ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法
【課題】 環境汚染物質の浄化法に効果的な植物種を迅速且つ簡便に、しかも正確に選抜することができる方法および選抜した植物種を用いる環境汚染物質の浄化方法を提供する。
【解決手段】 環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩の他に、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含んだ状態で、更にほとんどの植物において成長を阻害される濃度の環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することにより、ファイトリメディエーション用植物種を選抜する。また、この植物種の発芽生育後における根の最大伸長量を環境汚染物質を含む場合と含まない場合において対比して環境汚染物質を含まない場合における値を1として相対値化して環境汚染物質に対する耐性を評価する、あるいは植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を、環境汚染物質を含む場合と含まない場合において比較して環境汚染物質の蓄積能を評価する。更には、これら2つの指標を用いて植物種を選抜することである。
【解決手段】 環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩の他に、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含んだ状態で、更にほとんどの植物において成長を阻害される濃度の環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することにより、ファイトリメディエーション用植物種を選抜する。また、この植物種の発芽生育後における根の最大伸長量を環境汚染物質を含む場合と含まない場合において対比して環境汚染物質を含まない場合における値を1として相対値化して環境汚染物質に対する耐性を評価する、あるいは植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を、環境汚染物質を含む場合と含まない場合において比較して環境汚染物質の蓄積能を評価する。更には、これら2つの指標を用いて植物種を選抜することである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境汚染物質の浄化法(ファイトリメディエーション)に用いる植物種の選抜方法に関する。詳細には、環境汚染物質としてカドミウムまたはホウ素の浄化法に必要とされる環境汚染物質に耐性を有し、高濃度に蓄積する植物種の選抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然生態系の保全や健康影響への関心の高まりから、産業や生活に伴う様々な場面における環境汚染物質の排出・蓄積の動向が注視されるようになっている。このうち広範囲に拡散した比較的低濃度の様々な汚染物質については、できるだけ低コストで穏やかに処理する技術が必要とされており、また、環境汚染物質の除去だけでなく、飛散防止の観点からも植物を用いた環境修復または浄化「ファイトリメディエーション」の実用化が期待されている。特に、重金属やその他の元素による汚染には、バクテリアや化合物の投入による分解ができないことからファイトリメディエーションの適用が有望視されている。
【0003】
このため、これら重金属を蓄積しうる植物を用いて重金属を含有する土壌を浄化する方法が提案されている(特許文献1および2を参照)。しかし、これまでに知られている植物は、ほとんどが鉱山近傍などの汚染地において採集されたもので、いわゆる特定ストレス下において自然に選抜された種であり、これらの種は総じて植物体の生育が遅い、生体量が小さいなどの共通した欠点がある。また、これらの種は、必ずしも汚染の程度やその土壌に合うものではなく、これらの植物種を直接リメディエーションに用いることは困難であり、実用化のためにより高い浄化能力を有する植物の選抜・育種が望まれていた。
【0004】
一方、種々の重金属元素の中で、カドミウムは特に土壌・河川をはじめとする環境への拡散量と人体への健康影響の大きさにおいて、他の重金属以上の問題を包含している。また、2004年1月時点において、FAO/WHOのCodex委員会でその許容摂取量の引き下げが検討されるなど、作物を食用とする際にその植物体への蓄積量が問題とされ、どのような植物がカドミウムを蓄積しやすいのか、また一般的にどの程度蓄積するのかについて情報が求められており、これまでにも数種の作物を対象として蓄積量についての調査が行われた。しかしながら、その数はこれまでに探索されたものを合計しても数十種程度であり、しかも実験条件が異なるために全体の相対的比較は困難であった。また、蓄積能と耐性との相関が不明確であることや、分類学的にどのような植物がカドミウムを吸収しやすいかなどについてもほとんど調べられていない。
【0005】
一方、ホウ素については重金属ではないが、過剰摂取による健康影響が懸念されたことを受けて、近年、環境中への放出に一定の基準が定められている。ホウ素は植物における必須元素の一つであるにも関わらず、その吸収・蓄積機構の解明については他の元素に比して遅れている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−276800号公報
【特許文献2】特開2001−276801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の浄化法(ファイトリメディエーション)用植物の選抜には膨大な時間と手間がかかる。生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の生育を一律に相対評価することは困難であり、その指標も定まっていない。このため、本発明の課題は、環境汚染物質の浄化法に効果的な植物種を迅速且つ簡便に、しかも正確に選抜することができる方法および選抜した植物種を用いる環境汚染物質の浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられ他種金属と共に、ある特定の濃度のカドミウムまたはホウ素の存在下に各植物の種子を播種し、各植物種に共通し、かつ正確に反映する指標として最大根長を測定することにより、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の耐性を一律に相対評価することができ、また、他種金属と共に、ほとんどの植物において生育を阻害しない濃度のカドミウムまたはホウ素の存在下に各植物の種子を播種・育成し、得られた植物体を地上部と地下部に分割後、それぞれのカドミウムまたはホウ素含有量を測定することにより、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を正確に相対評価することができ、さらに、これら二つの指標の総合評価によってファイトリメディエーション用植物の選抜を簡便、かつ迅速・正確に行うことができることを見出した。
【0009】
従って、本発明は、
[1] 環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することを特徴とするファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[2](1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2)発芽生育後、根の最大伸長量を測定すること、(3)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における根の最大伸長量の比から環境汚染物質に対する耐性を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[3](1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2′)発芽生育後、植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を測定すること、(3′)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から環境汚染物質の蓄積能を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[4]請求項2または3記載のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法によってそれぞれ得られた環境汚染物質に対する耐性および蓄積能の相関により植物種を選抜するものである、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[5]環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法;
[6]植物の種子を、20〜200μMのカドミウムまたは5〜50mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素に対する耐性を評価する、前記[5]記載の方法;並びに
[7]植物の種子を、1〜20μMのカドミウムまたは0.1〜5mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を評価する、前記[5]記載の方法;
に関する。
【0010】
さらに、本発明は、
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法により選抜された植物種を用いて、土壌中の環境汚染物を除去する土壌の浄化方法;
[9]環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である、前記[8]記載の方法;および
[10]カドミウム除去用に選抜された耐性植物種の場合において、10μM〜50μMのカドミウムを暴露して生育させたものを用いる、前記請求項8記載の方法;
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境汚染物質による汚染土壌の浄化において選抜された植物種の耐性・蓄積能力が発揮される。また、環境汚染物質としてカドミウムまたはホウ素に対する植物種の耐性および蓄積能を、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の生育を簡便、かつ迅速・正確に一律に相対評価することができ、これに基づいてファイトリメディエーションに効果的な植物種、すなわち標的元素に耐性を有し、且つ高濃度に蓄積することができる植物(ハイパーアキュームレーター)を選抜することができる。また、本発明により選抜されたハイパーアキュームレーターを用いて、カドミウムやホウ素を用いて汚染された土壌を簡便に、且つ低コストでしかも効果的に浄化することができる。さらに、同様に選抜された植物をカドミウム・ホウ素によって汚染された土壌においても可食部にこれらの元素を蓄積させずに栽培可能な植物として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を一実施の形態に基づいて詳細に説明する。本発明のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法は、環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することにより行われる。これにより、当該植物を栽培しようとする土壌に含まれている環境汚染物質の他の金属元素、中でも環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素の環境汚染物質の吸収・蓄積に与える影響が不明であっても、一般的な土壌に含まれるのと同じあるいはそれに近いイオン濃度で育成のための培地あるいは土壌に含まれているのであれば、その条件下でファイトリメディエーション用植物種として選抜された植物種は、実際の栽培においても環境汚染物質に対する耐性・蓄積能力をそのまま発揮することができる。
【0013】
