ピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造
【課題】曲げ変形の発生を抑制し得ると共に、RC造躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止し得、さらに、RC造躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することが可能なピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造を提供する。
【解決手段】雄ネジ部2aが上端部に形成され、雄ネジ部下に軸体部2bが形成された棒鋼2と、棒鋼の軸体部にそれらの側縁3a同士が当該軸体部を挟んで互いに向かい合わせで接合されるせん断プレート材3と、これらせん断プレート材の雄ネジ部側上縁3bに接合され、これらせん断プレート材同士を相互に連結する拘束プレート材4とを備えるアンカー部材1を用い、拘束プレート材がRC造柱上面8aに対し上から当接するように、せん断プレート材を含む軸体部をRC造柱8に埋設すると共に、RC造柱上面から突出する棒鋼の雄ネジ部を、鉄骨柱5の下端部の中央部分に締結した。
【解決手段】雄ネジ部2aが上端部に形成され、雄ネジ部下に軸体部2bが形成された棒鋼2と、棒鋼の軸体部にそれらの側縁3a同士が当該軸体部を挟んで互いに向かい合わせで接合されるせん断プレート材3と、これらせん断プレート材の雄ネジ部側上縁3bに接合され、これらせん断プレート材同士を相互に連結する拘束プレート材4とを備えるアンカー部材1を用い、拘束プレート材がRC造柱上面8aに対し上から当接するように、せん断プレート材を含む軸体部をRC造柱8に埋設すると共に、RC造柱上面から突出する棒鋼の雄ネジ部を、鉄骨柱5の下端部の中央部分に締結した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ変形の発生を抑制し得ると共に、鉄筋コンクリート躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止し得、さらに、鉄筋コンクリート躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することが可能なピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨柱を用いる建築物では、鉄骨柱とRC造基礎との接合構造や鉄骨柱とRC造柱との接合構造として、これらRC造基礎等のRC造躯体上に鉄骨柱の下端部を露出して接合する露出型の接合構造が知られている。
【0003】
露出型の接合構造のうち、ピン形式の接合構造は、必要せん断耐力及び必要引張耐力を確保しつつ、RC造躯体と鉄骨柱との間のモーメント伝達を極力抑えることを目的とした接合方式である。
【0004】
通常、ピン形式による接合構造では、鉄骨柱とRC造躯体とを接合するのに用いるアンカー部材としてのアンカーボルトの設置位置は、可能な限り、鉄骨柱のベースプレート中心付近に設定されている。このような設置位置に設定することで、アンカーボルトが負担する曲げモーメントを小さくすると共に、鉄骨柱に作用するせん断力や引張力に対し、アンカーボルトが大きな抵抗力を発揮できるようにしている。
【0005】
露出型の鉄骨柱接合構造では、大きなせん断力が鉄骨柱に作用すると、これら鉄骨柱(ベースプレート)とRC造躯体との接合部であるRC造躯体上面付近に、応力が集中する。
【0006】
応力集中が発生する接合部、特にピン形式による接合部では、上述したようにアンカーボルトはベースプレートの中心付近に接合されるのに対し、RC造躯体内部の鉄筋は、ベースプレートの外回りに配筋されているため、アンカーボルトの周囲は、鉄筋が存在しない無筋状態となっている。アンカーボルト周りが適切に補強されていないことから、せん断力を負担するアンカーボルトを介して、RC造躯体のコンクリートに局部的に圧壊が発生したり、また、それに伴って、アンカーボルト自体に曲げ変形が生じてしまうこととなっていた。
【0007】
このような状況に至ると、鉄骨柱の水平変位が増大し、アンカーボルトには曲げモーメントに伴う負荷が加わってしまうため、結局、ピン形式の接合性能を十分に機能させることができなくなってしまうという問題点があった。
【0008】
このような問題に対処し得る技術として、特許文献1が知られている。特許文献1の「補強管付アンカーボルト」は、アンカーボルトまわりの一体化された補強用鋼管によって、剪断力、曲げモーメントの耐力の増大によって、在来工法の盲点とされていた上下動に伴う地震耐力を著しく大きなものとすることができるなどの効果を有する補強管付アンカーボルトの提供を目的とし、耐力を有する補強用鋼管をアンカーボルトの外周部分に組み込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平6−67544号公報
【特許文献2】特公平8−1079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
当該特許文献1は、ピン形式の露出型鉄骨柱接合構造に対応するものではないが、アンカーボルトの周囲に補強用鋼管を設けることで、アンカーボルト自体のせん断耐力を増大させ、曲げ変形を抑え得る。
【0011】
しかし、特許文献1の開示構成では、アンカーボルトを介して、RC造躯体のコンクリートが局部的に圧壊する問題を解決することはできない。さらに、アンカーボルトの外径に対して大きな補強用鋼管を設ける構成であるため、アンカーボルト下端の定着部(側面J状部)と対抗するコンクリートの断面(いわゆるコーン状破壊に対する水平有効投影面積)が欠損し、引張耐力が低下することが懸念される。
【0012】
なお、RC造躯体として、曲げモーメントが「0」になる高さまで立ち上げたRC造柱に、鉄骨柱をピン形式で接合する露出型の接合構造が特許文献2で知られている。このような構造形式であっても、上述と同様の問題点が生じる。特許文献2の場合には、RC造柱の断面が基礎断面よりも小さいために、これら問題が顕著に発生するおそれがあった。
