説明

ファスナ

【課題】1方向からの取付作業によって、より適切な向きで対象物を固定することが可能なファスナを提供することである。
【解決手段】ファスナは、挿入部を固定対象物に設けられた孔に挿入し、前記挿入部の太さを変えることによって前記固定対象物に固定することが可能な固定機構を備える。固定機構は、前記固定対象物の孔に接触させることによって前記孔の芯出しを行うための、前記挿入部の挿入方向に垂直でない面を有する芯出し部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ファスナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの部材を1方向からの締め付けにより固定することが可能なネジ式のファスナが知られている(例えば非特許文献1参照)。このネジ式のファスナは、円柱状の胴体部の一方に鏃(やじり)形状の先端部を同軸上に設け、他方をグリップとしたものである。そして、ネジ式のファスナは、グリップを回転させると胴体部に収納されたネジが回転し、鏃形状の先端部が膨らむように構成されている。
【0003】
従って、固定対象となるワークに予め設けられた孔にファスナの鏃形状の先端部を挿入し、グリップを回転させると鏃形状の先端部がワークの孔から抜けなくなる。このため、ファスナを一方向からワークに挿入して回転させるのみでファスナをワークに固定することができる。一方、ファスナのグリップを逆回転させれば先端部が元の太さに戻るため、ファスナの先端部をワークの孔から引き抜くことができる。
【0004】
このような構造を有する従来のネジ式のファスナは、航空機の組立作業における部品の仮止めなどに利用されている。航空機の組立作業では、部品同士を一時的に固定したり、部品に一時的に治具を取り付けることが必要な場合がある。そこで、作業者は、回転ホルダを有する締緩工具でファスナのグリップを保持し、締緩工具を駆動させることによってファスナを固定対象となる部材に取り付けている。
【0005】
ファスナを取り付けるための孔は、ハンドドリル等のハンドツールの他、自動穿孔機を用いて予め部材に設けることができる(例えば特許文献1参照)。
【0006】
そして、ファスナにより部材が固定された状態で、作業者は必要な組立作業を行うことができる。作業が完了すると、作業者は、再び締緩工具でファスナのグリップを保持し、締緩工具を駆動させることによってファスナを部材から取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−177957号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Monogram Aerospace Fasteners、Temporary Fasteners Catalog、[online]、[2011年8月23日検索]、インターネット<URL:http://www.monogramaerospace.com/products/temporary_fasteners>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、ファスナの部材への着脱は、従来、作業者による手作業によって行われている。このため、締緩工具等のハンドツールを用いた着脱作業を適切に行うことが可能なファスナの開発が望まれる。例えば、作業者がハンドツールを用いて手作業でファスナを部材に取り付ける場合には、適切な角度でファスナを部材の孔に挿入することが重要である。
【0010】
加えて、ファスナの着脱の自動化が課題である。特に、ファスナを挿入するための孔を自動穿孔機によって加工する場合には、自動穿孔機によってファスナを自動的に取り付けることができるようにすることが望ましい。しかしながら、ファスナの長手方向と部材に設けられた孔の深さ方向とを平行にするためには、自動穿孔機に高精度な位置決め機能を設けることが必要となる。換言すれば、自動穿孔機の位置決め精度が不十分であると、ファスナが斜方向に取り付けられる恐れがある。
【0011】
