説明

ピペラシリンナトリウムの新規な結晶

【構成】医薬として優れた作用を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶及びそれを充填した注射用製剤。
【効果】粉末X線回折において、2θで表される7.0、14.1及び25.3°の回折角度を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶並びに7.4及び8.3°の回折角度を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶は、類縁物質含量が少なく、高純度であり、医薬の原薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸(以下、ピペラシリンと称する。)ナトリウムの新規な結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラシリンまたはその塩は、広い菌種、特にグラム陰性微生物、シュードモナスアルギノーサ、尋常変形菌、セラチア種、腸バクテリアおよびその他の臨床上重要な嫌気性菌に対し、抗菌活性を有することが知られている。例えば、肺炎、化膿性髄膜炎および敗血症等の治療にピペラシリンナトリウムが効果的に使用されている。
一般に薬物の注射剤としては、水などの液体に溶解、乳化または分散させて使用する液体注射剤、および、使用時に液体に溶解、乳化または分散させて使用する用時溶解型の粉末注射剤が知られている。
しかし、ピペラシリンナトリウムは、溶液中で不安定であり、ピペラシリンナトリウムの液体注射剤を製造することは難しい。そのため、ピペラシリンナトリウムの凍結乾燥製剤が使用されている。
しかしながら、非晶質の固形物は、吸湿性を有し、用時溶解性に劣る。更に、凍結乾燥による製造は、長時間を要し、製造コストを上昇させるだけでなく、精製が困難であるという問題があった。
一方、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶が知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−099763号公報
【特許文献2】特開2007−246514号公報
【特許文献3】国際公開第2008/093650号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、医薬として優れた作用を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶およびそれを充填した注射用製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ピペラシリンナトリウムに結晶体が存在し、その結晶体に結晶多形が存在することを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明のピペラシリンナトリウムの新規な結晶は、濾過および乾燥が容易で、類縁物質含量が少なく、高純度であり、医薬の原薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、特にことわらない限り、各用語は、次の意味を有する。
低級アルコールとは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコールまたはプロピレングリコールを意味する。
アルキルケトンとは、例えば、アセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトンを意味する。
エーテルとは、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンを意味する。
アルキルエステルとは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルまたは酢酸ブチルを意味する。
有機塩基とは、例えば、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウムまたは安息香酸ナトリウムを意味する。
【0008】
本発明は、粉末X線回折において、2θで表される7.0、14.1および25.3°の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(以下、β型結晶と称する。)ならびに粉末X線回折において、2θで表される7.4および8.3°の回折角度を有するピペラシリンナトリウムの結晶(以下、γ型結晶と称する。)に関する。なお、粉末X線回折による特徴的なピークは、測定条件により変動することがある。一般に、2θは、±0.2°の範囲内で誤差が生じる。従って、「2θで表されるX°の回折角度」は、「2θで表される((X−0.2)〜(X+0.2))°の回折角度」を意味する。
【0009】
β型結晶、γ型結晶およびピペラシリンナトリウムの凍結乾燥末(以下、非晶質と称する。)の粉末X線回折の測定結果を図4〜6に示す。
【0010】
粉末X線回折測定条件
使用X線:CuKα
X線検出部:2次元検出器
加電圧:40kV
加電流:40mA
ゴニオメーター: 試料水平型(2軸)
試料ステージ:5軸試料ステージ
コリメーター径:300μmφ
走査軸:2θ
走査範囲:2θ=3〜50°
試料−検出器距離:25cm
測定時間:180秒
【0011】
本発明のβ型結晶およびγ型結晶は、以下の条件において測定した赤外吸収スペクトルにおける吸収波長によっても特徴付けられる。
β型結晶、γ型結晶および非晶質の赤外吸収スペクトル測定結果を図7〜9に示す。
【0012】
赤外吸収スペクトル測定条件
日本薬局方、一般試験法、赤外吸収スペクトル全反射測定法(ATR法)に従って測定した。
【0013】
次に、β型結晶およびγ型結晶の製造法について説明する。β型結晶およびγ型結晶は、例えば、次の製造法で製造することができる。
【0014】
[製造法1]β型結晶の製造
ピペラシリンナトリウムの含水溶液に、有機塩基を添加することにより、β型結晶を製造することができる。
この製造に用いられる溶媒としては、アルキルケトン、エーテルおよびアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、低級アルコールならびに水の混合溶媒が挙げられる。
アルキルケトンとしては、アセトンまたはメチルエチルケトンが好ましい。
エーテルとしては、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンが好ましく、1,2−ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランがより好ましい。
アルキルエステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチルまたは酢酸ブチルが好ましく、酢酸メチルがより好ましい。
低級アルコールとしては、メタノール、エタノールまたはプロパノールが好ましく、メタノールまたはエタノールがより好ましい。
混合溶媒としては、アルキルエステル、低級アルコールおよび水の混合溶媒が好ましく、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ブチルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、メタノールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種の溶媒ならびに水の混合溶媒がより好ましく、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、メタノールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種の溶媒ならびに水の混合溶媒が更に好ましい。
有機溶媒および水の混合比は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒の含率が50〜99(v/v)%が好ましく、80〜99(v/v)%がより好ましく、90〜99(v/v)%が更に好ましい。
また、有機溶媒の混合比は、特に限定されないが、例えば、アルキルエステルおよび低級アルコールの混合溶媒では、アルキルエステルの含率が60〜95(v/v)%が好ましく、65〜85(v/v)%がより好ましく、70〜80(v/v)%が更に好ましい。
アルキルケトンおよび低級アルコールの混合溶媒では、アルキルケトンの含率が60〜95(v/v)%が好ましく、65〜85(v/v)%がより好ましく、70〜80(v/v)%が更に好ましい。
【0015】
混合溶媒中の水の量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対して、0.1〜1倍量が好ましく、0.1〜0.5倍量がより好ましい。
混合溶媒中の有機溶媒の量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対して,2〜20倍量が好ましく、3〜10倍量がより好ましい。
