説明

ピロカテコールバイオレット−金属タンパク質分析

【課題】商業的な方法と比較して、迅速かつ高感度であり、洗剤、還元剤および他の一般的な試薬からの妨害が少なく、直線作用範囲が広く、かつ、最小のタンパク質間変動を示すタンパク質比色分析法、ならびに、タンパク質比色分析用組成物およびキットを提供すること。
【解決手段】ピロカテコールバイオレット-金属錯体を利用してタンパク質定量を行うための方法、タンパク質定量分析において使用される組成物およびキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
タンパク質定量分析において使用するための組成物、方法およびキット。
【背景技術】
【0002】
試料中のタンパク質を正確に定量することは、多くの生化学プロセスを研究する上で必要である。溶液中のタンパク質の相対濃度を測定するために、比色法または発色法が、簡潔さと速さの理由から広く使用されている。溶液中のタンパク質濃度の比色定量を行うための商業的に利用可能な方法としては、ビウレット法(Gornallら、J.Biol.Chem.、177:751、1949)、ローリー法(Lowryら、J.Biol.Chem.、193:265、1951)、ビシンコニン酸(BCA)法(Smithら、Anal.Biochem.、150:76、1985)、クマシーブルーG-250色素結合法(Bradford、Anal.Biochem.、72:248、1976)および金コロイドタンパク質法(Stoscheck、Anal.Biochem.、160:301、1987)が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Gornallら、J.Biol.Chem.、177:751、1949
【非特許文献2】Lowryら、J.Biol.Chem.、193:265、1951
【非特許文献3】Smithら、Anal.Biochem.、150:76、1985
【非特許文献4】Bradford、Anal.Biochem.、72:248、1976
【非特許文献5】Stoscheck、Anal.Biochem.、160:301、1987
【非特許文献6】Watanabeら、Clin.Chem.32:1551、1988
【非特許文献7】Fujitaら、Chem.Pharm.Bull.32:4161、1984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビウレット法は、第二銅イオンと錯体を形成するタンパク質に基づいている。アルカリ性条件下で、銅(II)イオンは、タンパク質およびペプチドのペプチド窒素に結合して紫色を発し、550nmに吸収極大を有する。感度は、1mgタンパク質/ml〜6mgタンパク質/mlである。ビウレット法は、他の商業的なタンパク質比色定量法と比較すると、比較的感度が低いタンパク質定量法である。
【0005】
ローリー法は、ビウレット反応の改良型であり、アルカリ性条件下でペプチド結合が銅(II)イオンと反応し、次いで、芳香族アミノ酸の銅触媒による酸化によって、フォーリン-チオカルト試薬(Folin-Ciocalteau)のホスホモリブデン-ホスホタングステン酸がヘテロポリモリブデンブルーに還元される。生成物の吸収極大は750nmである。ローリー法は、ビウレット法よりも感度が高く、その直線感度は、ウシ血清アルブミン(BSA)の場合、0.1mgタンパク質/ml〜1.5mgタンパク質/mlである。特定のアミノ酸、洗剤、脂質、糖および核酸がこの反応を妨害する。更に、この反応はpH依存性であり、pH10〜pH10.5に維持すべきである。
【0006】
BCA法はローリー法と関連しており、まず、タンパク質のペプチド結合が第二銅イオン(Cu2+)を還元し、アルカリ性培地中に四座(tetradentate)第一銅イオン(Cu1+)錯体を生成する。次いで、第一銅イオン錯体は、BCA(Cu1+1個につきBCA分子2個)と反応して強い紫色を発し、これは562nmで測定することができる。BCAはアルカリ性培地において安定であるので、ローリー法では2工程必要であるのに対して、BCA法は1工程で行うことができる。BCA法は、ローリー法よりも、妨害化合物に対する適合性が高い。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Triton X-100およびTween-20は、BCA分析と最大5%の適合性を有するのに対し、ローリー法の場合、SDS、Triton X-100、Tween-20に対する適合濃度はそれぞれ1%、0.03%および0.062%である。BCA法はまた、ローリー法と比較して感度が高く、かつ、直線作用範囲が広い。
【0007】
金コロイドタンパク質法は、タンパク質比色定量法の中で最も感度が高く、約2μg/ml〜20μg/mlの感度を有する。タンパク質が金コロイドに結合することにより、その吸光度にシフトが生じ、このシフトは溶液中のタンパク質の量に比例する。チオールおよびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)以外の最も一般的な試薬は、金コロイドタンパク質法と適合性である。金コロイドタンパク質法は、著しいタンパク質間変動を有する。
【0008】
