説明

ピリジニウム骨格を含む有機物を配位子とする配位高分子を用いた炭化水素の分離方法

【課題】メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との分離方法の提供。
【解決手段】式(1)で示される配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下におけるメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との各々に対する保持能力の差異に基づき分離する。


[式中、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジニウム骨格を含む有機物を配位子とする配位高分子を用いたメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との分離方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着した炭化水素分子を容易に脱着することが可能な吸着剤となりうる配位高分子化合物として、例えば、ピリジニウム骨格を含む有機物を配位子とする配位高分子が知られている。そして、当該化合物を吸着剤として用いる工業的に有用なガス(具体的には、メチルアセチレンなどの炭化水素等)の貯蔵方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−189509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の貯蔵方法は、特定の炭化水素ガス吸着剤の1種類と、特定の吸着させる炭化水素ガスの1種類との組み合わせに依存した吸着特性に基づく技術である。
しかしながら、このような技術では、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む気体の中から、メチルアセチレンまたはメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素を区別して回収することは必ずしも容易なことではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況下において鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
1.メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との分離方法であって、
(1)下記一般式(1)
【0006】
【化1】

[一般式(1)中、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示す。]
で示される配位子(以下、本配位子と記すこともある。)と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する本配位高分子(以下、本配位高分子と記すこともある。)に、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを同時に接触させる第一工程、および、
(2)前記メチルアセチレンと前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを、前記本配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異に基づき分離する第二工程、
を含むことを特徴とする分離方法(以下、本発明分離方法と記すこともある。);
2.X、X、X、X、XおよびXが、水素原子であることを特徴とする前項1記載の分離方法;
3.前記金属イオンが、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属の二価イオンであることを特徴とする前項1または2項記載の分離方法;
4.前記金属イオンが、Cu2+またはZn2+であることを特徴とする前項1〜3のいずれかの前項記載の分離方法;
5.前記配位高分子が、配位子として、前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)以外の第2の配位子を有し、[前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)]:[金属イオン]で表されるモル比が、1:1〜1:3の範囲であり、かつ、[前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)]:[第2の配位子で表されるモル比が、1:1〜1:3の範囲であることを特徴とする前項1〜4のいずれかの前項記載の分離方法;
6.前記第2の配位子が、下記化学式(2)
【0007】
【化2】

で示される配位子であり、前記ピラードレイヤー構造が、前記化学式(2)で示される配位子と前記金属イオンとを含むレイヤー部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の分離方法;
7.前記メチルアセチレンまたは前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、前記気体以外の他の気体との混合状態にある気体であることを特徴とする前項1〜6のいずれかの前項記載の分離方法;
8.前項1〜7のいずれかの前項記載の分離方法により分離されたメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とのうち、少なくとも一方の気体を他方の気体と区別して回収する工程を含むことを特徴とするメチルアセチレンまたはメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素の取得方法(以下、本発明取得方法と記すこともある。);
9.前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロパジエンであることを特徴とする前項1〜8のいずれかの前項記載の分離方法;
10.前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロピレンであることを特徴とする前項1〜8のいずれかの前項記載の分離方法;
11.構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体における前記の気体成分の混合比を変化させる方法であって、
(1)下記一般式(1)
【0008】
【化3】