また、実際の栽培の状態を培地などで再現性良く模擬できるので、実際の栽培においても環境汚染物質に対する耐性・蓄積能力をそのまま発揮することができるファイトリメディエーション用植物種の間での、相対評価を可能とする。つまり、ファイトリメディエーション用植物種として評価しようとする植物種の播種・発芽・生育を、植物の生育に必要な栄養塩と環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌と、それにほとんどの植物において成長を阻害される濃度の環境汚染物質を含ませた培地または土壌においてそれぞれ実施し環境汚染物質を含む場合と含まない場合における発芽生育後の根の最大伸長量をそれぞれ測定し、それらの最大伸長量の比から環境汚染物質に対する耐性を評価することが可能である。すなわち、環境汚染物質を含まない場合における最大根長の値を1として相対値化することで、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の環境汚染物質に対する耐性を一律に相対評価することを可能とする。
【0014】
さらに、前述の手法において発芽生育後の植物の地上部および根部についてそれぞれ環境汚染物質の蓄積量を公知のICP法などで測定し、環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から植物の地上部および根部における環境汚染物質の蓄積能を評価することも可能である。そして、環境汚染物質を含まない場合における植物の地上部あるいは根部における蓄積量の値を1として相対値化することで、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の地上部あるいは根部における環境汚染物質に対する蓄積量を一律に相対評価することを可能とする。しかも、地上部あるいは根部における蓄積量をそれぞれ相対評価できるので、環境汚染物質を含む土壌においても可食部(地上部であったり、根部であったりする)に環境汚染物質を蓄積せずに栽培できる植物を選抜することなどを可能とする。
【0015】
さらに、上述の耐性並びに蓄積能力という2つの指標をそれぞれ相対評価できるので、これらを環境汚染物質に対する耐性および蓄積能の相関により植物種を選抜することが可能となる。これにより、耐性があり蓄積能もあるファイトリメディエーション用植物種の選抜、あるいは耐性はないが蓄積能に優れるファイトリメディエーション用植物種の選抜、若しくは蓄積能はないが耐性に優れるファイトリメディエーション用植物種の選抜などを可能とする。
【0016】
ここで、環境汚染物質としては、カドミウムまたはホウ素である。この環境汚染物質の培地などへの添加量は、カドミウムまたはホウ素に対する耐性を評価する場合には、20〜200μMのカドミウムまたは5〜50mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、より好ましくは50〜100μMのカドミウムまたは5〜10mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、最も好ましくは100μMのカドミウムまたは10mMのホウ素存在下で発芽生育させることである。また、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を評価する場合には、1〜20μMのカドミウムまたは0.1〜5mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、より好ましくは1〜10μMのカドミウムまたは0.1〜1mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、最も好ましくは10μMのカドミウムまたは1mMのホウ素の存在下で発芽生育させることである。尚、ホウ素については、必須元素であることから、全く含有させない培地では却って生育が悪くなることが知られており、そのことが実験でも示されていることから、どの植物においても生育を阻害せず、尚かつ生育に必要な最低限の量が添加されている。つまり、カドミウムを含まない基本培地においても、ホウ素は育に必要な最低限の量が添加されている。例えば本実施形態では表3に示すハイポネックス5−10−5に含有される程度のホウ素が含まれている。
【0017】
これらファイトリメディエーション用植物種の選抜は、環境汚染物質に対する耐性と蓄積能とをそれぞれ独立した指標として評価できるので、汚染土壌中の汚染物質の除去による積極的浄化ばかりでなく、耐性に優れるファイトリメディエーション用植物の被覆による選抜汚染土壌の飛散など、さまざまな形態の土壌の浄化を可能とする。また、これまで、カドミウムは、植物の生育に害になりこそすれ、生育を促進させることはないと考えられていたが、カドミウムについて耐性の高い植物種の場合には、低濃度で暴露させた方がある程度生育を促進させることが本発明者等によって判明した。このことから、選抜された植物種を用いて土壌中の環境汚染物を除去あるいは被覆する場合において、特にカドミウム除去用に選抜された耐性植物種をある程度生育させてから汚染土壌などに植栽する際には、10μM〜50μMの比較的低濃度のカドミウムを暴露して生育させたものを用いることが、その後の汚染土壌におけるその後の生育や汚染除去に効果をあげる上で好ましい。
【実施例】
【0018】
1.材料と発芽・生育方法
(1)植物種
本発明において、栽培、繁殖が容易な、我が国において現在栽培されている、あるいは一般的に見かける草本性被子植物を中心として探索を行った。その他に、作物を食用とする際の問題や分類学的な特徴を明らかにすることを考慮した。
試験に供した種子のうち、食用または観賞用など栽培されている植物の種子は市販品を用いた。そのほか、ヨシやアキノキリンソウなどの雑草類については我孫子研究所構内、利根川河川敷、手賀沼池畔、国道294号線沿線から採集したものを用いた。また、イグサ(熊本県農業研究センターい業研究所)、ケナフ((財)電力中央研究所)、グンバイナズナ(英Liverpool大、Nicholas M. Dickinson氏)、アイスプラント(九州電力(株)総合研究所)については、表記の施設から入手した。こうして、試験に供した植物種は全部で44科143属168種205品種・栽培種におよび、全陸上被子植物の草本性247科のうち網羅した科数では約6分の1にあたる。これらの供試植物について一覧を表1〜表6に別けて示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
【表6】
【0025】
(2)発芽と生育
本発明において、植物種子の発芽・生育は、適当な培地または土壌において行うことができる。培地としては、寒天培地などの固形培地の他に、液体培地も含まれ、土壌としては、通常、植物の発芽・生育に使用可能なものであれば特に限定されないが、植物の生育に必要な栄養塩の他に、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる他の微量金属元素を添加したものである。この植物の生育に必要な栄養塩と、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる他の微量金属元素とを添加したものを基本培地として、それに必要に応じてストレス物質としての環境汚染物質が添加されるものである。ここで、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる他の微量金属元素は、一般的な土壌に含まれているのと同じまたはそれに近いイオン濃度で添加することが好ましく、より好ましくは実際に植物を栽培しようとする土壌に含まれ当該植物を栽培しようとする実際の土壌と同じまたはそれに近いイオン濃度で添加することである。通常、一般的な土壌に含まれている環境汚染物質の他の微量金属元素は、植物に悪影響を与えない範囲にあるものであり、植物に悪影響を与えないことが明らかな範囲で添加することが好ましい。これらの栄養塩および微量金属元素は、植物の発芽・生育に用いられるものであれば特に限定されず、種々市販されているものを適宜用いることができる。その一例としては、本発明においては以下に示す培地を用いている。
【0026】
脱イオン水によって1/1000に希釈したハイポネックス5−10−5((株)ハイポネックス・ジャパン、東京)に表7の微量金属成分(植物に悪影響を与えない範囲として周知の量の1/2の量)を添加し、これに寒天0.8%を加えてpH7に調整して基本培地とする。ハイポネックス5−10−5並びに表2の微量金属成分による、栄養塩と環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる微量金属元素との添加量は、植物に悪影響を与えない範囲にあることが明らかであり、この程度であれば悪影響よりむしろ生育促進効果が得られるであろうという程度のものである。
【0027】
【表7】
【0028】
ハイポネックス5−10−5には、ICPによって測定した結果、表8に示す微量金属成分含まれていた。
【0029】
【表8】
【0030】
この基本培地にカドミウムを添加したカドミウム試験区を5区(0, 10, 20, 50, 100μM)、ホウ素を添加したホウ素試験区を5区(0, 1, 5, 10, 50mM:ホウ素0mM区はMS培地におけるホウ素も添加しない)合計10試験区を設定した。尚、これらの試験区の設定に際しては、カドミウムについては1〜500μMにおよぶ9段階の濃度区、ホウ素については0.01〜100mMにおよぶ9段階の濃度区を用意して、レタスやヨシ、およびアブラナ科の植物など各科の代表的な約20種類の植物(表1〜表6に代と付記)を育成し、あらかじめどの程度の濃度において障害を受ける植物が多いかを確認して決定した。
【0031】
培地は約25mlずつ直径9cmのプラスチックシャーレに分注する。播種する種子の数は、通常は1シャーレ当たり15〜30粒とする。ただし、主にマメ科、ウリ科などの特に大きな種子を供試する場合には、直径約10cm高さ約18cmのプラスチックボトルに各培地を100mlずつ分注し、1ボトルあたり10粒の種子を播種するとともに、反復区を2〜3区設けて、供試個体数が極端に少なくならないように図る。また、播種に際しては、70%エタノール、および50ppm Tween20を含む1%次亜塩素酸を用いて種子を滅菌する。滅菌の時間は、種子の大きさ、形状によってエタノール1〜3分、次亜塩素酸1〜10分を使い分けた。育成条件は、植物の種によって適切な発芽温度(18〜24±1℃)、日長(12時間日長/12時間暗黒〜14時間日長/10時間暗黒周期)に調整した。また、試料採取の時期については、各植物によって発芽・生育に必要な時間が異なることから、植物毎に双子葉植物においては概ね本葉の生じる時期、単子葉植物において播種後1週間程度を目安とした。
【0032】
2.耐性・蓄積能の測定法
(1)耐性の評価
耐性を評価するために、各植物について試験区毎にそれぞれの種子から生じた幼植物体(全体)の生鮮重、および最長根長を測定する。次に、これらの植物種毎にそれぞれの値を、対照区(カドミウムまたはホウ素を不含)において生育した幼植物体の生鮮重、および最長根長の平均値をそれぞれ1として相対値化し、試験区毎に算出した相対値の平均と標準偏差を用いて耐性を示す2次指標とする。また、これらの相対値化した2次指標を特定の濃度について直接示すだけでなく、各指標がカドミウム0μM区に比べて50%以上減少する濃度をAD50(Activity Dosage 50:最長根長、または生鮮重が対照区の半分(50%)以下に低下する濃度)として示す。
【0033】
(2)ICPによる元素濃度の測定
試験区において生育した幼植物体をそれぞれ地上部と根に分けた後(培地に貫入した部分を根として扱い、その他の部分を地上部とする)、5個体分を1セットとして3セットずつ65℃/3昼夜以上乾燥して、乾燥重量を測定後、硝酸と過酸化水素による湿式灰化を行う。
灰化した試料は、蒸発乾固後、15mLの1N塩酸を加えて溶解し、全量をICP(Inductive Coupled Plasma emission spectroscopy, P4000, Hitachi, Japan)によるカドミウムまたはホウ素濃度分析のための試料溶液とする。ICPによる分析はカドミウムについては分析線214.438nm、ホウ素については同249.773nmを用い、どちらの元素ともホトマル電圧600V、アルゴンガス流量16.0L/分(プラズマガス)、0.7 L/m分(キャリアーガス)、試料送液速度10.0r/分(ペリスタポンプ)の条件において行う。
【0034】
3.統計処理