クマシーブルーG-250色素結合法は、470nmから595nmへの瞬時の吸光度のシフトに基づくものであり、このシフトは、クマシーブルーG-250が酸性培地中でタンパク質に結合すると生じる。呈色は迅速であり、分析は10分で行うことができる。クマシーブルーG-250色素結合法は、洗剤を除く一般的な試薬による妨害が比較的なく、中程度のタンパク質間変動を有する。
【0009】
Pyrogallol Red(Watanabeら、Clin.Chem.32:1551、1988)およびPyrocatechol Violet(Fujitaら、Chem.Pharm.Bull.32:4161、1984)を用いた2つの他の色素結合タンパク質法が報告されている。クマシーブルーG-250色素結合法のように、これら色素結合タンパク質法はいずれも、様々なタンパク質に対して可変的な感度を示す(タンパク質間変動)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を伴う本特許または特許出願公報の複製は、要請して必要な手数料を支払えば、特許庁により提供される。
【0011】
タンパク質比色分析用の組成物、方法およびキット。本方法は、商業的な方法と比較して、迅速かつ高感度であり、洗剤、還元剤および他の一般的な試薬からの妨害が少ない。本方法は、商業的な方法と比較して、直線作用範囲(linear working range)が広い。本方法は、最小のタンパク質間変動(protein-to-protein variation)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ピロカテコールバイオレット-金属(PVM)錯体の組成を示す図である。
【図2】様々な混合物でのピロカテコールバイオレット(PCV)の吸収スペクトルを示す図である。
【図3】PVM錯体を使用したウシ血清アルブミン(BSA)の定量に関する標準曲線を示す図である。
【図4】PVM錯体を使用したウシガンマグロブリン(BGG)の定量に関する標準曲線を示す図である。
【図5】マイクロプレート手順においてPVM錯体を使用したBSAの定量に関する標準曲線を示す図である。
【図6】マイクロプレート手順においてPVM錯体を使用したBGGの定量に関する標準曲線を示す図である。
【図7】商業的に利用可能な分析と、PVM錯体を使用したタンパク質定量とを比較した図である。
【図8】PVM錯体との、市販の分光光度計の適合性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物は、金属と共に、ピロカテコールバイオレット(PCV)などのポリヒドロキシベンゼンスルホンフタレイン型またはポリヒドロキシベンゼンフタレイン型色素を含む。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態では、金属はモリブデンである。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。本組成物の付加的な成分としては、ポリビニルアルコール、場合によりメタノール、バッファー、ポリビニルピロリドン、および、キレート剤、α-シクロデキストリンまたは安息香酸ナトリウムの少なくとも1つが挙げられる。
【0014】
別の実施形態では、生物学的試料中のタンパク質濃度を決定する方法は、該試料を、ピロカテコールバイオレットおよび金属を含むタンパク質分析用試薬組成物と混合し、該試料と該タンパク質分析用試薬組成物との混合物を、着色錯体が形成されるまでインキュベートし、着色錯体の吸光度を測定し、測定された吸光度を、既知の濃度のタンパク質(標準物)を含有する試料から得られた吸光度と比較することにより、該試料中のタンパク質濃度を決定することを含む。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態では、金属はモリブデンである。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。
【0015】
別の実施形態では、タンパク質濃度を決定するためのキットは、ピロカテコールバイオレットおよび金属を含むタンパク質分析用試薬組成物と、既知の濃度の少なくとも1つのタンパク質と、キット構成要素を使用してタンパク質濃度を決定するための説明書とを具備する。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態では、金属はモリブデンである。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。
【0016】
ピロカテコールバイオレット-金属(PVM)錯体を利用する色素結合タンパク質分析が提供される。例えば、ピロカテコールバイオレット-モリブデン酸塩錯体は、赤みがかった褐色であり、比較的高いpHで脱プロトン化すると緑色に変化する。図1に示すように、比較的低いpHでタンパク質が結合すると、正に帯電したアミノ酸基の相互反応によって色素がより容易に脱プロトン化し、負に帯電した脱プロトン化色素-モリブデン酸塩錯体を安定化させる。PVMタンパク質定量分析は、更に記載されるように、迅速かつ高感度であり、洗剤、還元剤および他の一般的な試薬による妨害が比較的ない。この分析は、大きい直線作用範囲と、低いタンパク質間変動を有する。
【0017】
