説明

ファイバリングレーザおよびそれを用いたファイバリングレーザジャイロ

【課題】 角速度計測、距離計測、表面形状計測、ディスプレイ、画像プロジェクション、高精度加工などに有用な、短波長を直接レーザ発振可能なファイバリングレーザを提供し、またこれを利用した小型のファイバリングレーザジャイロを提供することである。
【解決手段】 利得媒質を励起する励起光源と、少なくとも一つの閉じたリング状の共振器(リングレーザ共振器)と、該リングレーザ共振器内に該利得媒質として希土類添加ファイバを持つファイバリングレーザにおいて、
該希土類添加ファイバとして、Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tmから選ばれる少なくとも1種類の希土類が添加されているコアを備えたファイバを用い、レーザ発振波長が1μm未満の短波長である事を特徴とする、ファイバリングレーザ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度計測、距離計測光源、表面形状計測光源、ディスプレイ光源、画像プロジェクション光源などに用いられるファイバリングレーザに関する。また、これを用いたファイバリングレーザジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、画像のプロジェクション表示の高精細化、ディスプレイの大面積化、3D表示技術の進歩、3Dコンテンツの充実などの理由から、可視光の高品質高効率光源が求められるようになっている。また、可視光光源などの短波長光源は、精密な表面形状検査やガラスのような透明体の内部加工、精密レーザ加工などの応用分野で実現が期待されている。
【0003】
既存の高精度レーザの中で、ファイバレーザはレーザビーム品質が高いレーザとして広く用いられている。特にファイバリングレーザ(F−RLG)は、レーザ発振閾値が低く設計自由度が高いことから、ファイバレーザの主要な一形態として知られている。
【0004】
このため、可視光などレーザ波長1μm未満の短波長を直接発振可能なファイバレーザが求められている。しかし、一般的な希土類添加石英ファイバを用いたファイバレーザでは、媒質のもつ高いフォノンエネルギーによる非輻射緩和の影響が大きく、1μm未満の短波長を直接レーザ発振することは困難である。そこで、ファイバレーザの波長を半分に変換する第二次高調波発生技術が注目され、特に緑色レーザ発生に広く使用されるようになってきた。第二次高調波発生にはLiNbO3結晶(LN)やβ‐BaB2O4結晶(β‐BBO)が用いられており、バルク型以外に導波路型や周期分極反転型などが知られている。特に周期分極反転したLNはPPLN(Periodically Poled Lithium Niobate)として広く使われている。
【0005】
このほかに短波長を得る方法としては、赤外レーザの多段階励起による短波長レーザがあり、アップコンバージョンレーザとして知られている。アップコンバージョンレーザには励起中間準位の寿命が非常に重要であり、希土類を添加したフッ化物ガラスのような低フォノンガラス材料や、希土類を添加したフッ化物結晶のような低フォノン結晶組成が用いられている(非特許文献1)。
【0006】
また最近、赤や青の波長帯域では半導体レーザの高出力化が急速に進み、特にGaN系半導体レーザによる340〜500nm帯レーザの進歩が著しい。そこで、GaN系半導体レーザを励起光源に用いた可視レーザの試みが盛んに行われつつある(非特許文献2)。
【0007】
また、630〜670nm帯の赤色半導体レーザはすでにレーザテレビ応用が進みつつあり、405nm帯GaN系半導体レーザは高密度DVD記録に使用されつつある。また、460nm帯はディスプレイ用途の青色光源として期待されている。
【0008】
上記のとおり、既存の希土類添加ファイバを用いたリングレーザは、レーザ発振波長1μm以上の不可視光であり、ディスプレイやプロジェクション用途には使用できない。また、表面形状が数十nm〜100nm程度の凹凸で構成される機械加工仕上げ面などを高精度に検査するためには、少なくとも可視光領域以下の波長の光源が必要である。さらに、透明体内部の微細加工には、材料が透明である可視光波長域が望まれている。
【0009】
また、上記のとおりレーザ発振波長が1μm未満のレーザを得る技術として、LNやβ‐BBOなどの非線形光学結晶による波長変換との組み合わせが知られているが、非線形光学結晶は高品質な結晶の育成が困難である上に、波長変換効率が低い問題がある。また、波長変換効率を向上させるために周期分極反転したLNなどが用いられるが、最適波長変換波長が温度に対して敏感であることから、精密温度制御が必要となる。このため、レーザ装置の消費電力が増大し、装置が大型化する問題がある。さらに、GaN系半導体レーザを励起源として用いたファブリペローレーザが知られているが、空間光学系を使用する必要があるため温度変化や振動の影響を受けやすく、設置環境に制限がある。特にリングレーザジャイロのような移動体組み込みの場合は、振動で光学系のアライメントずれが起こり、正確な計測が困難となる。
【0010】
さらに、上記のとおりファイバから直接短波長のレーザ光が得られる方法として、アップコンバージョンレーザが知られているが、アップコンバージョンレーザは多段階過程であり、温度変動によるレーザパワー変動が起こりやすく、パワー変換効率は低い問題がある。
