説明

ピペリジンスルホニル尿素および−チオ尿素、それらの製造、それらの使用及びそれらを含む医薬組成物

ピペリジンスルホニル尿素及び−チオ尿素、それらの製造、それらの使用及びそれらを含んでなる医薬組成物。
本発明は、式I
【化1】


[式中、A、X、R(1)、R(2)及びR(3)は、特許請求の範囲に記載された意味を有する]のピペリジンスルホニル尿素及びピペリジンスルホニルチオ尿素に関する。式Iの化合物は、特に心筋のATP感受性のカリウムチャネルにおける抑制効果を示す有益な活性医薬成分であり、例えば心血管系の障害、例えば冠状動脈性心疾患、不整脈、心不全、心臓の心筋症若しくは収縮性の低下の治療又は突然心臓死を防止に適している。さらに、本発明は、式Iの化合物の製造方法、その使用、及びそれを含んでなる医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式I
【化1】

[式中、A、X、R(1)、R(2)及びR(3)は、以下に記載された意味を有する]のピペリジンスルホニル尿素及びピペリジンスルホニルチオ尿素に関する。式Iの化合物は、特に心筋のATP感受性カリウムチャネルにおける抑制効果を示す有益な活性医薬成分であり、そして例えば心血管系の障害、例えば冠状動脈性心疾患、不整脈、心不全、心筋症若しくは心臓の収縮性の低下の治療又は突然心臓死の予防に適している。さらに、本発明は、式Iの化合物の製造方法、その使用及びそれを含んでなる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種のベンゼンスルホニル尿素について、血糖低下作用(blood sugar−lowering effect又はhypoglycemic effect)が記載されている。グリベンクラミドは、このような血糖を低下させるスルホニル尿素のプロトタイプとみなされ、真性糖尿病の治療の薬剤として治療に用いられる。グリベンクラミドはATP感受性のカリウムチャネル(KATPチャネル)を遮断し、このようなカリウムチャネルを研究するための手段として研究に用いられる。また、グリベンクラミドは、その血糖低下作用の他に、心臓における抗細動性効果を含む他の効果を有するが、しかしながら、現在まで治療に利用されてこなかった。しかし、グリベンクラミドを用いた不整脈もしくは心室細動の治療又はその前段階においてこの物質によって同時に生じる血糖の顕著な低下は、多くの場合、患者の状態をさらに悪化させることがあるため、望ましくないか又は危険でさえあり、そのため、グリベンクラミドは一般に抗不整脈薬として臨床上適切でない。
【0003】
種々の刊行物、例えばUSA−5574069、USA−5698596、USA−5476850、USA−5652268、USB−6410573又はGogelein et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 286, 1453-1464 (1998)は、心筋のKATPチャネル(SUR2A/Kir6.2アイソフォーム)を選択的に遮断し、わずかな血糖低下作用しかない抗細動性ベンゼンスルホニル尿素及び−チオ尿素を開示している。USB−6414030は、自律神経系におけるこれらの化合物のいくつかの効果を記載している。しかしながら、薬力学的及び薬理動態的性質の改善されたプロファイルを有し、特に虚血状態における心臓リズムの乱れ及びその続発症、例えば突然心臓死又は心筋収縮力の衰弱の治療に特に適切である化合物がなお必要とされている。
【0004】
Xが酸素である式Iのある種の化合物、及び構造的に関連した化合物は開示されている。例えば、USA−3829434、USA−3887561、USA−3914426、USA−3936455又はUSA−4315940には、アシル基中に、式Iに記載されたベンゼン環の代わりに、例えばピリジン、キノリン、テトラヒドロジオキソピリミジン又はオキソイソインドリンのようなヘテロ環式環を含み、そして血糖低下作用を有し、真性糖尿病の治療に適した4−アシルアミノエチルピペリジン−1−スルホニル尿素が記載されている。Sarges et al., J. Med. Chem. 19, 695-709 (1976)は、式Iの化合物と構造的に関連があり、血糖低下作用を有するさらなるピペリジンスルホニル尿素、及び式Iにおいて、AがCH2−CH2であり、Xは酸素であり、R(1)はn−プロピル、n−ヘキシル又はシクロヘキシルであり、フェニル基は基R(2)を担持し、そしてR(3)は5−クロロ−2−メトキシフェニルである式Iの化合物を記載している。その中に記載された化合物がいずれかのさらなる薬理効果を有することは示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
驚くべきことに、ここで式Iのピペリジンスルホニル尿素および−チオ尿素は、心臓のATP感受性カリウムチャネルにおける抑制効果を示し、例えばそれらの選択性に関して性質の望ましいプロファイルを有し、そして例えば不整脈のような心血管系の障害の治療及び突然心臓死の予防に適切であることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、全てのその立体異性体の形態における式I
【化2】

