説明

ピラゾリル末端基を有するトリスアゾ染料、及びインクジェット印刷における該染料の使用

式(1):A−N=N-D-N=N-B-N=N-A’
[式中、Aは、任意的に置換されてよいアリール、ヘテロアリール、非芳香族ヘテロ環式又はアルケニル基であり;Dは、任意的に置換されてよく、任意的に金属化されてよい1,8-ジヒドロキシナフタレン基であり;Bは、任意的に置換されてよい有機結合基であり;A’は、ピラゾリル環の窒素原子のいずれか一方に直接結合した置換基として芳香族基を有しない、任意的に置換されてよいピラゾリル基である。]で表される化合物又はその塩。本化合物又は塩を含有する組成物、インク、インクセット、支持体及びカートリッジ;並びに、本化合物又は塩を使用する印刷方法もまた提供される。本化合物及び塩は、インクジェット印刷用に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ化合物及びその塩、該化合物及び塩の製造方法、該化合物及び塩から製造される組成物、該組成物を使用する印刷方法、カートリッジ、印刷された支持体、及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷(以後「IJP」と記載する)は、ノズルを支持体へ接触させることなく、インクの液滴が細いノズルを通して支持体へ噴出される非衝撃印刷技術である。IJPに用いられる染料及びインクには多くの性能が求められる。例えば、それらは良好な光学密度、耐水堅牢性、耐光堅牢性、及び、酸化性の大気汚染物質(耐オゾン)の存在下での耐褪色性を有する鮮明で非羽毛状(non-feathered)の画像をもたらすことが望ましい。インクは支持体に塗布したとき急速に乾燥して汚れを防止することがしばしば求められる。しかし、インクがインクジェットノズルの先端で固まりを形成すると、プリンターの印刷を妨げる原因となるので、インクはインクジェットノズルの先端で固まりを形成してはならない。インクはまた、分解したり又は細いノズルを詰まらせる可能性がある沈殿を形成することなく、長期貯蔵に対して安定でなければならない。
【0003】
Direct Black 38及びDirect Black 19は、インクジェット印刷用の公知の着色剤である。これらの染料は、1-アミノ-8-ヒドロキシナフタレンユニットを含む。
英国特許出願公開第774,612号明細書は、一方の側のみにトリス-アゾ基を有する1,8-ジヒドロキシナフタレン基を含む青色〜青みを帯びた赤色の染料を記載している。これらの染料は、なめし革の染色に慣用の染料であることが記載されている。
【0004】
米国特許第 1,209,154号明細書は、1つの側のみにトリス-アゾ基を有する1,8-ジヒドロキシナフタレン基を含有する紫色の綿用染料を記載している。
国際公開第 03/106572号は、1,8-ジヒドロキシナフタレン基を含有するIJP用のトリスアゾ染料を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許出願公開第774,612号明細書
【特許文献2】米国特許第 1,209,154号明細書
【特許文献3】国際公開第 03/106572号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、IJPのための上記性能要件の1つ以上、特に、光学密度、耐光堅牢度及び/又は耐オゾン堅牢度が改善された染料についての需要が存在する。
以上の点を考慮して、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
より詳細には、本発明は、その一態様として、式(1):
【0008】
【化1】

[式中、Aは、任意的に置換されてよいアリール、ヘテロアリール、非芳香族ヘテロ環式又はアルケニル基であり;
Dは、任意的に置換されてよく、任意的に金属化されてよい1,8-ジヒドロキシナフタレン基であり;
Bは、任意的に置換されてよい有機結合基であり;
A’は、ピラゾリル環の窒素原子のいずれかに直接結合した置換基として芳香族基を有しない、任意的に置換されてよいピラゾリル基である。]
で表される化合物又はその塩を提供する。
【0009】
本発明の別の態様は、支持体に画像を印刷するための方法であって、式(1)で表される化合物又はその塩と、液体媒体とを含む組成物を支持体上に塗布する工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中、画像という用語は、グラフィック画像及びテキストの両方を含む。
好ましくは、該組成物は、インクジェット印刷機を用いて支持体に塗布される。該インクジェット印刷機は、好ましくは、小さなオリフィスから支持体上に放出される液滴の形態で支持体上に塗布される。好ましいインクジェット印刷機は、圧電式インクジェット印刷機及び熱インクジェット印刷機である。熱インクジェットプリンターでは、プログラムされた熱パルスが、オリフィスに隣接した抵抗器によってリザーバー内のインクに加えられ、それによって、支持体とオリフィスの相対移動の間に、インクが、オリフィスから、小液滴の形で、直接支持体に向けて射出される。圧電式インクジェットプリンターでは、小結晶の振動が原因で、オリフィスからインクが放出される。
支持体は、好ましくは、紙、プラスチック、織物、金属又はガラス、より好ましくは処理された支持体、例えばコート紙、コートプラスチック、特にコート紙である。
【0011】
好ましい普通紙又は処理紙は、酸性、アルカリ性又は中性でもよい紙である。市場で入手可能な処理紙の例としては、HP Premium Coated Paper(商標)、HP Advanced Photopaper(商標) Glossy、HP Photopaper(商標) Glossy、HP Printing Paper、HP 新規及び改良Premium Plus photopaper(全てHewlett Packard Inc.から入手可能); Stylus Pro 720 dpi Coated Paper(商標)、Epson Photo Quility Glossy Film(商標)、Epson Photo Quility Glossy Paper (商標)、Epson Premium Photo Paper (商標)、Epson Crispia(全て、Seiko Epson Corp.から入手可能); Canon HR 101 High Resolution Paper(商標)、Canon GP 201 Glossy Paper(商標)、Canon HG 101及びHG 201 High Gloss Film (商標)、Canon PR 101 (商標)(全て、Canonから入手可能); Kodak Premium Photopaper (商標)、Kodak Premium InkJetpaper (商標)(Kodakから入手可能); Konica Inkjet Paper QP (商標) Professional Photo Glossy、Konica Inkjet Paper QP (商標) Professional Photo 2-sided Glossy、Konica Inkjet Paper QM (商標) Premium Photo Glossy、Konica Inkjet Paper QP (商標) Premium Photo Silky (商標)(Konicaから入手可能); Ilford Instant Dry Paper(商標)(Ilfordから入手可能)が挙げられる。
【0012】
好ましくは、式(1)で表される化合物又はその塩は、少なくとも2個の水溶性基、例えば、スルホ基、さらに好ましくは、2〜10個のスルホ基、なおさらに好ましくは、2〜6個のスルホ基、特に、2〜4個のスルホ基を有する。
【0013】
種々の実施態様において、式(1)で表される化合物又はその塩は、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のスルホ基を有する。
Aにより表される任意的に置換されてよいアリール基としては、任意的に置換されてよいフェニル及びナフチルが好ましく、特に、フェニルが好ましい。
【0014】
Aにより表される任意的に置換されてよいヘテロアリール基及び非芳香族ヘテロ環式基は、5〜7員環を含むヘテロ環又は置換されたヘテロ環を含むことが好ましく、該環は少なくとも1個の二重結合を含むことが好ましい。
【0015】
Aにより表される任意的に置換されてよいアルケニル基は、式(2):
【0016】
【化2】

