器に装着された状態において、前記第1の開口が前記容器の中心軸から外れた位置に配置されるように構成されている。
【0016】
(8)本発明の第1の態様においては、前記濾過部材は、単離した細胞より小さな物質を濾過するように構成されている。
【0017】
(9)本発明の第2の態様は、(A)組織と液体を収容可能な容器と、(B)前記容器に装着され、撹拌により前記組織から細胞を単離するためのピペット部材とを備える細胞単離器具であって、前記ピペット部材は、(C)前記容器に収容される第1の開口と、細胞単離装置に接続される第2の開口とを備え、前記第1の開口と前記第2の開口を連通する通路が形成された筒体と、(D)前記筒体の内部に設けられ、前記通路を前記第1の開口を含む第1の部分と、前記第2の開口を含む第2の部分とに隔てる濾過部材とを備える。
【0018】
(10)本発明の第2の態様においては、前記濾過部材の位置は、前記撹拌のために前記細胞単離装置が印加する第1の吸引力によっては空気のみが前記濾過部材を通過し、前記第1の吸引力よりも大きな第2の吸引力が前記細胞単離装置により印加された場合に、単離された前記細胞を含む前記液体が前記濾過部材を通過するように定められている。
【0019】
(11)本発明の第2の態様においては、前記第1の開口が前記容器の中心軸から外れた位置に配置されている。
【0020】
(12)本発明の第2の態様においては、前記細胞単離器具が前記細胞単離装置に装着された状態において、前記容器の中心軸が鉛直方向に対して傾斜するように構成されている。
【0021】
(13)本発明の第2の態様においては、前記容器の底部には乾燥された試薬が配置されている。
【発明の効果】
【0022】
上記(1)の構成によれば、通路の第1の部分を用いて撹拌による細胞単離処理を行ない、濾過部材に当該処理により得られた懸濁液を通過させて単離細胞を含んだ細胞浮遊液を通路の第2の部分に得ることができる。したがって、細胞単離処理と単離細胞の回収処理とを、細胞単離装置に同一のピペット部材を接続したままで遂行することが可能である。懸濁液を別の容器に移し替えて濾過を行なっていた従来の工程と比較して大幅な作業効率の向上が簡素な構成で可能である。また、懸濁液に異物が混入したり、使用者が触れる可能性が極めて低くすることができるため、精度良く、安全な処理が可能である。
【0023】
上記(2)の構成によれば、撹拌による細胞単離処理のみならず、濾過による単離細胞の回収処理をも容易に自動化することができる。また空気のみが濾過部材を通過する際には吸引抵抗を可及的に小さくできるため、撹拌動作時において細胞単離装置にかかる負荷を最小限に抑えることができる。
【0024】
上記(3)の構成によれば、濾過部材の所定位置への設置が容易となり、組立て作業性が向上する。
【0025】
上記(4)の構成によれば、第1の開口に出入りする液流を強めることができ、撹拌処理を円滑に遂行することができる。
【0026】
上記(5)の構成によれば、ピペット部材に撹拌のための吸引力が作用している場合、ピペット部材に吸着された組織が第1の開口を完全に塞いでしまっても、スリットを通じて液体が流通するため、所望の吸引動作を遂行することができる。また吸引力を印加する細胞単離装置にかかる負荷を低減できる。
【0027】
上記(6)の構成によれば、組織をピペット部材の先端で掬い取って載置部材上に載置した状態で、ピペット部材を容器に装着することにより、組織を容器内の所定位置に困難なく設置できる。これにより撹拌作業を円滑に遂行することができる。
【0028】
上記(7)の構成によれば、ピペット部材に撹拌のための加圧力が印加された場合に、第1の開口から噴射された液流が容器の内側壁に衝突し、容器の底部に堆積している組織を巻き上げるような流れを形成する。これにより組織が第1の開口に吸着されやすくなり、撹拌による細胞単離処理を円滑に遂行することができる。
【0029】
上記(8)の構成によれば、濾過部材が、単離した細胞より小さな物質を濾過するため、必要な裸核化された細胞のみを収集することができる。これにより、精度の良い細胞単離処理を円滑に遂行することができる。
【0030】
上記(9)の構成によれば、上記(1)の構成と同様の作用効果が得られる。
【0031】
上記(10)の構成によれば、上記(2)の構成と同様の作用効果が得られる。
【0032】
上記(11)および(12)の構成によれば、上記(7)の構成と同様の作用効果が得られる。
【0033】
上記(13)の構成によれば、液体を容器に収容した際に試薬が当該液体中に溶解し、当該試薬が目的とする処理を撹拌による細胞単離処理と併行して遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞単離器具を示す分解斜視図である。
