説明

ファイバー状電池用ニッケル正極

【課題】二次電池用の正極として用いられ、安価で、二次電池の高出力化、高容量化、長寿命化を可能にするファイバー状電池用ニッケル正極を提供する。
【解決手段】耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで硝酸ニッケル浴中で陰分極し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状集電体を備えたファイバー状電池用ニッケル正極に関する。
【0002】
本発明のニッケル正極は、水溶液を電解液とする二次電池用のニッケル極、具体的にはニッケル−水素電池やニッケル−カドミウム電池用のニッケル極などを対象とし、ニッケル−鉄電池、ニッケル−亜鉛電池用のニッケル極などにも適用可能である。
【0003】
これらの電池は、携帯用や据置き用、移動用などの電源となるが、本発明では、例えば、完全充放電しない条件で使われるような予備用、非常用や移動用電源なども対象になる。
【背景技術】
【0004】
現在、アルカリ二次電池は、板状の正極、セパレータ、同じく板状の負極で構成され、水酸化リチウムを含む苛性カリ、苛性ソーダなどの水溶液が電解液として用いられている。
【0005】
電池の形状としては、例えば、10Ah以下のような小型は、円筒型やコイン型などが一般的であり、大規模な電源用には、主に角型が実用化されている。円筒型では、帯状にした正極と負極との間にセパレータを介して一体化し、この電極群を捲回して円筒型電槽に挿入して構成されている。角型は、長方形の板状の正極と負極複数枚とをセパレータを介して交互に重ね、それぞれの端子を一括して、外部に正極端子、負極端子を取り出すのが一般的である。
【0006】
ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池の正極として用いられるニッケル極は、高容量用としては、比較的厚さの厚い板状で0.65〜0.8mm程度のものが用いられ、高出力用としては、それ以下の0.4〜0.6mm程度のものが用いられている。
【0007】
また、ニッケル極としては、焼結式や発泡状ニッケル式の電極がよく知られ、負極としては、パンチングメタルなどの二次元構造の集電体にスラリーとして塗着、加圧したペースト式の電極が主に採用されている。
【0008】
正極の集電体として、焼結式のものは、パンチングメタルなどにカーボニルニッケルを焼結して得られた高多孔度を有する焼結体であり、発泡状ニッケル式のものは、発泡状樹脂にニッケルめっきした後に樹脂を焼却除去して得られたさらに高多孔度の多孔体である。その他には、機械加工で凹凸のような擬似三次元構造を形成した多孔体も数多く提案されているが、実用レベルに達しているのは、焼結式ニッケル極とその後に開発された発泡状ニッケル極である。
【0009】
さらに、従来の板状の正極、セパレータ、負極からなる電極群とは、着想がまったく異なる電池構造であって、集電体として、電子伝導性を有する繊維体を用いて構成する電池が提案されている(特許文献1参照)。この電池は、特に高出力を目的にしている。
【0010】
なお、それぞれの電極の外周部に電極活物質を形成してなる長尺の負極材または正極材のいずれか一方の電極材を芯材とし、その外周部に高分子固体電解質を介して他方の電極材を同軸に設け、これらを外装材によって封装するコード状の電池が提案されている(特許文献2参照)。
【0011】
この電池の構成は、基本的には、汎用のルクランシェタイプの乾電池と同じである。つまり、乾電池では、中央に正極材、周辺部に負極材、その間に電解質を配し、円筒型になっている。特許文献2では、電解質を固体電解質とし、全体を可撓性のコード状に構成することが提案されている。
【0012】
また、ニッケル極の活物質充填法の電解析出は、焼結式ニッケル極の活物質充填法として知られている。例えば、特許文献3には、反応抵抗、正極側の分極が小さく、早期に容量低下に至らない、高温下での高信頼性、長寿命化が十分なニッケル極を得ることを目的として、焼結ニッケル基板などの多孔性金属基板に、電解析出法によって得られた水酸化ニッケルを必要活物質総量の一部として充填するとともに、化学含浸法によって得られた水酸化ニッケルを必要活物質総量の過半量で充填することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−317794号公報
【特許文献2】特開2001−110445号公報