【0011】
また、ファイバリングレーザは角速度の検出応用が検討されており、これまで航空機を中心に使用されてきたHe-Neリングレーザジャイロ(RLG)や干渉型ファイバジャイロ(I−FOG)のような非常に高精度であるが高価で大型の機械に代わる、小型高精度光学ジャイロとして期待されている(非特許文献3,4,特許文献1)。また、F−RLGの感度向上にはレーザ線幅の狭窄化が有効であることから、リングの一部に可飽和吸収体として希土類添加ファイバを配置した方法も提案されている(非特許文献5)。また、ファイバリングレーザをモードロックレーザとすることで、検出を容易にする方法も提案されている(非特許文献6)。
【0012】
F−RLGに限らず、光学式のジャイロはSagnac効果を利用しているが、リング内に増幅媒質があるリングレーザでは右回り(CW)と左回り(CCW)レーザ発振周波数に下記式(1)で表される周波数差が発生する。
【0013】
【数1】

【0014】
ただし、
Δf :レーザ発振周波数差
A :リングの囲む面積
Ω :角速度
λ :回転がない場合のレーザ発振波長
P :リングレーザ共振器長
を表す。
リングレーザジャイロでは、この周波数差を干渉などの方法で検出する。
【0015】
リングレーザにファイバを用いた場合に、ファイバが円形に巻かれていると仮定すると、さらに整理できて、下記式(2)のように表すことができる。
【0016】
【数2】

【0017】
ただし、
R :リング半径
を表す。
【0018】
式(2)から直ちに理解できるように、レーザ発振周波数差が大きくなり検出が容易になる条件としては、a) 角速度が大きい、b) リング直径が大きい、またはc) レーザ発振波長が短波長である、の3条件が挙げられる。ファイバリングレーザとして利用可能なレーザ材料としては、Nd添加石英ファイバ、Yb添加石英ファイバ、Er添加石英ファイバなどが知られており、いずれもレーザ発振波長は1μm以上である。
【0019】
また、これらのファイバリングレーザや光増幅器では、特に断りがない場合もあるが希土類としてEr,Nd,Ybなどを100〜1000ppm含む石英光ファイバが用いられており、励起光の吸収に必要な長さの制限から、10m〜100m程度のファイバが使用されている。
【0020】
上記のとおり、リングレーザをリングレーザジャイロに応用する場合、角速度検出条件に関わるパラメータは3つ[a)、b)、c)]ある。しかし、リングレーザジャイロの高精度化には、リング直径の大口径化[b)]とレーザ発振波長の短波長化[c)]の2つの条件しか有効でないが、既存のファイバレーザは上記式(2)のλを1μm未満の短波長にすることは困難であるため、リング直径を大きくする以外に高分解能にする方法が無く、大型化を避けることができない。さらに、従来の希土類添加石英系ファイバは、希土類添加濃度が数百ppm以下と低く、リングレーザ共振器長には少なくとも10mを超えるファイバが必要なため、小型化は困難である。
【特許文献1】特開2007−212247号公報
【非特許文献1】Timothy R.Gosnell 編“Selected Papers on Upconversion Lasers”SPIE Milestone Series, Volume MS 161, SPIE OPTICAL ENGINEERINGS PRESS, ISBN 0−8194−3793−X
【非特許文献2】U.Weichmann, J.Baier, J.Bengoechea, and H.Moench,“GaN−diode pumped Pr3+:ZBLAN fiber−lasers for the visible wavelength range,”Proceedings of CLEO 2007, CJ5−1−THU.
【非特許文献3】S.K.Kim,B.Y.Kim,and H.K.Kim,”Investigation of Er3+−doped fiber ring laser for its application to rotation sensing”, Proceedings of SPIE,10th international conference on optical fibre sensor,vol.2360(1994) pp.108−111.
【非特許文献4】J.Li,Y.Lam,and Y.Zhou,”Afiber ring laser gyroscope based on Er−doped fiber pumped at 1480nm”,Proceedings of SPIE,International Society of Optical Engineering USA,vol.3491(1998)pp.920−925.
【非特許文献5】Junjun Lu,Shufen Chen,and Yang Bai,”Experimental study on a novel structure of fiber ring laser gyroscope,”Proceedings of SPIE,International Society of Optical Engineering USA,vol.5634,No.1(2005)pp.338−342.