【図2】図1の細胞単離器具を組み立てた状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の細胞単離器具を用いて撹拌処理を行なっている状態を示す縦断面図である。
【図4】図1の細胞単離器具を用いて濾過済み細胞浮遊液を回収する状態を示す縦断面図である。
【図5】図1の細胞単離器具の変形例を示す部分拡大図である。
【図6】図1の細胞単離器具の変形例を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しつつ以下詳細に説明する。
【0036】
本発明の一実施形態に係る細胞単離器具1を分解した状態を図1に示し、組み立てた状態を図2に示す。細胞単離器具1は、ピペット部材10と、容器20とを備えて構成されている。何れも細胞毒性のない樹脂材料等により形成されている。
【0037】
ピペット部材10は、本体11と、フィルタ12(濾過部材)と、蓋体13とを備えている。
【0038】
本体11は、先端部11aが先細り形状とされた中空の円筒状部材である。本体11の先端(下端)には開口11b(第1の開口)が形成され、上端面11cには開口11dが形成されている。開口11bと開口11dは、本体11の内部に形成された通路14により連通されている。
【0039】
本体11の上端部には、保持部材15が設けられている。保持部材15は大径部15aと小径部15bを有し、大径部15aと小径部15bの境界には段部15cが画成されている。大径部15aは上端面11cを含んでいる。保持部材15の役割については後述する。
【0040】
蓋体13は、大径部13aと小径部13bを有する円筒状の部材であり、大径部13aと小径部13bの境界には段部13cが画成されている。大径部13aを含む上端面には開口13d(第2の開口)が形成され、小径部13bを含む下端面には開口13eが形成されている。開口13dと開口13eは、蓋体13の内部に形成された通路16により連通されている。
【0041】
フィルタ12は、細胞毒性のない材料により形成され、単離された細胞(裸核化された細胞)を含む液体が通過可能な程度の目開きを有する。本実施形態では、フィルタ12として目開き50μmのナイロンメッシュが用いられ、開口13eを覆うように蓋体13に接着または溶着されている。
【0042】
図2に示されるように、フィルタ12および蓋体13の小径部13bが開口11dに挿入されて本体11に装着され、本体11と蓋体13は本発明の筒体を構成する。蓋体13の段部13cは本体11の上端面11cに接着または溶着される。この状態において、本体11の通路14(第1の部分)と蓋体13の通路16(第2の部分)とが所定位置に配置されたフィルタ12を介して連通する。この「所定の位置」の詳細については後述する。
【0043】
容器20は、上端面20aに開口20bを有し、下端部が丸底の円筒状の部材である。容器20は透明であり、中空の内部空間20cが視認可能とされている。内部空間20cは開口20bに連通している。
【0044】
界面活性剤、RNA(リボ核酸)除去剤、および蛍光染料色素を含んだ試薬21が、乾燥あるいは凍結乾燥された状態で内部空間20cの底に収容されている。細胞単離処理に供される組織30および細胞処理液31(液体)を内部空間20cに投入すると、試薬21が細胞処理液31中に溶解する。細胞処理液31としては、PBS(リン酸緩衝液)等の浸透圧が生体と同じであるものが望ましい。後述する撹拌による細胞単離処理と併行して、界面活性剤による組織細胞の裸核化、RNA除去剤によるRNA除去、および蛍光染料色素による裸核化されたDNA細胞核の染色を遂行することができる。これにより後述の細胞単離装置に回収された後、蛍光分析装置(フローサイトメータ)等による測定が可能な状態となり、迅速な診断を実現できる。
【0045】
図2に示されるように、組織30および細胞処理液31を内部空間20cに収容した容器20にピペット部材10が装着される。具体的には、容器20の上端面20aが保持部材15の段部15cに当接するまで、ピペット部材10の本体11が容器20の開口20bから内部空間20cへ挿入される。この状態において、保持部材15の小径部15bの外周面が容器20の内面に当接する。
【0046】
すなわち保持部材15は、容器20の上端部に嵌合されてピペット部材10の先端部10aを容器20の内部空間20cにおける所定の位置に配置する。具体的には、本体11の先端(開口11b)は容器20の中心軸C1(図1参照)上に配置され、内部空間20cの底と一定の間隔を介して対向する。図2に示される状態では、本体11の先端と内部空間20cの底との間に投入された組織30が位置している。本体11の先端部11aは投入された細胞処理液31に浸っている。
