説明

ピンホール試験方法及び導線引張装置

【課題】潜在部でのピンホールも顕在化させてピンホール試験の信頼性を高める。
【解決手段】導線引張装置1において導線6の一端6aを固定部3に固定し、そのままドラム4a,4b間に複数回巻回して回転部材10の上端に固定する。次に、操作レバー11によって回転部材10を左回転方向へ90°回転させて、導線6を長さ方向へ引張して所定割合だけ伸張させる。この伸張により、絶縁被覆の傷や被膜の薄い部分等の潜在部でピンホールが発生する。その後、導線引張装置1から導線6を取り外し、加熱処理した後、フェノールフタレイン溶液を食塩水に滴下した試験液中に浸し、導線6を−極、試験液を+極にして直流電圧を加えて絶縁被膜の外部に漏れる電流を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被膜を備えた導線において絶縁被覆中のピンホールを検出するためのピンホール試験方法と、そのピンホール試験方法を実施するために用いられる導線引張装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
導線の絶縁被覆に穴や傷等の損傷(ピンホール)が生じると、漏電等のおそれがあるため、絶縁被覆の損傷を事前に検出する必要がある。このピンホール試験方法としては、エタノールにフェノールフタレイン3%を混入したフェノールフタレイン溶液を、0.2%濃度の食塩水に5〜10滴下した試験液を用意し、この試験液中に、規定の温度で加熱処理した試験対象となる導線を、曲げたり伸ばしたりしないで浸漬し、導線を−極、試験液を+極にして直流電圧を加える方法がよく知られている(JIS規格C3003 エナメル銅線及びエナメルアルミニウム線試験方法)。これにより、絶縁被覆にピンホールがあると、試験液中に赤紫色の筋(小さな気泡の集まり)が生じるため、ピンホールの存在を確認することができる。
一方、他の試験方法として、特許文献1には、電機子の鉄心等に導線を巻いてコイルを形成する際に、電源を備えた検電器に接続されるガイドで導線をガイドさせて、絶縁被覆が損傷して導電がガイドと導通した際に、電源、導線、ガイド、検電器からなる閉ループの形成により警報回路が作動するようにした被膜検査装置の発明が記載されている。また、特許文献2には、モータ電気巻線のコイルエンド部絶縁被膜をインピーダンス測定によって診断する絶縁診断装置の発明が記載されている。何れも導線に電圧を加えて絶縁被覆の外部に漏れる電流を検出する方法である。
【0003】
【特許文献1】特開平6−313786号公報
【特許文献2】特開平9−163685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の試験方法では、何れも絶縁被膜に余計な力を加えずに、又は絶縁被覆が全く伸張していない状態で行われるため、絶縁被覆に潜在しているピンホール、すなわち傷や被膜厚みの偏り等がある箇所で将来的にピンホールが発生するおそれが高い箇所(以下この箇所を「潜在部」という。)の検出には至らない。従って、試験で合格した導線を曲げたりコイル等を形成したりした際に、潜在部でピンホールが発生することがあった。
【0005】
そこで、本発明は、通常のピンホールは勿論、潜在部でのピンホールも顕在化させて検出でき、信頼性に優れたピンホール試験方法と、その試験方法を実施するのに好適な導線引張装置とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、絶縁被覆を備えた導線に電圧を加え、絶縁被覆中のピンホールを通して絶縁被覆の外部に漏れる電流を検出するピンホール試験方法であって、予め導線を長さ方向に引張して所定の割合で伸張させた後、電圧を加えて絶縁被膜の外部に漏れる電流を検出するようにしたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、ピンホール試験を適正に行うために、伸張させた導線を、フェノールフタレイン溶液を滴下した食塩水からなる試験液に浸漬させ、導線と試験液との間に電圧を加えることで試験液に漏れる電流を検出するようにしたものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の目的に加えて、潜在部でのピンホールを効果的に顕在化させるために、導線を伸張させる割合を3%としたものである。
【0007】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載のピンホール試験方法に用いる導線引張装置であって、導線の一端を固定可能な固定部と、その固定部に固定された導線を巻回可能なドラムと、導線の他端が固定可能で、導線を長さ方向に引張して所定の割合で伸張可能な引張操作部とを備えたことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項4の目的に加えて、導線の引張操作を容易に行うために、引張操作部は、少なくとも一部に円形部を備え、その円形部の周面に導線の他端を固定可能で、所定角度の回転により導線を円形部の周面に沿って長さ方向に引張可能な回転部材と、その回転部材を回転操作可能な操作レバーとからなる構成としたものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、通常のピンホールは勿論、潜在部でのピンホールも顕在化させて検出できるため、ピンホール試験の信頼性が向上する。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、ピンホール試験を適正に行うことができる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、絶縁被覆に最もストレスを与えて潜在部でのピンホールを効果的に顕在化させることができる。