各元素に対する耐性と、蓄積能力の相関を明らかにするために、特定の濃度のカドミウム試験区、およびホウ素試験区における耐性の相対値と蓄積濃度(地上部)をプロットし、Spearmanの方法により相関係数を算出する。また、各試験区において得られた値の有意差を検定する際には、対照区に対するt検定、あるいはTukeyの方法による多重検定を用いた。なお、これらの計算には作図ソフトウェア(Microcal Origin Ver6,Microcal Software Inc., USA)、および統計処理ソフトウェア(Kyplot Ver3,カイエンス社、東京)を用いた。
【0035】
4.耐性の比較に用いる指標について
個体の大きさ、生育速度等の異なる異種植物間での比較を目的とした場合、単純に実数としての生鮮重を用いることはできない。そこで、表1の植物種の中から90種の植物種(表1〜表6に先と付記)を先行して選抜し、これらについて種々の濃度のカドミウム、あるいはホウ素を混合した培地において育成し、最も簡便に測定できる1次指標として、生鮮重量と最長根長について双方の測定を行った。次いで、これらの指標を異種植物間での比較に用いるために、カドミウムを暴露していない状態で生育した植物種毎の対照区において得られた値を1.0として相対値化を図った(ホウ素については、必須元素であることから標準的な濃度のホウ素混合区としてカドミウム0μM区を相対化のための対照区とした:すなわちホウ素0mM区にはホウ素が全く含まれず、多くの植物においてホウ素の適量含まれるカドミウム0μM区よりも生育が劣る)。
供試した90種の植物種のうち、多くの植物種(特に種子の大きなマメ科、ウリ科など)において生鮮重を一次指標として用いた場合には、相対値化を図った後にも種子の大きさ、生育速度などの影響が大きく残り、カドミウムやホウ素を相当濃度で暴露した場合においても見かけ上カドミウムを暴露していない対照植物と変わらない値を示すものの割合が高かった。このため、生鮮重は1次指標として適切でないと判断された。
これに対して、最大根長を1次指標とした場合、明らかに生鮮重量を1次指標とした場合よりも鋭敏にカドミウム、あるいはホウ素の暴露に対する影響を反映し、相対値化を図った後には種子の大きさ、生育速度などの種の違いによる影響を排除することが可能であった。これらの傾向は、相対値化したそれぞれの指標をAD50として表すとより明確に示される(図1並びに2)。これらの検討の結果から、以降、耐性の比較には1次指標として最大根長を計測し、これを相対値化して用いることとした(以降、単に相対指数として表記する場合は最大根長を相対値化した数値を指す)。
【0036】
本発明を下記の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1 カドミウムに対する耐性
カドミウム試験区を5区(0,10,20,50,100μM)とした。基本培地に種々の濃度カドミウムを添加し、約25mlずつ直径9cmのプラスチックシャーレに分注した。また、マメ科、ウリ科の種子用に、プラスチックボトルにカドミウム含有または不含培地を100mlずつ分注した。また、播種に際して、70%エタノールおよび50ppm Tween20を含む1%次亜塩素酸を用いて種子を滅菌した。滅菌の時間は、種子の大きさ、形状によってエタノール1〜3分、次亜塩素酸1〜10分を使い分けた。
44科143属168種205品種(栽培種)の植物の種子をシャーレまたはボトルに播種し、発芽・生育させた。そして、カドミウムに対する耐性を相対指数により比較した(図3、表9〜表11)。
【0038】
【表9】
【0039】
【表10】
【0040】
【表11】
【0041】
カドミウムに対するAD50(LRL)(根の伸長が対照区の半分(50%)以下に低下する濃度;図1)から、カドミウム耐性の比較には培地カドミウム濃度100μMにおいて得られた値を用いることとした。また、供試した全植物の相対指数の平均値は0.38±0.29であった。このことは、平均的な草本性被子植物はカドミウムを100μM含む培地においてカドミウムを含まない培地におけるよりも約6割根の生育が減少することを示している。また、供試植物種中もっとも高いカドミウム耐性を有する種は栽培種のネブカネギで、以下テンサイ、アオチリメンシソ、ヨシ、キンランシソ(コリウス)などが高い耐性を示した。逆に供試植物種中もっとも低いカドミウム耐性を有する種はセダムで、以下スズメノヒエ、ハツユキソウ、ジャーマンカモミール、オカノリなどであった。これらの植物を分類別にみると、耐性が高い植物にはユリ科、シソ科、イネ科などが多く、そのほかアカザ科、ナデシコ科の植物にも耐性が高いものが多かった(図3)。また、耐性が低い植物にはキク科、アカバナ科、アオイ科などが多かった。
【0042】
なお、100μMのカドミウム濃度は、実際の汚染土壌としては相当程度高い濃度で、鉱山の沈殿池低泥など(10〜865ppm=87〜7587μM)を除けば、このレベルの汚染に耐性を持っていれば十分にリメディエーションに活用できると考えられる。
本実施例において、100μMのカドミウムを暴露した条件下で、供試した植物のうち約70%程度の種において相対指数が0.5を下回ったが、10μMのカドミウム暴露ではほとんどの種において相対指数が1.0以上となり、カドミウムを暴露しない場合と同等以上の生育を示した。また、カドミウムに対するAD50(LRL)をみると、50〜100である植物が最も多かった(表9〜表11に別けて示す)。このことは、一般的な植物において正常な生育が可能な上限のカドミウム濃度は10〜20μM程度であることを示している。また、供試したユリ科、イネ科、およびシソ科の植物の多くが100μMのカドミウム暴露下においても指数が1.0近くであったことは、非常に高い耐性をもつものが選抜できたことを示している。特に、供試した植物中耐性順位第1位の根深ネギから第8位のニゲラまで相対指数が100μMのカドミウム暴露下においても1.0を超えた。
【0043】
なお、供試した植物中耐性順位第1位の根深ネギから第8位のニゲラまで相対指数が100μMのカドミウム暴露下においても1.0を超えたこと(少なくとも50μMのカドミウム暴露下ではP<0.05で対照区に対して有意な差を示した)については、興味深い結果が得られた。即ち、比較的耐性の低いレタスと耐性の高いヨシを代表的な例として比較すると(図6)、耐性の低いレタスでは、低濃度のカドミウム(10μM)の暴露によっても相対指数が低下し、その後カドミウム暴露濃度の増加に伴って漸減したのに対し、耐性の高いヨシでは、50μMのカドミウムまで漸増し、100μMカドミウムの暴露でほぼ同等となり、以降漸減した。このことは、これまでカドミウムは植物の生育に害になりこそすれ、生育を促進させることはないと考えられていたが、耐性の高い植物に低濃度例えば10〜50μMで暴露するときには、ある程度生育を促進させ得ることを意味しており、新規な知見である。
【0044】
実施例2 カドミウム蓄積能
実施例1の生育実験において、各試料植物の地上部と根部について、ICP法によりカドミウム蓄積量を測定し、ほとんどの植物がカドミウムを含まない培地と同等以上の生育を示した培地カドミウム濃度10μMにおいて得られた値を比較に用い(図2)、地上部と根に別けてカドミウム蓄積能について比較した。具体的には、試験区において生育した幼植物体をそれぞれ地上部と根に分けた後、5個体分を1セットとして3セットずつ65℃/3昼夜以上乾燥して、乾燥重量を測定後、硝酸と過酸化水素による湿式灰化させた。灰化した試料を、蒸発乾固後、15mLの1N塩酸を加えて溶解し、全量をICP試料溶液とした。ついで、分析線214.438nmを用い、ホトマル電圧600V、アルゴンガス流量16.0L/分(プラズマガス)、0.7 L/m分(キャリアーガス)、試料送液速度10.0r/分(ペリスタポンプ)の条件でICPによる分析を行った。その結果を表9〜表11並びに図4,5に示す。
【0045】
その結果、供試した全植物のカドミウム蓄積量の平均値は地上部0.08±0.08mg/g−DW、根部0.82±1.17mg/g−DWであった。また、地上部において供試植物種中もっとも高いカドミウム蓄積能力を有する種はアキノノゲシで、地上部には平均約0.55mg/g−DWのカドミウムが蓄積していた。以下、カスミソウ、シロナズナ、ニンジン、カールマスタードなどが高い蓄積能を示した(平均約0.39〜0.26mg/g−DW)。また、逆にオクラ、ゼラニウム、ヘアリーベッチ、レンリソウ、シノグロッサム、ヒマワリなどは、地上部にはほとんどカドミウムを蓄積しておらず(平均約0.0004〜0.0026mg/g−DW)、供試植物種中もっとも低いカドミウム蓄積能を示した。これらの植物を分類別にみると、蓄積能が高い植物にはキク科、アブラナ科、シソ科などが多く、そのほかナデシコ科、セリ科、ナス科の植物にも蓄積能が高いものが多かった。また、地上部カドミウム蓄積能が低い植物にはイネ科、マメ科などが多かった。これらの結果のうち、地上部におけるカドミウムの蓄積能の上位20位、下位20位を示す(図4)。興味深いことに、キク科、アブラナ科の植物はアキノノゲシ、シロナズナなど地上部における蓄積能の高い植物が多い一方で、ヒマワリやラディッシュなど蓄積能が低いものもあり、種によってその能力を大きく異にしていた。
また、根において供試植物種中もっとも高いカドミウム蓄積能を有する種は、イグサで、根には平均約8.50mg/g−DWのカドミウムが蓄積していた。以下カスミソウ、イチゴ、レタス、ナガハグサなどが高い蓄積能を示した(平均約6.48〜2.55mg/g−DW)。逆に、ヘアリーベッチ、キビ、イネ(キタアケ)、オクラ、ビオラなどは、根にほとんどカドミウムを蓄積しておらず(平均約0.007〜0.019mg/g−DW)、供試植物種中もっとも低い根部カドミウム蓄積能を示した(図5)。これらの植物を分類別にみると、根においてカドミウム蓄積能が高い植物には地上部同様キク科、シソ科などが多く、そのほかナデシコ科、アカバナ科の植物にも蓄積能が高いものが多かった。また、根部カドミウム蓄積能が低い植物にはイネ科、マメ科などが多かった。
【0046】
全般的に、地上部への蓄積能と根への蓄積能は正の相関関係(r=0.69、p<0.0001)にあり、多くの植物種において地上部と根での蓄積能順位の変動は大きくなかった。しかし、地上部蓄積量/根蓄積量の比(S/R比)を算出したところ、供試植物全体の平均値は0.22±0.39であったが、イチゴ、ミツバ、シロクローバーにおける0.01からビオラにおける3.44まで種によって大きく異なっていた(図7,表9〜表11に別けて示す)。総じてイネ科、ユリ科、およびアブラナ科の植物はS/R比が大きく、吸収したカドミウムの地上部への移行率が多いことを示しており、マメ科、シソ科の植物ではS/R比が小さく、吸収したカドミウムの地上部への移行率が少ないことを示している。特にイネ科の植物では、カドミウムの蓄積量が地上部においても根においても他の植物よりも小さく、他の植物とは傾向を異にしている。S/R比は、土壌から吸い上げた環境汚染物質が根部分と地上部のいずれに溜まり易いのかを示す指標として有益である。これを利用することによって、環境汚染物質が可食部に溜まるかどうかを判断したり、地上部を刈り取るだけで環境汚染物質の回収を可能とするかなどの判断に使える。
一方、一般的にカドミウムを対象とした場合、ハイパーアキュームレーターと呼べるのは通常の土壌条件下において生育させて地上部に0.01質量%(0.1mg/g−DW)以上のカドミウムの蓄積能を有するものとされている。本発明において、地上部組織に最も多量のカドミウムを蓄積したアキノノゲシを始め40位のサントウサイより上位のものがすべて、カドミウムに対するハイパーアキュームレーターとして使用可能であることが確認された。
【0047】
実施例3 ホウ素に対する耐性
ホウ素試験区を5区(0,1,5,10,50mM:ホウ素0mM区は表7に示すホウ素は添加しないが、表8のハイポネスに含まれるホウ素は含む)として、実施例1と同様にして耐性試験を行った。
その結果、本実施例で用いたホウ素濃度のうち最も高い濃度(50mM)においては、ほとんどの植物が満足に生育できなかった。また、ホウ素に対するAD50(LRL)は、70%以上の植物が10mM以下、そのうち約半数の植物は5mM以下であった(表12〜表14および図2)。なお、ほとんどの植物においてホウ素1mM以下の場合には、ホウ素を含まない培地におけるよりも旺盛な生育を示した。これは、ホウ素が植物の生育にとって必須元素の一つであるため、培地中にホウ素が全くない場合より生育がよいのは当然と考えられるが、これまでに指摘されているように「他の必須元素に比べて過剰障害が起こりやすく生育至適濃度範囲が狭い」ことが、ほぼ全ての植物種において示された。