更に、従来のネジ式のファスナは細長い形状を有し、かつ内部に空隙が存在するためドリル等の工具に比べて剛性が低い。このため、仮に自動穿孔機において高精度な位置決めを行ったとしても、ファスナやホルダの撓みによってファスナが部材の孔に斜め方向に締め込まれたり、或いはファスナに大きな振動が発生する恐れがある。
【0012】
そこで、本発明は、1方向からの取付け作業によって、より適切な向きで対象物を固定することが可能なファスナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態に係るファスナは、挿入部を固定対象物に設けられた孔に挿入し、前記挿入部の太さを変えることによって前記固定対象物に固定することが可能な固定機構を備える。固定機構は、前記固定対象物の孔に接触させることによって前記孔の芯出しを行うための、前記挿入部の挿入方向に垂直でない面を有する芯出し部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態に係るファスナによれば、1方向からの取付け作業によって、より適切な向きで対象物を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るファスナの斜視図。
【図2】図1に示すファスナの縦断面図。
【図3】図1に示すファスナを締緩用のハンドツールで保持した例を示す図。
【図4】図1に示すファスナを自動締緩装置で保持した例を示す図。
【図5】図1に示すファスナを対象物に固定した状態の一例を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るファスナについて添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係るファスナの斜視図であり、図2は図1に示すファスナの縦断面図である。
【0018】
ファスナ1は、予め貫通孔を設けた複数の固定対象物を一方向からの取付け作業によって互いに固定することが可能な締結具である。或いは、孔を設けた単一の固定対象物にファスナ1を一方向からの取付け作業によって固定することができる。更に、必要に応じて取付け作業と同じ方向からの取外し作業によって、互いに固定された複数の固定対象物又は単一の固定対象物からファスナ1を取外すことができる。このような機能を有するファスナ1は、固定機構2に芯出し部3を設けて構成される。更に、固定機構2は、胴体部4、可動体5、固定板6及び筒状グリップ7を備えている。
【0019】
固定機構2の胴体部4は、両端が開口している円筒形状を有する。胴体部4の内面には、軸方向の段差が2段設けられる。換言すれば、胴体部4には、段差によって次第に内径が小さくなり、かつ3つの内径を有する段差付きの貫通孔が設けられる。
【0020】
胴体部4の内径が大きい側の一端には、円筒形状を有する筒状グリップ7の一部が挿入される。筒状グリップ7の外径は、胴体部4の中央における内径よりも大きく、胴体部4の端部の最も大きい内径よりも小さい。このため、筒状グリップ7を、胴体部4の内部において回転させることが可能である。また、筒状グリップ7の一端は、胴体部4の内部に形成される段差面に接触する。この結果、筒状グリップ7の他端は、胴体部4から突出し、突出した筒状グリップ7の他端に回転トルクを負荷することができる。また、筒状グリップ7の内面には、締緩用の雌ネジ7Aのネジ溝が同軸状に設けられる。
【0021】
固定機構2の可動体5は、棒状の細長い形状を有しており、挿入部8及び移動用ネジ部9を有する。挿入部8の先端は鏃形状を有する。一方、挿入部8の先端から離れた部分は、胴体部4の筒状グリップ7が挿入されていない側の最も小さい内径よりも小さい直径を有する円柱状の外形となっている。また、挿入部8の先端における鏃形状部も胴体部4の最も小さい内径よりも小さい直径を有する
【0022】
また、挿入部8には、軸方向を長さ方向とする貫通した割溝10が設けられる。挿入部8の貫通した割溝10は、挿入部8の先端に近づくにつれて幅が狭くなる一方、先端から一定の距離だけ離れた部分では幅が一定となる形状を有する。従って、挿入部8は、先端付近を除き、外側が円柱の一部の面を形成し、内側が平面を形成する2枚の板状部材を並べた形状となる。