請求項4に記載の発明によれば、長い導線でもスペースを取らずにコンパクトにセットでき、正確に所定の割合で伸張させることができる。また、ドラムに巻回させることで巻き癖がつくため、引張後の導線を試験液にそのまま浸漬等させることができ、ピンホール試験に係る手間の軽減にも繋がる。
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加えて、導線の引張を簡単な操作で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のピンホール試験方法に用いる導線引張装置(以下単に「引張装置」という。)の一例を示す説明図で、引張装置1は、試験台2上に、固定部3と、一対のドラム4a,4bと、引張操作部5とを設けてなる。ここではJIS規格と同じ5m長さの導線6が試験対象となっている。
まず固定部3は、試験台2上に立設され、ドラム4a,4bに上から接する水平な接線と同じ高さで導線6の一端6aが固定される棒体で、ドラム4a,4bは、互いに同径の円形軸状を呈し、試験台2上に立設された支持棒7によって、軸心が互いに平行となる姿勢で前後方向(図1(A)の右側を前方とする)へ所定間隔をおいて試験台2と非接触で支持されている。また、ドラム4a,4bの周面には、図1(B)に示すように、軸方向へ等間隔でフランジ8,8・・が周設されて、各フランジ8,8間に、導線6を巻回する際のガイド溝9,9・・を形成している。
【0010】
そして、引張操作部5は、固定部3の後方でドラム4a,4bの軸心と平行な軸を中心として試験台2に回転可能に軸着され、半円状の円形部の端部に導線6の他端6bを固定可能な回転部材10と、その回転部材10の回転中心側の平面に固定された操作レバー11とを有する。回転部材10は、試験台2側との図示しないストッパ同士の係合により、操作レバー11が鉛直方向に向く図1(A)の実線位置と、同図で左回転方向へ90°回転した二点鎖線の位置との間で回転可能となっている。但し、回転部材10における円形部の中心には、錘12が結合されて回転部材10の前方側から下方へ垂下していることから、回転部材10は、錘12により、常態では操作レバー11が鉛直方向となる実線位置に付勢される。
ここで、回転部材10は、円周面の周方向長さの半分が導線6の長さ(5m)の3%(15cm)となる径で形成されている。
【0011】
以上の如く構成された引張装置1を用いてピンホール試験を行う方法について説明する。まず、導線6の一端6aを固定部3に固定し、そのままドラム4a,4b上で前方へ水平に引き回した後、導線6を前方側のドラム4bの周面に巻いて後方へ折り返し、ドラム4b,4aの下面を通して後方側のドラム4aの周面に巻いて前方へ折り返す。この両ドラム4a,4b間での導線6の巻回を各ガイド溝9ごとに複数回繰り返した後、最後にドラム4bから後方へ折り返した導線6の他端6bを回転部材10の上端に固定する。よって、導線6を伸張や弛みがない状態でドラム4a,4bを介して固定部3と回転部材10との間に張設することができる。導線6のエナメル皮膜は、多少の擦れではダメージを受けることがないため、このようにドラム4a,4bに巻回してもピンホールが生じるおそれはない。
【0012】
次に、引張操作部5において、操作レバー11によって回転部材10を図1の左回転方向へ90°回転させる。すると、図1(A)の二点鎖線に示すように、導線6が回転部材10の半周分(15cm)だけ長さ方向へ引っ張られて全体的に伸張することになる。この3%の伸張が、絶縁被覆であるエナメルに最もストレス(分子結合間の歪みが最大になる領域)を与えるもので、この導線6の伸張により、絶縁被覆の傷や被膜の薄い部分等の潜在部でピンホールが発生する。
【0013】
その後、引張操作部5で操作レバー11を元の鉛直位置に戻して回転部材10を図1の位置に復帰させ、導線6の伸張を解除して導線6を固定部3及び回転部材10から取り外す。後は先述したJIS規格C3003の試験方法に則り、導線6を加熱処理した後、フェノールフタレイン溶液を食塩水に滴下した試験液中に浸し、導線6を−極、試験液を+極にして直流電圧を加え、絶縁被膜の外部に漏れる電流を検出する方法でピンホールを検出すればよい。これにより、元々絶縁被膜に存在していたピンホールは勿論、引張装置1での伸張によって潜在部に生じたピンホールも検出可能となる。なお、ピンホール試験結果の評価については、ピンホール発生個数(赤紫色の筋の発生個数)で判断されるが、品種やサイズ等によって「0個」や「3個以下」等要求されるレベルは異なる。
【0014】
このように、上記形態のピンホール試験方法によれば、予め導線6を長さ方向に引張して所定の割合で伸張させた後、電圧を加えて絶縁被膜の外部に漏れる電流を検出するようにしたことで、通常のピンホールは勿論、潜在部でのピンホールも顕在化させて検出できるため、ピンホール試験の信頼性が向上する。
