説明

ピルビン酸の製造方法

【課題】 高収率かつ高生産性のピルビン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 脱炭酸酵素(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素中でアセトアルデヒドに二酸化炭素を付加させることを特徴とするピルビン酸の製造方法。前記脱炭酸酵素(A)としては、反応活性の観点からケト酸脱炭酸酵素類(A1)が好ましく、更に好ましいのはピルビン酸デヒドロゲナーゼである。反応に際して、チアミン、チアミン二リン酸、コカルボキシラーゼ、ピリドキサールリン酸及びビオチン等の補酵素を併用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピルビン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピルビン酸は生体内の代謝過程における基本的な中間生成物であるが、その種々の誘導体が有用な生理活性や薬理作用を有することが見出されており、医農薬中間体、香料原料、サプリメントとして需要が高まっている。また、樹脂産業分野では、特殊モノマー原料として注目されている。
【0003】
ピルビン酸の工業的な製造方法としては、乳酸メチルの気相酸化により得られるピルビン酸メチルを加水分解する方法、アセチルシアニドを加水分解する方法及び酒石酸を硫酸水素カリウムの存在下で加熱乾留する方法等が知られている。これらの方法は、原料が高価であることに加え、反応条件が厳しいことから、反応中に生成したピルビン酸の脱炭酸反応が起こり、収率が低いという問題があるため、コストや生産合理性の観点で工業的に満足のいく方法とは言えなかった。
【0004】
最近、環境負荷が少なく、温和な反応として酵素反応が注目されている。一般に、酵素反応では、酵素が基質に作用して特異的に所定の有機化合物を生成する反応、いわゆる正反応と同時に、いったん生成した有機化合物が基質に変換する反応、いわゆる逆反応が起こっていることはよく知られている。
【0005】
ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、本来次式に示すように、ピルビン酸を脱炭酸してアセトアルデヒドを生成する反応の触媒として作用する酵素である。
CH3COCOOH → CH3CHO + CO2 (I)
【0006】
しかしながら、この酵素は、同時に次に示すように、アセトアルデヒドと二酸化炭素とからピルビン酸を生成する反応の触媒としても作用する。
CH3CHO + CO2 → CH3COCOOH (II)
【0007】
上記の反応式(II)で示される酵素逆反応に基づき、安価なアセトアルデヒドと炭酸塩を用いて水溶液中でピルビン酸を製造する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、反応条件は温和であるもののピルビン酸の生成速度と収率が低く、生産性の観点で工業的製法としてはなお不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−272490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高収率かつ高生産性のピルビン酸の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に至った。即ち、本発明は、脱炭酸酵素(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素中でアセトアルデヒドに二酸化炭素を付加させることを特徴とするピルビン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は生産性に優れ、ピルビン酸を高収率かつ安価に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、脱炭酸酵素(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素中でアセトアルデヒドに二酸化炭素を付加させることを特徴とするピルビン酸の製造方法である。
本発明に用いられる脱炭酸酵素(A)としては、カルボン酸から二酸化炭素を脱離させる反応を触媒する酵素が挙げられ、具体例としては次のケト酸脱炭酸酵素類(A1)、アミノ酸脱炭酸酵素(A2)及び芳香族カルボン酸脱炭酸酵素(A3)等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0013】
ケト酸脱炭酸酵素類(A1)としては、例えばピルビン酸デカルボキシラーゼ、シュウ酸デカルボキシラーゼ、オキサロ酢酸デカルボキシラーゼ、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、アコニット酸デカルボキシラーゼ、ベンゾイルぎ酸デカルボキシラーゼ、2−オキソグルタル酸デカルボキシラーゼ、分岐鎖−2−オキソ酸デカルボキシラーゼ、3−オキソラウリン酸デカルボキシラーゼ、ウラシル−5−カルボン酸デカルボキシラーゼ、酒石酸デカルボキシラーゼ、4−オキサロクロトン酸デカルボキシラーゼ及びアセチレンジカルボン酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
【0014】
アミノ酸脱炭酸酵素(A2)としては、例えばアスバラギン酸−1−デカルボキシラーゼ、バリンデカルボキシラーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、リシンデカルボキシラーゼ、アルギニンデカルボキシラーゼ、ヒスチジンデカルボキシラーゼ、チロシンデカルボキシラーゼ、フェニルアラニンデカルボキシラーゼ及びメチオニンデカルボキシラーゼが挙げられる。
【0015】
芳香族カルボン酸脱炭酸酵素(A3)としては、例えば安息香酸脱炭酸酵素、没食子酸デカルボキシラーゼ、プロトカテキユ酸デカルボキシラーゼ、4−ヒドロキシ安息香酸デカルボキシラーゼ及び4−ヒドロキシフェニル酢酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
