説明

ピロロ[1,2−b]ピリダジン化合物及びそのCRF1受容体拮抗剤としての使用

新規なCRF受容体拮抗剤、並びに、不安症及びうつ病のような、CRF若しくはCRF受容体と関連するか、又は、CRFの過剰分泌を現すことを含む、種々の疾患の治療のためのそれらの使用を開示する。本発明のCRF受容体拮抗剤は、式(I)の構造を有し、式(I)中のRはH又はMeであり、立体異性体又は立体異性体の混合物、製薬上受容可能なプロドラッグ、又はその製薬上受容可能な塩を含んでいる。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体としてCRF受容体に結合する化合物、特に、CRF1受容体拮抗剤としての置換されたピロロ[1,2−b]ピリダジン誘導体、及び、CRF又はCRF1受容体に関連した疾患の治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コルチコトロピン放出因子(CRF)は41個のアミノ酸のペプチドであり、脳下垂体前葉からのプロオピオメラノコルチン(POMC)由来ペプチド分泌の主要な生理学的な調節因子である〔J. Rivier et al., Proc. Natl. Acad. Sci (USA) 80: 4851 (1983); W. Vale et al., Science 213: 1394 (1981) 〕。脳下垂体におけるその内分泌作用に加えて、CRFはCNSにおいて広範に視床下部外で分布していることが知られており、そこでは、脳における神経伝達物質又は神経調節因子と呼応して広いスペクトラムの自律行動的及び生理的な作用に寄与している〔W. Vale et al., Rec. Prog. Horm. Res. 39: 245 (1983); G. F. Koob, Persp. Behav. Med. 2: 39 (1985); E. B. De Souza et al., J. Neurosci. 5: 3189 (1985)〕。CRFが、生理学的、心理学的及び免疫学的ストレス因子に対する免疫システムの応答の統合において、うつ病、不安関連障害及び摂食障害のような精神障害及び神経性疾患において、並びに、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear plasy)及び筋萎縮性側索硬化症の病因及び病態生理学において(それらが中枢神経系のCRFニューロンの機能障害に関連しているために)、重要な働きを果たしているとの証拠が存在する〔J. E. Blalock, Physiological Reviews 69 : 1 (1989); J. E. Morley, Life Sci. 41: 527 (1987); E. B. De Souze, Hosp. Practice 23: 59 (1988)〕。
【0003】
CRFは、気分障害(情動障害としても知られている)の病因と考えられてきていた。情動障害、又は大うつ病において、脳脊髄液(CSF)中でのCRFの濃度が顕著に増加していることがわかっていた〔C. B. Nemeroff et al., Science 226: 1342 (1984); C. M. Banki et al., Am. J. Psychiatry 144: 873 (1987); R. D. France etal., Biol. Psychiatry 28: 86 (1988); M. Arato et al., Biol. Psychiatry 25: 355 (1989)〕。さらに、自殺者の前頭皮質では、CRF受容体の密度は顕著に減少し、CRFの過剰分泌を伴っていた〔C. B. Memeroff et al., Arch. Gen. Psychiatry 45 : 577 (1988)〕。またさらに、CRFに対する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の応答がうつ患者において鈍くなったことが観察されている〔P. W. Gold et al., Am. J. Psychiatry 141: 619 (1984); F. Holsboer et al., Psychoneuroendocrinology 9: 147 (1984); P. W. Gold et al., New Engl. J. Med. 314: 1129 (1986)〕。ラット及び非ヒト霊長類での前臨床実験により、CRFの過剰分泌がヒトのうつ病で見られる症状に関連しているかもしれないという仮説を支持するさらなる証拠が提供された〔R. M. Sapolsky, Arch. Gen. Psychiatry 46: 1047 (1989)〕。また、三環式抗うつ剤によりCRFのレベルを変更でき、それにより、脳の受容体の数を調整するという予備的証拠も存在する〔Grigoriadis etal., Neuropsychopharmacology 2 : 53 (1989)〕。
【0004】
CRFはまた不安関連疾患の病因とも考えられてきた。不安障害は、恐怖性障害、不安神経症(anxiety state)、心的外傷後ストレス障害、及び、非定型不安障害を包含する一つの疾患群であるとして、当技術分野で認識されている〔The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 16th edition (1992)〕。情動ストレスはしばしば不安障害の増悪因子であり、そしてそうした障害には、一般にストレス応答を軽減する医薬が効果を現す。過剰量のCRFは、動物モデルで不安惹起作用を有することが知られている〔例えばBritton et al., 1982; Berridge and Dunn, 1986 and 1987を参照せよ〕。ベンゾジアゼピン/非ベンゾジアゼピン不安緩解剤とCRFとの間の相互作用が種々の行動不安モデルで証明されてきた〔D. R. Britton e tal., Life Sci. 31: 363 (1982); C. W. Berridge and A. J. Dunn, Regul. Peptides 16: 83 (1986)〕。種々の行動パラダイムにおいて、CRF受容体拮抗剤と推定されるヒツジのα−ヘリカルCRF(9〜41)を用いた研究により、この拮抗剤は、定性的にベンゾジアゼピンに似た「不安緩解剤様」作用をもたらすことが証明された〔C. W. Berridge and A. J. Dunn, Horm. Behav. 21: 393 (1987), Brain Research Reviews 15: 71 (1990); G. F. Koob and K. T. Britton, In:Corticotropin-Releasing Factor. Basic and Clinical Studies of a Neuropeptide, E. B. De Souza and C. B. Nemeroff eds., CRC Press p. 221 (1990)〕。神経化学的、内分泌及び受容体結合試験は全てCRFとベンゾジアゼピン不安緩解剤との間の相互作用を証明し、それらの疾患におけるCRFの関与のさらなる証拠を与えている。