[式中、
Aは、CH2、CH2−CH2又はCH2−CH2−CH2であり;
Xは、酸素又は硫黄であり;
R(1)は、水素、(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル又は−(C1−C3)−アルキル(C3−C7)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C7)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又はそれ以上置換されていてもよく、そして(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル及び−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよく;
R(2)及びR(3)は、互いに独立しており、同一又は異なっていてもよく、水素、ハロゲン、(C1−C4)−アルキル又は(C1−C4)−アルコキシであり、ここで(C1−C4)−アルキル及び(C1−C4)−アルコキシ基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよいが、
ここで同時に、AがCH2−CH2であり、Xが酸素であり、そして基R(2)及びR(3)を担持しているフェニル基が5−クロロ−2−メトキシフェニルである場合、R(1)は、n−プロピル、n−ヘキシル又はシクロヘキシルであることはできない)の化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩に関する。
【0007】
基又は置換基が式Iの化合物中で1回より多く存在することができる時、それらは、全て相互に独立して記載された意味を有することができ、各場合、同一又は異なる。
【0008】
アルキルは、直鎖及び分枝飽和炭化水素残基を表す。また、これは、アルキル基が置換される又は別の基中、例えばアルコキシ基中に存在する場合にも適用される。アルキルの例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル及びイソヘキシルである。アルコキシの例は、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシである。アルキル基又はアルコキシ基がフッ素によって1回又はそれ以上置換される場合、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13個のフッ素原子によって置換されることができる。フッ素原子は、アルキル基又はアルコキシ基中のあらゆる位置で存在することができる。フッ素置換されたアルキル基の例は、トリフルオロメチル、2−フルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル及びヘプタフルオロイソプロピルである。フッ素置換されたアルコキシ基の例は、トリフルオロメトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、ペンタフルオロエトキシ及び3,3,3−トリフルオロプロポキシである。
【0009】
シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチルである。シクロアルキル基がアルキル基によって1回又はそれ以上置換される場合、例えば1、2、3又は4個の同一又は異なるアルキル基によって置換されることができる。シクロアルキル基のアルキル置換基の例は、メチル、エチル、イソプロピル及びtert−ブチル、特にメチルである。アルキル置換基は、シクロアルキル基中あらゆる位置、例えば1位、すなわち、シクロアルキル基が結合した炭素原子上で、2位、3位又は4位で存在することができる。アルキル置換されたシクロアルキル基の例は、1−メチルシクロプロピル、2,2−ジメチルシクロプロピル、1−メチルシクロペンチル、2,3−ジメチルシクロペンチル、4−メチルシクロヘキシル、4−tert−ブチルシクロヘキシル及び3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキシルである。シクロアルキル基がフッ素によって1回又はそれ以上置換される場合、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13個のフッ素原子によって置換されることができる。シクロアルキル基は、フッ素及びアルキルによって同時に置換されることもできる。フッ素原子は、シクロアルキル基中のあらゆる位置で存在することができ、そしてシクロアルキル基上のアルキル置換基中に存在することもできる。フッ素置換されたシクロアルキル基の例は、1−フルオロシクロヘキシル、4,4−ジフルオロシクロヘキシル及び3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロヘキシルである。
【0010】
従って、上記の説明は、(C1−C3)−アルキル基を経て分子の残りに結合した−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基中のアルキルのサブグループ及びシクロアルキルのサブグループに適用される。(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基は、アルキルのサブグループにおいて及び/又はシクロアルキルのサブグループにおいてフッ素によって置換されていてもよく、及び/又はシクロアルキルのサブグループにおいてアルキルによって置換されてもよい。(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキルの例は、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘプチルメチル、1−シクロプロピルエチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロブチルエチル、1−シクロペンチルエチル、2−シクロペンチルエチル、1−シクロヘキシルエチル、2−シクロヘキシルエチル、1−シクロヘプチルエチル、2−シクロヘプチルエチル、2−シクロプロピル−1−メチルエチル、2−シクロブチル−1−メチルエチル、2−シクロペンチル−1−メチルエチル、2−シクロヘキシル−1−メチルエチル、2−シクロヘプチル−1−メチルエチル、3−シクロプロピルプロピル、3−シクロペンチルプロピル、3−シクロヘキシルプロピル−、及び3−シクロヘプチルプロピルである。
【0011】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素、好ましくは塩素又はフッ素を表す。
【0012】
基R(2)及びR(3)は、それらを担持するフェニル基上のあらゆる位置で存在することができる。式Iに記載されたフェニル基中に基R(2)及びR(3)及びCO基を担持していない炭素原子は、水素原子を担持する。従って、置換されたフェニル基では、置換基があらゆる位置に存在することが可能である。一置換されたフェニル基では、置換基は、2位、3位又は4位に存在することができる。二置換されたフェニル基では、置換基は2,3位、2,4位、2,5位、2,6位、3,4位又は3,5位に存在することができる。基R(2)及びR(3)を担持するフェニル基の例は、非置換フェニル、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、2,3−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,5−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル、2−イソブチルフェニル、3−イソブチルフェニル、4−イソブチルフェニル、2−tert−ブチルフェニル、3−tert−ブチルフェニル、4−tert−ブチルフェニル、2−メトキシフェニル、3−メトキシフェニル、4−メトキシフェニル、2,3−ジメトキシフェニル、2,4−ジメトキシフェニル、2,5−ジメトキシフェニル、2,6−ジメトキシフェニル、3,4−ジメトキシフェニル、3,5−ジメトキシフェニル、2−イソブトキシフェニル、3−イソブトキシフェニル、4−イソブトキシフェニル、2−tert−ブトキシフェニル、3−tert−ブトキシフェニル、4−tert−ブトキシフェニル、2−フルオロフェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル、2,3−ジフルオロフェニル、2,4−ジフルオロフェニル、2,5−ジフルオロフェニル、2,6−ジフルオロフェニル、3,4−ジフルオロフェニル、3,5−ジフルオロフェニル、2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2,3−ジクロロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、2,5−ジクロロフェニル、2,6−ジクロロフェニル、3,4−ジクロロフェニル、3,5−ジクロロフェニル、2−ブロモフェニル、3−ブロモフェニル、4−ブロモフェニル、2−ヨードフェニル、3−ヨードフェニル、4−ヨードフェニル、2−トリフルオロメチルフェニル、3−トリフルオロメチルフェニル、4−トリフルオロメチルフェニル、3,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2−トリフルオロメトキシフェニル、3−トリフルオロメトキシフェニル、4−トリフルオロメトキシフェニル、など、そしてR(2)及びR(3)の定義によって包含される置換基から2つの異なる置換基を担持する置換されたフェニル基の場合、例えばフッ素及びメチルによって置換されたフェニル基の場合、3−フルオロ−2−メチルフェニル、4−フルオロ−2−メチルフェニル、5−フルオロ−2−メチルフェニル、2−フルオロ−6−メチルフェニル、2−フルオロ−3−メチルフェニル、4−フルオロ−3−メチルフェニル、3−フルオロ−5−メチルフェニル、2−フルオロ−5−メチルフェニル、2−フルオロ−4−メチルフェニル、3−フルオロ−4−メチルフェニル、フッ素及びメトキシによって置換されたフェニル基の場合、3−フルオロ−2−メトキシフェニル、4−フルオロ−2−メトキシフェニル、5−フルオロ−2−メトキシフェニル、2−フルオロ−6−メトキシフェニル、2−フルオロ−3−メトキシフェニル、4−フルオロ−3−メトキシフェニル、3−フルオロ−5−メトキシフェニル、2−フルオロ−5−メトキシフェニル、2−フルオロ−4−メトキシフェニル、3−フルオロ−4−メトキシフェニル、塩素及びメトキシによって置換されたフェニル基の場合、3−クロロ−2−メトキシフェニル、4−クロロ−2−メトキシフェニル、5−クロロ−2−メトキシフェニル、2−クロロ−6−メトキシフェニル、2−クロロ−3−メトキシフェニル、4−クロロ−3−メトキシフェニル、3−クロロ−5−メトキシフェニル、2−クロロ−5−メトキシフェニル、2−クロロ−4−メトキシフェニル、3−クロロ−4−メトキシフェニル、塩素及びトリフルオロメトキシによって置換されたフェニル基の場合、3−クロロ−2−トリフルオロメトキシフェニル、4−クロロ−2−トリフルオロメトキシフェニル、5−クロロ−2−トリフルオロメトキシフェニル、2−クロロ−6−トリフルオロメトキシフェニル、2−クロロ−3−トリフルオロメトキシフェニル、4−クロロ−3−トリフルオロメトキシフェニル、3−クロロ−5−トリフルオロメトキシフェニル、2−クロロ−5−トリフルオロメトキシフェニル、2−クロロ−4−トリフルオロメトキシフェニル、3−クロロ−4−トリフルオロメトキシフェニル、tert−ブチル−及びメトキシによって置換されたフェニル基の場合、3−tert−ブチル−2−メトキシフェニル、4−tert−ブチル−2−メトキシフェニル、5−tert−ブチル−2−メトキシフェニル、2−tert−ブチル−6−メトキシフェニル、2−tert−ブチル−3−メトキシフェニル、4−tert−ブチル−3−メトキシフェニル、3−tert−ブチル−5−メトキシフェニル、2−tert−ブチル−5−メトキシフェニル、2−tert−ブチル−4−メトキシフェニル、3−tert−ブチル−4−メトキシフェニル、などを含む、置換基の種類に関する及びフェニル環のそれらの位置に関する全ての可能な組み合わせである。
【0013】
本発明は、式Iの化合物の全ての立体異性体の形態、例えば全ての可能な鏡像異性体及びジアステレオマーを含む。式Iの化合物中、例えば基R(1)、R(2)、R(3)中に存在する非対称中心は、全て相互に独立してS配置又はR配置を有することができる。本発明は、同様に2つ又はそれ以上の立体異性体の形態の混合物、例えば全ての比率における鏡像異性体及び/又はジアステレオマーの混合物を含む。例えば、本発明は、鏡像体的に純粋な及び実質的に鏡像体的に純粋な形態で、左旋性及び右旋性の対掌体として、ラセミ体の形態で、そして全ての比率における2つの鏡像異性体の混合物の形態で鏡像異性体を含む。本発明は、例えばメソ化合物を含む、純粋な及び実質的に純粋なジアステレオマーの形態で及び全ての比率における2つ又はそれ以上のジアステレオマーの混合物の形態でジアステレオマーを含む。シス/トランス異性(又はE/Z異性)が存在する場合、本発明は、シス形態、トランス形態及び全ての比率におけるこれらの形態の混合物を含む。個々の立体異性体は、所望により、慣用の方法によって、例えばクロマトグラフィ又は結晶化によって混合物を分離することによって、又は合成において立体化学的に均一な出発物質を用いることによって、又は立体選択反応によって製造することができる。立体異性体の分離は、必要に応じて誘導体化の先に行うことができる。立体異性体混合物の分離は、式Iの化合物の段階で又は合成中に中間体の段階で行うことができる。また、本発明は、式Iの化合物の全ての互変異性体の形態を含む。
【0014】
式Iの化合物の生理学上許容しうる塩は、特に非毒性塩成分との塩、そして好ましくは医薬上使用できる塩である。それは、無機又は有機又は塩成分を含むことができる。このような塩は、例えば式Iの化合物及び非毒性の無機又は有機塩基から製造することができる。適切な塩基の例は、適切なアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、又はアンモニア又は有機アミノ化合物又は第四級アンモニウムヒドロキシドである。塩を製造するための式Iの化合物と塩基との反応は、一般に溶媒又は希釈剤中で慣用の手順によって実施される。酸性基が存在するならば、多くの場合、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウム塩又は窒素原子上に1つ又はそれ以上の有機残基を担持することもできるアンモニウム塩は、生理学的及び化学的な安定性のため好都合な塩である。スルホンアミド基のカルバモイル置換された窒素原子上で塩形成すると、式II
【化3】

[式中、A、X、R(1)、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有し、そしてカチオンMは、例えばアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの同等物、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムイオン、又は非置換アンモニウムイオン又は1つ又はそれ以上の有機残基を有するアンモニウムイオンである]の化合物に至る。また、Mを表すアンモニウムイオンは、例えばアミノ酸、特に例えばリシン又はアルギニンのような塩基性アミノ酸からプロトン化によって得られるカチオンであることができる。
【0015】
また、本発明は、低い生理学的な許容度のため、薬剤に使用するのに直接適してないがしかし、例えば化学反応の中間体として又は例えば陰イオン交換又は陽イオン交換によって生理学上許容しうる塩を製造するために適した式Iの化合物の全ての塩を含む。さらに、本発明は、式Iの化合物の全ての溶媒和物、例えば水和物又はアルコールとの付加物、及び式Iの化合物の誘導体及びプロドラッグ及び式Iの化合物の活性代謝物を含む。
【0016】
基Aは、好ましくはCH2−CH2である。
【0017】
本発明の一実施態様は、全ての立体異性体の形態における、Xが硫黄である式Iの化合物、すなわち式Iaの化合物
【化4】

