説明

ピロロキノリンキノン含有組成物

【課題】ピロロキノリンキノンの安定性、吸収性が向上したピロロキノリンキノンおよびその製造方法、並びに、ピロロキノリンキノンの安定化方法や変色方法を提供する。
【解決手段】ピロロキノリンキノンとリン酸カルシウム系化合物とを混合することにより、安定性、吸収性が向上したピロロキノリンキノン含有組成物、および前記ピロロキノリンキノン含有組成物の製造方法。前記ピロロキノリンキノン含有組成物を使用することで着色料を用いることなくピロロキノリンキノンの色を変化させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノンと、リン酸カルシウム系化合物とを含んでなる、ピロロキノリンキノン含有組成物およびその製造方法に関する。本発明は、また、ピロロキノリンキノンの安定化方法や変色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」と表すことがある)は、新しいビタミンの可能性があることが提案されて(非特許文献1)、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。PQQは、細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。PQQについては、近年までに、細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用、グリオキサラ−ゼI阻害作用、制癌作用など多くの生理活性が明らかにされている。よって、PQQは、安定性や吸収性がより向上されることが求められている。吸収性を向上させる一般的な方法としては、シクロデキストリンによる包接化やリポソーム化が知られている。しかしながら、シクロデキストリンはそれ自体が高価であり、また、リポソーム化は製造に費用がかかる。そのため、より安価で簡便に吸収性を向上させる方法が求められている。
【0003】
また、ピロロキノリンキノンやその塩は赤から濃赤色であるが、アスコルビン酸等の物質と反応すると黒く変色する。黒色は見た目が好ましく思われないことが多く、そのため、変色させないようにする技術が求められている。一方、食品等の嗜好性の観点から、赤色も好ましく思われないことが多い。着色料により色を変える方法もあるが、濃い赤色は十分に色を変えることが困難であり、また、近年では、着色料の添加が好まれない傾向にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】nature,vol.422, 24 April, 2003, p832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ピロロキノリンキノンの安定性、吸収性が向上したピロロキノリンキノンおよびその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、また、ピロロキノリンキノンの安定化方法や変色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、今般、ピロロキノリンキノンとリン酸カルシウム系化合物とを混合することにより、ピロロキノリンキノンの安定性、吸収性が向上したピロロキノリンキノン含有組成物を製造できることを見出した。本発明者らは、また、該ピロロキノリンキノン含有組成物を使用することで着色料を用いることなくピロロキノリンキノンの色を変化させることできることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを含んでなる、ピロロキノリンキノン含有組成物。
(2)ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合して得られる、(1)に記載の組成物。
(3)混合するピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比が、1:20〜1:10000である、(2)に記載の組成物。
(4)ピロロキノリンキノンまたはその塩を溶液として用い、該溶液のpHが、2〜8である、(2)または(3)に記載の組成物。
(5)ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とが複合体を形成してなる、(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)複合体が、ピロロキノリンキノンまたはその塩がリン酸カルシウム系化合物へ吸着して形成される、(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)カルボニル反応性物質、アルカリ、または多価カルボン酸をさらに含んでなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のピロロキノリンキノン含有組成物の乾燥物。
(9)ピロロキノリンキノンまたはその塩の安定化方法であって、ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合させることを含んでなる、方法。
(10)ピロロキノリンキノンまたはその塩の変色方法であって、リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩と、着色用物質を混合させることを含んでなる、方法。
【0008】
本発明によれば、安定性や吸収性が向上したピロロキノリンキノンを製造することができる。本発明によれば、また、目的の色のピロロキノリンキノンを製造することができる。本発明によれば、安定性や吸収性が向上し、さらには目的の色に変化させたピロロキノリンキノンを効率的に製造できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0009】
ピロロキノリンキノン含有組成物およびその製造方法
