説明

ピレン系化合物及びこれを用いた発光トランジスタ素子

【課題】発光トランジスタ素子として使用する場合、発光と移動度の両方の特性が良好で
あるピレン系化合物、及びこの特定のピレン系化合物を用いた発光トランジスタ素子を提
供することを目的とする。
【解決手段】発光トランジスタ素子の発光層の主構成成分として、下記化学式(1)からなるピレン系化合物を用いる。
【化15】


(式(1)中、Rは、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリール基(但し、置換基を有さないフェニル基は含まない)、置換基を有していてもよい主鎖の炭素数が1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいシリル基およびハロゲン原子を有する基から選ばれる基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光トランジスタ素子の発光層の主構成成分となるピレン系化合物及びこれを用いた発光トランジスタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体装置の典型例である有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略する。)は、有機蛍光体からなる層中における電子及び正孔の再結合に伴う発光現象を利用した発光素子である。具体的には、上記有機化合物からなる発光層、この発光層に電子を注入する電子注入電極、及び上記発光層に正孔を注入する正孔注入電極からなる有機EL素子が、特許文献1や特許文献2等に記載されている。
【0003】
この発光層に使用される有機蛍光体としては、ベリノン誘導体、ジスリチルベンゼン誘導体等(特許文献1)や、1,3,6,8−テトラフェニルピレン等(特許文献2)等があげられる。
【0004】
一方、有機蛍光体からなる層中における電子及び正孔の再結合に伴う発光現象を利用した例として、上記有機EL素子以外に、発光トランジスタ素子が知られている。この発光トランジスタ素子に、上記有機EL素子に使用される有機蛍光体を利用することが考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開平5−315078号公報
【特許文献2】特開2001−118682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のピレン系の化合物を含む各化合物は、有機EL素子用に分子設計されており、分子間相互作用を阻害するような置換基がピレンに導入されているため、非常にアモルファス性の高い化合物が多い。
【0007】
ところが、発光トランジスタ素子として使用する場合、発光と移動度の両方の特性が良好であるように分子設計をする必要がある。
【0008】
そこで、この発明は、発光トランジスタ素子として使用する場合、発光と移動度の両方の特性が良好であるピレン系化合物、及びこの特定のピレン系化合物を用いた発光トランジスタ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、発光トランジスタ素子の発光層の主構成成分として、下記化学式(1)からなるピレン系化合物を用いることにより、上記課題を解決したのである。
【化2】

(式(1)中、Rは、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリール基(但し、置換基を有さないフェニル基は含まない)、置換基を有していてもよい主鎖の炭素数が1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいシリル基およびハロゲン原子を有する基から選ばれる基を示す。)
【0010】
上記のピレン系化合物を、キャリアとしての正孔及び電子を輸送可能であり、正孔及び電子の再結合により発光を生じる発光層の主構成成分として用い、この発光層に正孔を注入する正孔注入電極、上記発光層に電子を注入する電子注入電極、並びに、上記正孔注入電極及び電子注入電極に対向し、上記発光層内のキャリアの分布を制御するゲート電極を含有させることにより、発光トランジスタ素子を構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によると、対称性を有する特定のピレン系化合物を用いるので、結晶性が高まり、得られる発光トランジスタ素子の発光と移動度の両方の特性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、この発明について詳細に説明する。
この発明は、ピレン系化合物、特に対称性を有するピレン系化合物にかかる発明である。このピレン系化合物は、発光トランジスタ素子の発光層の主構成成分として、使用することができる。
【0013】
上記ピレン系化合物は、下記化学式(1)で示される化合物である。
【化3】