[式中、Yは、電子吸引基であり;
Y1は、H、アルキルもしくはアリール、OR又はN(R)2であり、ここで、各Rは、独立に、H、任意的に置換されてよいアルキル又は任意的に置換されてよいアリールであるか;又は、
Y及びY1は、上記の二重結合とともに、5員環又は6員環を形成し;
X1は、N、O及びS(好ましくは、N及びO)から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む基である。]
を有することが好ましい。
【0017】
1個以上のR基(例えば、N(R)2又はSO2N(R)2)が存在する基では、各Rは、同一であっても、又は異なっていてもよい。
Yは、好ましくは、CN、CO2H、CO2R、CON(R)2、COR及びSO2N(R)2から選択され、ここで、各Rは、独立に、前記の通りである。Rが、任意的に置換されてよいアルキルである場合、Rは、好ましくは、任意的に置換されてよいC1-8アルキル、さらに好ましくは、任意的に置換されてよいC1-4アルキルである。Rが、任意的に置換されてよいアリールである場合、Rは、好ましくは、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチル、さらに好ましくは、任意的に置換されてよいフェニルである。Rが、任意的に置換されてよいアルキル又はアリールである場合、任意的な置換基は、好ましくは、水溶性の基、特に、スルホ(すなわち、SO3H)、スルホンアミド(すなわち、SO2N(R)2)、カルボキシ(すなわち、CO2H)又はホスファト(すなわち、PO3H2)から選択される。
【0018】
Y1がアルキルである場合、Y1は、好ましくは、C1-8アルキル、さらに好ましくは、C1-4アルキルである。Y1が、アリールである場合、Y1は、好ましくは、フェニルである。Y及びY1が互いに結合して5員環又は6員環を形成する場合、該環は、好ましくは、任意的に置換されてよいピラゾロン又はトリアゾール環、さらに好ましくは、ピラゾロン又は1,3,4-トリアゾールである。
【0019】
X1は、好ましくは、OR、CO2R又はN(R)2である。
さらに好ましくは、Yは、CO2R1であり、Y1’は、OR1であり、X1’は、OR1であり、ここで、各R1は、独立に、H又はC1-4アルキルである。
【0020】
最も好ましくは、Aは、上記のとおり、任意的に置換されてよいアリールである。
A、B及びA’上に存在し得る1個以上の任意的な置換基は、好ましくは、独立に、OH;SO3H;PO3H2;CO2H;NO2;CN;ハロ;任意的に置換されてよいアルキル(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルキルであって、1個以上の任意的な置換基が好ましくはスルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルコキシ、アミノ及びヒドロキシ基から選択されるC1-4アルキル);任意的に置換されてよいシクロアルキル(特に、C6-12-シクロアルキルであって、1個以上の任意的な置換基が好ましくはスルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルコキシ、アミノ及びヒドロキシ基から選択されるC6-12-シクロアルキル);任意的に置換されてよいアルコキシ(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルコキシであって、1つ以上の任意的な置換基が好ましくはスルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルコキシ、C1-4アルキル、アミノ及びヒドロキシ基から選択されるC1-4アルコキシ);任意的に置換されてよいアリール(特に、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチルであって、1個以上の任意的な置換基が、好ましくはスルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルコキシ、アミノ及びヒドロキシ基から選択されるフェニル又はナフチル);任意的に置換されてよいアリールオキシ(特に、任意的に置換されてよいフェノキシであって、1つ以上の任意的な置換基が好ましくはスルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルコキシ、アミノ及びヒドロキシ基から選択されるフェノキシ);任意的に置換されてよいヘテロアリール;任意的に置換されてよいアミン(特に、Nが、スルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルコキシ、アミノ又はヒドロキシル基を任意的に有し得る1個若しくは2個のC1-4アルキル基で置換されているか、又は、Nが1個若しくは2個のアシル基、好ましくは、C1-4アシル基で置換されているもの);COOR;OCOOR;OCOR;COR;CON(R)2;OCON(R)2;SR;SO2R;SO2N(R)2;及び、任意的に置換されてよいアゾ(特に、任意的に置換されてよいフェニルアゾ、ナフチルアゾ及びヘテロアリールアゾであって、フェニル基、ナフチル基及びそれらのヘテロアリール基が、さらに、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2及びNH2から選択される1つ以上の基で任意的に置換されていてよいフェニルアゾ、ナフチルアゾ及びヘテロアリールアゾ)から選択される。
【0021】
好ましくは、A及びBは、各々、独立に、0〜3個の置換基、さらに好ましくは、1個又は2個の置換基を有する。
A及びBについての好ましい置換基は、OH;SO3H;SO2N(R)2;PO3H2;CO2H;CONH2;NO2;CN;ハロ;任意的に置換されてよいアルキル;任意的に置換されてよいアルコキシ;及び、任意的に置換されてよいアミンから選択される。
【0022】
好ましくは、Aは、少なくとも1個のスルホ基;さらに好ましくは、1個又は2個のスルホ基;及び、特に、1個のスルホ基を有する。
Aにより表される、任意的に置換されてよいフェニル及びナフチル基の例としては、2-スルホ-4-アミノフェニル、2-スルホ-4-ニトロフェニル、2-ヒドロキシ-4-アミノフェニル、及び、1-ヒドロキシ-3-スルホ-6-アミノナフチルを挙げることができる。Aにより表される、任意的に置換されてよいヘテロアリール基の例としては、任意的に置換されてよいピリジル、ピラゾリル又は1,2,4-トリアゾールを挙げることができる。
【0023】
Dにより表される好ましい基は、式(3):
【0024】
【化3】

[式中、aは、1又は2である。]
で表されるか又はその金属錯体である。さらに好ましくは、aは、2であり、式(3)中に示したSO3H基は、3位及び6位、又は3位及び5位にある。
【0025】
したがって、本発明のさらに好ましい態様において、Dは、式(4):
【0026】
【化4】

で表されるか又はその金属錯体である。
【0027】
なおさらに好ましくは、Dは、式(5)若しくは(6):
【0028】
【化5】

の基、又はそれらの金属錯体である。
【0029】
Dが金属化された1,8-ジヒドロキシナフチレン基(すなわち、金属錯体)である場合、その金属は、好ましくは、ホウ素又は遷移金属、さらに好ましくは、Mn、Fe、Cr、Co、Ni、Cu又はZn、特にCo、Ni又はCuである。金属は、式(1)で表される化合物又はその塩と、1:2〜2:1の比で錯形成することができ、好ましくは、金属対化合物又は塩の比が1:2、2:3、1:1、2:2又は2:1、特に、2:1となるように錯形成することができる。しかしながら、Dが金属化されない場合、式(1)で表される化合物又はその塩は、なおインクジェット印刷用の貴重な着色剤であることが見出された。このような金属化されていない化合物は、対応する金属化された化合物より安価であり、かつ、製造が容易であり、これらは、例えば、遷移金属類が存在しないので、より環境に対する負荷が少ない。
【0030】
したがって、Dは、好ましくは、金属化されていない、任意的に置換されてよい1,8-ジヒドロキシナフチレンである。
好ましくは、Bは、1個以上の任意的に置換されてよいアリーレン基であるか又は前記アリーレン基を含み、さらに好ましくは、1個又は2個の任意的に置換されてよいフェニレン若しくはナフチレン基であるか、又は前記フェニレン若しくはナフチレンを含み、なおさらに好ましくは、1つの任意的に置換されてよいフェニレン若しくはナフチレン基であるか、又は前記フェニレン若しくはナフチレン基を含む。最も好ましくは、Bは、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基(特に任意的に置換されてよいフェニレン基)である。
【0031】
Bが1個より多いアリーレン基であるか又は前記アリーレン基を含む場合、前記アリーレン基は、任意的に、共有単結合、又は、O、S、N、C、H及びそれらの組み合わせから選択される1〜10個の原子を含む基、例えば、-O-、-NR2-、-N=N-、-NR2-CO-、-NR2CONR2-、-S-、-SO-、-SO2-、-SO2NR2-又は-CR2=CR2-により連結されてよく、ここで、各R2は、独立に、H又はC1-4アルキルである。
【0032】
実施態様において、Bにより表される基は、式(7):
【0033】
【化6】

[式中、L1は、共有単結合、又は、任意的に置換されてよいフェニレン若しはナフチレン基であり;
L2は、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基であり;
Gは、-O-、-NR2-、-N=N-、-NR2-CO-、-NR2CONR2-、-S-、-SO-、-SO2-、-SO2NR2-又は-CR2=CR2-であり、ここで、各R2は、独立に、H又はC1-4アルキルであり;
xは、0、1又は2である。]
で表される。
【0034】
本発明の1つの実施態様において、Bは、式:-O-(CH2)1-4-OHで表される少なくとも1つの置換基を有する。
本発明のもう1つの実施態様において、Bは、式:-O-(CH2)1-4OHで表される置換基を含まない。
【0035】
本発明の好ましい実施態様において、Bは、少なくとも1つのスルホ基、特に1つのスルホ基を有する。
Bにより表される任意的に置換されてよいフェニレン及びナフチレン基の例としては、2-スルホフェニレン及び2,5-ジ(2-ヒドロキシエチルオキシ)フェニレンが挙げられる。
【0036】
A’は、ピラゾリル環(すなわち、ピラゾリル基のピラゾリル環)のいずれか一方の窒素原子に直接結合した置換基として芳香族基を有しない、任意的に置換されたピラゾリル基である。本明細書中、芳香族基という用語は、任意的に置換されてよい芳香族又はヘテロ芳香族基を意味する。誤解を避けるため、「ピラゾリル環の窒素原子のいずれにも直接結合しない芳香族基」という表現は、芳香族基が、5員ピラゾリル環を形成する窒素原子のいずれにも直接結合しないことを意味する。「直接結合した」という用語は、共有結合により結合され、中間に介在する結合基により結合されないことを意味する。A’がピラゾリル環の窒素原子のいずれかに直接結合した置換基として芳香族基を有しない場合、ピラゾリル基が例えば国際公開第 03/106572号に開示されているような芳香族基を有する類似の化合物と比較して、IJPに必要な1つ以上の性能要件が改善されうることが見出された。
A’は、好ましくは、式(8a)、(8b)又は(8c):
【0037】
【化7】