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、ピロロキノリンキノンとリン酸カルシウム系化合物とを含んでなる。
【0010】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンは、下記式(1)で表される化合物を意味する。
【化1】

【0011】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンは、ピロロキノリンキノン(フリー体)として使用することもできるし、ピロロキノリンキノンの塩として使用することもできる。
【0012】
本発明において用いられる「ピロロキノリンキノンの塩」としてはピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられるが、好ましくは、アルカリ金属塩である。
【0013】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、ルビジュウムなどの塩が挙げられる。好ましくは、入手しやすい点で、ナトリウム塩およびカリウム塩がより好ましい。ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩における塩の置換数は、1〜3であり、モノアルカリ金属塩、ジアルカリ金属塩、トリアルカリ金属塩のどれでも良いが、好ましくは、ジアルカリ金属塩である。ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩として、特に好ましくは、ジナトリウム塩およびジカリウム塩である。
【0014】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンまたはその塩は、入手しやすい点で、好ましくは、フリー体、ジナトリム塩、またはジカリウム塩である。
【0015】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンまたはその塩は、市販されているものを入手することができるし、公知の方法により製造することができる。例えば、ピロロキノリンキノンまたはその塩は、有機化学的合成法(JACS、第103巻、第5599〜5600頁(1981))、発酵法(特開平1−218597号公報)などの方法により得たPQQをクロマトグラフィーに供し、流出液中のPQQ区分を濃縮して、晶析により結晶化し(特表2006−508519号公報)、乾燥して得ることができる。
【0016】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンは、後述する他の素材と組み合わせることにより、還元型ピロロキノリンキノンとなってもよい。
【0017】
本発明において用いられるリン酸カルシウム系化合物は、リン酸(P)とカルシウム(Ca)とが化学的に結合されたリン酸カルシウムであれば、その種類は特に限定されず、水和物であってもよい。リン酸カルシウム系化合物のCa/Pモル比は、0.2〜4.0とすることができ、好ましくは、1.0〜2.0である。リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、3リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)、フッ素リン灰石(フッ素アパタイト)等のアパタイト、リン酸二水素カルシウム(第一リン酸カルシウム)、リン酸一水素カルシウム(第二リン酸カルシウム)、リン酸三カルシウム(第三リン酸カルシウム)、リン酸四カルシウム、またはこれらの水和物等が挙げられる。好ましくは、3リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、またはリン酸三カルシウムであり、より好ましくは、3リン酸カルシウムである。
【0018】
本発明において用いられるリン酸カルシウム系化合物が水和物である場合、水和物としては、例えば、0.5〜10水和物等が挙げられるが、好ましくは、二水和物である。
【0019】
本発明において用いられるリン酸カルシウム系化合物は、経口摂取においても害がないだけでなく、細胞レベルでも毒性がない点で有利である。また、リン酸カルシウム系化合物は、細胞内でピロロキノリンキノンまたはその塩を遊離させることができ、また、リン酸カルシウム系化合物自身の溶解が期待できる点で有利である。
【0020】
本発明において用いられるリン酸カルシウム系化合物は、市販されているものを入手することもできるし、公知の方法により製造することもできる。
【0021】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合することにより製造することができる。
【0022】
本願明細書において、「混合」については、一方の混合対象物を他方の混合対象物に添加して行うこともできるし、混合対象物を別の容器に添加して行うこともできる。
【0023】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンまたはその塩の量は、リン酸カルシウム系化合物と接触できれば特に限定されないが、リン酸カルシウム系化合物に対して過剰量で混合させることができる。
【0024】
ピロロキノリンキノンまたはその塩の量が、リン酸カルシウム系化合物に対して過剰量であるか否かは、リン酸カルシウム系化合物の比表面積に基づいて決定することができる。具体的には、リン酸カルシウム系化合物の比表面積に対して接触できるピロロキノリンキノンまたはその塩の量を超えた場合に、リン酸カルシウム系化合物に対して過剰量であるということができる。
【0025】
本発明において、「リン酸カルシウム系化合物の比表面積」は、リン酸カルシウム系化合物の質量あたりの表面積を意味する。リン酸カルシウム系化合物の比表面積は、市販の比表面積測定装置を用いて測定することができる。リン酸カルシウム系化合物の比表面積は、使用するリン酸カルシウム系化合物により異なるが、0.1〜500m/gとすることができる。例えば、ヒドロキシアパタイトの比表面積は、1〜500m/g、好ましくは、50〜60m/gとすることができる。