クロロジアゼポキシドは、このCRFの「不安惹起」作用を、ラットでの葛藤試験(conflict test)〔K. T. Britton et al., Psychopharmacology 86 : 170 (1985); K. T. Britton et al., Psychopharmacology 94: 306 (1988)〕及び音響驚愕試験(acoustic startle test)〔N. R. Swerdlow et al., Psychopharmacology 88: 147 (1986)〕において軽減する。ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤Ro15−1788は、行動活性だけがないオペラント葛藤試験において、用量依存的な様式でCRFの作用を逆転させ、一方、ベンゾジアゼピンの逆作動剤のFG7142はCRFの作用を増強した〔K. T. Britton et al., Psychopharmacology 94: 396 (1988)〕。CRF1拮抗剤のX症候群(Syndrome X)の治療のための使用もまた、米国特許出願番号09/696,822(2000年10月26日に出願)、及び欧州特許出願番号003094414(2000年10月26日に出願)に記載されている。鬱血性心不全を治療するためにCRF1拮抗剤を用いる方法は、米国シリアル番号09/248,073(1999年2月10日に出願)、すなわち現在米国特許6,043,260(2000年3月28日)に記載されている。
【0005】
CRF1拮抗剤が、関節炎及び炎症疾患〔Webster EL, et al., J Rheumatol 29 (6): 1252 (2002); Murphy EP, et al., Arthritis Rheum 44 (4): 782 (2001)〕;ストレス関連胃腸疾患〔Gabry, K. E. et al., Molecular Psychiatry 7 (5): 474 (2002)〕;並びに、皮膚疾患〔Zouboulis, C. C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 99: 7148 (2002)〕の治療のためにも有用であることもまた示唆されてきた。
【0006】
最近、動物モデルで、ストレス誘発性の慢性接触皮膚炎の憎悪が、選択的CRFR1拮抗剤を用いて抑制できることが開示され、これはCRFR1がストレス誘発性の慢性接触皮膚炎の憎悪に関与し、そして、CRFR1拮抗剤がこの疾患の治療に有用である可能性を示唆している〔Kaneko K, Kawana S, Arai K, Shibasaki T. Exp Dermatol 12(1) : 47 (2003)〕。
【0007】
EP1085021は、sPLA2阻害剤としてのピロール[1,2−b]ピリダジン化合物を開示している。以下の文献はそれぞれCRF1拮抗剤化合物を記載している;しかしながら、本願で提供された特定の化合物は何も開示していない:WO98/08847(国際公開日1998年3月5日);WO02/072101(国際公開日2002年9月19日);WO02/072202(国際公開日2002年9月19日)。本発明はWO98/08847からの選択発明である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CRF1受容体拮抗剤である、新規なピロール[1,2−b]ピリダジン誘導体を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
CRF又はCRF1受容体と関連した疾患又は症状、例えば、不安障害、うつ病及びストレス関連疾患の治療のための新規な化合物を提供することが、本発明の他の目的である。
【0010】
CRF又はCRF1受容体と関連した疾患又は症状、例えば、不安障害、うつ病及びストレス関連疾患の治療の方法を提供することが、本発明の他の目的である。
【0011】
CRF又はCRF1受容体と関連した疾患又は症状、例えば、不安障害、うつ病及びストレス関連疾患の治療のために有用な医薬組成物を提供することが、本発明のさらに他の目的である。
【0012】
本出願の明細書における本発明の記載から本発明の他の目的は明白であり又は証明されるであろう。
【0013】
一つの局面で、本発明は、強力なCRF1受容体の拮抗剤である、式(I)の化合物、又は、その立体異性体、製薬的に受容可能な塩、又はプロドラッグを提供する。
【0014】
他の局面では、本発明は、温血動物において、CRFの過剰分泌が現れる疾患の治療、又はCRF1受容体に拮抗することにより効果があり又は援助できる疾患の治療のための、有用な式(I)の化合物、又は、その立体異性体、製薬的に受容可能な塩、又はプロドラッグを提供する。そのような疾患の例には、不安神経症、全般的不安障害、恐怖性障害、社会的不安障害、うつ病が並存する不安症、パニック障害、強迫神経障害、心的外傷後ストレス障害、及び、非定型不安障害のような不安関連障害;大うつ病、単発症性うつ病、反復性うつ病、児童虐待誘発うつ病、及び、分娩後うつ病を含む、例えばうつ病のような気分障害;気分変調;双極性障害;及び循環気質;上核性麻痺;免疫抑制;慢性リウマチ、及び、変形関節症のような炎症性障害;不妊症を含む生殖障害;疼痛;喘息;アレルギー;ストレス誘発性睡眠障害;線維筋痛のような疼痛感覚;疲労症候群;ストレス誘発性頭痛;癌;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染;アルツハイマー病、パーキンソン病、及び、ハンチントン病のような神経変性疾患;潰瘍、過敏性大腸症候群、クローン病、痙攣性大腸、下痢、及び、手術後腸閉塞、及び、精神病理的障害又はストレスに関連する大腸過敏症のような胃腸疾患;食欲不振、及び、過食神経症のような摂食障害;出血性ストレス;ストレス誘発性精神的発作;甲状腺機能正常性疾患症候群(euthyroid sick syndrome);不適切な抗下痢ホルモン(ADH)の症候群;肥満;頭部外傷;脊椎外傷;脳海馬虚血のような虚血性神経損傷;興奮毒性(excitotoxic)神経損傷;癲癇;高血圧、頻脈、鬱血性心不全、及び、脳卒中のような心血管系及び心臓関連疾患;ストレス誘発性熱病、ブタストレス症候群、ウシ輸送熱、ウマ発作性細動、及び、ニワトリの拘禁誘発性不全、ヒツジの剪毛ストレス、又は、イヌのヒト動物相互作用関連ストレスのようなストレス誘発性免疫不全を含む免疫不全;筋肉痙攣;尿失禁;アルツハイマー型の老人性痴呆;多発梗塞性痴呆;筋萎縮性側索硬化症;アルコール、コカイン、ヘロイン、ベンゾジアゼピン、又は、他の薬品に対する依存性のような化学品依存症及び常用癖;骨粗しょう症;心理社会的小人症、低血糖症、並びに、座瘡、乾癬、慢性的接触皮膚炎及びストレス憎悪性皮膚疾患のような皮膚疾患が挙げられる。これらはまた、禁煙及び育毛の促進、又は脱毛の治療のためにも有用である。
【0015】