【0013】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、曲げ変形の発生を抑制し得ると共に、RC造躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止し得、さらに、RC造躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することが可能なピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造は、鉄骨柱の下端部の中央部分を鉄筋コンクリート躯体上面に回転可能に接合するようにしたピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造において、雄ネジ部が上端部に形成され、該雄ネジ部下に軸体部が形成された棒鋼と、該棒鋼の該軸体部に、その側方から少なくとも2枚一組で、それらの側縁同士が当該軸体部を挟んで互いに向かい合わせで接合されるせん断プレート材と、これらせん断プレート材の雄ネジ部側上縁に接合され、これらせん断プレート材同士を相互に連結する拘束プレート材とを備えるアンカー部材を用い、上記拘束プレート材が上記鉄筋コンクリート躯体上面に対し上から当接するように、上記せん断プレート材を含む上記軸体部を該鉄筋コンクリート躯体に埋設すると共に、上記鉄筋コンクリート躯体上面から突出する上記棒鋼の上記雄ネジ部を、上記鉄骨柱の下端部の中央部分に締結したことを特徴とする。
【0015】
前記棒鋼に挿通されて一体的に接合されるパイプ材を用い、前記せん断プレートを、上記棒鋼の軸体部に接合することに代えて、上記パイプ材に接合することを特徴とする。
【0016】
前記鉄筋コンクリート躯体は、基礎から立ち上げて構築された鉄筋コンクリート柱であることを特徴とする。
【0017】
前記拘束プレート材が当接される前記鉄筋コンクリート躯体の上面と前記鉄骨柱の下端部との間には、隙間が設定されることを特徴とする。
【0018】
前記隙間には、前記拘束プレート材と前記鉄骨柱の下端部との間に挟み込んで、座金が設けられることを特徴とする。
【0019】
前記せん断プレート材には、前記鉄骨柱を前記鉄筋コンクリート躯体側へ仮止めするための仮止め部材が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造にあっては、曲げ変形の発生を抑制できると共に、RC造躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止することができ、さらに、RC造躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造の好適な一実施形態を示す一部破断正面図である。
【図2】図1のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造に適用されるアンカー部材を示す斜視図である。
【図3】鉄骨柱にブレースが取り付けられる場合、図2のアンカー部材のせん断プレート材が配置される向きを示す概略平面図である。
【図4】ピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造におけるせん断力、水平変位及び圧壊の様子を説明するための説明図である。
【図5】図2のアンカー部材の変形例を示す斜視図である。
【図6】図5に示したアンカー部材による鉄骨柱の仮止め施工手順を説明する説明図である。
【図7】図2のアンカー部材の他の変形例を示す斜視図である。
【図8】図2のアンカー部材のさらに他の変形例を示す斜視図である。
【図9】図2のアンカー部材のさらに他の変形例を示す斜視図である。
【図10】図9のアンカー部材の変形例を示す分解斜視図である。
【図11】図2のアンカー部材のさらに他の変形例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかるピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造は、RC造躯体として、RC造柱8上に、中空筒体状の鉄骨柱5を接合する場合が例示されている。
【0023】
RC造柱8は、基礎上に立ち上げられ、下端部固定のラーメン構造においてモーメントが「0」となる、階層のおおよそ中間高さ位置まで構築される。鉄骨柱5は、モーメントが「0」となるRC造柱8上に設置されて、ピン接合形式で接合される。
【0024】
構造力学上、ピン接合形式は、RC造柱8に対して鉄骨柱5が回転可能な接合方式であって、この場合、鉄骨柱5の下端部に接合したベースプレート6の中央部分やその近辺のみがRC造柱8の上面8aに対し接合される。
【0025】
鉄骨柱5は、RC造柱8に、単一のアンカー部材1を用いて接合される。アンカー部材1は主に、真直な丸鋼などの棒鋼2と、四角形状で平坦な複数枚のせん断プレート材3と、リング状で平坦な拘束プレート材4とから構成される。これらプレート材3,4の形状は一例であって、その他の形状であっても良い。これらプレート材3,4は、鋼板等の金属材によって形成される。
【0026】
棒鋼2は、上下に立てて用いられるもので、上端部には雄ネジ部2aが形成される。雄ネジ部2aは、鉄骨柱5下端部のベースプレート6に形成した挿通孔に挿入されてナット7が螺着され、これにより棒鋼2が鉄骨柱5と締結される。棒鋼2は、雄ネジ部2a下の軸体部2bがRC造柱8に埋設されることにより、RC造柱8の上面8aから突出される。
【0027】
せん断プレート材3は、雄ネジ部2a下方の軸体部2bに接合される。せん断プレート材3は、2枚一組で接合される。せん断プレート材3は、軸体部2bの側方から、軸体部2bに面する側縁3a同士が当該軸体部2bを挟んで互いに向かい合う配置で、軸体部2bに接合される。せん断プレート材3は、複数組を接合しても良く、図示例では、二組接合されている。複数組接合する場合、これらせん断プレート材3は、軸体部2bを中心に、放射状の配列で棒鋼2に接合されることになる。
【0028】
特に、図3に示すように、鉄骨柱5にブレース9が取り付けられる場合、ブレース9の取り付け方向に沿って鉄骨柱5に作用するせん断力をせん断プレート材3で効果的に負担するために、棒鋼2に接合するせん断プレート材3のうち、いずれかの2枚一組のせん断プレート材3は、ブレース9に対し直交するように位置付けられて、RC造柱8中に埋設される。
【0029】
せん断プレート材3は軸体部2bに溶接接合によって接合される。溶接接合に限らず、ガス圧接など、その他の接合方法を用いても良いことはもちろんである。
【0030】
リング状の拘束プレート材4は、棒鋼2に雄ネジ部2a側から挿入され、複数枚のせん断プレート材3の雄ネジ部側上縁3bに接合される。拘束プレート材4は、せん断プレート材3同士を相互に連結する。すなわち、拘束プレート材4は、棒鋼2周りに沿って複数のせん断プレート材3を繋ぐ。拘束プレート材4の外形寸法は、鉄骨柱5の外径よりも小さく、かつせん断プレート材3の上縁3bの長さよりも僅かに小さく設定することが好ましい。拘束プレート材4の穴径は、棒鋼2へ挿入し得るように、棒鋼2の外径よりも僅かに大きく形成される。
【0031】
拘束プレート材4はせん断プレート材3に溶接接合によって接合される。溶接接合に限らず、ガス圧接など、その他の接合方法を用いても良いことはもちろんである。拘束プレート材4は、棒鋼2と接合させても良いが、接合させないほうが、棒鋼2に生じる引張力が直接、せん断プレート材3や後述する定着部に伝達されるので好ましい。
【0032】