及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びそれらの生理学上許容しうる塩に関する。本発明の別の実施態様は、全ての立体異性体の形態における、Xが酸素である式Iの化合物、すなわち式Ibの化合物、
【化5】

及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩に関する。式Ia及びIb中の残基A、R(1)、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有する。
【0018】
R(1)は、好ましくは(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル又は−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C7)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又はそれ以上置換されていてもよく、そして(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル及び−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい。R(1)は、特に好ましくは(C1−C4)−アルキル、(C3−C6)−シクロアルキル又は−CH2−(C3−C6)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C6)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又は2回置換されていてもよく、そして(C1−C4)−アルキル、(C3−C6)−シクロアルキル及び−CH2−(C3−C6)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい。R(1)は、きわめて好ましくは(C1−C4)−アルキル又は(C3−C6)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C6)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又は2回置換されていてもよく、そして(C1−C4)−アルキル及び(C3−C6)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい。R(1)は、特に好ましくは(C1−C3)−アルキル又はシクロプロピル、きわめて好ましくは(C1−C3)−アルキル、特に(C1−C2)−アルキルであり、これらは全てフッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい。R(1)基中の炭素原子数は、好ましくは1、2、3、4、5、6又は7個、特に好ましくは1、2、3、4、5又は6個、きわめて好ましくは1、2、3又は4個である。R(1)基中の炭素原子数は、特に好ましくは1、2又は3個であり、すなわち、本発明のこの実施態様において、R(1)は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル又はシクロプロピルであり、また、これらは全てフッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい。Xが酸素である式Iの化合物の特定の場合、R(1)基中の炭素原子数は、より好ましくは1又は2個であり、すなわち、この実施態様では、R(1)はメチル又はエチルであり、また、これらはいずれも、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい。本発明の一実施態様において、R(1)基はフッ素によって置換されない。
【0019】
基R(2)及びR(3)を担持するフェニル基は、好ましくは置換されたフェニル基であり、すなわち、基R(2)及びR(3)の少なくとも1つは、水素と異なることが好ましい。一実施態様は、あらゆる位置に存在することができる2つの基R(2)及びR(3)が水素と異なる式Iの化合物に関する。この実施態様では、基R(2)及びR(3)の一方は、好ましくは2位にあり、そしてもう一方は5位置にある。この実施態様では、1つの(C1−C4)−アルキル又は(C1−C4)−アルコキシ置換基、きわめて好ましくは1つの(C1−C4)−アルコキシ置換基(これらは全て1つ又はそれ以上のフッ素原子によって置換されていてもよい)が2位にあり、そして1つの(C1−C4)−アルキル置換基(これは1つ又はそれ以上のフッ素原子によって置換されていてもよい)、又は1つのハロゲン置換基、きわめて好ましくは1つのハロゲン置換基が、フェニル基の5位にあることが特に好ましい。この実施態様の例は、式Iにおいて、基R(2)及びR(3)を担持するフェニル基が2−(C1−C4)−アルコキシ−5−(C1−C4)−アルキルフェニル基又は2−(C1−C4)−アルコキシ−5−ハロフェニル基、特に2−(C1−C4)−アルコキシ−5−ハロフェニル基、例えば5−クロロ−2−メトキシフェニル基、5−フルオロ−2−メトキシフェニル基又は5−tert−ブチル−2−メトキシフェニル基であり、ここで全てのこれらの基中のアルキル基及びアルコキシ基は、また1つ又はそれ以上のフッ素原子によって置換されていてもよい式Iの化合物である。本発明の一実施態様において、2つの基R(2)及びR(3)を表すアルキル及びアルコキシ基は、フッ素によって置換されない。本発明の別の実施態様において、基R(2)及びR(3)の1つにおいて、この基を表すアルキル又はアルコキシ基は、1つ又はそれ以上のフッ素原子によって置換されていてもよい。R(2)及び/又はR(3)を表す(C1−C4)−アルコキシ基は、好ましくは(C1−C3)−アルコキシ基である。
【0020】
式Iの好ましい化合物は、本発明の化合物の一般的な定義において又は特定の実施態様において、その中に存在する基の1つ又はそれ以上が好ましい意味を有するそれらの化合物であり、ここで2つ又はそれ以上の好ましい意味及び/又は特定の実施態様の特徴の全ての組み合わせは、本発明の主題である。また、式Iの全ての好ましい化合物に関して、同様に例えば実施例の化合物のような式Iの全ての開示された具体的な化合物に関して、本発明は、全てのそれらの立体異性体の形態及び全ての比率におけるそれらの混合物、及び全てのそれらの生理学上許容しうる塩を含む。
【0021】
従って、例えば、式Iの好ましい化合物の一群は、Xが硫黄であり、同時にR(1)は(C1−C3)−アルキル又はシクロプロピル、好ましくは(C1−C3)−アルキルであり、又はXは酸素であり、同時にR(1)は(C1−C2)−アルキルであり、ここでこれらの化合物中の基Aは、好ましくはCH2−CH2であり、及び/又は基R(2)及びR(3)を担持するフェニル基は好ましくは2−(C1−C4)−アルコキシ−5−ハロフェニル基、特に好ましくは2−(C1−C3)−アルコキシ−5−ハロフェニル基である、全てのそれらの立体異性体の形態における化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びそれらの生理学上許容しうる塩によって形成される。式Iの化合物の特に好ましい群は、Xは硫黄であり、同時にR(1)は(C1−C3)−アルキルであり、又はXは酸素であり、同時にR(1)は(C1−C2)−アルキルであり、そして基R(2)及びR(3)を担持するフェニル基は、5−クロロ−2−メトキシフェニルであり、ここでこれらの化合物中の基Aは好ましくはCH2−CH2である、全てのそれらの立体異性体の形態における化合物及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びそれらの生理学上許容しうる塩によって形成される。
【0022】
また、本発明は、以下に詳細に説明し、それによって本発明の化合物が入手可能である式Iの化合物の製造方法に関する。
【0023】
Xは硫黄であり、そしてR(1)は水素と異なる式Iの化合物、すなわち式Ia
【化6】

[式中、A、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有し、そしてR(1)は、水素を除く上記の意味を有する]のピペリジンスルホニルチオ尿素は、例えば、式III
【化7】

[式中、A、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有する]のピペリジンスルホンアミドを、不活性溶媒又は希釈剤中、塩基及び式IV
R(1)−N=C=S IV
[式中、R(1)は、水素を除く上記の意味を有する]のR(1)置換されたイソチオシアネートと反応させることによって製造することができる。式IVの化合物は、商業的に入手可能であるか又は文献に記載された方法によって若しくは同様にして式R(1) NH2のアミン(式中、R(1)は、水素を除く上記の意味を有する)から製造することができる。適切な塩基の例は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、水素化物、炭酸塩、アミド及びアルコキシド、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、ナトリウムアミド、カリウムアミド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、第三級アミン及び第四級アンモニウムヒドロキシドである。式IIIの化合物と塩基との反応は、別々の工程で最初に実施することができ、そして式V、
【化8】

[式中、A、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有し、そしてカチオンM1は、アルカリ金属イオン、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン又はセシウムイオン、又はアルカリ土類金属イオンの同等物、例えばマグネシウムイオン又はカルシウムイオンの同等物であるか、又は反応条件下で不活性であるアンモニウムイオン、例えば第四級アンモニウムイオンである]の生成した塩は、所望により中間体として単離することもできる。しかしながら、特に有利なやり方では、式Vの塩を式IIIの化合物からその場で生成して、直接式IVのイソチオシアネートと反応させることもできる。適切な不活性溶媒又は希釈剤の例は、エーテル、例えばテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル(DME)又はジグリム、ケトン、例えばアセトン又はブタノン、ニトリル、例えばアセトニトリル、ニトロ化合物、例えばニトロメタン、エステル、例えば酢酸エチル、アミド、例えばジメチルホルムアミド(DMF)又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)、スルホキシド、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)又は炭化水素、例えばベンゼン、トルエン又はキシレン、又はこれらの溶媒の混合物である。式III又はVの化合物と式IVの化合物との反応は、一般に約20℃〜約140℃の温度、特に約40℃〜約120℃で実施される。
【0024】
式I[式中、Xは酸素であり、そしてR(1)は水素と異なる]の化合物、すなわち式Ib
【化9】