【0047】
次に図3を参照しつつ、本実施形態に係る細胞単離器具1を用いた細胞単離処理について説明する。
【0048】
先ず図2に示されるように組み立てられた細胞単離器具1の上端部が、図3に示されるように、細胞単離装置が備えるノズル40の下端部に接続される。具体的には、ノズル40内の通路41と蓋体13内の通路16とが、適宜の係合構造を介して気密液密的に連通される。
【0049】
詳細は図示を省略するが、細胞単離装置はノズル40に接続されたポンプ機構を備えている。ユーザが設定した撹拌条件(撹拌強さ、繰り返し回数、継続時間等)に基づいて制御部がポンプ機構を制御し、加圧状態と減圧状態とを形成可能に構成されている。加圧状態においては、通路41を通じてノズル40から空気が吹き出し、減圧状態においては、通路41を通じてノズル40から空気が吸入される。
【0050】
加圧状態と減圧状態を繰り返すことにより、ノズル40に接続されたピペット部材10を通じて容器20内の組織30および組織処理液31(試薬21を含む)を撹拌することができる。
【0051】
図3の(a)は、細胞単離装置が減圧状態を形成している状態を示している。ピペット部材10には所定の吸引力(第1の吸引力)が作用し、容器20内の組織処理液31はピペット部材10に吸い上げられる。組織処理液31の一部は通路14内を上昇し、組織30はピペット部材10の先端(開口11b)に吸着される。このとき、ピペット部材10の先端との衝突によって組織の一部が粉砕される。
【0052】
図3の(b)は、細胞単離装置が加圧状態を形成している状態を示している。ピペット部材10には所定の圧力が加わり、通路14内の組織処理液31は開口11bから噴射されて容器20の内部空間20cに戻される。このとき開口11bに吸着していた組織30は、噴射の衝撃で組織の一部を粉砕されつつ組織処理液31内に戻される。
【0053】
上記の吸い込みと噴き出しを繰り返し行なうことにより、組織30は次第に細かく粉砕され、ミンスされた状態となる。一定時間の撹拌処理を行なうことにより、単離された細胞を含んだ懸濁液32(図4参照)を得ることができる。
【0054】
単離された細胞は病理解析に供されるが、懸濁液32中には単離細胞以外にもミンスされた不要な組織片が浮遊している。単離された細胞のみを解析に供するために、単離細胞よりも大きな組織片を濾過する工程が必要となる。
【0055】
本実施形態においては、細胞単離器具1をノズル40に接続したまま、撹拌処理時に作用させた吸引力よりも大きな吸引力(第2の吸引力)を、細胞単離装置がピペット部材10に作用させる。
【0056】
すると図4に示されるように、容器20内の懸濁液32はピペット部材10に吸い込まれ、通路14内を上昇する。細胞単離装置が吸引を継続すると、懸濁液32は通路14と通路16を隔てているフィルタ12に到達する。懸濁液32がフィルタ12を通過することによって不要な組織片が濾過され、所望の単離細胞を含む細胞浮遊液33が通路16に得られる。さらに吸引動作を継続することにより、細胞浮遊液33が細胞単離装置に回収され、フローサイトメータによる蛍光分析等の解析処理に供される。
【0057】
つまり、撹拌による細胞単離処理と、懸濁液を濾過することによる単離細胞の回収処理とを、細胞単離装置のノズル40に同一の細胞単離器具1を接続したままで遂行することが可能である。懸濁液を別の容器に移し替えて濾過を行なっていた従来の工程と比較して大幅な作業効率の向上が可能であり、また濾過による単離細胞の回収処理をも自動化することができる。
【0058】
また本実施形態に係るピペット部材10は、本体11にフィルタ12および蓋体13を装着した簡素な構成であり、上記の効果を低廉な部品・製造コストで得ることが可能である。またピペット部材10は、本体11にフィルタ12および蓋体13とが装着した状態で廃棄可能であり、使用者が懸濁液に直接触れることを避けられるため、安全性に優れる。
【0059】
ここで前述したフィルタ12の「所定位置」について説明する。上記のように、細胞単離装置は、撹拌を行なうためと濾過を行なうための二種類の吸引力をピペット部材10に作用させている。本実施形態においては、フィルタ12の位置は、撹拌のための吸引力によっては通路14に進入した液体はフィルタ12に到達せず、濾過のための吸引力によってのみ通路14に進入した液体がフィルタ12を通過するように定められている。
【0060】
