説明

ピロール−2−カルボニトリルの合成

【課題】ピロール−2−カルボニトリル、例えば、1−メチルピロール−2−カルボニトリルの製造法の提供。
【解決手段】かかる方法は、好ましくは、ピロールをクロロスルホニルイソシアネートと溶媒の存在下で反応させる工程および得られた生成物をモル過剰量のアミド、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドと接触させる工程を含む。この接触工程の生成物を次いでモル過剰量の有機塩基と接触させて、沈殿および溶液相を得る。沈殿を次いで溶液相から分離し、対応するピロール−2−カルボニトリルを得られた溶液相から単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許出願番号60/557,807(2004年3月30日出願)(出典明示により全体としてその開示を本発明の一部として参照する)の優先権を主張する。この出願は、2005年3月25日に提出された、米国特許出願番号 に対応する。
【0002】
本発明は、ピロール−2−カルボニトリル、例えば、1−メチルピロール−2−カルボニトリルの合成および単離の分野である。
【背景技術】
【0003】
ピロール−2−カルボニトリルは、医薬および殺虫組成物を包含する化合物の製造における中間体として有用である。例えば、特許文献1(トロンビン阻害剤に関する)および特許文献2(ピロールカルボニトリル殺虫剤、ダニ駆除剤、軟体動物駆除剤に関する)参照。
【0004】
非特許文献1は、第一工程において、ジクロロメタン中クロロスルホニルイソシアネートとの1−メチルピロールの反応を含む、1−メチルピロール−2−カルボニトリルの合成法を示唆している。非特許文献1の方法において、第一工程の生成物をDMFと反応させ、反応混合物を次いで氷冷された4M HCL中に注いだ。生成物を仕上げ処理し、真空蒸留した後、1−メチルピロール−2−カルボニトリルが58%の収率で得られたとのことである。
【0005】
1−メチルピロール−2−カルボニトリルを1−メチルピロールから合成する他の方法は、メタノール性シアニド溶液と陽極酸化条件下で反応させること(非特許文献2)、メタノール性シアニド溶液の存在下で、増感剤としての過剰の1,4−ジシアノベンゼンと反応させること(非特許文献3)、テトラフェニルホルフィン増感光酸化において、−70℃でトリメチルシリルシアニドを反応させること(非特許文献4)、および新たに調製されたPhP(SCN)と−40℃で反応させること(非特許文献5)を含むとのことである。もう一つ別の合成法は、2−ピロールカルボキシアルデヒドから出発する(非特許文献6および非特許文献7)。さらにもう一つ別の方法は、2−ピロールカルボキシアルデヒドを出発物質として使用する(非特許文献8および非特許文献9)。かかる方法は、しばしば、時間のかかる水性仕上げ処理および繰り返しエーテル、塩化メチレン、または他の好適な溶媒で抽出することを必要とする。ある方法は、単離/生成工程においてクロマトグラフィーの使用を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,492,402号明細書
【特許文献2】米国特許第5,204,332号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Barnettら、J.Can.Chem.1980,58,409
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.1977,99,6111
【非特許文献3】J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1978,1108
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.1985,107,5279
【非特許文献5】J.Chem.Soc.,Perkin Trans. I 1980,1132
【非特許文献6】Can.J.Chem.1959,37,2053
【非特許文献7】J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1972,1226
【非特許文献8】J.Prakt.Chem.1994,336,467
【非特許文献9】Tetrahedron Lett.1993,34,141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
いくつかの態様において、本発明は、ピロール−2−カルボニトリル、例えば、1−メチルピロール−2−カルボニトリルの製造法に関する。ピロールを、クロロスルホニルイソシアネートと実質的に非反応性である溶媒の存在下でクロロスルホニルイソシアネートと反応させ、得られた生成物をモル過剰量(好ましくは、少なくとも約2.0モル当量)のN,N−ジアルキルホルムアミドと接触させる。この生成物を次にモル過剰量の(好ましくは、少なくとも約2.0モル当量)の有機塩基と接触させて、沈殿および溶液相を得る。沈殿を次いで溶液相から分離し、対応するピロール−2−カルボニトリルを得られた溶液相から単離する。いくつかの具体例において、ピロール−2−カルボニトリルの単離前に水を溶液相に添加する。ある具体例において、ピロール−2−カルボニトリルは蒸留により単離される。
【0009】
いくつかの具体例において、溶媒はトルエンまたはアセトニトリルである。これらの具体例のあるものにおいては、溶媒がトルエンを含むのが好ましい。
【0010】
他の好ましい具体例において、N,N−ジアルキルホルムアミドはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)である。
【0011】
ある具体例において、塩基はターシャリーアミンまたは芳香族アミンである。いくつかの好ましい具体例において、塩基はトリエチルアミンである。