【特許文献3】特開平9−283136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特許文献1で提案された電極、特にアルカリ二次電池の正極として用いられる繊維形状の集電体を有するニッケル極を改良して、安価で、高出力化、高容量化、長寿命化を可能にすることを意図する。
【0015】
例えば、ニッケル−水素電池やニッケル−カドミウム電池では、汎用のニッケル極の厚さは、最も薄くしても400μm程度であり、活物質内をイオンや電子が移動する拡散が律速になっているので、一層の高出力化は困難である。
【0016】
従来の板状の電極では、厚さを薄くすると、角型構造では数多くの電極を重ねる必要があり、円筒型では電極の長さを長くして捲回する必要があり、製造工程、価格や特性上などの観点から、薄型化には限界があった。
【0017】
特許文献1の実施例では、ニッケル−鉄電池を例として挙げている。そのニッケル極として、電気分解による電解析出法を用いて、基材であるカーボンファイバーに、正極活物質としてニッケル/水酸化ニッケルをコートし、負極活物質として鉄/水酸化鉄をコートし、さらにその外側に多孔質樹脂をコートして構成したニッケル−鉄電池を挙げている。そして、ここでは、ニッケル極の製法として、硝酸ニッケル浴中でカーボンファイバーを陰極とし、ニッケル板を陽極として電気分解を行い、カーボンファイバー表面にニッケル/水酸化ニッケルを電解析出させる工程が提案されている。
【0018】
本発明は、この製造法を改良することで、特に安価にすることを主目的とし、高出力化、高容量化や長寿命化などの特性は、保持することを可能にするものである。
【0019】
導電性繊維として、よく知られているのが、カーボンファイバーである。これは、ポリアクリロニトリルや、石油、石炭、コールタールなどの副生成物であるピッチのような繊維を、高温で炭化して作られている。強度が比較的強く、耐熱性、耐酸性であり、金属より軽量で、電気伝導性を有しているなどの多くの長所を有している。
【0020】
しかしながら、製法上コストがやや高く、また、強度も通常の繊維に比較するとやや小さく、折り曲げ強度などに問題があり、加工性にも難があるとされている。集電体として用いる繊維のコストは、電池の所望電圧が3V程度以下で、容量が1〜10Ah程度であれば、それほど問題にはならないが、例えば50〜300V、100〜1000Ahのように高電圧、高容量の大規模電池では、集電体材料の価格は、一層無視できなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、繊維状材料、ニッケル層などの最適な組合せを見出して、具現化したものである。すなわち、集電体を製造する際に、繊維として安価な耐アルカリ性繊維状物質を選び、これにニッケル層を生成させる。結果として、繊維状電極の長所を維持しつつ、低廉化が可能になった。
【0022】
繊維状材料としてカーボンファイバーを用いた場合においても、高出力用には、カーボンファイバー上にニッケル層の形成が好ましい。それに対して、本発明では、繊維の炭素化、黒鉛化の工程が不要となり、繊維状集電体の特長は発揮できるので、多量の集電体が必要な大規模電池で、大きな効果が発揮される。
【0023】
本発明は、下記に示すとおりのファイバー状電池用ニッケル正極を提供するものである。
項1. 耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで硝酸ニッケル浴中で陰分極し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。
項2. 耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで水酸化ニッケルを主成分とするスラリーを塗着して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。