以上のことを考慮して、ホウ素に対する耐性については、実施例1と同じ植物(表1〜表6)において試験した中で2番目に高いホウ素濃度(10mM)に対する耐性を比較した。即ち、ホウ素10μMを含む培地における実生苗の根の伸長を指標として相対値化をはかり、植物毎に比較した(表12〜表14)。その結果、供試した全植物のホウ素耐性相対指数の平均値は0.30±0.26であった。このことは、平均的な草本性被子植物はホウ素を10mM含む培地においてホウ素を0.1mM含む培地におけるよりも約7割根の生育が減少することを示した。試験した植物種中もっとも高いホウ素耐性を有する種はシナガワハギで、以下アスパラガス、レタス、オクラなどであった(図8に上位20種を示し、下位20種は割愛する)。一方、供試植物種中最も低いホウ素耐性を有する種については、全てこの濃度(10mM)において発芽せず、相対指標が0.00となった。これらには、クサキョウチクトウ(フロックス)、パセリ、ミヤマカスミソウ(アンドロサセ)、セイタカアワダチソウ、インパチェンス、アオシソ、ツルニンジン、ニチニチソウ、ホオズキ、ワスレナグサ、アカチリメンシソ、オシロイバナ、アオチリメンシソ、ヤグルマギク、サボンソウ(ソープワート)、ピーナッツ、セダム、スズメノヒエ、カルサムス、セイヨウオダマキ、キキョウ、ホウセンカ、ハツユキソウ、ヨウシュヤマゴボウ、イグサ、イチゴが含まれる。これらの植物を分類別にみると、マメ科の植物のうち緑肥に用いられるものは耐性が高く、シソ科の植物やマメ科でも食用作物については全般に耐性が低い傾向が認められた。しかし、他の科の植物については同じ科においても傾向を異にするものが多かった。特にキク科の植物のうち、アキノノゲシ属に属する、レタスとアキノノゲシ、およびゴボウは、非常に近縁な関係にありながらそのホウ素に対する耐性を大きく異なっていた。また、試験した植物中、耐性順位が第1位のシナガワハギと第2位のアスパラガスは、相対指数が1.0を超えており、培地中に相当程度高濃度のホウ素がある方がむしろ生育が盛んであった。このことは、相対指数が1.0以下であった他の植物と比べ際だって高い耐性を有していることを示している。
【0048】
実施例4 ホウ素蓄積能
実施例3の生育実験において、各試料植物の地上部と根部について、分析線249.773nmを用いたこと以外は実施例2と同様にICP法により蓄積量を測定し、ほとんどの植物がホウ素を含まない培地(表8のホウ素成分は含む)と同等以上の生育を示した培地ホウ素濃度1mMにおいて得られた値を比較に用い、地上部と根に別けて比較した。その結果を表12〜表14並びに図9,10に示す。
その結果、供試した全植物のホウ素蓄積量の平均値は地上部0.68±0.82mg/g−DW、根部1.49±2.79mg/g−DWであった。また、地上部において供試植物種中最も高いホウ素蓄積能力を有する種はスイートマジョラムで、地上部には平均約5.71mg/g−DWのホウ素が蓄積していた。以下セロリ、シロナズナ、ペチュニア、ホオズキなどが高い蓄積能を示した(平均約4.27〜2.80mg/g−DW)。また、逆にラディッシュ、フダンソウ、ソバ、オクラ、カイランなどは、地上部には非常に少量しかホウ素を蓄積しておらず(平均約0.04〜0.07mg/g−DW)、試験植物種中もっとも低いホウ素蓄積能を示した。これらの植物を分類別にみると、地上部のホウ素蓄積能が高い植物にはシソ科、ナス科などが多く、そのほかキク科の植物にも蓄積能が高いものが多かった。また、地上部のホウ素蓄積が低い植物にはシロナズナを別とすればアブラナ科、タデ科などが多かった。イネ科については、地上部にホウ素を蓄積するものとしないものに二分され、種毎に異なる傾向が示された。これらの結果のうち、地上部についてホウ素の蓄積能の上位20位、下位20位を図9に示す。また、根部についてホウ素の蓄積能の上位20位、下位20位を図10に示す。
【0049】
【表12】
【表13】
【表14】
【0050】
一方、根において試験植物種中、最も高いホウ素蓄積能を有していた種はシロナズナで、平均約19.1mg/g−DWものホウ素が蓄積していた。以下スイートマジョラム、ホオズキ、カールマスタード、イグサなどが高い蓄積能を示した(平均約17.8〜6.83mg/g−DW)。逆に、供試植物種中最も低い根部ホウ素蓄積能力を有する種はレモンバーム、ネブカネギ、ホソアオゲイトウ、ヤロウ、コリウスで、これらは全て平均約0.01〜0.02mg/g−DWと低い蓄積能を示した。これらの植物を分類別にみると、蓄積能が高い植物にはアブラナ科、キク科などが多く、蓄積能が低い植物にはイネ科が多かった。全般に、カドミウムと同様に地上部への蓄積能と根への蓄積能はやや弱い正の相関関係(r=0.56、p<0.0001)にあるが、先に示した数種の植物(セロリ、シロナズナ、スイートマジョラム、ホオズキ)においては極端に地上部、あるいは根のどちらかにおける蓄積量が多く、特徴的であることが改めて示された。またこのことに関連して、地上部蓄積量/根蓄積量の比(S/R比)を算出したところ(図11)、供試植物全体の平均値は3.48±12.49と偏差が大きく、実際ハカラシナにおける0.04からホソアオゲイトウにおける98.3まで種によって極めて大きく異なっていることが示された。総じてイネ科、シソ科の植物はS/R比が大きく、吸収したホウ素の地上部への移行が多いこと、逆にアブラナ科の植物はS/R比が小さく、吸収したホウ素の地上部への移行が少ないことによると考えられる。
【0051】
また、ホウ素の高濃度に蓄積しうる植物種は、これまでほとんど知られておらず、他の元素のようにハイパーアキュームレーターの定義が定まっていない。しかし、これまでに過剰ホウ素暴露に伴う植物体のホウ素含有量の変化について、作物としてトウモロコシ、アルファルファ、トマト、ニンジンで地上部に0.68〜2.91mg/g−DW、根に0.16〜0.51 mg/g−DW程度であること、園芸品種としてペチュニア、ヒマワリなどで地上部に0.093〜0.39mg/g−DWであることが報告されている。)を供試した例がある。このため、本実施例で示したホウ素含有量の比較で少なくとも上位6位以上に位置するものについては数倍(地上部)〜40倍(根)もの高濃度で蓄積していることから、他の元素に対するハイパーアキュームレーターの定義と照らし合わせてハイパーアキュームレーターとしうることが示された。
【0052】
試験例1 各元素に対する耐性と蓄積能力の相関
まず、カドミウムに対する耐性と(特に地上部における)蓄積能の相関を調べたところ、耐性と蓄積能はごく弱い逆相関関係(Spearmanの相関係数により、r=−0.19、p<0.03)にあり、耐性が低い植物ほど地上部に多くのカドミウムを蓄積しない(a群)、また、耐性が高い植物ほど地上部にカドミウムやホウ素を蓄積しない(b群)ことが示された(図12)。
また、ホウ素について同様に、耐性と(特に地上部における)蓄積能の相関を調べたところ、ごく弱い逆相関関係(r=−0.25、p<0.006)にあり、耐性が低い植物ほど地上部に多くのホウ素を蓄積し(a群)、耐性が高い植物ほど地上部にホウ素を蓄積しない(b群)傾向にあることが示された(図13)。
【0053】
この傾向は、特にカドミウムに対する耐性・蓄積能に関してイネ科やキク科の植物、およびホウ素に対する耐性・蓄積能に関してマメ科、シソ科、ナス科、キク科の植物に顕著に認められた。すなわち、ヨシなどのイネ科の植物はカドミウムを吸収しないことによって耐性を獲得しており、アキノノゲシなどのキク科の植物は多量のカドミウムを吸収するために耐性が低いものと思われる。同様に、シナガワハギなどのマメ科の植物はホウ素を吸収しないことによって耐性を獲得しており、スイートマジョラムなどのシソ科、ホオズキなどのナス科、アフリカヒナギクなどのキク科の植物は多量のホウ素を吸収するために耐性が低いものと思われる。なお、カドミウムに対する耐性・蓄積能をみた場合、アオシソなどのシソ科の植物やタバコなどのナス科の植物については、これらの傾向とは異なり、ある程度耐性・蓄積能ともに高かった(c群)。また、ホウ素に対する耐性・蓄積能をみた場合、ギョウギシバなどのイネ科の植物については、ある程度耐性・蓄積能ともに高かった。さらに、多くの植物においてカドミウム、ホウ素のそれぞれに対して耐性・蓄積能ともに低い傾向が示された(d群)。
【0054】
ここで、本発明の選抜方法により選抜・評価された植物中のうち、a群の植物種については、カドミウムまたはホウ素に対して高い蓄積能を有することから、汚染の程度はそれ程ではない土壌の浄化に適し、比較的短い期間で浄化しうることが示される。また、b群の植物種については、カドミウムまたはホウ素に対して高い耐性を有することから、ある程度の期間は要するが、カドミウムまたはホウ素により高濃度で汚染された土壌の浄化に適することが示され、c群の植物種については比較的高い濃度でカドミウムまたはホウ素で汚染された土壌を比較的短時間で浄化しうることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】カドミウムのAD50による植物種数の分布を示すグラフである。
【図2】ホウ素のAD50による植物種数の分布を示すグラフである。
【図3】各植物のカドミウム耐性を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種とその耐性相対値を示す。
【図4】各植物の地上部におけるカドミウムの蓄積能(含有量)20位の植物種とその耐性相対値を示す。
【図5】各植物の根におけるカドミウムの蓄積能(含有量)について示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図6】種々の濃度のカドミウムを含む培地における植物の典型的な生育状態を示すグラフであり、(A)はレタス、(B)はヨシの培地中のカドミウム濃度毎の生育度をそれぞれ示す。
【図7】カドミウムの地上部/根蓄積濃度(S/R)比を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図8】各植物のホウ素耐性を上位20位の植物種についてその耐性相対値と共に示すグラフである。
【図9】各植物の地上部におけるホウ素の蓄積能(含有量)を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図10】各植物の根におけるホウ素の蓄積能(含有量)を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図11】ホウ素の地上部/根蓄積濃度(S/R)比を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図12】カドミウムに対する耐性と蓄積能の相関を示すグラフである。
【図13】ホウ素に対する耐性と蓄積能の相関を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境汚染物質の浄化法(ファイトリメディエーション)に用いる植物種の選抜方法に関する。詳細には、環境汚染物質としてカドミウムまたはホウ素の浄化法に必要とされる環境汚染物質に耐性を有し、高濃度に蓄積する植物種の選抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然生態系の保全や健康影響への関心の高まりから、産業や生活に伴う様々な場面における環境汚染物質の排出・蓄積の動向が注視されるようになっている。このうち広範囲に拡散した比較的低濃度の様々な汚染物質については、できるだけ低コストで穏やかに処理する技術が必要とされており、また、環境汚染物質の除去だけでなく、飛散防止の観点からも植物を用いた環境修復または浄化「ファイトリメディエーション」の実用化が期待されている。特に、重金属やその他の元素による汚染には、バクテリアや化合物の投入による分解ができないことからファイトリメディエーションの適用が有望視されている。
【0003】
このため、これら重金属を蓄積しうる植物を用いて重金属を含有する土壌を浄化する方法が提案されている(特許文献1および2を参照)。しかし、これまでに知られている植物は、ほとんどが鉱山近傍などの汚染地において採集されたもので、いわゆる特定ストレス下において自然に選抜された種であり、これらの種は総じて植物体の生育が遅い、生体量が小さいなどの共通した欠点がある。また、これらの種は、必ずしも汚染の程度やその土壌に合うものではなく、これらの植物種を直接リメディエーションに用いることは困難であり、実用化のためにより高い浄化能力を有する植物の選抜・育種が望まれていた。
【0004】