[式中、A、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有し、そしてR(1)は、水素を除く上記の意味を有する]のピペリジンスルホニル尿素は、例えば、上記した式Iaのチオ尿素誘導体の合成と同様に、式IIIのピペリジンスルホンアミド又は式Vのその塩を不活性溶媒又は希釈剤中で式VI
R(1)−N=C=O VI
[式中、R(1)は、水素を除く上記の意味を有する]のR(1)置換されたイソシアネート、及び必要に応じて塩基と反応させることによって製造することができる。イソチオシアネートとの反応に関する上記の説明は、イソシアネートとの反応に同様に適用される。
【0025】
R(1)が水素である式Iの化合物は、上記の合成に従って式IIIの化合物又は式Vのその塩を、式IVのイソチオシアネート又は式VIのイソシアネートの代わりに、シリルイソチオシアネート又はシリルイソシアネート、例えばトリ((C1−C4)−アルキル)シリルイソチオシアネート又はトリ((C1−C4)−アルキル)シリルイソシアネート、例えば商業的に入手可能であるトリメチルシリルイソチオシアネート又はトリメチルシリルイソシアネートと反応させ、最初に得られた(チオ)尿素基の末端窒素原子上でシリル置換された(チオ)尿素を加水分解又はフッ化物を用いた処理によってR(1)が水素である式Iの化合物に転化することによって得ることができる。
【0026】
また、R(1)が水素と異なる式Ibのピペリジンスルホニル尿素は、式IIIのピペリジンスルホンアミド又は式Vのその塩から式VII、
Cl3C−CO−NHR(1) VII
[式中、R(1)は、水素を除く上記の意味を有する]のN−R(1)−置換された2,2,2−トリクロロアセトアミド[これは商業的に入手可能であるか、又は文献の方法によって若しくは同様にして式R(1)−NH2(式中、R(1)は、水素を除く上記の意味を有する)のアミンから製造することができる]及び必要に応じて不活性溶媒中の塩基と反応させることによって製造することができる。イソチオシアネートとの反応に関する上記の説明は、2,2,2−トリクロロアセトアミドとの反応にも同様に適用され、後者の反応は、一般に高められた温度、例えば約60℃〜約120℃の温度で実施され、好ましくは沸点が反応温度又はそれより上にあるより高沸点の溶媒、例えばN−メチル−2−ピロリドンを用いる。
【0027】
また、式Iの化合物は、式VIII
【化10】

[式中、A、X、R(2)及びR(3)は、上記の意味を有する]のピペリジンスルホニルイソチオシアネート及びイソシアネートを、式R(1)−NH2のアミン(式中、R(1)は、上記の意味を有する)と反応させることによって製造することができる。Xが酸素である式VIIIのスルホニルイソシアネートは、式IIIのピペリジンスルホンアミド又は式Vのその塩から慣用の方法によって、例えば不活性溶媒中で、ホスゲン、N,N'−カルボニルジイミダゾール又はクロロギ酸エステル、例えば(C1−C4)−クロロギ酸アルキル、例えばクロロギ酸エチルとの反応によって製造することができる。反応をどのように実施するかによって、イソシアネートの代わりに、又は式VIIIのイソシアネートに加えて他の中間体、例えばスルホニルウレタンが生じることがありうる。Xが硫黄である式VIIIのスルホニルイソチオシアネートを製造するには、式IIIのピペリジンスルホンアミド又は式Vのその塩を不活性溶媒、例えばDMF、DMSO又はNMP中で、例えばアルカリ金属水酸化物及び二硫化炭素と反応させることができる。スルホニルジチオカルバミン酸の得られた二アルカリ金属塩を不活性溶媒中でホスゲン又はホスゲン代替物、例えばトリホスゲン又はクロロギ酸エステル又は塩化チオニルと反応させることができる。式VIIIのスルホニルイソシアネート又はイソチオシアネート又は他の中間体は、一般に溶液の形態で得、次いで特にR(1)が水素、アンモニアである式Iの化合物を製造するために、式R(1)−NH2(式中、R(1)は上記の意味を有する)のアミンとその場で反応させることができる。
【0028】
また、式Ibのピペリジンスルホニル尿素は、式Iaの対応するピペリジンスルホニルチオ尿素から、脱硫、すなわちC=S基からC=O基への変換によって製造することができる。酸素原子による式Iaの化合物のC=S基中の硫黄原子の置換は、例えば式Iaの化合物を重金属のオキシド又は塩で又は酸化剤で不活性溶媒もしくは希釈剤、例えば水又は水及び有機溶媒の混合物中で処理することによって実施することができる。脱硫に適した酸化剤の例は、過酸化物、例えば過酸化水素又は過酸化ナトリウム又は亜硝酸である。
【0029】
式IIIの中間体、すなわち対応する4−(ベンズアミドメチル)ピペリジン−1−スルホンアミド、4−(2−ベンズアミドエチル)ピペリジン−1−スルホンアミド及び4−(3−ベンズアミドプロピル)ピペリジン−1−スルホンアミドは、例えば、Sarges et al., J. Med. Chem. 19, 695-709 (1976)に記載された文献の方法によって又は同様にして製造することができる。このために、4−アミノメチルピペリジン−1−スルホンアミド又は4−(2−アミノエチル)ピペリジン−1−スルホンアミド又は4−(3−アミノプロピル)ピペリジン−1−スルホンアミド又はその塩、例えば塩酸塩を、標準条件下で適当な安息香酸又はその反応性の誘導体、例えばベンゾイルクロリド、安息香酸無水物又は反応性のエステルを用いてアシル化することができる。アシル化を安息香酸で実施する場合、一般に、酸を慣用のカップリング試薬、例えばプロパンホスホン酸無水物(PPA)、N,N'−カルボニルジイミダゾール(CDI)、カルボジイミド、例えばN,N'−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、O−(シアノ(エトキシカルボニル)メチレンアミノ)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムテトラフルオロポレート(TOTU)又はエチル−1,2−ジヒドロ−2−エトキシ−1−キノリンカルボキシレート(EEDQ)で最初に活性化させるか、又は例えばクロロギ酸エステル、例えばクロロギ酸エチル又はイソブチルを用いて混合無水物に転化する。アシル化は、適切な塩基、例えば第三級アミン、例えばトリエチルアミン又はエチルジイソプロピルアミン又はアルカリ金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウムの存在下で通常、実施される。
【0030】
4−アミノメチルピペリジン−1−スルホンアミド、4−(2−アミノエチル)ピペリジン−1−スルホンアミド及び4−(3−アミノプロピル)ピペリジン−1−スルホンアミド又はその塩、例えば塩酸塩は、例えば、Sarges et al., J. Med. Chem. 19, 695-709 (1976)に記載された4−(2−アミノエチル)ピペリジン−1−スルホンアミドの製造方法によって、4−フタルイミドメチルピペリジン又は4−(2−フタルイミドエチル)ピペリジン又は4−(3−フタルイミドプロピル)ピペリジン又はその塩、例えば塩酸塩をピリジン中、還流温度でスルファミドSO2(NH2)2との反応によって4−フタルイミドアルキルピペリジン−1−スルホンアミドに転化し、そしてメタノール中、還流温度でヒドラジン、続いて塩酸で処理してそこからフタロイル基を除去することによって製造することができる。4−(2−フタルイミドエチル)ピペリジンは、例えばSarges et al., J. Med. Chem. 19, 695-709 (1976)に記載された合成に従って、4−(2−アミノエチル)ピリジン(これはBrady et al., J. Org. Chem. 26, 4757-4758 (1961)に記載されている)をキシレン中、トリエチルアミンの存在下で無水フタル酸と反応させて、生成した4−(2−フタルイミドエチル)ピリジン中のピリジン環を例えば遷移金属触媒、例えば二酸化白金の存在下で触媒水素化によってピペリジン環に転化することによって得ることができる。4−(フタルイミドメチル)ピペリジン(これはYoneda et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 11, 1261-1246 (2001)に記載されている)は、例えば商業的に入手可能な4−アミノメチルピペリジンから、無水フタル酸との反応によって得ることができ、そして4−(3−フタルイミドプロピル)ピペリジンは、4−(2−フタルイミドエチル)ピペリジンと同様にして4−(3−フタルイミドプロピル)ピリジン(この合成はMayer et al., Helv. Chim Acta 65, 1868-1884 (1982)に記載されている)から得ることができる。
【0031】
また、式IIIの化合物は、他の反応順序を経て合成することができる。例えばAがCH2−CH2である式IIIの化合物を製造するには、基R(2)及びR(3)を担持するフェニル基が5−クロロ−2−メトキシフェニル基である化合物の製造の場合、最初に、適当な安息香酸又はその反応性の誘導体を用いて、例えば5−クロロ−2−メトキシベンゾイルクロリドを用いて4−(2−アミノエチル)ピリジンを第一級アミノ基上でアシル化することができる。上記説明はこのアシル化に同様に適用される。次いで、アシル化生成物中のピリジン環を必要に応じて、ベンゾイル基中に存在する置換基が悪影響を及ぼさないような選ばれた反応条件を用いて例えば遷移金属触媒(例えば二酸化白金)の存在下で触媒水素化によってピペリジン環に転化することができ、これはSarges et al., J. Med. Chem. 19, 695-709 (1976)に説明されており、当業者によく知られている。生成した4−(2−ベンズアミドエチル)ピペリジンは、次いで、例えばDME中でスルファミドを用いて、還流温度で、式IIIの化合物に転化することができる。AがCH2又はCH2−CH2−CH2である式IIIの化合物は、4−アミノメチルピリジン又は4−(3−アミノプロピル)ピリジンから出発して同様のやり方で製造することができる。
【0032】
式Iの化合物は、ATP感受性カリウムチャネルを阻害し、特に心筋細胞(myocardial cells又はcardiac muscle cells)の細胞の活動電位に影響を与える。それは、特に例えば虚血の場合に存在するような侵害された活動電位における正常化効果を有し、そして例えば心血管系の障害又は心臓疾患の治療に適している。式Iの化合物は、不整脈及びその続発症、例えば心室細動又は突然心臓死の治療、そして冠状動脈性心疾患、心不全又は心筋症の結果として生じうる心臓の収縮性の低下の治療に特に適している。ここでの疾患の治療には、緩和、縮小又は治癒を目的とした既存の病理変化又は体の機能障害又は既存の症状の治療と同様にその発生を予防する又は軽減する又はその発生においてそれらを弱めることを目的とした、疾患にかかりやすく、このような予防又は防止を必要とするヒト又は動物における病理変化又は体の機能障害又は症状の予防又は防止が含まれる。例として、心筋再梗塞又は不整脈によって生じる突然心臓死にかかりやすい患者における突然心臓死又は心筋梗塞の発生を予防するための予防的な薬物療法を記載することができる。疾患の治療は、急性及び慢性の場合の両方に適用される。
【0033】
式Iの化合物の活性は、例えば、以下に記載する、活動電位持続をモルモット乳頭筋で測定する薬理学的モデルで示すことができる。化合物の選択性は、以下に記載する、血糖低下効果及び冠血流量における効果を測定する薬理学的モデルで示すことができる。式Iの好ましい化合物は、心臓のATP感受性カリウムチャネル(SUR2A/Kir6.2アイソフォーム)の選択的阻害剤として作用する。膵臓及び血管性のATP感受性カリウムチャネル(SUR1/Kir6.2及びSUR2B/Kir6.2アイソフォーム)における効果が少ししかないため、このような物質は、糖尿病患者において一般に望ましくない血糖値(blood sugar level又はblood glucose level)の実質的な低下に至らないし、又は一般に望ましくない血流減少に至る、血管、特に冠血管の収縮に至らない。一方、糖尿病患者において膵臓ATP感受性のカリウムチャネルにおける効果及びそれに伴う血糖値の減少は、例えば、心不整脈又は冠状動脈性心疾患と関連する心臓の収縮性の低下の治療、又は突然心臓死の防止に有益であり、そして式Iの化合物の性質のそれぞれのプロファイルに、狙いを定めることができる。さらに、式Iの化合物は、末梢及び/又は中枢の自律神経系における効果を有することもでき、そして特に迷走神経系又は副交感神経系のATP感受性のカリウムチャネルに影響を与える。従って、それは、迷走神経系における刺激効果、特に心臓神経のATP感受性カリウムチャネルの阻害を通して心臓の迷走神経系における刺激効果を有し、そして迷走神経機能障害又は交感神経迷走神経不均衡、特に心臓の迷走神経機能障害の治療に適している。心臓の迷走神経系の機能障害は、例えば、心臓の酸素欠乏の場合に一時的に生じ、そしてそれは迷走神経の神経伝達物質、例えばアセチルコリンの分泌が低下することがある。
【0034】
従って、式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩は、それ自体で医薬又は薬剤として、互いに混合物で又は医薬組成物又は医薬生成物の形態で動物、好ましくは哺乳動物、そして特にヒトに用いることができる。式Iの化合物を使用又は試験することができる哺乳動物の例は、サル、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、猫及びより大きい生産的な動物、例えばウシ及びブタである。また、本発明は、活性成分として有効量の上記定義された少なくとも1つの式Iの化合物、及び/又はその生理学上許容しうる塩及び医薬上許容しうる担体、すなわち1つ又はそれ以上の医薬上許容しうる担体物質及び/又は補助物質を含んでなる医薬、及び医薬組成物又は医薬製剤、及び医薬製品及び薬剤として使用するための上記のように定義された式Iの化合物、及びその生理学上許容しうる塩に関する。
【0035】
また、本発明は、上記及び下記の疾患、特に心血管系の障害、心臓疾患、不整脈、心室細動、心臓疾患、不整脈、心室細動、突然心臓死、心臓の収縮性の低下、心臓の虚血、冠状動脈性心疾患、狭心症、心不全、心筋症、心肥大又は心臓の迷走神経機能障害を治療(ここで疾患の治療は、説明したように、その治療及び予防を包含する)する薬剤を製造するためと同様に心臓、特に心筋(cardiac muscle又はmyocardium)のATP感受性カリウムチャネルを阻害するための、全ての立体異性体の形態における式I
【化11】