一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物が提供される。一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物は、金属と共に、ピロカテコールバイオレットなどのポリヒドロキシベンゼンスルホンフタレイン型またはポリヒドロキシベンゼンフタレイン型色素を含む。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。該組成物の付加的な成分としては、ポリビニルアルコール、場合によりメタノール、バッファー、ポリビニルピロリドン、および、キレート剤、安息香酸ナトリウムまたはα-シクロデキストリンの少なくとも1つが挙げられる。実施形態では、バッファーは、約pH1〜約pH4の範囲において緩衝することが可能ないずれかのバッファーであり得る。一実施形態では、バッファーは、モノもしくはジ脂肪族もしくは芳香族カルボン酸または無機酸である。一実施形態では、バッファーはコハク酸である。他の好適なバッファーとしては、リン酸塩、シュウ酸、フィチン酸、リン酸、クエン酸、トリクロロ酢酸、安息香酸、酢酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、サリチル酸、塩酸、マレイン酸、グリシン、フタル酸、グリシルグリシンおよびフマル酸が挙げられる。好適なキレート剤の例としては、シュウ酸ナトリウム、フィチン酸、シュウ酸およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。単一の理論にとらわれるものではないが、タンパク質分析用試薬組成物中のキレーターの存在により、尿などの試料中のキレート剤の存在に起因するタンパク質定量誤差が解消される。キレーターの存在はまた色素の色の対比を増大し得る。
【0018】
単一の理論にとらわれるものではないが、ポリビニルアルコール、安息香酸ナトリウムおよびポリビニルピロリドンは、分析の間、タンパク質沈殿を防止し得る。タンパク質沈殿を防止するために使用し得る他の試薬としては、Tween-20、Tween-80、Triton X-100などの非イオン性界面活性剤およびアラビアガムが挙げられる。
【0019】
一実施形態では、組成物は、約0.1mM〜約0.5mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、約0.05mM〜約0.4mMの濃度の金属と、約0.05%w/v〜約0.4%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、場合により、約0%v/v〜約10%v/vの濃度のメタノールと、約25mM〜約200mMの濃度のバッファーと、約0.05%w/v〜約0.2%w/vの濃度のポリビニルピロリドンと、約0.05mM〜約2mMの濃度のキレーターまたは約1mM〜約6mMの濃度の安息香酸ナトリウムの少なくとも1つとを含み、該タンパク質分析用試薬組成物のpHは、約pH1〜約pH4である。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態では、金属はモリブデンである。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物は、約25mM〜約100mMの濃度でα-シクロデキストリンを含む。単一の理論にとらわれるものではないが、α-シクロデキストリンの存在は、SDSの存在に対するタンパク質分析用試薬組成物の適合性を増大する。
【0020】
一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物は、0.26mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、0.16mMの濃度のモリブデン酸ナトリウムと、約0.2%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、約4%の濃度のメタノールと、約50mMの濃度のコハク酸と、1.0mMの濃度のシュウ酸ナトリウムと、3.5mMの濃度の安息香酸ナトリウムと、約0.1%w/vの濃度のポリビニルピロリドンとを含み、該タンパク質分析用試薬組成物のpHは、約pH2.5である。
【0021】
一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物はまた、約50mMの濃度でα-シクロデキストリンを含む。
【0022】
一実施形態では、タンパク質に結合するピロカテコールバイオレット-金属錯体を使用してタンパク質濃度を決定するための方法が提供される。一実施形態では、ピロカテコールバイオレット-金属錯体は、ピロカテコールバイオレット-モリブデン酸塩である。酸性条件下でピロカテコールバイオレット-金属錯体がタンパク質に結合することにより、約660nmで測定される色素の吸収極大にシフトが生じる。分析は、再現可能でありかつ迅速である。該分析は、クマシー系ブラッドフォード分析と比較するとより直線的であり、より高濃度の大部分の洗剤、還元剤、ならびに、キレート剤およびバッファーなどの一般に使用される他の試薬と適合性である。該分析は、約37%のタンパク質間変動を有する。
【0023】