【非特許文献6】Chao−Xiang Shi,and H.Kajioka,”A novel mode−locked laser rotation sensor:experiment,”Microwave and Optical Technology Letters,vol.12,No.4(1996)pp.197−200.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記のとおり、波長1μm未満の短波長でレーザ発振可能なファイバレーザ、特に可視光を直接レーザ発振可能で、かつレーザ発振が安定して得られ、高いパワー変換効率のファイバレーザを得ることは困難である。
【0022】
また、上記のとおり、リングレーザをリングレーザジャイロに応用する場合、高精度化において小型化は困難である。
【0023】
そこで本発明は、角速度計測、距離計測、表面形状計測、ディスプレイ、画像プロジェクション、高精度加工などに有用な、短波長を直接レーザ発振可能なファイバリングレーザを提供し、またこれを利用した小型のファイバリングレーザジャイロを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、波長340nm以上500nm以下の半導体レーザで励起した希土類添加フッ化物ファイバをリングレーザの利得媒質に用いれば、波長1μm未満の短波長を直接レーザ発振可能であることを見いだし、本発明に到達した。
【0025】
すなわち本発明は、利得媒質を励起する励起光源と、少なくとも一つの閉じたリング状の共振器(リングレーザ共振器)と、該リングレーザ共振器内に該利得媒質として希土類添加ファイバを持つファイバリングレーザにおいて、該希土類添加ファイバとして、Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tmから選ばれる少なくとも1種類の希土類が添加されているコアを備えたファイバを用い、レーザ発振波長が1μm未満の短波長である事を特徴とする、ファイバリングレーザである。
【0026】
また、該希土類添加ファイバがフッ化物ガラスファイバであり、かつ該励起光源として波長340nm以上500nm以下の波長を放射する半導体光源を使用する事を特徴とする、ファイバリングレーザである。
【0027】
また、該希土類添加ファイバを少なくとも2個以上備え、且つ該希土類添加ファイバの励起条件を個々に制御可能である事を特徴とする、ファイバリングレーザである。
【0028】
また、ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備える事を特徴とする、ファイバリングレーザである。
【0029】
また、励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備える事を特徴とする、ファイバリングレーザである。
【0030】
また、リングレーザ共振器から右回り(CW)のレーザ信号と左回り(CCW)のレーザ信号を取り出し、取り出されたCWレーザ信号とCCWレーザ信号とを干渉させて得られるビート信号を検出する角速度検出方法を用いるファイバリングレーザジャイロ(F−RLG)において、これまでに述べたファイバリングレーザを用いることを特徴とするファイバリングレーザジャイロである。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、波長1μm未満の短波長レーザ光が直接ファイバ内で安定かつ高効率で得られるようになり、可視光での表面形状計測、ディスプレイ、プロジェクタ、3Dテレビ、高精度表面形状計測、高精度加工、透明体内部加工、高性能ファイバレーザジャイロなどへの応用が可能となる。また、F−RLG応用に関し、短波長のファイバレーザを利用できることから、石英ファイバを用いる従来のファイバリングレーザを用いた場合に比べ、リング直径が小さくても同等以上のレーザ周波数シフトを得ることが可能となり、リングレーザジャイロを小型化、高精度化することができる。
【0032】
さらには、本発明を用いることによって、レーザ発振波長が1μm未満の短波長のレーザを、波長変換などの方法によらず、直接得ることができる。また、レーザ共振器がリングレーザ共振器なので、振動や温度変動に対して光学アライメントずれが発生しないことから、安定なレーザ発振が得られる。
【0033】
また本発明において、励起光源に半導体光源を使用することで、安価にリングレーザを構成することができる。
【0034】
また本発明において、複数の希土類添加ファイバに対して独立に励起状態を制御することで、CW光とCCW光の利得が同一となるように制御し、回転方向によるパワー差を非常に小さくすることができるため、CW光とCCW光の干渉を利用する用途では、干渉縞のコントラストを最大にすることができる。また、このようなレーザはパワーが揃った一組のレーザ光を同時に得られるので、干渉計測用光源として広く用いることができる。
【0035】
また本発明において、ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備える事で、不要な雑音成分を除去したり、レーザ発振状態を制御することが可能となる。レーザの雑音が減少することで、加工精度や計測精度が向上する。また、誘導ブリルアン散乱を吸収除去することによって、レーザジャイロに応用した場合にロッキングの発生を抑制できる。
【0036】
ここで、リングレーザの利得媒質は希土類添加ファイバであるため、レーザ発振波長以外に散乱光や自然放出光がリング共振器内を循環する場合がある。特にレーザ発振と同じ準位間の遷移で発生する自然放出光の波長は、レーザ発振波長と近いので、リングレーザ共振器を構成する光学部品を低損失で通過、周回し、増幅された自然放出光(ASE光)となる。ASE光は発光スペクトル幅が広いので、ピークパワーが低い場合でも積分パワーは比較的大きく、レーザ発振を妨げるだけでなく、レーザの雑音となる。可飽和吸収体は、光強度が低い場合は吸収し、光強度が高い場合は透過する特性を持っている。このため、可飽和吸収体がリングレーザ共振器内にあると、ASE光が成長する前に吸収除去できるので、レーザの雑音が大幅に低下する利点がある。また、レーザ波長の散乱光は通常の方法では除去困難であるが、パルスレーザ発振している場合はレーザパルス通過時以外の時間に存在している散乱光を除去できるため、低雑音化できる。