拘束プレート材4は図1に示すように、せん断プレート材3を含む軸体部2bをRC造柱8に埋設したとき、RC造柱8の上面8aを押さえ込むために、当該RC造柱8の上面8aに対し上から当接する位置に位置付けられる。詳細には、棒鋼2の軸体部2bは、せん断プレート材3の上縁3bがRC造柱8の上面8aと面一となり、かつせん断プレート材上縁3bの拘束プレート材4がRC造柱8の上面8aに上方から被さって接するような位置に埋設される。
【0033】
本実施形態に係るアンカー部材1にはさらに、軸体部2bをRC造柱8に定着させるための定着部が形成される。定着部は、棒鋼2の下端に形成される。図示例にあっては、棒鋼2の下端部に形成した下部雄ネジ部2cに定着板付のナット10を螺合して形成される。定着部の形態はこれに限らず、棒鋼2を曲げ返した形態のフック部など、周知の各種定着構造を採用することができる。
【0034】
また、本実施形態に係るアンカー部材1には、せん断プレート材3をRC造柱8に定着させるためのプレート定着部が形成される。図示例にあっては、プレート定着部は、せん断プレート材3の表裏面から多数立設したスタットボルト11で構成されている。スタッドボルト11に代えて、せん断プレート材を貫通して締結したボルト・ナットであっても良い。プレート定着部の形態は、この他凹凸形態など、周知の各種定着構造を採用することができる。
【0035】
アンカー部材1によって接合されるRC造柱8の上面8aと鉄骨柱5のベースプレート6との間には、RC造柱上面8aに当接される拘束プレート材4によって、隙間Sが設定される。隙間Sにより、RC造柱8に対する鉄骨柱5の回転性能が向上される。
【0036】
本実施形態にあっては、隙間Sにはさらに、拘束プレート材4に重ねて、当該拘束プレート材4とベースプレート6との間に挟み込んで鋼製のリング状座金12が設けられる。座金12の外径寸法は、当該座金12によってRC造柱8の上面8aが損傷されないように、拘束プレート材4よりも小さく設定される。座金12を設けることにより、鉄骨柱5の回転性能がさらに改善される。
【0037】
本実施形態に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造の作用について説明する。アンカー部材1は、せん断プレート材3を含む棒鋼2の軸体部2bがRC造柱8に埋設され、棒鋼2の雄ネジ部2aがRC造柱8の上面8a上方へ突出されると共に、拘束プレート材4が当該RC造柱8の上面8aに棒鋼2を取り囲んで当接される。RC造柱上面8aに露出している雄ネジ部2aには、拘束プレート材4に重ねて座金12が装着される。
【0038】
さらに、アンカー部材1の棒鋼2の雄ネジ部2aは、上方から建て込まれる鉄骨柱5のベースプレート6のおおよそ中央部分やその周辺にナット7で締結される。これにより、鉄骨柱5の中央部分を、隙間S及び座金12を介して、アンカー部材1によりRC造柱8に接合したピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造が得られる。
【0039】
そして、鉄骨柱5に外力が加わったとき、隙間S及び座金12により、鉄骨柱5はRC造柱8に対し、円滑な回転作用を呈する。このとき、アンカー部材1は、棒鋼2に加わるせん断力がせん断プレート材3によってRC造柱8に安定して伝達されることにより、図4に示すような鉄骨柱5とRC造柱8との間に作用するせん断力Qに対して十分に抵抗することができる。特に、ブレース9が鉄骨柱5に取り付けられる場合、せん断プレート材3を、ブレース9の取り付け向きと直交する向きに配置するようにしたので、効果的にせん断力に抵抗することができる。
【0040】
また、互いに接合した拘束プレート材4とせん断プレート材3とにより、RC造柱上面8a及びその近傍のコンクリートを拘束することができるので、同じく図4に示すような棒鋼2周辺のコンクリートに生じる局部的な圧壊Cを防止できる。さらに、圧壊を防止できることにより、棒鋼2に生じる水平変位Xや曲げ変形を抑制することができる。
【0041】
以上により、ピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造における鉄骨柱5とRC造柱8との接合部で曲げ変形が生じることを確実に抑制することができる。
【0042】
加えて、せん断プレート材3の配置が、棒鋼2を中心として、放射状の配列となるので、棒鋼2の下端に形成した定着部(定着板付きのナット10)と対抗するRC造柱8のコンクリートの断面(いわゆるコーン状破壊に対する水平有効投影面積)の欠損が最小限で済み、高い引張耐力を確保することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造にあっては、曲げ変形の発生を抑制することができると共に、RC造柱8のコンクリート等の局部的な圧壊も防止でき、さらに、RC造柱8のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、棒鋼2に定着部を形成し、また、せん断プレート材3にプレート定着部(スタッドボルト11)を形成したので、RC造柱8のコンクリートと棒鋼2及びせん断プレート材3の一体化を増強することができ、引張性能を向上することができる。
【0045】
以上の説明では、RC造躯体として、RC造柱8を例示して説明したが、RC造基礎であっても、同様に適用して構成できることはもちろんである。RC造躯体の断面が大きい場合には、種々の対策を採用し得るが、本実施形態では、上記アンカー部材1の埋設のみによって構成することができるので、RC造柱の断面のように断面が小さい場合に有効に機能させることができる。
【0046】
図5及び図6には、上記実施形態の変形例が示されている。この変形例は、ピン接合形式であって単一のアンカー部材1による接合では安定的に自立し難い鉄骨柱5を仮止めする機能を備えたピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造である。図5に示すように、せん断プレート材3には、軸体部2bと接合されない反対側の側縁3cに、仮止め部材として長ナット13が接合される。
【0047】
長ナット13は、その長さ方向が鉄骨柱5の高さ方向に沿うように、せん断プレート材3に設けられる。また、長ナット13の上端は、ネジ部材14のねじ込みが可能なように、RC造柱上面8aに露出される。図示例にあっては、4枚全てのせん断プレート材3に設けられているが、全てのせん断プレート材3に設けなくても良い。
【0048】
図6には、施工状態が順次示されている。ベースプレート6には、長ナット13位置に合わせて、仮止め用の挿通穴が貫通形成される。図6(A)に示すように、RC造柱8から立ち上げるように、各長ナット13にネジ部材14を螺合しておき、上方から鉄骨柱5を建て込む。
【0049】
ベースプレート6の挿通穴にネジ部材14を挿通しつつ、鉄骨柱5を降ろして、RC造柱上面8aに設置し、図6(B)に示すように、ベースプレート6上からネジ部材14にナット15を締結する。これにより鉄骨柱5をRC造柱8側へ仮止めすることができる。
