説明

ピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤

【課題】
室温条件下で長期保存しても、また加熱滅菌時にも着色がなく安定に保持されるピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤を提供すること。
【解決手段】
プラスチック容器中にピリミジン系代謝拮抗剤を含有する注射液剤を提供する。本発明において開示する注射液剤は、有効成分に影響を及ぼさず、添加した成分が安全性に影響せず、また調整工程が簡便な、室温に保存してもピリミジン系代謝拮抗剤が着色しない安定なピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリミジン系代謝拮抗剤を配合した注射液剤として、アンプルに封入した注射液剤が数多く市販されているが、薬剤溶液を注射する場合には、アンプルカット作業、注射器への薬剤溶液の吸引作業等の必要があり、アンプルカット時のガラス片の薬剤溶液への混入、あるいは外部から薬剤溶液への汚染物質の混入等の問題がおこり得る。また、海外ではバイアル製剤が主流となっているが、該製剤には加熱滅菌時および室温で保存中に黄変する性状があり、この黄変を防止する手段が製剤上望まれている。特許文献1には、メタ重亜硫酸塩、重亜硫酸塩等の抗酸化剤を、1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシル1モルに対し約0.05〜2モルイオン配合し、pH約9〜11に調整することにより、着色防止することが、特許文献2には、ホルムアルデヒドスルホキシル酸の金属塩を、1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシルの溶液に対し0.005〜5w/v%配合させ、着色防止する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、抗酸化剤の使用により気管支痙攣、アナフィラキシーショック等を引き起こすことがあり、特許文献2の方法では、ホルムアルデヒドスルホキシル酸の金属塩が医薬品添加物として認められておらず、生体に及ぼす影響を考えると、安全性の面から好ましい方法とは言い難い。
従って、安全性が高く室温に保存してもピリミジン系代謝拮抗剤が着色しない安定なピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤の開発が要望されている。
【特許文献1】特開昭52-130906号公報
【特許文献2】特開昭52-102415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、室温条件下で長期保存しても、また加熱滅菌時にも着色がなく安定に保持されるピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
プラスチック容器中にピリミジン系代謝拮抗剤を含有する注射液剤を提供する。本発明において開示する注射液剤は、有効成分に影響を及ぼさず、添加した成分が安全性に影響せず、また調整工程が簡便な、室温に保存してもピリミジン系代謝拮抗剤が着色しない安定なピリミジン系代謝拮抗剤配合注射液剤である。
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ピリミジン系代謝拮抗剤を含む液剤をプラスチック容器に封入すれば、加熱滅菌時および室温に保存しても着色しない注射液剤が得られ、かつ調製工程が簡便であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、プラスチック容器中にピリミジン系代謝拮抗剤を含有する注射液剤に関する。上記注射液剤は、pH調整剤または等張化剤を含むとより好ましい。
【0007】
また、本発明はピリミジン系代謝拮抗剤を含有する溶液をプラスチック容器中に存在させることを特徴とする該溶液の安定化法に関する。
【0008】
本発明の注射液剤に使用されるピリミジン系代謝拮抗剤は、特に限定されないが、具体例としては5-フルオロウラシル、1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシル、2’-デオキシ-5-フルオロウリジン、4-アミノ-1-アラビノフラノシル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン、5-フルオロ-N-ヘキシル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2,4-ジオキソ-1-ピリミジンカルボキサミド、5’-デオキシ-5-フルオロウリジン、N4-ベヘノイル-1-β-D-アラビノフラノシルシトシン等が挙げられる。
ピリミジン系代謝拮抗剤として特に好ましいのは、5-フルオロウラシル、1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシルである。
【0009】
プラスチック容器としては、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリエステル、ポリプロピレン、環状オレフィン系化合物または架橋多環式炭化水素化合物を重合体成分とする樹脂等からなる容器が挙げられる。
プラスチック容器として好ましいのは、ポリスチレン、ポリプロピレンを重合体成分とする樹脂等からなる容器である。
【0010】
pH調整剤としては、例えばアンモニア水、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられ、等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、果糖、クエン酸ナトリウム、グルコース、D-マンニトール等が挙げられる。
pH調整剤として好ましいのは、水酸化ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタンであり、等張化剤として好ましいのは、塩化ナトリウム、グルコースである。
【0011】
ピリミジン系代謝拮抗剤を含有する溶液としては、例えばピリミジン系代謝拮抗剤を含有する水溶液が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、室温条件下で長期保存してもピリミジン系代謝拮抗剤の分解による着色がなく安定に保持される注射液剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
プラスチック容器中にピリミジン系代謝拮抗剤を含有する注射液剤は、ピリミジン系代謝拮抗剤および必要によりpH調整剤または等張化剤を含有する溶液を、メンブランフィルター等による無菌濾過後、プラスチック容器に分注し、ゴム栓およびアルミキャップ等で密栓すること、またはブローフィルシールシステム(Blow/Fill/Seal System)を用いて一体成形のプラスチックボトル内に充填することにより得ることができる。
【0014】