【0012】
さらに他の具体例において、ピロールおよびクロロスルホニルイソシアネートの反応は、約0℃以下の温度で行われる。ある具体例において、希釈を行うために、溶媒1当量あたり0.1〜0.4モル当量の水が添加される。ある好ましい具体例において、単離された溶液相を濃縮した後、希釈し、蒸留する。
【0013】
他の態様において、本発明は、本発明の方法により製造される生成物にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ピロール−2−カルボニトリル、特に、1−メチルピロール−2−カルボニトリルを、好ましくは向上した単離収率で製造する方法に関する。好ましい具体例において、本発明の方法は、ピロール、例えば、1−メチルピロールをクロロスルホニルイソシアネートと反応させることを含む。ある具体例において、ピロールとクロロスルホニルイソシアネートのモル比は、約0.9:1〜約1.1:1、好ましくは、約1:1である。反応が、約0℃以下で行われるのも好ましい。この反応の生成物を次いでN,N−ジアルキルホルムアミドと接触させ、続いて有機塩基を添加する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1−メチルピロール−2−カルボニトリルの1−メチルピロールからの合成を次のスキーム1において説明する。
【化1】

【0016】
本発明者らは、特定の理論または操作のメカニズムにより拘束されることを意図しないが、N,N−ジアルキルホルムアミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF))は反応の触媒としての働きをすると考えられる。2当量のDMFをこの方法において使用するのが好ましい。反応の間、DMF・HClおよびDMF・SO複合体が形成されると考えられる。モル過剰量のDMF(好ましくは、少なくとも2当量)を使用することにより、気体状副生成物HClおよびSOの放出を回避することができると考えられる。
【0017】
N,N−ジアルキルホルムアミド中のアルキル基は、1〜6個、好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素鎖を含み、これらに限定されないが、直鎖および分岐鎖、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、およびイソヘキシルを包含する。N,N−ジアルキルホルムアミドは、環状組成物、例えば、環状基が5〜7、例えば6員環構成要素を有し得るもの、例えば、N−ホルミルピペリジンおよびN−ホルミルモルホリンも包含する。
【0018】
本発明において有用な有機塩基は、これらに限定されないが、ターシャリーアミンおび芳香族アミンを包含する。ターシャリーアミンは、これらに限定されないが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、1−メチルピペリジン、1,4−ジメチルピペラジン、およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(Hunigの塩基)を包含する。芳香族アミンは、これらに限定されないが、ピリジン、2−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、5,6,7,8−テトラヒドロキノリンを包含する。いくつかの具体例において、トリエチルアミンが好ましい。
【0019】
本発明において有用な溶媒は、クロロスルホニルイソシアネートと実質的に非反応性のものである。これらの溶媒は、脂肪族炭化水素(例えば、ヘプタン)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン)、塩素化炭化水素(例えば、塩化メチレン)、クロロベンゼン、ジアルキルエーテル(例えば、ジイソプロピルエーテル)およびアルキルニトリル(例えば、アセトニトリル)を包含する。いくつかの具体例において、トルエンまたはアセトニトリルが好ましい。他の具体例において、トルエンが好ましい。
【0020】
ピロール部分は、一般に、酸に対して感受性であり、その存在下でタールを形成するであろう。本発明の方法において、モル過剰量の塩基、例えば、トリエチルアミン(EtN)(好ましくは少なくとも2当量)は、濾過により除去することができる、比較的純粋な固体塩(例えば、EtN・SO)を沈殿させると考えられる。濾液(例えば、EtN・HClを含有)は、水抽出により仕上げ処理することができる。本出願者らは、トリエチルアミン処理により、Barnettら、J.Can.Chem.1980、58、409により報告されている31〜41%の収率が65〜76%に増大することを見いだした。
【0021】
本出願者らは、有機塩基での処理後に単離される溶液相を蒸留することができるが、いくつかの具体例において、まず少なくとも多少の水を添加することが、特に蒸留が大気圧で行われる場合に好ましいことを見いだした。理論に限定されることを望まないが、水の添加は、例えば、トルエン−ニトリル複合体を破壊すると考えられる。水の添加は、トルエンを生成物から、85℃未満の温度で分離することを可能にすることが見いだされている。ある具体例において、1当量の溶媒あたり0.1〜0.4モル当量の水が使用される。
【0022】
本発明を、好ましい具体例の以下の実施例によりさらに説明するが、これらの実施例は、例示および既存の技術との比較のためのみに記載されるのであって、特に記載しない限り、本発明の範囲を制限することを意図しないと理解される。
【実施例1】
【0023】