【0026】
ピロロキノリンキノンまたはその塩の、リン酸カルシウム系化合物の比表面積に対する最大量は、使用するリン酸カルシウム系化合物や温度条件等に基づいて、当業者であれば適宜決定することができる。
【0027】
混合させるピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比は、例えば、1:0.1〜1:10000とすることができるが、好ましくは、1:20〜1:10000、より好ましくは、1:50〜1:1000、さらに好ましくは、1:50〜1:500とすることができる。
【0028】
ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合させる工程(以下、「混合工程」ということがある)は、ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを接触させることができればよく、例えば、溶媒中で行うことができる。
【0029】
具体的には、ピロロキノリンキノンまたはその塩の溶液とリン酸カルシウム系化合物とを混合することもできるし、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とを混合させた後、溶媒と混合することもできる。例えば、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物を混合しておき、口腔内、胃、腸で溶媒に相当する唾液、胃液等と接触させることもできる。
【0030】
混合工程において、ピロロキノリンキノンまたはその塩を、ピロロキノリンキノンまたはその塩の溶液として使用する場合、用いられる溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド、エタノール、プロピレングリコール、イソプロパノール、グリセリン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。製品に残留しても大きな問題とならないという点から、水(水溶液)が好ましい。
【0031】
ピロロキノリンキノンまたはその塩の溶液は、例えば、0.01〜40g/Lとなるように調製することができるが、好ましくは、0.5〜15g/Lである。
【0032】
ピロロキノリンキノンまたはその塩の溶液のpHは、1〜9であり、好ましくは、2〜8であり、より好ましくは、2.5〜7であり、さらにより好ましくは、2.5〜4である。pHを調整するために、酸性物質(例えば、塩酸等)やアルカリ性物質(例えば、水酸化ナトリウム等)を使用することができる。
【0033】
混合工程を行う温度は特に制限はないが、例えば、−20℃〜200℃であり、操作性の観点から、好ましくは、4℃〜140℃とすることができる。安定性、操作性を考慮して適宜決定することができるが、20〜130℃とすることによりピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との相互作用を早く完了させることができる。
【0034】
混合工程を行う時間は特に制限はないが、1分から7日程度で行うことができる。5分から3日が実際的に使用することができる。
【0035】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物において、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とは複合体を形成することができる。
【0036】
ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との複合体においては、ピロロキノリンキノンまたはその塩は、リン酸カルシウム系化合物の表面に吸着することができる。すなわち、ピロロキノリンキノンまたはその塩と、溶解性の低いリン酸カルシウム系化合物とを、溶媒中で混合させることにより、ピロロキノリンキノンまたはその塩をリン酸カルシウム系化合物に吸着させることができる。ここで、「吸着」とは、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との相互作用により、ピロロキノリンキノンまたはその塩がリン酸カルシウム系化合物の表面に濃縮(集合)されることを意味する。相互作用は、化学結合を伴わないもの(物理吸着)であっても、化学結合を伴うもの(化学吸着)であってもよいが、好ましくは、化学結合を伴うものである。
【0037】
本発明によれば、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とからなる複合体が提供される。
【0038】
本発明によれば、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とからなる複合体の製造方法であって、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とを混合することを含んでなる製造方法が提供される。ここで、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比は、1:20〜1:10000とすることができる。また、ピロロキノリンキノンまたはその塩を溶液として用いる場合は、該溶液のpHを、2〜8とすることができる。
【0039】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とを含んでなる懸濁液として提供することもできるし、該懸濁液から分離された固体(沈殿物)として提供することもできる。例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションで分離することができる。また、これを水洗やアルコールで洗うこともできる。さらに乾燥して固体(粉末)を得ることも可能である。乾燥法としては、減圧乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