[一般式(1)中、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示す。]
で示される配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子に、構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体を接触させる第一工程、および、
(2)前記混合気体における前記の気体成分の混合比を、前記配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異に基づき変化させる第二工程、
を含むことを特徴とする方法;
12.前項11記載の方法により、構成する気体成分の混合比が改変された混合気体を回収する工程を含むことを特徴とする改質された混合気体の取得方法;
等を提供するものである。
13.前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロパジエンであることを特徴とする前項11または12記載の分離方法。
14.前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロピレンであることを特徴とする前項11または12記載の分離方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ピリジニウム骨格を含む有機物を配位子とする配位高分子を用いたメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との分離方法等が提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の一例におけるピラードレイヤー構造を示す模式図である。
【図2】実施例1で合成された化合物Aの粉末X線回折パターンである。
【図3】実施例1で合成された化合物Aの熱重量分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本配位高分子は、本配位子と金属イオンとが配位結合またはイオン結合を介して連続的に繋がることで繰り返し構造を形成している金属錯体である。特に、本実施形態に係る本配位高分子は、本配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を形成している。図1は本配位高分子のピラードレイヤー構造を示す模式図である。図1に示すピラードレイヤー構造5は、互いに間隔を空けて積層された複数のレイヤー部1と、隣り合うレイヤー部1同士を架橋する第2の配位子とを有する多層構造である。レイヤー部1同士を架橋する配位子は、主として本配位子である。レイヤー部1同士を架橋する配位子は、レイヤー部1を構成する金属イオンに配位結合している。
【0013】
一般式(1)において、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表す。X、X、X、X、XおよびXのハロゲン原子は、弗素原子、塩素原子、臭素原子または沃素原子であり、好ましくは弗素原子または塩素原子である。また、末端ピリジル基の配位力が強く、安定な多孔性構造を形成しやすいという理由で、本配位子のXおよびXのいずれかが水素原子またはメチル基であることが好ましい。同じ理由で、XおよびXのいずれかが水素原子またはメチル基であることが好ましい。X、X、XおよびXは、より好ましくは水素原子である。その中でも特に、下記式(1−1)で示される本配位子(即ち、X、X、X、X、XおよびXが、水素原子である。)が好ましい。
【0014】
本配位子の具体例としては、下記式(1−1)〜(1−40)でそれぞれ示される本配位子が例示される。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
レイヤー部1は、主として、金属イオンとこれに結合する本配位子とから構成される。
【0018】
本配位高分子に含まれる金属イオンは、各種典型金属および各種遷移金属のイオンから選択され得る。金属の入手性や本配位高分子の製造の容易さから、好ましいイオンを選択することができる。具体的には、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属の二価イオンが好ましく、Cu2+およびZn2+がさらに好ましい。
【0019】
レイヤー部1を形成する本配位子は、レイヤー部1同士を架橋する第2の配位子と同一でも異なっていてもよく、金属イオンとともにレイヤー部1を形成可能なものから任意に選択される。ピラードレイヤー構造を形成している本配位高分子としては、多様な二次元レイヤー構造のレイヤー部1を有する本配位高分子が報告されている。それらいずれの二次元レイヤー構造であっても、本配位子との組合せによりピラードレイヤー構造が形成されることが期待される。
【0020】
本配位高分子が、配位子として、前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)以外の第2の配位子を有し、[前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)]:[金属イオン]で表されるモル比として、例えば、1:1〜1:3の範囲であり、かつ、[前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)]:[第2の配位子で表されるモル比が、例えば、1:1〜1:3の範囲であることを挙げることができる。好ましくは、[前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)]:[金属イオン]で表されるモル比として、例えば、1:1.9〜1:2.1の範囲であり、かつ、[前記一般式(1)で示される配位子(即ち、本配位子)]:[第2の配位子で表されるモル比が、例えば、1:1.9〜1:2.1の範囲であることが挙げられる。
前記第2の配位子の好適な具体例としては、下記化学式(2)で示される配位子(以下、pzdcと記すこともある。)等を挙げることができる。
【0021】
【化6】