一方、種々の重金属元素の中で、カドミウムは特に土壌・河川をはじめとする環境への拡散量と人体への健康影響の大きさにおいて、他の重金属以上の問題を包含している。また、2004年1月時点において、FAO/WHOのCodex委員会でその許容摂取量の引き下げが検討されるなど、作物を食用とする際にその植物体への蓄積量が問題とされ、どのような植物がカドミウムを蓄積しやすいのか、また一般的にどの程度蓄積するのかについて情報が求められており、これまでにも数種の作物を対象として蓄積量についての調査が行われた。しかしながら、その数はこれまでに探索されたものを合計しても数十種程度であり、しかも実験条件が異なるために全体の相対的比較は困難であった。また、蓄積能と耐性との相関が不明確であることや、分類学的にどのような植物がカドミウムを吸収しやすいかなどについてもほとんど調べられていない。
【0005】
一方、ホウ素については重金属ではないが、過剰摂取による健康影響が懸念されたことを受けて、近年、環境中への放出に一定の基準が定められている。ホウ素は植物における必須元素の一つであるにも関わらず、その吸収・蓄積機構の解明については他の元素に比して遅れている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−276800号公報
【特許文献2】特開2001−276801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の浄化法(ファイトリメディエーション)用植物の選抜には膨大な時間と手間がかかる。生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の生育を一律に相対評価することは困難であり、その指標も定まっていない。このため、本発明の課題は、環境汚染物質の浄化法に効果的な植物種を迅速且つ簡便に、しかも正確に選抜することができる方法および選抜した植物種を用いる環境汚染物質の浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられ他種金属と共に、ある特定の濃度のカドミウムまたはホウ素の存在下に各植物の種子を播種し、各植物種に共通し、かつ正確に反映する指標として最大根長を測定することにより、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の耐性を一律に相対評価することができ、また、他種金属と共に、ほとんどの植物において生育を阻害しない濃度のカドミウムまたはホウ素の存在下に各植物の種子を播種・育成し、得られた植物体を地上部と地下部に分割後、それぞれのカドミウムまたはホウ素含有量を測定することにより、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を正確に相対評価することができ、さらに、これら二つの指標の総合評価によってファイトリメディエーション用植物の選抜を簡便、かつ迅速・正確に行うことができることを見出した。
【0009】
従って、本発明は、
[1] 環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することを特徴とするファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[2](1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2)発芽生育後、根の最大伸長量を測定すること、(3)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における根の最大伸長量の比から環境汚染物質に対する耐性を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[3](1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2′)発芽生育後、植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を測定すること、(3′)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から環境汚染物質の蓄積能を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[4]請求項2または3記載のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法によってそれぞれ得られた環境汚染物質に対する耐性および蓄積能の相関により植物種を選抜するものである、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法;
[5]環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法;
[6]植物の種子を、20〜200μMのカドミウムまたは5〜50mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素に対する耐性を評価する、前記[5]記載の方法;並びに
[7]植物の種子を、1〜20μMのカドミウムまたは0.1〜5mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を評価する、前記[5]記載の方法;
に関する。
【0010】
さらに、本発明は、
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法により選抜された植物種を用いて、土壌中の環境汚染物を除去する土壌の浄化方法;
[9]環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である、前記[8]記載の方法;および
[10]カドミウム除去用に選抜された耐性植物種の場合において、10μM〜50μMのカドミウムを暴露して生育させたものを用いる、前記請求項8記載の方法;
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境汚染物質による汚染土壌の浄化において選抜された植物種の耐性・蓄積能力が発揮される。また、環境汚染物質としてカドミウムまたはホウ素に対する植物種の耐性および蓄積能を、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の生育を簡便、かつ迅速・正確に一律に相対評価することができ、これに基づいてファイトリメディエーションに効果的な植物種、すなわち標的元素に耐性を有し、且つ高濃度に蓄積することができる植物(ハイパーアキュームレーター)を選抜することができる。また、本発明により選抜されたハイパーアキュームレーターを用いて、カドミウムやホウ素を用いて汚染された土壌を簡便に、且つ低コストでしかも効果的に浄化することができる。さらに、同様に選抜された植物をカドミウム・ホウ素によって汚染された土壌においても可食部にこれらの元素を蓄積させずに栽培可能な植物として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を一実施の形態に基づいて詳細に説明する。本発明のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法は、環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することにより行われる。これにより、当該植物を栽培しようとする土壌に含まれている環境汚染物質の他の金属元素、中でも環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素の環境汚染物質の吸収・蓄積に与える影響が不明であっても、一般的な土壌に含まれるのと同じあるいはそれに近いイオン濃度で育成のための培地あるいは土壌に含まれているのであれば、その条件下でファイトリメディエーション用植物種として選抜された植物種は、実際の栽培においても環境汚染物質に対する耐性・蓄積能力をそのまま発揮することができる。
【0013】
また、実際の栽培の状態を培地などで再現性良く模擬できるので、実際の栽培においても環境汚染物質に対する耐性・蓄積能力をそのまま発揮することができるファイトリメディエーション用植物種の間での、相対評価を可能とする。つまり、ファイトリメディエーション用植物種として評価しようとする植物種の播種・発芽・生育を、植物の生育に必要な栄養塩と環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌と、それにほとんどの植物において成長を阻害される濃度の環境汚染物質を含ませた培地または土壌においてそれぞれ実施し環境汚染物質を含む場合と含まない場合における発芽生育後の根の最大伸長量をそれぞれ測定し、それらの最大伸長量の比から環境汚染物質に対する耐性を評価することが可能である。すなわち、環境汚染物質を含まない場合における最大根長の値を1として相対値化することで、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の環境汚染物質に対する耐性を一律に相対評価することを可能とする。
【0014】
さらに、前述の手法において発芽生育後の植物の地上部および根部についてそれぞれ環境汚染物質の蓄積量を公知のICP法などで測定し、環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から植物の地上部および根部における環境汚染物質の蓄積能を評価することも可能である。そして、環境汚染物質を含まない場合における植物の地上部あるいは根部における蓄積量の値を1として相対値化することで、生育速度、植物体量の大きく異なる種々の植物の地上部あるいは根部における環境汚染物質に対する蓄積量を一律に相対評価することを可能とする。しかも、地上部あるいは根部における蓄積量をそれぞれ相対評価できるので、環境汚染物質を含む土壌においても可食部(地上部であったり、根部であったりする)に環境汚染物質を蓄積せずに栽培できる植物を選抜することなどを可能とする。
【0015】
さらに、上述の耐性並びに蓄積能力という2つの指標をそれぞれ相対評価できるので、これらを環境汚染物質に対する耐性および蓄積能の相関により植物種を選抜することが可能となる。これにより、耐性があり蓄積能もあるファイトリメディエーション用植物種の選抜、あるいは耐性はないが蓄積能に優れるファイトリメディエーション用植物種の選抜、若しくは蓄積能はないが耐性に優れるファイトリメディエーション用植物種の選抜などを可能とする。
【0016】
ここで、環境汚染物質としては、カドミウムまたはホウ素である。この環境汚染物質の培地などへの添加量は、カドミウムまたはホウ素に対する耐性を評価する場合には、20〜200μMのカドミウムまたは5〜50mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、より好ましくは50〜100μMのカドミウムまたは5〜10mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、最も好ましくは100μMのカドミウムまたは10mMのホウ素存在下で発芽生育させることである。また、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を評価する場合には、1〜20μMのカドミウムまたは0.1〜5mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、より好ましくは1〜10μMのカドミウムまたは0.1〜1mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、最も好ましくは10μMのカドミウムまたは1mMのホウ素の存在下で発芽生育させることである。尚、ホウ素については、必須元素であることから、全く含有させない培地では却って生育が悪くなることが知られており、そのことが実験でも示されていることから、どの植物においても生育を阻害せず、尚かつ生育に必要な最低限の量が添加されている。つまり、カドミウムを含まない基本培地においても、ホウ素は育に必要な最低限の量が添加されている。例えば本実施形態では表3に示すハイポネックス5−10−5に含有される程度のホウ素が含まれている。
【0017】
