説明

ファイバ保持具およびファイバレーザ装置

【課題】光ファイバを容易かつ正確に巻き取ることが可能であり、さらに、巻き取られた状態で光ファイバを保持可能なファイバ保持具を提供する。
【解決手段】ファイバボビン41に形成された溝(導入部49a)に光ファイバ11を収容し、その後、ボビンカバー42に形成された切欠き48に光ファイバ11を当てたままボビンカバー42を螺旋状の溝49の回転方向に回転させる。これによって、溝49に光ファイバ11を収容することができる。したがって容易かつ正確に光ファイバを巻き取ることができるとともに、光ファイバをファイバボビン41に保持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファイバ保持具およびファイバレーザ装置に関し、特に光ファイバを巻き取るとともに固定するためのファイバ保持具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザマーキング装置、溶接装置およびトリミング装置に代表されるレーザ加工装置は、一般的に、レーザ発振装置、レーザ発振装置を駆動させるドライバ、ドライバ用の電源およびレーザを制御する制御基板等により構成される。近年では、このようなレーザ加工装置では、高効率、高安定性および高いビーム品質といった優位性により、従来の固体レーザからファイバレーザへの置き換えが進められている。
【0003】
一般的なファイバレーザでは、希土類添加ファイバによってレーザ光が増幅される。高パワーのレーザ光を得るためには、ある程度の長さの希土類添加ファイバが必要となる。このため、光ファイバを収納するための構成がこれまでに提案されている。
【0004】
たとえば、米国特許出願公開2008/0267575A1明細書(特許文献1)は、アルミニウムあるいは銅などの金属によって形成された円形状のボビンを開示している。このボビンの側面には、光ファイバを収納するための螺旋状の溝が形成される。また、特開2008−244483号公報(特許文献2)に開示された光ファイバ保持デバイスでは、光ファイバを収納するための螺旋状の溝が平面に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開2008/0267575A1明細書
【特許文献2】特開2008−244483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ファイバレーザに使用される一般的な光ファイバは非常に細く、250〜1000μm程度である。特に、希土類添加ファイバでは光増幅およびレーザ発振が行なわれるために、高パワーの光が希土類添加ファイバを伝播する。希土類添加ファイバに傷が付いた場合には、その傷の部分から光ファイバの外に放出された漏れ光によって、ファイバの発熱あるいは、ファイバの被覆等の発熱などの問題が生じうる。したがって、ファイバの取扱いには細心の注意を払う必要がある。
【0007】
一方、特許文献1に開示されたボビンでは、その側面に螺旋状の溝が形成される。光ファイバが長くなるほど、ボビンの縦方向(すなわち螺旋状の溝の中心軸方向)の長さを大きくしなければならない。したがって特許文献1に開示されたボビンでは、コンパクトな光ファイバ保持具を実現することが難しい。さらに、特許文献1に開示されたボビンでは、ファイバが巻き取られている状態を目視で確認することが難しい。このため、ファイバの一部が溝から逸脱した場合にも、その部分を見逃す可能性がある。
【0008】
一方、特許文献2に開示されたファイバ保持デバイスの場合には、平面に形成された螺旋状の溝に光ファイバが保持される。しかし、光ファイバを溝に収容するための方法、すなわち光ファイバを巻取る方法は特許文献2に具体的に開示されていない。
【0009】
本発明の目的は、光ファイバを容易かつ正確に巻き取ることが可能であり、さらに、巻き取られた状態で光ファイバを保持可能なファイバ保持具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある局面に係るファイバ保持具は、ファイバレーザ装置に用いられる光ファイバを保持するためのファイバ保持具であって、光ファイバを収納するための螺旋状の溝が形成された主表面を有するファイバ収納部と、螺旋状の溝の中心軸を通るように、主表面に固定される軸部材と、ファイバ収納部の主表面のうち少なくとも螺旋状の溝の最外周より内側の部分を覆うカバーとを備える。カバーには、軸部材を中心としてカバーを回転させるために軸部材が通される中心孔と、螺旋状の溝の最外周から最内周までを横断する切欠とが形成される。