また他の局面では、本発明は、式(I)の化合物、又は、その立体異性体、製薬的に受容可能な塩、又はプロドラッグの、上記の疾患を治療するための使用を提供する。
【0016】
また他の局面では、本発明は、式(I)の化合物、又は、その立体異性体、製薬的に受容可能な塩、又はプロドラッグを含有する、上記の疾患を治療するために有用な組成物を提供する。
【0017】
また他の局面では、本発明は、1つ又はそれ以上の化合物が標識に結合でき、この標識が直接的又は間接的に検出可能なシグナルを発生させるような、結合アッセイにおける本発明の化合物の使用を提供する。種々の標識には、放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、特異的結合分子、粒子(例えば磁石粒子)等が含まれる。
【0018】
なお他の局面では、本発明は、細胞及び組織内の受容体の局在性検査(localization)のためのプローブとして、並びに、被験化合物と受容体との結合性測定における使用のための標準品及び試薬として、本発明の化合物(特に、本発明の標識化合物)を使用することに関する。
【0019】
本発明の標識化合物は、組織切片のオートラジオグラフィーのようなインビトロ研究、又は、PET若しくはSPECTスキャニングのようなインビボ法のために使用することができる。特に本発明の化合物は医薬品の候補のCRF1受容体への結合能を測定するときの標準品及び試薬として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
最初の局面で、本発明は式(I)
【化1】

(式中、RはH又はMeである)
の化合物、又はその立体異性体、その立体異性体の混合物、その製薬上受容可能な塩、又はそのプロドラッグを提供する。
【0021】
ここで提供される化合物は1つ又はそれ以上の不斉中心又は平面を持つことができ、並びに、全ての本化合物のキラル(鏡像異性体の及びジアステレオメリックの)及びラセミ体は本発明に包含される。本発明の化合物は、例えば、解離剤の存在下での結晶化、キラルHPLCカラム等を用いたクロマトグラフィー、又は鏡像異性体に富んだ材料が製造できるようにする不斉合成経路による合成法のような、従来法によるラセミ体の解離により、ラセミ体又はその光学的に純粋な形態のいずれかで分離できる。本発明は、式(I)で表される化合物の全ての可能な互変異性体を包含する。
【0022】
本発明の化合物は、一般に、以下に示すスキーム1で例示された合成経路により製造できる。出発物質は、購入可能なもの又は当該技術分野で知られた方法で製造できるもののいずれかである。
【化2】

【0023】
2−メチル−3−ブロモ−6−メトキシピリジン(1)を、n−ブチルリチウム又はt−ブチルリチウムのような強塩基で処理し、α−メチル−γ−ブチロラクトン(2)と反応させてケトン(3)を生成する。アルコール(3)のアルデヒド(4)への酸化は、例えばSwern酸化のような方法により達成できるがこれに限定されるものではない。生成したジカルボニル化合物(4)をN−アミノフタリミドと反応させ置換型ピロール化合物(5)が得られる。このようにして、(5)のヒドラジンでの処理は1−アミノピロール化合物(6)を生成し、これは、分子篩付きのDean−Stark装置を装備した反応容器中で、触媒量のp−トルエンスルホン酸のような酸の存在下、それに限定されないが例えばクロロホルム、トルエン又はテトラヒドロフランのような溶媒中で、β−ケトエステル又はtrans−3−エトキシクロトン酸エチルと反応させて、二環式化合物(7)を得ることができる。化合物(7)の水酸基は、還流するブロモベンゼン中で三臭化リンと反応させてブロム基に変換することができる。生成した臭化化合物(8)を、1−エチルプロピルアミン又は2−ブチルアミンを用いたパラジウム触媒(例えば、Pd(OAc)2、Pd2(dba)3、等)によるアミノ化反応にかけ〔Wolfe, J. P. and Buchwald, S. L. J. Org. Chem. 2000, 65, 1144、参照のこと〕、式(I)の化合物を合成できる。
【0024】
本発明はまた、式(I)の化合物の製薬的に受容可能な塩を包含する。本発明の製薬的に受容可能な塩は、適切な無機酸又は有機酸から製造することができる。製薬的に受容可能でありさえすれば、塩の性質は重要ではない。式(I)の化合物の適切な製薬的に受容可能な塩は無機酸又は有機酸から製造することができる。そうした無機酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、カルボン酸、炭酸、硫酸及びリン酸が挙げられる。そうした有機酸の例としては、脂肪族系酸、環状脂肪酸、芳香族酸、芳香脂肪族(araliphatic)酸、複素環酸、カルボン酸、及び、有機酸のスルホン酸群であって、その例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマール酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エチルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、ステアリン酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、アルゲン酸、ガラクトウロン酸が挙げられる。適切な塩のリストはRemington's Pharmaceutical Sciences,17th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA, 1985, p. 1418に記載されており、その開示は参照によって本願に組み込まれる。本発明の化合物の製薬的に受容可能な塩は従来型の化学的方法により製造することができる。一般的に、そうした塩は、水中若しくは有機溶媒中又はそれら2つの混合物中で、遊離塩基型の本化合物と化学量論的量の適切な酸と反応させることで製造できる;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルのような非水性溶媒が好ましい。
【0025】