項3. 耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで水酸化ニッケル層を形成し、次いで加圧して得られる項1または2に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項4. ニッケルめっきが、無電解ニッケルめっき、次いで電解ニッケルめっきからなる項1〜3のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項5. ニッケルめっきが、ニッケルスパッタリングと電解ニッケルめっきからなる項1〜3のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項6. 耐アルカリ性繊維が、ポリオレフィン系繊維である項1〜5のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項7. 耐アルカリ性繊維が、繊維状材料にポリオレフィン系樹脂を被覆してなる項1〜5のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項8. 耐アルカリ性繊維が、繊維状材料にフッ素樹脂ディスパージョンを被覆してなる項1〜5のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項9. 耐アルカリ性繊維の直径が、0.1〜100μmである項1〜8のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項10. 耐アルカリ性繊維が、単繊維2〜1000本で構成されている項1〜9のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項11. 耐アルカリ性繊維が、複数の単繊維が撚られている状態である項10に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項12. めっきにより形成されるニッケル層の厚さが、0.5〜15μmである項1〜11のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項13. 苛性アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である項1〜12のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項14. 硝酸ニッケル浴中にコバルト塩が含まれている項1〜13のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
項15. 耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで硝酸ニッケル浴中で陰分極し、次いでコバルト塩水溶液中に浸漬し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明に用いる耐アルカリ性繊維としては、まず、ポリオレフィン、つまりポリエチレンやポリプロピレン、それに各々の共重合体からなる繊維が挙げられる。
【0026】
その他に、例えば、安価で広く使われている木綿糸、絹糸、ポリエステル樹脂製の糸などの耐アルカリ性、耐酸化性が良好でない繊維状材料に、耐アルカリ性や耐酸化性を向上させるために、繊維状材料に、耐電解液性で耐酸化性に優れたポリオレフィン系樹脂を被覆する。その手段としては、ポリエチレン溶液やそのエマルジョン、ポリプロピレン溶液やそのエマルジョンを被覆することが、簡単で極めて有効である。
【0027】
また、ポリオレフィン系樹脂に代えてフッ素樹脂層を被覆してもよい。この場合は、繊維状材料をフッ素樹脂ディスパージョン中に浸漬して、被覆することが最も簡単で有効である。さらに、ポリオレフィン系樹脂で被覆した後にフッ素樹脂を被覆することは、耐アルカリ性、耐酸化性の向上に、一層有効である。つまり、ポリオレフィン系樹脂は被覆性(フィルム形成能)に優れており、対酸化性はフッ素樹脂が優れている。フッ素樹脂は、繊維状になりやすく、被覆性ではポリオレフィン系樹脂よりも劣るので、ポリオレフィン被覆後にフッ素樹脂層を形成することは、耐アルカリ性、耐酸化性の向上に極めて有効である。同じフッ素系樹脂で、リチウムイオン電池の結着剤として知られているポリビニリデンフルオライド(PVdF)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解して用いてもよい。
【0028】
いずれにしても、耐アルカリ性や耐酸化性に劣る繊維を用いた場合にも、これらの特性を向上させることが可能であれば、使用する樹脂に限定されることがなく、大量に必要な繊維として、安価な材料の選択が可能になる。
【0029】