【0014】
上記の式(1)中、Rは、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリール基(但し、置換基を有さないフェニル基は含まない)、置換基を有していてもよい主鎖の炭素数が1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいシリル基およびハロゲン原子を有する基から選ばれる基を示す。
【0015】
上記Rとして具体的には、ヘテロアリール基、アリール基、直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ハロゲン原子を有する基等があげられる。
【0016】
上記ヘテロアリール基の具体例としては、ベンゾフリル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピラジニル基、チエニル基、アルキル置換チエニル基、ビチエニル基、フェニルチエニル基、ベンゾチエニル基、ピリジル基、ビピリジル基、フェニルピリジル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基等があげられ、置換基を有していてもよい。また、このヘテロアリール基は、多環芳香族も含む。
【0017】
上記のアリール基の具体例としては、ナフチル基(好ましくは2−ナフチル基)、アントリル基(好ましくは2−アントリル基)、フェナントリル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルエテノフェニル基、ピリジノフェニル基、又はフッ素置換されたフェニル基等があげられ、置換基を有していてもよい。また、このアリール基は、多環芳香族も含み、置換基を有さないフェニル基を含まない。
【0018】
上記の直鎖または分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等があげられる。このアルキル基の主鎖の炭素数は1〜20がよい。
【0019】
上記アルケニル基の具体例としては、ビニル基、フェニル置換ビニル基、エチル置換ビニル基、ビフェニル置換ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等があげられ、置換基を有していてもよい。
【0020】
上記アルキニル基の具体例としては、エチニル基、フェニル置換エチニル基、トリメチルシリル置換エチニル基、プロパルギル基等があげられ、置換基を有していてもよい。
【0021】
上記シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基等があげられ、置換基を有していてもよい。
【0022】
上記ハロゲン原子を有する基の具体例としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子等があげられ、この中でも、これらハロゲン原子のみからなる基が好ましく、中でもフッ素原子がより好ましい。
【0023】
上記Rとして好ましい基は、置換基を有していてもよい、ベンゾフリル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピラジニル基、チエニル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビニル基、エチニル基及びシリル基、置換基を有するフェニル基、カルボキシ基及びハロゲン原子から選ばれる基である。
【0024】
中でも、特に好ましいのは、カルボキシ基、ベンゾフリル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピラジニル基、チエニル基、アルキル置換チエニル基、ビチエニル基、フェニルチエニル基、ベンゾチエニル基、ピリジル基、ビピリジル基、フェニルピリジル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基、2−ナフチル基、2−アントリル基、フェナントリル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、フェニル置換ビニル基、フェニル置換エチニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルエテノフェニル基、ピリジノフェニル基、又はフッ素置換されたフェニル基、エチル置換ビニル基、ビフェニル置換ビニル基、トリメチルシリル基、トリメチルシリル置換エチニル基、及びフッ素原子から選ばれる基である。
【0025】
なお、上記ピレン系化合物の分子量は、好ましくは300以上、更に好ましくは500以上であり、また、好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下である。
【0026】
上記化学式(1)の具体例としては、図1(a)〜図3(b)に示されるような化合物があげられる。すなわち、Rが置換基を有してもよい複素環(ヘテロアリール基)の例として、Rがチオフェン環(チエニル基)であるピレン系化合物(図1(a)の(2−1),(2−2))、Rがビチオフェン環(ビチエニル基)であるピレン系化合物(図1(a)の(2−3))、Rがフェニルチオフェン環(フェニルチエニル基)であるピレン系化合物(図1(a)の(2−4))、Rがベンゾチオフェン環(ベンゾチエニル基)であるピレン系化合物(図1(a)の(2−5))、Rがピリジン環(ピリジル基)であるピレン系化合物(図1(a)の(2−6)〜(2−8))、Rがビピリジン環(ビピリジル基)であるピレン系化合物(図1(b)の(2−9))、Rがフェニルピリジン環(フェニルピリジル基)であるピレン系化合物(図1(b)の(2−10))、Rがキノリン環(キノリル基)であるピレン系化合物(図1(b)の(2−11))、Rがベンゾチアゾール環(ベンゾチアゾリル基)であるピレン系化合物(図1(b)の(2−12))、Rがヘキシル基で置換されたチオフェン環(チエニル基)であるピレン系化合物(図1(c)の(2−13))、Rがヘキシル基で置換されたビチオフェン環(ビチエニル基)であるピレン系化合物(図1(c)の(2−14))、Rがベンゾオキサゾール環(ベンゾオキサゾリル基)であるピレン系化合物(図1(c)の(2−15))等があげられる。
【0027】
また、Rが置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基の例として、Rがトリル基であるピレン系化合物(図2(a)の(3−1)〜(3−2))、Rがジメチルフェニル基であるピレン系化合物(図2(a)の(3−3)〜(3−4))、Rが、フェニル置換ビニル基であるピレン系化合物(図2(a)の(3−5))、Rがフェニル置換ビニル基エチニル基であるピレン系化合物(図2(a)の(3−6))、Rがビフェニル基であるピレン系化合物(図2(b)の(3−7)〜(3−8))、Rがフェニルエテノフェニル基であるピレン系化合物(図2(b)の(3−9))、Rがピリジノフェニル基であるピレン系化合物(図2(b)の(3−10))、Rがフッ素置換されたフェニル基であるピレン系化合物(図2(b)の(3−11),図2(c)の(3−12)〜(3−15))、Rがテルフェニル基であるピレン系化合物(図2(d)の(3−16))、Rがビフェニル置換ビニル基であるピレン系化合物(図2(d)の(3−17))等があげられる。
【0028】
さらに、Rが置換基を有してもよい主鎖の炭素数が1〜20のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシリル基、又はフッ素原子の例として、Rがフェナントレン環(フェナントリル基)であるピレン系化合物(図3(a)の(4−1))、Rが2−ナフチル基であるピレン系化合物(図3(a)の(4−2))、Rが2−アントリル基であるピレン系化合物(図3(a)の(4−3))、Rがエチル置換ビニル基であるピレン系化合物(図3(a)の(4−4))、Rがトリメチルシリル基であるピレン系化合物(図3(a)の(4−5)、なお、式中、Meはメチル基を表す。)、Rがトリメチルシリルエチニル基であるピレン系化合物(図3(b)の(4−6)、なお、式中、Meはメチル基を表す。)、Rがフッ素原子であるピレン系化合物(図3(b)の(4−7))等があげられる。
【0029】
さらにまた、この発明にかかるその他のピレン系化合物の例として、図4(a)(b)の(4−1)〜(4−19)に示される各化合物があげられる。
【0030】
上記の各化合物の中でも、Rがハロゲン原子を有する基であるピレン系化合物は、これまでに知られていない化合物である。
【0031】
上記発光層は、上記ピレン系化合物を主構成成分とする。この主構成成分とは、発光輝度、発光効率、キャリア移動度、特有の光の色等の効果を中心的に発揮し得る成分をいう。上記発光層は、主構成成分たる上記ピレン系化合物以外に、上記の効果をより向上させるために必要に応じて、他の有機蛍光体やドーパント材料等の副構成成分を併用してもよい。
【0032】
このような他の有機蛍光体としては、特に限定されるものではなく、例えば、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、ペリレン、クリセン等の縮合環誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等のキノリノール誘導体の金属錯体、ベンズオキサゾール誘導体、スチルベン誘導体、ベンズチアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、チオフェン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体等のビススチリル誘導体、キノリノール誘導体と異なる配位子を組み合わせた金属錯体、オキサジアゾール誘導体金属錯体、ベンズアゾール誘導体金属錯体、クマリン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体等があげられる。さらに、ポリマー系の他の有機蛍光体の例としては、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、そして、ポリチオフェン誘導体などがあげられる。
【0033】
また、上記ドーパント材料は、特に限定されるものではなく、例えば、フェナンスレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、ペリレン、ナフトピレン、ジベンゾピレン、ルブレンなどの縮合環誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン誘導体、チオフェン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体等のビススチリル誘導体、ジアザインダセン誘導体、フラン誘導体、ベンゾフラン誘導体、フェニルイソベンゾフラン、ジメシチルイソベンゾフラン、ジ(2−メチルフェニル)イソベンゾフラン、ジ(2−トリフルオロメチルフェニル)イソベンゾフラン、フェニルイソベンゾフラン等のイソベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、7−ジアルキルアミノクマリン誘導体、7−ピペリジノクマリン誘導体、7−ヒドロキシクマリン誘導体、7−メトキシクマリン誘導体、7−アセトキシクマリン誘導体、3−ベンズチアゾリルクマリン誘導体、3−ベンズイミダゾリルクマリン誘導体、3−ベンズオキサゾリルクマリン誘導体等のクマリン誘導体、ジシアノメチレンピラン誘導体、ジシアノメチレンチオピラン誘導体、ポリメチン誘導体、シアニン誘導体、オキソベンズアンスラセン誘導体、キサンテン誘導体、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体、ピリリウム誘導体、カルボスチリル誘導体、アクリジン誘導体、ビス(スチリル)ベンゼン誘導体、オキサジン誘導体、フェニレンオキサイド誘導体、キナクリドン誘導体、キナゾリン誘導体、ピロロピリジン誘導体、フロピリジン誘導体、1,2,5−チアジアゾロピレン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、スクアリリウム誘導体、ビオラントロン誘導体、フェナジン誘導体、アクリドン誘導体、ジアザフラビン誘導体等があげられる。
【0034】
次に、上記のピレン系化合物を用いた発光トランジスタ素子について説明する。
上記発光トランジスタ素子としては、図5に示すような電界効果型トランジスタ(FET)の基本構造を有する素子をあげることができる。
【0035】
この発光トランジスタ素子10は、キャリアとしての正孔及び電子を輸送可能であり、正孔及び電子の再結合により発光を生じる、上記ピレン系化合物を主構成成分とする発光層1、この発光層1に正孔を注入する正孔注入電極、いわゆるソース電極2、上記発光層に電子を注入する電子注入電極、いわゆるドレイン電極3,及び上記ソース電極2及びドレイン電極3に対向し、上記発光層1内のキャリアの分布を制御する、Nシリコン基板で構成されたゲート電極4から構成される。なお、ゲート電極4は、シリコン基板の表層部に形成される不純物拡散層からなる導電層で構成してもよい。
【0036】
具体的には、図5に示すように、ゲート電極4の上に酸化シリコン等からなる絶縁膜5が設けられ、その上にソース電極2及びドレイン電極3が間隔を開けて設けられる。そして、このソース電極2及びドレイン電極3を覆い、かつ、両電極の間に入り込むように発光層1が設けられる。
【0037】
上記の素子が発光トランジスタの機能を発揮するためには、上記発光層1を構成する有機蛍光体、特に主構成成分であるピレン系化合物のHOMOエネルギーレベルとLUMOエネルギーレベルとの差、キャリア移動度、又は発光効率が所定の範囲を満たすことが好ましい。なお、上記のそれぞれの特徴を有する上記ピレン系化合物を用いた場合、上記ドーパント等の副構成成分を加えることにより、それぞれの機能をより高くすることが可能となる。
【0038】
まず、上記のHOMOエネルギーレベルとLUMOエネルギーレベルとの差は、小さいほど電子の移動がより容易となって発光及び半導体性(すなわち、一方向への電子又は正孔の導通性)が生じやすくなり、好ましい。具体的には、5eV以下がよく、3eV以下がより好ましく、2.7eV以下がさらに好ましい。なお、この差は、小さいほど好ましいので、この差の下限は、0eVである。
【0039】
また、上記のキャリア移動度は、大きいほど半導体性が高まり好ましい。具体的には、1.0×10−5cm/V・s以上がよく、3.0×10−5cm/V・s以上がより好ましく、1.0×10−4cm/V・s以上がさらに好ましい。なお、キャリア移動度の上限は、特に限定されず、1cm/V・s程度であれば十分である。
【0040】
上記発光効率は、光子や電子を入れることによって生じる光の割合をいい、注入された光エネルギーに対する、放出された光エネルギーの割合をPL発光効率(又はPL量子効率)といい、注入された電子の個数に対する、放出された光子の個数の割合をEL発光効率(又はEL量子効率)という。
【0041】
注入され、励起された電子は、正孔と再結合することにより光を発するが、この再結合は必ずしも100%の確率で生じない。このため、上記発光層1を構成する有機化合物を比較する際、EL発光効率を対比することにより、注入された光エネルギーに対する光エネルギー放出量の割合、及び電子と正孔との再結合の割合の相乗効果を比較することができる。ところで、PL発光効率を対比することにより、注入された光エネルギーに対する光エネルギー放出量の割合を比較することができるので、PL発光効率及びEL発光効率の両方を組み合わせて対比することにより、電子と正孔との再結合の割合を比較することも可能となる。
【0042】
上記PL発光効率は、発光の程度が大きいほど好ましく、20%以上がよく、30%以上がより好ましい。なお、PL発光効率の上限は、100%である。
【0043】
また、上記EL発光効率は、発光の程度が大きいほど好ましく、1×10−3%以上がよく、8×10−3%以上が好ましい。なお、EL発光効率の上限は、100%である。
【0044】
上記発光トランジスタ素子10の特徴として、上記以外に、発光する光の波長があげられる。この波長は、可視光の範囲内であるが、使用する有機蛍光体、特に上記ピレン系化合物の種類によって異なる波長を有する。そして、異なる波長を有する有機蛍光体を組み合わせることにより、種々の色を発現させることができる。このため、発光する光の波長は、波長そのものが特徴を発揮することとなる。
【0045】
また、上記発光トランジスタ素子10は、発光を特徴とするので、ある程度の発光輝度を有するのがよい。この発光輝度は、人間が物を見るときに感じる物の明るさに対応する発光量をいう。この発光輝度は、フォトカウンターによる測定法において、大きいほど好ましく、1×10CPS(count per sec)以上がよく、1×10CPS以上が好ましく、1×10CPS以上がより好ましい。
【0046】
上記発光層1は、構成する有機蛍光体等を蒸着(複数種あるときは、共蒸着)することにより形成される。この発光層の膜厚は、少なくとも70nm程度あればよい。
【0047】
上記ソース電極2及びドレイン電極3は、正孔及び電子を上記発光層1に注入するための電極で、金(Au)、マグネシウム−金合金(MgAu)等で形成される。両者間は、0.4〜50μm等の微小間隔を開けて対向するように形成される。具体的には、例えば、図6に示すように、ソース電極2及びドレイン電極3が、それぞれ複数の櫛歯からなる櫛歯形状部2a,3aを有するように形成され、ソース電極2の櫛歯形状部2aを構成する櫛歯と、ドレイン電極3の櫛歯形状部3aを構成する櫛歯とを、所定間隔を開けて交互に配置することにより、発光トランジスタ素子10としての機能をより効率的に発揮させることができる。
【0048】
このときのソース電極2及びドレイン電極3の間隔、すなわち、櫛歯形状部2a及び櫛歯形状部3aの間隔は、50μm以下がよく、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。50μmを超えると、十分な半導体性を発揮し得なくなる。
【0049】
上記発光トランジスタ素子10は、上記ソース電極2及びドレイン電極3に電圧を印加することにより、その内部で正孔及び電子の両方を移動させ、発光層1内で、両者を再結合させることにより、発光を生じさせることができる。このとき、発光層1を通って両電極間を移動する正孔及び電子の量は、ゲート電極4に印加される電圧に依存する。このため、ゲート電極4にかける電圧及びその変化を制御することにより、上記ソース電極2及びドレイン電極3の間の導通状態を制御することが可能となる。なお、この発光トランジスタ素子10は、P型駆動を行うので、ソース電極2に対しドレイン電極3に負の電圧が加えられ、また、ソース電極2に対してゲート電極4に負の電圧が加えられる。
【0050】
具体的には、ゲート電極4にソース電極2に対して負の電圧を印加することにより、発光層1内の正孔がゲート電極4側に引き寄せられ、絶縁膜5の表面付近における正孔の密度が高い状態となる。ソース電極2及びドレイン電極3の間の電圧を適切にすると、ゲート電極4に与える制御電圧の大小によって、ソース電極2から発光層1に正孔が注入され、ドレイン電極3から発光層1に電子が注入される状態となる。すなわち、ソース電極2が正孔注入電極として機能し、ドレイン電極3は電子注入電極として機能する。これにより、発光層1内において、正孔及び電子の再結合が生じ、これに伴う発光が生じることとなる。この発光状態は、ゲート電極4に与えられる制御電圧を変化させることにより、オン/オフさせたり、発光強度を変えたりすることができる。
【0051】
上記の正孔及び電子の再結合が生じる理論は、次のように説明することができる。ゲート電極4にソース電極2に対して負の電圧を印加することにより、図7(a)に示すように、発光層1において、絶縁膜2の界面近くに正孔のチャネル11が形成され、そのピンチオフ点12がドレイン電極3近傍に至る。そして、ピンチオフ点12とドレイン電極3とn間に高電界が形成され、図7(b)に示すように、エネルギーバンドが大きく曲げられる。これにより、ドレイン電極3内の電子が、ドレイン電極3と発光層1との間の電位障壁を突き抜けるFN(ファウラーノルドハイム)トンネル効果が生じ、発光層1内に注入され、正孔と再結合される。
【0052】
また、正孔及び電子の再結合は、上記のFNトンネル効果によるという理論以外に、次の理論による説明も可能である。すなわち、図7(c)に示すように、発光層1内の有機蛍光体のHOMOエネルギーレベルにある電子が高電界によってLUMOエネルギーレベルに励起され、この励起された電子が発光層1内の正孔と再結合する。それと共に、LUMOエネルギーレベルへの励起によって空席となったHOMOエネルギーレベルにドレイン電極3から電子が注入されて補われる。
【0053】
上記発光トランジスタ素子10は、基板20上に、複数個、二次元配列されることにより、表示装置21を構成することができる。この表示装置21の電気回路図を図8に示す。すなわち、この表示装置21は、前述のような発光トランジスタ素子10を、マトリクス配列された画素P11,P12,……,P21,P22,……内にそれぞれ配置し、これらの画素の発光トランジスタ素子10を選択的に発光させ、また、各画素の発光トランジスタ素子10の発光強度(輝度)を制御することによって、二次元表示を可能としたものである。基板20は、例えば、ゲート電極4を一体化したシリコン基板であってもよい。すなわち、ゲート電極4は、シリコン基板の表面にパターン形成した不純物拡散層からなる導電層により構成しておけばよい。また、基板20として、ガラス基板を用いてもよい。
【0054】
各発光トランジスタ素子10は、P型駆動するので、そのドレイン電極3(D)にはバイアス電圧Vd(<0)が与えられ、そのソース電極2(S)は接地電位(=0)とされる。ゲート電極4(G)には、各画素を選択するための選択トランジスタTsと、データ保持用のキャパシタCとが並列に接続される。
【0055】
行方向に整列した画素P11,P12,……;P21,P22,……の選択トランジスタTsのゲートは、行ごとに共通の走査線LS1,LS2,……にそれぞれ接続されている。また、列方向に整列した画素P11,P21,……;P12,P22,……の選択トランジスタTsにおいて発光トランジスタ素子10と反対側には、列ごとに共通のデータ線LD1,LD2,……がそれぞれ接続される。
【0056】
走査線LS1,LS2,……には、コントローラ24によって制御される走査線駆動回路22から、各行の画素P11,P12,……;P21,P22,……を循環的に順次選択(行内の複数画素の一括選択)するための走査駆動信号が与えられる。すなわち、走査線駆動回路22は、各行を順次選択行として、選択行の複数の画素の選択トランジスタTsを一括して導通させ、これにより、非選択行の複数の画素の選択トランジスタTsを一括して遮断させるための走査駆動信号を発生させることができる。
【0057】
一方、データ線LD1,LD2,……には、データ線駆動回路23からの信号が入力される。このデータ線駆動回路23には、画像データに対応した制御信号が、コントローラ24から入力される。データ線駆動回路23は、各行の複数の画素が走査線駆動回路21によって一括選択されるタイミングで、当該選択行の各画素の発光階調に対応した発光制御信号をデータ線LD1,LD2,……に並列に供給する。
【0058】
これにより、選択行の各画素においては、選択トランジスタTsを介してゲート電極4(G)に発光制御信号が与えられるから、当該画素の発光トランジスタ素子10は、発光制御信号に応じた階調で発光(または消灯)することになる。発光制御信号は、キャパシタCにおいて保持されるから、走査線駆動回路22による選択行が他の行に移った後にも、ゲート電極Gの電位が保持され、発光トランジスタ素子10の発光状態が保持される。
このようにして、二次元表示が可能になる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例をあげてこの発明をさらに具体的に説明する。まず、ピレン系化合物の製造法について説明する。
【0060】
(製造例1)テトラキス(2−チエニル)ピレンの製造
[原料合成](1,3,6,8−テトラブロモピレンの製造)
ピレン(東京化成(株)製:試薬、純度95%)27gを水195mLに加え、テトラグライム(東京化成(株)製:試薬)7mLを加え、さらに塩酸70mLを加えて、90℃にて2時間攪拌してピレンの水分散液を調整した。次いで、40℃にて、臭素カリウム(東京化成(株)製:試薬)47gを加えた。そして、温度を保持したまま、臭素酸ソーダ(東京化成(株)製:試薬)30gを水110mLに溶解させた臭素酸ソーダ溶液を、3時間かけて滴下した。その後、濾別し、メタノール約300gにて充分に洗浄し、次いで、85〜95℃で乾燥して、1,3,6,8−テトラブロモピレン70gを得た。
【0061】
[テトラキス(2−チエニル)ピレン(化学式(2−1))の製造]
【化4】