【0022】
本配位高分子は、金属塩と一般式(1)で示される構造を部分構造として含む化合物とを溶媒中で混合する工程を備える製造方法により得ればよい。金属塩および上記化合物が溶媒を含む反応液中で反応し、本配位高分子が生成される。反応液は、必要に応じて他の有機物や無機物を含んでいてもよい。
【0023】
金属塩としては金属イオンを含む各種化合物が使用可能である。例えば、各金属の弗化物、塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩、これら金属塩の水和物またはそれらの混合物が金属塩として用いられる。本配位高分子の原料として特に好ましい金属塩としては、硝酸塩、硫酸塩および過塩素酸塩ならびにこれらの水和物が例示される。具体的には、硝酸銅、硫酸銅、過塩素酸銅および硝酸亜鉛ならびにこれらの水和物が例示される。
【0024】
一般式(1)で示される構造を部分構造として含む化合物の合成に関する参考文献としては、例えば、下記の特許文献2、非特許文献1および非特許文献2等を挙げることができる。特に、式(1−1)で示される構造を部分構造として含む化合物の合成法に関しては、例えば、非特許文献1および非特許文献2に記載されている。
特許文献2:特開2003−128654号公報
非特許文献1:「Liebigs Ann.Chem.」、1979年、727−742頁。
非特許文献2:「Helv.Chim.Acta」、2005年、88巻、3200−3209頁。
【0025】
一般式(1)で示される構造を部分構造として含む化合物は、一般に、何らかのカウンターアニオンを有する有機塩である。一般式(1)で示される構造を部分構造として含む化合物の合成時にアニオン交換を実施する必要が無いという理由から、弗化物、塩化物、臭化物が好ましい。これらハロゲン化物の合成過程または合成後にイオン交換を行うことにより、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩を合成し、これらを本配位高分子の製造に用いることができる。
【0026】
pzdcを含む本配位高分子は、金属塩、pzdcの塩(以下、pzdcAと記すこともある。)および一般式(1)で示される構造を部分構造として含む化合物を溶媒中で混合する方法によって製造することができる。
【0027】
pzdcAを構成するカウンターカチオンは、例えば、アルカリ金属イオン、NH、NHの水素原子が炭化水素基で置換されたアンモニウムイオンおよびPHの水素原子が炭化水素基で置換されたホスホニウムイオンから選ぶことが可能である。具体例としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンまたはそれらの組合せ等を挙げることができる。好ましくは、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンまたはテトラブチルアンモニウムイオン等を挙げることができる。
【0028】
pzdcAは、ピラジン−2,3−ジカルボン酸(以下、pzdcHと記すこともある。)と対応するカウンターカチオンの水酸化物との反応によって生じさせることができる。また、異なるカウンターカチオンを有するピラジン−2,3−ジカルボン酸の塩を原料として用い、イオン交換によってpzdcAを得ることもできる。通常、pzdcAを生じさせる反応は、上記のどちらの方法を採用した場合でも溶媒中で実施される。このため、本配位高分子の製造に用いる溶媒中でpzdcAを生じさせることにより、pzdcAを単離することなく本配位高分子の製造に用いることが可能である。
【0029】
本配位高分子の製造において、多様な液体を溶媒として用いることが可能であるが、極性が高い溶媒および金属イオンへの配位能力が高い溶媒が好ましい。具体的には、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドからなる群より選ばれる1種または2種以上の溶媒等を挙げることができる。
【0030】
通常、生成した本配位高分子は沈殿物として反応液中に析出する。生じた本配位高分子の沈澱を濾過で捕集した後、製造時と同じ組成の溶媒、または製造時の溶媒よりも揮発性が高くかつ本配位高分子が分解しない溶媒のいずれかを少量用いて洗浄し、その後乾燥させる。
【0031】
本配位高分子は、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体からの、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との分離、並びに、分離されたメチルアセチレンまたはメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素の取得のための気体分離・精製剤を構成する成分として利用することができる。ここで、メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素としては、プロパン、プロピレン、プロパジエンがあげられ、好ましくは、プロピレン、プロパジエンである。メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素は、2種以上を含んでいてもよい。また、かかる気体分離・精製剤は、上述の本配位高分子を1種または2種以上含んでいればよい。気体分離・精製剤の重量または体積あたりの最大処理量に注目するのであれば、気体分離・精製に直接的に寄与する本配位高分子の割合がより高いことが好ましいが、気体分離・精製剤に物理的な強度を求める場合等は、必要に応じて成型剤を混入させても構わない。
【0032】
実施形態の一例における気体分離・精製剤は、粉末状であってもよいし、本配位高分子またはこれを含む混合物を何らかの手法により成型して得られる、本配位高分子を含む成型品であってもよい。成型の手法としてはプレス成型が例示される。気体分離・精製剤としての成型品の形状は、気体分離・精製剤に要求される強度を維持できるような形状であることが望ましい。また、処理速度を向上させるためには、成型品の表面積が大きいことが好ましい。
【0033】
メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とが分離する機構は、明らかではないが、本発明者らは次のように推定する。メチルアセチレンが有する末端アルキンの水素原子は、プロパジエンなどのメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素がもつ水素原子と比べて、酸性が高いことが知られており、特定の配位高分子においては、メチルアセチレンと配位高分子との相互作用が、メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素と配位高分子との相互作用と比較して強いことに起因していると考えられる。
【0034】
本発明分離方法は、(1)本配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する本配位高分子に、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを同時に接触させる第一工程、および、(2)前記メチルアセチレンと前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを、前記本配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異に基づき分離する第二工程、を含む。
【0035】
第一工程において、「本配位高分子にメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを同時に接触させる」には、例えば、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との両者が予め混合された状態である混合気体を本配位高分子に接触させてもよいし、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを別々に同時供給することにより本配位高分子に接触させてもよい。
また、前記メチルアセチレンまたは前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、前記気体以外の他の気体との混合状態にある気体であってもよい。他の気体としては、例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、ネオン、アルゴン及び炭素原子数が2以下である炭化水素等を挙げることができる。炭素原子数が2以下である炭化水素として具体的には、例えば、メタン、エタン、エチレン等が挙げられる。また、前記の他の気体が、例えば、ブタン、ブテン、イソブテン、エチルアセチレン、ジメチルアセチレン等の炭素原子数が4以上である炭化水素等である場合には、その存在量は低いことが好ましい。特に好ましい存在量としては、例えば、1容積%未満等を挙げることができる。
【0036】
第二工程において、「圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異」は、本配位高分子が有するメチルアセチレンに対する保持能力と本配位高分子が有するメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素に対する保持能力との差異を意味する。圧力および温度の同一条件下における、メチルアセチレンに対する保持能力とメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素に対する保持能力との比は、本配位高分子が有するメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との間での分離能力の程度を示す指標の一つとして用いることができる。
【0037】
本発明は、本発明分離方法により分離されたメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とのうち、少なくとも一方の気体を他方の気体と区別して回収する工程を含むことを特徴とするメチルアセチレンまたはメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素の取得方法(即ち、本発明取得方法)も含む。
本発明取得方法において「少なくとも一方の気体を他方の気体と区別して回収する」は、特に制限はないが、例えば、通常の気体の捕集・回収方法等を用いればよい。
【0038】
本発明は、構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体における前記の気体成分の混合比を変化させる方法や、改質された混合気体の取得方法も含む。
構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体における前記の気体成分の混合比を変化させる方法は、
(1)下記一般式(1)
【0039】
【化7】