【0050】
鉄骨柱5間に梁を連結するなどして、鉄骨柱5の建て方に関する各種周辺作業が完了したならば、図6(C)に示すように、ナット15ごとネジ部材14を長ナット13から取り外す。せん断プレート材3に仮止め部材(長ナット13)を備えたことにより、回転可能なピン接合形式であっても、アンカー部材1によって建て方中の鉄骨柱5を安定して仮止めすることができ、施工性を向上することができる。
【0051】
図7には、アンカー部材1の変形例が示されている。この変形例は、プレート定着部を省略したものである。
【0052】
図8には、他の変形例が示されている。この変形例は、図7に示したアンカー部材1のせん断プレート材3に、RC造柱8を構築するコンクリートの充填性を向上するために、その表裏面に向かって貫通する貫通孔16が形成されている。
【0053】
貫通孔16を介して、せん断プレート材3周りにコンクリートが流通するので、アンカー部材1の定着性能を向上することができる。この貫通孔16は、上記実施形態のプレート定着部を有するせん断プレート材3に形成しても良いことはもちろんである。これら変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0054】
図9には、さらに他のアンカー部材1が示されている。この変形例では、棒鋼2の下端部に形成される定着部が省略されている。この変形例の各せん断プレート材3は、せん断プレート材3のプレート面を拡張するために、軸体部2bの軸長方向に当該軸体部2b外方へ延設した延設部3dを有する。そしてこれら延設部3d同士が互いに接合されて、せん断プレート材3同士が一体化される。
【0055】
具体的には、この変形例に用いられるせん断プレート材3は、軸体部2bに面する側縁が当該軸体部2bよりも長く形成され、この側縁の上部に、軸体部2bに嵌め合わされる切り欠き部3eが形成される。各せん断プレート材3は、それらの切り欠き部3eで軸体部2bと接合されると共に、切り欠き部3e下の側縁下部3f同士が互いに接合される。接合方法は、上述と同様である。
【0056】
この変形例にあっては、RC造柱8に定着するせん断プレート材3のプレート面積を拡張することができ、さらに曲げ変形抑制作用及び引用耐力を増大することができる。
【0057】
図10には、図9に示したアンカー部材1の変形例が示されている。この変形例は、せん断プレート材3の延設部3d同士を互いに接合することに基づき、いずれかの2枚一組のせん断プレート材3を一体化するようにしたものである。すなわち、2枚分の大きさを有する拡張せん断プレート材3xに、軸体部2bを嵌め込み得るスリット17を形成している。
【0058】
拡張せん断プレート材3xはスリット17で軸体部2bに接合される。その他のせん断プレート材3は、図9に示したものと同様に、切り欠き部3eで軸体部2bに接合されると共に、側縁下部3fが拡張せん断プレート材3xに突き合わされて接合される。この変形例にあっては、部品点数及び接合箇所数を削減することができる。このような変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0059】
図11には、アンカー部材1のさらに他の変形例が示されている。この変形例は、棒鋼2として、異形鉄筋を用いる場合である。異形鉄筋の場合、せん断プレート材3を適切に接合するために、パイプ材18が用いられる。
【0060】
パイプ材18は、その中空内部に棒鋼2相当の異形鉄筋が挿通され、これと一体的に接合される。パイプ材18と異形鉄筋の接合は、例えばナットで締結したり、あるいは上記と同様の接合方法が採用される。せん断プレート材3は、パイプ材18の周側面に接合される。異形鉄筋に限らず、丸鋼に対してパイプ材18を用いても良いことはもちろんである。このような変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0061】
上記いずれの実施形態にあっても、鉄骨柱5が中空筒体状である場合について説明したが、H形鋼であっても良い。この場合、一般的にアンカー部材1は、ウエブに寄せてこれを挟んで2つ設けられ、それぞれベースプレート6と締結される。
【0062】
上記いずれの実施形態にあっても、拘束プレート材4は、棒鋼2を取り囲むリング状である場合について説明したが、隣接するせん断プレート材3を棒鋼2周りに取り囲む形態であれば、複数のピースを環状に接合して形成しても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 アンカー部材
2 棒鋼
2a 雄ネジ部
2b 軸体部
3 せん断プレート材
3a 側縁
3b 雄ネジ部側上縁
4 拘束プレート材
5 鉄骨柱
8 鉄筋コンクリート柱
8a 上面
12 座金
13 長ナット
S 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ変形の発生を抑制し得ると共に、鉄筋コンクリート躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止し得、さらに、鉄筋コンクリート躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することが可能なピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨柱を用いる建築物では、鉄骨柱とRC造基礎との接合構造や鉄骨柱とRC造柱との接合構造として、これらRC造基礎等のRC造躯体上に鉄骨柱の下端部を露出して接合する露出型の接合構造が知られている。
【0003】
露出型の接合構造のうち、ピン形式の接合構造は、必要せん断耐力及び必要引張耐力を確保しつつ、RC造躯体と鉄骨柱との間のモーメント伝達を極力抑えることを目的とした接合方式である。
【0004】
通常、ピン形式による接合構造では、鉄骨柱とRC造躯体とを接合するのに用いるアンカー部材としてのアンカーボルトの設置位置は、可能な限り、鉄骨柱のベースプレート中心付近に設定されている。このような設置位置に設定することで、アンカーボルトが負担する曲げモーメントを小さくすると共に、鉄骨柱に作用するせん断力や引張力に対し、アンカーボルトが大きな抵抗力を発揮できるようにしている。
【0005】
露出型の鉄骨柱接合構造では、大きなせん断力が鉄骨柱に作用すると、これら鉄骨柱(ベースプレート)とRC造躯体との接合部であるRC造躯体上面付近に、応力が集中する。
【0006】
応力集中が発生する接合部、特にピン形式による接合部では、上述したようにアンカーボルトはベースプレートの中心付近に接合されるのに対し、RC造躯体内部の鉄筋は、ベースプレートの外回りに配筋されているため、アンカーボルトの周囲は、鉄筋が存在しない無筋状態となっている。アンカーボルト周りが適切に補強されていないことから、せん断力を負担するアンカーボルトを介して、RC造躯体のコンクリートに局部的に圧壊が発生したり、また、それに伴って、アンカーボルト自体に曲げ変形が生じてしまうこととなっていた。