これらファイトリメディエーション用植物種の選抜は、環境汚染物質に対する耐性と蓄積能とをそれぞれ独立した指標として評価できるので、汚染土壌中の汚染物質の除去による積極的浄化ばかりでなく、耐性に優れるファイトリメディエーション用植物の被覆による選抜汚染土壌の飛散など、さまざまな形態の土壌の浄化を可能とする。また、これまで、カドミウムは、植物の生育に害になりこそすれ、生育を促進させることはないと考えられていたが、カドミウムについて耐性の高い植物種の場合には、低濃度で暴露させた方がある程度生育を促進させることが本発明者等によって判明した。このことから、選抜された植物種を用いて土壌中の環境汚染物を除去あるいは被覆する場合において、特にカドミウム除去用に選抜された耐性植物種をある程度生育させてから汚染土壌などに植栽する際には、10μM〜50μMの比較的低濃度のカドミウムを暴露して生育させたものを用いることが、その後の汚染土壌におけるその後の生育や汚染除去に効果をあげる上で好ましい。
【実施例】
【0018】
1.材料と発芽・生育方法
(1)植物種
本発明において、栽培、繁殖が容易な、我が国において現在栽培されている、あるいは一般的に見かける草本性被子植物を中心として探索を行った。その他に、作物を食用とする際の問題や分類学的な特徴を明らかにすることを考慮した。
試験に供した種子のうち、食用または観賞用など栽培されている植物の種子は市販品を用いた。そのほか、ヨシやアキノキリンソウなどの雑草類については我孫子研究所構内、利根川河川敷、手賀沼池畔、国道294号線沿線から採集したものを用いた。また、イグサ(熊本県農業研究センターい業研究所)、ケナフ((財)電力中央研究所)、グンバイナズナ(英Liverpool大、Nicholas M. Dickinson氏)、アイスプラント(九州電力(株)総合研究所)については、表記の施設から入手した。こうして、試験に供した植物種は全部で44科143属168種205品種・栽培種におよび、全陸上被子植物の草本性247科のうち網羅した科数では約6分の1にあたる。これらの供試植物について一覧を表1〜表6に別けて示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
【表6】
【0025】
(2)発芽と生育
本発明において、植物種子の発芽・生育は、適当な培地または土壌において行うことができる。培地としては、寒天培地などの固形培地の他に、液体培地も含まれ、土壌としては、通常、植物の発芽・生育に使用可能なものであれば特に限定されないが、植物の生育に必要な栄養塩の他に、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる他の微量金属元素を添加したものである。この植物の生育に必要な栄養塩と、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる他の微量金属元素とを添加したものを基本培地として、それに必要に応じてストレス物質としての環境汚染物質が添加されるものである。ここで、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる他の微量金属元素は、一般的な土壌に含まれているのと同じまたはそれに近いイオン濃度で添加することが好ましく、より好ましくは実際に植物を栽培しようとする土壌に含まれ当該植物を栽培しようとする実際の土壌と同じまたはそれに近いイオン濃度で添加することである。通常、一般的な土壌に含まれている環境汚染物質の他の微量金属元素は、植物に悪影響を与えない範囲にあるものであり、植物に悪影響を与えないことが明らかな範囲で添加することが好ましい。これらの栄養塩および微量金属元素は、植物の発芽・生育に用いられるものであれば特に限定されず、種々市販されているものを適宜用いることができる。その一例としては、本発明においては以下に示す培地を用いている。
【0026】
脱イオン水によって1/1000に希釈したハイポネックス5−10−5((株)ハイポネックス・ジャパン、東京)に表7の微量金属成分(植物に悪影響を与えない範囲として周知の量の1/2の量)を添加し、これに寒天0.8%を加えてpH7に調整して基本培地とする。ハイポネックス5−10−5並びに表2の微量金属成分による、栄養塩と環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を与えると考えられる微量金属元素との添加量は、植物に悪影響を与えない範囲にあることが明らかであり、この程度であれば悪影響よりむしろ生育促進効果が得られるであろうという程度のものである。
【0027】
【表7】
【0028】
ハイポネックス5−10−5には、ICPによって測定した結果、表8に示す微量金属成分含まれていた。
【0029】
【表8】
【0030】
この基本培地にカドミウムを添加したカドミウム試験区を5区(0, 10, 20, 50, 100μM)、ホウ素を添加したホウ素試験区を5区(0, 1, 5, 10, 50mM:ホウ素0mM区はMS培地におけるホウ素も添加しない)合計10試験区を設定した。尚、これらの試験区の設定に際しては、カドミウムについては1〜500μMにおよぶ9段階の濃度区、ホウ素については0.01〜100mMにおよぶ9段階の濃度区を用意して、レタスやヨシ、およびアブラナ科の植物など各科の代表的な約20種類の植物(表1〜表6に代と付記)を育成し、あらかじめどの程度の濃度において障害を受ける植物が多いかを確認して決定した。
【0031】
培地は約25mlずつ直径9cmのプラスチックシャーレに分注する。播種する種子の数は、通常は1シャーレ当たり15〜30粒とする。ただし、主にマメ科、ウリ科などの特に大きな種子を供試する場合には、直径約10cm高さ約18cmのプラスチックボトルに各培地を100mlずつ分注し、1ボトルあたり10粒の種子を播種するとともに、反復区を2〜3区設けて、供試個体数が極端に少なくならないように図る。また、播種に際しては、70%エタノール、および50ppm Tween20を含む1%次亜塩素酸を用いて種子を滅菌する。滅菌の時間は、種子の大きさ、形状によってエタノール1〜3分、次亜塩素酸1〜10分を使い分けた。育成条件は、植物の種によって適切な発芽温度(18〜24±1℃)、日長(12時間日長/12時間暗黒〜14時間日長/10時間暗黒周期)に調整した。また、試料採取の時期については、各植物によって発芽・生育に必要な時間が異なることから、植物毎に双子葉植物においては概ね本葉の生じる時期、単子葉植物において播種後1週間程度を目安とした。
【0032】
2.耐性・蓄積能の測定法
(1)耐性の評価
耐性を評価するために、各植物について試験区毎にそれぞれの種子から生じた幼植物体(全体)の生鮮重、および最長根長を測定する。次に、これらの植物種毎にそれぞれの値を、対照区(カドミウムまたはホウ素を不含)において生育した幼植物体の生鮮重、および最長根長の平均値をそれぞれ1として相対値化し、試験区毎に算出した相対値の平均と標準偏差を用いて耐性を示す2次指標とする。また、これらの相対値化した2次指標を特定の濃度について直接示すだけでなく、各指標がカドミウム0μM区に比べて50%以上減少する濃度をAD50(Activity Dosage 50:最長根長、または生鮮重が対照区の半分(50%)以下に低下する濃度)として示す。
【0033】
(2)ICPによる元素濃度の測定
試験区において生育した幼植物体をそれぞれ地上部と根に分けた後(培地に貫入した部分を根として扱い、その他の部分を地上部とする)、5個体分を1セットとして3セットずつ65℃/3昼夜以上乾燥して、乾燥重量を測定後、硝酸と過酸化水素による湿式灰化を行う。
灰化した試料は、蒸発乾固後、15mLの1N塩酸を加えて溶解し、全量をICP(Inductive Coupled Plasma emission spectroscopy, P4000, Hitachi, Japan)によるカドミウムまたはホウ素濃度分析のための試料溶液とする。ICPによる分析はカドミウムについては分析線214.438nm、ホウ素については同249.773nmを用い、どちらの元素ともホトマル電圧600V、アルゴンガス流量16.0L/分(プラズマガス)、0.7 L/m分(キャリアーガス)、試料送液速度10.0r/分(ペリスタポンプ)の条件において行う。
【0034】
3.統計処理
各元素に対する耐性と、蓄積能力の相関を明らかにするために、特定の濃度のカドミウム試験区、およびホウ素試験区における耐性の相対値と蓄積濃度(地上部)をプロットし、Spearmanの方法により相関係数を算出する。また、各試験区において得られた値の有意差を検定する際には、対照区に対するt検定、あるいはTukeyの方法による多重検定を用いた。なお、これらの計算には作図ソフトウェア(Microcal Origin Ver6,Microcal Software Inc., USA)、および統計処理ソフトウェア(Kyplot Ver3,カイエンス社、東京)を用いた。
【0035】
4.耐性の比較に用いる指標について
個体の大きさ、生育速度等の異なる異種植物間での比較を目的とした場合、単純に実数としての生鮮重を用いることはできない。そこで、表1の植物種の中から90種の植物種(表1〜表6に先と付記)を先行して選抜し、これらについて種々の濃度のカドミウム、あるいはホウ素を混合した培地において育成し、最も簡便に測定できる1次指標として、生鮮重量と最長根長について双方の測定を行った。次いで、これらの指標を異種植物間での比較に用いるために、カドミウムを暴露していない状態で生育した植物種毎の対照区において得られた値を1.0として相対値化を図った(ホウ素については、必須元素であることから標準的な濃度のホウ素混合区としてカドミウム0μM区を相対化のための対照区とした:すなわちホウ素0mM区にはホウ素が全く含まれず、多くの植物においてホウ素の適量含まれるカドミウム0μM区よりも生育が劣る)。
供試した90種の植物種のうち、多くの植物種(特に種子の大きなマメ科、ウリ科など)において生鮮重を一次指標として用いた場合には、相対値化を図った後にも種子の大きさ、生育速度などの影響が大きく残り、カドミウムやホウ素を相当濃度で暴露した場合においても見かけ上カドミウムを暴露していない対照植物と変わらない値を示すものの割合が高かった。このため、生鮮重は1次指標として適切でないと判断された。
これに対して、最大根長を1次指標とした場合、明らかに生鮮重量を1次指標とした場合よりも鋭敏にカドミウム、あるいはホウ素の暴露に対する影響を反映し、相対値化を図った後には種子の大きさ、生育速度などの種の違いによる影響を排除することが可能であった。これらの傾向は、相対値化したそれぞれの指標をAD50として表すとより明確に示される(図1並びに2)。これらの検討の結果から、以降、耐性の比較には1次指標として最大根長を計測し、これを相対値化して用いることとした(以降、単に相対指数として表記する場合は最大根長を相対値化した数値を指す)。
【0036】
本発明を下記の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1 カドミウムに対する耐性
カドミウム試験区を5区(0,10,20,50,100μM)とした。基本培地に種々の濃度カドミウムを添加し、約25mlずつ直径9cmのプラスチックシャーレに分注した。また、マメ科、ウリ科の種子用に、プラスチックボトルにカドミウム含有または不含培地を100mlずつ分注した。また、播種に際して、70%エタノールおよび50ppm Tween20を含む1%次亜塩素酸を用いて種子を滅菌した。滅菌の時間は、種子の大きさ、形状によってエタノール1〜3分、次亜塩素酸1〜10分を使い分けた。
44科143属168種205品種(栽培種)の植物の種子をシャーレまたはボトルに播種し、発芽・生育させた。そして、カドミウムに対する耐性を相対指数により比較した(図3、表9〜表11)。
【0038】
【表9】
【0039】
【表10】
【0040】
【表11】
【0041】
カドミウムに対するAD50(LRL)(根の伸長が対照区の半分(50%)以下に低下する濃度;図1)から、カドミウム耐性の比較には培地カドミウム濃度100μMにおいて得られた値を用いることとした。また、供試した全植物の相対指数の平均値は0.38±0.29であった。このことは、平均的な草本性被子植物はカドミウムを100μM含む培地においてカドミウムを含まない培地におけるよりも約6割根の生育が減少することを示している。また、供試植物種中もっとも高いカドミウム耐性を有する種は栽培種のネブカネギで、以下テンサイ、アオチリメンシソ、ヨシ、キンランシソ(コリウス)などが高い耐性を示した。逆に供試植物種中もっとも低いカドミウム耐性を有する種はセダムで、以下スズメノヒエ、ハツユキソウ、ジャーマンカモミール、オカノリなどであった。これらの植物を分類別にみると、耐性が高い植物にはユリ科、シソ科、イネ科などが多く、そのほかアカザ科、ナデシコ科の植物にも耐性が高いものが多かった(図3)。また、耐性が低い植物にはキク科、アカバナ科、アオイ科などが多かった。
【0042】