【0011】
好ましくは、ファイバ保持具は、カバーとファイバ収納部の主表面との間に挿入され、軸部材を通すようにリング状に形成されたスペーサをさらに備える。
【0012】
好ましくは、カバーは、透明部材である。
好ましくは、ファイバ保持具は、螺旋状の溝の中心軸に沿った方向に延在するようにファイバ収納部の主表面に配置され、かつファイバ収納部の主表面に着脱可能に構成された余剰ファイバ巻取部をさらに備える。カバーには、余剰ファイバ巻取部を通すための少なくとも1つの貫通孔が形成される。
【0013】
好ましくは、ファイバ収納部の主表面の、螺旋状の溝の最内周よりも内側の領域に、余剰ファイバ巻取部を取付けるための複数の取付孔が形成される。複数の取付孔は、螺旋状の溝の中心軸を中心とした円周上に等角に配置される。カバーの少なくとも1つの貫通孔は、円周の一部と重なるように形成される。
【0014】
好ましくは、カバーの少なくとも1つの貫通孔は、複数の貫通孔である。円周の一部は、複数の取付孔のうちの少なくとも、隣り合った2つの取付孔によって定義される円弧である。
【0015】
好ましくは、ファイバ保持具は、螺旋状の溝を横断する方向に延在し、軸部材を通すための中心孔が形成され、軸部材によってカバーの上に固定されるカバー押さえ部材をさらに備える。
【0016】
好ましくは、螺旋状の溝を横断する方向に沿った、螺旋状の溝の底面の形状は、曲面である。
【0017】
本発明の他の局面に係るファイバレーザ装置は、上記のいずれかに記載のファイバ保持具と、ファイバ保持具によって保持された光ファイバとを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光ファイバを容易かつ正確に巻き取ることが可能なだけでなく、巻き取られた状態で光ファイバを保持することも可能なファイバ保持具を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すレーザ加工装置100の構成をより詳細に示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るファイバ保持具40の斜視図である。
【図4】図3に示したファイバ保持具40の分解斜視図である。
【図5】ファイバボビン41の平面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】ボビンカバー42をファイバボビン41に取付けた状態でのファイバ保持具40を示した平面図である。
【図8】ファイバボビン41に光ファイバ11を巻き取るための第1の手順を説明した図である。
【図9】ファイバボビン41に光ファイバ11を巻き取るための第2の手順を説明した図である。
【図10】ボビンカバー42によって光ファイバ11がファイバボビン41の溝に収容される状態を説明した第1の模式図である。
【図11】光ファイバ11がボビンカバー42によって光ファイバ11がファイバボビン41の溝に収容される状態を説明した第2の模式図である。
【図12】余剰ファイバが巻き取られた状態を示した図である。
【図13】余剰ファイバ巻取部44による光ファイバの巻取りを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。図1を参照して、レーザ加工装置100は、レーザ制御部110と、レーザヘッド部120と、レーザ制御部110からレーザヘッド部120にレーザ光を伝送するためのレーザ伝送部130とを備える。
【0022】
レーザ制御部110は、レーザ光を発生させるとともに、その発生したレーザ光を出射する。レーザ制御部110は、レーザ発振装置150と、制御基板20と、ドライバ32と、ドライバ用電源30とを含む。レーザ発振装置150は、ドライバ32により駆動されてレーザ発振を行なう。これによりレーザ光がレーザ発振装置150から出力される。レーザ発振の条件、レーザ光の出力および出力停止は制御基板20によって制御される。