【0007】
このような状況に至ると、鉄骨柱の水平変位が増大し、アンカーボルトには曲げモーメントに伴う負荷が加わってしまうため、結局、ピン形式の接合性能を十分に機能させることができなくなってしまうという問題点があった。
【0008】
このような問題に対処し得る技術として、特許文献1が知られている。特許文献1の「補強管付アンカーボルト」は、アンカーボルトまわりの一体化された補強用鋼管によって、剪断力、曲げモーメントの耐力の増大によって、在来工法の盲点とされていた上下動に伴う地震耐力を著しく大きなものとすることができるなどの効果を有する補強管付アンカーボルトの提供を目的とし、耐力を有する補強用鋼管をアンカーボルトの外周部分に組み込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平6−67544号公報
【特許文献2】特公平8−1079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
当該特許文献1は、ピン形式の露出型鉄骨柱接合構造に対応するものではないが、アンカーボルトの周囲に補強用鋼管を設けることで、アンカーボルト自体のせん断耐力を増大させ、曲げ変形を抑え得る。
【0011】
しかし、特許文献1の開示構成では、アンカーボルトを介して、RC造躯体のコンクリートが局部的に圧壊する問題を解決することはできない。さらに、アンカーボルトの外径に対して大きな補強用鋼管を設ける構成であるため、アンカーボルト下端の定着部(側面J状部)と対抗するコンクリートの断面(いわゆるコーン状破壊に対する水平有効投影面積)が欠損し、引張耐力が低下することが懸念される。
【0012】
なお、RC造躯体として、曲げモーメントが「0」になる高さまで立ち上げたRC造柱に、鉄骨柱をピン形式で接合する露出型の接合構造が特許文献2で知られている。このような構造形式であっても、上述と同様の問題点が生じる。特許文献2の場合には、RC造柱の断面が基礎断面よりも小さいために、これら問題が顕著に発生するおそれがあった。
【0013】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、曲げ変形の発生を抑制し得ると共に、RC造躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止し得、さらに、RC造躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することが可能なピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造は、鉄骨柱の下端部の中央部分を鉄筋コンクリート躯体上面に回転可能に接合するようにしたピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造において、雄ネジ部が上端部に形成され、該雄ネジ部下に軸体部が形成された棒鋼と、該棒鋼の該軸体部に、その側方から少なくとも2枚一組で、それらの側縁同士が当該軸体部を挟んで互いに向かい合わせで接合されるせん断プレート材と、これらせん断プレート材の雄ネジ部側上縁に接合され、これらせん断プレート材同士を相互に連結する拘束プレート材とを備えるアンカー部材を用い、上記拘束プレート材が上記鉄筋コンクリート躯体上面に対し上から当接するように、上記せん断プレート材を含む上記軸体部を該鉄筋コンクリート躯体に埋設すると共に、上記鉄筋コンクリート躯体上面から突出する上記棒鋼の上記雄ネジ部を、上記鉄骨柱の下端部の中央部分に締結したことを特徴とする。
【0015】
前記棒鋼に挿通されて一体的に接合されるパイプ材を用い、前記せん断プレートを、上記棒鋼の軸体部に接合することに代えて、上記パイプ材に接合することを特徴とする。
【0016】
前記鉄筋コンクリート躯体は、基礎から立ち上げて構築された鉄筋コンクリート柱であることを特徴とする。
【0017】
前記拘束プレート材が当接される前記鉄筋コンクリート躯体の上面と前記鉄骨柱の下端部との間には、隙間が設定されることを特徴とする。
【0018】
前記隙間には、前記拘束プレート材と前記鉄骨柱の下端部との間に挟み込んで、座金が設けられることを特徴とする。
【0019】
前記せん断プレート材には、前記鉄骨柱を前記鉄筋コンクリート躯体側へ仮止めするための仮止め部材が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造にあっては、曲げ変形の発生を抑制できると共に、RC造躯体のコンクリート等の局部的な圧壊も防止することができ、さらに、RC造躯体のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造の好適な一実施形態を示す一部破断正面図である。
【図2】図1のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造に適用されるアンカー部材を示す斜視図である。
【図3】鉄骨柱にブレースが取り付けられる場合、図2のアンカー部材のせん断プレート材が配置される向きを示す概略平面図である。
【図4】ピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造におけるせん断力、水平変位及び圧壊の様子を説明するための説明図である。
【図5】図2のアンカー部材の変形例を示す斜視図である。
【図6】図5に示したアンカー部材による鉄骨柱の仮止め施工手順を説明する説明図である。
【図7】図2のアンカー部材の他の変形例を示す斜視図である。
【図8】図2のアンカー部材のさらに他の変形例を示す斜視図である。
【図9】図2のアンカー部材のさらに他の変形例を示す斜視図である。
【図10】図9のアンカー部材の変形例を示す分解斜視図である。
【図11】図2のアンカー部材のさらに他の変形例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかるピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造は、RC造躯体として、RC造柱8上に、中空筒体状の鉄骨柱5を接合する場合が例示されている。
【0023】
RC造柱8は、基礎上に立ち上げられ、下端部固定のラーメン構造においてモーメントが「0」となる、階層のおおよそ中間高さ位置まで構築される。鉄骨柱5は、モーメントが「0」となるRC造柱8上に設置されて、ピン接合形式で接合される。
【0024】
構造力学上、ピン接合形式は、RC造柱8に対して鉄骨柱5が回転可能な接合方式であって、この場合、鉄骨柱5の下端部に接合したベースプレート6の中央部分やその近辺のみがRC造柱8の上面8aに対し接合される。