【0062】
上記反応式<1>にしたがって、テトラキス(2−チエニル)ピレン(図1(a)(3−1))を製造した。すなわち、還流冷却管、窒素ラインに接続した三方コックを付けた300ml四つ口フラスコに2−チエニルトリブチルスズ(東京化成(株)製:試薬)10.3g、上記の1,3,6,8−テトラブロモピレン2.0g、脱水トルエン(関東化学(株)製:試薬)200mlを入れた。反応器を窒素置換した後更に反応液中に窒素をバブリングして脱気した。テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(東京化成(株)製:試薬)0.2gを加え、オイルバス中110℃で6時間還流した後、窒素雰囲気下で終夜静置した。
【0063】
反応液をセライトでろ過し、残さの固体をクロロホルムで洗い流した。ろ液を10%弗化カリウム水溶液、純水、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸ナトリウムを用い脱水後エバポレーターで濃縮して黄色微結晶1gを得た。
回収した結晶をGPCで精製し、0.4gの単一成分を得た。DEIによるイオン化での質量分析から、この成分が1,3,6,8−テトラキス(2−チエニル)ピレンであると同定した(収率18%)。なお、質量分析(MS)のデータを下記の示す。
・MS:m/z=40,162,206,248,265,401,451,485,530
【0064】
(製造例2)テトラキス(4−ビフェニル)ピレン(化学式(3−9))の製造
【化5】