[式中、
Aは、CH2、CH2−CH2又はCH2−CH2−CH2であり;
Xは、酸素又は硫黄であり;
R(1)は、水素、(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル又は−(C1−C3)−アルキル(C3−C7)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C7)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又はそれ以上置換されていてもよく、そして(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル及び−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよく;
R(2)及びR(3)は、互いに独立しており、同一又は異なることができ、水素、ハロゲン、(C1−C4)−アルキル又は(C1−C4)−アルコキシであり、ここで(C1−C4)−アルキル及び(C1−C4)−アルコキシ基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい)の化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩の使用に関する。また、本発明は、前に定義された少なくとも1つの化合物の有効量をその必要のあるヒト又は動物に投与することからなる、上記の及び下記の疾患の治療方法に関する。例えば式Iの化合物、生理学上許容しうる塩、好ましい意味又は化合物の製造の基におけるような本発明に関する上記定義された化合物の全ての説明は、本発明に従って用いることができる前に定義された化合物に対して同様に適用される。
【0036】
本発明による医薬組成物及び薬剤は、経腸的に又は腸管外に使用することができ、通常、式Iの化合物及び/又はその生理学上許容しうる塩約0.5〜約90質量%を含む。医薬生成物及び薬剤中の式Iの活性物質及び/又はその生理学上許容しうる塩の量は、投薬単位当たり一般に約0.2〜約1000mg、好ましくは約0.2〜約500mg、特に好ましくは約1〜約300mgである。医薬組成物及び薬剤は、それ自体で知られているやり方で製造することができる。このために、式Iの化合物及び/又はその生理学上許容しうる塩を1つ又はそれ以上の固体又は液体担体物質及び/又は補助物質と一緒に、所望により、また、他の活性医薬成分、例えば心臓血管活性を有する活性医薬成分、例えばカルシウム拮抗薬、ACE阻害剤又はベータ遮断薬、と組み合わせて混合し、そして投薬及び投与に適した医薬形態にし、次いでこれをヒト用医薬品又は動物用医薬品の医薬として用いることができる。
【0037】
適切な担体物質及び補助物質は、例えば経腸的投与、例えば経口又は直腸投与、又は非経口投与、例えば静脈内、筋内又は、皮下注射又は注入、又は局所又は経皮的(percutaneous又はtranscutaneous)な投与に適しており、そして式Iの化合物又はその生理学上許容しうる塩の化合物が望ましくないやり方で反応しない有機及び無機の物質である。記載することができる例は、水、植物油、ワックス、アルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、1,2−プロパンジオール、ベンジルアルコール又はグリセロール、ポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロールトリアセテート、ゼラチン、炭水化物、例えばラクトース又はデンプン、ステアリン酸及びその塩、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ラノリン、ペトロラタム又はそれらの混合物、例えば水と1つ又はそれ以上の有機溶媒との混合物、例えば水とアルコールの混合物である。経口及び直腸使用の医薬形態は、特に錠剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、顆粒剤、硬質及び軟質ゼラチンカプセル、坐剤、液剤、好ましくは油性、アルコール性及び、水性の液剤、シロップ剤、エリキシル剤及び点滴剤、そしてまた懸濁剤又は乳剤である。局所使用についての医薬形態は、特に軟膏剤、クリーム、ペースト剤、ローション剤、ゲル、スプレー剤、泡剤、エーロゾル剤、液剤及び散剤である。また、適切な医薬形態のさらなる例は、インプラント及び貼付剤である。式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩は、凍結乾燥することもできる、生成した凍結乾燥物は、例えば注射用の医薬製剤を製造するために使用することができる。また、特に局所使用では、リポソーム製剤が適切である。医薬組成物及び薬剤中に存在することができる補助物質又は添加剤のタイプの例として、潤滑剤、保存剤、増粘剤、安定剤、崩壊剤、湿潤剤、貯蔵効果を得るための手段、乳化剤、塩、例えば、浸透圧に影響を与えるため、緩衝物質、着色剤、香味料及び芳香物質を記載することができる。また、医薬組成物及び薬剤は、所望により、例えば1つ又はそれ以上のさらなる医薬活性物質及び/又は1つ又はそれ以上のビタミンを含むことができる。
【0038】
式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩及びそれを含んでなる医薬組成物及び薬剤は、様々な原因の、心不整脈又は律動異常の治療のため、そして不整脈によって生じる、突然心臓死(sudden cardiac death又はsudden heart death)を予防するため、特に抗不整脈薬として使われる。心臓の不整脈障害の例は、上室性不整脈、例えば心房性頻拍、心房粗動又は発作性の上室性不整脈、又は心室性不整脈、例えば心室性期外収縮、及び特に生命にかかわる心室性頻脈又は特に危険で致命的な心室細動である。それは、不整脈が例えば、狭心症において又は急性心筋梗塞中に又は心筋梗塞の慢性続発症として生じるような冠血管の収縮の結果である場合に特に適切である。従って、梗塞後の患者において突然心臓死を予防するのに特に適切である。このような不整脈及び/又は不整脈によって生じる突然心臓死を伴うさらなる病的状態としては、例えば、心不全(cardiac insufficiency又はheart failure)、及び慢性的に高められた血圧の結果として心肥大が含まれる。
【0039】
さらに、式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩並びにそれを含んでなる医薬組成物及び薬剤は、心臓の収縮性の低下及び心筋収縮力の衰弱において正の影響を有することができる。これは、慢性疾患によって生じる、心臓の収縮性における低下であることができ、これは、例えば心不全だけでなく、急性の場合、例えばショックに伴う心不全、例えば敗血症性ショック、出血性ショック又は心臓ショックと関連する。本発明の化合物及びその生理学上許容しうる塩は、特に敗血症性ショックに関連して生じる血圧における病理変化の治療に適切である。一般に、本発明の化合物及びその生理学上許容しうる塩は、心機能の改善に適している。さらに、心臓移植の特定の場合、心臓は、手術を行った後、式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩の影響下でより急速にそしてより確実にその機能性の能力を回復する。同じことが、心臓麻痺性の溶液を通して心臓活動の一時的な停止を必要とする心臓の手術にも適用される。
【0040】
式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩並びにそれらを含んでなる医薬組成物及び薬剤は、さらに、特に心臓における、自律神経系の機能障害又は迷走神経系の機能低下若しくは機能障害と関連する、又はこのような機能障害又は機能低下によって生じる、又はその治療が迷走神経系の活性を高める又は正常化することを目的としている疾患、例えば代謝障害、例えば真性糖尿病の結果として生じる心臓の迷走神経の機能障害の治療に一般に使用することができる。また、式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩並びにそれらを含んでなる医薬組成物及び薬剤は、酸素欠乏状態を特徴とする疾患及び脳血管障害の治療に一般に使用することができる。
【0041】
式Iの化合物又はその生理学上許容しうる塩の投薬は、通常、特定の個々の場合の状況に応じて左右され、そして通常の原則及び手順に従って当業者によって適応させられる。例えば、それは投与する式Iの化合物、その効力及び作用持続、個々の病的状態の性質及びひどさ、治療するヒト又は動物の性別、年齢、体重及び個々の反応、治療が急性又は慢性又は予防かどうか、又は式Iの化合物に加えてさらなる活性物質を投与するかどうかに左右される。通常、体重約75kgの成人に対して投与する場合、1日につき1kg当たり約0.1mg〜約100mg、好ましくは1日につき1kg当たり約1mg〜約10mgkg(各場合、体重1kg当たりのmg)で十分である。日用量は、例えば、単一の経口又は腸管外の用量で又は複数に分割された形態、例えば2、3又は4、単回用量で投与する。また、投与は連続的に行うことができる。例えば注射又は持続点滴静注による非経口投与は、心不整脈の急性の場合を例えば集中治療室で治療する時、特に有利でありうる。次いで、発症状況において好ましい用量範囲は、1日につき体重1kg当たり約1mg〜約100mgである。必要に応じて、個々の反応に応じて、記載された投与量から上方へ又は下方へ逸脱する必要がありうる。
【0042】
また、ヒト用医薬品及び動物用医薬品における医薬活性物質としての他に、式Iの化合物及びその生理学上許容しうる塩は、例えばイオンチャネルに影響を与えることを目的とする生化学的研究における補助的又は科学的な手段として、又はカリウムチャネルを単離する又は特徴づけるために使用することができる。さらに、それは、例えば細胞試料又は組織試料のin vitro診断において診断目的で使用することができる。式Iの化合物及びその塩は、例えばさらなる医薬活性物質を製造するための中間体として使用することもできる。
【0043】
本発明を以下の実施例によって説明するが、それらに限定されることはない。
【0044】
実施例1
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−メチルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化12】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド376mg(1mmol)及び炭酸セシウム652mg(2mmol)をN−メチル−2−ピロリドン5ml中で、メチルイソチオシアネート73mg(1mmol)と共に80℃で10分間加熱した。反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、沈殿した固形物を吸引濾過し、そして中性になるまで水で洗浄した。クロマトグラフィ(シリカゲル;トルエン/エタノール/酢酸エチル8/1/1)により精製して無色の固形物として標題化合物90mg(20%)を得た。
M.p. (融点):151−153℃(分解)
MS(ES+):449.25((MS=質量スペクトル; ES=電子スプレーイオン化)