他の局面で、本発明は式(I)の化合物のプロドラッグを提供する。このプロドラッグは化学的安定性を改良するため、患者の受容性及び服薬遵守性(compliance)を改良するため、生物学的利用効率を改良するため、作用の持続時間を延ばすため、臓器の選択性を改良するため、製剤を改良するため(例えば、水溶解性の増加)、及び/又は、副作用(例えば、毒性)を減少させるために製造される。例えば、T. Higuchi and V. Stella, “Prodrugs as Novel Delivery Systems", Vol. 14 of the A. C. S. Symposium Series; Bioreversible Carriers in Drug Design, ed. Edward B. Roche, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, (1987)を参照すること。本発明のプロドラッグは、当該技術分野で知られた方法により、式(I)の化合物から、容易に製造できる。例えば、Notari, R. E. ,“Theory and Practice of Prodrug Kinetics, ”Methods in Enzymology, 112: 309-323 (1985); Bodor, N. ,“Novel Approaches in Prodrug Design, "Drugs of the Future, 6 (3): 165-182 (1981); and Bundgaard, H. ,“Design of Prodrugs: Bioreversible-Derivatives for Various Functional Groups and Chemical Entities, ”in Design of Prodrugs (H. Bundgaard, ed.), Elsevier, N. Y. (1985); Burger's Medicinal Chemistry and Drug Chemistry, Fifth Ed., Vol. 1, pp. 172-178, 949-982 (1995)を参照せよ。例えば、式(I)の化合物のプロドラッグは、この化合物のアミノ基を修飾すること(この修飾は、日常操作で又はインビボで、外れて親化合物を生成するようなもの)により製造することができる。そうした方法で製造されたプロドラッグの形態の例には、生加水分解可能なアミド、生加水分解が可能なカルバメート、及びチオカルバメートが挙げられる。
【0026】
他の局面で、本発明は、式(I)の化合物とは同一であるが、1つ又はそれ以上の原子を、天然に通常存在する原子質量又は質量数とは異なった原子質量又は質量数を有する原子により置換した、同位元素標識化合物を提供する。本発明の化合物に組み入れることが可能な同位元素の例には、水素、炭素、窒素、酸素及び塩素の同位元素(例えば、3H、11C、及び14C)が挙げられる。上記の同位元素及び/又は他の同位元素を含有する、式(I)の化合物は、本発明の範囲に含まれる。本発明の同位元素標識化合物は、例えば、3H及び14Cのような放射性同位元素を組み込んだものであり、薬物及び/又は基質の臓器分布アッセイにおいて有用である。トリチウム(すなわち、3H)化、及び、炭素−14(すなわち、14C)同位元素は、特にPET(陽電子放射断層撮影法)で有用である。さらに、重水素(すなわち、2H)のようなより重い同位元素は、より大きい代謝安定性(例えば、インビボでの半減期の増大、又は、必要な投与量の減少)による特定の治療上の利点を与え、ある環境下では好まれるだろう。本発明の式(I)の同位元素標識化合物は、一般に、非同位元素標識試薬を同位元素標識試薬で置き換えることによる合成方法を実施すること製造される。
【0027】
式(I)の化合物は、CRF1受容体の拮抗剤であり、CRFのCRF1受容体に対する特異的な結合を阻害すること、及び、CRFに関連する活性に対して拮抗することが可能である。CRF受容体拮抗剤としての化合物の有効性は、種々のアッセイ方法により測定できる。式(I)の化合物の、CRF拮抗剤としての活性について、この目的のために一般に認められた1つ又はそれ以上のアッセイにより評価でき、DeSouza等(J. Neuroscience 7: 88, 1987)及びBattaglia等(Synapse 1: 572, 1987)により開示されたアッセイ方法を(それに限定はされないが)含んでいる。放射性標識CRF(例えば、[125I]−チロシン−CRF)のその受容体(例えば、ラット脳皮質膜から調製した受容体)への結合を阻害する能力を測定する結合試験により、化合物のCRF受容体への親和性が測定できる。DeSouza等(前出、1987)により記載された放射性リガンド結合アッセイは、CRF受容体に対する化合物の親和性を測定するアッセイ方法を提供する。そうした活性は、典型的には、その受容体から放射性リガンドの50%を置き換えるのに必要な化合物の濃度であるIC50から計算され、そして、以下の数式より計算される「Ki」値として報告される:
【数1】

[式中、L=放射性リガンドであり、及び、KD=放射性リガンドの受容体に対する親和性である(Cheng and Prusoff Biochem. Pharmacol. 22: 3099, 1973)]。受容体結合アッセイの例は、以下の実施例1で与えられる。
【0028】
CRF受容体結合阻害に加えて、化合物のCRF受容体拮抗活性は、この化合物がCRFと関連する活性に拮抗する能力により確立できる。例えば、CRFは種々の生化学的プロセス(アデニレートサイクラーゼ活性を含む)を促進することが知られている。そのために、化合物は、そのCRF刺激アデニルサイクラーゼ活性に対して拮抗する能力を、例えばcAMPレベルを測定することにより、CRF拮抗剤として評価できる。Battaglia等(前出、1987年)より記載されたこのCRF刺激アデニルサイクラーゼ活性のアッセイは、化合物がCRF活性に対して拮抗する能力を測定するためのアッセイを提供する。したがって、CRF受容体拮抗剤の活性は、一般に開始時の結合アッセイ〔DeSouza(前出、1987年)によって開示されたような〕とそれに続くcAMPスクリーニングプロトコール〔Battaglia(前出、1987年)によって開示されたような〕を含むアッセイ技術によって測定することができる。このCRF刺激アデニレートサイクラーゼ活性アッセイの例は、以下の実施例Cにおいて与えられる。
【0029】
そのために、他の局面では、本発明は、温血動物において、この動物にCRF1受容体に対して拮抗できる有効量で本発明の化合物を投与することを含む、CRF1受容体に対して拮抗する方法を提供している。この温血動物とは、好ましくは、哺乳類、そしてさらに好ましくはヒトである。
【0030】
他の局面で、本発明は、温血動物においてCRF1受容体に関するリガンドをスクリーニングする方法を提供し、この方法は:a)CRF1受容体と、検出可能な標識で標識された式(I)の化合物、及び、リガンド候補による競合的な結合アッセイを行なう工程;つぎに、b)該リガンド候補が該標識化合物を置き換える能力を測定する工程を含む。
【0031】
他の局面で、本発明は、組織中のCRF受容体を検出する方法を提供し、この方法は:a)検出可能な標識で標識した、式(I)の化合物と組織とを、その化合物がその組織に結合できる条件下で接触させる工程;つぎに、b)組織に結合した標識化合物を検出する工程を含む。組織中の受容体を検出するアッセイ方法は、当該技術分野で周知である。
【0032】
他の局面で、本発明はCRFとCRF1受容体との結合を阻害する方法を提供し、この方法は、本発明の化合物と、CRF1受容体発現細胞を含有する溶液とを接触させる工程を含み、この化合物は溶液中にCRFとCRF1受容体との結合を阻害するための充分な濃度で存在している。CRF1受容体を発現し、そして、インビトロアッセイで用いることができる細胞株の例は、当該分野で知られているIMR32細胞である。
【0033】