なお、繊維状材料にニッケル層を形成すれば、原理的には、この層により集電体は保持されることになるが、この繊維状材料が溶出、あるいは強度が低下すると、繊維表面に被覆しているニッケルのみでは、強度が小さく、ニッケル極の強度が低下することになり、サイクル寿命が低下するなどの問題が生ずる。従って、繊維状材料が、耐酸化性で耐アルカリ性であることが、より好ましい。
【0030】
本発明で用いる耐アルカリ性繊維の直径は、特に限定はないが、集電体として用いる際に、汎用のニッケル極集電体の厚さが基準となる。具体的には、焼結式や発泡状ニッケル極の集電体は400μm以上であり、本発明ではそれより相当薄いことが好ましい。このような観点から、ニッケルめっき前の耐アルカリ性繊維の直径は、0.1〜100μmの範囲が好ましい。
【0031】
なお、用いる耐アルカリ性繊維は単繊維でもよいが、複数の単繊維を集合させることも有効である。この場合に、単繊維2〜1000本で構成されている耐アルカリ性繊維を用いることが好ましい。また、複数の単繊維を撚って撚り糸状にすることにより、各単繊維の間隔が一定になりやすく、製造工程の簡易化につながる。
【0032】
このように複数の単繊維を一体化して用いる場合、単繊維の直径は、0.1〜10μm程度が好ましい。
【0033】
このようにして得られた耐アルカリ性繊維に、無電解ニッケルめっきを施し、必要に応じて、その上に電解ニッケルめっきを施して、集電体とする。つまり、電源としての用途が高出力よりも高容量を要求する場合には、集電体の導電性はそれほど重要でないので、無電解ニッケルめっきのみでも良いが、高出力を重視する用途では、導電性が高いことが必要であり、無電解めっきの後に電解めっきを施すことが好ましい。そのめっき量については、めっきにより形成されるニッケルめっき層の厚さは、0.5〜15μmの範囲であるのが好ましく、2〜8μmの範囲であるのがより好ましい。高出力を期待する場合には、ニッケルめっき層は厚い方がよいが、実用上では、経済性を考慮して3〜8μm程度で十分である。
【0034】
無電解ニッケルめっきとしては、公知の手段を採用すればよい。市販の無電解ニッケルめっき用の溶液に順次浸漬してニッケル層を形成する。すなわち、塩化錫と塩化パラジウムを含む市販の水溶液に浸漬して、いわゆる触媒化処理を行う。その後、例えば、硫酸ニッケル、次亜リン、還元剤として水和ヒドラジンを含み、pH調整剤としてアンモニアを含むニッケルめっき液とし、この液中に浸漬させ、無電解ニッケルめっきを行う。無電解めっきのみでは、ニッケル量が限定されるので、この上に電解ニッケルめっきを行うのが好ましい。その場合には、よく知られているワット浴を用いればよい。
【0035】
なお、ニッケルスパッタリングと電解ニッケルめっきにより、ニッケルめっきを施しても良い。
【0036】
次いで、繊維状集電体に正極活物質層を形成する。ニッケルめっきを施した繊維状集電体を、硝酸ニッケル浴中に浸漬して陰分極することが最も好ましい。この方法は、活物質層の形成に広く用いられているスラリー法のように絶縁性物質である結着剤を含まず、集電体上に水酸化ニッケル層を直接形成できることから、高出力の用途に適している。スラリー法と異なり、この電解析出により形成させた活物質層には硝酸イオンが残っているので、電解析出後に苛性アルカリ水溶液中に浸漬し、水酸化ニッケルにしてファイバー状電池用ニッケル正極を製造する。
【0037】
すなわち、上記のように無電解ニッケルめっき、必要に応じて電解ニッケルめっきした後に、これを陰極とし、ニッケル板を陽極として硝酸ニッケル浴中で電気分解し、繊維表面に、ほぼ水酸化ニッケルに相当する物質を電解析出させる。この活物質充填法は、三次元構造で複雑な孔構造を有する焼結式ニッケル極の製造法として利用されてきた。つまり、この孔中に入った硝酸ニッケルは、電解により、硝酸イオンがアンモニアイオンに変化する。この際に、孔中は溶液の拡散が不十分なために、pHが大きくなり、硝酸ニッケルが加水分解して水酸化ニッケルが沈降する。本発明においては、本発明で用いる耐アルカリ性繊維のように複雑な構造を有していない場合でも、電解析出が可能であることが見出された。
【0038】
しかしながら、このような活物質の充填にとって、繊維の表面は平滑であるよりは、若干でも凹凸が形成されていることが好ましい。上記のように、電解析出法は、硝酸ニッケルを電解することにより、集電体付近の硝酸ニッケル中の硝酸イオンが還元されてアンモニウムイオンに変わることにより、pHがアルカリ側に移行し、水酸化ニッケルが沈降する現象を利用しているのであるから、繊維表面の凹凸は、その部分の溶液の移動を抑制する効果があり、電解の効率を上げる効果がある。また、析出した活物質との接触面を増す効果もある。