【0065】
上記反応式<2>にしたがって、テトラキス(4−ビフェニル)ピレン(図2(b)(3−9))を製造した。すなわち、還流冷却管、三方コック、温度計を備えた500ml四つ口フラスコに4−ビフェニルほう酸(アルドリッチ社製:試薬)2.3g、上記の1,3,6,8−テトラブロモピレン1.0g、炭酸セシウム6.4g(キシダ化学(株)製:試薬)、トルエン150ml、エタノール(純正化学(株)製:試薬)60ml、純水30mlを入れた。反応器を減圧にして脱気を5回行い、更に反応液に窒素を通気した。次いで、上記のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.2gを加え、オイルバス中80℃で9時間還流し、窒素雰囲気下で終夜静置した。
【0066】
反応混合物にクロロホルム100ml、純水100mlを加え、両溶媒に不溶の固体を吸引ろ過で回収した(ろ液は分液後、有機層を純水100mlで2回洗浄した)。
回収した固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、クロロホルム)で精製し、混在するパラジウムを除去した後、クロロホルムら再結晶を行い、黄色針状結晶745mgを回収した。MALDIによるイオン化での質量分析から、この成分が1,3,6,8−テトラキス(4−ビフェニル)ピレンであると同定した(収率47%)。なお、質量分析(MS)のデータを下記の示す。
・MS:m/z=658,810
【0067】
(製造例3)テトラキス(3−ビフェニル)ピレン(化学式(3−8))の製造
【化6】