すなわち図3の(a)に示されるように、撹拌時に印加される吸引力によっては空気のみがフィルタ12を通過し、図4に示されるように撹拌時よりも大きな吸引力が印加された場合に液体がフィルタ12を通過する。つまり撹拌時にはフィルタ12は液体に浸らず、空気のみがフィルタ12を通過するため、撹拌抵抗を可及的に小さくできる。よって撹拌動作時において細胞単離装置のポンプ機構にかかる負荷を最小限に抑えることができる。
【0061】
次に図5および図6を参照しつつ、本実施形態に係る細胞単離器具1の変形例について説明する。
【0062】
図5の(a)に示されるように、ピペット部材10の先端の開口11bの近傍にスリット17が形成された構成としてもよい。
【0063】
図3の(a)に示されるように、ピペット部材10に撹拌のための吸引力が作用している場合、ピペット部材10に吸着された組織30が開口11を完全に塞いでしまうことがある。本変形例の構成によれば、そのような場合でもスリット17を通じて細胞処理液31が流通するため、所望の吸引動作を遂行することができる。また吸引力を印加する細胞単離装置のポンプ機構にかかる負荷を低減できる。
【0064】
スリット17は、開口11bの近傍に形成されて細胞処理液31の流通を妨げないものであれば、その位置と形状は特に限定されるものではない。図5の(a)に示されるように開口11bと連続していてもよく、図5の(b)に示されるように開口11bから独立していてもよい。すなわち開口11b以外に液体が流通可能な部位を有していればよい。
【0065】
図5の(c)に示されるように、ピペット部材10の先端の開口11bの近傍に耳状の載置部材18が形成される構成としてもよい。
【0066】
本変形例の構成によれば、組織30をピペット部材10の先端で掬い取って載置部材18上に載置した状態で、ピペット部材10を容器20に装着することにより、組織30を内部空間20cの底部の所定位置に困難なく設置できる。これにより撹拌作業を円滑に遂行することができる。載置部材18の形状と大きさは、取り扱う組織30に応じて適宜定められる。
【0067】
図6の(a)に示されるように、ピペット部材10が容器20に装着された状態において、ピペット部材10の先端の開口11bが容器20の中心軸C1から外れた位置に配置される構成としてもよい。換言すると、開口11bの中心軸C2が容器20の中心軸C1に対して傾斜している構成としてもよい。
【0068】
このような構成を得るためには適宜の構成を採用可能である。例えばピペット部材10における本体11の先端部11aを屈曲した形状としたり、保持部材15の形状を中心軸C1に対して非対称とし、先端部11aが傾斜した姿勢となるように構成したりすることができる。
【0069】
本変形例の構成によれば、ピペット部材10に撹拌のための加圧力が印加された場合に、開口11bから噴射された液流が内部空間20cの内側壁に衝突し、底部に張り付いて堆積している組織30を巻き上げるような流れを形成する。これにより組織30が開口11bに吸着されやすくなり、撹拌による細胞単離処理を円滑に遂行することができる。
【0070】
また同様の効果を得るために、図6の(b)に示されるように、細胞単離器具1が細胞単離装置に接続された状態において、容器20の中心軸C1が鉛直方向Vに対して傾斜するように構成してもよい。
【0071】
このような構成を得るためには適宜の構成を採用可能である。例えば細胞単離装置のノズル40と接続される蓋体13に屈曲部分を設け、本体11および容器20が鉛直方向Vに対して傾斜した姿勢となるように構成することができる。
【0072】
さらに、図6の(c)に示されるように、容器20の中心軸C1と開口11bの中心軸C2とが平行かつ非同軸な関係となる構成としてもよい。
【0073】
上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる事は勿論である。
【0074】
ピペット部材10において、蓋体13は必ずしも必要でない。細胞単離装置のノズル40に接続される基端側の開口を本体11が備え、本体11内の通路14がフィルタ12によって撹拌用の部分(第1の部分)と細胞浮遊液回収用の部分(第2の部分)に隔てられている構成としてもよい。この場合、フィルタ12は通路14の適宜の位置に接着あるいは溶着される。可能であれば本体11と一体成形してもよい。
【0075】
但し上記実施形態のように、ピペット部材10を本体11と蓋体13を含むように構成すると、フィルタ12の所定位置への設置が容易となり、組立て作業性が向上する。
【0076】
フィルタ12は、必ずしも蓋体13の開口13eを覆うように接着または溶着されている必要はない。例えば蓋体13の小径部13bよりも大きな径を有するフィルタ12を、本体11の開口11dの内面と蓋体13の小径部13bの外面とで挟み込んで所定位置に固定する構成としてもよい。換言すると、フィルタ12の少なくとも一部が蓋体13と接する構成とすれば、前記の組立て容易性は確保され得る。