特に、伸張させた導線6を、フェノールフタレイン溶液を滴下した食塩水からなる試験液に浸漬させ、導線6と試験液との間に電圧を加えることで試験液に漏れる電流を検出することで、ピンホール試験を適正に行うことができる。
また、導線6を伸張させる割合を3%としたことで、絶縁被覆に最もストレスを与えて潜在部でのピンホールを効果的に顕在化させることができる。
【0015】
そして、上記ピンホール試験方法に、導線6の一端6aを固定可能な固定部3と、その固定部3に固定された導線6を巻回可能なドラム4a,4bと、導線6の他端6bが固定可能で、導線6を長さ方向に引張して所定の割合で伸張可能な引張操作部5とを備えた引張装置1を用いたことで、長い導線6でもスペースを取らずにコンパクトにセットでき、正確に3%伸張させることができる。また、ドラム4a,4bに巻回させることで巻き癖がつくため、引張後の導線を試験液にそのまま浸漬させることができ、ピンホール試験に係る手間の軽減にも繋がる。
特にここでは、引張操作部5を、円形部の端部に導線6の他端6bを固定可能で、90°回転により導線6を円形部の周面に沿って長さ方向に引張可能な回転部材10と、その回転部材10を回転操作可能な操作レバー11とから構成したことで、導線6の引張を簡単な操作で行うことができる。
【0016】
なお、上記形態では、導線の伸張を3%としているが、この割合に限定するものではなく、エナメルの種類等によっては5%等の他の割合を採用してもよい。また、導線の長さも適宜変更可能である。
よって、引張操作部の回転部材の回転角度も伸張の割合に合わせて変更すればよいし、その径も任意に変更可能である。また、回転部材は半円状に限らず円盤状でも差し支えなく、回転付勢も、錘に代えてトーションスプリング等の他の付勢手段を用いたり、付勢手段を省略したりしてもよい。さらに、引張操作部は固定部と同じ側に配置する必要はなく、ドラムを挟んで固定部と反対側に配置することもできる。
【0017】
一方、ドラムの径も導線の長さに応じて適宜変更可能で、勿論2つに限らず、円形や長円形の1つのドラムのみ用いて導線を巻回させることもできる。また、2つの場合は巻回部分のみ有する半円形としても差し支えない。さらに、円形のドラムは導線への影響を最小限とするために回転可能に支持することも考えられる。
そして、導線を伸張や弛みなく正確に張設するために、固定部とドラムと引張操作部との少なくとも何れか一つを、支持台と長孔とでネジ止めしたり、ネジ送り機構を採用したりすることで、試験台の前後方向で固定位置を調整可能としてもよい。
【0018】
その他、ピンホール試験方法としては、上記形態のようなフェノールフタレイン溶液を滴下した食塩水からなる試験液に浸漬する形態に限らず、先の背景技術で提示したような他の診断、検査装置を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】導線引張装置の説明図で、(A)が側面を、(B)が正面を夫々示す。
【符号の説明】
【0020】
1・・導線引張装置、2・・試験台、3・・固定部、4a,4b・・ドラム、5・・引張操作部、6・・導線、9・・ガイド溝、10・・固定部材、11・・操作レバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆を備えた導線に電圧を加え、前記絶縁被覆中のピンホールを通して前記絶縁被覆の外部に漏れる電流を検出するピンホール試験方法であって、
予め前記導線を長さ方向に引張して所定の割合で伸張させた後、電圧を加えて前記絶縁被膜の外部に漏れる電流を検出するようにしたことを特徴とするピンホール試験方法。
【請求項2】
伸張させた導線を、フェノールフタレイン溶液を滴下した食塩水からなる試験液に浸漬させ、前記導線と試験液との間に電圧を加えることで前記試験液に漏れる電流を検出することを特徴とする請求項1に記載のピンホール試験方法。
【請求項3】
導線を伸張させる割合を3%としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のピンホール試験方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のピンホール試験方法に用いる導線引張装置であって、導線の一端を固定可能な固定部と、その固定部に固定された前記導線を巻回可能なドラムと、前記導線の他端が固定可能で、前記導線を長さ方向に引張して所定の割合で伸張可能な引張操作部とを備えたことを特徴とする導線引張装置。
【請求項5】
引張操作部は、少なくとも一部に円形部を備え、その円形部の周面に導線の他端を固定可能で、所定角度の回転により前記導線を前記円形部の周面に沿って長さ方向に引張可能な回転部材と、その回転部材を回転操作可能な操作レバーとからなることを特徴とする請求項4に記載の導線引張装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−170345(P2008−170345A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4952(P2007−4952)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】