【0068】
上記反応式<3>にしたがって、テトラキス(3−ビフェニル)ピレン(図2(b)(3−8))を製造した。すなわち、還流冷却管、三方コック、温度計を備えた500ml四つ口フラスコに3−ビフェニルほう酸(アルドリッチ社製:試薬)4.7g、上記の1,3,6,8−テトラブロモピレン2.5g、トルエン250ml、エタノール80mlを入れて減圧で脱気し、更に窒素バブリングを行った。炭酸ナトリウム(関東化学(株)製:試薬)5.1gを25mlの純水に溶解させて窒素バブリングをした水溶液を加えて、混合物を更に窒素バブリングした。次いで、上記のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.4gを加えてオイルバス中80℃で8時間還流させた。冷却後、クロロホルム200ml、純水200mlを加えて分液した。回収した有機層をエバポレーターで濃縮し、残さを熱クロロホルムに溶解させて加熱ろ過で無機塩を除去し、ろ液を濃縮して固体を回収した。回収固体1gのうち0.5gをGPCで精製して単一成分342mgを回収した。DEIによるイオン化での質量分析から、この成分が1,3,6,8−テトラキス(3−ビフェニル)ピレンであると同定した(収率9%)。なお、質量分析(MS)のデータを下記の示す。
・MS:m/z=154,289,405,503,578,655,656,732,
810
【0069】
(製造例4)1,3,6,8−テトラキス(3−トリル)ピレン(化学式(3−1))の製造
【化7】