【0023】
ドライバ用電源30は、ドライバ32に電力を供給することによってドライバ32を動作させる。これによりドライバ32はレーザ発振装置150をレーザ発振させる。
【0024】
制御基板20は、レーザ発振装置150によるレーザ光の出力および出力停止を制御する。なお、制御基板20は、ドライバ32に対して、ドライバ32の動作および停止を制御してもよい。
【0025】
レーザヘッド部120は、レーザ光を照射対象物に向けて照射する。レーザヘッド部120は、コリメータレンズ13と、ガルバノスキャナ14と、集光レンズ15とを含む。
【0026】
コリメータレンズ13は、レーザ制御部110からレーザ伝送部130を介して伝送されたレーザ光のビーム径を拡大し平行光にする。ガルバノスキャナ14は、ミラー14A,14Bを含み、コリメータレンズ13からのレーザ光を二次元方向に走査する。なお、ミラー14Aおよび14Bは、図示しないモータにより駆動される。
【0027】
また、この実施形態では、レーザ光を走査するための走査装置としてガルバノミラーを採用するが、このような走査装置はガルバノミラーに限定されず、たとえばポリゴンミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical System)スキャナ等を用いることができる。
【0028】
また、走査装置は、レーザ光を二次元方向に走査するものと限定されず、たとえば一次元方向にのみレーザ光を走査可能なものであってもよい。
【0029】
集光レンズ15は、ガルバノスキャナ14からのレーザ光を、加工対象物60の表面に集光させる。
【0030】
レーザ伝送部130は、レーザ制御部110からのレーザ光をレーザヘッド部120に伝送する。後に詳細に説明されるように、レーザ伝送部130からのレーザ光はレーザヘッド部120において増幅される。これにより、加工に必要なパワーを有するレーザ光を得ることができる。
【0031】
増幅されたレーザ光をガルバノスキャナ14によって二次元方向に走査するとともに、集光レンズ15によって集光することで、加工対象物60の表面では、たとえばアブレーションが起こる。ポリマー、セラミックス、ガラス、金属材料等の物体の表面に高いエネルギーでレーザ光を照射すると,材料を構成している分子・原子間の結合が瞬時に切れることによる分解、気化、蒸散を経て材料表面が爆発的に除去され、周囲に熱ダメージを与えない極めてシャープな除去が起こる。これがアブレーションと呼ばれる現象である。アブレーションを利用することによって、様々な加工が可能となる。
【0032】
レーザ加工装置100は、一例では、レーザマーキング装置である。ただしレーザ光による加工は、マーキングのみに限定されるものではない。すなわち、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザマーキング装置に限定されるものではない。たとえばレーザ光を、ドリリング、溶接、切断、熱処理、形状加工、トリミング等に用いることも可能である。したがって、本発明に係るレーザ加工装置を、これらの用途向けのレーザ加工装置にも適用可能である。たとえば、本発明に係るレーザ加工装置として、レーザトリミング装置、フォトマスク等の欠陥修正(リペア)を行なうレーザリペア装置を含めることができる。
【0033】
図2は、図1に示すレーザ加工装置100の構成をより詳細に示す構成図である。図2を参照して、レーザ制御部110は、レーザ発振装置150と、制御基板20と、ドライバ32と、ドライバ用電源30とを含む。レーザ発振装置150は、光ファイバ1と、半導体レーザ2,3,9A〜9Dと、アイソレータ4,6と、結合器5,10と、バンドパスフィルタ7とを備える。
【0034】
光ファイバ1は、具体的には希土類添加ファイバであり、光増幅成分である希土類元素が添加されたコアを有する。希土類元素の種類は特に限定されず、たとえばEr(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Nd(ネオジム)などがある。この実施の形態では、希土類元素ファイバのコアに添加された希土類元素はYb(イッテルビウム)である。