【0023】
可動体5の移動用ネジ部9には、締緩用のネジ溝が設けられる。具体的には、移動用ネジ部9は、挿入部8よりも太く、かつ胴体部4の中央における内径よりも小さい太さの雄ネジである。また、移動用ネジ部9の雄ネジは、筒状グリップ7内に形成された雌ネジ7Aと互いに締め合うことができるサイズとされている。
【0024】
そしてこのような構造を有する可動体5は、移動用ネジ部9側が筒状グリップ7側となる向きで、筒状グリップ7及び胴体部4の内部に挿入される。このため、可動体5の移動用ネジ部9と筒状グリップ7の雌ネジ7Aとが互いに締め合わされる。一方、可動体5の挿入部8は胴体部4から突出する。
【0025】
但し、可動体5の移動用ネジ部9は胴体部4に対して回転しないように胴体部4の内部に配置される。移動用ネジ部9の胴体部4に対する回転の抑止方法は任意であるが、例えば胴体部4の内面にキー溝を設ける一方、移動用ネジ部9にキー溝に勘合するキーを設ける方法によって移動用ネジ部9の胴体部4に対する回転を抑止することができる。
【0026】
更に、可動体5の割溝10には、板状の固定板6が挿入される。固定板6は可動体5の割溝10内において長手方向の所定のマージンが生じるように、割溝10の長さに応じた長さを有する。また、割溝10の深さ方向に対応する固定板6の幅は、固定板6が可動体5からはみ出ない程度の幅とされる。可動体5は、固定板6を挟んだ状態で固定板6の外側を滑ることができるように構成される。
【0027】
一方、固定板6は胴体部4に固定される。固定板6の胴体部4に対する固定方法は任意であるが、例えば、胴体部4の内部に配置される固定板6の部分を、割溝10の深さ方向に設けた連結部材で胴体部4と連結することによって固定板6を胴体部4に固定することができる。従って、可動体5を固定板6及び胴体部4に対して長手方向に移動させることができる。
【0028】
また、胴体部4に固定された固定板6は、移動用ネジ部9の回転を抑止する効果も有する。従って、キー溝とキーの勘合のような移動用ネジ部9の胴体部4に対する他の回転抑止機構を省略してもよい。
【0029】
このような構造を有する固定機構2は、挿入部8を単一又は複数の固定対象物に予め設けられた孔に挿入し、挿入部8の太さを変えることによって固定対象物に固定することが可能である。
【0030】
具体的には、挿入部8を固定対象物の孔に挿入した状態で筒状グリップ7にネジの締付けに必要な程度の回転トルクを負荷すると、筒状グリップ7とともに内側の雌ネジ7Aが回転する。このため、筒状グリップ7の雌ネジ7Aの締付けによって可動体5の移動用ネジ部9が固定対象物から離れる側、つまり挿入部8の挿入方向AXと反対側に移動する。従って、移動用ネジ部9と一体となっている挿入部8も固定対象物から引き抜かれる方向に移動する。
【0031】
一方、固定板6は胴体部4に固定されているため、固定板6は固定対象物との相対位置を保ちながら静止する。この結果、固定板6は挿入部8の尖端側における割溝10によって挟まれる。すなわち、筒状グリップ7の回転移動が可動体5の平行移動に変換され、可動体5は筒状グリップ7の回転角度に応じた距離だけ固定対象物から離れる側に移動する。
【0032】
ここで、挿入部8の割溝10は、挿入部8の尖端ほど幅が狭くなっているため、割溝10の端部が固定板6に接近する程、固定板6によって割溝10が押し広げられることになる。すなわち、筒状グリップ7に回転動力を与えると、挿入部8が撓んで太くなる。この結果、挿入部8の太さは固定対象物の孔の直径程度となり、挿入部8は、固定対象物の孔内面を押し広げる方向に力を付加する。
【0033】
更に、筒状グリップ7に回転動力を与えると、挿入部8の尖端における鏃部分の大きさが固定対象物の孔の直径よりも大きくなる。そして、挿入部8は、鏃部分が拡張した状態で固定対象物から引き抜かれる側に移動する。このため、挿入部8の鏃部分が固定対象物の孔を通過することができず、孔の外部において固定対象物の表面に接触する。一方、胴体部4は相対的に固定対象物に接近し、最終的に固定対象物に接触する。
【0034】