なお、100μMのカドミウム濃度は、実際の汚染土壌としては相当程度高い濃度で、鉱山の沈殿池低泥など(10〜865ppm=87〜7587μM)を除けば、このレベルの汚染に耐性を持っていれば十分にリメディエーションに活用できると考えられる。
本実施例において、100μMのカドミウムを暴露した条件下で、供試した植物のうち約70%程度の種において相対指数が0.5を下回ったが、10μMのカドミウム暴露ではほとんどの種において相対指数が1.0以上となり、カドミウムを暴露しない場合と同等以上の生育を示した。また、カドミウムに対するAD50(LRL)をみると、50〜100である植物が最も多かった(表9〜表11に別けて示す)。このことは、一般的な植物において正常な生育が可能な上限のカドミウム濃度は10〜20μM程度であることを示している。また、供試したユリ科、イネ科、およびシソ科の植物の多くが100μMのカドミウム暴露下においても指数が1.0近くであったことは、非常に高い耐性をもつものが選抜できたことを示している。特に、供試した植物中耐性順位第1位の根深ネギから第8位のニゲラまで相対指数が100μMのカドミウム暴露下においても1.0を超えた。
【0043】
なお、供試した植物中耐性順位第1位の根深ネギから第8位のニゲラまで相対指数が100μMのカドミウム暴露下においても1.0を超えたこと(少なくとも50μMのカドミウム暴露下ではP<0.05で対照区に対して有意な差を示した)については、興味深い結果が得られた。即ち、比較的耐性の低いレタスと耐性の高いヨシを代表的な例として比較すると(図6)、耐性の低いレタスでは、低濃度のカドミウム(10μM)の暴露によっても相対指数が低下し、その後カドミウム暴露濃度の増加に伴って漸減したのに対し、耐性の高いヨシでは、50μMのカドミウムまで漸増し、100μMカドミウムの暴露でほぼ同等となり、以降漸減した。このことは、これまでカドミウムは植物の生育に害になりこそすれ、生育を促進させることはないと考えられていたが、耐性の高い植物に低濃度例えば10〜50μMで暴露するときには、ある程度生育を促進させ得ることを意味しており、新規な知見である。
【0044】
実施例2 カドミウム蓄積能
実施例1の生育実験において、各試料植物の地上部と根部について、ICP法によりカドミウム蓄積量を測定し、ほとんどの植物がカドミウムを含まない培地と同等以上の生育を示した培地カドミウム濃度10μMにおいて得られた値を比較に用い(図2)、地上部と根に別けてカドミウム蓄積能について比較した。具体的には、試験区において生育した幼植物体をそれぞれ地上部と根に分けた後、5個体分を1セットとして3セットずつ65℃/3昼夜以上乾燥して、乾燥重量を測定後、硝酸と過酸化水素による湿式灰化させた。灰化した試料を、蒸発乾固後、15mLの1N塩酸を加えて溶解し、全量をICP試料溶液とした。ついで、分析線214.438nmを用い、ホトマル電圧600V、アルゴンガス流量16.0L/分(プラズマガス)、0.7 L/m分(キャリアーガス)、試料送液速度10.0r/分(ペリスタポンプ)の条件でICPによる分析を行った。その結果を表9〜表11並びに図4,5に示す。
【0045】
その結果、供試した全植物のカドミウム蓄積量の平均値は地上部0.08±0.08mg/g−DW、根部0.82±1.17mg/g−DWであった。また、地上部において供試植物種中もっとも高いカドミウム蓄積能力を有する種はアキノノゲシで、地上部には平均約0.55mg/g−DWのカドミウムが蓄積していた。以下、カスミソウ、シロナズナ、ニンジン、カールマスタードなどが高い蓄積能を示した(平均約0.39〜0.26mg/g−DW)。また、逆にオクラ、ゼラニウム、ヘアリーベッチ、レンリソウ、シノグロッサム、ヒマワリなどは、地上部にはほとんどカドミウムを蓄積しておらず(平均約0.0004〜0.0026mg/g−DW)、供試植物種中もっとも低いカドミウム蓄積能を示した。これらの植物を分類別にみると、蓄積能が高い植物にはキク科、アブラナ科、シソ科などが多く、そのほかナデシコ科、セリ科、ナス科の植物にも蓄積能が高いものが多かった。また、地上部カドミウム蓄積能が低い植物にはイネ科、マメ科などが多かった。これらの結果のうち、地上部におけるカドミウムの蓄積能の上位20位、下位20位を示す(図4)。興味深いことに、キク科、アブラナ科の植物はアキノノゲシ、シロナズナなど地上部における蓄積能の高い植物が多い一方で、ヒマワリやラディッシュなど蓄積能が低いものもあり、種によってその能力を大きく異にしていた。
また、根において供試植物種中もっとも高いカドミウム蓄積能を有する種は、イグサで、根には平均約8.50mg/g−DWのカドミウムが蓄積していた。以下カスミソウ、イチゴ、レタス、ナガハグサなどが高い蓄積能を示した(平均約6.48〜2.55mg/g−DW)。逆に、ヘアリーベッチ、キビ、イネ(キタアケ)、オクラ、ビオラなどは、根にほとんどカドミウムを蓄積しておらず(平均約0.007〜0.019mg/g−DW)、供試植物種中もっとも低い根部カドミウム蓄積能を示した(図5)。これらの植物を分類別にみると、根においてカドミウム蓄積能が高い植物には地上部同様キク科、シソ科などが多く、そのほかナデシコ科、アカバナ科の植物にも蓄積能が高いものが多かった。また、根部カドミウム蓄積能が低い植物にはイネ科、マメ科などが多かった。
【0046】
全般的に、地上部への蓄積能と根への蓄積能は正の相関関係(r=0.69、p<0.0001)にあり、多くの植物種において地上部と根での蓄積能順位の変動は大きくなかった。しかし、地上部蓄積量/根蓄積量の比(S/R比)を算出したところ、供試植物全体の平均値は0.22±0.39であったが、イチゴ、ミツバ、シロクローバーにおける0.01からビオラにおける3.44まで種によって大きく異なっていた(図7,表9〜表11に別けて示す)。総じてイネ科、ユリ科、およびアブラナ科の植物はS/R比が大きく、吸収したカドミウムの地上部への移行率が多いことを示しており、マメ科、シソ科の植物ではS/R比が小さく、吸収したカドミウムの地上部への移行率が少ないことを示している。特にイネ科の植物では、カドミウムの蓄積量が地上部においても根においても他の植物よりも小さく、他の植物とは傾向を異にしている。S/R比は、土壌から吸い上げた環境汚染物質が根部分と地上部のいずれに溜まり易いのかを示す指標として有益である。これを利用することによって、環境汚染物質が可食部に溜まるかどうかを判断したり、地上部を刈り取るだけで環境汚染物質の回収を可能とするかなどの判断に使える。
一方、一般的にカドミウムを対象とした場合、ハイパーアキュームレーターと呼べるのは通常の土壌条件下において生育させて地上部に0.01質量%(0.1mg/g−DW)以上のカドミウムの蓄積能を有するものとされている。本発明において、地上部組織に最も多量のカドミウムを蓄積したアキノノゲシを始め40位のサントウサイより上位のものがすべて、カドミウムに対するハイパーアキュームレーターとして使用可能であることが確認された。
【0047】
実施例3 ホウ素に対する耐性
ホウ素試験区を5区(0,1,5,10,50mM:ホウ素0mM区は表7に示すホウ素は添加しないが、表8のハイポネスに含まれるホウ素は含む)として、実施例1と同様にして耐性試験を行った。
その結果、本実施例で用いたホウ素濃度のうち最も高い濃度(50mM)においては、ほとんどの植物が満足に生育できなかった。また、ホウ素に対するAD50(LRL)は、70%以上の植物が10mM以下、そのうち約半数の植物は5mM以下であった(表12〜表14および図2)。なお、ほとんどの植物においてホウ素1mM以下の場合には、ホウ素を含まない培地におけるよりも旺盛な生育を示した。これは、ホウ素が植物の生育にとって必須元素の一つであるため、培地中にホウ素が全くない場合より生育がよいのは当然と考えられるが、これまでに指摘されているように「他の必須元素に比べて過剰障害が起こりやすく生育至適濃度範囲が狭い」ことが、ほぼ全ての植物種において示された。
以上のことを考慮して、ホウ素に対する耐性については、実施例1と同じ植物(表1〜表6)において試験した中で2番目に高いホウ素濃度(10mM)に対する耐性を比較した。即ち、ホウ素10μMを含む培地における実生苗の根の伸長を指標として相対値化をはかり、植物毎に比較した(表12〜表14)。その結果、供試した全植物のホウ素耐性相対指数の平均値は0.30±0.26であった。このことは、平均的な草本性被子植物はホウ素を10mM含む培地においてホウ素を0.1mM含む培地におけるよりも約7割根の生育が減少することを示した。試験した植物種中もっとも高いホウ素耐性を有する種はシナガワハギで、以下アスパラガス、レタス、オクラなどであった(図8に上位20種を示し、下位20種は割愛する)。一方、供試植物種中最も低いホウ素耐性を有する種については、全てこの濃度(10mM)において発芽せず、相対指標が0.00となった。これらには、クサキョウチクトウ(フロックス)、パセリ、ミヤマカスミソウ(アンドロサセ)、セイタカアワダチソウ、インパチェンス、アオシソ、ツルニンジン、ニチニチソウ、ホオズキ、ワスレナグサ、アカチリメンシソ、オシロイバナ、アオチリメンシソ、ヤグルマギク、サボンソウ(ソープワート)、ピーナッツ、セダム、スズメノヒエ、カルサムス、セイヨウオダマキ、キキョウ、ホウセンカ、ハツユキソウ、ヨウシュヤマゴボウ、イグサ、イチゴが含まれる。これらの植物を分類別にみると、マメ科の植物のうち緑肥に用いられるものは耐性が高く、シソ科の植物やマメ科でも食用作物については全般に耐性が低い傾向が認められた。しかし、他の科の植物については同じ科においても傾向を異にするものが多かった。特にキク科の植物のうち、アキノノゲシ属に属する、レタスとアキノノゲシ、およびゴボウは、非常に近縁な関係にありながらそのホウ素に対する耐性を大きく異なっていた。また、試験した植物中、耐性順位が第1位のシナガワハギと第2位のアスパラガスは、相対指数が1.0を超えており、培地中に相当程度高濃度のホウ素がある方がむしろ生育が盛んであった。このことは、相対指数が1.0以下であった他の植物と比べ際だって高い耐性を有していることを示している。
【0048】
実施例4 ホウ素蓄積能
実施例3の生育実験において、各試料植物の地上部と根部について、分析線249.773nmを用いたこと以外は実施例2と同様にICP法により蓄積量を測定し、ほとんどの植物がホウ素を含まない培地(表8のホウ素成分は含む)と同等以上の生育を示した培地ホウ素濃度1mMにおいて得られた値を比較に用い、地上部と根に別けて比較した。その結果を表12〜表14並びに図9,10に示す。
その結果、供試した全植物のホウ素蓄積量の平均値は地上部0.68±0.82mg/g−DW、根部1.49±2.79mg/g−DWであった。また、地上部において供試植物種中最も高いホウ素蓄積能力を有する種はスイートマジョラムで、地上部には平均約5.71mg/g−DWのホウ素が蓄積していた。以下セロリ、シロナズナ、ペチュニア、ホオズキなどが高い蓄積能を示した(平均約4.27〜2.80mg/g−DW)。また、逆にラディッシュ、フダンソウ、ソバ、オクラ、カイランなどは、地上部には非常に少量しかホウ素を蓄積しておらず(平均約0.04〜0.07mg/g−DW)、試験植物種中もっとも低いホウ素蓄積能を示した。これらの植物を分類別にみると、地上部のホウ素蓄積能が高い植物にはシソ科、ナス科などが多く、そのほかキク科の植物にも蓄積能が高いものが多かった。また、地上部のホウ素蓄積が低い植物にはシロナズナを別とすればアブラナ科、タデ科などが多かった。イネ科については、地上部にホウ素を蓄積するものとしないものに二分され、種毎に異なる傾向が示された。これらの結果のうち、地上部についてホウ素の蓄積能の上位20位、下位20位を図9に示す。また、根部についてホウ素の蓄積能の上位20位、下位20位を図10に示す。
【0049】
【表12】
【表13】
【表14】
【0050】
一方、根において試験植物種中、最も高いホウ素蓄積能を有していた種はシロナズナで、平均約19.1mg/g−DWものホウ素が蓄積していた。以下スイートマジョラム、ホオズキ、カールマスタード、イグサなどが高い蓄積能を示した(平均約17.8〜6.83mg/g−DW)。逆に、供試植物種中最も低い根部ホウ素蓄積能力を有する種はレモンバーム、ネブカネギ、ホソアオゲイトウ、ヤロウ、コリウスで、これらは全て平均約0.01〜0.02mg/g−DWと低い蓄積能を示した。これらの植物を分類別にみると、蓄積能が高い植物にはアブラナ科、キク科などが多く、蓄積能が低い植物にはイネ科が多かった。全般に、カドミウムと同様に地上部への蓄積能と根への蓄積能はやや弱い正の相関関係(r=0.56、p<0.0001)にあるが、先に示した数種の植物(セロリ、シロナズナ、スイートマジョラム、ホオズキ)においては極端に地上部、あるいは根のどちらかにおける蓄積量が多く、特徴的であることが改めて示された。またこのことに関連して、地上部蓄積量/根蓄積量の比(S/R比)を算出したところ(図11)、供試植物全体の平均値は3.48±12.49と偏差が大きく、実際ハカラシナにおける0.04からホソアオゲイトウにおける98.3まで種によって極めて大きく異なっていることが示された。総じてイネ科、シソ科の植物はS/R比が大きく、吸収したホウ素の地上部への移行が多いこと、逆にアブラナ科の植物はS/R比が小さく、吸収したホウ素の地上部への移行が少ないことによると考えられる。