【0039】
従って、繊維を1本用いるよりも、複数の繊維を用いる方が好ましい。さらに、複数の繊維からなる撚り糸を用いることは、繊維間の距離が一定になりやすく、また撚り糸を構成する繊維間に空隙が生ずるので、この部分に水酸化ニッケル層が容易に形成される。
【0040】
電解析出法により生成する析出物には、活物質層中に硝酸イオンが残っているので、苛性アルカリ水溶液中に浸漬して、全体を水酸化ニッケルにする工程を加える。硝酸イオンが残ると、電池の自己放電が大きくなる。二次電池でも自己放電が大きいことは用途が限定されるので、これを抑制することは必要であり、苛性アルカリ水溶液中に浸漬して硝酸イオンを除去することは、実用上重要である。つまり、間欠放電のように自己放電が問題になる用途では、重要な処理工程といえる。
【0041】
苛性アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが使用可能である。価格の点では、水酸化ナトリウムが好ましい。なお、苛性アルカリ水溶液の濃度については、ごく低量から飽和量までとくに限定されないが、濃度10〜30重量%程度が好ましい。浸漬条件についても特に限定はないが、浸漬温度50〜80℃程度で、浸漬時間は20〜90分間程度がよい。
【0042】
さらに、このような工程で、ニッケル極の活物質(放電状態)を析出させるのであるが、活物質の利用率や寿命向上に有効とされているコバルト化合物の添加も容易である。手段として、硝酸ニッケル浴中に硝酸コバルトのようなコバルト塩を添加して、電解析出させる。その後に、苛性アルカリ水溶液中に浸漬すればよい。
【0043】
また、活物質層の表面にコバルト化合物を形成するために、水酸化ニッケルを析出させた後にコバルト塩水溶液中に浸漬し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬することが有効である。さらに、苛性アルカリが付着した状態で、空気中で110〜130℃で加熱すると、水酸化コバルトはオキシ水酸化コバルトに変化して、負極の充電保証用容量を減らさない効果が知られており、本発明でもこの処理は有効である。その他、汎用のニッケル極に用いられている亜鉛の添加なども適用できる。例えば、硝酸ニッケルに所定量の硝酸亜鉛を加え、その溶液中で電解析出すれば、亜鉛添加のファイバー状ニッケル極が得られる。
【0044】
以上、活物質充填法として、電解析出法について詳述してきたが、水酸化ニッケル微粉末を主成分とするスラリーを、繊維状集電体に塗着する手段も採用できる。例えば、カルボキシメチルセルロースを増粘剤とし、ポリオレフィンやフッ素樹脂などの耐アルカリ性の結着剤を用いてスラリーとし、これをニッケル層形成繊維状集電体に塗着すればよい。この場合には、苛性アルカリ水溶液中への浸漬工程は必要がない。また、このようなスラリーを塗着する活物質充填法を採用する場合は、加圧の工程を加えることが、特にサイクル寿命の向上に効果が大きい。この加圧は、繊維として炭素繊維や黒鉛繊維を用いる場合には、繊維を破損させるおそれがあるが、本発明で用いる耐アルカリ性繊維は、加圧による破損などの問題はない。従って、充填密度とサイクル寿命の向上が可能になる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のファイバー状電池用ニッケル正極は、二次電池用の正極として用いられ、二次電池の高出力化、高容量化、長寿命化を可能にする。
【0046】
本発明のファイバー状電池用ニッケル正極は、安価で強度の高い繊維状材料を用いているので、ファイバー状電池用ニッケル正極の低廉化および高強度化が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施することが可能なものである。
【0048】
実施例1および2
市販のポリエステル製繊維を100本撚りした糸を、繊維状材料として用いた。この糸を構成している各単繊維の平均直径は、0.8μmであった。これを市販のポリエチレンエマルジョン30重量%水溶液に浸漬し、90℃で30分間乾燥した。その後、さらに、市販のフッ素樹脂(PТFE)ディスパージョン15重量%水溶液中に浸漬し、150℃で30分間熱処理して、ポリエチレンを繊維に融着させた。
【0049】
乾燥後に、この耐アルカリ性繊維にニッケルの無電解めっきを行った。具体的には、市販の無電解めっき用の溶液に順次浸漬して、ニッケル層を形成した。
【0050】