式(I)の化合物、又は、その立体異性体、製薬的に受容可能な塩、又はプロドラッグは、温血動物で、CRFの過剰分泌として現れる疾患の治療、又は、CRF1受容体に対する拮抗により効果を現し又は援助できる、疾患の治療のために有用である。そうした疾患の例はこの明細書の前の部分で記載している。
【0034】
したがって、さらに他の局面では、本発明は上記の疾患の治療方法を提供し、この方法は温血動物に治療有効量の本発明の化合物を投与する工程を含んでいる。この温血動物とは、好ましくは、哺乳類、特にヒトである。
【0035】
本発明の方法で治療できる特定の疾患には、好ましくは、不安神経症、全般的不安障害、恐怖性障害、社会的不安障害、うつ病が併存する不安症、パニック障害、強迫神経障害、心的外傷後ストレス障害、及び、非定型不安障害のような不安関連障害;気分変調、双極性障害、循環気質、及び大うつ病、単発症性うつ病、反復性うつ病、児童虐待誘発うつ病、及び、分娩後うつ病を含む、例えばうつ病のような気分障害;アルコール、コカイン、ヘロイン、ベンゾジアゼピン又は他の薬品に対する依存性のような化学品依存症及び常用癖;慢性リウマチ、及び、変形関節症のような炎症性障害;潰瘍、過敏性大腸症候群、クローン病、痙攣性大腸、下痢、及び、手術後腸閉塞、及び、精神病理的障害又はストレスに関連する大腸過敏症のような胃腸疾患;並びに、座瘡、乾癬、慢性的接触皮膚炎及びストレス憎悪性皮膚疾患のような皮膚疾患を含んでいる。
【0036】
本発明の方法で治療できる特定の疾患には、より好ましくは、不安神経症、全般的不安障害、恐怖性障害、社会的不安障害、うつ病が併存する不安症、パニック障害、強迫神経障害、心的外傷後ストレス障害、及び、非定型不安障害のような不安関連障害、並びに、気分変調、双極性障害、循環気質、及び、大うつ病、単発症性うつ病、反復性うつ病、児童虐待誘発うつ病、及び、分娩後うつ病、を含むうつ病のような気分障害を含んでいる。
【0037】
本発明の方法で治療できる特定の疾患には、さらに好ましくは、全般的不安障害及び大うつ病を含んでいる。
【0038】
温血動物における上記の疾患又は障害を治療するための、本発明の化合物の治療上有効な量は、当業者に知られている各種の方法、例えば特定の症状に罹患した動物に対して特定の薬剤の種々の用量を投与し、そして、その動物における効果を判断することで決定することができる。典型的には、本発明の化合物の治療上有効な用量は、活性成分を、一日体重当たり0.002〜200mg/kgの投与量で経口的に投与することができる。通常、0.01〜10mg/kgを一日1〜4回の分割用量、又は、持続放出製剤が、所望の薬理効果を得るためには効果的である。しかしながら、どのような特定の患者に対する特異的な投与量も、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食物、投与の時間、投与の経路、及び、排泄の割合、薬剤の組合せ、及び、特定の疾患の重症度、を含む種々の因子に依存するものと理解されるであろう。投与の頻度はまた使用される化合物及び治療される特定の疾患に依存して変化させていい。しかしながら、多くのCNS疾患の治療のためには、一日4回又はそれ以下の投与計画が好ましい。ストレス及びうつ病の治療のためには、一日1回〜2回の投与計画が特に好ましい。
【0039】
本発明の化合物は、上記の疾患を治療するために、活性薬剤と哺乳動物の体内の薬剤の作用部位とを接触させることで、例えば、適切な投与剤形を用いた、経口、局所、経皮、非経口若しくは直腸投与、又は、吸入又は噴霧により、投与できる。ここで用いられる「非経口」という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射又は注入技術を含む。この化合物は単独でも投与できるが、通常は、製薬上受容可能な担体、希釈剤又は賦形剤と共に投与される。
【0040】
したがって、他の局面において、本発明は、式(I)の化合物、その立体異性体、その製薬的に受容可能な塩、又はそのプロドラッグ、又はそのプロドラッグの製薬的に受容可能な塩、を含有する医薬組成物を提供する。一実施態様において、医薬組成物はさらに、そのための製薬上受容可能な担体、希釈剤又は賦形剤を含有する。「製薬上受容可能な担体、希釈剤又は賦形剤」とは、当該技術分野で生物学的に活性な薬剤を温血動物(ヒトを含む)に投与するために通常受容された媒体である。そうした担体は一般に、当業者が決定し説明するためのその権限内で、多くの因子に良く準じて、製剤化される。これらの因子には、それに制限されないが、以下のものを含む:製剤化される活性薬剤のタイプ及び性質;薬剤を含有する組成物が投与される患者;その組成物の意図する投与経路;及び、標的とされる治療の適応症。適切な製薬上受容可能な担体の記載、及び、それらの選択に関与する因子は、各種の容易に入手可能な情報源において見出される。それは例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA, 1985 であり、その内容は参照により本願に組み入れられる。
【0041】
経口使用のための組成物は、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性若しくは油性懸濁液、拡散性粉末若しくは顆粒、乳濁剤、硬質若しくは軟質カプセル、又はシロップ若しくはエキシールの形態であり、そして、当該分野で知られた方法に従って製造することができる。そうした組成物は、製薬的に上質で好ましい製剤を提供するために、甘味剤、矯味矯臭剤、発色剤、及び、保存剤からなるグループから選ばれる1又はそれ以上の薬剤を含むことができる。
【0042】
錠剤は、錠剤の製造に適した製薬上受容可能な賦形剤と混合された活性成分を含有している。これらの賦形剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;トウモロコシデンプン又はアルギン酸のような顆粒化及び崩壊剤;デンプン、ゼラチン又はアカシアのような結合剤、及び、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクのような潤滑剤である。この錠剤は被覆なしでも、胃腸管での崩壊及び吸収を遅らせるために知られている技術により被覆されてもよく、そしてモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルのような遅延物質を用いることができる。
【0043】
経口使用のための製剤は、また、活性成分を、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム若しくはカオリンのような不活性の固形希釈剤と混合した、硬質ゼラチンカプセルとして、又は、活性成分を水若しくは油性媒体(例えば、ピーナッツ油、液体パラフィン若しくはオリーブ油)と混合した軟式ゼラチンカプセルとして、製造できる。