この結果、挿入部8と固定対象物と間における摩擦力に加え、挿入部8の鏃部分と胴体部4とによる固定対象物の挟み込みによって、ファスナ1は、固定対象物に固定される。特に、複数の固定対象物にそれぞれ孔が設けられ、各孔が同軸上となるように複数の固定対象物が配置されている場合には、ファスナ1によって複数の固定対象物が互いに固定される。
【0035】
一方、固定対象物に固定された状態におけるファスナ1の筒状グリップ7を、ファスナ1の固定時と逆方向に回転させると、筒状グリップ7内の雌ネジ7Aの回転によって可動体5の移動用ネジ部9が、再び固定対象物の孔への挿入方向AXに移動する。この結果、胴体部4に固定された固定板6は、挿入部8の割溝10内において挿入部8の尖端から離れた位置となる。
【0036】
そうすると、挿入部8は、固定板6から付与された力から解放され、再び元の太さに戻る。すなわち、挿入部8の太さが固定対象物の孔の直径よりも小さくなる。これにより、挿入部8の鏃部分と胴体部4とによる固定対象物の挟み込みが解除される。そして、挿入部8を固定対象物から引き抜くことによって、固定対象物の固定状態を解除することができる。
【0037】
つまり、ファスナ1は、一方向からの締緩作業によって固定対象物への着脱が可能である。ファスナ1の締緩作業は、ファスナ1の締緩用のハンドツール又は自動締緩装置等の締緩工具で行うことができる。
【0038】
図3は、図1に示すファスナ1を締緩用のハンドツールで保持した例を示す図である。
【0039】
図3に示すように回転ホルダ20を有するハンドツール21でファスナ1の筒状グリップ7及び胴体部4の端部を保持し、作業者の手作業によってファスナ1の締緩作業を行うことができる。すなわち、ハンドツール21を駆動させて筒状グリップ7を回転させることによってファスナ1の固定対象物への取付け及び取外しを行うことができる。一般的な回転ホルダ20は、筒状グリップ7及び胴体部4の端部を、それぞれ一方の方向のみに回転力を伝達するワンウェイクラッチで保持する機構を有している。
【0040】
図4は、図1に示すファスナ1を自動締緩装置で保持した例を示す図である。
【0041】
図4に示すように、回転ホルダ20を有する自動締緩装置30でファスナ1の筒状グリップ7及び胴体部4の端部を保持することもできる。そして、自動締緩装置30を駆動させて筒状グリップ7を回転させることによってファスナ1の固定対象物への取付け及び取外しを行うことができる。この場合、自動締緩装置30にドリル等の穿孔工具を取り付けることができれば、固定対象物への孔の加工及びファスナ1の締緩作業を自動で行うことができる。
【0042】
一方、ファスナ1の固定機構2に設けられる芯出し部3は、可動体5の挿入部8が突出した胴体部4の一端に固定される。従って、実際に固定対象物を挟み込む胴体部4の部分は、芯出し部3となる。
【0043】
芯出し部3は、可動体5の挿入部8を通すための貫通孔を有し、かつ挿入部8の先端側に、挿入部8の挿入方向AXである可動方向に垂直でない外表面を形成している。この芯出し部3の挿入部8の挿入方向AXに垂直でない外表面は、固定対象物にガイド孔として設けられた孔に接触させることによって孔の芯出しを行うための芯出し面3Aとして機能する。
【0044】
従って、芯出し部3は、挿入部8の挿入方向AXに向かって次第に細くなる形状を有する。また、芯出し部3の芯出し面3Aは、法線方向が挿入部8の挿入方向AXに傾く面となる。図1及び図2は、円筒状の部材に芯出し面3AとしてC面取りを設けて芯出し部3を構成した例を示している。従って、図1及び図2に示す芯出し部3の芯出し面3Aは、円錐台の外周面となる。
【0045】
但し、連続的な1つの面として芯出し部3の芯出し面3Aを形成せずに、複数の面によって芯出し面3Aを構成するようにしてもよい。例えば、芯出し部3の構造を、貫通孔を中心軸上に有する円錐台の表面に溝を設けた構造や先端に向かってテーパ又は傾斜する多数の板状部材を厚み方向を円周方向として同心円状に配置した構造としても良い。
【0046】