【0077】
本体11の先端部11aは、必ずしも先細り形状とされている必要はない。本体11の開口11bの大きさは適宜に定めることが可能である。但し上記実施形態のように、本体11の開口11bの大きさを蓋体13の開口13dよりも径小に形成することにより、撹拌処理時に強い液流を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1:細胞単離器具、10:ピペット部材、11:本体、11b:開口、12:フィルタ、13:蓋体、13d:開口、14:通路、16:通路、17:スリット、18:載置部材、20:容器、21:試薬、30:組織、31:細胞処理液、32:懸濁液、33:細胞浮遊液、40:ノズル、C1:容器の中心軸、V:鉛直方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織と液体を収容可能な容器に装着可能であって、撹拌により前記組織から細胞を単離するためのピペット部材であって、
前記容器に収容される第1の開口と、細胞単離装置に接続される第2の開口とを備え、前記第1の開口と前記第2の開口を連通する通路が形成された筒体と、
前記筒体の内部に設けられ、前記通路を前記第1の開口を含む第1の部分と、前記第2の開口を含む第2の部分とに隔てる濾過部材とを備える。
【請求項2】
前記濾過部材の位置は、前記撹拌のために前記細胞単離装置が印加する第1の吸引力によっては空気のみが前記濾過部材を通過し、前記第1の吸引力よりも大きな第2の吸引力が前記細胞単離装置により印加された場合に、単離された前記細胞を含む前記液体が前記濾過部材を通過するように定められている、請求項1に記載のピペット部材。
【請求項3】
前記第2の開口の一部を構成する蓋体を更に備え、
前記濾過部材は、少なくとも一部が前記蓋体と接している、請求項2に記載のピペット部材。
【請求項4】
前記第1の開口は、前記第2の開口よりも径小に形成されている、請求項1ないし3の何れか1項に記載のピペット部材。
【請求項5】
前記筒体における前記第1の開口の近傍に、前記通路と連通するスリットが形成されている、請求項1ないし4の何れか1項に記載のピペット部材。
【請求項6】
前記筒体における前記第1の開口の近傍に、前記組織を載置可能な載置部材が形成されている、請求項1ないし5の何れか1項に記載のピペット部材。
【請求項7】
前記容器に装着された状態において、前記第1の開口が前記容器の中心軸から外れた位置に配置されるように構成されている、請求項1ないし6の何れか1項に記載のピペット部材。
【請求項8】
前記濾過部材は、単離した細胞より小さな物質を濾過する、請求項1ないし7の何れか1項に記載のピペット部材。
【請求項9】
組織と液体を収容可能な容器と、
前記容器に装着され、撹拌により前記組織から細胞を単離するためのピペット部材とを備える細胞単離器具であって、
前記ピペット部材は、
前記容器に収容される第1の開口と、細胞単離装置に接続される第2の開口とを備え、前記第1の開口と前記第2の開口を連通する通路が形成された筒体と、
前記筒体の内部に設けられ、前記通路を前記第1の開口を含む第1の部分と、前記第2の開口を含む第2の部分とに隔てる濾過部材とを備える。
【請求項10】
前記濾過部材の位置は、前記撹拌のために前記細胞単離装置が印加する第1の吸引力によっては空気のみが前記濾過部材を通過し、前記第1の吸引力よりも大きな第2の吸引力が前記細胞単離装置により印加された場合に、単離された前記細胞を含む前記液体が前記濾過部材を通過するように定められている、請求項9に記載の細胞単離器具。
【請求項11】
前記第1の開口が前記容器の中心軸から外れた位置に配置されている、請求項9または10に記載の細胞単離器具。
【請求項12】
前記細胞単離装置に装着された状態において、前記容器の中心軸が鉛直方向に対して傾斜するように構成されている、請求項9または10に記載の細胞単離器具。
【請求項13】
前記容器の底部には乾燥された試薬が配置されている、請求項9ないし12の何れか1項に記載の細胞単離器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−17458(P2013−17458A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155636(P2011−155636)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度経済産業省「課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】