[式中、R3、又は、2個のR3基が存在する場合には独立に各R3は、H、任意的に置換されてよいアルキル(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルキル)、シアノ、-COOR1、-CONR1NR2又は-COR1であり、ここでR1及びR2は上記定義の通りであり;
R4は、H、任意的に置換されてよいアルキル(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルキル)、任意的に置換されてよいアルコキシ(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルコキシ)、任意的に置換されてよいアリール(特に、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチル)、任意的に置換されてよいヘテロアリール、任意的に置換されてよいアリールオキシ、任意的に置換されてよいアミノ、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、ホスファト、-COOR1、-OCOOR1、-OCOR1、-COR1、-CONR1R2、-OCONR1R2、-SR1、-SO2NR1R2又は-SO2R1であり;R1及びR2は、前述のとおりである。]
で表されるピラゾリル基である。
【0038】
前述のとおり、ピラゾリル基の窒素原子上の置換基であるR3は芳香族基ではない。
好ましくは、R3基、又は、2つのR3基が存在する場合に独立に各R3は、H、又は、任意的に置換されてよいC1-4アルキルである。
【0039】
R4が、H、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(より好ましくは、任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル)、COOH又はCONH2である。
R3及びRの好適な任意的な置換基は、スルホ、カルボキシ、ホスファト、C1-4アルキル、C1-4アルコキシ、アミノ、ハロ及びヒドロキシ基である。
【0040】
本発明に関する上記説明を考慮し、好ましい具体的態様において、式(1)中、
Aは、任意的に置換されてよいフェニル、ナフチル、ピリジル又はピラゾリルであり;
Dが、式(3):
【0041】
【化8】

[式中、aは、1又は2である。]
で表される基又はその金属錯体であり;
Bが、式(7):
【0042】
【化9】

[式中、L1は、共有単結合、又は、任意的に置換されてよいフェニレン若しくはナフチレン基であり;
L2は、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基であり;
Gは、-O-、-NR2-、-N=N-、-NR2-CO-、-NR2CONR2-、-S-、-SO-、-SO2-、-SO2NR2-又は-CR2=CR2-であり、ここで、各R2は、独立に、H又はC1-4アルキルであり;
xは、0、1又は2である。]
で表され;
A’が、式(8a)、(8b)又は(8c):
【0043】
【化10】

[式中、R3、又は、2個のR3基が存在する場合に独立に各R3は、H、任意的に置換されてよいアルキル(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルキル)、シアノ、-COOR1、又は-COR1であり、ここでR1及びRは上記定義の通りであり;
R4は、H、任意的に置換されてよいアルキル(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルキル)、任意的に置換されてよいアルコキシ(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルコキシ)、任意的に置換されてよいアリール(特に、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチル)、任意的に置換されてよいヘテロアリール、任意的に置換されてよいアリールオキシ、任意的に置換されてよいアミノ、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、ホスファト、-COOR1、-OCOOR1、-OCOR1、-COR1、-CONR1R2、-OCONR1R2、-SR1、-SO2NR1R2又は-SO2R1であり、ここで、R1及びR2は前記のとおりである。]
で表わされるピラゾリル基である。
【0044】
さらに好ましい具体的な態様において、式(1)中、
Aが、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチル(特にフェニル)であり;
Dが、式(4):
【0045】
【化11】

で表される基又はその金属錯体であり;
Bが、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基(特にフェニレン)であり;且つ
A’が、式(8a):
【0046】
【化12】

[式中、R3は、H、又は、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(より好ましくは、任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル)であり;
R4は、H、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(より好ましくは、任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル)、COOH又はCONH2である。]
で表わされるピラゾリル基である。
【0047】
本発明の好ましい具体的態様において、式(1)の化合物又はその塩は、式(9):
【0048】
【化13】

[式中、R3は、H;又は、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(より好ましくは任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル)であり;
R4は、H、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(より好ましくは任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル)、COOH又はCONH2であり;かつ
R5及びR6は、独立に、H、任意的に置換されてよいアルキル(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルキル)、任意的に置換されてよいアルコキシ(特に、任意的に置換されてよいC1-4アルコキシ)、任意的に置換されてよいアリール(特に、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチル)、任意的に置換されてよいヘテロアリール、任意的に置換されてよいアリールオキシ、任意的に置換されてよいアミノ、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、ホスファト、アリールアゾ、-COOR1、-OCOOR1、-OCOR1、-COR1、-CONR1R2、-OCONR1R2、-SR1、-SO2NR1R2及びSO2R1から選択され、R1及びR2は、前記のとおりである。]
で表わされた化合物又はその塩である。
【0049】
好ましくは、R5及びR6は、独立に、ニトロ、スルホ、カルボキシ、任意的に置換されてよいアミノ、任意的に置換されてよいC1-4アルキル、任意的に置換されてよいC1-4アルコキシ及びヒドロキシから選択される。
【0050】
さらに好ましくは、R5は、ニトロである。
さらに好ましくは、R6は、スルホである。
本発明のさらに好ましい実施態様において、式(1)で表される化合物又はその塩は、式(10):
【0051】
【化14】