【0037】
また本発明において、励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備える事で、温度変化による光学長変化を抑制することができる。この結果、急な温度変化によるレーザ発振波長変化やパワー変動を防止し、安定なレーザ発振動作を確保できる。ここで、光学長は、[リングレーザ共振器長]×[リングレーザ共振器の平均屈折率]で表される。また、リングレーザ共振器を構成する材料のうち、酸化物系の材料や半導体系材料のほとんどは、線膨張係数が正であり且つ屈折率の温度依存性も正である。このため、周囲温度が上昇すると光学長は単調増加する。一方、フッ化物ガラスは線膨張係数が正であるが屈折率の温度依存性は負である。このため、リングレーザ共振器内に、適度の長さのフッ化物ファイバを組み合わせて備えることにより、他の材料の温度依存性による光学長の増加を補正することができる。さらに、使用するフッ化物ファイバがレーザ波長と励起波長に対して透明なファイバであるためで、リングレーザの光学特性に影響を与えることなく温度依存性を抑制できる。
【0038】
また、本発明において、本発明の短波長リングレーザをレーザジャイロに応用することで、レーザジャイロの角速度の検出精度が向上する。また、本発明のリングレーザは短波長でレーザ発振するため、リングレーザ共振器の直径を小さくしても高精度なレーザジャイロを実現できる。このため、レーザジャイロを小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
レーザ発振に使用する希土類添加ファイバの組成は、少なくともコアガラス組成が低フォノンエネルギーのガラス組成である必要があり、低フォノンエネルギーのレーザ母材としては、フッ化物ガラス、タングステン酸塩ガラス、モリブデン酸塩ガラス、ゲルマニウム酸塩ガラス、亜テルル酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス、塩化物ガラス、フツリン酸塩ガラス、カルコゲナイドガラスなどが使用できる。中でも、作製の容易さと短波長光の発光効率の高さから、フッ化物ガラスが特に好ましい。石英系ガラスファイバのような高フォノンエネルギーのガラスファイバでは、多フォノン緩和によって短波長でのレーザ発振が妨げられる。一方、可飽和吸収体に希土類添加ファイバや遷移金属添加ファイバを使用する場合、希土類添加石英ファイバや遷移金属添加石英ファイバでも問題ない。
【0040】
ファイバのコア径や開口数などの構造パラメータは、励起光波長とレーザ発振波長で決まるモード重なりや励起光密度を考慮して決定するため、一概には規定できないが、シングルモードレーザ発振が必要な場合にはレーザ発振波長よりも短波長にカットオフ波長を設定する事が好ましい。このとき、励起光波長でシングルモードとなるように設計しても良いし、低次のモードが存在可能なマルチモードの設計としても良い。これは、光通信用の伝送ファイバのように長距離伝搬させなくてもレーザ発振可能なためである。
【0041】
一方、高出力光源などで用いられるマルチモードレーザ発振の場合には、必要なパワーが得られるコア径を中心に設計する必要がある。必要なパワーに応じて調整する必要があるため、一概に規定できないが、1W〜10W程度の出力の場合はコア直径が10μm〜50μm程度、100W程度の出力の場合はコア直径が100μm〜500μmの範囲が好ましい。レーザ媒質としてフッ化物ファイバを使用した場合のパワー密度の制限としては、励起光とリングレーザ光の光パワー総量をコア面積で割った値が、100MW/cm以下であることが好ましい。このパワー密度を超えると、ファイバが破壊される危険性が著しく高まる。一方、パワー密度が50kW/cm以下では効率の良いレーザ発振が困難である。
【0042】
添加する希土類の濃度は、ファイバのコア径や開口数などの構造パラメータや共振器の閉じこめ効率によって最適値が変化するため一概に規定できないが、おおよそ100ppmから10000ppmの範囲の濃度をファイバのコア部分に添加することが適当である。100ppm未満では、励起光波長での吸収係数が小さすぎるため、必要なファイバ長が長くなり、実用上好ましくない。また、10000ppmを超える濃度では、希土類イオン間でのエネルギー移譲によって非発光遷移確率が増大するため、好ましくない。
【0043】
励起光源としては半導体光源を用いることがコストと生産性の面から好ましい。発光部が点状の半導体光源としては、半導体レーザ、LED(Light Emission Diode)があり、これらはそのまま使用するだけでなく、アレイ状に集積化した1次元光源、面状に集積化した2次元状の光源、これらを立体的に配置した3次元状光源として用いることができる。また、有機ELや無機ELは元々2次元発光パネルとして作製できるので、大面積を均一励起する場合に適している。これらの励起光源は、必要な励起パワーを得るために、適宜組み合わせて使用できる。これらの光源の中で、最近高出力化と波長範囲の拡大が著しいGaN系半導体レーザを用いると、ファイバ系との整合性が良好であり、特に好ましい。また、高出力を得るために、固体レーザやファイバレーザなどを非線形光学素子で波長変換したレーザを励起光源として使用することができる。
【0044】
添加する希土類と励起波長の関係は、例えばフッ化物ガラスにPrを添加した場合は、420nm〜490nmで励起し、490nm帯、520nm帯、600nm帯、710nm帯などでレーザ発振可能である。また、560nm〜600nmで励起し、600nm帯、710nm帯などでレーザ発振可能である。特に600nm帯はレーザ発振可能な帯域が広く、598nm〜643nmの非常に広い波長範囲でレーザ発振可能であり、広帯域波長可変レーザや超短パルスレーザに応用できる。
【0045】
例えばフッ化物ガラスにNdを添加した場合は、320nm〜370nm、420nm帯、440〜480nmなどの帯域で励起可能し、490nm帯、850〜900nm帯、1μm帯などでレーザ発振可能である。また、490nm〜540nm、550nm〜600nmで励起し、850〜900nm帯、1μm帯などでレーザ発振可能である。
【0046】
例えばフッ化物ガラスにSmを添加した場合は、特に400nm帯で効率よく励起可能であり、420nm帯、450nm帯、560nm帯、595nm帯、640nm帯、700nm帯でレーザ発振可能である。