[一般式(1)中、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示す。]
で示される配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子に、構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体を接触させる第一工程、および、
(2)前記混合気体における前記の気体成分の混合比を、前記配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異に基づき変化させる第二工程、
を含む。
また、改質された混合気体の取得方法は、上記方法(即ち、気体成分混合比の変化方法)により、構成する気体成分の混合比が改変された混合気体を回収する工程を含む。
【0040】
これらの2つの方法において処理される混合気体は、メチルアセチレンおよびメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素以外の他の気体との混合状態にある気体であってもよい。他の気体としては、例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、ネオン、アルゴン及び炭素原子数が2以下である炭化水素等を挙げることができる。炭素原子数が2以下である炭化水素として具体的には、例えば、メタン、エタン、エチレン等が挙げられる。また、前記の他の気体が、例えば、ブタン、ブテン、イソブテン、エチルアセチレン、ジメチルアセチレン等の炭素原子数が4以上である炭化水素等である場合には、その存在量は低いことが好ましい。特に好ましい存在量としては、例えば、1容積%未満等を挙げることができる。
【0041】
尚、これらの2つの方法における各工程での操作は、本発明分離方法および本発明取得方法における各工程での操作と同等またはそれに準じたものであり、本発明分離方法および本発明取得方法における上述の説明に従い、実施すればよい。
【0042】
実施形態の一例における気体分離・精製装置は、気体入り口および出口を有する閉塞容器と、当該閉塞容器の内に充填された気体分離・精製剤とを備える。
【0043】
気体分離・精製装置に備えられた閉塞容器は、耐圧容器であることが好ましい。また、気体分離・精製装置内部の状況を把握するためには圧力計や温度計を設けることが好ましい。
【0044】
本配位高分子もしくは気体分離・精製剤により処理された気体は、取り出し側の圧力を気体分離・精製装置の内部の圧力に対し相対的に低圧にすることによって、取り出すことができる。気体を連続的に取り出すには、ポンプの使用等によって取り出し側を低圧にする手法等で行うことが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1](本配位高分子の調製)
336mgのpzdcHと160mgのNaOHとを水75mLに溶かした。そこに、540mgの式(1−1)で示されるイオンの塩化物を150mLのエタノールに溶かした溶液を加えた。
次いで、水75mLとエタノール150mLの混合溶液に483mgの硝酸銅・三水和物を溶かした溶液を滴下した。20時間攪拌した後、生じた沈澱物を濾過で捕集し、エタノールで洗浄した。捕集した沈殿物を120℃で加熱しながら真空乾燥して、721mgの本配位高分子(以下、化合物Aと記すこともある。)を得た。化合物Aの構造および組成の評価を、試料を大気下に暴露した後に評価を行った。
【0047】
粉末X線回折装置(リガク社製、商品名:RINT−2500V)を用いて室温で粉末X線回折測定を実施し、化合物Aの構造を解析した。その結果、下記非特許文献3に記載されている化合物とよく似た構造、即ちCu2+とpzdcとから構成されるレイヤー部が式(1−1)で示される構造の本配位子(以下、L1と記すこともある。)によって架橋された、図1に示したような多層構造が形成されていることが示唆された。原料由来のカウンターアニオンは、層間の空隙内に存在しているものと考えられる。
非特許文献3:「Angew.Chem.Int.Ed.」、2002年、41巻、133−135頁
【0048】