また、C面取りに限らずR面取りのように、芯出し部3の外周方向のみならず、挿入部8の先端に向かう方向にも非直線的となる面を芯出し面3Aとしてもよい。すなわち、芯出し部3の形状を、少なくとも挿入部8の先端に向かって太さが細くなる形状とすれば、固定対象物の孔がガイドとして機能し、芯出し部3の芯出し面3Aと固定対象物の孔の縁とが3点以上の点又は円で接触する。このため、固定対象物の孔とファスナ1との間において嵌め合いがなくても、固定対象物の孔の軸方向にファスナ1の挿入部8の軸方向を合わせることができる。
【0047】
更に、芯出し部3の芯出し面3Aを、C面取りのように挿入部8の先端に向かって直線的に傾斜するテーパ面とすれば、固定対象物の孔に芯出し面3Aと同等な傾斜を有するC面取りを予め設けておくことにより、固定対象物と芯出し部3とを面接触することが可能となる。すなわち、固定対象物の孔に設けられたC面取りと芯出し部3に芯出し面3Aとして設けられたテーパ面とを面接触させることができる。
【0048】
この場合、ファスナ1の挿入部8の軸方向を、一層良好に孔の軸方向に向けることができる。従って、より適切な向きでファスナ1を固定対象物に固定することが可能である。加えて、固定対象物と芯出し面3Aとを円状又は多点で接触させる場合に比べて、固定対象物及び芯出し部3の摩耗を低減させることができる。このため、ファスナ1の寿命を向上させることができる
【0049】
特に、ファスナ1を単一又は複数の固定対象物に固定する場合において、治具を介在させることが可能であれば、予め芯出し部3の芯出し面3Aに合わせてガイド孔の縁にC面取りを加工した治具を準備しておくことができる。そして、固定対象物のファスナ1を挿入する側に治具を配置し、治具のC面取りと芯出し部3の芯出し面3Aとを面接触させることにより、治具の孔の芯出しを行うことができる。
【0050】
図5は、図1に示すファスナ1を対象物に固定した状態の一例を示す縦断面図である。
【0051】
図5に示すようにワークとなる第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41を重ね合わせ、ファスナ1の取付け及び取外し側となる第2の固定対象物41側に治具42を配置することができる。更に、第1の固定対象物40、第2の固定対象物41及び治具42を同軸状に貫通する孔を、ファスナ1の挿入部8の挿入用のガイド孔とすることができる。
【0052】
図5に示すように、第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41に設けられる孔よりも直径が大きい孔をガイド孔として治具42に設け、治具42のガイド孔に、芯出し部3の芯出し面3Aの傾斜に合わせてC面取りを施すことができる。
【0053】
この場合、図3又は図4に示すような締緩器具の回転ホルダ20にファスナ1の筒状グリップ7を取り付け、ファスナ1の挿入部8を第1の固定対象物40、第2の固定対象物41及び治具42の孔に挿入して挿入方向AXに押し付けると、治具42と芯出し部3とを面接触させることができる。
【0054】
図5は、芯出し面3Aとして芯出し部3にC面取りを施した例を示している。従って、図5に示す例では、C面取り部同士が接触することとなる。すなわち、芯出し部3に芯出し面3Aとして施されるC面取りの角度と、治具42の孔に施されるC面取りの角度を一致させることにより、芯出し部3と治具42とを面接触させることが可能である。特に、C面取りの角度を45度とすれば、汎用性が高く、芯出し部3の治具42に対する押し付け力を孔の直径方向と軸方向に均等に分散することができる。
【0055】
面接触の場合はもちろん、円接触又は3点以上の多点接触として芯出し面3Aを治具42の孔の縁に接触させると、自動締緩装置30の位置決め精度が不十分である場合、ハンドツール21の向きが不正確である場合或いは自動締緩装置30やハンドツール21の回転ホルダ20の剛性が低くファスナ1に撓みが生じる場合など、ファスナ1の正確な位置決めが困難な場合であっても孔の中心位置にファスナ1の挿入部8の中心位置を合わせることができる。
【0056】
すなわち、芯出し面3Aの芯出し機能によってファスナ1の挿入部8を適切な向きで第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41の孔に挿入することができる。