【0035】
半導体レーザ2は、種光を発する種光源である。種光の波長はたとえば1062±2nmである。半導体レーザ2は、ドライバ32により駆動されて、パルス状の種光を発する。
【0036】
アイソレータ4は一方向の光のみを透過し、その光と逆方向に入射する光を遮断する。具体的には、アイソレータ4は、半導体レーザ2から発せられる種光を通過させるとともに、光ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって半導体レーザ2の損傷を防ぐことができる。
【0037】
半導体レーザ3は、光ファイバ1のコアに添加された希土類元素を励起するための励起光を発する励起光源である。励起光の波長は、光ファイバのコアに添加される希土類元素の種類に基づいて定められる。たとえば希土類元素がYbである場合、励起光の波長はたとえば915±10nmである。
【0038】
結合器5は、半導体レーザ2からの種光および半導体レーザ3からの励起光を結合させて、光ファイバ1に入射させる。結合器5は、たとえばWDM(Wavelength Division Multiplexing)結合器やコンバイナ等を適用できる。
【0039】
半導体レーザ3から結合器5を介して光ファイバ1に入射した励起光は、光ファイバ1のコアに含まれる希土類元素に吸収される。これにより希土類元素が励起され(基底準位から上位準位に遷移され)、反転分布状態が得られる。この状態において、半導体レーザ2からの種光が光ファイバ1のコアに入射すると、誘導放出が生じる。この誘導放出によって種光(パルス光)が増幅される。すなわち光ファイバ1によって構成されたファイバ増幅器に種光および励起光が入射されることによって、種光が増幅される。
【0040】
アイソレータ6は、光ファイバ1から出力されたパルス光を通過させるとともに光ファイバ1に戻る光を遮断する。
【0041】
バンドパスフィルタ7は、所定の波長帯の光を通過させるよう構成される。「所定の波長帯」とは、具体的には、光ファイバ1から出力されるパルス光のピーク波長を含む波長帯である。光ファイバ1から自然放出光が放出された場合、その自然放出光はバンドパスフィルタ7により除去される。
【0042】
バンドパスフィルタ7を通過したレーザ光は、結合器10を介してレーザ伝送部130に入射する。半導体レーザ9A〜9Dは、バンドパスフィルタ7を通過したレーザ光を光ファイバ11において増幅するために、励起光を発する。実施の形態1では4個の励起光源が設けられているが、励起光源としての半導体レーザの個数は4個に限定されるものではない。光ファイバ11において求められるパルス光の増幅率に基づいて、励起光のパワーおよび励起光源の個数を定めることができる。
【0043】
結合器10は、バンドパスフィルタ7を通過したパルス光と、半導体レーザ9A〜9Dからの光とを結合してレーザ伝送部130に入射させる。
【0044】
制御基板20は、制御部21と、パルス発生部22とを含む。制御部21は、パルス発生部22およびドライバ32を制御することによって、レーザ制御部110の全体の動作を制御する。パルス発生部22は、所定の繰り返し周波数、および、所定のパルス幅を有する電気信号を発生させる。パルス発生部22は、制御部21の制御により、電気信号を出力したり、電気信号の出力を停止したりする。パルス発生部22からの電気信号は半導体レーザ2に供給される。
【0045】
ドライバ用電源30は、ドライバ32に電力を供給する。これによりドライバ32は半導体レーザ2,3,9A〜9Dに駆動電流を供給する。半導体レーザ2,3,9A〜9Dの各々は駆動電流が供給されることによってレーザ発振する。半導体レーザ2に供給される駆動電流は、パルス発生部22からの電気信号により変調される。これにより半導体レーザ2はパルス発振して、所定の繰り返し周波数および所定のパルス幅(上述)を有するパルス光を種光として出力する。一方、半導体レーザ3,9A〜9Dの各々にはドライバ32により、たとえば駆動電流が連続的に供給される。これにより半導体レーザ3,9A〜9Dの各々は連続発振して、連続光を励起光として出力する。
【0046】