図3は、化合物Aの熱重量分析の結果を示す図である。図3に示されるように、大気への暴露によって細孔中に取込まれた水分子の脱離に伴う、なだらかな重量減少(減少率:14.7質量%)が室温から120℃の間に確認された。さらに、200℃〜220℃の温度領域で本配位高分子の構造崩壊を示す重量減少が確認された。
【0049】
化合物Aの元素分析の結果(C:36.4%、H:3.44%、N:12.25%、Cl:<0.2%)は、化合物Aを大気へ暴露した試料の組成が{[Cu(pzdc)(L1)](NO)・7.5(HO)}で表されることを示唆した。これは熱重量分析の結果と矛盾しない結果である。
【0050】
[実施例2](本配位高分子が有するメチルアセチレンに対する保持能力と本配位高分子が有するプロパジエンに対する保持能力との差異の確認)
化合物Aを120℃で15時間、加熱しながら真空乾燥した。その後、メチルアセチレン保持能力およびプロパジエン保持能力を、市販の物理化学特性測定装置(カンタクローム社製オートソーブ1)を使用して、−5℃にて、絶対圧として約40kPa〜約80kPaの範囲で測定した(以下、圧力の表記は絶対圧で示す)。
測定に使用した気体:
(1)メチルアセチレン(Aldrich、製品番号:295493)
(2)プロパジエン(SynQuest、製品番号:1300−1−03)
【0051】
化合物Aのメチルアセチレン保持能力の測定では、測定圧力が高まるのに伴いメチルアセチレンの保持量が増加した。化合物A1gあたりのメチルアセチレン保持量は、41kPaのとき12mgであり、50kPaのとき18mgであった。また、60kPaのとき156mgであり、80kPaのとき169mgであった。
【0052】
一方、プロパジエン保持能力の測定では、測定圧力を高めてもプロパジエンの保持量はほとんど増加せず、測定圧力範囲の全領域で、2mg未満であった。
【0053】
これらの測定結果から、化合物Aが有するメチルアセチレン保持量の、プロパジエン保持量に対する比は大きいこと、即ち、化合物Aのメチルアセチレン保持能力が、プロパジエン保持能力と比べて著しく高いこと、が明らかとなった。つまり、化合物Aがメチルアセチレンとプロパジエンとの分離・精製剤として高い能力を有することが確認された。
【0054】
[実施例3](本発明の好適な実施形態の一例)
構成する気体成分としてメチルアセチレンとプロパジエンとを含む混合気体(混合比は1:1)における前記の気体成分の混合比を変化させるために、実施例2で優れた効果が確認された温度(−5℃)および圧力(メチルアセチレンの分圧として60〜80kPa、全圧として120kPa〜160kPa)で、化合物Aを含む気体分離・精製剤に前記混合気体を通気接触させる。
【0055】
化合物Aが前記混合気体に含まれるメチルアセチレンを保持する一方で、プロパジエンを保持しないことから、化合物Aに通気接触された前記混合気体の中のメチルアセチレンの分圧が減少し、その結果、前記混合気体におけるメチルアセチレンとプロパジエンとの混合比が変化し、プロパジエンの比率が高められた気体が流出する。この気体を回収することにより、プロパジエンの比率が高められた気体を取得する。
【0056】
その後、前記化合物Aを含む分離・精製剤を減圧下にすることで、前記化合物Aを含む分離・精製剤が保持しているメチルアセチレンを回収することで、メチルアセチレンの比率が高められた気体を取得する。
【0057】
以上の結果から、本発明分離方法および本発明取得方法は、メチルアセチレンとプロパジエンとの分離・精製に利用可能であることが確認された。また、構成する気体成分としてメチルアセチレンとプロパジエンとを含む混合気体における前記の気体成分の混合比を変化させる方法や、改質された混合気体(混合比を変化させた気体)の取得方法としても利用可能であることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、ピリジニウム骨格を含む有機物を配位子とする配位高分子を用いたメチルアセチレンとメチルアセチレン以外の炭素数が3である炭化水素との分離方法等が提供可能になる。
【符号の説明】
【0059】
1:レイヤー部、2:レイヤー部1同士を架橋する配位子、5:ピラードレイヤー構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素との分離方法であって、
(1)下記一般式(1)
【化1】