【0040】
本発明によれば、本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物の乾燥物が提供される。
【0041】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物において、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比(特には、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物における複合体の重量比)は、1:20〜1:10000、好ましくは、1:50〜1:1000、より好ましくは、1:50〜1:500とすることができる。
【0042】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、飲食品、医薬、化粧品、園芸、酪農、研究用途において用いることができる。ピロロキノリンキノン含有組成物は、ピロロキノリンキノン含有組成物自体を飲食品、医薬、化粧品、園芸品、酪農品、試験または研究用試薬とすることもできるし、他の成分と組み合わせて飲食品、医薬、化粧品、園芸品、酪農品、試験または研究用試薬とすることもできる。例えば、飲食品において用いる場合、飲食品を構成する成分にピロロキノリンキノン含有組成物を添加することにより目的の飲食品(ピロロキノリンキノン含有飲食品)を製造することができる。
【0043】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物の投与剤形は、特に制限されることなく、使用する用途により適宜選択することができる。本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、経口摂取用組成物として、例えば、ヒト用または動物用の食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品として使用することができる。ここでいう機能性食品とは、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、栄養保険食品等、健康の維持あるいは食事にかわり栄養補給の目的で摂取する食品を意味している。具体的な形態としてはカプセル剤、タブレット、チュアブル、錠剤、ドリンク剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防菌防黴剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等を用いることができる。一般的には通常の食品、例えば味噌、醤油、インスタントみそ汁、ラーメン、焼きそば、カレー、コーンスープ、マーボードーフ、マーボーなす、パスタソース、プリン、ケーキ、パン等に加えることも可能である。
【0045】
医薬として製品化する場合には、薬剤学的に許容されている製剤素材を常法により適宜添加混合することができる。添加しうる製剤素材としては特に限定されず、例えば、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、矯臭剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤などが挙げられる。
【0046】
化粧品、園芸品、酪農品、試験または研究用試薬として製品化する場合も、それぞれ、各分野で許容されている製剤素材を常法により適宜添加混合することができる。
【0047】
また、使用する用途により、注射剤、輸液、液剤、点眼剤、内服用液剤、ローション剤、ヘヤートニック、化粧用乳液、スプレー液、エアロゾル、ドリンク液、液体肥料、保存用溶液、研究用試薬として用いることができる。
【0048】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、他の素材と組み合わせても使用することもできる。組み合わせ可能な素材としては、例えば、ビタミンB 群、ビタミンC およびビタミンE 等のビタミン類、アミノ酸類、アスタキサンチン、α-カロテン、β-カロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類、アラキドン酸等のω6脂肪酸類、リン脂質等が挙げられる。後述する着色用物質と組み合わせても使用することもできる。
【0049】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物を懸濁液の形態で使用する場合は、好適には、飲料、化粧品、培地として用いることができる。本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物を乾燥物の形態で使用する場合は、好適には、飲食品、化粧品、培地、医薬品の製造に用いることができる。
【0050】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物の保存方法としては、特に限定されず、低温保存、密閉容器による嫌気的保存、遮光保存などを用いることができる。
【0051】
本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物は、冷蔵あるいは室温で保存した際に、析出物なく安定に保存できる。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、ピロロキノリンキノンまたはその塩を含むpH2〜8の溶液と、リン酸カルシウム系化合物とを、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比を1:20〜1:10000で混合して得られる、ピロロキノリンキノン含有組成物である。