【0057】
次に、挿入部8を第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41の孔に挿入した状態で、図3又は図4に示すような締緩器具の回転ホルダ20で筒状グリップ7を回転させると、挿入部8の固定板6に対する相対移動によって挿入部8が第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41の孔の内面を押し付けるように変形する。
【0058】
更に筒状グリップ7を回転させると、第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41の孔の直径よりも太くなった挿入部8の鏃部分が第1の固定対象物40の表面に接触する。一方、芯出し部3は治具42に押し付けられる。この結果、第1の固定対象物40、第2の固定対象物41及び治具42を、挿入部8の鏃部分と芯出し部3とによって挟み込む形で互いに固定することができる。
【0059】
この際、同じ角度のC面取りが治具42及び芯出し部3にそれぞれ施されていれば、治具42及び芯出し部3が一層強い力で互いに面接触することになる。従って、芯出し部3による芯出し効果が一層良好に発揮される。
【0060】
そして、作業者は第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41をワークとして必要な作業を行うことができる。例えば、ファスナ1を挿入した孔の他に治具42に設けた穿孔用ガイド孔に従い、ドリル等の穿孔工具を用いて固定対象物への穿孔加工を行うことができる。
【0061】
更に、必要に応じて筒状グリップ7を逆回転させることによって、ファスナ1を第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41の孔から引き抜くことができる。従って、ファスナ1は、第1の固定対象物40及び第2の固定対象物41の仮止め用に用いることができる。
【0062】
尚、芯出し部3に芯出し面3Aとしての挿入部8の挿入方向AXに垂直でない面に加え、固定対象物に挿入部8の挿入方向AXに接触させるための接触部3Bを設けることができる。この場合、接触部3Bにより、従来と同様な方法で挿入部8の挿入方向AXに芯出し部3を押し当てることができる。
【0063】
例えば、図1、図2及び図5に示すように芯出し面3AとしてC面取りを芯出し部3に設ければ、挿入部8の軸方向に垂直な面が芯出し部3に形成される。従って、挿入部8の軸方向に垂直な面を、固定対象物に挿入部8の挿入方向AXに接触させるための接触部3Bとすることができる。すなわち、固定対象物の孔の直径を、接触部3Bの直径よりも小さくすれば、接触部3Bを固定対象物に面接触させることができる。
【0064】
一方、平面に限らず、R面取りのように曲面を、固定対象物に挿入部8の挿入方向AXに接触させるための接触部3Bとしても良い。或いは、不連続な複数の平面や3点以上の点を接触部3Bとしても良い。例えば、芯出し部3の先端にR面取りを施せば、固定対象物に、接触部3Bの先端を円状に接触させることができる。
【0065】
このように芯出し部3に芯出し面3Aに加えて接触部3Bを設ければ、芯出し機能を利用するか否かを選択してファスナ1を使い分けることができる。例えば、治具42を設けることが困難な場合には、芯出しよりもむしろ固定対象物に傷を付けないようにすることが重要である可能性がある。このような場合には、芯出し部3の芯出し面3Aではなく接触部3Bを固定対象物に押し当てることにより、従来の方法でファスナ1を固定対象物に固定することができる。このため、ファスナ1の取付けによる固定対象物への損傷を回避することができる。
【0066】
尚、芯出し部3の材質を固定対象物の材質に応じて適切に決定することにより、摩耗や損傷を低減させることができる。汎用性の高い材料としては、S45C等の炭素鋼が挙げられるが、他の金属やセラミックス等の任意の材料を用いることができる。
【0067】