[式中、R3は、H、又は、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(さらに好ましくは、任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル);であり;
R4は、H、任意的に置換されてよいC1-4アルキル(さらに好ましくは、任意的に置換されてよいメチル、エチル又はt-ブチル)、COOH又はCONH2である。]
で表される化合物又はその塩である。
【0052】
好ましくは、式(1)で表される化合物又はその塩は、インク組成物、好ましくは、黒色インク組成物中の着色剤として使用するのに適している。
本明細書では、置換基が「任意的に置換されてよい」と定義されている場合、該置換基は、本明細書中に記載の任意の置換基の1個以上によって置換されていてもよい。
【0053】
本明細書では、文章中において特に断りのない限り、好ましいアリール基は、フェニル及びナフチルであり、好ましいヘテロアリール基は、ピリジル、ピラゾリル及び1,2,4-トリアゾールである。
【0054】
本明細書中に使用する“ハロゲン”又は“ハロ”という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを示す。本明細書中にに特に断りのない限り、好ましいハロゲン又はハロ基は、フルオロ、クロロ及びブロモである。
【0055】
明細書中に特に明示的に断りのない限り、3個以上の原子鎖を含む本明細書中の基は、その鎖の全体又は部分において、直鎖若しくは分岐であるか、及び/又は環(スピロ及び/又は縮合環を含む)を形成する基を示す。
【0056】
式(1)で表される化合物は、好ましくは、塩形で提供される。好ましい塩は、アルカリ金属塩、特に、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩、並びに、それらの混合された塩(すなわち、これらの中の少なくとも2種類を有する)である。特に好ましい塩は、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩、リチウム塩及びナトリウム塩;及び、それらの混合された塩(すなわち、これらの少なくとも2種類を有する)から選択される。化合物は、公知の技術を使用し、塩に変換される。
【0057】
本明細書中において遊離酸の形で示される基は、いずれも、例えば、塩の形で提供してよい。例えば、SO3H基は、塩の形、例えば、SO3Li、SO3Na等で提供され、カルボキシ(COOH)、ホスファト(PO3H)、及び塩を形成しうるいずれかのその他の基についても同様である。
【0058】
式(1)で表される化合物又はその塩は、本明細書中に示したもの以外に互変異性形(互変異性体)として存在することができ、したがって、本明細書中における式は、その化合物又は塩の全ての可能な互変異性形を含む。かくして、全てのその他の互変異性形は、本発明の範囲及び本特許明細書の特許請求の範囲に包含される。
【0059】
誤解を避けるために、請求項を含む本明細書における式は、全ての可能な同位体、異性体及び/又はエナンチオ異性体及びコンフォメーションの形の本化合物及び塩を包含する。
【0060】
式(1)で表される化合物及びそれらの塩は、好ましくは、繊維反応性基を含まない。何故ならば、このような基は、IJP用インクの長期間の貯蔵安定性を低下させる傾向を有するからである。繊維反応性基という用語は、当分野で十分に理解されており、例えば、欧州特許出願公開第 0356014 A1号明細書において使用されている。繊維反応性基は、適当な条件下で、セルロース繊維中に存在するヒドロキシ基、又は天然繊維中に存在するアミノ基と反応させることができ、繊維と化合物との間に共有結合を形成することができる。
【0061】
本化合物(及び塩)及びそれらから得られる組成物は、テキスト及び画像のインクジェット印刷のために特に十分に適した魅惑的な中性の黒色の色相を有するプリントを提供する。本組成物は、良好な貯蔵安定性、及び、インクジェットプリンターにて使用される非常に微細なノズルを目詰まりさせにくい傾向とを有する。さらに、式(1)で表される化合物は、良好な光学密度、良好な堅牢度(例えば、耐光堅牢度及び耐湿潤堅牢度)及び/又は空気を酸化する汚染物(例えば、オゾン)の存在での耐褪色性を有する印刷画像を提供するために使用し得る。
【0062】
本発明の更なる態様において、我々は、また、先に定義したような式(1)で表される化合物又はその塩を製造するための方法であって、アミン(好ましくは、式A’-NH2で表される)をジアゾ化し、生ずるジアゾニウム塩を式:A-N=N-D-N=N-BHで表される化合物とカップリングさせることを含み、ここで、A、D及びBは、先に定義したとおりである、方法も考案した。式:A-N=N-D-N=N-BHで表される化合物は、式:B-NH2で表されるアミンをジアゾ化して、ジアゾニウム塩を生じさせ、生じたジアゾニウム塩を式:A-N=N-DHで表される化合物とカップリングさせて、式:A-N=N-D-N=N-BHで表される化合物を与えることにより形成される。好ましくは、ジアゾ化は、ジアゾ化剤、特に亜硝酸ナトリウムを使用して実施される。さらに好ましくは、ジアゾ化は、0〜25℃の温度で、さらに好ましくは、0〜20℃で、さらに好ましくは、0〜10℃で行われる。
【0063】
驚くべきことに、我々は、中程度、すなわち、比較的中性、実質量の非プロトン性溶剤の使用により促進されるpH条件下で、カップリングを実施できることを見出した。使用することのできる非プロトン性溶剤は、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン、エーテル、アセトン、グリム(glymes)、例えば、ポリグリム(MW300)もしくはポリエチレングリコール及び/又はそれらの混合物から選択することができる。特に好ましい非プロトン性溶剤は、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン及びポリグリムである。非プロトン性溶剤は、使用する合計の溶剤量に対して、好ましくは、0〜80wt%の範囲、好ましくは、20〜60wt%の範囲、特に25〜45wt%の範囲で存在する。実質量の非プロトン性溶剤の使用は、従来よりもはるかに低いpH(通常、14付近のpH)でジアゾカップリングを可能にするという長所を有し、それによって、ジアゾニウム塩の分解を大幅に抑制した結果として、プロセスの効率を30%からほぼ70%にまで顕著に改善させる。
【0064】
好ましくは、本発明の更なる態様のプロセスは、中程度のpHを維持するために、酸結合剤の存在下で実施される。好ましくは、使用される酸結合剤は、pHを5〜9、好ましくは、6〜7.5に維持する任意の酸結合剤である。さらに、酸結合剤は、好ましくは、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩もしくリン酸塩又は有機塩基(例えば、トリエタノールアミン又はトリエチルアミン)から選択されるが、それらに限定されるものではない。特に好ましいアルカリ金属水酸化物のシド酸結合剤は、NaOH、KOH及びLiOHであり、特に、NaOH及びLiOHである。特に好ましいアルカリ金属炭酸塩の酸結合剤は、Li2O3及びNa2CO3であり、特に、Na2CO3である。これは、pHをジアゾニウム塩の分解を顕著に抑制するのに十分な低さのpHを維持し得るという長所を有する。
【0065】
式(1)で表される化合物又はその塩を製造するためのもう1つのプロセスは、先に定義したように、本発明により提供される。該プロセスは、式:A-N=N-X-N=N-B-N=N-A’(式中、A、B及びA’は、先に定義した通りであり、Xは、任意的に置換されてよい1-ヒドロキシ-8-アミノ-ナフチレン基である。)で表される化合物と強塩基とを反応させ、それによって、式(1)で表される化合物を生成させる工程、更に、必要に応じて、引き続き、生成した化合物を金属塩と接触させる工程によって提供される。好ましくは、強塩基は、金属水酸化物であり、さらに好ましくは、アルカリ金属水酸化物、特に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。強塩基との反応は、好ましくは、反応が完了するまで、高温の溶液中で加熱する工程を含む。好ましい高温は、60〜90℃、さらに好ましくは、65〜80℃、特に、65〜75℃である。pHは、好ましくは、アルカリ性であり、さらに好ましくは、10〜14、特に、12〜14である。
【0066】
式:A-N=N-X-N=N-B-N=N-A’で表される化合物は、式A’-NH2で表されるアミンをジアゾ化し、生成するジアゾニウム塩を式:A-N=N-X-N=N-BHで表される化合物とカップリングさせることによって形成することができる。
【0067】
本発明の後者のプロセスは、1-アミノ-8-ヒドロキシナフチレンジスルホン酸を基材とする安価に入手可能な、ありふれた出発物質を使用できるという予想外の長所を有する。更なる任意的な工程において、本プロセスは、必要に応じて、さらに、式(1)で表される化合物又はその塩を、金属、好ましくは遷移金属と錯形成する工程を含む。
【0068】
プロセスにおける化合物に対する言及は、その対応する塩に対する言及をも含む。
更に別の態様では、本発明の印刷方法に使用可能な組成物を提供する。該組成物は;
(a)0.01〜30部の、の式(1)の染料混合物を;及び、
(b)70〜99.9部の液体媒体又は低融点固体媒体;
を含んでおり、ここで、部は全て重量を基準とし、(a)+(b)の部の数は100である。
【0069】
該組成物は、好ましくは、インク組成物であり、より好ましくはインクジェット印刷用インクとして使用されるインク組成物である。
成分(a)の部の数は、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.5〜15,特に1〜5重量部である。成分(b)の部の数は、好ましくは99.9〜80、より好ましくは99.5〜85、特に99〜95重量部である。
【0070】
該媒体が液体である場合、好ましくは、成分(a)は、成分(b)に完全に溶解している。好ましくは、成分(a)は、成分(b)中に、20℃で少なくとも10%の溶解度を有する。これにより、より希薄なインクの製造に用いることのできる液体染料濃縮液の製造が可能になり、保存中に液体媒体の蒸発が起きた場合に、染料が沈殿する可能性が低下する。
好ましい液体媒体には、水、水と有機溶媒との混合物、及び水を含まない有機溶媒が含まれる。あるいは、液体媒体は、有機溶媒を含み、実質的に水を含まなくてよい。そのような液体媒体を含む組成物はインク組成物として、より好ましくはインクジェットインクとして使用することができる。
液体媒体が水と有機溶媒の混合物を含む場合、水:有機溶媒の重量比は、好ましくは、99:1〜1:99、より好ましくは99:1〜50;50,特に95:5〜80:20である。
水と有機溶媒との混合物中に存在する有機溶媒は、水混和性有機溶媒又はそれらの有機溶媒の混合物である。好ましい水混和性有機溶媒としては、C1-6-アルカノール、好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、シクロペンタノール及びシクロヘキサノール;線状アミド、好ましくはジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミド;ケトン及びケトン-アルコール、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン及びジアセトンアルコール;水混和性エーテル、好ましくはテトラヒドロフラン及びジオキサン;ジオール、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオール、例えば、ペンタン-1,5-ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、へキシレングリコール及びチオジグリコール、ならびにオリゴ-及びポリ-アルキレングリコール、好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール;トリオール、好ましくはグリセロール及び1,2,6-ヘキサントリオール;ジオールのモノ-C1-4-アルキルエーテル、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ-C1-4-アルキルエーテル、特に2-メトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)-エタノール、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2-[2-(2-エトキシエトキシ)-エトキシ]-エタノール及びエチレングリコールモノアリルエーテル;環状アミド、好ましくは2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、カプロラクタム及び1,3-ジメチルイミダゾリドン;環状エステル、好ましくはカプロラクトン;スルホキシド、好ましくはジメチルスルホキシド及びスルホランなどが挙げられる。好ましくは、液体媒体は、水、及び、2種類又はそれ以上、特に2〜8種類の水混和性有機溶媒を含む。
特に好ましい水混和性有機溶媒は、環状アミド、特に2-ピロリドン、N-メチル-ピロリドン及びN-エチルピロリドン;ジオール、特に1,5-ペンタンジオール、エチレングリコール、チオジグリコール、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコール;ならびに、ジオールのモノ-C1-4-アルキル及びC1-4-アルキルエーテル、より好ましくは2−12個の炭素原子を有するジオールのモノ-C1-4-アルキルエーテル、特に、((2-メトキシ-2)-エトキシ)-2-エトキシエタノールである。
【0071】
好ましい液体媒体は
(a)75〜95部の水;及び
(b)合計25〜5部の1種類以上の有機溶媒であって、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、チオジグリコール、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノール、カプロラクトン、カプロラクタム及びペンタン−1,5−ジオールから選択される前記有機溶媒
を含む。ここで、部は重量基準であり、(a)+(b)の部の合計は100である。
【0072】
別の好ましい液体媒体は
(a)60〜80部の水;
(b)2〜20部のジエチレングリコール;及び
(c)合計0.5〜20部の1種類以上の有機溶媒であって、2−ピロリドン、チオジグリコール、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノール、カプロラクトン、カプロラクタム、ペンタン−1,5−ジオール及びチオジグリコールから選択される前記有機溶媒
を含む。ここで、部は重量基準であり、(a)、(b)及び(c)の部の合計は100である。
【0073】
水と1種類以上の有機溶媒を含む別の好適なインク媒体の例は、米国特許第4,963,189号明細書、米国特許第4,703,113号明細書、米国特許第4,626,284号明細書及び欧州特許公開公報第4,25150A号明細書に記載されている。
【0074】
液体媒体が、実質的に水を含まない有機溶媒を含む(すなわち、水が1重量%未満)場合、該有機溶媒の沸点は、好ましくは30〜200℃、より好ましくは40〜150℃、特に50〜125℃である。有機溶媒は水非混和性若しくは水混和性溶媒又はそれらの溶媒の混合物でよい。好ましい水混和性有機溶媒は、前記水混和性有機溶媒及びそれらの混合物でよい。好ましい水非混和性有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素;エステル、好ましくはエチルアセテート;塩素化炭化水素、好ましくはCHCl;及びエーテル、好ましくはジエチルエーテル;及びそれらの混合物が挙げられる。