【0047】
例えばフッ化物ガラスにEuを添加した場合は、340nm〜410nm帯、465nm帯で励起し、590nm帯、613nm帯、696nm帯でレーザ発振可能である。
【0048】
例えばフッ化物ガラスにTbを添加した場合は、340nm〜390nm帯で励起し、488nm帯、543nm帯でレーザ発振可能である。また、470nm〜500nm帯で励起し、543nm帯でレーザ発振可能である。
【0049】
例えばフッ化物ガラスにDyを添加した場合は、320nm帯、350nm帯、364nm帯で励起し、370nm帯、480nm帯、575nm帯、660nm帯、749nm帯などでレーザ発振可能である。また、387nm帯、450nm帯で励起し、480nm帯、575nm帯、660nm帯、749nm帯などでレーザ発振可能である。
【0050】
例えばフッ化物ガラスにHoを添加した場合は、360nm帯、415nm帯で励起し、430nm帯、545nm帯、658nm帯、750nm帯でレーザ発振可能である。また、450nm〜500nm帯で励起し、545nm帯、658nm帯、750nm帯でレーザ発振可能である。また、640nm帯で励起し、658nm帯、750nm帯でレーザ発振可能である。
【0051】
例えばフッ化物ガラスにErを添加した場合は、378nm帯、405nm帯440nm帯、485nm帯、520nm帯、540nm帯で励起可能であり、543nm帯、667nm帯、850nm帯などでレーザ発振する。また、650nm帯で励起可能であり、667nm帯、850nm帯などでレーザ発振する。
【0052】
例えばフッ化物ガラスにTmを添加した場合は、355nm帯、455nm〜485nm帯で励起し、480nm帯、650nm帯、795nm帯などでレーザ発振可能である。
【0053】
また、希土類添加ファイバを少なくとも2個以上に分割し、励起条件を個々に制御可能であるファイバリングレーザとすることで、光学構成を左右対称に構成することが可能となり、右回り(CW)と左回り(CCW)で同等の励起条件や共振器損失を実現できる。
【0054】
また、ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備えることで、不要な散乱光や自然放出光を吸収し、レーザ光だが通過できるように調整することができる。可飽和吸収体としては、目的のレーザ発振波長でわずかに吸収がある希土類添加ファイバや遷移金属添加ファイバや色素添加プラスチックなどが適している。例えば、Pr添加フッ化物ファイバのレーザ発振に対しては、Nd,Er,Sm,Tmなどを添加したフッ化物ファイバや石英ファイバを使用することができる。このように、異種の希土類添加ファイバを混在させることが有効である場合がある。また、可飽和吸収体としては上記の候補以外に半導体薄膜素子、希土類添加結晶、遷移金属添加結晶、カーボンナノチューブを用いた素子などを使用することができる。
【0055】
また、可飽和吸収体の吸収飽和パワーを調整するために、可飽和吸収体を励起してレーザ発振状態を調整することが可能である。例えば、Pr添加フッ化物ファイバを440nmで励起して520nmでレーザ発振している場合、可飽和吸収体としてEr添加フッ化物ファイバを用いる場合、Er添加フッ化物ファイバを440nmで励起して吸収飽和パワーを引き下げられるように構成しておくと、520nm帯のレーザ発振波長制御やパワー制御に使用できる。また、連続レーザ発振またはパルスレーザ発振の選択にも使用することができる。このように、複数箇所ある希土類添加ファイバのうち少なくとも1箇所を非励起または低励起状態にし、ファイバリングレーザの共振状態とバランスを調整することで、適切な吸収量を持った可飽和吸収体として動作させることが可能となる。
【0056】
さらに、可飽和吸収量制御によるパルスレーザ発振の選択に加えて、リングレーザ共振器の分散量をファイバブラッググレーティングなどの手法で制御すると、パルス幅が数十ナノ秒以下の短パルスを得ることができる。
【0057】
また、励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備えることで、リングレーザ共振器中に使用されている石英系ファイバや他の光学部品の温度依存性による光学長の変化を補償し、見かけ上温度依存性を抑制した動作が可能となる。その結果、光学長が変化することにより生じる周波数変動、パワー変動、低角速度での検出感度変動等を抑制できる。
【0058】
ここで、フッ化物ガラスの持つ負の dn/dT の値は、他の光学部品に使用される光学材料の正の dn/dT の値と絶対値が同程度であるが、レーザ媒質中では少なくとも励起光波長とレーザ発振波長のエネルギー差が熱に変換され、周囲の温度よりも十度程度高くなることは珍しくない。このため、レーザ媒質としてのフッ化物ガラスは、他の一般的な光学材料の長さと比較して短い場合でも、光学長の補償量を大きくできる。例えば、フッ化物ガラスのdn/dT値は−15×10−6/K程度であり、石英ガラスのそれは11.9×10−6/Kであるため、温度補償のためには同程度の長さが必要と思われるが、フッ化物ガラスがレーザ媒質である場合は温度変動が石英ファイバよりも大きいため、石英ファイバに対して50%以下の長さで補償可能である。補償の最適長は、励起条件やファイバの放熱状態、使用する石英ファイバのGe添加量などで変化するため一概には言えないが、一般的には石英ファイバ長の5〜20%程度が適当である。石英ファイバが純石英コアのファイバの場合は、石英ファイバに対するフッ化物ファイバの長さは1〜15%程度が適当である。
【0059】
しかし、希土類添加ファイバの長さ調整は、ファイバリングレーザの出力特性やモード特性を優先するために微調整が難しい。そこで、励起光やレーザ光に対して透明なフッ化物ファイバを適量リングレーザ共振器内に使用することで、ファイバリングレーザの光学特性に影響を与えることなく光学長の温度依存性を補償し、ファイバリングレーザの縦モードホップによるパワー変動や、低角速度での検出感度変動などを抑制できる。
【0060】
レーザ光波長と励起光波長で透明なフッ化物ファイバの適切な長さは、共振器の構成や希土類添加ファイバの励起状態によって変化するので一概には言えないが、フッ化物ファイバの合計長さが、リングレーザ共振器中の総石英系ファイバ長の5〜50%程度となる範囲が好ましい。この補償によって共振器長変化は数μm/℃程度まで抑制することが可能となり、温度変化による縦モードホップの抑制が容易になる。