また、芯出し部3は、溶接等の任意の接合方法で胴体部4に固定することができるが、交換できるように構成しても良い。例えば、圧入によって芯出し部3を胴体部4に交換可能に設ければ、固定対象物の材質や面取り形状に合わせて適切な芯出し部3に交換することができる。
【0068】
逆に、芯出し部3と胴体部4とを別の部材とせずに一体に形成しても良い。この場合には、胴体部4の成形や機械加工によって容易に芯出し部3を設けることができる。
【0069】
以上のような、ファスナ1は、固定対象物の孔の縁を利用して芯出しを行う芯出し部3を設けたものである。
【0070】
このため、ファスナ1によれば、1方向からの取付け作業によって、より適切な向きで固定対象物を固定することができる。すなわち、ファスナ1の取付け作業を自動化する場合に高精度な位置決めが要求されない。換言すれば、位置決め制御が高精度でなくてもファスナ1の正確な位置決め固定を行うことがきる。この結果、自動穿孔機等の設備をファスナ1の自動締緩装置30として利用することが可能となる。
【0071】
特に、正確な位置決めを行う手段として、ブッシュの嵌め合いが知られているが、ブッシュの嵌め合いの場合には、正確な位置決め制御に加えて嵌め合いのための作業時間も要求される。従って、自動締緩装置30の位置決め精度の改善や回転ホルダ20の剛性の向上などが要求されることとなる。このため、ファスナ1の取付け及び取外しの自動化には、様々な課題が生じる。
【0072】
これに対して、図1、図2及び図5に示すようなファスナ1であれば、既存の設備を用いて安価に自動取付作業及び自動取外作業を行うことができる。
【0073】
一方、ハンドツール21を用いてファスナ1の取付け作業を行う場合には、作業者の熟練度に依らず、常に適切な方向からファスナ1を固定対象物に固定することが可能となる。また、ファスナ1の取付け作業がより簡易な作業となり、作業効率の向上が期待できる。
【0074】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0075】
例えば、上述した実施形態では、筒状グリップ7の回転移動を可動体5の軸方向の移動に変換し、可動体5の移動を挿入部8の太さの変化に利用するファスナ1、つまり回転トルクの負荷による締付けを動力として挿入部8の太さを変化させるファスナ1を示したが、他のメカニズムにより挿入部8の太さを変えるファスナに芯出し部3を設け、同様に芯出しを伴って固定対象物に固定することもできる。また、ファスナ1の取外しが不要であれば、締付け機能のみを有する工具や装置を用いてもファスナ1の取付作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0076】
1 ファスナ
2 固定機構
3 芯出し部
3A 芯出し面
3B 接触部
4 胴体部
5 可動体
6 固定板
7 筒状グリップ
7A 雌ネジ
8 挿入部
9 移動用ネジ部
10 割溝
20 回転ホルダ
21 ハンドツール
30 自動締緩装置
40 第1の固定対象物
41 第2の固定対象物
42 治具
AX 挿入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入部を固定対象物に設けられた孔に挿入し、前記挿入部の太さを変えることによって前記固定対象物に固定することが可能な固定機構を備えるファスナであって、
前記固定機構は、前記固定対象物の孔に接触させることによって前記孔の芯出しを行うための、前記挿入部の挿入方向に垂直でない面を有する芯出し部を有することを特徴とするファスナ。
【請求項2】
前記芯出し部は、前記固定対象物の孔に設けられたC面取りに面接触させるためのテーパ面を有する請求項1記載のファスナ。
【請求項3】
前記芯出し部は、前記挿入部の挿入方向に垂直でない面に加え、前記固定対象物に、前記挿入部の挿入方向に接触させるための接触部を有する請求項1または2記載のファスナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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