【0044】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合した活性成分を含んでいる。そうした賦形剤とは、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム及びガムアカシアのような懸濁剤;分散剤若しくは湿潤剤は天然由来のリン脂質(例えば、レシチン)、又は、脂肪酸とアルキレン酸化物との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、又は、長鎖脂肪族アルコールとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、又は、脂肪酸及びヘキシタールから由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、又は、脂肪酸及びヘキシトール無水物から由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリエチレンソルビトールモノオレエート)である。この水性懸濁液は、また、1又はそれ以上の保存剤(例えば、エチル若しくはn−プロピルp−ハイドロキシベンゾエート)、1又はそれ以上の発色剤、1又はそれ以上の甘味剤(例えば、ショ糖、サッカリン)を含むこともできる。
【0045】
油性懸濁液は、活性成分を植物油(ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油)、又は、鉱物油(例えば、液体パラフィン)に懸濁して製剤化できる。この油性懸濁液には、充填剤(例えば、蜜蝋、硬質パラフィン又はセチルアルコール)を含んでいてもいい。上記の甘味剤及び矯味矯臭剤を、味の良い経口製剤を提供するために加えてもいい。これらの組成物は、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)の添加により保存することができる。
【0046】
水の添加による水性懸濁液を製造するために適切な分散粉末及び顆粒は、分散若しくは湿潤剤、懸濁剤及び1又はそれ以上の保存剤と混合した活性成分を提供する。適切な分散又は湿潤剤及び懸濁剤は、既に上記で述べたもので例示される。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、矯味矯臭剤及び発色剤もまた存在していい。
【0047】
シロップ及びエリキシールは、甘味剤(グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はショ糖)と共に製剤化できる。そうした製剤は、また、粘滑剤、保存剤、矯味矯臭剤及び発色剤を含むことができる。
【0048】
本発明の化合物の直腸投与用坐薬は、この化合物と、日常的な温度では固形であるが直腸温度では液体であって、そのために直腸内で溶解し薬物を放出できる、適切な非刺激性賦形剤とを混合して製造することができる。そうした物質の例はココアバター及びポリエチレングリコールである。
【0049】
医薬組成物は、無菌注射用水性又は油性の懸濁液の形態であっていい。この懸濁液は公知の技術により、上記の適切な分散又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて製剤化できる。この無菌注射溶液又は懸濁液は、非毒性の非経口用に受容可能な希釈剤又は溶媒中で製剤化できる(例えば、1,3−ブタノール中の溶液)。使用できる受容可能な媒体及び溶媒は、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液である。この目的のために、いかなる刺激の少ない不揮発性油(例えば、合成モノ−又はジグリセリド)も使用できる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸も注射剤の製造に使用できることがわかった。
【0050】
投与に適した投与形態には、一般に、単位当たり、約1mg〜約100mgの活性成分を含んでいる。これらの医薬組成物中で、活性成分は通常、組成物の総質量に基づいて約0.5〜95質量%存在できる。本発明の化合物の投与のための投与形態の例は以下のものを含む:(1)カプセル。多数単位型カプセルはそれぞれが、粉末型活性成分100mg、乳糖150mg、セルロース50mg、及びステアリン酸マグネシウム6mgを含有している標準的な2部分からなる(two-piece)硬質ゼラチンカプセルを充填させることで製造される;(2)軟質ゼラチンカプセル。ダイズ油、綿実油又はオリーブ油のような消化可能な油中の活性成分の混合物が製造され、ゼラチン中に正置換(positive displacement)の方法で射出して注入し、100mgの活性成分を含む軟質ゼラチンカプセルが形成される。このカプセルは洗浄し乾燥される;(3)錠剤。多くの錠剤が、投与単位が活性成分100mg、コロイド状シリコン二酸化物0.2mg、ステアリン酸マグネシウム5mg、微結晶セルロース275mg、デンプン11mg及び乳糖98.8mgとなるように、従来法で製造される。適切な被覆が嗜好性を増し、又は吸収を遅らせるために適用することができる。
【0051】
他の局面で、本発明は、以下のものを含む、製造用品を提供する:a)包装材料;b)該包装材料中に含まれている本発明の化合物を含む薬剤;及びc)該薬剤が上記の疾患の治療に使用できることを示すラベル又は包装内蔵印刷物。
【0052】
定義
「製薬的に受容可能な」という用語は、正常な医療判定の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー性応答、又は他の問題若しくは合併症のない、合理的な利益/危険の比と釣りあいのとれた、ヒトを含む動物の組織と接触して用いるのに適切な、化合物、材料、組成物、及び/又は、投与形態を意味する。
【0053】
「立体異性体」という用語は、同じ結合により結合している同じ原子により構築されてはいるが、異なった相互交換できない異なった三次元構造を有する、化合物を意味する。この三次元構造は配置とよばれる。ここで用いられている用語「鏡像異性体」は、それら分子が互いに重ね合わせることができない鏡像である2個の立体異性体を意味する。ここで用いられている用語「キラル中心」は4個の異なった基が結合している炭素原子を意味する。ここで用いられている用語「ジアステレオマー」は、鏡像異性体ではない立体異性体を意味する。さらに、1個のキラル中心だけで異なった配置を有する2個のジアステレオマーは、ここでは「エピマー」とよばれる。用語「ラセミ体」又は「ラセミ混合物」は、鏡像異性体の等分の混合物を意味する。
【0054】
用語「プロドラッグ」は、式(I)の化合物以外で、インビボで、式(I)の化合物を生成させるために変換する、化合物を意味する。変換は、血液中での加水分解のような、種々の機構により引き起こすことができる。プロドラッグの使用に関する議論は、T. Higuchi and W. Stella, “Pro-drugs as Novel Delivery Systems,” Vol. 14 of the A. C. S. Symposium Series, and in Bioreversible Carriers in Drug Design, ed. Edward B. Roche, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987、により提供される。