【0053】
本発明の好ましい態様によれば、ピロロキノリンキノンまたはその塩を含むpH2〜8の溶液と、リン酸カルシウム系化合物とを、ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比を1:50〜1:500で混合して得られる、ピロロキノリンキノン含有組成物である。
【0054】
ピロロキノリンキノンの安定化方法
本発明によれば、また、ピロロキノリンキノンの安定化方法であって、ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合させることを含んでなる方法が提供される。本発明の安定化方法によれば、ピロロキノリンキノンの化学的安定性や吸収性を向上させることができ、また、色の安定性も向上させること(すなわち、黒色等の好ましくない色への変化を抑制すること)ができる。
【0055】
ピロロキノリンキノンの変色方法
本発明によれば、さらに、ピロロキノリンキノンまたはその塩の変色方法であって、リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩と、着色用物質を混合させることを含んでなる方法が提供される。本発明の変色方法によれば、着色料を使用せずに、ピロロキノリンキノンまたはその塩を変色させることができる。
【0056】
本願明細書において「変色」とは、元の色から別の色に変化することを意味し、必ずしも退色を意味するものではない。
【0057】
本発明の変色方法において使用されるリン酸カルシウム系化合物は、特に限定されないが、3リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)、フッ素リン灰石(フッ素アパタイト)等のアパタイト、リン酸二水素カルシウム(第一リン酸カルシウム)、リン酸一水素カルシウム(第二リン酸カルシウム)、リン酸三カルシウム(第三リン酸カルシウム)、リン酸四カルシウム、またはこれらの水和物等が挙げられる、好ましくは、アパタイト、より好ましくは、ヒドロキシアパタイトである。
【0058】
ピロロキノリンキノンは赤〜濃赤色であるが、リン酸カルシウム系化合物を混合するとピロロキノリンキノンまたはその塩はピンク色になる。これに、さらに着色用物質を混合させることにより、目的の色に変化させることができる。
【0059】
本願明細書において「着色用物質」とは、リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩の色を変化させることができる物質を意味する。着色用物質としては、例えば、カルボニル反応性物質、アルカリ、多価カルボン酸が挙げられる。
【0060】
本発明の変色方法において使用されるカルボニル反応性物質は、カルボニル基と反応する物質を意味し、例えば、還元剤、アミノ基含有化合物等が挙げられる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、NADPH、グルタチオン、ナトリウムボロハイドライド等が挙げられる。アミノ基含有化合物としては、例えば、アミノ酸(システイン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、ヒスチジン、アスパラギン、アラニン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファン、チロシン等)等が挙げられる。
【0061】
本発明の変色方法において使用されるアルカリとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、コリン水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、生石灰、石灰、リン酸トリナトリウム、リン酸トリカリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0062】
本発明の変色方法において使用される多価カルボン酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0063】
具体的には、リン酸カルシウム系化合物としてヒドロキシアパタイトを使用する場合、着色用物質としてカルボニル反応性物質を使用することによりピロロキノリンキノンまたはその塩を青色にすることができ、着色用物質としてアルカリを使用することによりピロロキノリンキノンまたはその塩を黄色にすることができ、また、着色用物質として多価カルボン酸を使用することによりピロロキノリンキノンまたはその塩を白色にすることができる。
【0064】
本発明の変色方法で使用される「リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩」は、本発明によるピロロキノリンキノン含有組成物を使用することができる。ここで、使用されるピロロキノリンキノン含有組成物は、好ましくは、懸濁液または粉末である。
【0065】
リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩と、着色用物質とを混合させる温度は、特に制限はないが、一般的な取り扱いやすさの点から、−20℃〜200℃、より好ましくは、4℃〜140℃とすることができる。
【0066】
リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩と、着色用物質とを混合させる時間は、0.5時間から7日で行うことができるが、好ましくは、1時間から3日である。
【0067】
リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩と、着色用物質とを混合させるpHは、特に制限はないが、一般的な取り扱いやすさの点から、0.5〜14、より好ましくは、1〜8とすることができる。
【0068】