【0070】
3−トリルボロン酸(東京化成(株)製:試薬)15g、1,3,6,8−テトラブロモピレン9.2g炭酸セシウム6.4g(キシダ化学(株)製:試薬)にトルエン400ml(純正化学(株)製:試薬)、エタノール50ml(純正化学(株)製:試薬)、純水50mlを入れ、窒素置換した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)2g(東京化成(株)製:試薬)を加え、7時間加熱還流をおこなった。
反応溶液を減圧濃縮したのち、水100mL加え、ジクロロメタンで数回抽出し、抽出液に硫酸ナトリウムを加え脱水した。濾過濃縮した後、得られた残渣をトルエンで再結することにより3.7gの黄色の固体を得た。FAB質量分析からm/z=563が得られたことからこの成分が1,3,6,8−テトラキス(3−トリル)ピレンであることが分かった。
【0071】
(製造例5)テトラキス(4−フルオロフェニル)ピレン(化学式(3−13))の製造
【化8】

【0072】
4−フルオロフェニルボロン酸(アルドリッチ社製:試薬)8.4g、1,3,6,8−テトラブロモピレン5.2g炭酸セシウム20g(キシダ化学(株)製:試薬)にトルエン200ml(純正化学試薬)、エタノール25ml(純正化学試薬)、純水25mlを入れ、窒素置換した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)1g(東京化成試薬)を加え、9時間加熱還流をおこなった。
反応溶液を濾過したのち、得られた残渣をメタノール洗浄し、トルエンで再結することにより4.3gの黄色の固体を得た。FAB質量分析から578(M),540のピークが得られたことからこの成分が1,3,6,8−テトラキス(4−フルオロフェニル)ピレンであることが分かった。
【0073】
(製造例6)テトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ピレン(化学式(3−16))の製造
【化9】

【0074】
3,5−フルオロフェニルボロン酸(アルドリッチ社製:試薬)9.5g、1,3,6,8−テトラブロモピレン5.2g炭酸セシウム20g(キシダ化学(株)製:試薬)にトルエン200ml(純正化学(株)製:試薬)、エタノール25ml(純正化学(株)製:試薬)、純水25mlを入れ、窒素置換した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)1g(東京化成(株)製:試薬)を加え、9時間加熱還流をおこなった。
反応溶液を濾過したのち、得られた残渣をメタノール洗浄し、トルエンで再結することにより4.2gの黄色の固体を得た。FAB質量分析から650(M)が得られたことからこの成分が1,3,6,8−テトラキス(4−フルオロフェニル)ピレンであることが分かった。
【0075】
(製造例7)1,3,6,8−テトラキス(4−フルオロフェニル)ピレン(化学式(4−2))の製造
【化10】

【0076】
2−ナフチルボロン酸(東京化成(株)製:試薬)10.3g、1,3,6,8−テトラブロモピレン5.2g炭酸セシウム20g(キシダ化学(株)製:試薬)にトルエン200ml(純正化学(株)製:試薬)、エタノール25ml(純正化学(株)製:試薬)、純水25mlを入れ、窒素置換した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)1g(東京化成(株)製:試薬)を加え、9時間加熱還流をおこなった。
反応溶液を濾過したのち、得られた残渣を熱水で洗浄し、トルエンで再結することにより5.7gの黄色の固体を得た。下記のFAB質量分析から、1,3,6,8−テトラキス(4−フルオロフェニル)ピレンであることが分かった。
・MS:m/z=55,180,254,523,549,706
【0077】
(製造例8)1,3,6,8−テトラキス(trans−スチリル)ピレンの製造
【化11】

【0078】
還流冷却管、三方コック、温度計を備えた500ml四つ口フラスコにtrans−スチリルほう酸15g(東京化成試薬)、1,3,6,8−テトラブロモピレン10g、炭酸セシウム33g(キシダ化学試薬)、トルエン400ml(純正化学試薬)、エタノール50ml(純正化学試薬)、純水50mlを加え、窒素置換したのち、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)2g(東京化成試薬)を加え、オイルバス中80℃で9時間加熱環流をおこなった。
反応混合物にCHCl 100ml、純水100mlを加え、濾過することにより、6.6gの黄色固体が得られた。得られた固体の質量分析からm/z=611が得られたことから、この成分が1,3,6,8−テトラキス(trans−スチリル)ピレンであると同定した。
【0079】
(製造例9)1,3,6,8−テトラキス(4−トリル)ピレンの製造
【化12】