【0025】
鉄骨柱5は、RC造柱8に、単一のアンカー部材1を用いて接合される。アンカー部材1は主に、真直な丸鋼などの棒鋼2と、四角形状で平坦な複数枚のせん断プレート材3と、リング状で平坦な拘束プレート材4とから構成される。これらプレート材3,4の形状は一例であって、その他の形状であっても良い。これらプレート材3,4は、鋼板等の金属材によって形成される。
【0026】
棒鋼2は、上下に立てて用いられるもので、上端部には雄ネジ部2aが形成される。雄ネジ部2aは、鉄骨柱5下端部のベースプレート6に形成した挿通孔に挿入されてナット7が螺着され、これにより棒鋼2が鉄骨柱5と締結される。棒鋼2は、雄ネジ部2a下の軸体部2bがRC造柱8に埋設されることにより、RC造柱8の上面8aから突出される。
【0027】
せん断プレート材3は、雄ネジ部2a下方の軸体部2bに接合される。せん断プレート材3は、2枚一組で接合される。せん断プレート材3は、軸体部2bの側方から、軸体部2bに面する側縁3a同士が当該軸体部2bを挟んで互いに向かい合う配置で、軸体部2bに接合される。せん断プレート材3は、複数組を接合しても良く、図示例では、二組接合されている。複数組接合する場合、これらせん断プレート材3は、軸体部2bを中心に、放射状の配列で棒鋼2に接合されることになる。
【0028】
特に、図3に示すように、鉄骨柱5にブレース9が取り付けられる場合、ブレース9の取り付け方向に沿って鉄骨柱5に作用するせん断力をせん断プレート材3で効果的に負担するために、棒鋼2に接合するせん断プレート材3のうち、いずれかの2枚一組のせん断プレート材3は、ブレース9に対し直交するように位置付けられて、RC造柱8中に埋設される。
【0029】
せん断プレート材3は軸体部2bに溶接接合によって接合される。溶接接合に限らず、ガス圧接など、その他の接合方法を用いても良いことはもちろんである。
【0030】
リング状の拘束プレート材4は、棒鋼2に雄ネジ部2a側から挿入され、複数枚のせん断プレート材3の雄ネジ部側上縁3bに接合される。拘束プレート材4は、せん断プレート材3同士を相互に連結する。すなわち、拘束プレート材4は、棒鋼2周りに沿って複数のせん断プレート材3を繋ぐ。拘束プレート材4の外形寸法は、鉄骨柱5の外径よりも小さく、かつせん断プレート材3の上縁3bの長さよりも僅かに小さく設定することが好ましい。拘束プレート材4の穴径は、棒鋼2へ挿入し得るように、棒鋼2の外径よりも僅かに大きく形成される。
【0031】
拘束プレート材4はせん断プレート材3に溶接接合によって接合される。溶接接合に限らず、ガス圧接など、その他の接合方法を用いても良いことはもちろんである。拘束プレート材4は、棒鋼2と接合させても良いが、接合させないほうが、棒鋼2に生じる引張力が直接、せん断プレート材3や後述する定着部に伝達されるので好ましい。
【0032】
拘束プレート材4は図1に示すように、せん断プレート材3を含む軸体部2bをRC造柱8に埋設したとき、RC造柱8の上面8aを押さえ込むために、当該RC造柱8の上面8aに対し上から当接する位置に位置付けられる。詳細には、棒鋼2の軸体部2bは、せん断プレート材3の上縁3bがRC造柱8の上面8aと面一となり、かつせん断プレート材上縁3bの拘束プレート材4がRC造柱8の上面8aに上方から被さって接するような位置に埋設される。
【0033】
本実施形態に係るアンカー部材1にはさらに、軸体部2bをRC造柱8に定着させるための定着部が形成される。定着部は、棒鋼2の下端に形成される。図示例にあっては、棒鋼2の下端部に形成した下部雄ネジ部2cに定着板付のナット10を螺合して形成される。定着部の形態はこれに限らず、棒鋼2を曲げ返した形態のフック部など、周知の各種定着構造を採用することができる。
【0034】
また、本実施形態に係るアンカー部材1には、せん断プレート材3をRC造柱8に定着させるためのプレート定着部が形成される。図示例にあっては、プレート定着部は、せん断プレート材3の表裏面から多数立設したスタットボルト11で構成されている。スタッドボルト11に代えて、せん断プレート材を貫通して締結したボルト・ナットであっても良い。プレート定着部の形態は、この他凹凸形態など、周知の各種定着構造を採用することができる。
【0035】
アンカー部材1によって接合されるRC造柱8の上面8aと鉄骨柱5のベースプレート6との間には、RC造柱上面8aに当接される拘束プレート材4によって、隙間Sが設定される。隙間Sにより、RC造柱8に対する鉄骨柱5の回転性能が向上される。
【0036】
本実施形態にあっては、隙間Sにはさらに、拘束プレート材4に重ねて、当該拘束プレート材4とベースプレート6との間に挟み込んで鋼製のリング状座金12が設けられる。座金12の外径寸法は、当該座金12によってRC造柱8の上面8aが損傷されないように、拘束プレート材4よりも小さく設定される。座金12を設けることにより、鉄骨柱5の回転性能がさらに改善される。
【0037】
本実施形態に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造の作用について説明する。アンカー部材1は、せん断プレート材3を含む棒鋼2の軸体部2bがRC造柱8に埋設され、棒鋼2の雄ネジ部2aがRC造柱8の上面8a上方へ突出されると共に、拘束プレート材4が当該RC造柱8の上面8aに棒鋼2を取り囲んで当接される。RC造柱上面8aに露出している雄ネジ部2aには、拘束プレート材4に重ねて座金12が装着される。
【0038】
さらに、アンカー部材1の棒鋼2の雄ネジ部2aは、上方から建て込まれる鉄骨柱5のベースプレート6のおおよそ中央部分やその周辺にナット7で締結される。これにより、鉄骨柱5の中央部分を、隙間S及び座金12を介して、アンカー部材1によりRC造柱8に接合したピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造が得られる。
【0039】
そして、鉄骨柱5に外力が加わったとき、隙間S及び座金12により、鉄骨柱5はRC造柱8に対し、円滑な回転作用を呈する。このとき、アンカー部材1は、棒鋼2に加わるせん断力がせん断プレート材3によってRC造柱8に安定して伝達されることにより、図4に示すような鉄骨柱5とRC造柱8との間に作用するせん断力Qに対して十分に抵抗することができる。特に、ブレース9が鉄骨柱5に取り付けられる場合、せん断プレート材3を、ブレース9の取り付け向きと直交する向きに配置するようにしたので、効果的にせん断力に抵抗することができる。
【0040】
また、互いに接合した拘束プレート材4とせん断プレート材3とにより、RC造柱上面8a及びその近傍のコンクリートを拘束することができるので、同じく図4に示すような棒鋼2周辺のコンクリートに生じる局部的な圧壊Cを防止できる。さらに、圧壊を防止できることにより、棒鋼2に生じる水平変位Xや曲げ変形を抑制することができる。