【0075】
液体媒体が水非混和性有機溶媒を含む場合、極性溶媒は染料の液体媒体中への溶解度を高めるので、極性溶媒が含有されていることが好ましい。極性溶媒の例はC1−4アルコールである。上記の好ましい溶媒についての例を考慮すると、液体媒体が水を含有しない有機溶媒である場合、液体媒体はケトン(とりわけメチルエチルケトン)及び/又はアルコール(とりわけC1−4アルカノール、より特定的にはエタノール又はプロパノール)を含むことが特に好ましい。
【0076】
水を含有しない有機溶媒は、単一の有機溶媒、又は2種類以上の有機溶媒の混合物でもよい。液体媒体が水を含まない有機溶媒である場合、2〜5種類の有機溶媒の混合物であることが好ましい。これによって、液体媒体を選択してインクの乾燥特性及び貯蔵安定性を良好に調整することが可能になる。
【0077】
水を含有しない有機溶媒を含むインク媒体は、速乾性が求められる場合、そして特に、疎水性及び非吸収性支持体、例えばプラスチック、金属及びガラスに印刷する場合に、特に有用である。
【0078】
1つの実施態様において、液体媒体は、酸化剤を含む。我々は、液体媒体中における酸化剤の存在がさらに組成物の安定性を改善することを見出した。好ましい酸化剤としては、KIO3、KIO4、K2S2O8、1,4-ベンゾキノン、テトラクロロベンゾキノン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0079】
好ましい低融点固体媒体は、60℃〜125℃の範囲の融点を有する。好適な低融点固体としては、長鎖脂肪酸又はアルコール、好ましくは、C18-24鎖を有するもの;及び、スルホンアミドが挙げられる。式(1)で表される化合物又はその塩は、低融点の固体に溶解させるか、又は、低有点固体に微細に分散させるのがよい。
【0080】
1つの好ましい実施態様において、組成物のpHは、4〜11、さらに好ましくは、7〜10である。
所望のpHは、pH調節剤、例えば、酸、塩基又はpH緩衝液の添加により達成することができる。使用するpH調節剤の量は、インクの所望のpHに従い変化するが、好ましくは、組成物全体の10重量%までの量、さらに好ましくは、組成物全体の0.1〜6重量%である。
【0081】
好ましいpH調節剤は、pH緩衝液であり、それは、実施態様において、さらに好ましくは、4〜8のpHを維持するpH緩衝液である。1つの好ましい実施態様において、組成物はpH緩衝液を含み、4〜8のpHを有する。TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、カチオン性の第1級脂肪族アミン、双性イオン性アミノ酸(これら最後の2つのカテゴリーは、N.E. Good et al.によりBiochemistry,1966,5(2) 467-477に記載されている“良好な緩衝液”として、当業者公知であり、該文献は、参照により本明細書に援用される);ホスフェート緩衝液、アミノ-ヒドロキシアルキルスルホン酸双性イオン(例えば、米国特許第 4,169,950号明細書に記載されているものであり、参照により本明細書に援用される);及び、トリスヒドロキシメチルアミノメタン誘導体からなる群から選択されるpH緩衝液が特に好ましい。好適なpH緩衝液の例としては、1,3-ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタン-スルホン酸、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)、4-(N-モルホリノ)ブタンスルホン酸、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N-(2-アセトアミド)-2-イミノ二酢酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、N-(2-ヒドロキシ-エチル)ピペラジン-N’-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、N,N-ジエチルアントラニル酸;及び、NaH2PO4が挙げられる。
【0082】
25℃でのインクの粘度は、好ましくは50mPa.s未満、より好ましくは20mPa.s未満、特に5mPa.s未満である。
本発明の組成物がインクジェット印刷用組成物として使用される場合、該組成物中のハロゲン化物イオン濃度は、好ましくは500ppm未満、より好ましくは100ppm未満である。該組成物は、インクの2価及び3価金属は100ppm未満、より好ましくは50ppm未満のインクの2価及び3価金属を含有し、ここでppmは、組成物の総重量に対する重量部を示す。我々は、組成物を精製し、これらの望ましくないイオンの濃度を減少させることが、インクジェット印刷機(特に熱インクジェット印刷機)のヘッドのノズルの詰まりを少なくすることにつながることを見出した。同様に2価及び3価の金属の濃度は低い方が好ましい。
【0083】
好ましくは、インクジェットプリンターに用いるのに適した本発明のインク組成物は、平均細孔サイズが10μm未満、より好ましくは3μm未満、特に2μm未満、さらに特に1μm未満のフィルターに通した。この濾過は、多くのインクジェットプリンターに見られる細いノズルをふさぐ粒状物質を除去する。
【0084】
本発明の化合物及び塩は、その魅力的な黒の色相のために、唯一の着色剤として使用することができる。しかしながら、、特定の使用目的のために少し異なる色彩が必要ならば、本発明の化合物を、必要に応じて、1種類以上の更なる着色剤と組み合わせてもよい。更なる着色剤は染料であることが好ましい。更なる着色剤が組成物中に含まれるとき、これらは、ブラック、マゼンタ、シアン、イエロー、レッド、グリーン、ブルー及びオレンジの各着色剤、並びにそれらの組み合わせから選択されることが好ましい。好適なブラック、マゼンタ、シアン、イエロー、レッド、グリーン、ブルー及びオレンジの各着色剤は本技術分野で知られている。いくつかの例を以下に示す。
【0085】
好適なブラック着色剤の例は、C.I.Food Black 2、C.I.Direct Black 19、C.I.Reactive Black 31、PRO−JET(商標) Fast Black 2、C.I.Direct Black 195;C.I.Direct Black 168;レックスマーク、セイコー・エプソン、キャノン及びヒューレット−パッカードなどの他社ブランド製品製造業者(OEM)又は富士写真フィルム、日本化薬及び三菱などの着色剤製造業者によって製造又は販売されている他の黒の着色剤、並びに上記レックスマーク(例えば、欧州特許出願公開第0 539,178 A2号明細書、実施例1、2、3、4及び5)、オリエント・ケミカルズ(例えば、欧州特許出願公開第0 347 803 A2号明細書、5〜6頁、アゾ染料3、4、5、6、7、8、12、13、14、15及び16)、キャノン、ヒューレット−パッカード及びセイコー・エプソンなどのOEMによる並びに富士写真フィルム、日本化薬及び三菱による特許及び特許出願に記載の他のブラック着色剤である。
【0086】
好適なマゼンタ着色剤の更なる例は、PRO−JET(商標) Fast Magenta 2、並びにレックスマーク、セイコー・エプソン、キャノン及びヒューレット−パッカードなどのOEM又は富士写真フィルム、日本化薬及び三菱を含む着色剤製造業者によって製造、販売されている又はそれらによる特許及び特許出願に記載されている他のマゼンタ着色剤である。PRO−JET(商標)はフジフィルム・イメージング・カラランツ社(英国、マンチェスター)の商標である。
【0087】
好適なイエロー着色剤の更なる例は、C.I.Direct Yellow 142;C.I.Direct Yellow 132;Direct Yellow 86;PRO−JET(商標) Yellow OAM;PRO−JET(商標) Yellow Fast Yellow 2;C.I.Direct Yellow 85;C.I.Direct Yellow 173;及びC.I.Acid Yellow 23、並びにレックスマーク、セイコー・エプソン、キャノン及びヒューレット−パッカードなどのOEM又は富士写真フィルム、日本化薬及び三菱などの着色剤製造業者によって製造、販売されている又はそれらによる特許及び特許出願に記載されている他のイエロー着色剤である。
【0088】
好適なシアン着色剤の更なる例は、フタロシアニン着色剤、C.I.Direct Blue 199及びC.I.Acid Blue 9、並びにレックスマーク、セイコー・エプソン、キャノン及びヒューレット−パッカードなどのOEM又は富士写真フィルム、日本化薬及び三菱などの着色剤製造業者によって製造、販売されている又はそれらによる特許及び特許出願に記載されている他のシアン着色剤である。
【0089】
本発明の組成物は、例えば米国特許出願公開第2005/126435A号明細書に記載の追加的な染料を含んでよい。
インク組成物はまた、インクジェット印刷インクに用いられる公知の追加的成分、例えば粘度及び表面張力調節剤、腐蝕防止剤、殺生物剤、コゲ−ション減少剤、及びイオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を含んでいてもよい。
【0090】
一般に、液体媒体は1種類以上の界面活性剤、例えばアニオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤をさらに含む。アニオン界面活性剤の例は、スルホネート界面活性剤、例えばスルホスクシネート(CYTECから入手しうるAerosol(商標)OT,A196;AY及びGP)及びスルホネート(CYTECから入手しうるAerosol(商標)DPOS−45,OS;WITCOから入手しうるWitconate(商標)C−50H;DOWから入手しうるDowfax(商標)8390);及びフルオロ界面活性剤(3Mから入手しうるFluorad(商標)FC99C)である。非イオン界面活性剤の例は、フルオロ界面活性剤(3Mから入手しうるFluorad(商標)FC170C);アルコキシレート界面活性剤(ユニオン・カーバイトから入手しうるTergitol(商標)シリーズ15S−5、15S−7及び15S−9);並びに有機シリコーン界面活性剤(WITCOから入手しうるSilwet(商標)L−77及びL−76−9)である。界面活性剤のSurfynol(商標)(エアー・プロダクツから入手しうる)も好適である。
【0091】
インクジェットインクに一般に用いられる1種類以上の殺生物剤、例えばハルス・アメリカ(ニュージャージー州ピスキャタウェー)から入手しうるNuosept(商標));アーチ・ケミカルズ社(コネチカット州ノーウォーク)から入手しうるProxel(商標)GXL;及びUcarcide250の商標でユニオン・カーバイド社(ニュージャージー州バウンドブルック)から入手しうるグルタルアルデヒドをインクに用いてもよい。
【0092】
本発明のインクは1種類以上の金属キレート化剤を含んでいてもよい。そのようなキレート化剤はインク中に存在する遊離遷移金属カチオンを結合するのに用いられる。好ましい金属キレート化剤の例は、エチレンジアミンテトラ酢酸(「EDTA」)、ジエチレンジアミンペンタ酢酸(「DPTA」)、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(「CDTA」)、エチレンジニトリロテトラ酢酸(「EGTA」)である。これらに加え又はこれらの代わりに、他のキレート化剤を用いてもよい。
【0093】
特定の実施態様において、本発明のインク組成物は米国特許出願公開第2005/076806A号明細書に記載の有機酸及び有機塩基を含む。
更なる実施態様において、本発明のインク組成物中、本発明の化合物又は塩が、例えば特開2005−239822号公報に記載の包接化合物の一部として存在してよい。例えば、シクロデキストリンのような化合物がホストになり、本発明の化合物又は塩が包接化合物のゲストとなることも可能である。
【0094】
本発明の更に別の側面では、画像が、本発明の組成物、化合物、又はその塩によって、又は、本発明の方法により印刷された支持体(好ましくは、紙、オーバーヘッドプロジェクタースライド又は布地材料)を提供する。
【0095】
本発明の更に別の側面では、1個以上のチャンバー及びインク組成物を含む、任意的に再充填可能な、インクジェットプリンターカートリッジを提供する。ここで、該インク組成物は少なくとも1個のチャンバー内に存在し、該インク組成物は、本発明のインク組成物である。
【0096】
本発明の別の側面では、少なくともブラックインク、マゼンタインク、シアンインクおよイエローインクを含み、そしてブラックインクが前に定義した通りの式(1)の化合物及び/又は前に定義した通りのインク組成物を含むインクセットを提供する。
このようなインクセットにおいてマゼンタインクを構成する染料としては、PRO-JET Fast Magenta 2及び/又はAcid Red 52を挙げることができる。このようなインクセットにおいてシアンインクを構成する染料としては、C.I. Direct Blue 199、Direct Blue 68及び/又はDirect Blue 87を挙げることができる。このようなインクセットにてイエローインクを構成する染料は、C.I.Direct Yellow 86、Direct Yellow 132及び/又はDirect Yellow 173を挙げることができる。黒色インクは、任意的に、さらに、1つ以上の黒色染料、例えば、PRO-JET Fast Black 2、及び/又は、欧州特許出願公開第 0539178 A2号明細書若しくは同 0347803号明細書に記載されているいずれかの染料を含有する。
【0097】
本明細書中において、特に断りがない限り、本明細書に用いる複数形の用語は、単数形を含むとものと解釈されるべきであり、逆の場合も同じである。
本明細書の記載及び請求の範囲の全体を通して、特に断りがない限り、「含む」及び「含有する」並びにそれらのバリエーションは、「限定的にではなく、包含する」という意味であり、他の成分を除外することを意味するものではない。
【0098】
本発明の上記態様の変更は、本発明の範囲内で行うことができることは理解されるであろう。本明細書中に開示された各特徴事項は、特に断りがない限り、同一、同等又は類似の目的のために役立つ代替的な特徴事項に置き換えることができる。従って、特に断りがなければ、開示された各特徴事項は、一般的な一連の同等の又は類似の特徴事項の一例にすぎない。
【0099】
本明細書に開示された全ての特徴事項は、そのような特徴事項及び/又は工程の少なくともいくつかが相互に排他的であるような組み合わせを除けば、どのように組み合わせてもよい。特に、本発明の好ましい特徴事項は、本発明の全ての側面に適用可能であり、そしてどのような組み合わせで用いてもよい。同様に、非本質的な組み合わせに記載された特徴事項は別個に(一体にすることなく)用いることができる。
【0100】
上記の特徴事項の多く、特に好ましい態様の多くは、それ自体に発明性があり、本発明の態様の単なる一部にすぎないということはない。現在特許請求されている発明に加えて又はその代わりに、該特徴事項に対して独立した保護を求めてよい。
【0101】
本発明を次の実施例によって更にに説明する。該実施例中、部及びパーセントは特に断りのない限り重量基準である。実施例は、本発明を例示したのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0102】
実施例1
(i)ピラゾール化合物の合成
下記化合物の製造:
【0103】
【化15】