【0080】
4−トリルボロン酸(東京化成(株)製:試薬)8.0g、1,3,6,8−テトラブロモピレン5.0g、炭酸セシウム31g(キシダ化学(株)製:試薬)にトルエン200ml(純正化学(株)製:試薬)、エタノール100ml(純正化学(株)製:試薬)、純水40mlを入れ、窒素置換した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.6g(東京化成(株)製:試薬)を加え、7時間加熱還流をおこなった。
反応溶液を減圧濃縮したのち、水100mL加え、クロロホルムで抽出し、抽出液に硫酸マグネシウムを加え脱水した。濾過濃縮した後、得られた残渣をGPCで精製することにより0.8gの黄色の固体を得た。FAB質量分析から、この成分が1,3,6,8−テトラキス(4−トリル)ピレンであることが分かった。
・MS:m/z=69,109,145,180,207,256,281,307,424,456,472,523,561,562
【0081】
(製造例10)1,3,6,8−テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ピレン(下記化学式<10>)の製造
【化13】

【0082】
還流冷却管、三方コック、温度計を備えた200ml三つ口フラスコに3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルほう酸 5.2 g(アルドリッチ社製:試薬)、1,3,6,8−テトラブロモピレン 1.5g、炭酸ナトリウム4.3g(関東化学(株)製:試薬)、トルエン50ml(純正化学(株)製:試薬)、エタノール 15ml(純正化学(株)製:試薬)、純水 10mlを入れた。反応器を減圧にして脱気を5回行い、更に反応液に窒素を通気した。テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.3g(東京化成(株)製:試薬)を加え、オイルバス中80℃で12時間還流し、窒素雰囲気下で終夜静置した。
反応混合物にCHCl100ml、純水150mlを加えて分液し、水層をCHCl100mlで2回抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後濃縮した。残渣をアセトニトリルで洗浄して沈殿を回収し、これをさらにGPCで精製した。DEIイオン化による質量分析からm/Z=1050が得られ、この成分が1,3,6,8−テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ピレンであると同定した(収量0.59g、収率19%)。
H NMR(400MHz、CDCl)δ8.12(br、8H)、8.09(s、4H)、8.05(br、4H)、8.02(s、2H)
・Mass(DEI)Obs.m/Z=1050(M)、Calc. for C48H18F24
【0083】
(製造例11)1,3,6,8−テトラキス(4−トリフルオロメチルフェニル)ピレン(下記化学式<11>)の製造
【化14】

【0084】
還流冷却管、三方コック、温度計を備えた200ml三つ口フラスコにp−トリフルオロメチルフェニルほう酸3.0g(アルドリッチ社製:試薬)、1,3,6,8−テトラブロモピレン1.4g、炭酸ナトリウム3.4g(関東化学(株)製:試薬)、トルエン50ml(純正化学試薬)、エタノール15ml(純正化学(株)製:試薬)、純水10mlを入れた。反応器を減圧にして脱気を5回行い、更に反応液に窒素を通気した。テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.3g(東京化成(株)製:試薬)を加え、オイルバス中80℃で12時間還流し、窒素雰囲気下で終夜静置した。
反応混合物に純水50mlを加えて分液し、さらに水層をトルエン50mlで2回抽出した。合わせた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後濃縮した。得られた個体をCHClで洗浄し、回収した固体をトルエンから再結晶した。(収量0.55g、収率27%)。
H NMR(400MHz、CDCl3)δ8.13(s、4H)、7.99(s、2H)、7.83−7.77(m、16H)
【0085】
(実施例1〜7)
次に、下記の条件の下、図5及び図6に示す発光トランジスタ素子を製造した。
・ソース電極2及びドレイン電極3…それぞれ20本の櫛歯からなる櫛歯形状部を有する電極(Au、厚さ40nm)を形成し、図7に示すように、それぞれの櫛歯形状部が交互に配されるように、絶縁膜5の上に配置した。このとき、絶縁膜5と両電極との間にクロムからなる層(1nm)を設けた。また、このときのチャネル部(それぞれの櫛歯形状部間)の幅を25μm、長さを4mmとした。
・絶縁膜5…300nmの酸化シリコン膜を蒸着形成させた。
【0086】
・発光層1…上記の製造法で得られたピレン系化合物(2−1)(3−9)(3−8)(3−1)(3−16)(4−2)及び(3−6)をそれぞれ単独で、絶縁膜、ソース電極2及びドレイン電極3の周囲を覆うように蒸着することにより、発光層1を形成した。
【0087】
得られた各素子について、HOMO及びLUMOエネルギーレベル、蛍光吸収波長、PL発光効率、EL発光効率、発光輝度、及びキャリア移動度を測定した。その結果を表1に示す。
【0088】
なお、キャリア移動度、EL発光効率、PL発光効率は以下のようにして測定・算出した。
(キャリア移動度μ(cm/V))
有機半導体のドレイン電圧(V)とドレイン電流の関係式は次式(1)で表され、直線的に増加するが(直線領域)、
【0089】
【数1】