変色したピロロキノリンキノンまたはその塩は、懸濁液として提供することもできるし、該懸濁液から分離された固体として提供することもできる。例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションで分離することができる。また、これを水洗やアルコールで洗うこともできる。さらに減圧乾燥で乾燥して固体(粉末)を得ることも可能である。
【0069】
色を変えたピロロキノリンキノンまたはその塩は単独で使用することもできるし、混合して使用することもできる。異なる色を組み合わせて混合する場合、さらに別の色にすることができる。
【実施例】
【0070】
実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。また、特に断りのない限り本文中の%は重量%を示す。
【0071】
実施例I:ピロロキノリンキノンに対するリン酸カルシウム系化合物の作用の確認
ピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱瓦斯化学社製)2g/L水溶液を、塩酸および水酸化ナトリウムで表1に示すpHに調整し、該水溶液4mlを、3リン酸カルシウム(太平化学産業社製)、リン酸水素カルシウム二水和物(和光純薬工業社製)、リン酸三カルシウム(和光純薬工業社製)それぞれ0.5gと混合し、40℃で1.5時間置いた。得られた混合物(懸濁液)を遠心分離し、上清をリン酸バッファー(和光純薬工業社製;pH7.4)で希釈したものをUVスペクトル(日立社製)測定し、上清のピロロキノリンキノンジナトリウム濃度を測定した。ピロロキノリンキノンジナトリウムの減少量を、各リン酸カルシウム系化合物へ吸着した量とし、リン酸カルシウム系化合物1g当たりの吸着量として算出した(実施例1〜12)。
【0072】
ピロロキノリンキノンジナトリウム2g/Lの水溶液を、塩酸および水酸化ナトリウムでpH3.5に調整し、該水溶液4mlを、酸化アルミニウム(活性アルミナ;和光純薬工業社製)、シリカゲル(ワコーゲルーC100;和光純薬工業社製)、大豆レシチン(和光純薬工業社製)それぞれ1gと混合し、40℃に1.5時間置いた。得られた混合物を遠心分離し、上清をリン酸バッファー(pH7.4)で希釈したものをUVスペクトル測定し、上清のピロロキノリンキノンジナトリウム濃度を測定した。ピロロキノリンキノンジナトリウムの減少量を、各物質への吸着量とし、各物質1g当たりの量として算出した(比較例1〜3)。
【0073】
その結果は以下の通りであった。
【表1】

【0074】
ピロロキノリンキノンは、広範囲のpHで各種リン酸カルシウムに吸着することが確認された(実施例1〜12)。また、ピロロキノリンキノンは、各種リン酸カルシウムに比べてやや少ないが酸化アルミニウムにも吸着することが確認された(比較例1)。一方、ピロロキノリンキノンは、シリカゲルや大豆レシチンには吸着しないことが確認された(比較例2および3)。特に、大豆レシチンは分離していた。
【0075】
実施例II:アスコルビン酸による変性試験
ピロロキノリンキノンジナトリウム水溶液2g/L(pH3.5)16mlを、3リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物それぞれ4gと混合し、50℃で一晩処理した(ともに1gリン酸カルシウム当たり、ピロロキノリンキノン8mg吸着相当)。得られた懸濁液1mlに0.2%アスコルビン酸水溶液を0.1ml加え、アスコルビン酸処理に対するピロロキノリンキノンの安定性を確認した(実施例13および14)。対照として、アスコルビン酸処理を行わずにピロロキノリンキノンの安定性を確認したものを比較例6および7とした。また、比較例1および2で得られた混合物1mlに0.2%アスコルビン酸水溶液を0.1ml加え、アスコルビン酸処理に対するピロロキノリンキノンの安定性を確認したものを比較例4および5とした。
【0076】
アスコルビン酸処理による変化は目視により確認した。ピロロキノリンキノンの安定性は、抽出試験により確認した。具体的には、2%リン酸ジナトリウム水溶液(pH9.2)を用いてピロロキノリンキノンジナトリウムの抽出を行い、抽出回収率(抽出量/リン酸カルシウムへ吸着したピロロキノリンキノンジナトリウムの全量)を算出し、これをピロロキノリンキノンの安定性の指標とした。
【0077】
その結果は以下の通りであった。
【表2】

【0078】
リン酸水素カルシウム二水和物で処理したピロロキノリンキノンジナトリウムは、アスコルビン酸処理を行っても変色がなく、また、抽出回収率も高く、化学的に安定化していることが確認された(実施例14および比較例7)。3リン酸カルシウムで処理したピロロキノリンキノンジナトリウムは、青い色に変色するが、抽出回収率は大きく減少しておらず、化学的に安定化していることが確認された(実施例13および比較例6)。一方、酸化アルミニウムで処理したピロロキノリンキノンジナトリウムは、茶色に変化し、また、ピロロキノリンキノンジナトリウムを抽出できなかった(比較例4)。また、シリカゲルで処理したピロロキノリンキノンジナトリウム(すなわち、未処理に相当)は、黒色に変化し、また、ピロロキノリンキノンジナトリウムを抽出できなかった(比較例5)。
【0079】
以上の結果から、リン酸カルシウムで処理したピロロキノリンキノンは、アスコルビン酸と接触しても食品として好ましくないような変色はせず、また、アスコルビン酸に対して化学的に安定であることが分かった。
【0080】
実施例III:変色実験
実施例13で得られた懸濁液1mlに表3で示す各種物質を10mg(8N 水酸化ナトリウムのみ20mg)添加して色の変化を観察した(実施例15〜19)。ピロロキノリンキノンジナトリウム水溶液2g/L 1mlに8N 水酸化ナトリウム20mgを添加したものを比較例8、アスコルビン酸(還元性または付加性を有する物質)10mgを添加したものを比較例9とした。
【0081】
その結果は以下の通りであった。
【表3】

【0082】
