説明

ピボット用軸受

【課題】安価でありながらも耐熱性に優れ、トルク安定性にも優れ、更に添加剤の制限も少ないグリース組成物を封入し、耐久性及びトルク安定性に優れ、更に添加剤による効果を有効に発現できるピボット用軸受を提供する。
【解決手段】ハードディスクドライブ装置のスイングアーム支持部のピボット用軸受において、内輪と外輪の間に、保持器により複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、鉱油及び合成潤滑油から選ばれる少なくとも1種と、フッ素油との混合油を基油とするグリース組成物を封入したピボット用軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ装置のスイングアーム支持部に使用するピボット用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ装置のスイングアーム支持部に使用するピボット用軸受は、読み取り及び書き込みの高速化のために、高温に耐えることが要求されてきている。耐熱性の付与のためには、フッ素系グリースの適用が考えられ、本出願人も先に提案している(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−302688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フッ素系グリースは、鉱油や合成潤滑油を基油とするグリースに比べて非常に高価である。また、フッ素系グリースでは、増ちょう剤がフッ素系樹脂に限定されるが、トルク安定性が必ずしも十分ではないという問題もある。更には、添加できる添加剤にも制限があり、添加剤による効果にも限度がある。
【0005】
そこで本発明は、安価でありながらも耐熱性に優れ、トルク安定性にも優れ、更に添加剤の制限も少ないグリース組成物を封入し、耐久性及びトルク安定性に優れ、更に添加剤による効果を有効に発現できるピボット用軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記のピボット軸受を提供する。
(1)ハードディスクドライブ装置のスイングアーム支持部のピボット用軸受において、内輪と外輪の間に、保持器により複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、鉱油及び合成潤滑油から選ばれる少なくとも1種と、フッ素油との混合油を基油とするグリース組成物を封入したことを特徴とするピボット用軸受を提供する。
(2)グリース組成物における基油中のフッ素油の含有量が、5〜50質量%であることを特徴とする上記(1)記載のピボット用軸受。
(3)グリース組成物における増ちょう剤が、金属石けんまたはウレア化合物であることを特徴とする上記(1)または(2)記載のピボット軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明のピボット軸受は、封入するグリース組成物の基油が、フッ素油と、鉱油及び合成潤滑油から選ばれる少なくとも1種との混合油であることから、フッ素系グリースを単独で使用する場合に比べて安価となる。また、鉱油や合成潤滑油は添加剤の制限が少なく、添加剤による効果も有効に得られる。更に、増ちょう剤にフッ素樹脂以外の金属石けんやウレア化合物を使用することもでき、トルク安定性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0009】
本発明において、ピボット用軸受の種類や構造には制限がなく、従来から使用されているものが対象となる。
【0010】
ピボット用軸受には、潤滑のためにグリース組成物が封入されるが、本発明では基油に鉱油及び合成潤滑油から選ばれる少なくとも1種と、フッ素油との混合油を用いる。
【0011】
鉱油としてパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が挙げられるが、特に減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。
【0012】
合成潤滑油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはこれらの水素化物が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼンやジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、モノアルキルナフタレンやジアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れることから、エステル油及びエーテル油が好ましく、エステル油の中では芳香族エステル油、エーテル油の中ではジアルキルジフェニルエーテル油が好ましい。また、これらは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0013】
フッ素油としては、パーフルオロエーテル油、フルオロシリコーン油等が挙げられるが、パーフルオロエーテル油が好ましい。
【0014】
基油におけるフッ素油の割合は、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。フッ素油の割合が5質量%未満では、フッ素油による耐熱性の付与が十分ではなくなる。一方、フッ素油の割合が50質量%を超えると、高価になるばかりでなく、フッ素油の分離が起こり易くなり、更には添加剤も制限されるようになる。
【0015】
また、基油の動粘度は、40℃における値で35〜65mm/sが好ましく、40〜60mm/であることがより好ましい。動粘度が前記上限値を超えると、低温での流動性が低すぎてトルク上昇を招き、軸受温度が上昇したり、起動の際に異音が発生するおそれがある。また、前記下限値未満であると、高温での潤滑油膜の形成が困難になったり、蒸発損失が起こり易くなる。尚、鉱油及び合成潤滑油の40℃における動粘度は30〜60mm/sが好ましく、フッ素油の40℃における動粘度は40〜100mm/sが好ましく、混合したときに上記の基油粘度となるように調整する。