【0061】
また、利得のホールバーニングが発生すると、CW光とCCW光の近接波長での発振が困難となる。このため、リングレーザ共振器内に希土類添加ファイバが1箇所の場合はリングレーザ共振器内の任意の場所に、リングレーザ共振器内に複数箇所の希土類添加ファイバがある場合はその中央または希土類添加ファイバ間に、ファラデー回転子,旋光子,偏波コントローラ,偏波スクランブラなどを挿入し特定偏波状態での発振を回避することが好ましい。旋光子としては透明な波長範囲が広い水晶が好適である。偏波コントローラは、ファイバのねじれを利用するタイプまたは巻き径と巻き数を制御したパドル間の角度を調整するタイプが好ましい。また、偏波コントローラとしてはこれ以外にも方解石などの複屈折性結晶を使用したもの、偏波保持ファイバを利用したものなどがあり、目的に応じて使用することができる。偏波スクランブラには、ファイバ断面内で応力付与部の角度をずらして複数段融着したデバイスが市販されており、リングレーザ共振器と接続しやすいため好ましい。また、これらの手法に加えて、リングレーザ共振器内に狭帯域フィルタなどを挿入し、発振波長を制限することが好ましい。
【0062】
また、CW光とCCW光の干渉を利用する用途では、ファイバリングレーザのTAP率(取り出すパワーの比率)を50%以下にすることで、帰還した残りの光パワーを多数回周回することが可能となり、干渉用ファイバ長を長距離にして高感度化したのと同じ効果を得ることが出来る。ここで、TAP率を下げると実効的周回数が高まるので、感度は向上する方向だが、取り出せるパワーが小さくなるので低雑音な検出方法または共振器内の光パワーの向上が必要となる。一方、TAP率を上げると感度は低下するが、取り出せるパワーが大きくなるので検出は容易になる。最適なTAP率は、希土類種、添加濃度、励起波長、励起パワー、ファイバの構造パラメータ、リングレーザ共振器内の損失などによって変化するので一概に規定できないが、一般的には0.1%から50%の範囲内である。また、高精度な干渉光源用リングレーザの場合、TAP率は0.1%以上20%以下が好ましい。TAP率が0.1%未満の場合、受光素子に入射する光パワーが極端に低くなり、精度の高い検出が困難になる。一方、20%を超えると多数周回による感度向上の効果が得にくくなる。
【0063】
また、これまで述べたファイバリングレーザを用い、右回り(CW)のレーザ信号と左回り(CCW)のレーザ信号を取り出して、該CWレーザ信号とCCWレーザ信号とを干渉させて得られるビート信号を検出する角速度検出方法を用い、ファイバリングレーザジャイロ(F−RLG)を構成することができる。
【0064】
F−RLGとして応用する場合、リングレーザ共振器からTAPによって取り出されたCW光とCCW光は、光アイソレータを通して3dBカプラで干渉され、干渉出力がフォトダイオードに入射されて電気信号に変換される。TAPカプラと受光素子の間に、少なくとも1個の光アイソレータを備えることで、受光素子側の反射の戻り光を抑制し、ファイバリングレーザの動作の安定化と破壊の防止を図ることができる。ファイバリングレーザに限らず、ファイバを利得媒質とする機能部品は、戻り光の影響を非常に受けやすい。特にファイバの端部は、受光素子を近づけたり、受光面とファイバ端面の角度が平行になって戻り光がファイバに再入射する危険があり、最悪の場合にはファイバリングレーザが破壊される危険がある。TAPカプラと検出部の間に光アイソレータを挿入することで、このような事故を防止することができる。なお、受光素子としては単一素子からなる単純な受光素子としてPINフォトダイオードやアバランシェフォトダイオードを使用できるだけでなく、多数の素子からなるラインセンサや撮像素子を使用することもできる。また、光アイソレータと3dBカプラの間にファイバ型偏波コントローラを設置し、偏波制御することができる。偏波制御は、取り出される右回りのレーザ信号または左回りのレーザ信号のどちらか一方のレーザ光について行えれば良いので、光アイソレータと3dBカプラの間にファイバ型偏波コントローラを設置してもよい。
【0065】
本発明のファイバリングレーザには、一般的に取り付けられている偏波制御手段や温度制御手段を取り付けることが出来る。また、モードロック動作を開始するために変調器を挿入する事が出来る。偏波制御手段としては、ファイバリングの組み合わせによる偏波コントローラや、方解石や水晶などの異方性光学結晶の組み合わせによる偏波コントローラが使用できる。温度制御には、ペルチェ素子などを用いた電子冷却や冷媒循環による方法を用いることが出来るが、振動の面からは電子冷却が好ましい。変調器としては、ファイバリングに振動を与える振動型の変調器や電気光学効果を示す結晶を用いた光導波路デバイスを使用することが出来る。中でもLiNbO(LN)のマイクロ波結合型の変調器は変調周波数が高く、センサとして利用する帯域外で動作するため、特に好ましい。
【0066】
また、ファイバリングレーザ全体を、熱伝導性が良好な鉄合金の筐体に収容し、筐体内には銅製のヒートチャンネルを設けて励起レーザを集中的に冷却すると共に、筐体全体の温度が一様に安定するように筐体はペルチェ素子を接触させてフィードバック制御させることが好ましい。さらには、該筐体の外部を熱の侵入を防止するために高性能の断熱材で密閉することが好ましい。この場合、該筐体内の温度変動は、外気温変動が5℃/hr程度の時に、±0.01℃/hr以下に抑制可能となる。
【0067】
さらに、リングレーザジャイロとして応用する場合、低角速度での回転を検出するために、ファイバ系全体を振動させて見かけ上の角速度を底上げするディサリング(dithering)と呼ばれる技術を使うことができる。ディサリングには一般的に圧電素子による周期的な振動が用いられており、可聴域以上の周波数の振動を、ファイバを固定している筐体部分やボビン部分に加えることで、低角速度での周波数引き込みによる不感帯(ロッキング)の発生を防止できる。また、振動子の発熱を効果的に除去するため、銅などの熱伝導性の良い冷却材料内に振動子を配置して振動子を冷却できる冷却機構を備えることが好ましい。この冷却機構には、ペルチェ効果を利用した電子冷却を利用することが雑音となる振動を防止する観点から特に好ましい。