リン酸カルシウム系化合物による処理後のピロロキノリンキノンジナトリウムは淡いピンク色であるが、各種物質で処理を行うことにより白色、青色、黄色に変化させることができることが確認された(実施例15〜19)。一方、リン酸カルシウム系化合物による処理を行わないピロロキノリンキノンではこのような変化は生じないか(比較例8)、あるいは、黒色に変化した(比較例9)。
【0083】
実施例VI:細胞吸収性試験
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO;大日本住友製薬より入手)を一つの穴に6000個になるように細胞を撒き、1日後、試験培地100μlに交換した。試験培地は、実施例1および4で得られた混合物をオートクレーブ処理後に培地で希釈したものを実施例20および21とした。3リン酸カルシウム(単独)を培地で希釈したものを比較例10、ピロロキノリンキノンジナトリウム(リン酸カルシウム系化合物処理なし)を培地で希釈したものを比較例11とした。培地はα‐MEMに10%牛胎児血清を添加したものを使用し、試験培地の濃度は1000μMから1/2ずつ希釈して1μMまで準備した。5%CO2インキュベーター内で培養し、2日後、培地を抜き、新しい培地で洗浄後、同仁化学製Cell counting kit−8を使って処理し、450nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。各条件2個測定し、その平均値で解析した。
【0084】
増殖阻害濃度(細胞濃度が減少始める濃度)および増殖促進濃度(細胞濃度がふえる濃度)のピロロキノリンキノンによる影響を測定し、吸収性を評価した。
【0085】
その結果は以下の通りであった。
【表4】

【0086】
ピロロキノリンキノンジナトリウム単独(比較例11)と比べて、増殖阻害濃度、増殖促進濃度ともに低濃度化していることが確認された(実施例20および21)。これは吸収性が向上していることを示している。なお、リン酸カルシウム自身は増殖に悪影響を与えていない(比較例10)。水溶性のピロロキノリンキノンは細胞膜を通過できないが、リン酸カルシウム系化合物で処理することで粒子としての取り込みが生じるエンドサイトーシスにより、細胞への吸収性が上がっていると考えられる。
【0087】
実施例VII:色分析試験
実施例2、6および10で得られた混合物を実施例22〜24とし、3リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、ピロロキノリンキノンジナトリウムをそれぞれ比較例12〜15とし、これらを遠心分離した後、減圧乾燥(80℃)を3時間行い、粉末を得た。キャノンMP500を使って粉末状態の写真を取り込み、ウインドーズXP付属のペイントソフトを使用して色分析を行った。その結果は以下の通りであった。
【表5】

【0088】
リン酸カルシウム系化合物はいずれも白色であった(比較例12〜14)。ピロロキノリンキノンジナトリウムは茶色であった(比較例15)。これに対し、実施例22および24は薄いグレー色であり、実施例25は薄いピンク色であり、比較例12〜14と比較して明るさが下がっていることが確認された。また、色成分をみると、ピロロキノリンキノンジナトリウムでは、赤に比べて緑と青の比率が低くなっているが、リン酸カルシウム系化合物で処理されることにより、赤、緑、青の比率の差が小さくなり、赤色が目立たなくなることが分かった。リン酸カルシウム系化合物での処理により赤、緑、青の比率が大きく変わっていることから、ピロロキノリンキノンジナトリウムとリン酸カルシウム系化合物との相互作用(吸着)が化学結合を伴うもの(化学吸着)である可能性が示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを含んでなる、ピロロキノリンキノン含有組成物。
【請求項2】
ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合して得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
混合するピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物との重量比が、1:20〜1:10000である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ピロロキノリンキノンまたはその塩を溶液として用い、該溶液のpHが、2〜8である、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
ピロロキノリンキノンまたはその塩とリン酸カルシウム系化合物とが複合体を形成してなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
複合体が、ピロロキノリンキノンまたはその塩がリン酸カルシウム系化合物へ吸着して形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
カルボニル反応性物質、アルカリ、または多価カルボン酸をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のピロロキノリンキノン含有組成物の乾燥物。
【請求項9】
ピロロキノリンキノンまたはその塩の安定化方法であって、ピロロキノリンキノンまたはその塩と、リン酸カルシウム系化合物とを混合させることを含んでなる、方法。
【請求項10】
ピロロキノリンキノンまたはその塩の変色方法であって、リン酸カルシウム系化合物と混合させたピロロキノリンキノンまたはその塩と、着色用物質を混合させることを含んでなる、方法。

【公開番号】特開2013−66430(P2013−66430A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207651(P2011−207651)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】