1H−NMR(DMSO−d6, 300MHz):δ=11.10 (s, 1H), 8.40 (q, 1H), 8.20 (t, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (dd, 1H), 7.15 (d, 1H), 3.85 (s, 3H), 3.75 (d, 2H), 3.25 (m, 2H), 2.98 (d, 3H), 2.80 (dt, 2H), 1.80 (m, 2H), 1.42 (m, 3H), 1.15 (m, 2H)
【0045】
実施例2
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−エチルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化13】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド188mg(0.5mmol)及び炭酸セシウム326mg(1mmol)をエチルイソチオシアネート0.1ml(1.1mmol)と共にN−メチル−2‐ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱した。反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、各回10mlのジクロロメタンで3回抽出した。合わせた有機相を中性になるまで水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、活性炭を添加した後、濾過した。溶媒を除去した後に得た粗生成物を、メタノール/水から再結晶した。標題化合物80mg(35%)を無色の固形物として得た。
M.p.:138−140℃
MS(ES+):463.23
1H−NMR(DMSO−d6, 300MHz):δ=11.00 (s, 1H), 8.40 (t, 1H), 8.20 (t, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (dd, 1H), 7.18 (d, 1H), 3.90 (s, 3H), 3.65 (d, 2H), 3.55 (m, 2H), 3.30 (m, 2H), 2.80 (dt, 2H), 1.80 (m, 2H), 1.45 (m, 3H), 1.15 (m, 2H), 1.10 (t, 3H)
【0046】
実施例3
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−プロピルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化14】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド376mg(1mmol)及び炭酸セシウム652mg(2mmol)をn−プロピルイソチオシアネート0.2ml(1.8mmol)と共にN−メチル−2‐ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱し、反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、沈殿した固形物を吸引濾過し、中性になるまで水で洗浄した。クロマトグラフィ(シリカゲル;トルエン/エタノール/酢酸エチル8/1/1)によって精製した後に得られた粗生成物を酢酸エチルから結晶化させた。標題化合物155mg(33%)を無色の固形物として得た。
M.p.: 119−121℃
MS(ES+):477.15
1H−NMR(DMSO−d6, 300MHz):δ=11.00 (s, 1H), 8.40 (t, 1H), 8.20 (t, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (dd, 1H), 7.18 (d, 1H), 3.90 (s, 3H), 3.65 (d, 2H), 3.45 (m, 2H), 3.25 (m, 2H), 2.80 (m, 2H), 1.80 (m, 2H), 1,58 (m, 2H), 1.45 (m, 3H), 1.08 (m, 2H), 0.85 (t, 3H)
【0047】
実施例4
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−イソプロピルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化15】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド188mg(0.5mmol)及び炭酸セシウム326mg(1mmol)をイソプロピルイソチオシアネート0.1ml(0.9mmol)と共にN−メチル−2−ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱した。反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、各回10mlのジクロロメタンで3回抽出した。合わせた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、活性炭を添加した後、濾過した。溶媒を除去した後に得られた粗生成物をメタノールから再結晶させた。標題化合物142mg(60%)を無色の固形物として得た。
M.p.:145−147℃
MS(ES+):477.25
1H−NMR(DMSO−d6, 300MHz):δ=11.00 (s, 1H), 8.20 (t, 1H), 8.10 (d, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (dd, 1H), 7.18 (d, 1H), 4,35 (m, 1H), 3.90 (s, 3H), 3.65 (d, 2H), 3.25 (m, 2H), 2.85 (m, 2H), 1.80 (m, 2H), 1.45 (m, 3H), 1.10 (m, 2H), 0.95 (d, 6H)
【0048】
実施例5
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−シクロプロピルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化16】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド376mg(1mmol)及び炭酸セシウム652mg(2mmol)をシクロプロピルイソチオシアネート0.2ml(1.8mmol)と共にN−メチル−2−ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱した。反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、沈殿した固形物を吸引濾過し、そして中性になるまで水で洗浄した。クロマトグラフィ(シリカゲル;トルエン/エタノール/酢酸エチル8/1/1)によって精製した後で得られた粗生成物をメタノール/ジエチルエーテルから結晶化させた。標題化合物195mg(41%)を無色の固形物として得た。
M.p.:144−145℃
MS(ES+):475.41
1H−NMR(DMSO−d6, 400MHz):δ=11.00 (s, 1H), 8.25 (m, 1H), 8.15 (m, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (d, 1H), 7.15 (d, 1H), 3.85 (s, 3H), 3.65 (d, 2H), 3.35 (m, 2H), 3.00 (m, 1H), 2.85 (m, 2H), 1.80 (m, 2H), 1.45 (m, 3H), 1.10 (m, 2H), 0.75 (m, 2H), 0.60 (m, 2H)
【0049】
実施例6
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−シクロヘキシルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化17】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド376mg(1mmol)及び炭酸セシウム652mg(2.0mmol)をシクロヘキシルイソチオシアネート0.3ml(2mmol)と共にN−メチル−2−ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱した。反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、沈殿した固形物を吸引濾過し、中性になるまで水で洗浄し、メタノール中に溶解し、活性炭を添加した後、濾過し、そしてジエチルエーテルを使用して結晶化させた。標題化合物230mg(45%)を無色の固形物として得た。
M.p.:146−148℃
MS(ES+):517.18
1H−NMR(DMSO−d6, 400MHz):δ=11.00 (s, 1H), 8.22 (t, 1H), 8.18 (d, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (d, 1H), 7.15 (d, 1H), 4.1 (m, 1H), 3.85 (s, 3H), 3.62 (d, 2H), 3.35 (m, 2H), 2.85 (m, 2H), 1.95−1.10 (m, 17H)
【0050】
実施例7
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−メチルウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化18】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド376mg(1mmol)及び水酸化ナトリウム80mg(2mmol)をN−メチルトリクロロアセトアミド180mg(1mmol)と共にN−メチル−2−ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱し、反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、沈殿した固形物を吸引濾過し、中性になるまで水で洗浄した。クロマトグラフィ(シリカゲル;トルエン/エタノール/酢酸エチル8/1/1)によって精製し、無色の固形物として標題化合物25mg(6%)を得た。
M.p.:134−136℃(分解)
MS(ES+):433.24
1H−NMR(DMSO−d6, 300MHz):δ=10.00 (s, 1H), 8.20 (t, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (dd, 1H), 7.15 (d, 1H), 6,20 (q, 1H), 3.85 (s, 3H), 3.60 (d, 2H), 3.30 (m, 2H), 2.78 (dt, 2H), 2.60 (d, 3H), 1.80 (m, 2H), 1.45 (m, 3H), 1.15 (m, 2H)
【0051】
実施例8
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−エチルウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化19】