【0041】
以上により、ピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造における鉄骨柱5とRC造柱8との接合部で曲げ変形が生じることを確実に抑制することができる。
【0042】
加えて、せん断プレート材3の配置が、棒鋼2を中心として、放射状の配列となるので、棒鋼2の下端に形成した定着部(定着板付きのナット10)と対抗するRC造柱8のコンクリートの断面(いわゆるコーン状破壊に対する水平有効投影面積)の欠損が最小限で済み、高い引張耐力を確保することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造にあっては、曲げ変形の発生を抑制することができると共に、RC造柱8のコンクリート等の局部的な圧壊も防止でき、さらに、RC造柱8のコンクリート断面の欠損を生じさせることがなくて、十分な引張耐力を確保することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、棒鋼2に定着部を形成し、また、せん断プレート材3にプレート定着部(スタッドボルト11)を形成したので、RC造柱8のコンクリートと棒鋼2及びせん断プレート材3の一体化を増強することができ、引張性能を向上することができる。
【0045】
以上の説明では、RC造躯体として、RC造柱8を例示して説明したが、RC造基礎であっても、同様に適用して構成できることはもちろんである。RC造躯体の断面が大きい場合には、種々の対策を採用し得るが、本実施形態では、上記アンカー部材1の埋設のみによって構成することができるので、RC造柱の断面のように断面が小さい場合に有効に機能させることができる。
【0046】
図5及び図6には、上記実施形態の変形例が示されている。この変形例は、ピン接合形式であって単一のアンカー部材1による接合では安定的に自立し難い鉄骨柱5を仮止めする機能を備えたピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造である。図5に示すように、せん断プレート材3には、軸体部2bと接合されない反対側の側縁3cに、仮止め部材として長ナット13が接合される。
【0047】
長ナット13は、その長さ方向が鉄骨柱5の高さ方向に沿うように、せん断プレート材3に設けられる。また、長ナット13の上端は、ネジ部材14のねじ込みが可能なように、RC造柱上面8aに露出される。図示例にあっては、4枚全てのせん断プレート材3に設けられているが、全てのせん断プレート材3に設けなくても良い。
【0048】
図6には、施工状態が順次示されている。ベースプレート6には、長ナット13位置に合わせて、仮止め用の挿通穴が貫通形成される。図6(A)に示すように、RC造柱8から立ち上げるように、各長ナット13にネジ部材14を螺合しておき、上方から鉄骨柱5を建て込む。
【0049】
ベースプレート6の挿通穴にネジ部材14を挿通しつつ、鉄骨柱5を降ろして、RC造柱上面8aに設置し、図6(B)に示すように、ベースプレート6上からネジ部材14にナット15を締結する。これにより鉄骨柱5をRC造柱8側へ仮止めすることができる。
【0050】
鉄骨柱5間に梁を連結するなどして、鉄骨柱5の建て方に関する各種周辺作業が完了したならば、図6(C)に示すように、ナット15ごとネジ部材14を長ナット13から取り外す。せん断プレート材3に仮止め部材(長ナット13)を備えたことにより、回転可能なピン接合形式であっても、アンカー部材1によって建て方中の鉄骨柱5を安定して仮止めすることができ、施工性を向上することができる。
【0051】
図7には、アンカー部材1の変形例が示されている。この変形例は、プレート定着部を省略したものである。
【0052】
図8には、他の変形例が示されている。この変形例は、図7に示したアンカー部材1のせん断プレート材3に、RC造柱8を構築するコンクリートの充填性を向上するために、その表裏面に向かって貫通する貫通孔16が形成されている。
【0053】
貫通孔16を介して、せん断プレート材3周りにコンクリートが流通するので、アンカー部材1の定着性能を向上することができる。この貫通孔16は、上記実施形態のプレート定着部を有するせん断プレート材3に形成しても良いことはもちろんである。これら変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0054】
図9には、さらに他のアンカー部材1が示されている。この変形例では、棒鋼2の下端部に形成される定着部が省略されている。この変形例の各せん断プレート材3は、せん断プレート材3のプレート面を拡張するために、軸体部2bの軸長方向に当該軸体部2b外方へ延設した延設部3dを有する。そしてこれら延設部3d同士が互いに接合されて、せん断プレート材3同士が一体化される。
【0055】
具体的には、この変形例に用いられるせん断プレート材3は、軸体部2bに面する側縁が当該軸体部2bよりも長く形成され、この側縁の上部に、軸体部2bに嵌め合わされる切り欠き部3eが形成される。各せん断プレート材3は、それらの切り欠き部3eで軸体部2bと接合されると共に、切り欠き部3e下の側縁下部3f同士が互いに接合される。接合方法は、上述と同様である。
【0056】
この変形例にあっては、RC造柱8に定着するせん断プレート材3のプレート面積を拡張することができ、さらに曲げ変形抑制作用及び引用耐力を増大することができる。
【0057】
図10には、図9に示したアンカー部材1の変形例が示されている。この変形例は、せん断プレート材3の延設部3d同士を互いに接合することに基づき、いずれかの2枚一組のせん断プレート材3を一体化するようにしたものである。すなわち、2枚分の大きさを有する拡張せん断プレート材3xに、軸体部2bを嵌め込み得るスリット17を形成している。
【0058】
拡張せん断プレート材3xはスリット17で軸体部2bに接合される。その他のせん断プレート材3は、図9に示したものと同様に、切り欠き部3eで軸体部2bに接合されると共に、側縁下部3fが拡張せん断プレート材3xに突き合わされて接合される。この変形例にあっては、部品点数及び接合箇所数を削減することができる。このような変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0059】
図11には、アンカー部材1のさらに他の変形例が示されている。この変形例は、棒鋼2として、異形鉄筋を用いる場合である。異形鉄筋の場合、せん断プレート材3を適切に接合するために、パイプ材18が用いられる。
【0060】
パイプ材18は、その中空内部に棒鋼2相当の異形鉄筋が挿通され、これと一体的に接合される。パイプ材18と異形鉄筋の接合は、例えばナットで締結したり、あるいは上記と同様の接合方法が採用される。せん断プレート材3は、パイプ材18の周側面に接合される。異形鉄筋に限らず、丸鋼に対してパイプ材18を用いても良いことはもちろんである。このような変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【0061】