一実施形態では、該方法は、(a)試料を、タンパク質分析用試薬組成物と混合して、タンパク質定量混合物を形成する工程と、(b)該タンパク質定量混合物をインキュベートすることにより、着色錯体を形成する工程と、(c)着色錯体の吸光度を測定する工程と、(d)測定された吸光度と、既知の濃度のタンパク質を含有する試料から得られた吸光度とを比較することによって、該試料中のタンパク質濃度を決定する工程とを含む。
【0024】
タンパク質定量用試料としては、タンパク質を含有するまたは含有し得るいずれかの溶液、混合物、組成物などが挙げられる。例としては、尿、血清、血漿、脳脊髄液、細胞溶解物などの生体液が挙げられるが、これらに限定されない。例としてはまた、実験または研究手順と併用する試験溶液などが挙げられる。
【0025】
一実施形態では、タンパク質分析用試薬組成物は、約0.1mM〜約0.5mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、約0.05mM〜約0.4mMの濃度の金属と、約0.05%w/v〜約0.4%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、場合により、約0%v/v〜約10%v/vの濃度のメタノールと、約0.05%w/v〜約0.2%w/vの濃度のポリビニルピロリドンと、約25mM〜約200mMの濃度のバッファーとを含む。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態では、金属はモリブデンである。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。一実施形態では、組成物は更に、約0.05mM〜約2mMの濃度のキレート剤または約1mM〜約6mMの濃度の安息香酸ナトリウムの少なくとも1つを含む。一実施形態では、組成物は更に、約25mM〜約100mMの濃度のα-シクロデキストリンを含む。一実施形態では、組成物は、約pH1〜約pH4のpHを呈する。
【0026】
一実施形態では、タンパク質定量混合物は、着色錯体を形成するのに十分な時間インキュベートされる。一実施形態では、タンパク質定量混合物は、約2分〜約20分間インキュベートされ、着色錯体を形成する。一実施形態では、タンパク質定量混合物は、約5分間インキュベートされ、着色錯体を形成する。一実施形態では、タンパク質定量混合物は、約20℃〜約25℃、例えば室温でインキュベートされ、着色錯体を形成する。
【0027】
多様な実施形態では、タンパク質定量方法の工程の少なくとも1つは、試験管またはマルチウェルプレートのウェルにおいて行われる。
【0028】
一実施形態では、キットが提供される。一実施形態では、キットは、ピロカテコールバイオレットと、金属と、ポリビニルアルコールと、場合によりメタノールと、ポリビニルピロリドンと、バッファーと、キレート剤、安息香酸ナトリウムまたはα-シクロデキストリンの少なくとも1つとを含むタンパク質分析用試薬組成物と、既知の濃度の少なくとも1つのタンパク質と、キット構成要素を使用してタンパク質濃度を決定するための説明書とを具備する。一実施形態では、金属は、モリブデン、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウムもしくは銅、またはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態では、金属はモリブデンである。実施形態では、金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する。一実施形態では、金属は、モリブデン酸ナトリウムまたはタングステン酸ナトリウムである。
【0029】
以下の実施例は、本方法の実施形態を例示するものである。
【実施例1】
【0030】
ピロカテコールバイオレット-モリブデン錯体分析用試薬ストックの調製
940mlの超純水に、5.9gのコハク酸、0.14gのシュウ酸ナトリウムおよび0.5gの安息香酸ナトリウムを溶解した。ピロカテコールバイオレット溶液(40mlのメタノールに100mg溶解)を添加し、次いで16mlのモリブデン酸ナトリウム溶液(50mlの超純水に120mg溶解)を添加した。50%v/vHCl溶液を用いてpHを2.5に調節し、次いで2gのポリビニルアルコール(30〜70kD)および1gのポリビニルピロリドン(55kD)を添加した。溶液を、約20℃〜約25℃、例えば室温で一晩攪拌した。
【0031】
分析用試薬ストック中の成分の最終濃度は以下の通りであった。
50mMコハク酸
1.0mMシュウ酸ナトリウム
3.5mM安息香酸ナトリウム
0.26mMピロカテコールバイオレット
0.16mMモリブデン酸ナトリウム
4%(w/v)メタノール
0.2%(w/v)ポリビニルアルコール
0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン
【0032】
分析用試薬はまた、メタノールの代わりに超純水にピロカテコールバイオレットを溶解することによって、調製することができる。
【0033】
分析用試薬のスペクトル分析