なお、図2には示していないが、半導体レーザの温度を制御するための温度コントローラが各半導体レーザに対応して設けられていてもよい。温度コントローラを用いて半導体レーザの温度を安定させることにより半導体レーザの出力を安定させることができる。さらに、バンドパスフィルタ7および/またはアイソレータ6に対応して温度コントローラが設けられていてもよい。
【0047】
レーザ伝送部130は結合器10を介して入射したレーザ光をレーザヘッド部120に伝送する。レーザヘッド部120は、光ファイバ11と、ファイバ保持具40と、アイソレータ12と、コリメータレンズ13と、ガルバノスキャナ14と、集光レンズ15とを備える。
【0048】
光ファイバ11は、光ファイバ1と同様に希土類添加ファイバであり、レーザ伝送部130を介してレーザ発振装置150から送られたレーザ光を増幅する。ファイバ保持具40は、光ファイバ11を巻き取って保持するように構成される。
【0049】
アイソレータ12は光ファイバ11から出力されるレーザ光を通過させるとともに、光ファイバ11に戻る光を遮断する。アイソレータ12を通過したレーザ光は、アイソレータ12に付随するコリメータレンズ13から出力されてガルバノスキャナ14に入射する。ガルバノスキャナ14はX軸、およびX軸と直交するY軸方向の少なくとも一方の方向にレーザ光を走査する。集光レンズ15は、ガルバノスキャナ14により走査されたレーザ光Lを集光する。
【0050】
なお、光ファイバ1,11には、たとえばコアの周囲にクラッドが二重に設けられたダブルクラッドファイバが適用される。ただし光ファイバ1,11は、ともにシングルクラッドファイバでもよい。また、たとえば光ファイバ1,11のいずれか一方をシングルクラッドファイバとし、他方をダブルクラッドファイバとしてもよい。
【0051】
次に、本発明の実施の形態に係るファイバ保持具40について詳細に説明する。図3は、本発明の実施の形態に係るファイバ保持具40の斜視図である。図4は、図3に示したファイバ保持具40の分解斜視図である。図3および図4を参照して、ファイバ保持具40は、ファイバボビン41と、ボビンカバー42と、スペーサ43と、余剰ファイバ巻取部44と、カバー固定ネジ45と、ボビンガード46とを備える。
【0052】
ファイバボビン41は、金属によって形成され、螺旋状の溝49が形成された主表面47を有する。
【0053】
ファイバボビン41には、さらに、カバー固定ネジ45を取付けるための中心孔51と、複数の余剰ファイバ巻取部44をファイバボビン41にそれぞれ取付けるための複数の取付孔52と、ファイバボビン41をベース(図示せず)等に固定するための複数の位置決めピン50をそれぞれ通すための複数の取付孔53とが形成される。中心孔51の中心位置は、螺旋状の溝49の中心軸の位置に対応する。複数の取付孔52は、主表面47において溝49の最内周よりも内側の領域に形成されるとともに、中心孔51を中心とする円周上に形成される。
【0054】
ボビンカバー42は、透明な材料(たとえば透光性の樹脂)によって形成され、ファイバボビン41の上方に配置される。光ファイバの破断によって光ファイバの破断箇所から高パワーの光がボビンカバー42に照射された場合を想定すると、ボビンカバー42は難燃性の材質によって形成されることが好ましい。
【0055】
ボビンカバー42には、切欠48と、カバー固定ネジ45を通すための中心孔54と、余剰ファイバ巻取部44を通すための貫通孔である長孔55とが形成される。ボビンカバー42の中心孔54にカバー固定ネジ45を通すことによって、カバー固定ネジ45を中心としてボビンカバー42が回転可能となる。ボビンカバー42の長孔55は、ファイバボビン41に形成された複数の取付孔52と同一円周上に配置される。したがって長孔55は円弧状に形成される。
【0056】
スペーサ43は、カバー固定ネジ45を通すようにリング状に形成され、ファイバボビン41とボビンカバー42との間に配置される。ファイバボビン41とボビンカバー42との間にスペーサ43の厚み分の隙間が形成される。スペーサ43を省略した場合には、ボビンカバー42がファイバボビン41に接触しながら回転するため、ボビンカバー42から粉塵が生じる可能性がある。スペーサ43を設けることでボビンカバー42がファイバボビン41に接触することを回避できるので、粉塵の発生を防止できる。