上記いずれの実施形態にあっても、鉄骨柱5が中空筒体状である場合について説明したが、H形鋼であっても良い。この場合、一般的にアンカー部材1は、ウエブに寄せてこれを挟んで2つ設けられ、それぞれベースプレート6と締結される。
【0062】
上記いずれの実施形態にあっても、拘束プレート材4は、棒鋼2を取り囲むリング状である場合について説明したが、隣接するせん断プレート材3を棒鋼2周りに取り囲む形態であれば、複数のピースを環状に接合して形成しても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 アンカー部材
2 棒鋼
2a 雄ネジ部
2b 軸体部
3 せん断プレート材
3a 側縁
3b 雄ネジ部側上縁
4 拘束プレート材
5 鉄骨柱
8 鉄筋コンクリート柱
8a 上面
12 座金
13 長ナット
S 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱の下端部の中央部分を鉄筋コンクリート躯体上面に回転可能に接合するようにしたピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造において、
雄ネジ部が上端部に形成され、該雄ネジ部下に軸体部が形成された棒鋼と、該棒鋼の該軸体部に、その側方から少なくとも2枚一組で、それらの側縁同士が当該軸体部を挟んで互いに向かい合わせで接合されるせん断プレート材と、これらせん断プレート材の雄ネジ部側上縁に接合され、これらせん断プレート材同士を相互に連結する拘束プレート材とを備えるアンカー部材を用い、
上記拘束プレート材が上記鉄筋コンクリート躯体上面に対し上から当接するように、上記せん断プレート材を含む上記軸体部を該鉄筋コンクリート躯体に埋設すると共に、
上記鉄筋コンクリート躯体上面から突出する上記棒鋼の上記雄ネジ部を、上記鉄骨柱の下端部の中央部分に締結したことを特徴とするピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項2】
前記棒鋼に挿通されて一体的に接合されるパイプ材を用い、前記せん断プレートを、上記棒鋼の軸体部に接合することに代えて、上記パイプ材に接合することを特徴とする請求項1に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート躯体は、基礎から立ち上げて構築された鉄筋コンクリート柱であることを特徴とする請求項1または2に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項4】
前記拘束プレート材が当接される前記鉄筋コンクリート躯体の上面と前記鉄骨柱の下端部との間には、隙間が設定されることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項5】
前記隙間には、前記拘束プレート材と前記鉄骨柱の下端部との間に挟み込んで、座金が設けられることを特徴とする請求項4に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項6】
前記せん断プレート材には、前記鉄骨柱を前記鉄筋コンクリート躯体側へ仮止めするための仮止め部材が設けられることを特徴とする請求項1〜5いずれかの項に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項1】
鉄骨柱の下端部の中央部分を鉄筋コンクリート躯体上面に回転可能に接合するようにしたピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造において、
雄ネジ部が上端部に形成され、該雄ネジ部下に軸体部が形成された棒鋼と、該棒鋼の該軸体部に、その側方から少なくとも2枚一組で、それらの側縁同士が当該軸体部を挟んで互いに向かい合わせで接合されるせん断プレート材と、これらせん断プレート材の雄ネジ部側上縁に接合され、これらせん断プレート材同士を相互に連結する拘束プレート材とを備えるアンカー部材を用い、
上記拘束プレート材が上記鉄筋コンクリート躯体上面に対し上から当接するように、上記せん断プレート材を含む上記軸体部を該鉄筋コンクリート躯体に埋設すると共に、
上記鉄筋コンクリート躯体上面から突出する上記棒鋼の上記雄ネジ部を、上記鉄骨柱の下端部の中央部分に締結したことを特徴とするピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項2】
前記棒鋼に挿通されて一体的に接合されるパイプ材を用い、前記せん断プレートを、上記棒鋼の軸体部に接合することに代えて、上記パイプ材に接合することを特徴とする請求項1に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート躯体は、基礎から立ち上げて構築された鉄筋コンクリート柱であることを特徴とする請求項1または2に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項4】
前記拘束プレート材が当接される前記鉄筋コンクリート躯体の上面と前記鉄骨柱の下端部との間には、隙間が設定されることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項5】
前記隙間には、前記拘束プレート材と前記鉄骨柱の下端部との間に挟み込んで、座金が設けられることを特徴とする請求項4に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【請求項6】
前記せん断プレート材には、前記鉄骨柱を前記鉄筋コンクリート躯体側へ仮止めするための仮止め部材が設けられることを特徴とする請求項1〜5いずれかの項に記載のピン接合形式の露出型鉄骨柱接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−255295(P2012−255295A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128748(P2011−128748)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(596033576)
【出願人】(596067021)株式会社構造計画プラス・ワン (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(596033576)
【出願人】(596067021)株式会社構造計画プラス・ワン (3)
【Fターム(参考)】
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