説明

ピペラシリンナトリウムの新規な結晶

【課題】医薬として優れた作用を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶及びそれを充填した注射用製剤。
【解決手段】粉末X線回折において、2θで表される5.4、6.7、11.0、18.9及び25.2°の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・2.5水和物の新規な結晶及び5.5、11.4、15.4、17.2及び17.8°の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・3水和物の新規な結晶は、類縁物質含量が少なく、高純度であり、吸湿性が低く、原薬及びその製造中間体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸(以下、ピペラシリンと称する。)ナトリウムの新規な結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラシリン又はその塩は、広い菌種、特にグラム陰性微生物、シュードモナスアルギノーサ、尋常変形菌、セラチア種、腸バクテリア及びその他の臨床上重要な嫌気性菌に対し、抗菌活性を有することが知られている。例えば、肺炎、化膿性髄膜炎及び敗血症等の治療にピペラシリンナトリウムが効果的に使用されている。
一般に薬物の注射剤としては、水などの液体に溶解、乳化又は分散させて使用する液体注射剤、及び、使用時に液体に溶解、乳化又は分散させて使用する用時溶解型の粉末注射剤が知られている。
しかし、ピペラシリンナトリウムは、溶液中で不安定であり、ピペラシリンナトリウムの液体注射剤を製造することは難しい。そのため、ピペラシリンナトリウムの凍結乾燥製剤が使用されている。
しかしながら、非晶質の固形物は、吸湿性を有し、用時溶解性に劣る。更に、凍結乾燥による製造は、長時間を要し、製造コストを上昇させるだけでなく、精製が困難であるという問題があった。
一方、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶が知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−099763号公報
【特許文献2】特開2007−246514号公報
【特許文献3】国際公開第2008/093650号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、医薬として優れた作用を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶及びそれを充填した注射用製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ピペラシリンナトリウムに結晶体が存在し、その結晶体に結晶多形が存在することを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明のピペラシリンナトリウムの新規な結晶は、濾過及び乾燥が容易で類縁物質含量が少なく、高純度であり、吸湿安定性に優れ、医薬の原薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、粉末X線回折において、2θで表される5.4、6.7、11.0、18.9及び25.2°の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・2.5水和物の新規な結晶(以下、δ型結晶と称する。)ならびに粉末X線回折において、2θで表される5.5、11.4、15.4、17.2及び17.8°の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・3水和物の新規な結晶(以下、ε型結晶と称する。)に関する。なお、粉末X線回折による特徴的なピークは、測定条件により変動することがある。一般に、2θは、±0.2°の範囲内で誤差が生じる。従って、「2θで表されるX°の回折角度」は、「2θで表される((X−0.2)〜(X+0.2))°の回折角度」を意味する。
【0008】
δ型結晶及びε型結晶の粉末X線回折の測定結果を図1及び図2に示す。
【0009】
粉末X線回折の測定条件
使用X線:CuKα
加電圧:40kV
加電流:40mA
走査軸:2θ
【0010】
本発明のδ型結晶及びε型結晶は、以下の条件において測定した赤外吸収スペクトルにおける吸収波長によっても特徴付けられる。
δ型結晶及びε型結晶の赤外吸収スペクトル測定結果を図3及び図4に示す。
【0011】
赤外吸収スペクトル測定条件
日本薬局方、一般試験法、赤外吸収スペクトル全反射測定法(ATR法)に従って測定した。
【0012】
次に、本発明化合物の有用性を明らかにするため、純度(類縁物質含量)試験及び吸湿性試験の結果を説明する。
【0013】
(1)純度(類縁物質含量)試験
被験物質として、δ型結晶(実施例1)、ε型結晶(実施例2)及び非晶質(比較例1)を用いた。
被験物質の純度を高速液体クロマトグラフィー法により測定した(平成13年4月4日医薬発第340号厚生省医薬安全局長通知)。
【0014】
副成物I及び分解物Iの測定条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:254nm
カラム:Develosil ODS−HG−5、内径4.6×長さ150mm
カラム温度:室温
移動相:21%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/L酢酸、0.025mol/Lトリエチルアミン)
流量:1mL/分
【0015】
副成物IIの測定条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:254nm
カラム:Nucleosil−5C18、内径4.6×長さ150mm
カラム温度:室温
移動相:30%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/L酢酸、0.025mol/Lトリエチルアミン)
流量:1mL/分
結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
δ型結晶(実施例1)及びε型結晶(実施例2)は、非晶質(比較例1)よりも類縁物質含量が少なかった。
【0018】
(2)吸湿性試験
被験物質として、δ型結晶(実施例1)、ε型結晶(実施例2)及び非晶質(比較例1)を用いた。