【0057】
複数の余剰ファイバ巻取部44は、余剰ファイバを巻き取るために設けられる。余剰ファイバとは、溝49に収容しきれなかった光ファイバの部分に対応する。余剰ファイバ巻取部44は、ピン44aと、ピン44aに通される座金44bとを有する。
【0058】
複数の余剰ファイバ巻取部44は、ファイバボビン41に着脱可能に構成される。ボビンカバー42の回転時には余剰ファイバ巻取部44がファイバボビン41に取付けられていないので、ボビンカバー42の回転が余剰ファイバ巻取部44によって妨げられることが防止される。余剰ファイバ巻取部44は、カバー固定ネジ45の延在方向と同じ方向、すなわち、螺旋状の溝49の中心軸に沿った方向に沿って、ファイバボビン41の主表面47に延在する。
【0059】
ボビンガード46は、渦巻状の溝49を横断する方向に延在する。ボビンガードには、カバー固定ネジ45を通すための中心孔56が形成されている。この中心孔56にカバー固定ネジ45を通すことでボビンガード46がボビンカバー42の上面に取付けられる。余剰ファイバ巻取部44と同様にボビンガード46も着脱可能である。したがって、ボビンカバー42の回転がボビンガード46によって妨げられることが防止される。
【0060】
カバー固定ネジ45は段付きネジであり、その先端部(径の小さい部分)がネジ部分である。ネジ部分がファイバボビン41の中心孔51(ネジ孔)に取付けられることで、螺旋状の溝49の中心軸に沿って伸びるようにカバー固定ネジ45が固定される。カバー固定ネジ45の円筒部分(ネジが形成されていない部分)は、ボビンガード46の中心孔56、ボビンカバー42の中心孔54およびスペーサ43の孔に通される。ただし、カバー固定ネジは段付きネジに限定されるものではなく、たとえば段付きスペーサおよびネジも適用可能である。
【0061】
図5は、ファイバボビン41の平面図である。図6は、図5のVI−VI線断面図である。図5および図6を参照して、中心孔51の中心に位置する点Cは、螺旋状の溝49の中心軸の位置を示している。螺旋状の溝49よりも内側の領域において、複数の取付孔52,53が形成される。この実施形態では、取付孔52の個数は8個であり、取付孔53の個数は4個であるが、取付孔52,53の個数は特に限定されるものではない。複数の取付孔52は同一円周上に等角に配置される。複数の取付孔53は、複数の取付孔52よりも内側に位置し、かつ、同一円周上に等角に配置される。
【0062】
溝49は、点Cを中心として、時計回りに周回するように主表面47に形成される。もちろん溝49が反時計回りに形成されてもよい。最内周の溝の曲率半径はたとえばR=50mmとされる。これにより光ファイバ11の引っ張り等による過度の曲率を防止できる。
【0063】
さらに、螺旋状の溝49に繋がる溝として導入部49aが形成される。図6に示されるように、溝49の底面は曲面加工が施されている。これにより光ファイバを溝49に収容したときに光ファイバに傷が付く可能性を低減できる。なお、溝49の底面が平面に加工されていてもよい。
【0064】
図7は、ボビンカバー42をファイバボビン41に取付けた状態でのファイバ保持具40を示した平面図である。図7を参照して、ボビンカバー42には、ファイバボビン41に形成された螺旋状の溝49の最外周から最内周に横断するように切欠48が形成される。切欠48のエッジ部分はC面あるいはR面に加工されている。
【0065】
ボビンカバー42の長孔55は、ファイバボビン41に形成された取付孔52によって規定される円周上に位置する。長孔55の長さ(円弧の長さ)および個数は特に限定されるものではない。ただし長孔55の数を少なくするのであれば、1つの長孔55の長さが長いほど好ましい。この実施形態では、1つの長孔55の長さは、3つの取付孔52によって規定される円弧よりも長い。
【0066】
ボビンカバー42の回転によって長孔55の位置が変化する。長孔55を長くすることによって、長孔55の位置が変化しても、ファイバボビン41上に余剰ファイバ巻取部44を設置して余剰ファイバを巻き取ることが可能となる。
【0067】