5リットルのフラスコに、アセトニトリル(2.0L)および1−メチルピロール(83g、3.5モル)を添加した。−6〜0℃の反応温度を維持しつつ、クロロスルホニルイソシアネート(495g、3.5モル)を滴下した。クロロスルホニルイソシアネートは腐食性であり、水と激しく反応することに注意すべきである。15分間撹拌後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF、511g、7.0モル)を−4〜0℃で添加し、続いてトリエチルアミン(707g、7.0モル)を添加し、撹拌を0℃で続けた。得られた白色沈殿を濾過し、アセトニトリル(200mL)で洗浄した。濾液を減圧下で濃縮した。水(4.0L)を残留物に添加し、相を分離し、水性相を酢酸エチルで抽出した(2x200mL)。合した有機相を食塩水で洗浄した(3x500mL)。有機相を減圧下で濃縮し、約4mmHg/70±10℃でVigreuxカラムを用いて、残留物を蒸留して、1−メチルピロール−2−カルボニトリル(282g、収率76%)を得た。
【実施例2】
【0024】
47.0gの1−メチルピロールから出発して、アセトニトリルをトルエンと置換する以外は実施例1と一般的に類似の方法で反応を行った。クロロスルホニルイソシアネートの添加後、2層が形成された。0〜5℃に冷却すると、最下層が凝固した。吸湿性固体を濾過により集め、トルエンで洗浄した。濾液を濃縮して、0.55モルの1−メチルピロール−2−カルボニトリルを含有する(1H NMRにより決定)325mLのトルエン溶液を得た(58.3g、収率95%)。
【実施例3】
【0025】
実施例2におけるようにして調製された1−メチルピロール−2−カルボニトリルのトルエン中粗溶液を、水酸化ナトリウムを含有する食塩水で洗浄して、微量の酸を除去した。分離された有機層(673g)を大気圧蒸留(ヘッド温度110〜115℃)して、大部分のトルエンを除去した。水を添加し(合計255mL)、ヘッド温度が86℃より高い温度まで上昇し始めるまで、蒸留を続けた。いくらかの水を含有する釜残(290g)を減圧下で分別蒸留して、1−メチルピロール−2−カルボニトリル(217g)を得た。
【0026】
本出願において見られる全ての特許出願および他の刊行物は全体として本発明の一部とされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロール−2−カルボニトリルの調製法であって:
(a)ピロールを溶媒の存在下でクロロスルホニルイソシアネートと反応させ;
(b)工程(a)の生成物をモル過剰量のN,N−ジアルキルホルムアミドと接触させ;
(c)工程(b)の生成物をモル過剰量の有機塩基と接触させ、その結果、沈殿および溶液相が生成し;
(d)溶液相から沈殿を分離し;
(e)工程(d)の溶液相からピロール−2−カルボニトリルを単離することを含む方法。
【請求項2】
少なくとも約2.0モル当量のN,N−ジアルキルホルムアミドが工程(b)において使用される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記有機塩基が、ターシャリーアミンまたは芳香族アミンである請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも約2.0モル当量のターシャリーアミンまたは芳香族アミンが工程(c)において使用される請求項3記載の方法。
【請求項5】
ピロール−2−カルボニトリルが蒸留により単離される請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
ピロールが1−メチルピロールである請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
溶媒がトルエンまたはアセトニトリルである請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
溶媒がトルエンである請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
ターシャリーアミンがトリエチルアミンである請求項3〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
芳香族アミンがピリジンである請求項3〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
N,N−ジアルキルホルムアミドがN,N−ジメチルホルムアミド、N−ホルミルピペリジンまたはN−ホルミルモルホリンである請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
N,N−ジアルキルホルムアミドがN,N−ジメチルホルムアミドである請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
ピロールとクロロスルホニルイソシアネートのモル比が0.9:1〜1.1:1である請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
ピロール−2−カルボニトリルを工程(d)の溶液相から蒸留する前に、溶液相に水が添加される請求項5記載の方法。
【請求項15】
溶媒1当量当たり0.1〜0.4モル当量の水が使用される請求項14記載の方法。
【請求項16】
工程(d)の溶液相が、工程(e)における水の添加の前に濃縮される請求項15記載の方法。
【請求項17】
工程(a)が約0℃以下の温度で行われる請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法により製造される生成物。

【公開番号】特開2012−158599(P2012−158599A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−101507(P2012−101507)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【分割の表示】特願2007−506458(P2007−506458)の分割
【原出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】