【0016】
一方、グリース組成物の増ちょう剤には、フッ素系樹脂も使用できるが、トルク安定性を図るため金属石けんやウレア化合物を使用することが好ましい。金属石けんとしては、Li,Na,Ba,Ca等を金属種とするものが挙げられる。また、ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
増ちょう剤の量には制限がなく、上記基油とともにグリース性状を形成できる量であればよい。
【0018】
グリース組成物には、必要に応じて各種添加剤を添加することができる。基油が鉱油や合成潤滑油を含有するため、添加可能な添加剤には特に制限はない。耐熱性の改善のためには酸化防止剤の添加が有利であり、アミン系やフェノール系等の酸化防止剤を添加することができる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン,フェニル−2−ナフチルアミン,ジフェニルアミン,フェニレンジアミン,オレイルアミドアミン,フェノチアジン等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等が挙げられる。
【0019】
酸化防止剤の他にも、スルフォン酸金属塩、アルケニルコハク酸誘導体、エステル類等の防錆剤;オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミンやセチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル等の油性向上剤;リン系、ジチオリン酸塩、有機モリブデン等の極圧剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等を目的に応じて添加できる。
【0020】
これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0021】
尚、グリース組成物の製造方法も限定されるものではなく、鉱油及び合成潤滑油の少なくとも一方と、フッ素油とを所定比率で混合した基油中で、増ちょう剤を合成すればよい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0023】
(試験1)
表1に示す組成にて試験グリースを調製し、日本精工(株)製深溝玉軸受「呼び番号SR168B−H−26T12(内径6.35mm、外径9.525mm、幅3.175mm)」の軸受1個につき2.5mgずつ封入し、2個1組でピボット軸受ユニットを作製した。
【0024】
そして、ピボット用軸受を下記に示す条件にて駆動し、駆動前後のトルク値の変化量から耐久試験を評価した。結果を表1に併記するが、比較例1のトルク値の変化量を1とし、それより変化量が小さい場合を「◎」、それより変化量が大きい場合を「×」とした。
・雰囲気温度:0℃、70℃
・予圧荷重:8.8N
・揺動角度:10°
・揺動周波数:10Hz一定
・時間:100時間
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、基油におけるフッ素油の割合が高くなるほど耐久性が低下する。また、実施例では、高温(70℃)及び低損(0℃)の両方で優れた耐久性を示しており、温度による影響が少ない。
【0027】
(試験2)
フッ素油とエステル油との混合比率を変えて基油を調製し、増ちょう剤をリチウム石けんとして試験グリースを調製した。何れの試験グリースも、基油動粘度を50mm/s(40℃)とし、混和ちょう度をNLGI No.2とした。そして、試験グリースを日本精工(株)製深溝玉軸受「呼び番号SR168B−H−26T12(内径6.35mm、外径9.525mm、幅3.175mm)」の軸受1個につき2.5mgずつ封入し、2個1組でピボット軸受ユニットを作製した。
【0028】
そして、ピボット用軸受を下記に示す条件にて駆動した後、更に雰囲気温度25℃、予圧荷重8.8N、回転数2rpmにてトルク値を測定し、駆動前後の変化量を求めた。結果を図1に示すが、基油中のフッ素油の割合が40質量%である試験グリース(試験1の実施例1に相当)でのトルク値の変化量を1とする相対値で示してある。
・雰囲気温度:70℃
・予圧荷重:8.8N
・揺動角度:10°
・揺動周波数:10Hz一定
・時間:100時間
【0029】
図1に示すように、基油中のフッ素油の割合を5〜50質量%にすることにより、安定したトルク性能を示し、耐久性に優れるようになる。特に、フッ素油の割合が10〜40質量%の範囲が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例で得られた基油中のフッ素油の割合と、相対トルクとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードディスクドライブ装置のスイングアーム支持部のピボット用軸受において、
内輪と外輪の間に、保持器により複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、鉱油及び合成潤滑油から選ばれる少なくとも1種と、フッ素油との混合油を基油とするグリース組成物を封入したことを特徴とするピボット用軸受。
【請求項2】
グリース組成物における基油中のフッ素油の含有量が、5〜50質量%であることを特徴とする請求項1記載のピボット用軸受。
【請求項3】
グリース組成物における増ちょう剤が、金属石けんまたはウレア化合物であることを特徴とする請求項1または2記載のピボット軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2010−106189(P2010−106189A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281503(P2008−281503)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】