続いて、ファイバボビン41に光ファイバ11を収容するための具体的方法について説明する。図8は、ファイバボビン41に光ファイバ11を巻き取るための第1の手順を説明した図である。図8を参照して、光ファイバ11を導入部49aに挿入する。なお、光ファイバの巻き始めの部分であることが容易に理解できるよう、図8では、光ファイバ11の先端部分が導入部49aに挿入されるように示されている。ただし、光ファイバ11の途中の部分が巻き始めの部分であってもよい。その場合にも、その巻き始めの部分が導入部49aに収容される。
【0068】
図9は、ファイバボビン41に光ファイバ11を巻き取るための第2の手順を説明した図である。図9を参照して、ボビンカバー42を螺旋状の溝49の巻き方向、すなわち時計回りに回転させる。切欠48のエッジ部(紙面右側のエッジ部)によって、光ファイバ11が下方に押されて溝49に収容される。
【0069】
図10は、ボビンカバー42によって光ファイバ11がファイバボビン41の溝に収容される状態を説明した第1の模式図である。図11は、光ファイバ11がボビンカバー42によって光ファイバ11がファイバボビン41の溝に収容される状態を説明した第2の模式図である。
【0070】
図10を参照して、ボビンカバー42は左側に移動されるよう表わされているが、これはボビンカバー42が時計回りに回転していることを示している。光ファイバ11は、ボビンカバー42の切欠48のエッジ部48a,48bと接触している。ボビンカバー42を時計回りに回転させることによって、切欠48のエッジ部48aが光ファイバ11を下方に押す。これにより光ファイバ11が溝49に収容される。ボビンカバー42を連続的に回転させることで光ファイバ11がファイバボビン41に巻き取られる。
【0071】
エッジ部48a,48bは光ファイバ11と接触する。このため、エッジ部48a,48bはR面またはC面に加工される。これにより光ファイバ11に傷が付くことを防止できる。
【0072】
図11に示されるように、溝49の底面は、光ファイバ11を保持できるように曲面加工されている。このように溝49の底面を加工することで溝49の表面と光ファイバ11との接触面積を大きくすることができるので、光ファイバ11の放熱を高めることができる。
【0073】
図12は、余剰ファイバが巻き取られた状態を示した図である。図12を参照して、溝49に収容しきれない余剰ファイバは、溝49の終端からボビンカバー42の切欠き48を通され、余剰ファイバ巻取部44によって巻き取られる。なお、余剰ファイバが長い場合には、複数の余剰ファイバ巻取部44の間に余剰ファイバが渡されることもある。
【0074】
図13は、余剰ファイバ巻取部44による光ファイバの巻取りを説明するための模式図である。図13を参照して、光ファイバ11はピン44aの頭部と座金44bとの間を通される。
【0075】
図12に戻り、カバー固定ネジ45により、ボビンカバー42の上にボビンガード46が取付けられる。巻き取られた余剰ファイバが動かないように、余剰ファイバはボビンガード46によって規制される。
【0076】
上記のように、ボビンカバー42に形成された長孔55(円弧の長さ)はより長いほうが好ましい。長孔55を長くすることによって、ファイバボビン41に取付け可能な余剰ファイバ巻取部44の数を増やすことができる。あるいは余剰ファイバ巻取部44の取付位置の自由度を高めることができる。これにより、さまざまな長さの余剰ファイバを巻き取ることが可能になる。この結果、長い光ファイバをコンパクトに収納することができる。なお、図3、図4および図12に示されるように、この実施の形態では、余剰ファイバ巻取部44の個数と取付孔52の個数とが等しいが、余剰ファイバ巻取部44の個数が取付孔52の個数より少なくてもよい。
【0077】