【0055】
用語「治療有効量」、「有効量」、「治療用量」又は「有効用量」とは、所望の薬理学的又は治療的効果を導き出し、その結果、疾患又は症状の効果的な予防又は治療をもたらすために充分な量を意味する。
【0056】
用句「発明の化合物」、「本発明の化合物(単数)」、「本発明の化合物(複数)」又は「式(I)による化合物」等は、式(I)の化合物、又はその立体異性体、その製薬的に受容可能な塩、又はそのプロドラッグ、又は式(I)の化合物のプロドラッグの製薬的に受容可能な塩を、簡潔にして意味している。
【0057】
用語「治療」、「治療する」及び「治療すること」等は、疾患の進行を遅らせ又は元に戻すことの両方、同時に、疾患を治癒することを含むことを意味する。これらの用語はまた、1又はそれ以上の疾患又は症状を、例えその疾患又は症状が実際に除去されなくても、及び、例えその疾患又は症状の進行がそれ自体、遅らせたり又は元に戻されたりしなくても、緩和する、改善する、弱力化する、除去する又は軽減することを含んでいる。「治療」等の用語はまた、防御的(即ち、予防)及び苦痛緩和的な治療も含んでいる。疾患の予防は、この疾患の症候の発症を引き延ばすこと又は遅らせることを意味している。
【0058】
実施例
さらに努力することなしに、当業者は、上記の記載により、本発明をその最大範囲まで実施することができると信じられている。実施例A〜Dは、本発明の化合物の生物学的性質を測定するために用いることのできる、種々の生物学的アッセイを例示している。これらの実施例は、本発明をさらに詳細に記載するために提供される。当業者は、実施例に記載された方法からの適切な変更を容易に認識するであろう。
【0059】
実施例A:
生物学的活性を評価するためのインビトロのCRF1アッセイ
以下の記載は、CRF1受容体への被験化合物の生物学的活性を評価するための標準的なインビトロの結合アッセイである。これは、De Souza(De Souza, 1987)の記載した修正されたプロトコールに基づいている。
【0060】
結合アッセイは、脳膜(通常はラット由来)を用いる。結合アッセイのための脳膜を調製するために、ラット前頭部皮質を、氷冷組織緩衝液(10mMのMgCl2、2mMのEDTA、1μg/mLのアプロチニン、1μg/mLのロイペプチン及び1μg/mLのペプスタチンを含有する150mMヘペス緩衝液、pH7.0)の10mL中でホモゲナイズする。このホモジネートを48,000×gで10分間、遠心分離し、得られたペレットを組織緩衝液の10mLで再度ホモゲナイズする。再び48,000×gで10分間、遠心分離した後、ペレットをタンパク質濃度が300μg/mLになるように再懸濁する。
【0061】
結合アッセイは最終容量が300μLの96穴プレート中で行う。このアッセイは125I−ヒツジ−CRF(最終濃度150pM)及び種々の濃度の阻害剤を含むアッセイ緩衝液の150μL中に、膜懸濁液の150μLを加えることで開始する。このアッセイ緩衝液は膜調製のために先に記載したものと同じ緩衝液にさらに0.1%のオボアルブミン及び0.15mMのバシトラシンを添加したものである。放射性リガンドの結合は、室温で2時間後、Packardセルハーベスターを用いて、PackardGF/Cユニフィルタープレート(0.3%ポリエチレンイミンで予浸したもの)を通して濾過することで終結させる。このフィルターを、0.01%のトライトンX−100を含む氷冷リン酸緩衝生理食塩水、pH7.0、で三回洗浄する。
【0062】
別法として、IMR−32ヒト神経芽細胞種細胞(ATCC;Hogg et al., 1996)のような、自然にCRFを発現する細胞又は組織を、上記のものと類似の結合アッセイに使用することができる。
【0063】
もし、CRF阻害に関するKi値が約10μM未満であれば、化合物は活性であると考えられる。
【0064】
実施例B:
生物学的活性を評価するためのエクスビボCRF1受容体結合アッセイ
以下の記載は、CRF1受容体への被験化合物の生物学的活性を評価するための典型的なエクスビボのCRF1受容体結合アッセイである。
【0065】
絶食で雄性の、Harlenで生育した、Sprague-Dawleyラット(170〜210g)に、経口的に被験化合物又は媒体を、12:30〜2:00pmの間に胃洗浄を介して、投与した。化合物は媒体(通常、dH2O中の10%ダイズ油、5%ポリソルベート80)中で調製された。薬物投与2時間後、ラットを断頭致死させ、前頭皮質をすばやく切り出し、ドライアイス上に置き、次いで、アッセイされるまで−80℃で凍結させた;体幹の血液をヘパリン処理したチューブで回収し、遠心分離で血漿を分離し(2500rpmで20分間)、そして−20℃で凍結した。
【0066】
結合アッセイを実施する日に、組織サンプルを秤量し、氷冷50mMヘペス緩衝液(10mMのMgCl2、2mMのEDTA、1μg/mLのアプロチニン、1μg/mLのロイペプチン、1μg/mLのペプスタチン及び0.1%のオボアルブミンを含み、23℃でpH7.0である)中で融解させ、次いで、セッテング5(Kinematica社のポリトロン)で30秒間ホモゲナイズした。ホモジネートを、アッセイ緩衝液(上記のような)又はDMP−904(10μM)の存在下で、[125I]CRF(0.15nM、NEN社)と共にインキュベートした(2時間、23℃、暗所にて)。このアッセイは濾過(Packard FilterMate, GF/Cフィルタープレート)により終結させ;プレートをPackard TopCount LSCでカウントし;総量及び非特異的fmolesをDPMから算出した。データは、媒体対照に対する%で表した(特異的結合fmoles)。統計上の有意性は標準的t−検定を用いて決定した。
【0067】
実施例C:
CRF刺激アデニレートサイクラーゼ活性の阻害
CRFに刺激されたアデニレートサイクラーゼ活性の阻害は、先に記載されたように行った〔G. Battaglia et al., Synapse 1: 572 (1987)〕。略述すれば、アッセイは、100mMトリス塩酸(37℃でpH7.4)、10mMのMgCl2、0.4mMのEDTA、0.1%のBSA、1mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、250単位/mLのホスホクレアチニンキナーゼ、5mMのクレアチニンリン酸、100mMのグアノシン5'−トリリン酸、100nMのo−CRF、拮抗剤ペプチド(種々の濃度)及び元の組織の湿質量の0.8mg(約40〜60mgタンパク質)を含む緩衝液の200mL中で、37℃で10分間、行った。反応は1mMのATP/[32P]ATP(約2〜4mCi/チューブ)を添加することで開始し、次いで、50mMトリス塩酸、45mMのATP及び2%ドデシル硫酸ナトリウムの添加で終結させた。cAMPの回収をモニターするために、[3H]cAMP(約40,000dpm)を、分離の前に、各々のチューブに加えた。[32P]ATPから[32P]cAMPの分離は、ダウエックス及びアルミナのカラム上で連続的に溶離することで行った。
【0068】