【0068】
また、上記の機械的なディサリングと同様な効果を得られる方法として、リングレーザ共振器内を周回中のレーザ光に対して時間的に周期的な位相変調を加えることによって、ロッキングを防止する事もできる。例えば、位相変調波形としてサイン波を用いることができる。位相変調方法としては、LN変調器のようなデバイスを使用しても良いし、リングレーザ共振器内のファイバに圧電素子などで時間的に周期的な応力を加える事も可能である。
以下に実施例を示す。
【実施例1】
【0069】
実験に使用したファイバリングレーザ部を、図1を用いて説明する。この配置の特徴は、ほとんどの部品が左右対称に配置され、右回り(CW)と左回り(CCW)のレーザ特性に差が生じないように配慮されている点である。特に利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)と可飽和吸収体(フッ化物ファイバ23a、フッ化物ファイバ23b)および、これらの励起源(励起用半導体レーザ22a、励起用半導体レーザ22b、励起用半導体レーザ25a、励起用半導体レーザ25b)は、完全に左右対称となっている。また、周回するファイバリングレーザの偏波ホールバーニングを防止するため、水晶製の旋光子(水晶旋光子27)が共振器中に挿入され、レーザ光がリングを1周するごとに90度偏波回転させる。この結果、CW光とCCW光のパワー比が1:1に近づき、パワー安定性も高まる。
【0070】
利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−3.2YF−3.5LaF−0.3ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は38ZrF−15HfF−20BaF−1LaF−3AlF−3YF―20NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ20a、20bのNAは0.13、カットオフ波長は0.52μm、コア径は3μmである。ファイバ長は60cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と同じファイバパラメータを持ち、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と融着接続されている。
【0071】
可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a、フッ化物ファイバ23b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−3YF−3.5LaF−0.5ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は38ZrF−15HfF−20BaF−1LaF−3AlF−3YF―20NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ23a、23bのNAは0.13、カットオフ波長は0.52μm、ファイバ長は10cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と同じファイバパラメータを持ち、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と融着接続されている。
【0072】
励起光波長帯である440〜450nm帯と信号光波長帯である540〜550nm帯の合分波素子が4個(合分波素子21a、合分波素子21b、合分波素子24a、合分波素子24b)、リングレーザ共振器内の石英ファイバ34に挿入されており、各々励起レーザの導入に用いられている。また、2つの利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の間には対向する励起レーザの余剰の励起レーザ光を除去するために、波長540nm〜550nmの光を透過し、波長440nm〜450nmの余剰の励起光をリングレーザ共振器外に除去する合分波素子26が挿入されている。
【0073】
励起レーザは2種類、各2台の計4台を使用している。利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の励起には、波長444nm、出力140mWのファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ22a、励起用半導体レーザ22b)を使用した。また、可飽和吸収体の吸収量制御に、波長448nm、出力50mWのファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ25a、励起用半導体レーザ25b)を使用した。
【0074】
リングレーザ共振器内の偏波状態を整える目的で、ファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ29)をリングレーザ共振器内に設置した。
【0075】
リングレーザ共振器からCW光とCCW光を取り出すために、リング内の光パワーの5%を取り出せるTAPカプラ28を設置し、測定中に反射光がファイバリングレーザに戻らないようにアイソレータ30を各ポートに設置した。光スペクトルは光スペクトラムアナライザ31、光パワーは光パワーメータ32を目的のポートに取り付けて測定した。
【0076】
上記構成でのリングレーザ共振器の長さは5m、光学部品以外のリングレーザ共振器内のファイバは、直径6.7cmに巻いてある
利得媒質励起条件=60mW、可飽和吸収体励起条件=15mWで測定したこのリングレーザからの出射光スペクトルを図2に示す。波長544nmでレーザ発振しており、ファイバリングレーザから直接可視光レーザが得られていることが判る。また、CW出力とCCW出力はそれぞれ0.52mWと0.54mWであり、その合計の合算出力は1.06mWとなり、測定誤差範囲内で一致した。
【実施例2】
【0077】
実施例1と同様の構成であるが、使用するファイバ種、添加する希土類、励起レーザ波長などを種々変更して、実施例1と同様のレーザ発振の実験をした(No.1〜8)。測定された発振波長および合算出力の結果を表1にまとめて示す。励起光としては半導体レーザと、半導体レーザ発振波長をSHG(Second Harmonic Generation)素子であるPPLNを用いて半分に波長変換した波長変換レーザの、2種類を使い分けて使用した。結果、いずれのファイバリングレーザからも波長1μm未満のレーザ発振が得られた。