被験物質を22%相対湿度下、25℃で1日間放置し、日本薬局方、一般試験法、水分測定法(カール・フィッシャー法)に従って水分含量を測定した。結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
δ型結晶(実施例1)及びε型結晶(実施例2)は、開始時と終了時における水分含量の変化が少なく、非晶質(比較例1)よりも吸湿安定性に優れていた。
【0021】
次に、δ型結晶及びε型結晶の製造法について説明する。δ型結晶及びε型結晶は、例えば、次の製造法で製造することができる。
【0022】
[製造法1]δ型結晶の製造
ピペラシリンナトリウムを含むエタノール及び水の混合溶媒の溶液に、アニソールを一括で添加することによりδ型結晶を製造することができる。
【0023】
エタノール及び水の混合比は、特に限定されないが、例えば、エタノールの含率が85〜98(v/v)%が好ましく、90〜97(v/v)%がより好ましい。
エタノール及び水の混合溶媒の量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対し、0.5〜3倍量が好ましく、1.5〜2.5倍量がより好ましい。
アニソールの量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対し、2〜10倍量(v/w)が好ましく、2.5〜5倍量(v/w)がより好ましい。
【0024】
温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
この製造において、晶出に要する時間は、特に限定されないが、0.5〜48時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0025】
[製造法2]ε型結晶の製造
ピペラシリンナトリウムを含むエタノール及び水の混合溶媒の溶液に、アニソールを滴下することによりε型結晶を製造することができる。
【0026】
エタノール及び水の混合比は、特に限定されないが、例えば、エタノールの含率が85〜95(v/v)%が好ましく、85〜90(v/v)%がより好ましい。
エタノール及び水の混合溶媒の量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対し、0.5〜3倍量が好ましく、1.5〜2.5倍量がより好ましい。
アニソールの量は、特に限定されないが、ピペラシリンナトリウムに対し、2〜10倍量が好ましく、2.5〜5倍量がより好ましい。
アニソールの滴下に要する時間は、1〜10時間が好ましく、1.5〜5時間がより好ましい。
【0027】
温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
この製造において、晶出に要する時間は、特に限定されないが、0.5〜48時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0028】
本発明のピペラシリンナトリウムの結晶は、常法にしたがって、注射剤にすることができる。さらに、本発明の結晶は、公知のβ−ラクタマーゼ阻害剤、例えば、クラブラン酸、スルバクタム及び/又はタゾバクタムと配合して、配合剤とすることもできる。好ましいβ−ラクタマーゼ阻害剤としては、タゾバクタムが挙げられる。ピペラシリンナトリウムの結晶とタゾバクタムとの配合比は、特に限定されないが、力価の比としては、タゾバクタム1に対し、ピペラシリンナトリウム4〜8が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0030】
実施例1(δ型結晶)
ピペラシリンナトリウム10.0gをエタノール20mL及び水1mLの混合液に加え、20-30℃で1時間撹拌した。アニソール30mLを一括で添加し、20-30℃で2時間撹拌し、0-10℃で2時間撹拌した。結晶を濾取し、δ型結晶11.0gを得た。
含水率:7.4%
粉末X線回折のパターンを図1、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例2(ε型結晶)
ピペラシリンナトリウム50.0gをエタノール100mL及び水15mLの混合液に加え、20-30℃で1時間撹拌した。アニソール150mLを2時間かけて滴下し、20-30℃で2時間撹拌し、0-10℃で2時間撹拌した。結晶を濾取し、ε型結晶61.0gを得た。
含水率:8.6%
粉末X線回折のパターンを図2、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
比較例1(非晶質)
ピペラシリン・1水和物90gを水180mLに加えた。炭酸水素ナトリウム14gを6〜10℃で2時間で添加した。不溶物を濾去した後、凍結乾燥し、非晶質89gを得た。
含水率:0.5%
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】δ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図2】ε型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図3】δ型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。
【図4】ε型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折において、2θで表される5.4、6.7、11.0、18.9及び25.2°の回折角度を有する(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウム・2.5水和物の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折において、2θで表される5.5、11.4、15.4、17.2及び17.8°の回折角度を有する(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウム・3水和物の結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12384(P2012−12384A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121145(P2011−121145)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】