別法として、アデニレートサイクラーゼ活性は、NEN Life Sciences社のAdenylyl Cyclase Activation FlashPlate Assayを用いた96穴フォーマットで、提供されたプロトコールに従って、評価することができる。略述すれば、固定した量の放射性標識したcAMPを、抗サイクリックAMP抗体でプレコートした96穴プレートに加えた。細胞又は組織を加え、次に、阻害剤の存在又は非存在下で刺激した。細胞が産生した非標識cAMPは、抗体から放射性標識したcAMPと置き換えられるだろう。結合した放射性標識cAMPはPackard TopCountのようなマイクロプレートシンチレーションカウンターを用いて検出できる光シグナルを発した。非標識cAMPが増加すれば、設定したインキュベーション時間(2〜24時間)での検出可能なシグナルは減少する。
【0069】
実施例D:
インビボ生物学的アッセイ
本発明の化合物のインビボ活性は、当該技術分野内で使用可能で受け入れられる生物学的アッセイのどれか1つを用いて評価できる。そうした試験の例には、音響驚愕試験、階段登攀試験、及び、慢性投与試験が含まれる。これら及び他の、本発明の化合物を試験するために有用なモデルは、C. W. Berridge and A. J. Dunn Brain Research Reviews 15: 71 (1990)、に概説されている。化合物は、げっ歯類又は小哺乳類のいかなる動物種でも試験できる。
【0070】
本発明は、特定の好ましい実施態様を用いて記載され、例示されているが、他の実施態様も当業者には明らかである。本発明は、そのために、記載され例示された特定の実施態様に限定されることなく、本発明の精神から離れることなく修正又は変更が可能であり、その全範囲は、添付する請求項により説明される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式(I)中、RはH又はMeである]
の化合物、その立体異性体、その立体異性体の混合物、その製薬上受容可能なプロドラッグ、又はその製薬上受容可能な塩。
【請求項2】
N−(1−エチルプロピル)−7−(6−メトキシ−2−メチルピリジン−3−イル)−2,6−ジメチルピロロ[1,2−b]ピリダジン−4−アミンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
7−(6−メトキシ−2−メチルピリジン−3−イル)−2,6−ジメチル−N−[(1S)−1−メチルプロピル]ピロロ[1,2−b]ピリダジン−4−アミンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を含有し、そして、場合により、製薬上受容可能な担体を含有する、医薬組成物。
【請求項5】
治療上有効量の請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を動物に投与することを含む、温血動物におけるCRFの過剰分泌を示す疾患の治療方法。
【請求項6】
治療有効量の請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を哺乳動物に投与することを含み、CRFに拮抗することにより効果を表し又は楽にすることができる疾患の治療である、哺乳動物における該疾患の治療方法。
【請求項7】
CRF受容体のリガンドのスクリーニング方法であって、
a)CRF受容体、検出可能な標識により標識された請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、及び、リガンド候補を用いた競合結合アッセイを実施すること;並びに、
b)該リガンド候補が該標識化合物に置き換わる能力を測定すること、
を含む方法。
【請求項8】
組織内のCRF受容体を検出する方法であって、
a)検出可能な標識により標識された請求項1〜3のいずれかに記載の化合物と、組織とを、その化合物がその組織に結合できる条件下で、接触させること、及び、
b)その組織に結合した標識化合物を検出すること、
を含む方法。
【請求項9】
化合物がCRFのCRF1受容体への結合を阻害するために十分な濃度で溶液中に存在している、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物と、CRF1受容体を発現している細胞とを接触させることを含む、CRFのCRF1受容体への結合を阻害する方法。
【請求項10】
細胞がIMR32細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物の有効量を、それを必要としている哺乳動物に投与することを含み、疾患が、不安関連障害;気分障害;上核性麻痺;免疫抑制;慢性関節リウマチ;変形性関節症;不妊症;疼痛;喘息;アレルギー;ストレス誘発性睡眠障害;線維筋痛;疲労症候群;ストレス誘発性頭痛;癌;ヒト免疫不全ウイルス感染;アルツハイマー病;パーキンソン病;ハンチントン病;胃腸潰瘍;過敏性大腸症候群;クローン病;痙攣性大腸;下痢;手術後腸閉塞及び精神病理的障害又ストレスに関連する大腸過敏症;食欲不振;過食神経症;出血性ストレス;ストレス誘発性精神的発作;甲状腺機能正常性疾患症候群;不適切な抗下痢ホルモン症候群;肥満;頭部外傷;脊椎外傷;脳海馬虚血;毒性促進性神経損傷;癲癇;高血圧;頻脈;鬱血性心不全;脳卒中;ストレス誘発性免疫不全;筋肉痙攣;尿失禁;アルツハイマー型の老人性痴呆;多発梗塞性痴呆;筋萎縮性側索硬化症;化学品依存症及び常用癖;骨粗しょう症;心理社会的小人症、低血糖症、座瘡、乾癬、慢性的接触皮膚炎及び脱毛から選ばれる、哺乳動物の疾患を治療する方法。
【請求項12】
疾患が不安関連障害及び気分障害から選ばれる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
不安関連障害が全般的不安障害であり、そして、気分障害が大うつ病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
有効量の請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を、それを必要としているヒトに投与することを含む、ヒトの髪の成長を促進する方法。
【請求項15】
有効量の請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を、それを必要としているヒトに投与することを含む、ヒトの禁煙を促進する方法。

【公表番号】特表2006−522095(P2006−522095A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506417(P2006−506417)
【出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【国際出願番号】PCT/IB2004/000971
【国際公開番号】WO2004/087710
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【Fターム(参考)】