[一般式(1)中、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示す。]
で示される配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子に、メチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを同時に接触させる第一工程、および、
(2)前記メチルアセチレンと前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを、前記配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異に基づき分離する第二工程、
を含むことを特徴とする分離方法。
【請求項2】
、X、X、X、XおよびXが、水素原子であることを特徴とする請求項1記載の分離方法。
【請求項3】
前記金属イオンが、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属の二価イオンであることを特徴とする請求項1または2記載の分離方法。
【請求項4】
前記金属イオンが、Cu2+またはZn2+であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの請求項記載の分離方法。
【請求項5】
前記配位高分子が、配位子として、前記一般式(1)で示される配位子以外の第2の配位子を有し、[前記一般式(1)で示される配位子]:[金属イオン]で表されるモル比が、1:1〜1:3の範囲であり、かつ、[前記一般式(1)で示される配位子]:[第2の配位子]で表されるモル比が、1:1〜1:3の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの請求項記載の分離方法。
【請求項6】
前記第2の配位子が、下記化学式(2)
【化2】

で示される配位子であり、前記ピラードレイヤー構造が、前記化学式(2)の配位子と前記金属イオンとを含むレイヤー部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の分離方法。
【請求項7】
前記メチルアセチレンまたは前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、前記気体以外の他の気体との混合状態にある気体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの請求項記載の分離方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの請求項記載の分離方法により分離されたメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とのうち、少なくとも一方の気体を他方の気体と区別して回収する工程を含むことを特徴とするメチルアセチレンまたはメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素の取得方法。
【請求項9】
前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロパジエンであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの請求項記載の分離方法。
【請求項10】
前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロピレンであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの請求項記載の分離方法。
【請求項11】
構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体における前記の気体成分の混合比を変化させる方法であって、
(1)下記一般式(1)
【化3】

[一般式(1)中、X、X、X、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を示す。]
で示される配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子に、構成する気体成分としてメチルアセチレンとメチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素とを含む混合気体を接触させる第一工程、および、
(2)前記混合気体における前記の気体成分の混合比を、前記配位高分子が有する、圧力および温度の同一条件下における前記気体の各々に対する保持能力の差異に基づき変化させる第二工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法により、構成する気体成分の混合比が改変された混合気体を回収する工程を含むことを特徴とする改質された混合気体の取得方法。
【請求項13】
前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロパジエンであることを特徴とする請求項11または12記載の分離方法。
【請求項14】
前記メチルアセチレンを除く炭素原子数が3である炭化水素が、プロピレンであることを特徴とする請求項11または12記載の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−47207(P2013−47207A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145101(P2012−145101)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】