【0016】
これらのの内、反応活性の観点からケト酸脱炭酸酵素類(A1)が好ましく、更に好ましいのはピルビン酸デヒドロゲナーゼである。
【0017】
脱炭酸酵素(A)に加えて、補酵素を併用してもよい。補酵素の具体例としては、チアミン、チアミン二リン酸、コカルボキシラーゼ、ピリドキサールリン酸及びビオチン等が挙げられる。これらの内、反応活性の観点からビオチンが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では、脱炭酸酵素(A)は、必要に応じて適当な担体に固定化した状態で使用してもよい。脱炭酸酵素(A)を担体に固定化して使用すると、製造終了後の酵素の回収が容易になり、また酵素の再利用が可能になるという利点がある。
【0019】
本発明の製造方法は、超臨界状態の二酸化炭素中で反応を行うことを特徴とする。超臨界流体は、物質に固有の気液臨界温度及び圧力を超えた非凝縮性流体と定義され、二酸化炭素の場合、31.0℃、7.4MPaを超える温度及び圧力下にて超臨界状態となる。超臨界状態の二酸化炭素は熱運動が激しく、また高密度であるため、反応性が高いという特徴がある。
【0020】
反応時の温度は、二酸化炭素が超臨界状態で存在しうる範囲であり、脱炭酸酵素活性の観点から31〜80℃が好ましく、更に好ましくは32から70℃である。
反応時の圧力は、二酸化炭素が超臨界状態で存在しうる範囲であり、取り扱いやすさの観点から7.4〜70MPaであり、更に好ましくは7.5〜50MPaである。
反応時間は、反応温度や用いる脱炭酸酵素(A)及び補酵素の種類や使用量に応じて調製すればよいが、生産性の観点から0.1〜48時間が好ましく、更に好ましくは0.2〜24時間である。
【0021】
本発明の製造方法において、超臨界状態の二酸化炭素中に公知の溶媒等を添加することもできる。添加する溶媒としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール及びエチレングリコールモノメチルエーテル等)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン及びジメトキシエタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等)、炭化水素類(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン及びデカヒドロナフタレン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ベンジル及びγ−ブチロラクトン等)、アミド類(ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネート等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン及びスルホラン等)が挙げられる。
これらの溶媒の使用量は特に制限されず、超臨界状態の二酸化炭素と均一に混合した状態で使用してもよいし、互いに分離した二層系で使用してもよい。
【0022】
反応混合物からピルビン酸を取り出す方法としては、公知の方法が使用でき、例えば抽出法や蒸留法、逆相クロマトグラフィー法等により高純度のピルビン酸を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、以下におけるピルビン酸の収率は、下記条件で高速液体クロマトグラフィー分析を行い、予め測定したピルビン酸の検量線から測定した。
カラム:WakosilC−18AR(和光純薬製、4.0×150mm)
溶離液:0.05重量%トリフルオロ酢酸水溶液
温度:25℃
流速:1mL/分
【0024】
<実施例1>
攪拌装置、循環槽及び調温装置を備えた耐圧反応槽に二酸化炭素200g、アセトアルデヒド20g、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ1ユニット及びチアミン0.02gを仕込み、攪拌下、温度40℃、圧力10MPaを保ち1時間反応させた。反応生成液に1M塩酸20gを加えた後、高速液体クロマトグラフィーにて分析をしたところ、ピルビン酸の収率は71%であった。
【0025】
<実施例2>
反応時間を1時間から2時間に変える以外は実施例1と同様にして、ピルビン酸の合成反応を行った。ピルビン酸の収率は82%であった。
【0026】
<比較例1>
攪拌装置を備えた反応槽にpH11の0.5M炭酸ナトリウム緩衝液200g、アセトアルデヒド20g、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ1ユニット及びチアミン0.02gを仕込み、攪拌下、温度を25℃に保ち常圧で4時間反応させた。反応生成液に1M塩酸20gを加えた後、高速液体クロマトグラフィーにて分析をしたところ、ピルビン酸の収率は27%であり、70%の未反応アセトアルデヒドが検出された。
【0027】
以上の結果から、本発明の実施例1及び2の製造方法では、比較例1の製造方法と比較して短い反応時間でピルビン酸を高収率で得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法によれば、ピルビン酸を安価かつ短時間で製造できることから、生産性が高く、ピルビン酸の工業的製法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱炭酸酵素(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素中でアセトアルデヒドに二酸化炭素を付加させることを特徴とするピルビン酸の製造方法。
【請求項2】
脱炭酸酵素(A)がピルビン酸デヒドロゲナーゼである請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−37(P2013−37A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132628(P2011−132628)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】