エステル形成
攪拌したメチル化されたスピリット 74OP(100ml)に、5分間かけて、濃硫酸(13.5g;0.13mol)を滴下して加え、ついで、30℃を下回る温度まで冷却した。メチルヒドラジン(11.51g;0.25mol)を60℃を下回る温度で10分間かけて滴下して加え、ついで、混合物を25℃まで冷却し、続いて、ジエチルオキサロ酢酸ナトリウム塩(60.84g;0.275mol)を加えた。2時間攪拌した後、温度を上昇させて、還流し、3時間維持し、冷却し、ついで、濾過した。濾液を蒸発させ、生ずる残渣を水と攪拌した。生成物を濾過し、水で洗浄してから、水より再結晶すると、オフホワイト色の固体(22.84g:53%;質量スペクトル(M―H)−ve 169)が得られた。
【0104】
エステル加水分解
生成したエステル(20.00g:0.11mol)は、水酸化ナトリウムペレットを加えることにより、ほぼpH13に調節した水(100ml)中で攪拌した。室温で合計5時間攪拌した後、2N 塩酸を加えることにより、pHをpH 1に調節し、沈殿を濾過した。生じた固体をアセトンと攪拌し、濾過し、乾燥すると、オフホワイト色の固体(9.20g:59%;質量スペクトル(M―H)−ve 141)が得られた。
【0105】
(ii)染料化合物の製造
【0106】
【化16】