すなわち、塩化錫と塩化パラジウムを含む市販の水溶液に浸漬して、触媒化処理を行った。その後、硫酸ニッケル27g/L、次亜リン16g/L、還元剤として水和ヒドラジン6g/Lを含み、pH調整剤としてアンモニアを含むニッケルめっき液に浸漬させ、70℃で15分間保って、無電解ニッケルめっきを行った。
【0051】
SEM(走査型電子顕微鏡)により、ニッケル被覆層の断面の拡大像を観察したところ、ニッケル被覆層の厚さは、平均厚さが1.3μmであった。
【0052】
次いで、電解ニッケルめっきを、いわゆるワット浴を用いて行った。この実施例では、硫酸ニッケル360g/L、塩化ニッケル46g/Lおよび硼酸38g/Lを主成分として含む溶液を用いた。長さ250mmに裁断したニッケル無電解めっき層を施したポリプロピレンと、フッ素樹脂を被覆した100本の単繊維からなるポリエステル繊維を、2枚の発泡状ニッケル片間に挟んで圧着することで固定し、これを端子としてワット浴中に入れた。なお、対極としては、厚さ2mmのニッケル板を使用した。ニッケルめっきは、繊維表面に平均で厚さ5μmになるように施した。これを繊維状集電体とした。
【0053】
次いで、電解析出法により、活物質層を形成した。硝酸ニッケル(6水和物)200gに水35gを加え、pH3に調整した溶液を電解析出用溶液とした。この溶液に、繊維状集電体をカソードとして、対極をニッケル板として、セパレータとしてポリプロピレン製不織布を両極間に配して、電解析出を行った。電析条件は、電流密度を約20mA/cm、電析時間を8分間とした。繊維状集電体上に電解析出された水酸化ニッケルの厚さの平均は、約22μmであり、繊維状材料を構成している単繊維間にも、厚さ3μm程度の水酸化ニッケルが析出していた。この場合、水酸化ニッケルの電析効率は、約45%であった。
【0054】
これを、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液に、60℃で30分間浸漬した。水洗、乾燥して、本発明のファイバー状電池用ニッケル正極を得た。この活物質(水酸化ニッケル)充填密度は、集電体を含めて595mAh/ccであった。この電極をAとした。
【0055】
また、このニッケル極をローラプレス機で加圧して、活物質充填密度を、集電体を含めて620mAh/ccにしたニッケル極をA−1とした。
【0056】
このような工程で、ニッケル極の活物質(放電状態)を析出させるのであるが、活物質の利用率や寿命向上に有効とされているコバルト化合物の添加は、既述のように、特に利用率を向上させる点で有効である。手段として、硝酸ニッケル浴中に硝酸コバルトのようなコバルト塩を添加して、電解析出させる。その後に、苛性アルカリ水溶液中に浸漬すればよい。
【0057】
また、活物質層の表面にコバルト化合物を形成するために、水酸化ニッケルを析出させた後にコバルト塩水溶液中に浸漬し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬することが有効である。さらに、苛性アルカリが付着した状態で、空気中で110〜130℃で加熱すると、水酸化コバルトはオキシ水酸化コバルトに変化して、負極の充電保証用容量を減らさない効果が知られており、本発明でもこの処理は有効である。
【0058】
実施例3および4
水酸化ニッケルへの水酸化コバルト添加の効果を調べるために、硝酸ニッケル(6水和物)190gと硝酸コバルト(6水和物)13gに水52gを加え、pH3に調整した溶液を電解析出用溶液とした。硝酸ニッケルのみの場合と同様に、この溶液に、繊維状集電体をカソードとして、対極をニッケル板として、セパレータとしてポリプロピレン製不織布を両極間に配して、電解析出を行った。電析条件は、電流密度を20mA/cm、電析時間を10分間とした。この場合には、水酸化ニッケルと水酸化コバルトが電析された。水酸化コバルトの含有量は、金属換算つまりニッケルに対してコバルトとして5.4%であった。その電析効率は、約43%であった。繊維状集電体上に電解析出された水酸化ニッケルと水酸化コバルトとの混合層の厚さの平均は、20μmであり、繊維状材料を構成している単繊維間にも、厚さ2μm程度が析出していた。
【0059】
これを、25重量%の水酸化カリウム水溶液に、60℃で30分間浸漬した。水洗、乾燥して、本発明のファイバー状電池用ニッケル正極を得た。この活物質充填密度は、集電体を含めて約590mAh/ccであった。この電極をBとした。
【0060】