30%濃度の過酸化水素水0.1ml(1.16mmol)を、0℃で0.5M水酸化ナトリウム溶液2ml中の5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−エチルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド46mg(0.1mmol)の溶液に加えた。反応混合物を0℃で1.5時間保持した後、亜硫酸ナトリウム100mgを加え、混合物を2M塩酸によって酸性化した。沈殿した固形物を濾過し、中性になるまで、水で洗浄し、ジエチルエーテル/メタノールから再沈殿させた。標題化合物19mg(43%)を無色の固形物として得た。
M.p.:121−130℃(分解)
MS(ES+):447.32
【0052】
実施例9
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−プロピルウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化20】

4−(2−(5−クロロ−2−メトキシベンズアミド)エチル)ピペリジン−1−スルホンアミド376mg(1mmol)及び水酸化ナトリウム160mg(4mmol)をN−(n−プロピル)トリクロロアセトアミド410mg(2mmol)と共にN−メチル−2−ピロリドン5ml中、80℃で10分間加熱した。反応混合物を氷/2M塩酸上へ注ぎ、沈殿した固形物を吸引濾過し、そして中性になるまで水で洗浄した。クロマトグラフィ(シリカゲル;トルエン/エタノール/酢酸エチル8/1/1)によって精製し、無色の固形物として標題化合物65mg(14%)を得た。
M.p.:140−142℃
MS(ES+):461.2
1H−NMR(DMSO−d6, 300MHz):δ=9.80 (s, 1H), 8.20 (t, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.55 (dd, 1H), 7.18 (d, 1H), 6.35 (t, 1H), 3.85 (s, 3H), 3.60 (d, 2H), 3.25 (m, 2H), 3.00 (q, 2H), 2.78 (m, 2H), 1.80 (m, 2H), 1,40 (m, 5H), 1.08 (m, 2H), 0.85 (t, 3H)
【0053】
実施例10
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−イソプロピルウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化21】

30%濃度の過酸化水素水0.1ml(1.16mmol)を0℃で0.5M水酸化ナトリウム溶液2ml中の5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−イソプロピルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド48mg(0.1mmol)の溶液に加えた。反応混合物を0℃で2時間保持した後、亜硫酸ナトリウム100mgを加え、混合物を2M塩酸によって酸性化した。沈殿した固形物を濾過し、中性になるまで水で洗浄し、ジエチルエーテルから再結晶させた。標題化合物21mg(45%)を無色の固形物として得た。
M.p.:152−154℃
MS(ES+):447.32
【0054】
実施例11
5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−シクロプロピルウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド
【化22】

30%濃度の過酸化水素水0.2ml(2.32mmol)を0℃で0.5M水酸化ナトリウム溶液2ml中の5−クロロ−2−メトキシ−N−(2−(1−(3−シクロプロピルチオウレイドスルホニル)ピペリジン−4−イル)エチル)ベンズアミド96mg(0.2mmol)の溶液に加えた。反応混合物を0℃で1時間保持した後、亜硫酸ナトリウム200mgを加え、混合物を2M塩酸によって酸性化した。沈殿した固形物を濾過し、中性になるまで水で洗浄し、クロマトグラフィ(シリカゲル;トルエン/エタノール/酢酸エチル8/1/1)によって精製した。粗生成物をメタノールから結晶化させた。標題化合物30mg(32%)を無色の固形物として得た。
M.p.:138−139℃
MS(ES+):459.44
1H−NMR(DMSO−d6, 400MHz):δ=9.70 (s, 1H), 8.20 (m, 1H), 7.60 (d, 1H), 7.50 (d, 1H), 7.15 (d, 1H), 6.50 (m, 1H), 3.85 (s, 3H), 3.60 (d, 2H), 3.35 (m, 3H), 2.80 (m, 2H), 1.75 (m, 2H), 1.45 (m, 3H), 1.10 (m, 2H), 0.60 (m, 2H), 0.40 (m, 2H)
【0055】
薬理学的研究
1) モルモット乳頭筋の活動電位持続における効果
虚血中に心筋細胞で観察されるようなATP欠乏状態は、活動電位持続の短縮に至る。それは、いわゆる再入不整脈の原因の1つとしてみなされ、突然心臓死を生じることがある。ATPレベルを低下させることによるATP感受性カリウムチャネルの開放は、その原因とみなされる(ATP=アデノシン三リン酸)。モルモット乳頭筋で活動電位を測定するには、標準マイクロ電極技術を使用した。
両性別のモルモットを、頭部殴打によって殺し、心臓を除去し、乳頭筋を切開し、そして器官槽中に懸垂した。器官槽をリンゲル液(136mmol/l NaCl、3.3mmol/l KCl、2.5mmol/l CaCl2、1.2mmol/l KH2PO4、1.1mmol/l MgSO4、5.0mmol/l グルコース、10.0mmol/l 1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−4−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)、NaOHでpHを7.4に調整)ですすぎ、37℃の温度で、100%酸素で通気した。1V及び1msの持続期間及び1Hzの頻度の矩形波パルスを用いて電極から筋肉を刺激した。活動電位は、3mol/l KCl溶液を充填され、細胞内に挿入されたガラス微小電極を通して誘導して記録した。活動電位はHugo Sachs (March−Hugstetten, Germany)からの増幅器を使用して増幅して保存し、コンピュータによって評価した。活動電位の持続期間は、90%程度の再分極で測定した(APD90)。活動電位の短縮は、乳頭筋を低酸素性の溶液ですすぐことによって30分の平衡時間後に誘発させた。このために、グルコースを除去し、HEPES緩衝液をPIPES緩衝液(ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸))で置き換え、pHを6.5に調整し、100%窒素で通気を実施した。これにより、60分後、APD90が著しく短縮された。この後、浴溶液中の物質濃度が2μmol/lとなるように、試験物質をプロパンジオール中の保存溶液の形態で加えた。さらに60分後、活動電位の再延長を再び記録した。下記の表は、低酸素及び試験物質の添加後に起こるパーセントにおけるAPD90値の全体の短縮、すなわち、低酸素下で試験物質を添加した後、まだ残存するAPD90の短縮パーセンテージを表し、ここで100%は、試験物質の添加前の低酸素状態下でのAPD90値に対応し、そして0%は実験の最初の通常の酸素条件下でのAPD90値に対応する。
物質 パーセントでの低酸素下のAPD90の残存する短縮
実施例1 80%
実施例2 82%
実施例3 67%
実施例4 54%
実施例7 68%
実施例8 54%
得られた値は、低酸素的に短縮された活動電位持続における本発明の化合物の正常化効果を示している。
【0056】
2) hSUR1/hKir6.2をトランスフェクションしたCHO細胞における効果(血糖低下作用)
例えばグリベンクラミドのようなスルホニル尿素の血糖低下作用機構は、概略的に解明されている。これらの化合物の標的器官は、膵臓のβ細胞であり、ここでそれはATP感受性のカリウムチャネルを遮断し、細胞膜の電位に影響を与えることにより、血糖低下ホルモンのインスリンを放出する。
分子生物学用語では、膵臓のATP感受性カリウムチャネルは、スルホニル尿素受容体SUR1及び内向きに調整するカリウムチャネルKir6.2から構成される(Inagaki et al., Science 270, 1166-1170 (1995); Inagaki et al., Neuron 16, 1011-1017 (1996))。例えばグリベンクラミドのような血糖低下化合物は、スルホニル尿素受容体への結合を通して細胞膜の脱分極をもたらし、カルシウムイオンの高められた流入に至り、その結果インスリンが放出される。本発明の化合物によって生じる細胞膜のこの脱分極の程度は、CHO細胞で研究し、これはヒト膵臓ATP感受性のカリウムチャネルのクローニングされた成分(hSUR1及びhKir6.2)でトランスフェクションされ、そしてATP感受性のカリウムチャネルの開放剤、ジアキソジドによる前処理によって活性化された。これらのトランスフェクション及び活性化されたCHO細胞の膜電位における化合物の作用濃度は、この化合物の潜在的な血糖を低下させる尺度である。
【0057】
ヒトSUR1及びKir6.2の安定な発現を示すCHO細胞を、測定前日に96穴マイクロタイタープレートに接種した。測定日に、マイクロタイタープレートをPBS(生理学的な緩衝溶液)で3回洗浄した。最後の洗浄工程で各穴に90μlが残った。次いで、PBS中10マイクロモル濃度の溶液DIBAC4の90μl及びPBS中400マイクロモル濃度の溶液ジアキソジド90μlを各穴に加えることによって細胞に蛍光染料DiBAC4 (Molecular Probes, Portland, OR, USA)を装填した。37℃で30分のインキュベーション時間の後、次いでマイクロタイタープレートは、蛍光マイクロタイタープレートリーダー(FLIPR; Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)へ移した。488nmの波長でアルゴンレーザー(Innova 90; Coherent, Santa Clara, CA, USA)を使用して細胞を刺激し、CCDカメラを使用して蛍光発光を測定した。試験物質の溶液又は対照溶液20μlを各穴に加えることによって膜電位の測定を4分後に開始し、20分間にわたって20秒毎に生成した蛍光発光を測定した。以下に記載したデータは、少なくとも4回の実験の平均である。
【0058】
以下の結果を得た。
【表1】