【0051】
また、ホウ素の高濃度に蓄積しうる植物種は、これまでほとんど知られておらず、他の元素のようにハイパーアキュームレーターの定義が定まっていない。しかし、これまでに過剰ホウ素暴露に伴う植物体のホウ素含有量の変化について、作物としてトウモロコシ、アルファルファ、トマト、ニンジンで地上部に0.68〜2.91mg/g−DW、根に0.16〜0.51 mg/g−DW程度であること、園芸品種としてペチュニア、ヒマワリなどで地上部に0.093〜0.39mg/g−DWであることが報告されている。)を供試した例がある。このため、本実施例で示したホウ素含有量の比較で少なくとも上位6位以上に位置するものについては数倍(地上部)〜40倍(根)もの高濃度で蓄積していることから、他の元素に対するハイパーアキュームレーターの定義と照らし合わせてハイパーアキュームレーターとしうることが示された。
【0052】
試験例1 各元素に対する耐性と蓄積能力の相関
まず、カドミウムに対する耐性と(特に地上部における)蓄積能の相関を調べたところ、耐性と蓄積能はごく弱い逆相関関係(Spearmanの相関係数により、r=−0.19、p<0.03)にあり、耐性が低い植物ほど地上部に多くのカドミウムを蓄積しない(a群)、また、耐性が高い植物ほど地上部にカドミウムやホウ素を蓄積しない(b群)ことが示された(図12)。
また、ホウ素について同様に、耐性と(特に地上部における)蓄積能の相関を調べたところ、ごく弱い逆相関関係(r=−0.25、p<0.006)にあり、耐性が低い植物ほど地上部に多くのホウ素を蓄積し(a群)、耐性が高い植物ほど地上部にホウ素を蓄積しない(b群)傾向にあることが示された(図13)。
【0053】
この傾向は、特にカドミウムに対する耐性・蓄積能に関してイネ科やキク科の植物、およびホウ素に対する耐性・蓄積能に関してマメ科、シソ科、ナス科、キク科の植物に顕著に認められた。すなわち、ヨシなどのイネ科の植物はカドミウムを吸収しないことによって耐性を獲得しており、アキノノゲシなどのキク科の植物は多量のカドミウムを吸収するために耐性が低いものと思われる。同様に、シナガワハギなどのマメ科の植物はホウ素を吸収しないことによって耐性を獲得しており、スイートマジョラムなどのシソ科、ホオズキなどのナス科、アフリカヒナギクなどのキク科の植物は多量のホウ素を吸収するために耐性が低いものと思われる。なお、カドミウムに対する耐性・蓄積能をみた場合、アオシソなどのシソ科の植物やタバコなどのナス科の植物については、これらの傾向とは異なり、ある程度耐性・蓄積能ともに高かった(c群)。また、ホウ素に対する耐性・蓄積能をみた場合、ギョウギシバなどのイネ科の植物については、ある程度耐性・蓄積能ともに高かった。さらに、多くの植物においてカドミウム、ホウ素のそれぞれに対して耐性・蓄積能ともに低い傾向が示された(d群)。
【0054】
ここで、本発明の選抜方法により選抜・評価された植物中のうち、a群の植物種については、カドミウムまたはホウ素に対して高い蓄積能を有することから、汚染の程度はそれ程ではない土壌の浄化に適し、比較的短い期間で浄化しうることが示される。また、b群の植物種については、カドミウムまたはホウ素に対して高い耐性を有することから、ある程度の期間は要するが、カドミウムまたはホウ素により高濃度で汚染された土壌の浄化に適することが示され、c群の植物種については比較的高い濃度でカドミウムまたはホウ素で汚染された土壌を比較的短時間で浄化しうることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】カドミウムのAD50による植物種数の分布を示すグラフである。
【図2】ホウ素のAD50による植物種数の分布を示すグラフである。
【図3】各植物のカドミウム耐性を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種とその耐性相対値を示す。
【図4】各植物の地上部におけるカドミウムの蓄積能(含有量)20位の植物種とその耐性相対値を示す。
【図5】各植物の根におけるカドミウムの蓄積能(含有量)について示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図6】種々の濃度のカドミウムを含む培地における植物の典型的な生育状態を示すグラフであり、(A)はレタス、(B)はヨシの培地中のカドミウム濃度毎の生育度をそれぞれ示す。
【図7】カドミウムの地上部/根蓄積濃度(S/R)比を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図8】各植物のホウ素耐性を上位20位の植物種についてその耐性相対値と共に示すグラフである。
【図9】各植物の地上部におけるホウ素の蓄積能(含有量)を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図10】各植物の根におけるホウ素の蓄積能(含有量)を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図11】ホウ素の地上部/根蓄積濃度(S/R)比を示すグラフであり、(A)は上位20位、(B)は下位20位の植物種を示す。
【図12】カドミウムに対する耐性と蓄積能の相関を示すグラフである。
【図13】ホウ素に対する耐性と蓄積能の相関を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することを特徴とするファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項2】
(1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2)発芽生育後、根の最大伸長量を測定すること、(3)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における根の最大伸長量の比から環境汚染物質に対する耐性を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項3】
(1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2′)発芽生育後、植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を測定すること、(3′)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から環境汚染物質の蓄積能を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項4】
請求項2または3記載のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法によってそれぞれ得られた環境汚染物質に対する耐性および蓄積能の相関により植物種を選抜するものであるファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項5】
環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
植物の種子を、20〜200μMのカドミウムまたは5〜50mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素に対する耐性を評価する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
植物の種子を、1〜20μMのカドミウムまたは0.1〜5mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を評価する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法により選抜された植物種を用いて、土壌中の環境汚染物を除去する土壌の浄化方法。
【請求項9】
環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
カドミウム除去用に選抜された耐性植物種の場合において、10μM〜50μMのカドミウムを暴露して生育させたものを用いる、請求項8記載の方法。
【請求項1】
環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌に播種することを特徴とするファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項2】
(1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2)発芽生育後、根の最大伸長量を測定すること、(3)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における根の最大伸長量の比から環境汚染物質に対する耐性を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項3】
(1)環境汚染物質に対する耐性を評価すべき植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種すること、(2′)発芽生育後、植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を測定すること、(3′)環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から環境汚染物質の蓄積能を評価することを含む、ファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項4】
請求項2または3記載のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法によってそれぞれ得られた環境汚染物質に対する耐性および蓄積能の相関により植物種を選抜するものであるファイトリメディエーション用植物種の選抜方法。
【請求項5】
環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
植物の種子を、20〜200μMのカドミウムまたは5〜50mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素に対する耐性を評価する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
植物の種子を、1〜20μMのカドミウムまたは0.1〜5mMのホウ素の存在下で発芽生育させ、カドミウムまたはホウ素の蓄積能を評価する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法により選抜された植物種を用いて、土壌中の環境汚染物を除去する土壌の浄化方法。
【請求項9】
環境汚染物質がカドミウムまたはホウ素である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
カドミウム除去用に選抜された耐性植物種の場合において、10μM〜50μMのカドミウムを暴露して生育させたものを用いる、請求項8記載の方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図6】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−75028(P2006−75028A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260091(P2004−260091)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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