【0078】
【表1】

【実施例3】
【0079】
リングレーザ部に実施例1と同一のリングレーザを使用し、リングレーザジャイロを構成し、角速度を検出した。光源部分の実験構成を図3に示す。TAPカプラ28から取り出されたCW光またはCCW光の干渉縞コントラストを最大にするために、偏光状態を制御するファイバ型偏波コントローラ33を設置した。CW光とCCW光を3dBカプラ34で干渉させ、光アイソレータ35を通過後、シリコンPIN受光素子36で干渉後の光強度変調信号を受光した。
【0080】
図4に、図3のファイバリングレーザ部と電気配線をリングレーザ筐体40に収容したときの概略を示す。熱膨張係数が小さく、比較的熱伝導性がよいコバール合金の筐体(リングレーザ筐体40)の周囲をペルチェ素子43で取り囲み、廃熱は放熱フィン44から放射することで、筐体内温度を均一に保つことができる。内部設定温度が25℃の時、周囲温度が40℃以上の場合は強制空冷が必要であった。風速2m/秒の強制空冷によって、60℃まで内部温度を25℃一定に制御可能であった。また、内部設定温度が25℃の時、周囲温度が−5℃以下の場合は制御が困難であった。ペルチェ素子43と励起レーザ4台への電源供給、偏波コントローラへの制御信号供給、受光した干渉信号の取り出しなどのために、筐体にはコネクタ(電気コネクタ41)が取り付けてある。
【0081】
角速度検出のためのセットアップを図5に示す。図4に示したファイバリングレーザが収容された筐体50と、リングレーザ制御用ボード52と、干渉信号を検出するオシロスコープ51をターンテーブル53に設置、固定し、回転制御コンピュータ(ターンテーブル制御コンピュータ54)で回転角速度を制御しながら干渉信号を測定した。
【0082】
温度制御設定=25℃、利得媒質励起条件=60mW、可飽和吸収体励起条件=15mWで測定した角速度と干渉周波数の関係を図6に示す。十分な干渉コントラストが得られた。低速回転として角速度110°/h、ビート周波数3KHzまで測定したが、ロッキングは観測されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例1、2のファイバリングレーザ部の構成を示す図である
【図2】実施例1のファイバリングレーザの発振スペクトルを示す図である
【図3】実施例3のリングレーザ光源部分を示す図である
【図4】実施例3のリングレーザジャイロの構成図である。
【図5】実施例3のリングレーザジャイロの角速度検出特性を測定するセットアップを示す図である
【図6】実施例3の角速度と干渉周波数の関係の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
20a,20b フッ化物ファイバ
21a,21b,24a,24b,26 合分波素子
23a,23b フッ化物ファイバ
22a,22b,25a,25b 励起用半導体レーザ
27 水晶旋光子
28 TAPカプラ
29 偏波コントローラ
30 光アイソレータ
31 光スペクトラムアナライザ
32 光パワーメータ
33 ファイバ型偏波コントローラ
34 3dBカプラ
35 光アイソレータ
36 シリコンPIN受光素子
40 リングレーザ筐体
41 電気コネクタ
43 ペルチェ素子
44 放熱フィン
50 ファイバリングレーザが収容された筐体
51 オシロスコープ
52 リングレーザ制御用ボード
53 ターンテーブル
54 ターンテーブル制御コンピュータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得媒質を励起する励起光源と、少なくとも一つの閉じたリング状の共振器(リングレーザ共振器)と、該リングレーザ共振器内に該利得媒質として希土類添加ファイバを持つファイバリングレーザにおいて、
該希土類添加ファイバとして、Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tmから選ばれる少なくとも1種類の希土類が添加されているコアを備えたファイバを用い、レーザ発振波長が1μm未満の短波長である事を特徴とする、ファイバリングレーザ。
【請求項2】
該希土類添加ファイバがフッ化物ガラスファイバであり、かつ該励起光源として波長340nm以上500nm以下の波長を放射する半導体光源を使用する事を特徴とする、請求項1に記載のファイバリングレーザ。
【請求項3】
該希土類添加ファイバを少なくとも2個以上備え、且つ該希土類添加ファイバの励起条件を個々に制御可能である事を特徴とする、請求項1または請求項2に記載のファイバリングレーザ。
【請求項4】
ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備える事を特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のファイバリングレーザ。
【請求項5】
励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備える事を特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のファイバリングレーザ。
【請求項6】
リングレーザ共振器から右回り(CW)のレーザ信号と左回り(CCW)のレーザ信号を取り出し、取り出されたCWレーザ信号とCCWレーザ信号とを干渉させて得られるビート信号を検出する角速度検出方法を用いるファイバリングレーザジャイロ(F−RLG)において、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のファイバリングレーザを用いることを特徴とするファイバリングレーザジャイロ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−62224(P2010−62224A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224022(P2008−224022)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】