また、このニッケル極をローラプレス機で加圧して、活物質充填密度を、集電体を含めて605mAh/ccにしたニッケル極をB−1とした。
【0061】
実施例5および6
さらに、水酸化コバルトを水酸化ニッケルの表面に被覆する効果について調べた。硝酸ニッケル(6水和物)210gに水50gを加え、pH3に調整した溶液を電解析出用溶液とした。この溶液に、繊維状集電体をカソードとして、対極をニッケル板として、セパレータとしてポリプロピレン製不織布を両極間に配して、電解析出を行った。電析条件は、電流密度を20mA/cm、電析時間を8分間とした。この場合、水酸化ニッケルの電析効率は、約43%であった。繊維状集電体上に電解析出された水酸化ニッケルの厚さの平均は、20μmであり、繊維状材料を構成している単繊維間にも、厚さ3μm程度の水酸化ニッケルが析出していた。
【0062】
これを、硫酸コバルト(7水和物)50gを水30gに溶解した溶液に浸漬した後、80℃で20分間乾燥し、25重量%の水酸化カリウム水溶液に、70℃で30分間浸漬した。水洗、乾燥して、本発明のファイバー状電池用ニッケル正極を得た。この活物質充填密度は、集電体を含めて約585mAh/ccであった。この電極をCとした。
【0063】
また、このニッケル極をローラプレス機で加圧して、活物質充填密度を、集電体を含めて601mAh/ccにしたニッケル極をC−1とした。
【0064】
比較例1〜3
これら本発明のニッケル極の比較として、多孔度95%の市販の発泡状ニッケルを集電体とし、これを厚さ600μmに調厚した後、水酸化ニッケル粉末にカルボキシメチルセルロースを増粘剤としてスラリーとし、ローラプレス機で400μmにまで加圧して得られた、620mAh/cc充填して得られたニッケル極をDとした。
【0065】
また、同じく発泡状ニッケルを集電体とし、ニッケル極Bと同じ組成で水酸化コバルトを添加したスラリーを充填して得られたニッケル極をEとした。
【0066】
さらに、同じく発泡状ニッケルを集電体とし、ニッケル極Cと同様に水酸化コバルトを被覆して得られたニッケル極をFとした。
【0067】
以上の実施例1〜6の電極A、A−1、B、B−1、C、C−1、および比較例1〜3の電極D、E、Fの各ニッケル極について、対極の負極として計算容量が10倍有する水素吸蔵合金負極を用いて、特性試験評価用セルを構成した。この負極は、公知のペースト状の水素吸蔵合金(Al、Mn、Coを含むMmNi系5元合金)粉末を1%のカルボキシメチルセルロース水溶液に加えることで得たスラリーを、集電体としての鉄にニッケルめっきしたパンチングメタルの両面に塗着、加圧して得られたものである。両極間に、厚さ150μm、多孔度50%の親水化処理ポリプロピレン不織布をセパレータとして配し、特性試験評価用セルを構成した。電解液として、30重量%の水酸化カリウム水溶液に1.5重量%の水酸化リチウムを溶解して用いた。
【0068】
本発明は、特に高出力を目的としているので、各電池の高放電特性(周囲温度30℃)を調べた。結果を表1に示す。各ニッケル極の計算容量は、すべて1100±5mAhあった。
【0069】
【表1】

【0070】
放電終止電圧は、1C:0.9V、10C:0.8V、30C:0.7Vであった。
【0071】
表1から明らかなように、本発明のファイバー状ニッケル極(A、A−1、B、B−1、C、C−1)の高出力特性は、比較例(D、E、F)と比べて明らかに優れている。なお、コバルトを添加したBとCは、放電電圧はやや低下して、容量は向上した。
【0072】
次いで、各ニッケル極を用いた同じ構成の電池の寿命を調べた。公知の緩充放電の繰返しを行った後に、周囲温度40℃で1Cの充放電を繰返した。充電は放電容量の105%、放電は終止電圧0.9Vで、初期容量の80%まで低下した充放電サイクルを寿命とした。
【0073】
その結果、Aは975サイクル、A−1は1059サイクル、Bは1012サイクル、C−1は1338サイクル、B−1は1205サイクル、Cは1108サイクルであった。それに対して、Dは841サイクル、Eは908サイクル、Fは937サイクルであり、本発明が長寿命であることがわかった。
【0074】
その理由として、本発明のニッケル極においては、活物質層が、繊維状集電体の周囲に円筒状に形成しているために、汎用の板状電極と異なり、電極の断面部分がほとんどなく、活物質が充放電中に膨張・収縮を繰返しても、集電体と活物質との接触性が格段に優れていることがあげられる。
【0075】