【0090】
また、Vが大きくなると、チャネルのピンチ・オフによりIは飽和して一定の値となり(飽和領域)、Iは次式(2)で表される。
【0091】
【数2】

【0092】
なお、上記式(1)(2)の各符号は、下記の通りである。
L :チャネル長[cm]
W :チャネル幅[cm]
:ゲート絶縁膜の単位面積当たりの静電容量[F/cm
μsat:飽和領域における移動度[cm/Vs]
:ドレイン電流[A]
:ドレイン電圧[V]
:ゲート電圧[V]
:ゲート閾値電圧[V] (これは、飽和領域におけるドレイン電圧(V)が一定の下でドレイン電流の1/2乗(Vdsat1/2)をゲート電圧(V)に対してプロットし、漸近線が横軸と交わる点を示す。)
【0093】
この飽和領域におけるI1/2とVgの関係から、有機半導体中の移動度(μ)を求めることができる。
【0094】
本発明では、圧力を真空度〜5×10−3Pa、温度を室温とする条件の下、半導体パラメーターアナライザー(Agilent,HP4155C)を用いて、ドレイン電圧を10Vから−100Vまで、−1Vステップで、ゲート電圧を0Vから−100Vまで、−20Vステップで操作し、上式(2)を用いて移動度を算出した。
【0095】
(EL発光効率)
EL発光効率ηextは、上記トランジスタ素子を用いて、ドレイン電圧を10Vから−100Vまで、−1Vステップで、ゲート電圧を0Vから−100Vまで、−20Vステップで操作し、素子から発せられる発光をフォトンカウンター(4155C Semiconductor Parameter Analyzer)によって測定し、そこで得られた光子数[CPS]を下記式(3)を用いて光束[lw]に変換後、下記式(4)を用いてEL発光効率ηextを算出した。
【0096】
【数3】

【0097】
【数4】

【0098】
なお、上記式(3)(4)の各符号は、下記の通りである。
PC :フォトンカウンター(PC)によって観測した光子数[CPS]
PC :光子数を光束[lw]に変換した値
r :円錐又は円の半径[cm]
h :フォトンカウンターとサンプルの距離[cm]
【0099】
(PL発光効率)
PLの発光効率は、本発明で得られた材料を窒素雰囲気下において石英基板上に70nm蒸着し単層膜を形成したあと、積分球(IS−060、Labsphere Co.)を用いて、励起光として波長325nmのHe−Cdレーザ(IK5651R−G、Kimmon electric Co.)を照射し、サンプルからの発光Multi−channel photodiode(PMA−11、Hamamatsu photonics Co.)を測定することにより算出した。
【0100】
(比較例1)
ピレン化合物として、テトラフェニルピレン(アルドリッチ社製:試薬)を用いた以外は、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1(a)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図1(b)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図1(c)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図2(a)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図2(b)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図2(c)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図2(d)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図3(a)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図3(b)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図4(a)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図4(b)】ピレン系化合物の例を示す化学式
【図5】この発明にかかる発光トランジスタ素子の例を示す断面図
【図6】ソース電極及びドレイン電極の構成を示す平面図
【図7】(a)(b)(c)発光トランジスタ素子の発光のメカニズムを示す模式図
【図8】この発明にかかる発光トランジスタ素子を用いた表示装置の例を示す電機回路図
【符号の説明】
【0103】
1 発光層
2 ソース電極
2a 櫛歯形状部
3 ドレイン電極
3a 櫛歯形状部
4 ゲート電極
5 絶縁膜
10 発光トランジスタ素子
11 正孔チャネル
12 ピンチオフ点
20 基板
21 表示装置
22 走査線駆動装置
23 データ線駆動装置
24 コントローラ
【0104】
S ソース電極
D ドレイン電極
G ゲート電極
C キャパシタ
Ts 選択トランジスタ
P11,P12…画素
LS1,LS2…走査線
LD1,LD2…データ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)からなるピレン系化合物。
【化1】

(式(1)中、Rは、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリール基(但し、置換基を有さないフェニル基は含まない)、置換基を有していてもよい主鎖の炭素数が1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいシリル基およびハロゲン原子を有する基から選ばれる基を示す。)
【請求項2】
上記式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい、ベンゾフリル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピラジニル基、チエニル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビニル基、エチニル基、シリル基、置換基を有するフェニル基、カルボキシ基及びハロゲン原子から選ばれる基である、請求項1に記載のピレン系化合物。
【請求項3】
上記式(1)中、Rは、カルボキシ基、ベンゾフリル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピラジニル基、チエニル基、アルキル置換チエニル基、ビチエニル基、フェニルチエニル基、ベンゾチエニル基、ピリジル基、ビピリジル基、フェニルピリジル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基、2−ナフチル基、2−アントリル基、フェナントリル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、フェニル置換ビニル基、フェニル置換エチニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルエテノフェニル基、ピリジノフェニル基、フッ素置換されたフェニル基、エチル置換ビニル基、ビフェニル置換ビニル基、トリメチルシリル基、及びフッ素原子から選ばれる基である請求項1又は2に記載のピレン系化合物。
【請求項4】
発光トランジスタ素子の発光層の主構成成分として使用される請求項1乃至3のいずれかに記載のピレン系化合物。
【請求項5】
キャリアとしての正孔及び電子を輸送可能であり、請求項4に記載のピレン系化合物を主構成成分とする、正孔及び電子の再結合により発光を生じる発光層、
この発光層に正孔を注入する正孔注入電極、
上記発光層に電子を注入する電子注入電極、
並びに、上記正孔注入電極及び電子注入電極に対向し、上記発光層内のキャリアの分布を制御するゲート電極を含有する発光トランジスタ素子。
【請求項6】
上記正孔注入電極及び電子注入電極は、それぞれ複数の櫛歯からなる櫛歯形状部を有し、かつ、上記正孔注入電極の櫛歯形状部を構成する櫛歯と、電子注入電極の櫛歯形状部を構成する櫛歯とを、所定間隔を開けて交互に配置した請求項5に記載の発光トランジスタ素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の発光トランジスタ素子を基板上に複数個配列して構成した表示装置。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図2(d)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−176491(P2006−176491A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257934(P2005−257934)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】