段階(A)‐-第1のカップリング及び段階(B)‐第2のカップリング
国際公開第03/106572(14頁)の実施例2の段階(A)及び(B)に記載された方法に従い、以下の中間体化合物(すなわち、黒色固体,λmax=584nm)を製造した。
【0107】
【化17】

段階(C)‐第3のカップリング
上記固体の溶液(0.10mol)を水中で攪拌し、亜硝酸ナトリウム(1.68g;0.024mol)を加えた。濃塩酸(10ml)を入れた攪拌氷/水の中に、0〜10℃で5分かけて溶液を滴下した。2時間攪拌した後、スルファミン酸を加えることにより、過剰の亜硝酸を分解させた。生じたジアゾニウムは、ついで、3-カルボキシ-5-ヒドロキシ-1-メチルピラゾール(1.70g;0.012mol)の攪拌溶液に、0〜10℃及びpH6〜8で5分かけて滴下した。一晩攪拌した後、生成物は、塩化リチウムで塩析し、濾過し、ついで、塩化リチウム溶液で洗浄した。湿潤したペーストをpH9で水に溶解させ、Visking(商標)チュービング(<30μScm-1)を使用して透析し、ついで、フィルターのカスケード(GF/F、0.45μmナイロン)に通じてふるい分けを実施した。生じた溶液をオーブン内で乾燥させると標題化合物の赤みがかった黒色固体が得られた(6.52g:70%:εmax 66.679;λmax(H2O) 579nm、質量スペクトル(M−H)‐ve- 900)。
【0108】
実施例2〜22
実施例1と類似の方法を使用して、表1の第2欄に示された化合物を製造した。C欄に列挙された化合物は、3-カルボキシ-5-ヒドロキシ-1-メチルピラゾールの代わりに使用した。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
【表5】

【0114】
【表6】

【0115】
【表7】


実施例23-インク配合物
染料が上記実施例1〜22の染料化合物(又は2種類以上の染料化合物の混合物)である下記の配合に従い、インクを調製することができる。
【0116】
2-ピロリドン 5部
チオジグリコール 5部
Surfynol TM 465 1部(Air Products Inc.,USA)
染料 3部
水 86部
実施例24‐更なるインク配合物
第1欄中に記載する染料が、それと同一の番号を有する上記実施例において製造される染料である表2及び表3中に記載された更なるインクも調製することができる。第2欄中に引用された数字は、当該成分の部数を称し、全ての部は、重量部である。インクは、熱インクジェット印刷又は圧電インクジェット印刷により本明細書中に記載するような紙又はその他の支持体に塗布することができる。
【0117】
表2及び表3において、以下の略号を使用する:
PG =プロピレングリコール
DEG =ジエチレングリコール
NMP =N-メチルピロリドン
DMK =ジメチルケトン
IPA =イソプロパノール
MEOH =メタノール
2P =2-ピロリドン
MIBK =メチルイソブチルケトン
P12 =プロパン-1,2-ジオール
BDL =ブタン-2,3-ジオール
CET =臭化セチルアンモニウム
PHO =Na2HPO4及び
TBT =第3級ブタノール
TDG =チオジグリコール
【0118】
【表8】

【0119】
【表9】

実施例25−緩衝インク配合物
染料が上記実施例1〜22の染料化合物(又は2つ以上の染料化合物の混合物)である下記の配合に従い、インクを調製することができる。
【0120】
2-ピロリドン 5部
プロピレングリコール 5部
Surfynol TM 465 1部(Air Products Inc.,USA)
染料 3部
TRIS 2部
水 84部
塩基又は酸の添加によりpHを7.5に調節した。
【0121】
表4及び表5中に記載の更なるインク類を調製することができる。該表中、第1欄に記載する染料は、それと同一の番号を有する上記実施例において製造された染料である。第2欄に引用された数字は、当該成分の部数を示し、全ての部は、重量部である。pHは、塩基又は酸の添加により、表示の値に調節することができる。インクは、インクジェット印刷、例えば、熱インクジェット印刷又は圧電インクジェット印刷により、紙又はその他の支持体に使用することができる。
【0122】
以下の追加の略号を表4及び表5において使用するが、全てのその他の略号は、表2及び表3において使用した通りである。
BIS-TRIS PROPANE = 1,3-ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン
TES = N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸
MES = 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸
HEPES = N-(2-ヒドロキシメチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)
MOBS = 4-(N-モルホリノ)ブタンスルホン酸
DIPSO =3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸
TRIS = トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
ADA = N-(2-アセトアミド)-2-イミノ二酢酸
TRICINE = N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン
HEPPSO =N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸
DEAS = N,N-ジエチルアントラニル酸
PHO = NaH2PO4
【0123】
【表10】

【0124】
【表11】


実施例26〜39プリント試験実施例
実施例23に記載したようにして、インクを調製し、Canon i965プリンターを使用し、種々の支持体(紙類)上にインクジェット印刷した。20nmスペクトル間隔でスペクトル範囲400〜700nmを有する0°/45°の測定ジオメトリーを有するGretag Spectrolino Spectrodensitometer (商標)を使用し、2°(CIE)観測装置角度とステータス2の濃度操作とを有する光源 D65を使用し、各プリント(A、B、L、Croma(C)及び色相(H))のCIE色座標を測定した。10mm×10mmより大きい寸法を有するプリント上の固体カラーブロックを横切るように対角線上に2個以上の測定点を取った。
【0125】
上記実施例2、3、10、13及び19からの染料は、インク類を調製するために使用した。
本発明の染料化合物を含有するインク以外に、比較のために、本発明の範囲内にない染料化合物を含有するインクも又は調製した(“比較染料”)。各比較染料中、ピラゾリル基が、ピラゾリル環の窒素原子に結合した芳香族基を有する。比較染料は、以下の通りであった。
【0126】
【化18】

光学密度
得られたプリントの光学密度(OD)特性を表6に示す。ここで、インクを調製するために使用される染料化合物の実施例番号は、第2欄に示す。結果は、本発明の化合物を支持体とするインクが良好な光学密度を示すことを実証している。
【0127】
使用した支持体は、以下の参照符号により、表6、7及び8に示す。
【0128】
【表12】

耐光堅牢度
耐光堅牢度を評価するために、上記のプリントを、Atlas Ci5000 Weatherometer(商標)中で100時間照射した。結果は、表7に示。ここで、インクを調製するために使用した染料の実施例番号は、第2欄に示す。光に暴露後の褪色の度合いは、光学密度(OD)における%喪失として表す。光学密度における%喪失が小さいほど、耐光堅牢度は高い。結果は、本発明の化合物を支持体とするインクが良好な耐光堅牢度を示すことを実証している。
【0129】
【表13】

耐オゾン堅牢度
耐オゾン堅牢度を評価するために、上記の印刷された支持体を、Hampden Test Equipmentからのオゾン試験キャビネットを使用して評価した。試験は、1ppmのオゾンの存在中、40℃及び50%相対湿度で48時間又は96時間行った。褪色の度合いは、ΔEとして表され、ここで、数値が低いほど、耐オゾン堅牢度が高いことを示し、ΔEは、プリントのCIE色座標L、A、Bにおける合計の変化として定義され、式ΔE=(ΔL2+ΔA2+ΔB2)0.5により表される。結果は、表8に示す。ここで、インクを調製するために使用した染料の実施例番号は、第2欄に示す。これらの結果は、明らかに、本発明の化合物を支持体とするインクが良好な耐オゾン堅牢度を示すことを実証している。
【0130】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