プラスチック容器が、例えばプラスチックシリンジ(注射筒)で、あらかじめピリミジン系代謝拮抗剤を含有する溶液をプラスチックシリンジに充填した注射液剤(いわゆるプレフィルドシリンジ製剤)の場合は、注射針またはカニューレを装着するための先端部をゴム製またはプラスチック製の部品で密栓し、プランジャーロッド部をゴム製もしくはプラスチック製のガスケットまたはプランジャーロッドで密封することにより、キットとして作製することが可能である。すなわち、注射針またはカニューレを装着するための先端部からピリミジン系代謝拮抗剤を含有する溶液を充填した場合は、その後該先端部をゴム製あるいはプラスチック製の部品で密栓し、プランジャーロッド部からピリミジン系代謝拮抗剤を含有する溶液を充填した場合は、その後該プランジャーロッドで密封することにより、キットとして作製することができる。
【0015】
上記溶液は、所望により、注射剤に使用しうる成分、例えば緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤等を適宜含有してもよい。緩衝剤としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、溶解補助剤としては、例えばエタノール、エチレンジアミン、カプリン酸、L-グルタミン酸、L-リジン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、セスキオレイン酸ソルビタン、D-ソルビトール、ニコチン酸アミド、プロピレングリコール、ポリソルベート80、ラウロマクロゴール(9E.O.)等が挙げられ、防腐剤としては、例えばフェノール、エデト酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クエン酸、クロロクレゾール、クロロブタノール、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0016】
注射液剤におけるピリミジン系代謝拮抗剤の含有量は、それぞれの薬剤の諸性質により適宜決定されるが、注射液剤の場合、一般に1〜10重量%、好ましくは2〜5重量%の範囲である。pH調整剤の含有量としては、0.01〜10重量%が、等張化剤の含有量としては、0.01〜10重量%が好ましい。また、pH調整剤を含有する溶液のpHとしては、7〜10が好ましい。
【0017】
本発明の注射液剤を使用するときは、先端部密栓用部品をはずし、先端部に注射針、カニューレ等を装着し、プランジャーロッドを操作することにより注射を行う。
【0018】
本発明の製剤を例えば抗腫瘍剤として用いる場合、その投与量および投与回数は、患者の年齢、体重、症状等の要因により異なるが、通常、0.01〜20mg/kgで、1日1回(単回投与または連日投与)または週に1〜5回、3週間に1回等の間欠投与が適当である。
次に、本発明の注射液剤の安定性について試験例で示す。
【0019】
試験例:外観安定性比較試験
後述の実施例1〜3で得られる本発明の液剤と比較例1〜4で得られる液剤とを、40℃-相対湿度75%の条件下で3ヶ月間保存した後、吸光光度計を用いて430nmでの吸光度(Abs)を測定した(層長10mm、リファレンス:蒸留水)。
結果を第1表に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
第1表から明らかなように、比較例で得られる液剤では着色が顕著に認められたのに対して、本発明の液剤では着色がほとんど認められず、本発明の液剤または本発明の溶液が外観安定性に優れていることが確認された。
以下に、本発明の実施例および比較例を示す。
【実施例1】
【0022】
5-フルオロウラシル250mgおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタン423.5mgを含有する水溶液(5ml)を作製し、無菌ろ過後、ポリスチレン製スピッツ管(ファルコン社製、2054)に無菌的に充填して密栓し、液剤を得た。
【実施例2】
【0023】
ポリスチレン製スピッツ管の代わりにポリプロピレン製スピッツ管(ファルコン社製、2063)を用い、実施例1と同様にして液剤を得た。
【実施例3】
【0024】
フトラフールTM注[1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシル400mg/10mlアンプル、大鵬薬品工業(株)]を、ポリスチレン製スピッツ管(ファルコン社製、2054)に無菌的に充填して密栓し、液剤を得た。
【0025】
比較例1
5-フルオロウラシル250mgおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタン423.5mgを含有する水溶液(5ml)を作製し、無菌ろ過後、ガラスバイアル[大和特殊硝子(株)社製]に無菌的に充填し、ゴム栓とアルミキャップにより密封して、液剤を得た。
【0026】
比較例2
ガラスバイアルの代わりに褐色ガラスバイアル[大和特殊硝子(株)社製]を用い、比較例1と同様にして、液剤を得た。
【0027】
比較例3
フトラフールTM注[1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシル400mg/10mlアンプル、大鵬薬品工業(株)]を、ガラスバイアル[大和特殊硝子(株)社製]に無菌的に充填し、ゴム栓とアルミキャップにより密封して液剤を得た。
【0028】
比較例4
ガラスバイアルの代わりに褐色ガラスバイアル[大和特殊硝子(株)社製]を用い、比較例3と同様にして液剤を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレンまたはポリプロピレンを重合体成分とする樹脂からなるプラスチック容器中に充填された5-フルオロウラシルを含有する溶液に、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを含有させることを特徴とする5-フルオロウラシル含有溶液の40℃-相対湿度75%の条件下での3ヶ月間保存における外観の安定化法。
【請求項2】
トリスヒドロキシメチルアミノメタンを、5-フルオロウラシルを含有する溶液に0.01〜10重量%含有させる請求項1記載の安定化法。
【請求項3】
プラスチック容器がブローフィルシールシステム(Blow/Fill/Seal System)を用いて一体成形したプラスチックボトルである請求項1または2記載の安定化法。
【請求項4】
プラスチック容器がプラスチックシリンジである請求項1または2記載の安定化法。
【請求項5】
プラスチック容器が、プラスチックシリンジであり、該プラスチックシリンジの注射針またはカニューレを装着するための先端部をゴム製またはプラスチック製の部品で密栓し、該プラスチックシリンジのプランジャーロッド部をゴム製もしくはプラスチック製のガスケットまたはプランジャーロッドで密封することを特徴とする請求項1または2記載の安定化法。

【公開番号】特開2012−92141(P2012−92141A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−12828(P2012−12828)
【出願日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【分割の表示】特願2007−290410(P2007−290410)の分割
【原出願日】平成11年1月8日(1999.1.8)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】