吸収スペクトルを、340nm-800nmのVarian Cary分光光度計で記録し、結果のスペクトルを図2に示す。ウシ血清アルブミン(BSA)の濃度は、PCV+モリブデン酸塩(Mo(IV))+BSAでは100μgであり、PCV+モリブデン酸塩(Mo(IV))+2×BSAでは200μgであった。図2に示す結果は、660nmがタンパク質濃度を測定するのに適切な波長であることを示した。
【0034】
分析手順-試験管
生理食塩水に各BSA標準複製(25、50、125、250、500、750、1,000、1,500および2,000μg/ml)を0.1ml含有する各試験管に、1.5mlの分析用試薬溶液を添加し、よく混合し、約20℃〜約25℃、例えば室温で5分間インキュベートした。全ての試料および対照の吸光度を測定した。ブランク複製(対照)についての660nmでの平均吸光度を、他の全ての個々の標準複製についての660nmでの吸光度から減算した。図3に示す標準曲線は、各標準物に関する平均ブランク補正660nm測定値をその濃度(単位:μg/ml)に対してプロットすることによって生成した。結果は、BSAについての分析の直線検出範囲が25μg/ml〜2,000μg/mlであることを示していた。図4は、ウシガンマグロブリン(BGG)を用いた同手順を示しており、結果として、BGGについての分析の直線検出範囲は50μg/ml〜2,000μg/mlであった。
【0035】
分析手順-マイクロプレート
生理食塩水中に各BSA標準複製(25、50、125、250、500、750、1,000、1,500および2,000μg/ml)を0.01ml含有する各ウェルに、0.15mlの分析用試薬溶液を添加した。プレートを封止テープで覆い、プレートシェーカー上で1分間混合し、約20℃〜約25℃、例えば室温で5分間インキュベートした。プレートリーダーを660nmに設定し、対照をブランクとして使用し、全ての試料の吸光度を測定した。図5に示す標準曲線は、各標準物に関する平均ブランク補正660nm測定値をその濃度(単位:μg/ml)に対してプロットすることによって生成した。結果は、BSAについての分析の直線検出範囲が50μg/ml〜2,000μg/mlであることを示していた。図6は、ウシガンマグロブリン(BGG)を用いた同手順を示しており、結果として、BGGについての分析の直線検出範囲は50μg/ml〜2,000μg/mlであった。
【0036】
阻害物質との分析の適合性
大部分のイオン性および非イオン性洗剤、還元剤、バッファー、塩、有機溶媒などのいくつかの物質は、クマシー系ブラッドフォードタンパク質分析を妨害することが知られている。物質は、試料中の該物質の存在により生じる1mg/mlのBSAのタンパク質濃度予測の誤差が10%未満または10%に等しければタンパク質定量分析に適合していると考えられる。1mg/mlのBSA標準物+物質についての、ブランク補正した660nmでの吸光度測定値を、水中で調製した1mg/mlのBSA標準物の正味の660nm吸光度と比較した。多くの物質についての最大適合濃度を表1に示す。
【0037】
【表1A】

【表1B】

【0038】
表1に示すように、PVM法は、比較的高濃度の多くの洗剤、還元剤および他の一般に使用される試薬と適合性であった。
【0039】
適合濃度のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に対するα-シクロデキストリン添加の効果
表1に示すように、SDSは、最大0.0125%の濃度では、PVM法に適合性であった。分析用試薬組成物に50mMのα-シクロデキストリンを添加すると、SDSの適合濃度が最大約5%に増大した。また、α-シクロデキストリンの添加により、該分析が、トリス-グリシンSDS試料バッファー(63mM Tris-HCl、10%グリセロール、2%SDS、0.0025%ブロモフェノールブルー)と適合性になった。
【0040】
タンパク質間変動性
他の一般に使用される全タンパク質分析法は、タンパク質に対してある程度異なる応答を示す。これらの差異は、アミノ酸配列、等電点、構造、およびタンパク質の色応答を改変し得るいくつかの側鎖または補欠分子族の存在に関連する。多くのタンパク質分析法は、試料中のタンパク質濃度を決定する標準物としてBSAまたはBGGを使用する。表2は、典型的なPVMタンパク質分析のタンパク質間変動を示す。分析された全てのタンパク質を、試験管プロトコルを用いて、125μg/ml〜2,000μg/mlの一連の標準濃度で調製した。1mg/mlのBSAに関する平均応答を1に正規化し、1mg/mlの他のタンパク質に対する平均応答を、BSAによる応答との比として表した。表2に示すように、分析のタンパク質間変動性は中程度であり、許容可能であった。
【0041】
【表2】

【0042】
ピロカテコールバイオレット-モリブデン酸塩タンパク質分析と、クマシー系ブラッドフォードタンパク質分析との比較
PVM法を、試験管プロトコル用の上述のような標準物としてBSAを使用して行った。使用したブラッドフォードタンパク質法は、QUICK START(登録商標)(Bio-Rad、Hercules、CA)であり、製造業者の説明書に従って行われた。図7に示すように、PVM法は、クマシー系ブラッドフォード法と比べ、25μg/ml〜2,000μg/mlのBSAの作用範囲においてより直線的であった。
【0043】
PVMタンパク質分析の、Nano Drop分光光度計ND-1000との適合性