以上の実施例では、活物質層を電解析出で繊維状集電体に形成する工程を示したが、活物質ペーストを塗着する工程を選ぶことも可能である。一例として、水酸化ニッケル粉末を主成分とし、これに、カルボキシメチルセルロースを増粘剤として加え、結着剤としてポリエチレンエマルジョンを加えてスラリーとし、これを繊維状集電体に塗着すればよい。電解析出法に比べると、若干充放電特性は劣るが、従来のニッケル極よりは優れている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のファイバー状電池用ニッケル正極を用いたアルカリ電解液二次電池は、携帯用、移動用、予備用、非常用などに用いられる。特に、高出力用で長寿命を必要とする用途に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで硝酸ニッケル浴中で陰分極し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項2】
耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで水酸化ニッケルを主成分とするスラリーを塗着して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項3】
耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで水酸化ニッケル層を形成し、次いで加圧して得られる請求項1または2に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項4】
ニッケルめっきが、無電解ニッケルめっき、次いで電解ニッケルめっきからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項5】
ニッケルめっきが、ニッケルスパッタリングと電解ニッケルめっきからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項6】
耐アルカリ性繊維が、ポリオレフィン系繊維である請求項1〜5のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項7】
耐アルカリ性繊維が、繊維状材料にポリオレフィン系樹脂を被覆してなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項8】
耐アルカリ性繊維が、繊維状材料にフッ素樹脂ディスパージョンを被覆してなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項9】
耐アルカリ性繊維の直径が、0.1〜100μmである請求項1〜8のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項10】
耐アルカリ性繊維が、単繊維2〜1000本で構成されている請求項1〜9のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項11】
耐アルカリ性繊維が、複数の単繊維が撚られている状態である請求項10に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項12】
めっきにより形成されるニッケル層の厚さが、0.5〜15μmである請求項1〜11のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項13】
苛性アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜12のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項14】
硝酸ニッケル浴中にコバルト塩が含まれている請求項1〜13のいずれか1項に記載のファイバー状電池用ニッケル正極。
【請求項15】
耐アルカリ性繊維にニッケルめっきを施し、次いで硝酸ニッケル浴中で陰分極し、次いでコバルト塩水溶液中に浸漬し、次いで苛性アルカリ水溶液中に浸漬して得られるファイバー状電池用ニッケル正極。

【公開番号】特開2010−225354(P2010−225354A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69656(P2009−69656)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】