以上のように、本発明の実施の形態によれば、ファイバボビン41に形成された溝(導入部49a)に光ファイバを収容し、その後、ボビンカバー42に形成された切欠き48に光ファイバを当てたままボビンカバー42を螺旋状の溝49の回転方向に回転させる。これによって、容易かつ正確に光ファイバを巻き取ることができるとともに、光ファイバをファイバボビン41に保持することが可能となる。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1,11 光ファイバ、2,3,9A〜9D 半導体レーザ、4,6,12 アイソレータ、5,10 結合器、7 バンドパスフィルタ、13 コリメータレンズ、14 ガルバノスキャナ、14A,14B ミラー、15 集光レンズ、20 制御基板、21 制御部、22 パルス発生部、30 ドライバ用電源、32 ドライバ、40 ファイバ保持具、41 ファイバボビン、42 ボビンカバー、43 スペーサ、44 余剰ファイバ巻取部、44a ピン、44b 座金、45 カバー固定ネジ、46 ボビンガード、47 主表面、48 切欠、48a,48b エッジ部、49 溝、49a 導入部、50 位置決めピン、51,54,56 中心孔、52,53 取付孔、55 長孔、60 加工対象物、100 レーザ加工装置、110 レーザ制御部、120 レーザヘッド部、130 レーザ伝送部、150 レーザ発振装置、C 点、L レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバレーザ装置に用いられる光ファイバを保持するためのファイバ保持具であって、
前記光ファイバを収納するための螺旋状の溝が形成された主表面を有するファイバ収納部と、
前記螺旋状の溝の中心軸を通るように、前記主表面に固定される軸部材と、
前記ファイバ収納部の前記主表面のうち少なくとも前記螺旋状の溝の最外周より内側の部分を覆うカバーとを備え、
前記カバーには、前記軸部材を中心として前記カバーを回転させるために前記軸部材が通される中心孔と、前記螺旋状の溝の最外周から最内周までを横断する切欠とが形成される、ファイバ保持具。
【請求項2】
前記カバーと前記ファイバ収納部の前記主表面との間に挿入され、前記軸部材を通すようにリング状に形成されたスペーサをさらに備える、請求項1に記載のファイバ保持具。
【請求項3】
前記カバーは、透明部材である、請求項1または2に記載のファイバ保持具。
【請求項4】
前記螺旋状の溝の前記中心軸に沿った方向に延在するように前記ファイバ収納部の前記主表面に配置され、かつ前記ファイバ収納部の前記主表面に着脱可能に構成された余剰ファイバ巻取部をさらに備え、
前記カバーには、前記余剰ファイバ巻取部を通すための少なくとも1つの貫通孔が形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載のファイバ保持具。
【請求項5】
前記ファイバ収納部の前記主表面の、前記螺旋状の溝の最内周よりも内側の領域に、前記余剰ファイバ巻取部を取付けるための複数の取付孔が形成され、
前記複数の取付孔は、前記螺旋状の溝の前記中心軸を中心とした円周上に等角に配置され、
前記カバーの前記少なくとも1つの貫通孔は、前記円周の一部と重なるように形成される、請求項4に記載のファイバ保持具。
【請求項6】
前記カバーの前記少なくとも1つの貫通孔は、複数の貫通孔であり、
前記円周の一部は、前記複数の取付孔のうちの少なくとも、隣り合った2つの取付孔によって定義される円弧である、請求項5に記載のファイバ保持具。
【請求項7】
前記螺旋状の溝を横断する方向に延在し、前記軸部材を通すための中心孔が形成され、前記軸部材によって前記カバーの上に固定されるカバー押さえ部材をさらに備える、請求項1から6のいずれか1項に記載のファイバ保持具。
【請求項8】
前記螺旋状の溝を横断する方向に沿った、前記螺旋状の溝の底面の形状は、曲面である、請求項1から7のいずれか1項に記載のファイバ保持具。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のファイバ保持具と、
前記ファイバ保持具によって保持された光ファイバとを備える、ファイバレーザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−247550(P2012−247550A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118039(P2011−118039)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】