生理食塩水中BSAの各標準複製(0、125、250、500、750、1,000、1,500および2,000μg/ml)を0.01ml含有する各ウェル(96ウェルプレート)に、0.15mlの分析用試薬溶液を添加した。プレートを封止テープで覆い、プレートシェーカー上で1分間混合し、約20℃〜約25℃、例えば室温で5分間インキュベートした。660nmでのブランク測定値は、試料台上に2μlの対照を装填することによって得られた。その後、全ての試料の吸光度を660nmで測定した。図8に示すような標準曲線は、各標準物に関する平均ブランク補正660nm測定値をその濃度(単位:μg/ml)に対してプロットすることによって生成した。
【0044】
図8に示すように、PVMタンパク質分析は、Nano DropのND-1000分光光度計と適合性であった。
【0045】
本明細書中に示される参考文献の開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0046】
他の変形または実施形態も、上記図、説明および実施例から当業者にとっては明らかであろう。故に、上述の実施形態は、以下の特許請求の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約0.1mM〜約0.5mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、
約0.05mM〜約0.4mMの濃度の金属と、
約0.05%w/v〜約0.4%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、
場合により、約0%v/v〜約10%v/vの濃度のメタノールと、
約0.05%w/v〜約0.2%w/vの濃度のポリビニルピロリドンと、
約25mM〜約200mMの濃度のバッファーと、
約0.05mM〜約2mMの濃度のキレーター、または
約1mM〜約6mMの濃度の安息香酸ナトリウム
の少なくとも1つと
を含み、
pHが約pH 1〜約pH 4である、タンパク質分析用試薬組成物。
【請求項2】
前記金属が、モリブデン酸塩(molybdate)、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウム、銅およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属が、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記バッファーが、モノもしくはジ脂肪族もしくは芳香族カルボン酸または無機酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記キレーターが、シュウ酸ナトリウム、フィチン酸、シュウ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
約25mM〜約100mMの濃度のα-シクロデキストリンを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
0.26mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、
0.16mMの濃度のモリブデン酸ナトリウムと、
約0.2%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、
約4%の濃度のメタノールと、
約50mMの濃度のコハク酸と、
約1.0mMの濃度のシュウ酸ナトリウムと、
3.5mMの濃度の安息香酸ナトリウムと、
約0.1%w/vの濃度のポリビニルピロリドンと
を含み、
pHが約pH 2.5である、タンパク質分析用試薬組成物。
【請求項8】
約50mMの濃度のα-シクロデキストリンを更に含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
試料中のタンパク質濃度を測定するための方法であって、
(a)前記試料を、
約0.1mM〜約0.5mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、
約0.05mM〜約0.4mMの濃度の金属と、
約0.05%w/v〜約0.4%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、
場合により、約0%v/v〜約10%v/vの濃度のメタノールと、
約0.05%w/v〜約0.2%w/vの濃度のポリビニルピロリドンと、
約25mM〜約200mMの濃度のバッファーと、
約0.05mM〜約2mMの濃度のキレーター、または
約1mM〜約6mMの濃度の安息香酸ナトリウム
の少なくとも1つと
を含み、
pHが約pH 1〜約pH 4である、タンパク質分析用試薬組成物と混合する工程であって、前記試料を前記タンパク質分析用試薬組成物と組み合わせることにより、タンパク質定量混合物が得られる工程と、
(b)前記タンパク質定量混合物を、着色錯体を形成するのに十分な時間インキュベートする工程と、
(c)前記着色錯体の吸光度を測定する工程と、
(d)前記測定された吸光度と、既知の濃度のタンパク質を含有する少なくとも1つの試料から得られた吸光度とを比較することによって、前記試料中のタンパク質濃度を測定する工程と
を含む、方法。
【請求項10】