【0059】
得られた値は、本発明の化合物が血糖低下作用を全く又は僅かしか有しないことを示している。
【0060】
3) モルモット心臓の低酸素条件下の冠血流量における効果
冠血管における酸素欠乏は、酸素欠乏を補うために血管が反射的に拡張することが知られている。血管性のKATPチャネル(SUR2B/Kir6.2)は、これに重要な役割を果たす。その開放は平滑筋細胞の細胞膜の過分極に至り、従ってカルシウム流入が減少し、血管拡張に帰着する。血管性のKATPチャネルの遮断は、血管の拡張を阻害し、従って低酸素状態下で冠血流量を調整する。冠血流量の測定に使用される試験モデルは、モルモットから単離され、灌流されたランゲンドルフ心臓であった。
【0061】
両性別のモルモットを頭部殴打によって殺した。素早く心臓を摘出し、大動脈にカニューレを挿入した。カニューレ挿入後、ランゲンドルフ装置の灌流溶液中で心臓を懸垂し、ラテックスバルーンを左室に挿入した。冠血流量は、Hellige (Freiburg, Germany)からの流量変換器(タイプE)を使用して記録した。心臓を55mm Hgの一定の圧力で灌流させた。95%酸素/5%二酸化炭素(=酸素正常状態)から20%酸素/75%窒素/5%二酸化炭素にエアレーションを変えることによって低酸素を誘発させた。対照における、すなわち灌流液に試験物質を添加してない冠血流量は、酸素正常状態で7.9ml/分であり、そして低酸素状態下で15.0ml/分まで上昇した。低酸素を開始する10分前に試験物質を灌流液に加え、そして記載された濃度で存在した。以下、低酸素状態下の対照の冠血流量のパーセントにおける低酸素状態下の冠血流量を示した。記載した値は、3回の心臓測定の平均である。
【0062】
【表2】

【0063】
得られた値は、本発明の化合物が血管性のKATPチャネルに対するわずかな効果しか有しないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全てのその立体異性体の形態における、式I
【化1】

[式中、
Aは、CH2、CH2−CH2又はCH2−CH2−CH2であり;
Xは、酸素又は硫黄であり;
R(1)は、水素、(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル又は−(C1−C3)−アルキル(C3−C7)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C7)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又はそれ以上置換されていてもよく、そして(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル及び−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよく;
R(2)及びR(3)は、互いに独立しており、そして同一又は異なっていてもよく、水素、ハロゲン、(C1−C4)−アルキル又は(C1−C4)−アルコキシであり、ここで(C1−C4)−アルキル及び(C1−C4)−アルコキシ基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよいが、
ここで同時に、AがCH2−CH2であり、Xが酸素であり、そして基R(2)及びR(3)を担持しているフェニル基が5−クロロ−2−メトキシフェニルである場合、R(1)は、n−プロピル、n−ヘキシル又はシクロヘキシルであることはできない]
の化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩。
【請求項2】
Xが硫黄である、全てのその立体異性体の形態における請求項1に記載の式Iの化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩。
【請求項3】
Xが酸素である、全てのその立体異性体の形態における請求項1に記載の式Iの化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩。
【請求項4】
AがCH2−CH2である、全てのその立体異性体の形態における、請求項1〜3のいずれか1項記載の式Iの化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩。
【請求項5】
R(1)が(C1−C4)−アルキル又は(C3−C6)−シクロアルキルである、全てのその立体異性体の形態における請求項1〜4のいずれか1項記載の式Iの化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩。
【請求項6】
基R(2)及びR(3)を担持しているフェニル基が2−(C1−C4)−アルコキシ−5−ハロフェニル基である、全てのその立体異性体の形態における請求項1〜5のいずれか1項記載の式Iの化合物、及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩。
【請求項7】
式III
【化2】

[式中、A、R(2)及びR(3)は、請求項1〜6に記載された意味を有する]のピペリジンスルホンアミドを、塩基及びR(1)置換されたイソチオシアネート又はR(1)置換されたイソシアネート又はNR(1)置換されたトリクロロアセトアミドと反応させることからなる、又はXが硫黄である式Iの対応する化合物を脱硫してXが酸素である式Iの化合物を製造するための、請求項1〜6のいずれか1項記載の式Iの化合物を製造方法。
【請求項8】
医薬として使用するための請求項1〜6のいずれか1項記載の式Iの化合物及び/又はその生理学上許容しうる塩。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項記載の1つ又はそれ以上の式Iの化合物及び/又はその生理学上許容しうる塩及び医薬上許容しうる担体を含む医薬組成物。
【請求項10】
心血管系の障害、心臓疾患、不整脈、心室細動、突然心臓死、心臓の収縮性の低下、心臓の虚血、冠状動脈性心疾患、狭心症、心不全、心筋症、心肥大若しくは心臓の迷走神経の機能障害を治療する又は心臓でのATP感受性カリウムチャネルを阻害する薬剤を製造するための、全てのその立体異性体の形態における、式I
【化3】

[式中、
Aは、CH2、CH2−CH2又はCH2−CH2−CH2であり;
Xは、酸素又は硫黄であり;
R(1)は、水素、(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル又は−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキルであり、ここで(C3−C7)−シクロアルキル基は、(C1−C4)−アルキルによって1回又はそれ以上置換されていてもよく、そして(C1−C6)−アルキル、(C3−C7)−シクロアルキル及び−(C1−C3)−アルキル−(C3−C7)−シクロアルキル基は、フッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよく;
R(2)及びR(3)は、互いに独立しており、そして同一又は異なっていてもよく、水素、ハロゲン、(C1−C4)−アルキル又は(C1−C4)−アルコキシであり、ここで(C1−C4)−アルキル及び(C1−C4)−アルコキシ基はフッ素によって1回又はそれ以上置換されていてもよい]
の化合物及び全ての比率におけるそれらの混合物、及びその生理学上許容しうる塩の使用。
【請求項11】
不整脈、心室細動、又は突然心臓死を治療する薬剤を製造するための請求項10記載の式Iの化合物及び/又はその生理学上許容しうる塩の使用。

【公表番号】特表2008−524132(P2008−524132A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545899(P2007−545899)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013087
【国際公開番号】WO2006/063722
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】