[式中、Aは、任意的に置換されてよいアリール、ヘテロアリール、非芳香族ヘテロ環式又はアルケニル基であり;
Dは、任意的に置換されてよく、任意的に金属化されてよい1,8-ジヒドロキシナフタレン基であり;
Bは、任意的に置換されてよい有機結合基であり;
A’は、ピラゾリル環の窒素原子のいずれか一方に直接結合した置換基として芳香族基を有しない、任意的に置換されてよいピラゾリル基である。]
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
Aが、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチルである、請求項1に記載の化合物又は塩。
【請求項3】
Aが、少なくとも1つのスルホ基を有する、請求項1又は2に記載の化合物又は塩。
【請求項4】
Dが、式(3):
【化2】

[式中、aは、1又は2である。]
で表される化合物又はその金属錯体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物又は塩。
【請求項5】
Dが金属化されていない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物又は塩。
【請求項6】
Bが、式(7):
【化3】

[式中、L1は、共有単結合、又は、任意的に置換されてよいフェニレン若しくはナフチレン基であり;
L2は、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基であり;
Gは、-O-、-NR2-、-N=N-、-NR2-CO-、-NR2CONR2-、-S-、-SO-、-SO2-、-SO2NR2-又は-CR2=CR2-であり、ここで、各R2は、独立に、H又はC1-4アルキルであり;
xは、0、1又は2である。]
を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物又は塩。
【請求項7】
Bが、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基である、請求項6に記載の化合物又は塩。
【請求項8】
Bが、少なくとも1つのスルホ基を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物又は塩。
【請求項9】
A’が、式(8a)、(8b)又は(8c):
【化4】

[式中、R3、又は、2つのR3基が存在する場合に独立に各R3は、H、任意的に置換されてよいアルキル、シアノ、-COOR1、-CONR1NR2又は-COR1であり;
R4は、H、任意的に置換されてよいアルキル、任意的に置換されてよいアルコキシ、任意的に置換されてよいアリール、任意的に置換されてよいヘテロアリール、任意的に置換されてよいアリールオキシ、任意的に置換されてよいアミノ、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、ホスファト、-COOR1、-OCOOR1、-OCOR1、-COR1、-CONR1R2、-OCONR1R2、-SR1、-SO2NR1R2又は-SO2R1であり;
R1及びR2は、各々、独立に、H又はC1-4アルキルである。]
で表されるピラゾリル基である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物又は塩。
【請求項10】
R3、又は、2つのR3基が存在する場合に独立に各R3が、H、又は、任意的に置換されてよいC1-4アルキルである、請求項9に記載の化合物又は塩。
【請求項11】
R4が、H、任意的に置換されてよいC1-4アルキル、COOH又はCONH2である、請求項9又は10に記載の化合物又は塩。
【請求項12】
Aが、任意的に置換されてよいフェニル、ナフチル、ピリジル又はピラゾリルであり;
Dが、式(3):
【化5】

[式中、aは、1又は2である。]
で表される基、又はその金属錯体であり;
Bが、式(7):
【化6】

[式中、L1は、共有単結合、又は、任意的に置換されてよいフェニレン若しくはナフチレン基であり;
L2は、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基であり;
Gは、-O-、-NR2-、-N=N-、-NR2-CO-、-NR2CONR2-、-S-、-SO-、-SO2-、-SO2NR2-又は-CR2=CR2-であり、ここで、各R2は、独立に、H又はC1-4アルキルであり;
xは、0、1又は2である。]
で表され;
A’が、式(8a)、(8b)又は(8c):
【化7】

[式中、R3、又は、2つのR3基が存在する場合に独立に各R3は、H、任意的に置換されてよいアルキル、シアノ、-COOR1、又は-COR1であり;
R4は、H、任意的に置換されてよいアルキル、任意的に置換されてよいアルコキシ、任意的に置換されてよいアリール、任意的に置換されてよいヘテロアリール、任意的に置換されてよいアリールオキシ、任意的に置換されてよいアミノ、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、ホスファト、-COOR1、-OCOOR1、-OCOR1、-COR1、-CONR1R2、-OCONR1R2、-SR1、-SO2NR1R2又は-SO2R1であり、ここで、R1及びR2は、各々、独立に、H又はC1-4アルキルである。]
で表されるピラゾリル基である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項13】
Aが、任意的に置換されてよいフェニル又はナフチルであり;
Dが、式(4):
【化8】

で表される基、又はその金属錯体であり;
Bが、任意的に置換されてよいフェニレン又はナフチレン基であり;
A’が、式(8a):
【化9】

[式中、R3は、H、又は、任意的に置換されてよいC1-4アルキルであり;
R4は、H、任意的に置換されてよいC1-4アルキル、COOH又はCONH2である。]
で表されるピラゾリル基である、請求項12に記載の化合物又は塩。
【請求項14】
式(9):
【化10】

[式中、R5及びR6は、独立に、H、任意的に置換されてよいアルキル、任意的に置換されてよいアルコキシ、任意的に置換されてよいアリール、任意的に置換されてよいヘテロアリール、任意的に置換されてよいアリールオキシ、任意的に置換されてよいアミノ、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、ホスファト、アリールアゾ、-COOR1、-OCOOR1、-OCOR1、-COR1、-CONR1R2、-OCONR1R2、-SR1、-SO2NR1R2及びSO2R1から選択され、R1及びR2は、各々、独立に、H又はC1-4アルキルである。]
で表される化合物又はその塩である、請求項13に記載の化合物又は塩。
【請求項15】
式(10):
【化11】

で表される化合物又はその塩である、請求項14に記載の化合物又は塩。
【請求項16】
リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムもしくは置換アンモニウム塩、又はそれらの混合された塩である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の塩。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載された、本明細書の実施例1〜22のいずれか1項に記載の化合物又は塩。
【請求項18】
(a) 式(1):
【化12】

[式中、Aは、任意的に置換されてよいアリール、ヘテロアリール、非芳香族ヘテロ環式又はアルケニル基であり;
Dは、任意的に置換さてよく、任意的に金属化されてよい1,8-ジヒドロキシナフタレン基であり;
Bは、任意的に置換されてよい有機結合基であり;
A’は、ピラゾリル環の窒素原子のいずれか一方に直接結合した置換基として芳香族基を有しない、任意的に置換されてよいピラゾリル基である。]
で表される化合物又はその塩 0.01〜30部;及び、
(b) 液体媒体又は低融点固体媒体 70〜99.99部を含み、
全ての部は重量部であり、且つ、部の数に関し(a)+(b)=100であることを特徴とする、組成物。
【請求項19】
液体媒体が水及び有機溶剤を含み、且つ、組成物がインクジェット印刷インクとして使用される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
支持体に画像を印刷するための方法であって、式(1):
【化13】

[式中、Aは、任意的に置換されてよいアリール、ヘテロアリール、非芳香族ヘテロ環式又はアルケニル基であり;
Dは、任意的に置換されてよく、任意的に金属化されてよい1,8-ジヒドロキシナフタレン基であり;
Bは、任意的に置換されてよい有機結合基であり;
A’は、ピラゾリル環の窒素原子のいずれか一方に直接結合した置換基として芳香族基を有しない、任意的に置換されてよいピラゾリル基である。]
で表される化合物又はその塩及び液体媒体を含む組成物を支持体に塗布することを含む方法。
【請求項21】
組成物がインクジェットプリンターにより塗布される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項20若しくは21に記載の方法により、又は、請求項18若しくは19に記載の組成物を用いて印刷される支持体。
【請求項23】
任意的に再充填可能なインクジェットプリンターカートリッジであって、1個以上のチャンバー及び組成物を含み、該組成物がチャンバの少なくとも1個に存在し、かつ、該組成物が請求項18又は19に記載の組成物である、カートリッジ。
【請求項24】
少なくともブラックインク、マゼンタインク、シアンインク及びイエローインクを含み、該ブラックインクが、請求項1〜17のいずれか1項に記載の化合物又は塩を含む、インクセット。

【公表番号】特表2010−506990(P2010−506990A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532880(P2009−532880)
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003586
【国際公開番号】WO2008/047071
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(506139635)フジフィルム・イメイジング・カラランツ・リミテッド (75)
【Fターム(参考)】