【0016】
有機塩基としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムまたは安息香酸ナトリウムが好ましい。
有機塩基は、低級アルコールまたは水に溶解して添加してもよい。
有機塩基の量は、ピペラシリンナトリウムに対して、0.01〜1当量が好ましく、0.05〜0.5等量がより好ましく、0.05〜0.3等量が更に好ましい。
【0017】
温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
この製造において、β型結晶の種晶を使用することもでき、その量は、特に限定されない。
この製造において、晶出に要する時間は、特に限定されないが、0.5〜48時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
【0018】
[製造法2]γ型結晶の製造
ピペラシリンナトリウムの溶液に、有機酸塩を添加することにより、γ型結晶を製造することができる。
この製造に用いられる溶媒としては、アルキルケトン、エーテルおよびアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の溶媒ならびに低級アルコールの混合溶媒が挙げられる。
アルキルケトンとしては、アセトンまたは2−ブタノンが好ましい。
エーテルとしては、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン,テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサンが好ましく、1,2−ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランがより好ましい。
アルキルエステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチルまたは酢酸ブチルが好ましく、酢酸メチルがより好ましい。
低級アルコールとしては、メタノール、エタノールまたはプロパノールが好ましく、メタノールまたはエタノールがより好ましい。
混合溶媒としては、アルキルエステルおよび低級アルコールの混合溶媒が好ましく、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ブチルから選ばれる少なくとも1種の溶媒ならびにメタノールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種の溶媒の混合溶媒がより好ましく、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種の溶媒ならびにメタノールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種の溶媒の混合溶媒が更に好ましい。
有機溶媒および低級アルコールの混合比は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒の含率が20〜90(v/v)%が好ましく、30〜80(v/v)%がより好ましく、40〜60(v/v)%が更に好ましい。
【0019】
低級アルコールの量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対して、0.5〜10倍量が好ましく、1〜5倍量がより好ましい。
有機溶媒の量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対して、1〜10倍量が好ましく、1〜5倍量がより好ましい。
【0020】
有機塩基としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムまたは安息香酸ナトリウムが好ましい。
有機塩基は、低級アルコールに溶解して添加してもよい。
有機塩基の量は、ピペラシリンナトリウムに対して、0.01〜1当量が好ましく、0.05〜0.5等量がより好ましく、0.05〜0.3等量が更に好ましい。
【0021】
温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
この製造において、γ型結晶の種晶を使用することもでき、その量は、特に限定されない。
この製造において、晶出に要する時間は、特に限定されてないが、0.5〜48時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
【0022】
本発明のピペラシリンナトリウムの結晶は、常法にしたがって、注射剤にすることができる。さらに、本発明の結晶は、公知のβ−ラクタマーゼ阻害剤、例えば、クラブラン酸、スルバクタムおよび/またはタゾバクタムと配合して、配合剤とすることもできる。好ましいβ−ラクタマーゼ阻害剤としては、タゾバクタムが挙げられ、その配合比は、特に限定されないが、タゾバクタム1に対して、ピペラシリンナトリウムの結晶4〜8(重量比)が好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0024】
実施例1(β型結晶)
ピペラシリンナトリウム2.0gをエタノール3.0mLおよび水0.50mLの混合液に溶解し、安息香酸ナトリウム0.052gを添加した。次いで、酢酸メチル8.0mLを添加し、5℃で6時間撹拌した。結晶を濾取し、β型結晶1.6gを得た。
含水率:3.2%
IR(ATR)1769、1689cm-1
走査型電子顕微鏡写真を図1に、粉末X線回折のパターンを図4に、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図7に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例2(γ型結晶)
ピペラシリンナトリウム2.0gをメタノール3.0mLおよび酢酸メチル3.0mLに溶解し、プロピオン酸ナトリウム0.068gを添加した。次いで、5℃で6時間撹拌した。結晶を濾取し、γ型結晶1.4gを得た。
含水率:0.1%
IR(ATR)1775、1782cm-1
走査型電子顕微鏡写真を図2に、粉末X線回折のパターンを図5に、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図8に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
比較例1(非晶質)
ピペラシリン・1水和物90gを水180mLに加えた。炭酸水素ナトリウム14gを6〜10℃で2時間で添加した。不溶物を濾去した後、凍結乾燥し、非晶質89gを得た。
含水率:0.5%
IR(ATR)1765、1713cm-1
走査型電子顕微鏡写真を図3に、粉末X線回折のパターンを図6に、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図9に示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】β型結晶の走査型電子顕微鏡写真(倍率2,200倍)である。
【図2】γ型結晶の走査型電子顕微鏡写真(倍率4,000倍)である。
【図3】非晶質の走査型電子顕微鏡写真(倍率200倍)である。
【図4】β型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図5】γ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図6】非晶質の粉末X線回折パターンである。
【図7】β型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。
【図8】γ型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。
【図9】非晶質の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折において、2θで表される7.0、14.1及び25.3°の回折角度を有する(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウム・1水和物の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折において、2θで表される7.4及び8.3°の回折角度を有する(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウムの結晶。


【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−225552(P2011−225552A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73772(P2011−73772)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】