前記金属が、モリブデン酸塩、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウム、銅およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属が、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記バッファーが、モノもしくはジ脂肪族もしくは芳香族カルボン酸または無機酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記キレーターが、シュウ酸ナトリウム、フィチン酸、シュウ酸およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記タンパク質分析用試薬組成物が、約25mM〜約100mMの濃度のα-シクロデキストリンを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
(a)、(b)または(c)の少なくとも1つが、試験管内またはマルチウェルプレートのウェル内で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
タンパク質定量分析の、少なくとも1つの阻害物質を含有する試料との適合性を向上させる方法であって、
(a)前記試料を、
約0.1mM〜約0.5mMの濃度のピロカテコールバイオレットと、
約0.05mM〜約0.4mMの濃度の金属と、
約0.05%w/v〜約0.4%w/vの濃度のポリビニルアルコールと、
場合により、約0%v/v〜約10%v/vの濃度のメタノールと、
約0.05%w/v〜約2%w/vの濃度のポリビニルピロリドンと、
約25mM〜約200mMの濃度のバッファーと、
約0.05mM〜約2mMの濃度のキレーター、または
約1mM〜約6mMの濃度の安息香酸ナトリウム
の少なくとも1つと、
を含み、
pHが約pH 1〜約pH 4である、タンパク質分析用試薬組成物と混合する工程であって、前記試料を前記タンパク質分析用試薬組成物と組み合わせることにより、タンパク質定量混合物が得られる工程と、
(b)前記タンパク質定量混合物を、着色錯体を形成するのに十分な時間インキュベートする工程と、
(c)前記着色錯体の吸光度を測定する工程と、
(d)前記測定された吸光度と、既知の濃度のタンパク質を含有する少なくとも1つの試料から得られた吸光度とを比較することによって、前記試料中のタンパク質濃度を測定する工程とを含み、
前記阻害物質が、洗剤、還元剤、キレート剤、バッファー、試薬、溶媒およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記タンパク質定量分析の、少なくとも1つの阻害物質を含有する試料との適合性を向上させる、方法。
【請求項17】
前記金属が、モリブデン酸塩、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウム、銅およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記金属が、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ピロカテコールバイオレット、金属、ポリビニルアルコール、場合によりメタノール、ポリビニルピロリドン、バッファー、および、キレーターまたは安息香酸ナトリウムの少なくとも1つを含むタンパク質分析用試薬組成物と、
前記キット構成要素を用いてタンパク質濃度を測定するための説明書と
を具備する、タンパク質濃度を測定するためのキット。
【請求項20】
前記金属が、モリブデン酸塩、タングステン、ビスマス、トリウム、ウラニウム、バナジウム、銅およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記金属が、ナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩として存在する、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
前記バッファーが、モノもしくはジ脂肪族もしくは芳香族カルボン酸または無機酸である、請求項19に記載のキット。
【請求項23】
前記キレーターが、シュウ酸ナトリウム、フィチン酸、シュウ酸およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる群から選択される、請求項19に記載のキット。
【請求項24】
前記タンパク質分析用試薬組成物の成分として、または別個に、α-シクロデキストリンを更に含む、請求項19に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−186479(P2009−186479A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−26166(P2009−26166)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(508020074)ピアス・バイオテクノロジー・インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】